ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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 みんなといっぱい話して、いっぱい怒って、いっぱい泣いて、いっぱい笑った。

 多分僕は、また間違うんだと思う。正しい答えなんて、正しい付き合い方なんて導き出せない。

 間違って、すれ違って、怒って怒られたとしても、一つだけ分かった事がある。  

 僕はこの関係を手放せないってことだ。手放さないってことだ。

 そんな簡単なことに、これだけしないと分からなかったわけだけど。

 なんだかことりが留学しそうになった時もおんなじことを思った気がする。これは多分治んないんだろうな、と半分諦めながら。

 もしかしたら数ヶ月したらまたおんなじようなことをやってるかもしれない。また問題ができて、対応できなくて、塞ぎこんでしまうかもしれない。

 けど、それで良いと思った。そんなときはまたみんなが叱り飛ばしてくれる。逆も然りで。

「あー、えっとただいま?」

「「「「「「「「「おかえりなさい!!」」」」」」」」」

 パンパンとクラッカーがけたたましくならされる。穂乃果が言っていた退所パーティを本当に部室で行っていた。

「そういえば前もここでパーティしたよね?」

 ご飯を盛り上がるほど茶碗に盛っていた花陽が過去を思い出すように言う。

「そうね、確かその時は雪が来なかった、のよねー」

「うぐっ」

 確か、学校存続おめでとうって趣旨のパーティを僕は完璧に無視していた。にこちゃんの目線に今さらながら胃が痛い。

「と、というか練習は良いの?最終予選までもうあと三日だよ?」

「今日からは本番に備えて軽い練習だけですから大丈夫ですよ」

 僕と違って、みんな落ち着いているように見える。

「大丈夫じゃないのは――――――――――――穂乃果?」

 海未も顔は落ち着いている。落ち着いて穂乃果の口をタコばさみにしていた。

「ふぁ、ふぁんへふか?」

「その両手に持っているいかにもカロリーの高そうなケーキはなんですか?一人一個のはずですが」

 見ると穂乃果の口元には既にケーキを食べているのか、ベタにクリームがついている。それにもかかわらず両手にはおいしそうなケーキ。

「ぷはっ。いいじゃん今日くらいー、こんなにあるんだしー、ケチー」

「ケチでもなんでも体調管理はしっかりしなければいけません。ただでさえライブが近いというのに。また衣装が入らなくなりますよ?」

「ひっ」

 どうやらファーストライブの衣装が入らなかったのが相当トラウマになっているようだった。穂乃果はがくがくと肩を震わせている。

 ただそれでも、海未の言うことは至極当然正論なのだが穂乃果は取り上げられたケーキを恨めしそうに見つめている。

「じゃあはい。穂乃果」

 あまりにもケーキを見つめているので、少し不憫になって一口だけならとケーキを乗っけたスプーンを差し出す。

「い、いいの?」

「しー。一口だけね。・・・・内緒だよ?」

「うん!雪ちゃん大好き!!」

「あ、ちょ、ケーキが」

 抱きつかれた勢いで、ケーキが落ちそうになるのを食い止めていると不意に後ろに気配が。

「そうやって甘やかすから、私が口を酸っぱくして言わなきゃいけなくなるというのにあなたは」

 あ、怒ってる。これは完全に怒ってる。

 そう気付いた瞬間に、頭を破壊占めにされた。

「ギャピーーーーーー!!」

「元気になったみたいね」

「今なくなったみたいだけどにゃ」

 絵里先輩と凛の声だけが痛む頭に聞こえてくる。それにしても痛い。

「別に、私だって、言いたくて言っているわけではないんです」

「分かってるよ。分かってるからもうちょっと加減してもらっても良いですか?」

 マジで痛いんですけど。脳細胞が死滅して行ってる感じがする。

「まったく、バカになったらどうするんだ」

「いや、雪ちゃんはもうバカだから大丈夫にゃ」

「あの、僕の心を癒そうという気はないんですか皆さん」

 これでも結構傷ついていたんですけど。癒されそうになった瞬間傷つけられてるんですけど。 

「まあ確かに雪君はバカやけど、もうそれはどうしようもないくらいバカやけど、ちょっとオブラートに包んでもええんやない凛ちゃん?」

「いやあの、希が一番ストレートなんですけど、結構な勢いでグサッと来たんですけど今」

 あれ?本音じゃないよね?感化されて今まで隠してきたありとあらゆる不満をぶつけに来ているわけじゃないよね?

「そうね。今まで私達がどれだけあなたの事を考えて来たか、その辺全然分かってないものね」

 絵里先輩まで!?これは明らかにぶつけに来ている!不平不満が溜まってきている!

「―――――――――――――――ご、ごめんなさい」

 納得いかないものの、確かに迷惑をかけた、いやかけ続けてきたのは確かなのでそっぽを向きながら謝る。

「そうだね、今度は私達がいっぱい迷惑かける番だね?真姫ちゃん」

「はぁ?私は別に・・・・・」

 見ると真姫ちゃんもそっぽを向いていた。というか、さっきから目を合わせてくれないし、喋ってない。 

 これは、まさか真姫ちゃんも相当な不満が溜まっているのか。

 ダラダラと冷や汗をかきながら必死に真姫ちゃんの顔を追うも、次々と逸らされる。

「・・・・・・・ま、真姫ちゃん?」

「・・・・・・・な、なによ」

「真姫ちゃんは、昨日の事が恥ずかしいんだよ。ほら、真姫ちゃんって泣き顔とか見られたくないタイプでしょ?」

 若干傷ついていた僕に、そっと花陽が耳打ちしてくれる。

 なるほど、確かに昨日がっつり真姫ちゃんの泣き顔は見ている。今だって鮮明に思い出せる。それに、真姫ちゃんも本音を語っていた。そういうのが恥ずかしい気持ちは僕も分かる。

 理由が分かると安心だ。嫌われたかと思った。

「なによ!!」

 僕と花陽でニヨニヨしていたからか、真っ赤になった真姫ちゃんが大きな声で誤魔化す。

 その後もからかったりからかわれたり、いつものように、ちょっとだけ違う日常を過ごした。日常だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけどまあ、そうそう良い事ばかり起こるわけはないもので。

「学校の事忘れてた・・・・」

 僕が留置所に拘留されていたのは平日だったので、学校は休まざるを得なかった。

 書記さんとか怒ってるんだろうなー。と、そう考えると実に憂鬱なのだ。もう今日休んじゃおっかなー、明日から土日だし。

 だがしかし、そうはいかない。生徒会長として少なからず責任感はあるし、仕事が溜まっていることも考えると今日は行かなきゃいけない。行かなきゃ。

 そう思えば思うほど、足は重くなる。普段よりゆっくりと着替えていたら、学校に着いたのはギリギリだった。

「あ、ツバサさん・・・」

 びくびくと校門をくぐると、下駄箱にツバサさんが待ち構えるように仁王立ちしていた。

「がはっ」

 僕を見つけ、みるみる表情が明るくなって行くツバサさんに勢いよく抱きつかれ、肺の中の空気が押し出される。ついでに体も押し倒された。

「大丈夫なの!?つ、捕まったって聞いて、それで、お父さんとか、その、色々!」

 整理できていないのか、珍しくしどろもどろなツバサさんに僕は少し笑ってしまう。

「大丈夫ですよ。捕まったって言っても事情聴取されただけだし、あの人は、捕まったけど。でもダイジョブです」

 周りの目線に晒されていることなど意にも介さず、ツバサさんは切ない表情でもう一度僕を強く抱きしめた。きっと、事情を知っている分、余計心配かけたんだと思う。

「イチャイチャしてるとこ悪いけど、もうすぐ授業始まっちゃうよー?」

 ビクゥ!!とツバサさんは凄い反射で立ち上がる。ツバサさんの陰に隠れてて分からないけど、声から察するに多分あんじゅ。

「そ、そうね!生徒会長が遅刻はマズイものね!?」

 ツバサさんはパンパンとスカートを直し、深呼吸したかと思うと「じゃ、じゃね!」と走って行ってしまった。

「・・・・・あんじゅも僕の事心配だった?」

「全然」

 あ、そうですか。結構勇気出して聞いたのに、帰ってくる言葉はそっけないものだった。

「信じてたから。戻ってくるって」

 その言葉を最後に、あんじゅも立ち去る。

「・・・・・そっか」

 そんなひと言で僕の気持ちは有頂天になってしまう。けど、こればっかりはいた仕方ないや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けど、そんな有頂天になった僕の気持ちはすぐに霧散していくことになった。

 僕が教室に入るなり、ざわざわとしていた教室がシーンと静まりかえる。

 その空気に違和感を感じる。違和感の正体を探ろうと目線を動かすと、書記さんと目があった。書記さんは机に手を置き、なんだか目の前のクラスメートと対立しているような雰囲気だ。

「えー、っと?」

 その空気に?を浮かべていると丁度チャイムが鳴ってしまい、教師が席に着けと注意する。

 結局そのあともなんだか変な雰囲気の中、授業が進み、放課後の生徒会室でようやく事情を聴くことができた。

「あいつらが、変な噂話するから」

「噂話?」

 書記さんは納得いっていないようで、膨れた面のまま怒気がこもった声で説明してくれる。

「海田君がガラの悪い地元の暴力団とつるんでるとか、ナイフで自分のお父さんを刺したとか、女を洗脳して囲ってハーレム帝国を作ろうとしているとか、危ないバイトに手を出して年齢詐称しているとか」

 書記さんを見ると相当悔しいのか、目じりに涙を浮かべている。

 で、僕が思ったことは。

(お、尾びれ背びれすごぉぉぉぉぉぉぉ!)

 ダラダラと冷や汗をかいていた。ごめん書記さん、それ半分くらい事実です。最後に至っては紛れもない事実です。誰だそんなこと言ってるやつ。なんで知ってんだ。

 地元の暴力団、はなんだろう?班長かな?それくらいしか思いつかない。あの人顔怖えし、ナイフうんぬんは事実が反転しているだけだし、ハーレムに至ってはきっとそれはリトさんの話だ。ダークネスってるだけだな。

「どうしたの?」

「な、なんでもないです」

 書記さんの顔がうまく見れず顔を逸らしてしまう。

「と、とにかく!僕は大丈夫だよ」

 正直、噂されるのはムカつく。とはいえほとんど事実みたいなもんだし、否定しにくい。

 だけどいいんだ。他の人がどう思おうと。僕が知ってる、知ってほしいと思う人たちがちゃんと理解してくれているから。それが分かってる分、傷つくけど立ち直れる。

 また、寂しくなる日が来るんだとしても、今、この瞬間は寂しくない。それだけで十分だった。

「でも!その噂してるの海田君を生徒会長にしようとしてた人たちなんですよ!?ムカつくでしょう!?あの人たち、都合いい時は調子に乗って近づくくせに、こういうときは真っ先に切り捨てるんですよ!最低です!」

 正直、書記さんほど嫌悪感は感じない。それはきっと僕の代わりに書記さんが怒ってくれているから。僕の為に、怒ってくれているから。

「よう!雪!父親がパクられたんだって?災難だった―――――――」

 ガラガラと生徒会室の扉を開け入ってきたのはアライズの三人だった。そんでもって今二人に羽交い締めにされてパンチされているのは英玲奈先輩。

「あんたはホント、空気を少しは読む努力をしなさいよ」

「まさかと思ったけどここまでバカだと思わなかったよー?」

「むぐむぐ」

 英玲奈先輩は反論しているのか、二人に抑えられている口元をもごもごと動かす。何言ってっかわかんないけど。

 あれ?ちゃんと理解されてる?大丈夫か僕?

 なにはともかく、怒る書記さんを必死になだめて溜まっていた仕事を処理する。

 そして、今日一番憂鬱なことがやってきた。

 いや、別にやめたかったらやめても良いんだ。強制されてるわけじゃない。

「・・・・・父親のところに行こうと思うんです」

「――――――――そう」

 あんじゅ達には父親の事は言ってない。どれだけ理解していても、やっぱりそう簡単に自分をさらす怖さはぬぐえないし、あんじゅ達は変わらないって言ってくれた。知ったとしても知らなかったとしても。だから焦らずにゆっくり行こうと思う。

「私も行こうか?」

 ツバサさんは心配そうに僕を見つめる。

「いえ、これはきっと一人で行かないと意味ないと思うから」

 それはここまできてもやっぱり父親を見られたくないから。だけど、ちゃんと思うんだ。一人で向き合わないといけないと、ちゃんと思える。

 きっとここで合わなかったら、もう二度と会えない。きっと今会うのが最後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が拘留されていた留置場とは別の留置場にその人は拘留されていた。なんでもこれから裁判やらなんやらがあった後に刑務所に行くんだそうだ。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 警察の人が見守る中。椅子に座った僕は、目の前にいる人物の顔を見た。何度もあっているのに久しぶりに見た気がした。

 そいつは顔は虚ろで、目の焦点はあってない。まるで魂が抜けた抜け殻のように、ただそこに座っているだけだった。

「・・・・・・・・・」

 何を言おうか、何が言いたかったのか、すぐには出てこない。本当に僕を殺そうとしたのか、あんたにとって僕ってなんだったのか。やっぱり生まれてきてほしくなかった、そういう存在だったのか。

 問いかけても、きっと答えは返ってこない。返事なんて期待してない。だから一つだけ。

「生きてりゃさ、この先ずっとずっと生きてりゃさ、生きてて良かったって、そう思うことがあるよ。こんな16年しか生きてない僕が思ったんだ。あんたにだってきっと来る」

「・・・・・・・・・無責任だな」

 ぼそっと、しわがれた疲れた声で言った一言。返ってくるとは思わなかったその一言に僕は笑顔で返した。

「ああ、お父さん(・・・・)の息子だからね」

 久しぶりに、本当に久しぶりに、面と向かって言った。お父さんと。

「―――――――――――――――、」

 依然として目は虚ろで、顔には生気が宿っていないけれど多分ここでやっと終わったんだ。この人と僕の、歪な関係は。

「じゃあ、僕行くね。きっともう会うことはないと思う。お父さんの事、前々から嫌いだった。でもやっぱり、僕にとってあんたが僕のお父さんだった。あんたがお父さんで良かった」

 最後に、これが最後の一言。

「今までありがとう」  

 それは紛れもない本心で。恥ずかしくていたたまれなくなるくらいの本音で。怖いくらいの自分だったけど。言葉にすることで心の靄が、ちょっとだけ晴れた気がした。

「―――――――――――――お前が姐さんって呼んでたあいつな。姉さんだぞ」

「・・・・・・・は?」

 去ろうと椅子から腰を上げた瞬間、突然お父さんが口を開く。それまでと違って、少しだけ力強い言葉だった。

「本物の、姉さんだ。俺が捨てた、お前の姉。お前は俺なんてクズだけじゃない、ちゃんとあいつの血も入ってる。お前はあいつに似てるよ。目元とか声とか、だから捨てられなかった。千早は俺に似てるな。千早も俺みたいに何のかな。それはちょっと、やだな」

 後半の言葉は、耳に入ってこなかった。

 姉、姉さん。そうだそういえば小さい頃、まだ穂乃果達に会う前、もっともっと小さい頃、家にもう一人いた気がする。あれが、姉さんだったんだ。なんで忘れてたんだろう。そうだ思い出した。確かにいた、もう一人。

 悪いことというのは重なる物で、頭の中が姐さんでいっぱいでグラグラと揺れる心で家に帰ると、玄関に大家さんが待ち構えていた。

「あ、どうも」

「ああ、海田君。あのね、急で悪いんだけど、もうあなたに家貸すことできないわ」

「え?」

「ほら、あなたのお父さん。あんな騒ぎ起こしちゃったでしょ?それでなくても前々から苦情はあったの。それが今回の件でみんな我慢の限界に達したみたいでね。あなたを追い出せって。ごめんね。私も結構説得したんだけどダメで」

 つまり、ここから出て行けということだ。やっと見つけた好物件だったのに。

 まさかこんなとこで弊害が出るとは。

 申し訳なさそうな大家さんに僕は首を振る。

「いえ、大丈夫です。あ、いや大丈夫じゃないけど。ダイジョブです。家なんかまた探せばいいんですから」

「ほんっとにごめんね?できれば三日以内に退去してくれると助かるんだけど」

 三日。三日か、それだけじゃ家を探すのはちょっと厳しい。  

 もうすぐミューズとアライズの最終予選だというのに、依然僕は僕の周りはすっきりしてくれない。一つ片付いたと思ったら、また新たな問題だ。本当にお父さんにはさっきああ言ったばかりだけど、自分の人生に辟易してしまう。

 でも、今までだってそうだった。自分の思い通り行った事なんて一つもない。今までだって、ちゃんとままならない人生だった。僕は、僕の人生は何一つ変わっていない。

 だから一個ずつ、まず一個ずつ。ちゃんと向き合っていこう。

 きっとそれがたった一つの、人生の攻略法だ。




どうもファイトだよ!高宮です。
東海大相模甲子園優勝おめでとうございます。リアタイで見てまして興奮させてもらいました。やっぱり甲子園は熱い。おもしろい。
そんな甲子園に負けないようにおもしろいものを作りたい!
頑張ります。

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