ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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テレビっていうとはしゃぐのは田舎も都会も共通だと思う

 そろそろ生徒会の仕事もすっかり板について、もうツバサさん達の手伝いも要らなくなってきた。今日は早急にまとめないといけない資料があったので昼休みにあんじゅと書記さんに集まってもらっている。

 そして、それが終わると明日は給料日だ。

「ふふふ――――――――」

「なんだか嬉しそうね。雪君」

 隣でいつも通り書類とにらめっこしているあんじゅがこちらを向かずに笑う。

「ああ、なんてったって明日は給料――――――」

 日。といいかけて慌てて口をつむぐ。

 UTXではバイト禁止なのだ。あまりにもばれない為、時々忘れそうになる。だからといってうっかり漏らせば大惨事だ。前までなら謹慎くらいで済んだかもしれないが、今の俺は生徒会長だ。もう一カ月は経ったというのにあんまり実感ないけど。

 まあそれも大半が父の懐に消えてしまうのだが。

「ん?」

 途中で言葉を止めてしまったからだろう。あんじゅがこちらを向き首をかしげる。 

「き、きゅ、きゅうりが欲しいよねー」

 やや強引にごまかす。いやごまかしてねーよ。ごまかしきれてねーよ。

 流石に口が滑ったと思い、頭の中で猛省しながらあんじゅをちらと見る。

「きゅうりかー、きゅうりは夏に食べたいよねー。どちらかというとー」

「今の時期は鍋とかいいですよねー」

 あんじゅにそれまで話を聞いていた書記さんが同意する。良くわからないうちに話題が逸れたようだ。良かったあんじゅで。これがツバサさんとかならきっと問い詰められて自白させられていた気がする。

 想像し、身震いするとともにほっと一安心。

「良かったツバサさんがいなくて・・・」 

「私がなんだって?」「うわっ!!」

 いつの間にか生徒会室の扉を背にもたれているツバサさんがやや不満そうな表情をしていた。

「良かったわね私がいなくて」

 キュッキュッっとローファーと床がこすれる音がするたびに、俺の心臓を締めつけた。 

「き、聞いてたんですか?」

「ええ。鍋の話してる時からね」

 どうやら給料日云々は聞かれていなかったらしい。危ない危ないと、額をぬぐう。その間もツバサさんはそっぽを向いて目を合わせてくれないが。

「―――――――それで?ツバサは何か用?」

 そんな俺を見かねたのか、あんじゅが助け船を出してくれる。

「ああ、そうだ忘れるところだったわ。雪の発言で」

 倒置法と目線が、俺を圧迫する。い、胃が痛い。

「・・・・・週末の土日にハロウィンフェスタがあるのは知っているわよね?」

「ああ、クラスの女の子が話してました」

 十月三十一日はハロウィンだ。もともとはアメリカで悪霊を追い出す行事であったが日本では渋谷等でコスプレをして練り歩く若者たちがはしゃぐお祭りと化している。最早お菓子くれなきゃいたずらするぞというセリフすら聞かないが。

 そんなハロウィンを正式に秋葉原でお祭り化しようということらしい。

「そのフェスタに要請されて、アライズとして私たちがライブすることになったのよ」

 へー。そういえば確か海未から来たメールにも似たような事が書いていた気がする。アライズとミューズがライブすることになった、と。

「それでね、テレビの取材も入るらしいの」

「テレビ!?」

 思わず大きな声を出してしまった。テレビに映るということだろうか。凄いなやっぱりアライズは。今までも知名度は群を抜いていたがネットの枠を超えついにテレビかー。あれ?ということはミューズも映るということだろうか。

 おお。なんだか知り合いがテレビに出るという事実が俺を高揚させる。どんどんミューズがみんなから認められて行くように感じる。

 だが反面、寂しくもある。どんどんと遠い存在になって行くようで。

 寂しい気持ちは消えないけど、それでも良かった。俺を必要と言ってくれた絵里先輩や皆の事を考えるとやっぱり嬉しい気持ちの方が勝っていたから。

「・・・・・雪?」

「――――――え?ああ、はい。聞いてますよ?」

 表情に出てしまっていたのだろう。ツバサさんが心配そうに俺を見つめる。

「ほ、本気で怒っていたわけじゃないのよ?ただ、ちょっとショックだっただけで・・・・」

「・・・・はい?」

 あれ?なんだろうハロウィンフェスタの話じゃなかったのだろうか。考え事をしていた間に話が変わったのか。

「ふぅ、まったく。ツバサ。それでテレビがどうしたの?」

 見かねたようにあんじゅがため息をつき、話をまとめてくれる。

「あ、ああ。それでねそのテレビ用に今からコメントをとるんだけど―――――――」

 ああ、それであんじゅを連れて行きたいとかそういう話か。

 それなら勿論OKだ。そろそろ資料も終わるし、書記さんと二人で余裕だろう。

「あんじゅと雪はちょっと来てくれない?仕事なら後で手伝うわ」

 ほらやっぱり――――――ん?

「あれ?今、俺の名前も呼びました?」

「ええ」

 さも当然という顔で頷くツバサさん。

「いやいや、おかしいでしょ。俺アライズじゃないですよ」

 当たり前の事をわざわざ口にするのもどうかと思ったが、今はそんなことどうでもよかった。

「何言ってるの当たり前じゃない」

 しまいにはツバサさんにも言われた。あんたが変なこと言うからだろ。

「雪君はアライズじゃないけど、生徒会長でしょ?きっとその仕事じゃないかなぁ?」

 あんじゅがいつもの笑顔でそう当たりをつけてきた。が、生徒会長はそんな仕事をしなければいけないのか。アライズと一緒にテレビに出ると?

「ほら!生徒会長といえば学校の顔役みたいなものだから。テレビに出て宣伝しとけってことじゃない?」

 今までうんともすんとも言わなかったくせにこういうときだけノリノリで会話に参加してくる書記さん。眼が爛々と輝いている。ちくしょう。

 そういえば生徒会選挙の時にそんなことを言っていた気がする。確かに、生徒会長になって顔も名前も知らない生徒から声をかけられることも増えた。

 そう言うことならば仕方ない。生徒会長になった責任は果たすべきだろう。決してテレビに出たいとかそういう理由ではない。・・・・トイレ行って身だしなみ整えて行こ。

「まぁ、そういうことならいいですけど。でも一つだけ言っておくことがあります」

 決して心の中身は表情に出さないように気をつけて、訪ねておくべきことがある。

「ありがとう。で、何かしら?」

「・・・・・ギャラはでるんでしょうか!?」

 俺にとっての最重要事項だ。皆呆れてたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで、UTXの特別科目室というところに連れてこられた。まず第一にそんな部屋があったことに驚きだ。なんでもここはアライズ関係の取材や、UTX前のビジョンで時々流れるアライズからのコメントなどを撮っているらしい。ていうかこの部屋といい生徒と言い、俺はこの学校の知らない部分が多すぎるのではないだろうか。生徒会長なのに。

 若干自分の行いに落ち込んでいたところ、そんなことはお構いなしにガチャリと先頭にいたツバサさんがドアを開ける。部屋には既に英玲奈先輩が中央の椅子に腰かけていた。

「ああ、来たか」

 英玲奈先輩によると、もうすぐ取材班が来るそうだ。

 緊張で頭が真っ白になる。何を言おうか、ていうか何をすればいいのか全く分からない。テレビなんて一切縁がなかったのだから。

 そわそわしていると、その内、異様にテンションの高い女性のリポーターにカメラマンがくっついた状態でやってきた。 

 最初はアライズの三人が挨拶したのち、打ち合わせとおぼしきものを始める。と、いっても口頭で軽く説明されるだけだったが。

 俺は緊張で頭がぐるぐるしながら必死に聞いていたが言葉がびっくりするほど耳に入ってこない。

 気がつくと、アライズの三人がコメントを撮っていた。嫌にあっさり、時間にして数十秒ほどのコメントを撮ると今度は着替えるらしい。俺は部屋を追い出される。

 数分してから了承が出たので、ドアを開けるとそこには先ほどと同じように制服のアライズが。

「あれ?着替えたんじゃ?」

「着替えたわよ。そしてコメントを撮ってまた着替えたの」

 ああ、そうなんだ。ん?ということはこれで終わりじゃないか?俺の出番ないじゃないか。

 ほっとしたような若干がっかりしたような複雑な気持ちを味わっていると、あんじゅから右腕を絡めとられる。

「じゃ、ここからが本番ね♪」

「ああ、UTXの宣伝もしっかりとやっておかないとな」

「それじゃ、始めましょうか」

 どうやら俺の心配は杞憂だったらしい。その代わりに左に英玲奈先輩。後ろからツバサさんに囲まれ、多少緊張は解けるものの、そもそも今さらUTXに宣伝なんて必要なのだろうかという場違いな疑問を抱いていた。

 カメラマンが機材を調整していたので素直にその事を聞いてみる。

 すると左隣の英玲奈先輩が答えてくれた。

「それはお前、雪は私たちのだぞ、とミューズの皆に知らしめる為にだな――――――――」

 言葉の途中でツバサさんから思いっきりチョップを食らう英玲奈先輩。

「何言ってるの。前にも言ったけど世の中に絶対なんてないのよ。できるときに宣伝しておかないと」

 なるほど。確かにうちはアライズで成り立っているようなものだしな。不安定なのだ。できるときにしっかりとアピールしないと数年後には音ノ木坂のように、なんてのも笑い話じゃない。

 しっかりやろうと、頬を叩いて。目の前にそれでも緊張した面持ちの自分が映ったカメラが向けられた。 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「うわー、まだ緊張してる」

 取材があったお昼休みも終わり、時は放課後。

 今日は音ノ木坂の方に用事があるので帰りは家とは反対方向だ。

「で、どうだったの?テレビは?」

 隣を歩いているのは書記さん。いつもは書記さんとは校門で別れるのだが、今日みたいな日は方角が一緒だ。

「うーん、あんまり覚えてないや」

 終わってみれば一瞬だった、何言ったのか自分でも覚えていない。

 そんな雑談を交わしつつ、書記さんとも別れ音ノ木坂についた。

 用があるのは理事長室だったのだが、なんとなーく気が重い。なので、一旦皆に会ってから行こうと決め、近くにいた生徒にミューズの居場所を聞き出し、屋上にいるという情報を得て、屋上へ。

 階段を上って行くうちに、皆の声が聞こえてくる。いつもどおりワイワイとした声が聞こえてくる、

「皆、練習はかどってる?」 

 ドアを開け、開口一番にそう訪ねたのだが、目の前の状況が俺の目を白黒させた。

「い、行っくにゃー!!」

「ハラショー」

「いやー、今日もパンがうまい」

 セリフだけ聞くと違和感がないないが、みんながおかしかった。

 なぜなら、凛の口癖であるにゃーと海未が喋っているし、同じように絵里先輩の口癖をことりが、穂乃果は希といったようにまるで中身が入れ替わっているみたいだ。いや中身だけではなく、服装も口癖と同じく変わっている。

 先の三人は俺に気づいたのか、段々と表情が驚愕に染まって行く。特に海未は顔が真っ赤になって、ともすれば死にそうだ。

「にっこにっこにー」

 いつもは型まで下げている髪をツインテールにした花陽。

「ダレカタスケテー」

 いつものクールさは微塵も感じない絵里先輩。声も普段より高く、幼さを感じる。

「イミワカンナイ」

「ちょっと!凛!それ私の真似のつもり!?」

「真姫ちゃん♪ちゃんと希ちゃんの真似しないとダメだゾ♪」

 あまりいつもと変わらないにこちゃん。

「わ、分かってるわよ!こ、これでええ?」

 俺に気がついていない他の皆はなおも継続しているみたいだ。

「ん?どうしたのですか?凛」

 海未、もとい凛の異変に気がついた穂乃果、もとい海未が凛に聞く。凛(海未)がプルプルと震える指で俺の方を指差した。こんがらがる。

 そこでようやく、他のメンバーも俺に気がついたらしい。

 特に真姫ちゃんは顔が爆発したように真っ赤になった。

「あ、あの。俺。どんなになってもみんなのファンだから」

 きっと皆は度重なる練習で頭がおかしくなってしまったのだろう。けれど、どんな風になっても俺は皆のファンはやめない。それくらいで折れていたらファンとは言わないだろう。

 どんなふうになっても一番の味方で居続ける。それが本当のファンってものだ。

 そう思い、皆とは一切眼を合わさずに静かに扉を閉める。

「「「――――――――ちょ、ちょっと待って!!!」」」

 閉めた瞬間から元に戻った絵里先輩たちにドアを勢いよく叩かれる。

「ちが、違うのよ!聞いて雪!!これには深いわけが!!」

「そうです!だからこのドアを開けてください!!」

「「雪!!」」

 二人の声が静かな、とても静かな空に木霊した。 

 

 

 

 

 

「いったい何がどうしたんだろう?」

 とりあえず皆の事は見なかったことにして、ここに来た用事を済まそうとするべく理事長室へと向かう途中。

 疲れているのかな?と気になりつつも理事長室のドアをノックする。

「はい、どうぞ」

 凛とした澄んだ声が返される。

 その声と共に理事長室に入ると、その部屋の主はまるで最初から訪問者が分かっていたかのような笑顔で俺を出迎えた。その笑顔はことりに良く似ていると感じる。

「UTXの学園長からの資料をお持ちしました」

 用事とは学園長から渡された資料を音ノ木坂の理事長であることりのお母さんに渡すというものだ。その時の学園長の慌てぶりが脳裏に焼き付いている。そのリアクションに中身は恐ろしくて見れなかった。

「うん、そこら辺に適当に置いておいてくれると助かるわ」

 素直に言われたとおりにする。

「中身。気になる?」

 見透かしたように俺の事を見つめる理事長に、俺は素直にうなずいた。正直好奇心の方が勝っていたから。

 俺が頷くのを見ると、満足したように薄く笑って資料を手渡される。

 俺は、ごくりと生唾を飲みながら、どんな機密か、それとも学園の闇的なものか、学園長の動揺ぶりからどんな弱みを握られているのか見当もつかなかったので、すばやく封を切る。

 中に入っていたのは一枚の紙。その紙はまるで白いペンキに塗りつぶされたかのように真っ白であった。

「・・・・・・へ?」

 もう一度中身を見るものの、入っているのはその真っ白な紙一枚。裏も表も、真っ白な一枚。

「-―――――くくっふふふ」 

 俺の呆けた顔を見て、こらえきれなかったのか理事長が笑いだす。

「――――――はー笑ったわ。ごめんなさい。ちょっとしたいたずらよ」

 いたずら?嘘だろ。うちの学園長も巻き込んでいたずら?どこの貴族だよ。

 俺が呆れていると、それに気づいた理事長は表情に出さずとも、拗ねたように言った。

「だって、こうでもしないと会いに来てくれないでしょ」

「-――――――――別に、そんなことないですよ」

 正直、その通りだったが。今日だってできれば他の人に頼みたかったくらいだ。

 俺は、この人が苦手だ。勘が良いこの人が、自分の事が見透かされそうになるこの人が。父親の事を、多少なりとも知っているこの人が。

 俺の言葉を最後に、訪れる沈黙。なんとなく気まずくて、理事長の後ろにある窓から外を見やった。

「・・・・・なんじゃありゃ」

 そこから見えた景色は、一種異様なもので、なんだかパンクな衣装に身を包んだ集団が周りの生徒から悲鳴を上げられている。

「・・・・・本当に、何をやっているんでしょうね」

 そう言うと、部屋に備えられている電話を手に取り、どこかと一言二言交わすと、受話器を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?雪ちゃん?」

 電話して数分後。先ほど別れた穂乃果が、今度はちゃんと穂乃果として目の前にいた。ただし、見た目以外は。

 穂乃果だけじゃなく、他の皆もとげとげの肩パットに手にはチェーンが巻きついている。しまいにはパンダのように、顔が白と黒のコントラストに染められていた。

 一瞬で理事長室が世紀末へと変貌していた。

「・・・・何やってるの?」

 俺としてはこの状況を見て、こう聞きざるを得なかった。

「ち、違うの!決してふざけてやってるわけでは!」

 俺の問いに絵里先輩が必死に答えた。ギャグじゃなかったのか。

「そう、それじゃその格好でラブライブ最終予選に出るということなのね」

 理事長の厳しい一言に、絵里先輩も黙ってしまう。

「はぁ、いったい何に悩んでいるのか分からないけど一回頭を冷やしなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?何がどうしたの?」

 理事長室からすごすごと撤退して、部室へと帰還した直後。屋上といい、先ほどのパンクといい、本当に疲れているのではと心配になってきた。

「い、いやほら!ラブライブの最終予選も近いし、ハロウィンフェスタでインパクトのあるライブをしようってことになって」

 穂乃果が勢いよく説明するが、目は泳いでいる。

「それで、あんなことに・・・・」

 ことりは落ち込んでいるように見える。そんな状況の中、より一層落ち込んでいるのがもう三人いた。

「違うのよ。これは私のキャラじゃないって言うか。もっとこう落ち着いたところから意見するのが私の・・・・・」

「雪に、雪に見られた見られた見られた見られた見られた・・・・・・」

「もうお嫁にいけない」

 上から絵里先輩と海未、そして花陽だ。なぜかこの三人は他の皆よりダメージを負っている。まああんな恰好をするのは恥ずかしかったんだろう。特に花陽なんて、普段じゃ考えられない。

「忘れろ」

「ん?」

 近くで声がしたのでそちらを振り返ると。

「先ほどあったことはすべて忘れろ」

「はい」

 凄い怖い顔をした真姫ちゃんがいて、迫力に思わず頷く。

 まあそれはさておき、話を聞くに、最終予選前のこの時期にアライズと一緒にハロウィンフェスタなんてやるもんだから焦って色々変化球を試行錯誤していたということだろう。変化しすぎてコントロール付いてなかったけど。

「でも、そんなの必要かな?」

 そりゃ変化球も重要だが、一番重要なのはストレートだろう。第一、この時期にテコ入れしようとしたってどうにもならない気がする。それよりかは今まで通りの、個性あふれるミューズでいた方がいい。だって、そうやって今までやってきて予選を突破してきたのだから。ファンだって、そんなミューズが見たいはずだ。今さら何かを変えたところでそれが通用するまで、ラブライブは待ってはくれないだろう。

「-―――――――それもそうだね」

 俺の言葉に穂乃果が同意する。

「確かに、そもそも皆それぞれ個性的で変える必要などなかったのかもしれません」

 いつの間にか復活していた海未が優しく微笑む。

「ミューズは九人でミューズやもんね。他でもない、この九人で」

 そうそう、希の言うとおり。どうあがいたって結局は自分たちらしくやった方が一番いいと思う。特に、ミューズについては。

 グネグネと回り道も良い、その内、宝箱だって見つかるだろう。でも僕らはもうそれを知っているはずだから。宝箱の中身を知っているはずだから。

「あんたはたまに鋭い事を言うのよね」

 なぜかにこちゃんに呆れられたけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこともあって、順風満帆とはいかないけれど、それでも僕らは進む。曲がりくねって、おかしなことだってやってしまうけれどそれでも前だと信じて進む。

「あ、あの人。あの時の」

 秋葉原は今日一日限定でハロウィン仕様と化していた。右を見ても左を見ても、皆楽しそうに飾り付けされている。

 その中で、一番存在感を放っていたのは、コスプレをしている人たちでもかぼちゃの飾りでもなくて、UTXにコメントを撮りに来たリポーターとカメラマンだった。

「それじゃお待ちかね!アライズから特別コメントをいただいちゃいました!!チェケラ!」

 相変わらずテンションが高い。そんなリポーターの呼びこみと共に、一台のテレビが運び込まれる。

「うわー、やっぱりアライズは凄いね」

「言ってる場合!?最終予選ではアライズと戦って勝たなきゃいけないのよ!」

 隣では一足早くコメントを撮り終えた皆がいる。にこちゃんはより一層気合が入っているようだ。先ほどのコメントで渾身のにっこにこにーがスルーされたからだろうか。

 アライズが映ると周りから歓声が聞こえる。

 コメントが流れ、演出と共に衣装がチェンジされる。

「へー、あんな風になるんだ凄いな」

 普通に着替えてコメントを撮っただけなのに、映像技術とはすごい。

「雪?さっきから何言ってるの?」

「ん?」

 何か変なことを言っただろうかと、不審そうな眼を向ける絵里先輩に思う。そうこうしてると画面がまた切り替わった。そこに移ってるのは引き続きアライズとそして俺。

 あ、良かった。ちゃんと映ってる。

「「「「「「「「は?・・・・・・・・」」」」」」」」

 俺が映った瞬間、皆の空気が凍った。

「ちょっと、雪ちゃん。あれはどういうことかな?」

 ことりが俺の肩に手を置いた。そういえば言っていなかっただろうか?ああ、皆が変なことをやっていたから言いそびれてしまった。

「ああ、ほら俺生徒会長じゃない?だからアライズと一緒にコメントを撮って宣伝してくれって言われたんだよ」

「へー。嬉しそうね」

 絵里先輩の声がいつもより低い。

『ねえ生徒会長?アライズは好き?』

『ええ。好きですよ』

 そんな空気の中、俺のコメントが響く。緊張しているのが痛いほどわかって、なんだかちょっぴり恥ずかしい。

「あはは、ちょっと照れるね」

 照れてはにかんでいると、皆から一斉攻撃を食らった。

 あ、あれ?なんで?




どうも睡眠の重要性!高宮です。
春アニメも終わりを迎えて、寂しい気持ちと夏アニメが楽しみな気持ちで苛まされています。早くイリヤちゃんを見たい。
活動報告でも書きましたが、ラブライブの映画見てきました。一週間たったというのに喪失感が消えてくれません。どうすればいいでしょうか。
この負の感情を糧にこれからも頑張ります。

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