ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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 年が明けて三が日も過ぎ、新年の慌ただしさが落ち着いてきた今日この頃。

「つ、ツバサさん?仕事しづらいんですけど・・・」

 生徒会は今日も今日とて通常運転だ。まだ新学期が始まったばかりなので仕事量としては少なく、一人でも片づけられるのがせめてもの救いだけど。

「かーまーえー」

 新学期が始まって以降、ツバサさんはずっとこんな調子だ。後頭部をグリグリと背中に押しつけてくる。

 いや、ツバサさんだけじゃない。あんじゅもいつも頼りになる副会長なのに、目に見えてミスを連発している。まるで穂乃果が倒れた時の僕みたいだ。英玲奈先輩だって休み明けのテスト満点だったらしい。

 みんならしくなかった。もしかしたら、最終予選の事まだ引きずっているのかも。

「最終予選負けた私を慰めろー」

 あ、これ全然引きずってねーな、全然大丈夫そうだな。つーか自分から掘り下げるか。

「はぁ、たくなんなんですかさっきから」

「・・・・・出番がない」

「はぁ?」

「出番がなーい!最近あの子たちばっかりで構ってもらってなーい!もうそろそろラブが欲しーい!」

 わちゃわちゃと子供のように手足をばたつかせるツバサさん。めんどくさい。つーかあなた達結構出てるでしょうよ。

「だってー、私達我慢したもん。本当は色々聞きたいことあるのに、あの子たちに全部譲ったもん。負けたから、譲ったんだよ」

 グリグリとした体制のまま、その顔は拗ねたようにそっぽを向いている。

「分かってますよ。気、遣ってくれたんですよね。ありがとうございます。分かってますよちゃんと」

 そういって椅子を回転させ、ツバサさんの頭をなでる。ちょうど頭が胸に収まり、抱きしめるように撫でやすい格好になる。

「む、他の女みたいに、安い女扱いしないでもらいたいわね。そんなんじゃ満足しないわよ」

「あっはっは、ツバサさん本当は嬉しいくせに、嘘が下手ですね」

 その顔は僕でもわかるくらいに嬉しそうに緩んでいる。自然、僕の表情もつい意地悪になってしまう。

「な!あなたに言われたくないわ。あなたより嘘上手いわよ」

「別に自慢して言うことじゃないですけどね」

「む~」

 今度は頬を膨らまし、どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。反省反省。

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「入りづらいわー」

「うん?どうしたのあんじゅ。ドアの前で立ち尽くして」

「あ、書記さん。あれ」

「?」

 あんじゅが指さしたのは今まさに入ろうとしていた生徒会室。

 中を覗いてみると、なんだか良い雰囲気の生徒会長である海田君と、前生徒会長のアライズのツバサさん。

「あー、確かにあれは入りづらい」

「ね?まあ、急ぎの用でもないんだけど・・・・・」

 確かに、私も今すぐにってわけじゃなし、ここはお邪魔にならないうちに立ち去った方が。

「なーんか良い雰囲気でムカつくから壊しちゃおーっと」

「ちょ、何やってんの!?」

 薄暗い表情でドアに手をかけようとするあんじゅを後ろから破壊占めにする。

「ほら、もうお昼休み終わっちゃうから教室戻ろうねー」

「あー!ダメ!昼休みに二人っきりで生徒会室とか絶対だめだよ!!」

「はいはい、バカみたいなこと言ってないで早く行くよー」

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 今日の分の雑務も終わり、うーんと一つ伸びをする。結局誰も手伝いに来てくれなかったためか、放課後までかかってしまった。人望ないわけじゃないよね。あれくらい僕一人でできるって言う信頼のあかしだよね。きっとそうだ、そうに違いない。そうだって信じてる。

「あ、終わった?じゃあ早く行きましょ、人を待たせてるんだから」

「え?本当に行くんですか?」

 昼休みと同じく、なぜか放課後もやってきては行きたいところがあるらしく、僕の仕事が終わるまで見守っていたツバサさん。できれば手伝ってほしかったが、昼にからかったのがいけなかったのかずっとにこにこと見守られた。

「あたりまえじゃない。それに言ったでしょ、人を待たせてるのよ」

「はあ」

 曖昧な表現に、僕も曖昧にしか返事ができない。だが、人を待たせているというのならこれ以上待たせるわけにもいかないだろう。

「で?どこに行けばいいんですか」

「それはほら、お楽しみってやつよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽も真っ赤に染色されている最中に、ツバサさんに連れてこられたのは近所の池が名所の広場だった。ここに連れてきた理由も、待ち人も一切見当がつかない中、一歩前を歩くツバサさんについてただ付いて行く。

 目の前が池で広がっているベンチに、それらしき人物を見かける。

「・・・・・・穂乃果?」

「ゆ、雪ちゃん!?なんでここに?」

「いやいや、こっちのセリフですから」

 ちらとツバサさんを横目で見る。頷くツバサさんを見るにどうやら本当に穂乃果が待ち人だったようだ。

 待ち人が判明してもなお、いやむしろ理由の謎が深まったのだが、ツバサさんがベンチに腰掛けるのを見て、僕もまた同様に腰かける。

「そ、それで、私が呼び出された理由って・・・・・?」

 どうやら分かっていないのは穂乃果も同じらしい。おずおずと遠慮がちに聞いている。

「うん?まあそれより練習はどう?」

「え?あ、はい!そりゃもうみんなアライズに勝った事実に恥じないようにって一層張り切ってます!」

「そう」

「あ、アライズは?」

「大丈夫。あなたが心配してることは何もないわ。確かにラブライブという目標がなくなって皆どうなるかと思ったけど、案外普通に練習してるわよ。やっぱり私達歌うのが好きなのよ」

「そ、そっか。良かった」

 穂乃果は心底ほっとしたような表情を見せる。ツバサさんの言っていることは事実だ。現に僕も既に何回か練習を見ているけど、特段変わった様子はない。そこはさすがアライズといったところか。

 いや、それよりも―――――――――――。

「あの、これ僕いります?」

「いるわよ」「い、いるよ!」

 なぜか穂乃果まで逃がさんとばかりに腕をからめとられてしまう。いや、絶対いらないと思うんですけど僕。

「・・・・・聞いておきたいの」

 一拍置いて、ツバサさんは語り出す。

「あの日、あの時、私達は負けた。最高のパフォーマンスを見せられて、見た瞬間私達は負けを悟ってしまったわ。どうあがいたってそれが変わることはないし、変えようとも思わない。負けたことに関して、私達は何のわだかまりもない。と、そう思ってたんだけどね」

「・・・・・」

 やっぱり、引きずっていたんだ。それもそうか。考えてみれば引きずったって何ら不思議はないんだ。アライズは強いから、すぐに立ち直ったんだって勝手に思ってたけどそうじゃない。強いから。だからこそより一層負けは響くし、残る。

 勝ってきたから―――――――――――――。

 また間違えた。知っていたはずなのに。彼女たちのプレッシャーも、負けの重さも。その全体の1%にも満たないかもしれない。でも確実に、知ってはいたのに。

「分からないの。負けた理由が。何度も何度も考えたけど、それでもわからなかった。確かに、練習したんでしょう。努力したんでしょう。チームワークだってある。才能も。でも、それは私たちだって同じでしょ。むしろ私達は誰よりそのすべてにおいて強くあろうとした。それがアライズの誇り。アライズたる所以。だから、負けない。負けるわけがないってそう思ってた。でも現実は負け」

 ようやく、ツバサさんがここに来た理由が分かる。

「だから教えてほしいの。アライズを打ち負かしたあなた達の原動力って何?何を想って、何を目標に、何が悔しくて、なんで私達に勝てたのか。あなた達の強さの秘訣。心の支え。それはなんなの?」

「うぇ?え、っと。あの、その――――――――」

 ツバサさんの問いに穂乃果はしどろもどろになり上手く答えられない。

 ていうか本格的に()いらないですよね。完全にお邪魔ですよね。さっきから何度か抜け出す機会をうかがっているものの、二人の力が強くて抜け出せない。特にツバサさんが。

「・・・・・すいません。よく、わかりません」

 穂乃果はしゅんと俯く。その姿をツバサさんは仕方ないという様子で肩に手を置いた。

 帰り際、夕日が眩しく視界をちらつく中、二人は握手を交わす。

「ごめんなさい、なんかちゃんと答えられなくて」

「いいのよ。気にしないで。・・・・実を言うとあまり期待してなかったし」

「ええ!?」

「ああいや、教えてくれるかどうかって意味ね」

 穂乃果のリアクションに焦るツバサさん。焦るツバサさんというのは珍しい気がした。

 ―――――――――――いや、そうでもないか。

「でも!アライズがいてくれたから、ここまで来れた気がします!」

 その穂乃果の言葉にただ、ただツバサさんはほほ笑むだけだった。どんなことを考えているのか、僕にはわからなかった。

「それじゃあね」

「はい」

 穂乃果は帰り道が正反対なので、背を向けてお別れする。

 広い公園内を歩きながら僕は口を開いた。

「・・・・・僕いりました?」

「いったわよ。すごく」

 やたら語尾を強調するツバサさんは、もういつもの笑顔を携えたツバサさんだった。

「・・・・・・あ」

「ん?どうしたの」

「道間違えた!!」

「は?」

「ついいつもの感じで元の家に戻ろうとしてた!もうあそこは俺の家じゃないってのに!!ちくしょーなんで俺が追い出されなきゃいけないんだ!バカ野郎!!」

「え?なに?ちょ、どこいくのよー」

「穂乃果の家だよ!!今さっき別れたばっかなのにくそ気まずいじゃねーかー!!」

 真っ赤になった太陽と呼応するように僕の顔も真っ赤だった。

「は?穂乃果の家?・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、ただいまー」

 なんとなく気まずくて声が控えめになってしまう。

「あら、おかえり。お風呂にする?ご飯にする?それともワ、タ、シ?」

「なにやってんのお母さん。マジで引くからやめてよ」

 最近は、ただいまと言ってお帰りが帰ってくることにも慣れた。多少むずがゆくなるだけだ。いやそれ全然慣れてねぇ。

「ちょ、何雪君もまんざらでもない顔してんの?もしかしてそっちが趣味とか・・・・・ないよね!?絶対ないよね!?統計学的には雪君の周りはロリが多いんだし!」

 なにやら雪穂がうるさい。というかロリが多いってどういうことだ。まるで僕が犯罪者みたいじゃないか。それにロリって言ってもここあでしょ、こころちゃんでしょ、にこちゃんでしょ、凛でしょ、体型的には海未でしょ、あと精神的には穂乃果、プラス雪穂と亜里沙ちゃんで――――――――、考えるのはよそう。

 それよりも、どてらにメガネという完全にオフな雪穂だ。最初にこの家に来た時は息苦しいくらいかちこちに緊張していて服を決めていたというのに。

「えっとじゃあお風呂で」

「何真面目に答えてんの!それはそれで腹立つわ」

 おばさんに聞かれた質問にまだ答えてなかったと思い、答えたのだがどうやら雪穂にはお気に召さなかったらしいローキックが見事に決まる。

 他にも雪穂の小言を聞きながらお風呂へと逃げる。

「あったかー」

 この家はあったかい。多分このあったかさは当たり前のもので、現に雪穂や穂乃果はその事についてさしたる反応もない。だからきっと僕がおかしいんだろうけど、僕だけがおかしいんだろうけど、でもおかしくたってなんだってこのあったかさがありがたかった。 

 と、同時に怖くもあった。自分の中のあの時間が、父親と過ごした時間が、独りで過ごした時間が、段々となくなっていくようで。忘れてしまうようで。

 なかったことに、なってしまいそうで。 

 ザプンとお湯の中に潜る。

 お湯の中から見上げる天井は光が反射していて幻想的だ。きっと海の魚達はこんな景色見飽きるほど見ているんだろう。それこそ日常なのだろう。

 だけど僕は感動する。魚じゃないから。陸で暮らす僕にとって、この景色は感動できるものだ。見飽きてなければ、日常でもない。

 少しのぼせてしまったようで、お風呂から上がった後も少しふらつく。

「あ、ねね。雪ちゃんはどう思う?」

「なにが?」

 お風呂からあがり、食卓へと移ると唐突に穂乃果が訪ねてくる。主語がないのにはもう慣れた。

「もう!さっきの話だよ!ツバサさんに聞かれたじゃん。私達の原動力って何かって」

「ああ、その話」

 理不尽に怒られるのには、慣れてない。かな?

「ていうか、僕に聞かないでよ。分かるわけないだろそんなの」

「えー!?雪ちゃんの薄情者!」

「うっそ、そんなに怒られんの?薄情者とまで言われちゃうの?」

 まさかの一言に僕の心はノックアウト寸前だ。

「だって雪ちゃんなら分かると思ったんだもん」

「なんでだよ。どこぞの委員長じゃないんだ。何でも知っているわけじゃないよ」

 勿論、知っていることだって知らないんだ。僕は。

「えー?でも私達の事一番よく見てくれてるから、私達が分からない事でもわかるんじゃないかなって」

 その言葉に僕の頭はポカンとなる。穂乃果がそこまで考えているなんて考えてもいなかった。

「何でもは知らなくても、私達の事は知ってるでしょ?」

 穂乃果の笑顔に、不覚にもやられた。まさか穂乃果から気づかされることがあるなんて。

 いや、そんなの今までだって星の数ほどあったじゃないか。

「知らないよー。穂乃果がご飯食べるときにテレビつける派だったとか、本当は朝食はパンが食べたいのに和菓子屋の娘だから和風な朝食で我慢してる事とか、パンツ脱ぐときは左足からとか、逆に履くときは右足からとか」

「ちょ!!なんでそんなことまで知ってんの!!??」

「え?そうだったの穂乃果?言ってくれれば、朝食くらいパンにするのに」

「今ツッコムとこはそこじゃないよお母さん!娘の貞躁のピンチだよ!」 

「なにそんなことで」

「そんなこと!?そんなことなの?」

 このあったかさもきっと彼女たちにとっては日常だ。でも、僕にとっての日常じゃない。

 別にそれで良いと思った。魚の日常なんて、僕らは知らないし知ったところでどうしようもない。 

 僕の中で、確かに過去は薄くなって行くんだろう。ぼんやりと境界線が揺れて、次第には溶けて良くわからないものになるかもしれない。

 十年後も、二十年後も、覚えている保証なんてどこにもないけど、でもきっとなくなったりはしない。よくわからなくなっても。細かく覚えてなくても。でも、確かにあった。確かに僕の心にあったものだから。

 それだけが分かってればいい。それだけを確認していけばいい。いまはこんなに糸があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、穂乃果から電話があった。

『雪ちゃん!分かったよ!!ミューズの原動力!』

「へー、で?結局何だったの?」

『みんな!!』

「はい?」

『みんなだったんだよ!一生懸命頑張って、みんなが応援してくれて、みんなが同じ気持ちで頑張って、みんなで前に進んで、みんなで少しづつ夢をかなえて行く。それがスクールアイドル!それがミューズ!」

 それがスクールアイドル。それがミューズ。

 廃校になりそうになって、それを回避したくて、そして頑張って、実際に回避して。

 それを成し遂げたのはミューズで、ミューズを作ったのはみんなだった。ミューズを支えたのもみんなだった。

「ミューズはみんなで、みんなはミューズだったんだね」

『ん?それはちょっとよく意味が分からないけど』

「切る」

『うわあ!ごめ、ごめんごめん!!ちょ、まだ切らないで!』

「・・・・・・なに?」

『それでね出来たんだよ!キャッチフレーズ!だから今から見に来てよ』

「キャッチフレーズ?」

 知らない。僕その情報知らない。

『いいから来ればわかるよ!』

 そうまで言うので、穂乃果の言うとおりに素直に指定する場所に来た。 

 といっても目と鼻の先だ。なぜならUTXの正面入り口に設置してある液晶パネルにキャッチフレーズが映るらしいから。いつの間にかツバサさんもいる。やたらこちらを睨みつけてくるがこの際無視だ。

 皆を待つ形となって、液晶を見つめる。色々なスクールアイドルのキャッチフレーズが流れてくる中。やっときたミューズの文字。

 《みんなで叶える物語》

 その文字に、液晶に映る電気信号だけじゃない。それ以上の何かを、きっとここにいる全員が感じ取ったと思う。

「やっっっと見つけたぜえええええええ」

「あ?」

 その文字に浸っていたというのに、後ろから肩をたたかれ、振り向く。

「全く手間かけさせやがって海田雪ぃぃぃ」

 そこにいたのは警官だった。激しく憔悴しているが。

 しかし、まるでその疲れもこれですべて吹っ飛ぶといいたげに手に持っているものを僕の手にかざす。

 その物体の名前を思い浮かべる前に、少々力強く押しこまれ、ガチャンという嫌な音がする。

「年齢詐称。労働基準法違反。未成年の飲酒。未成年の喫煙。etc,etc.の容疑で午後4時25分。逮捕」

「え?」

「え?」

「「「「「「「「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっっっ!!!!!!!」」」」」」」」」」」  

「マジ?」

 その物体の名前、手錠。




どうも干妹高宮です。
書くこと、書くこと、書くことがない!そうそうあとがきのネタなんてあると思うなよ!
今確認したらこれで五十話目だ。五十っていったら人間で言うともう初老ですね。もうそろそろこのssもお迎えが来るな。
とはいえ六十くらいまでは!還暦迎えるくらいまでは頑張ります!じじいだからって見放さないで!
これからも応援よろしくお願いします!

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