ラブライブ!~輝きの向こう側へ~   作:高宮 新太

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輝いていく瞬間

 

「うん、そんなわけでね。行ってみないかい?今日、多分駅前でやってると思うんだよね」

「え、ええ・・・・?」

 津島さん家に入り浸り初めて早数日。

 最初の方こそ一々僕の姿に辟易していた津島さんも、最近ようやく心の扉を開いてくれた気がする。

 談笑することも増えて、彼女の昔の話とか、僕の話とか。

 色々と話すことも増え、打ち解けてきたと思う。

「そ、そんなことよりも。今日も暗黒ミサの会の時間よ」

 要因としては津島さんの好きそうな堕天使とか闇落ちとかなんとかかんとか調べに調べて詳しくなったのが大きいのではと、自分では思うけれど。

 やっぱりあれだよね、同好の士がいるってのはなんであれ嬉しいものだよね。

 津島さんも例外にもれず、最近の肌つやが良くなってきた気がする。

 まあ、生徒のそんなところを見ているのもどうかとは思うが。

「はーい、堕天使様」

「ちょっと!おざなりに呼ばないで!」

 努力の甲斐も会ってか、僕はこの暗黒ミサの会を手伝わされている。

 暗黒ミサの会なんていうと大げさだが、実際は生配信サイトで配信しているちょっと変わったユーチューバーみたいなもんだ。

 僕の仕事といえばカメラの向きを変えることくらい。

 

「はぁい、皆様、こんばんわ」

 

 今日も今日とて、そんな津島さんの真っ黒な衣装を見ながら僕はこれから先の展開について頭を悩ませているのである。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、道路も真っ赤に染まり帰宅ラッシュに電車が悲鳴を上げている普段と変わらない時間に。

 今日はいつもと違った、津島さんの反応があった。

 

「ね、ねえ」

 

「ん?どうしたの?津島さん」

 帰り際、最近は玄関先まで見送りに来てくれる彼女が伏し目がちに口を開いた。

「その、さ。なんでいつも、そんなに来てくれるの?」

 目線は下を向いたまま、聞きたいけれど聞きたくない、そんな雰囲気に言葉が包まれていた。

 彼女が欲しい答えを僕は知らない。

 彼女が欲しくない答えも、僕は知らない。

 だからありのまま、ただの僕の気持ちを伝えることにしよう。

「なんでだろうねえ?」

「っ!な、なにそれ!」

「いや本当に、口にするのは難しいよ。君が生徒だから、僕が担任だから、君が子供だから、僕が大人だから、気まぐれ、義務感、正義感・・・」

 

 きっと今口にしたそのどれもが正しくて。

 

 きっとそのどれもが正しくはないのだろう。

 

「そうさなあ、強いて一番を上げるならば、”可愛いから”かな?」

「かわっ!?」

「うん、可愛い可愛い生徒が頭抱えて悩んでる。そんな姿を見て放っておける奴はきっと、教師という人間じゃあない」

「・・・ああ、そういう」

 なんだか顔を赤くしていた彼女は、僕の答えにちょっとだけ気落ちして。

 望んでいた答えでは、なかったかもしれない。そう僕が思った時に。

「そう。そうね、多分先生はそういう人だわ」

 彼女はそれでも、晴れやかな笑顔でそう言った。

 納得したのだろうか、こんな答えでよかったのだろうか。

 そんな、僕の不安を吹き飛ばしてくれるくらいには、いい、本当にいい笑顔だった。

「そーいえば、先生って初めて呼んでくれたね」

「ええ!?そ、そうだった?」

 もしかしたら、僕の知らないところで彼女は一人、問題を解決したのかな。

 彼女のそれまでとは違う、なにか憑きが落ちたかのような態度で僕はそう思った。

「ああ、それと。明日も、その、やってるのかな?」

「え?やってるって、何が?」

「だから!ビラ配りよ!ビラ配り!」

 ああ、ビラ配り。

 そう、冒頭で誘ってなんだかんだでうやむやになっていたあれ。

「って、なに?行ってくれるの?」

「ま、まあ?先生にいつも来てもらうのも、悪いし・・・」

 口をもごもごさせながら、行く態度を見せてくれる津島さんに僕は。

「そっか、うんうん。そっかそっか」

「な。なによその態度は!」

「いえいえ、なんでもございませんよ堕天使様」

「だから!それはあの部屋だけって約束でしょ!」

「はーい」  

 なんだか、外に出てくれるってのが嬉しくてついからかってしまう。

 いいんだ、別に学校には来なくっても。

 なんていうと先生失格かもしれないが、それでもいいんだ。

 ちゃんと外とのつながりが、居場所がどこかにあるのなら、それが学校以外の場所だってなんだっていいんだ。

 君が笑顔になれるなら。

 まあ、願わくばそれが学校であるならば教師としては嬉しいんだけど。

「じゃ、じゃあ!明日10時に駅前集合だからね!お、おしゃれしてきてね!わかった!?」

「わかったけど、なぜおしゃれ?」

「い、いいでしょ!変な格好の人と歩きたくないだけ!」 

 そういうもんかな?年頃の女の子だもんね、そりゃファッションなんかにも気を遣うか。

「それから変な人もつれてこないこと!」

「はいはい、わかりましたよっと」

「返事は、一回!」

「はーい」

「伸ばさない!」

「はい」

 変な人って具体的にどんな人だろう。

 そんなことを考えながら家路についた僕でした。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、人にはおしゃれだなんだと言っておきながら、その恰好は何かな?津島さん」

「う、うっさい!触れないで!」

 そんなことがあって翌朝。

 僕が駅前の集合場所で津島さんを今か今かと待っていると。

 サングラスにマスク。全身を水色のフレンチコートで覆った怪しさ百点満点の女の子が僕の目の前に立っていた。

 多分、怪しい人ってどんな人ですかって聞かれたら大抵の人はこういう人を想像するんじゃないかな。 

「だって、そのビラ配りしている人たちって私と同じ学校の人なんでしょ?だったら、私の噂が広がってるかもしれないじゃない!そんで駅前に中二病で怪しさ満点の女の子がいたけどあれってそうだよね!なんて噂がまた広がるじゃない!」 

「怪しさは君が生み出したんだけどね」

「うっさい!」

 それに、そんなに噂にはなってないよ。

 って、以前から何度か言ってるんだけど。

 

「教師と生徒は別物なの!特に女の子は独自のネットワークがあるんだから!」

 

 と、言われてしまい一向に信じてもらえなかった。

 とはいえ、そんな恰好をしている人をよもや人生で二度も見ることになろうとは。

 にこちゃんだけだと思ってたなあ。こんな格好する人は。

「で?そのビラ配りしてる子達って?」

「ああ、もういるよ」

 なんで付いてきてくれたのか、定かではないけれどもしかしたら、津島さんはスクールアイドルに興味があるのかもしれない。

 以前言った居場所に、彼女たちがなってくれたら嬉しいと思うけれど。

 でも、それは僕が作るものではないから。

 僕はもうそっち側には立てないから。

 だから今は些細なきっかけ作りが精々できることで。

 

「よろしくお願いします」

「よろしくおねがしまーす!」

「全速前進!ヨーソロー!」

 

 三人が三人、思い思いのビラ配りをしているのを、僕らは黙ってじっと見ている。

 桜内さんはおどおどしながらも、一枚一枚丁寧にビラを配っているし。

 千歌ちゃんはノリと勢いで他の人を巻き込みながらうまく配っている。

 驚くべきは渡辺さんで、その愛嬌と持ち前の明るさで沢山の人を集めて写真まで取ってる。てかマジですげえな。なにあれ。彼女だけ最早ビラ配りじゃないよ、チェキ会の域だよそれ。

 

「・・・・一枚、貰ってこようかな」

 

「え?」

 ポツリと漏らしたその声は、マスクにぐぐもって良く聞こえない。

 けれど確かに「貰ってこようかな」そう言ったはずだ。

「行ってみるといい。君のその恰好じゃ怪しまれることはあっても、津島さんだとは気づかないよ」

「・・・・うん」

 何か、思うところがあるのか。確かなことは津島さんしか知りえないものの、その変化はきっと良いことだと思うから。

 だから僕は、黙って背中を押して見守ろう。 

「あ、でも先生はどっかに隠れててよ?先生がいたら、生徒だってばれちゃう」

「えー?そこまで神経質にならんでも」

 

「ダメ!」

 

 マスクとサングラスだから詳しい表情はわからないけれど、でも多分膨れた顔をしているのだろう。雰囲気で伝わる。 

「わかったわかったよ。そこらの陰に隠れてるよ」

 あんまりにも押しが強いので、根負けした僕はそう言って津島さんから離れていく。

「それじゃ、頑張ってね。一人で」

「~~~~!!うっさい!」

 顔を真っ赤にして(多分)津島さんは僕のからかいをはねのけてすたこら歩いていく。

 ものの、威勢が良かったのは数歩だけで歩けば歩いていくほど、その足取りは緩く散漫になっていく。 

「あー、完全に不審者だな」

 挙動は不審者のそれと完全に一致しており、街行く人々からは奇怪な目線を向けられている。

 そのことに気付いているのか、それともいないのか、津島さんはそれでも曲がりくねりながらも千歌ちゃんたちのほうに歩いていくのをやめはしない。

「っ!?」

「あっ、すいません」

 と、ここでハプニング。

 千歌ちゃんの元へ向かっていた津島さんだったが、その千歌ちゃんがなにやら桜内さんと話していたかと思うと、急に桜内さんの背中を押したために津島さんとぶつかりそうになったのだ。

 話の内容は大体察しがつく。 

 見ていれば桜内さんが一番ビラをさばけてない。だから、千歌ちゃんが励まして背中を押したのだろう。

 千歌ちゃん、背中を押すってのは何も物理的に押すってことじゃないんだよ?

 今度ちゃんと教えておこう。

「・・・あの、お願いします!」

 その千歌ちゃんに励まされたからだろうか、桜内さんは意を決したように勢いで津島さんの眼前へとビラを突き出した。

「ガルルルル」

 こらこらこらー、獣みたいな唸り声出ちゃってるよー、堕天使なのに。

「あ、あのー」

 当然、そんな反応に困っていた桜内さんと、いくらか逡巡していた津島さんは。

「—————————っ!」

 結局、突き出されたビラを格好も相まってまるで強盗のように強奪し、奪取したことで幕を閉じた。

 うん、まあ、ね。外に出てたことで一歩前進ってことで。内容は問わない、よ?

 最初から上手くいく人なんていないって、かの有名なエジソンも言っていたらいいなって思うし。

「それただの願望じゃない!」

「あ、おかえりー」

「あ、ただいまー。じゃなくて!」

 こうして、取り敢えず一歩前進した津島さんでした。

 

 そんなこんなで、太陽が何度目か地球を回ったころ。

 

 ファーストライブの日がやってきたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、グループ名は決まったの?」

 

 ファーストライブのその朝。

 天気はあいにくの雨模様で強風と雨風が吹きすさぶ、状態で言えば最悪のライブ。

 そんな中でも千歌ちゃんは一人、僕の心配なぞどこ吹く風でいつもの元気な笑顔で言う。

「うん!Aqours(アクア)って名前にしたの!」

「千歌ー、ご飯食べてからもの喋りな」

「ごめん、美渡姉ちゃん」

 へー、Aqoursねえ。

「いい名前じゃん。由来とかあるの?」

「へへ、でしょー?由来はないんだけどねー。三人で浜辺にあれこれ書いてた内の一個だから」

 だから誰が書いたかもわかんないんだ。

 なんて、結構重要なことをなんでもないことのように話す千歌ちゃん。

 雑だなー、なんて思いながら、でもきっと彼女にとっては本当になんでもないことなのだろう。

「はは、そりゃまたらしい決め方で」

 だから僕もただ笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 日曜日の陽気さはどこにもないこの天気の中。

 彼女たちのライブは始まる。

「あ、こっちだよ。書記さん」

「ああ、海田君」

 僕は言われた通り、僕にできる限りの先生たちには声をかけた。

「他の先生は?」

「多分もう、会場にいるんじゃないかな?」

「そ、そう」

 僕と二人なのが気になるのか、途端にソワソワしだす書記さん。今更そんな緊張する間柄でもないのにな。

「にしても、無謀ね。あの会場を満員にしなければならないって聞いたわよ?」

 だからか、ずっとそっぽを向いたまま書記さんは会話を続けた。

「うん、そうだね。無謀だ」

「ミューズでだって、ファーストライブは散々だったんでしょ?」

 言外に彼女たちがそれを超えられるの?そう言っているんだ書記さんは。

 超えられる、とは思わないし、思えない。

 だって僕はまだ彼女たちの本気を見ていないから。

 彼女たちの”本当”を、見ていないから。 

「とにかく見るだけでも、見てみようよ」

 評価なんてそれからだって十分だろ。

「そう、ね」

 大人になると、色んなことに気付いて。色んなことを知ってしまう。

 だから限界が見えてしまう。見えてしまったものを、見えなかったことにして頑張れるほど僕たちは器用には作られていない。

 だから眩しいんだ。彼女たちの輝きが、ただ輝いていられることがこんなにも羨ましい。

 

(津島さんは来るかな?)

 

 僕は直接は彼女に何も言ってない。どころか、あれから千歌ちゃんたちの話は一切出なかった。

 だから、今日津島さんが来るかどうかを僕は知らない。

 それでもなんとなく来るんじゃないだろうか、と思うのは教師のエゴだろうか。

   

「ここだ」

 

 なんて思いつつ、僕は体育館の。

 今日の会場の扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果だけを言えば、体育館は満員にはなっていなかった。

 両手で数えれば足りてしまうくらいの人数で、会場は実に寂しい拍手が木霊している。

 それでも、頑張ったよって。あの時の穂乃果たちよりマシだよって。

 そんなお為ごかしな慰めは、きっと彼女たちには通じない。 

 だって頑張ったから。本当に頑張ったから。

 彼女たちのできることを、彼女たちのしたいことを。精一杯、誰にも文句を言わせずに、口だけで終わらずに。

 だから本当に報われて欲しかった。

 穂乃果たちと一緒で、本気、だったから。

 

「私たち、スクールアイドル!Aqoursです!」

 

 それでも、この人数を見ても、彼女たちは歌うらしい。千歌ちゃんの力強い声が会場に響く。

 そうか、同じ決断をするんだね。十年前の彼女たちと。

 だったら、僕は絶対に目をそらしちゃいけない。他の誰が途中で帰ってしまったって。

 僕だけは、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女たちは歌い始める。

 自分たちで練習した踊りと、自分たちで作った曲を、自分たちでこしらえた衣装で。

 しかし、きっと神様は意地悪な性格をしている。

 歌が盛り上がっていく中盤に差し掛かったころ。金属の嫌な音が会場に響き渡ったかと思うと、彼女たちを照らしていたスポットライトが、音源が、ブツリと切れてしまった。

 雷でも当たって、電線でも切れたのだろうか。

 体育館の天井を打つ雨音と、生徒たちの不安げな声が会場を支配していた。

 最悪、考えうる最悪のシチュエーション。

 十年前よりもそれはよっぽどひどい。

 

 ステージに立っている千歌ちゃんたちも、不安そうにその瞳は揺れてる。

  

 それでも、やがて千歌ちゃんは歌いだした。

 

 アカペラでも、声が届かなくても、機材がなくても。

 

 けれど、そんな空元気だって限界が来る。

 段々と萎んでいく声に、涙が混じる。

 

 ここでやめてもいいんだ。

 そう、言ってしまうのは簡単だ。

 きっと誰も責めはしない。しょうがないと、肩を叩いて励ましてくれることだろう。

 事実、しょうがない。これはしょうがないと、割り切る以外のそれ以外の方法がないくらいの出来事だ。

 だけど。

 だけど。

 そう言って諦めがついてしまうものなのか?

 そうやって肩の力を抜けるものだったのか?

 千歌ちゃんたちにとっての、学校の重みは。

 救われないかもしれない。

 意味がないかもしれない。

 何無駄なことをって、笑われてしまうかもしれない。

 

 でも、そんなのは百も承知でやり始めたはずだ。

 

 そんなのはわかったうえの決断だったはずだ。

 

 だったら、やめてはいけない。例え学校が救われなくたって、例えこれが最後のステージになったって。

 いやだからこそ、歌わなくては、踊らなくては。そうでなくちゃ、スクールアイドルとは呼べない。

 彼女たちはまだ、何物にも成れていないのだから。

   

 やがて千歌ちゃんの歌声も聞こえなくなった時。

 

 僕が「やめるな」と声を出そうとした時。

 

 その輝きはやってきた。

 

 

 




はいどーも!イモトじゃなくてJKと南極に行きたいんだよ僕は!で、お馴染みの高宮です。
よりもい、いいですねえ、久々にはまったアニメです。
それ以外にも今期は良作揃いで毎日がうれしい!たのしい!
ということで次回も、そんな毎日に一花咲かせるべく頑張りますんでどうぞよろしくお願いいたします。 

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