某765プロとは一切関係ありません。
幼稚園の時のことだった。
母親がいないことでからかわれていた俺にはまともな友達がおらず、いつも一人で近所の公園で遊んでいた。
家に帰っても誰もいないことがひどく物悲しくて、家に帰るのは決まって父親が返ってくる日没だった。その日も定位置であるブランコに揺られ、日が沈むのを今か今かと待っていたと思う。
砂場や滑り台、シーソーなどは近所の子供に人気ですぐに埋まってしまうのだ。見ず知らずの人に話しかける勇気も知恵も、いや一緒に遊ぼうという気さえ当時の俺にはなかった気がする。
ただただ、父親が早く帰ってくることを願っていた。
ブランコに揺られぼーっと砂場を見ていると、一人の少女が駆け寄ってくるのに気がつく。
「ねえ、君!今一人?一緒に遊ぼうよ!」
にかーっと、泥を付けた顔をこちらに向ける彼女に、俺はどんな表情を返していたのだろう。
彼女のことなどもちろん何も知らなかった。彼女も俺の事など知らない。
けど、まるで今までもそんな風に誘って遊んでいたような、何年も前から友達だったかのような、そんな錯覚を覚えたのを今でも憶えている。
「うん」
そう答えると、腕を引っ張られいろいろな遊びをした。
不思議だった。そこから流れる時間はあっという間で、今まで苦痛にしか感じなかった公園はまるでテーマパークのように思えた。ドキドキとワクワクと、笑顔で溢れていた。
「ふぅ」
パタン、と分厚くて染みがついているアルバムを閉じる。
「あ!まだ見てたのに~」
「ごめんごめん、ちょっと重くて」
亜麻色のさらさらとした髪に、独特の甘い声。いつも笑顔な幼馴染は珍しくふくれっ面をしながら軽い非難の目を向ける。
「テーブルに置けばいいんですよ」
やれやれといった様子で指摘するのはもう一人の幼馴染
凛とした
「おまたせー、はい!ジュースと穂むら特製おまんじゅう」
部屋の戸をあけて入ってきたのは、最後の幼馴染。
特筆するべき事は・・・ないと思う。強いて言うならいつも元気いっぱいだ。
「何見てたの?」
「昔のアルバム。懐かしくて当時のこと思い出したよ」
そう、昔の事。昔この元気いっぱいの『高坂穂乃果』に救われた時の事。
「私も~。最初穂乃果ちゃんが
「え~、最初連れてきたのことりちゃんじゃなかったっけ?」
「ちがうよ~、穂乃果ちゃんだよ。忘れたの?」
首をかしげ、頭に疑問符を浮かべる穂乃果。どうやら本気で忘れているようだ。
ひどいなぁ。とはいっても俺もついさっきアルバム見てる最中に思い出したのだけれど。
「穂乃果は昔っから穂乃果なのですね」
「そういう海未ちゃんだって、最初はストーカーだったくせに~」
「な!ち、ちがいます!あれは、話しかける勇気が出なかっただけで!」
慌てふためく海未を見てると、思わず笑ってしまう。そういうところは変わっていない。
最初のころはいつも木陰に隠れてこそこそと、遊んでる穂乃果とことりと俺を見ていた。
もう一度アルバムを開く。今度はちゃんとテーブルに置いて。
すると、ことりと穂乃果は横からそして海未は後ろから。顔をのぞかせる。
ペラペラとページをめくっていく。
最初は穂乃果一人。だんだんとことりとのツーショットが増えていく。そして俺が加わりその輪の中に海未も加わった。
こうして並べてみると面白い。ことりは最初、俺のことを警戒していたのか穂乃果を挟んでの写真しかないが、そのうちことりと俺のツーショットも増えていく。
海未は強張った表情から、だんだんと笑顔が、自然体の表情が増えていっている。
「このころ、私たち雪ちゃんのこと女の子だと思ってたよねー」
「ええ!?」
何?女の子?俺の事を?
初耳だった。そうか、そうだったのか池上彰。でもしかたない、女顔とはよく言われるし、今でこそないもののこのころはよく女の子と間違えられたりもした。
「そうそう。一緒にお風呂入って初めて気がついたよね~、おち●ちんついてるって~」
「こ、ことり。殿方の前では、いえ殿方の前でなくともそんなはしたない言葉使うんじゃありません!」
「えー、私は気にしないよ~」
「私が気にするんです!」
「あはは・・」
どうしていいかわからないのでとりあえず苦笑い。
「あ!入学式だ!」
いつの間にかアルバムをめくっていた穂乃果の手が止まる。
見ると、四人で写っている入学式の写真やら、一人一人の校門前の写真やらがあった。
授業参観、遠足、学芸会、合唱コンクール、どれも写っているのは四人でみんな笑顔だった。
「懐かしいなー」
「そうだね」
ほかの二人の顔も感慨深いものになっている。
「雪穂ですね」
今度は、雪穂の入学式。一つ違いの穂乃果の妹。名前が似ていることからすぐに仲良くなった。そこからの写真には人影がまたひとつ増えていて。
「自然教室は確か高山に行ったっけ」
「そうそうスタンプラリーで迷子になったよねー」
「あの時は穂乃果に任せたのが失敗でした」
「仕方ないじゃん!自信あったんだもん」
「まぁまぁ~」
穂乃果と海未が言い合って、それをことりがなだめる。いつもの光景だ。
「そういう海未ちゃんは修学旅行では、わたしとことりちゃんと班がずれて泣いてたくせにー」
「なな、泣いてなんかいません!」
「泣いてましたー」
「泣いてません!」
「泣いてたよー、ねぇことりちゃん」
「うーん、どうだったかな~」
「ほら、もう次いくよ」
助け船を出さないと終わりそうになかったのでさっさと次のページをめくる。
「私は、泣いてませんからね、雪!」
「わかってるって」
ページをめくっていると、服装が中学の制服に変わる。
とたん、みんなの空気が一段階低くなる。
「このころだね、雪ちゃんがいなくなるの」
「うん」
「・・・」
俺は中学に入ってから、父親の都合で、東京から福岡に引越していた。
別れを言うのは辛くて黙って行ってしまったことを今でも後悔している。なぜ自分の事しか考えられなかったんだろうって。
「でも、今はここにいます」
海未がまっすぐな瞳でこちらを向く。
「うん、そうだね。あの時はごめん」
いろいろなことがあり、この2月からまたこちらに引越してきて、今日はその再開を祝してのパーティだった。
「ほんとだよ、もう二度としないでね」
「うん。しない」
・
・
わずかな沈黙と同時にアルバムも終わりを告げた。
「くー、懐かしかったー」
大きく伸びをする穂乃果。
「そういえば話変わるけど、雪君はどこの高校受けるの?」
そう。俺の年齢は中学三年。つまり受験生だ。
「UTX学院」
「え?音ノ木坂じゃないの?!」
「穂乃果。音ノ木坂は女子高です。男子である雪は入れません」
「そうだよ、穂乃果ちゃん。そりゃうちの高校に来てほしいけど」
ことりのお母さんは音ノ木坂の理事長だ。いまどこの高校も生徒数確保が難しい現状、一人でも多く音ノ木坂に来てほしいと思うのは当然だろう。
「ごめんね、UTXは学費免除があるから」
うちの家計はお世辞にも裕福とは言い難い。ただでさえ片親なのに、今は、いや今も父親は働いていない。そんなうちの家計は俺が年齢をごまかしてしているバイトでぎりぎり補っている。
「そっ、か」
しまった。空気を悪くしてしまった。そんな顔させるつもりはなかったのに。
なんだかんだ、三人とも察しはいいほうで、俺の複雑な家庭事情を汲み取ってしまったのだろう。
そんな空気になって俺があたふたしているとふいに戸が開く。
「うわ、何この空気」
「雪穂」
幼げな顔立ちに赤みがかった茶髪がよく似合っている。姉とは違い、落ち着いているイメージがあるのがこの雪穂という女の子だ。あくまでイメージだが。
「ほら、何があったか知らないけどケーキ買ってきたから元気出して」
「わーい、ありがとう雪穂!」
ケーキ一つで先ほどまでの憂鬱さをなぎ払ってしまうあたり、やはり穂乃果だなって思った。
まぁ、和菓子屋の娘だし、洋菓子食べる機会なんてそうそうないんだろう。
穂乃果の笑顔を見てそれだけでも帰ってきた甲斐があったというものだ。
どーも、はじめまして処女です。間違えた、高宮です。こういったところに投稿するのは初めてです。初めてです。はじめてです。大事なことだから三回言いました。
なにぶん処女なので、狭くてきついこともあると思いますが、我慢しないで出してくれると助かります。