ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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決意の固さ

 僕がこの問題を話す時がもし来るのなら、穂乃果や海未かことりなんだろうかなって、なんとなく想像していた。

 だけど、今目の前にいるのはツバサさんだ。今僕の問題を赤裸々に語っているのはツバサさんだ。

「――――――――って言うことなんですけど」

「なるほど、つまりあなたの父親はクズってことね」

 まるで口の中の異物を破棄捨てるようにツバサさんは確認する。おおむねあっているけど、でも。

「ええ。でもそれでも俺の父親なんですよ。たった一人の」

 別に父親を同情しているわけでも変にかばっているわけでもない。あんな繋がりでも欲しいんだ。失いたくはないんだ。たった一人の血のつながりだから。

 今、自らの口に出して、ようやく気付いた。やっぱり血のつながりというのは特別なんだと。他に誰も補うことができないものだから。あんなものでも失いたくないと思う。

 それにしても案外すんなり説明できた。もう少しつっかえたりするのかと思ってたけど。

「というかよく僕が悩んでるってわかりましたね。自分では上手く隠せてたつもりだったんですけど」

「・・・・・は?あなたそれ本気で言ってる?」

「え?ええ」

「いや、全然隠せてないわ。ダダ漏れよ。言っておくけど雪。あなた嘘下手よ」

「・・・・・・ええ!?」

 愕然とする。嘘が下手?いやいや、ツバサさんが鋭いだけでしょ。

「きっとあなたのそばにいるミューズの子たちならもれなく全員間違いなく絶対に気づいてるでしょうね」

 断言された!嫌に強調されて断言された!

 そんなことはないと思う。そんなことは・・・・・あれ?

 なんだか自信がなくなってきたところで、ツバサさんは窺うように確かめる。

「―――――――――それで、あなたはどうしたい?」

「僕は―――――――」

 脳裏に過去がフラッシュバックする。お隣さんの部屋でお隣さんに聞かれた事が、映像のように流れていく。けれど今度はその答えに気づかないなんてことはない。ずっと前から何度も何度も繰り返し考えて、願って来た事だから。

 自らに確固としてあるその想いを、今回は口に出すだけで良い。

「僕は、父親に生きてほしいんです。今の父は、死んでるから。魂が、心が死んでる」

 父が見ているものはいつだって過去だった。あのときこうしていれば、あのときお前が生まれなければ。それはすべて過去に囚われているからこそ出てくる言葉だ。いつかの僕のように。

 あの時の問題があって、ようやく僕は父親の事を少しだけど理解した。それでも好きになることは出来ないけど。

 全うでなくて良い。誰かに褒めれる生き方でなくて良い。だけど胸を張って誇れる生き方をしてほしい。誰でもない、自分がそう思える人生を歩んでほしい。

 それが僕がやりたいこと。たった一人の家族の為にしてやれること。

「そっか」

 僕の言葉に、ツバサさんは一言頷く。それだけで何かが軽くなった気がした。気付くと奥底に流れていたヘドロのような固くてドロドロしたものはない。 

「あなたがしたいことは分かった。けど、それって具体的にどうしたらいいの?」

 そう、問題はそこなんだ。

 きっと僕の願いは、届かない。言葉で語りかけて届くのならそもそもこんな事態に陥っていないだろう。

 だけど僕は知らない。言葉以外の方法を。

「・・・・どうしましょ?助けてください。ツバサさん」

 さっきまでならここで終わりだった。ここで手詰まりだった。

 何かが変わったわけじゃない。ただ周りにあった者に手を伸ばしたいと思ったんだ。何かのきっかけがあればもっと早くそう思えたんだろうし、それがなければ一生そのままだったかもしれない。

 一生そのままでも、きっと僕はそのまま許容するんだろうけど。

「まかせて!・・・といいたいところだけどとりあえず今日のところはもう暗いから帰りなさい。送ってくから」

 そういえばと窓から外を見渡すと辺りはすでに静脈に包まれている。

「いや一人で帰れますよ。道は覚えてるし」

「いいから、こういうときは黙って甘えるものよ?」

 そうですか?と、素直にツバサさんの言葉に従うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車(まるで当然のように黒光りする外車)で送ってもらった去り際。

「ありがとうございました。その、色々と」

「いいのよ。・・・・・好き(・・)でやってる事だから」

 珍しく俯きがちになったかと思うと、早口でおやすみなさいと言われ早々に車を出してしまった。

 そんなつばささんにキョトンとしながらも僕は改めて決意する。この前もそうだし、ずっと前もそうだったけど、僕はどうやらなにか壁にぶつかると決意する癖があるらしい。

 変な癖だなぁと自分自身に笑いながら、それでも僕は決意する。

 穂乃果に、みんなに打ち明けよう。そしてこの問題をどんな形でもいいから終わらそう。ここまで引っ張り上げてくれたツバサさんの為にも。

 

 

 

 

「――――――――――英玲奈。あんじゅ」

 雪を送って行った帰り。家に着くと門の前で見知った顔が待っていた。

「どうだった」

「ええ。まあ流石にあそこまで深い問題を抱えているとは想像もできなかったけど――――――――」

「そうじゃない。ツバサの事だよ。どうだったんだ」

「―――――――――――、」

 私がどうだったかなんて聞かなくても分かるだろう。あんな問題を抱えていた彼を、今まで私は見て見ぬふりをしていたのだ。問題を抱えていることそれ自体は分かっていたはずなのに。

「ふぇぇぇぇぇぇ」

 気づくと泣いていた。そんな私を英玲奈とあんじゅは優しく抱きかかえていた。

「私、知らなかった。あんな、あんなきつい事を抱えて、それでも彼、笑ってた」

 どれほど辛かっただろう。どれほど苦しかっただろう。実の父親に生まれてこなければと本気でそう思われるのは、小学生の心にどれだけ深い傷をつけただろう。

 それなのに彼は笑っていた。それを抱えて、誰にも打ち明けられずに。それでも。

 ――――――――笑顔だった。

「なのに、なのに私は、自分の事ばっかりで、今でも彼に嫌われなくて良かったって心のどこかでホッとしている」

 私は嫌われるのが怖くて、目をそむけていたのに。その間も彼はずっとその問題と戦っていたんだ。知ろうとしなかった私をそれでもありがとうって言えるほどに。

「―――――――――別に落ち込むことじゃないよ。ツバサは知らなかったんだよ。知らない人間が雪君の問題をどうこうなんてできるはずないじゃない。それでもツバサは雪君を笑顔にしてたよ。きっと力になってたよ。それってすごいことだよ。だからありがとうって雪君は言えたんじゃないかな?」

 あんじゅは泣いている私の顔をまっすぐに見つめる。その瞳はただ純粋に真実を語っている瞳だ。

「それに、確かに知ろうとはしなかったかもしれない。目をそむけていたのかもしれない。今まではそうだったかも知れない。でも今は。これからはお前は知っているだろう。私達が知らない雪の問題を、きっとこの世界でひとりだけ、知っているだろう。知ろうとしただろう」

 諭すでもなく、説教を垂れるでもない。英玲奈もまた同様にただ真実を、私の持っているモノをありのままに分かりやすく提示してくれる。

 知らない事は罪だと思う。何かが起こって、知らないじゃ済まされないことがある。存じなかったでは収まらないものがある。だから無知とは罪だ。知ろうとしないことはもっと罪だ。 

 だから私もまた罪なのだ。知ろうとしなかったのだから。事件や事故という分かりやすい形で誰かが傷ついていなくても、裏にある傷つきを止められていないのだから。

 だけど、今は知っている。今からは知っている。

 例え知っていても私一人の力じゃ止められないかもしれない。だけど、はいそうですかって諦められないんだ。諦めたらいけないんだ。

 なにせ、彼が諦めていないのだから。

「―――――――――グスッ。うん。ありがとう二人とも」

 涙は止まってはくれない。依然として自分のふがいなさやどうしようもない気持ちが消えてなくなるなんてことはないけれど。それでも笑った。彼と同じように。彼とは違う笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決意した翌日。早速穂乃果に打ち明けようと思い。僕は携帯を開く。

「―――――――いや、なにも休日に呼び出すことじゃないな」

 今日は土曜日。なにもせっかくの休日を重い話につき合わせる必要はない。大体、平日の練習終わりにさらっと話せば済むことだし、うん。そうしよう。そうした方が良い。

 そう結論付けて土日は特にアクションを起こすことなく。週が明ける。

「・・・・・期末試験!?」

「そうだよ~。そのために勉強会したんじゃない。ほとんどしなかったけど」

 忘れていた。勉強会の目的を。期末試験が危ういということがそもそもの事の発端のはずだった。ほとんどしなかったけど。

 あんじゅに言われてようやく気がつく。いやでも、そもそもこんなに期末試験は早かっただろうか。

「まあ例年よりはちょっと早いかもだけど~。大体どこもこんなもんじゃない?そういえば音ノ木坂も同じく試験だって言ってたよ?」

 マジでか。ということは何か。少なくともここ一週間は俺の決意が引き延ばされるということだろうか。いくらなんでも試験中にこんな話は迷惑だろうし。

「ていうか生徒会長がなんで試験期間知らないんだよ~」

 つんつんと僕の腕に文句を垂らしているあんじゅに書記さんが鋭い声で答える。

「それはここのところぼーっとしてばっかで、ろくに仕事もせずに私達が頑張っていたからじゃないですかねあんじゅさん」

 うわ!!怒っている。怒っていらっしゃる。敬語モードの書記さんが!!

「・・・・・まあそれで海田君の問題が少しでも好転したっていうのなら雑務に翻弄された私達も少しは報われるんですがねー」

「―――――――ちょ、ちょっと待って。今の言い方だと、俺の問題とか、もう既にお見通しだったりしちゃったりなんかしちゃったりします?」

 そういえばツバサさんに嘘が下手だなんて言われたけれど、もしかしてあながち間違ってもない感じ?

「べつに。ただ私達に打ち明けられないことをツバサさんには打ち明けたんですよね。まあ?海田君の問題なんて知ろうが知るまいがどっちでもいいですけど」

 書記さんは怒ったまま、一泊置いて。

「・・・もしそれで私達の関係が変わるだなんて思っているのなら、とんだお門違いですけどね」

「書記さん―――――――――」

「だ、大体!問題を知ってる知らないで変わるようなちゃちな関係じゃないと思ってたんですがね!?それは私だけですかあーそうですか!!」

「・・・書記さん怒ってる?」

「怒ってないですよ!!」

 大きな一言と共にバタンと生徒会室のドアが勢いよく閉められる。

「ちょ!どこ行くの!?」 

「コピーしてくるんですよ!!書類をね!」 

 僕の問いに対して閉まっていたドアを開いて顔だけを覗かせて返事をする。

「・・・やっぱ怒ってるよね?」

 隣いるあんじゅに確かめる。

「さあ?」

 その顔は分かっていても教えてくれそうにない顔だ。

「――――――――言い忘れたことがありました。もし本当にそう思ってたならブチ殺しますからね!」 

「怒ってる!!確実に怒ってる!!だってブチ殺すなんて女の子がそうそう言わないもの!!」

 ブチ殺すてものすっごい怒ってる相手に使う言葉だもの。ブチって怒ってる相手に対して使う最上級の言葉だもの。ブチキレるとか。

 それになによりわざわざ引き返して言う言葉がブチ殺すって。相当怒ってる。これは土下座と化した方がいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな怒った書記さんを尻目に期末試験を何とか乗り越え、ようやくミューズのみんなに会うことができることになった週明け。

「―――――――――あ、ゆ、雪ちゃん」

 校門で待っていると、浮かない顔をした穂乃果達を見つける。というか明らかに動揺している。

「え?何?」

「いやなんでもないよ雪君♪」

 穂乃果に訪ねたのだがなぜかことりが反応する。

「いやでも―――――――」

「な・ん・で・もないよ雪君」

 気の所為かいつもよりことりの笑顔が怖い。

(い、いいのですかことり?雪にあの事(・・・)言わなくて)

(だって、私達が言って良いような問題じゃないよ。雪君が本人の口から聞かなきゃ、意味ないと思う)

(それはそうですが)

 なにやら海未とことりがひそひそと内緒話に励んでいる。きっと聞かれたくない話なのだろうなと辺りをつけ、話を逸らした。

「あ、そういえば穂乃果痩せたね。ダイエット成功したんだ」

「えへへ。気付いた?いやー、実は生徒会でミスっちゃってさー。食べるの忘れてたらいつの間にか」

 穂乃果らしい理由に笑いつつも生徒会でミスというのが引っ掛かる。僕がうじうじと悩んでいる間になにかあったらしい。

 ・・・・・考え込んでいるとにこちゃんがこちらを睨みつけている事に気づく。

「・・・・・あんた女子の体重の事をさらっと言うとか末恐ろしいわね」

「ノンデリカシーもここまで行くと逆に感心するにゃ」

 いつの間にか凛まで隣に来て何やらにこちゃんに同意する。なんだか感心されてしまったみたいだ。

「そうだ。今から恋愛映画を見ようって話になったんだけど、良かったら雪もどう?」

 思いついたように絵里先輩からお誘いを受ける。

 ここだ。打ち明けるならこのタイミングしかない。みんなで恋愛映画を見てほんわかしてるうちにさらっと打ち明けるんだ。

 自分自身の決意をさらに固め、絵里先輩のお誘いに同意する。

「じゃあ穂乃果の家にレッツゴーだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恋愛映画。確かに絵里先輩はそう言っていたはずだ。だから僕もその流れに乗って、軽い感じで打ち明けようと決心したのに。

 この惨状はなんだ。

 僕の右斜めに座っている絵里先輩は片手にハンカチを携えながら泣いている。

「いいはなしね。グスッ」

 この恋愛映画のどこら辺に泣ける要素があったのかは分からないが隣にいるにこちゃんとも泣いている(強がってはいるが)のでまあよしとする。

 ひどいのは後ろにいる穂乃果と凛だ。二人とも気持ちよさそうにぐーすかぴーと眠りこけている。

 そのひどい二人をもってしてさらにひどいのが海未だ。ずっと後ろの方で壁とこんにちわしている。つまり画面の方を一向に見ない。耳を両手で塞いでる始末だ。

「海未。いつまでそこでそうしてんのさ」

「そうよー。こんなに良い話なのに」

 絵里先輩はまだ泣いている。

「い、嫌です!破廉恥すぎます//」

 破廉恥って。ただの恋愛映画だよ。Z指定じゃないよ?全年齢だよ? 

 そう思いもう一度声をかけると、気にはなるのか恐る恐るこちらを見る。すると運悪く。運悪く?恋愛映画は佳境を迎えており、丁度キスシーンだった。

「~~~~~~!!//」

 海未はその透き通った眼でしっかりとそのシーンを捉えると、声にならない声を上げ、顔を赤くして顔をクッションにうずくまらせた。

 すると映画はスタッフロールが流れ始める。

 これはもう僕の決心の問題じゃない。とてもじゃないが秘密を打ち明ける空気ではない。

 結局その場で言いだすことは出来ずに帰り際。真姫ちゃんに問い詰められることになる。

「――――――――――――おかしい」

 その言葉に僕の体は反応してしまう。ツバサさんに言われた事が頭の中でフラッシュバックして余計心臓の鼓動が速くなる。

 ついにバレたか。ツバサさんが言っていた通り僕は嘘が下手なんだな。今まで抱いていたちんけな自信など吹っ飛び、代わりに懺悔の念が生まれてくる。こんなことならさっさと打ち明ければよかったと。

 きっと神様がいるのならこれは試練なのだろう。いつまでも打ち明けられない僕への試練だ。

 でも。だとするならば―――――――受けて立とうと。心にもう一度誓って。

 僕は真姫ちゃんの言葉を聞いた。




どうもにゃんにゃんにゃーん。高宮です。
また活動報告しちゃいました。活動報告してると活動してる感がでていいですね。
その活動報告にも書いたのですが、新作のタイトルに悩んでいます。
というのも、新作のタイトルに分かりやすく『ニセコイ』×『リボーン』とか書いた方がいいのか。それともそんなの関係ねえのか。
活動報告でも感想でもいいのでコメントいただけるとこれ幸いです。
では次回も頑張ります。

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