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【パラレルワールド・パターンB 地球 年表】
エイジ728
ベジータ王率いるサイヤ人と、ツフル王率いるツフル人が全面戦争に突入。
追い詰められたツフル人は、残された科学力で寄生型生物ベビーを開発。これにツフル王の遺伝子を移植し、ドクター・ライチーと共に宇宙へ放つ。
戦争はサイヤ人が勝利。惑星プラントは惑星ベジータと改名され、サイヤ人は宇宙進出を開始。
エイジ729
漂流していたベビーとライチーの宇宙船にエンジントラブルが発生し、ベビーの入ったカプセルが行方不明になる。
エイジ737
カカロット誕生。ブロリー誕生。
サイヤ人がカナッサ星とミート星を制圧。
フリーザに対してベジータ王が反乱を起こすものの返り討ちに遭い、死亡。
フリーザ、惑星ベジータを消滅させる。
カカロット、惑星ベジータを脱出。
ブロリー、超サイヤ人に覚醒しパラガスと共に脱出。
9月某日
カカロット、地球に到着。孫悟飯に拾われ「孫悟空」と名づけられる。
エイジ738
孫悟空、頭を強打しサイヤ人特有の凶暴性が消える。
エイジ749
9月1日 - 9月9日
悟空とブルマが出会い、ドラゴンボール探しの旅が始まる。
悟空とブルマ、亀仙人、ウーロン、ヤムチャ等と出会う。
冒険の果てに七つのドラゴンボールが揃い、神龍が出現。ウーロンがギャルのパンティーを貰い、ピラフ一味の世界征服の願いが阻止される。
9月10日
銀行強盗を行い逃亡していたランチ、悟空とクリリンに助けられ、カメハウスへ行く。
悟空とクリリンが亀仙人に弟子入りする。
エイジ750
5月7日
第21回天下一武道会開催。激闘の果てにジャッキー・チュンが優勝する。
5月8日
レッドリボン軍のマッスルタワーが、悟空により壊滅する。
5月12日
悟空が桃白白を倒し、レッドリボン軍本部を壊滅させる。
エイジ753
第22回天下一武道会開催。天津飯が優勝を果たす。
5月7日 - 5月9日
ピッコロ大魔王の封印が解かれる。ピッコロ大魔王の手下達が武道家狩りを行う。
亀仙人、魔封波によるピッコロ大魔王の封印に失敗して死亡し、餃子がピッコロ大魔王に殺される。
ピッコロ大魔王が国王の座を奪い取る。
悟空、ピッコロ大魔王を倒し、直後にマジュニア誕生。
悟空、神の神殿へ行き、神龍が蘇える。ピッコロ大魔王一味に殺された者が生き返る。
悟空、神様の下で修行を開始。
エイジ756
5月7日
第23回天下一武道会開催。マジュニアを倒し孫悟空が初優勝。悟空がチチと婚約。
同日、ネオンが誕生。
5月8日
パラガス、ブロリーに制御装置を着けようとするものの思い止まる。
ブロリー、カカロットに似たサイヤ人の生き残りであるターレスと戦い、勝利。暴走の苛烈さが収まり、取り戻した理性がパラガスとの親子愛に目覚める。
エイジ757
孫悟飯、ビーデル誕生。
エイジ761
10月8日
行方不明になっていたベビーのカプセルが地球に漂着。
ベビー、本来の力の1%にも満たない不完全の状態で覚醒。本能のままに孫悟空と交戦し、敗北する。
10月12日
ラディッツが地球に襲来。悟空、ピッコロと手を組みラディッツを倒すも、悟空も共に死亡する。
ベジータとナッパ、地球へ向かう。
10月13日
ネオン、森林で迷子になり、木陰で孫悟空との戦いの傷を癒していたベビーと対面する。以後、ネオンはベビーの手当ての為頻繁に顔を合わせるようになる。
エイジ762
4月29日
悟空、蛇の道から界王星に到着し、修行を開始。
ベビー、ネオンとの交流を経て人間の感情を理解する。
11月2日
悟空、ドラゴンボールにより蘇生。
11月3日
ベジータとナッパ、地球に到着する。
ナッパの強襲により東の都が壊滅。ネオンが致命傷を負うものの、ベビーが機転を利かせ、自らの寄生能力によってネオンに生命維持措置を施す。肉体は回復したが衰弱していたネオンの精神は休眠し、植物状態に。ベビーが主人格となる。
サイヤ人の攻撃を受けヤムチャ、餃子、天津飯、ピッコロが戦死。ピッコロと一心同体の神様も死亡し、ドラゴンボールが消滅する。
ネオンに寄生したベビーが戦線に加わり、ナッパを倒す。戦闘後、ネオンベビーは戦線を離脱する。
遅れて来た悟空がベジータと交戦。激闘の末ベジータは重傷を負い、撤退する。
11月14日
神様の宇宙船の改造が完了。ブルマと治療の終わった悟飯、クリリンがナメック星に向けて出発する。
12月18日
ブルマ達とベジータ、ナメック星に到着。
悟空、カプセルコーポレーションでネオンに寄生したベビーと再会。ベビーはナメック星のドラゴンボールを使い、休眠中のネオンの精神を癒すことを条件に、共同戦線を結ぶ。
12月24日
悟空とネオンベビー、ナメック星に到着する。
悟空がリクーム、バータを倒す。
ネオンベビーがギニューと交戦。ボディーチェンジを無効化すると本体のパワーまでも吸収し、ギニューを倒す。
ピッコロ、ナメック星のドラゴンボールによって生き返り、二つ目の願いでナメック星へ移動。ネイルと同化。
ピッコロと合流した悟空達がフリーザと戦闘開始。
ベジータ、フリーザに心臓を撃ち抜かれ死亡。
ネオン、微かに残った精神でベビーを庇い、死亡。
ベビー、激しい怒りによって本来の力が解放される。
ベビー、悟空と合体し、白銀色の戦士となった悟空ベビーがフリーザと激闘を繰り広げる。
界王の機転により、ネオンやベジータ等フリーザ一味に殺された者が、地球のドラゴンボールにより生き返る。
ナメック星のドラゴンボールの三つ目の願いで、ナメック星に居る悟空ベビーとフリーザ以外の全員が地球へ強制転移される。
最長老がムーリをナメック星の次期最長老に指名し、寿命により死亡。
爆発寸前のナメック星では悟空ベビーがフリーザを倒し、悟空の制止を振り切ったベビーがフリーザにとどめを刺す。フリーザ死亡。
悟空とベビーは宇宙船で脱出し、消息不明になる。
エイジ763
ネオン、幼くして天涯孤独の身になったことを哀れんだチチに招かれ、孫家で暮らすようになる。
歳が近いこともあり、共に暮らしている中で悟飯と打ち解けていく。
5月3日
ナメック星のドラゴンボールによりヤムチャ、天津飯、餃子が生き返る。
9月10日
ナメック星のドラゴンボールにより行方不明になっていたベビーと悟空が地球へ帰還する。
ネオン、ベビーと再会し、孫家を離れてベビーと共に東の都の跡地で暮らし始める。
ナメック星人が新たな星に移住する。
10月某日
クウラ一派が地球へ襲来。
悟空、仲間を傷つけられ、地球を滅茶苦茶にされた怒りによって超サイヤ人に初覚醒。クウラを圧倒し、太陽へと吹き飛ばす。
某月某日
セルが乗ったタイムマシンが到着し、セルは地下に潜る。
宇宙に漂流していたクウラがビッグゲテスターと接触。メタルクウラとして蘇る。
エイジ764
メタルクウラ、ビッグゲテスターと共に地球へ襲来。
悟空とメタルクウラが交戦。無限に増殖するメタルクウラの謎を解明したベビーが、悟飯達と共にビッグゲテスター内部へと侵入し、ビッグゲテスターのエネルギーを根こそぎ吸収する。
メタルクウラ、壊滅。ビッグゲテスターのエネルギーを吸収したことによって自壊の恐れがあったベビーは、ネオンの提案によりネオンに寄生することで自壊を防ぐ。
ネオンの負担を減らす為にベビーが極限まで自らのエネルギーを封じ込めたことにより、ネオンベビーは戦闘能力を失う。
メタルクウラ本体、悟空にとどめを刺され死亡。
8月某日
コルド大王が地球へ襲来するものの、未来から来たトランクスに倒され死亡する。
悟空、トランクスとの会話で三年後の未来に恐ろしい二人組が二組――人造人間17号と18号、伝説の超サイヤ人ブロリーとパラガスが現れることを知らされる。
悟空、トランクスから心臓病の特効薬を受け取る。
某月某日
戦士達がそれぞれ人造人間と伝説の超サイヤ人に備えて修行を開始。
ベジータ、自分への怒りで超サイヤ人に覚醒。
エイジ766
現代トランクス誕生。
エイジ767
5月12日
人造人間が出現。悟空が心臓病で倒れる。
ドクター・ゲロ、人造人間17号と18号に殺害される。
セルが出現する。
ピッコロと地球の神が融合する。
5月15日
ベジータとトランクスが、精神と時の部屋に入る。
悟空の心臓病が完治する。
5月16日
ベジータ、トランクスと入れ替わりに、悟空と悟飯が精神と時の部屋に入る。
セルが17号、18号を吸収し、完全体に進化する。
5月17日
伝説の超サイヤ人ブロリーとパラガスが、共に地球へ襲来。
ブロリー、地球で最も強い気を追ってセルと対面、交戦に入る。
セル死亡。
パラガス、地球のどこかに居るベジータを誘き出す為にテレビ局に乱入し、地獄に行っても見られない殺戮ショー「ブロリーゲーム」を行うことを全世界に告知する。
5月19日
ネオンとベビー、パラガスとブロリーと対面し、「復讐」について語り合う。
5月26日
ブロリーゲームが始まる。
悟空、ブロリーの一撃から地球を庇い、死亡。
悟飯、超サイヤ人2に覚醒。ブロリーを倒す。
しかしとどめは刺さず、彼らと同様にサイヤ人に恨みを抱いているネオンとベビーの生き方を語り、復讐の無意味さを説く。
パラガス、ブロリーと共に二人用のポッドに乗り込み宇宙へと脱出。
世間には、ミスター・サタンがブロリーを倒したと報道される。
5月27日
悟空の葬式が行われる。
トランクスが未来へ帰る。悟飯も同行し、未来のブロリーを倒す。
某月某日
孫悟天誕生。
エイジ771
4月1日
地球の神デンデの成長によって、ドラゴンボールがパワーアップする。それによって、蘇生の一年制限が解除される。
ネオン、ドラゴンボールに願い、エイジ762年の11月3日に殺された人間を悪人を除いて生き返らせる。
東の都に住んでいたかつての住民達が生き返り、ネオンが家族にベビーを紹介する。
4月3日
ドクター・ミュー率いるツフル人の生き残りが帝国を作り上げ、地球へ襲来。ベビーとベビーの器であるネオンを新たなツフル王として迎え入れる。
ベビー、ツフルの科学力により真の力に目覚める。ネオンと同化し、ビッグゲテスターから取り込んだエネルギーを制御出来るようになったことでメタルベビーへと進化する。
ネオンベビー、自身に課せられた使命に葛藤しながらも、東の都とネオンの命を守る為にドクター・ミューの企てたサイヤ人絶滅計画に従い、ベジータを倒す。
ネオンベビー、幼い悟天とトランクスの命を狙うものの悟飯に阻止される。
ドクター・ミュー率いるツフル軍はピッコロ達の活躍により崩壊するが、ミューが死の間際にハッチヒャックを生み出し、地球は窮地に陥る。
ネオンベビー、悟飯の説得によりツフル軍を離反。ハッチヒャックを自らの手で葬り、ベビーはネオンと分離。自分探しのために宇宙へと旅立ち、ツフルの怨念に終止符を打った。
4月4日
ネオン、ベビーとの同化で得たツフルの知恵を利用し、「ツフルコーポレーション」を立ち上げる。以後、ツフルコーポレーションは東の都復興の象徴となる。
エイジ774
4月7日
悟飯がオレンジスターハイスクールに編入する。
――
――――
――――――
地球で最も大きな企業は? と問えば、大抵の人間は「カプセルコーポレーション」と答えるだろう。
人々の生活の中には今や誰もが愛用している「ホイポイカプセル」が組み込まれているように、カプセルコーポレーションはその突出した技術によって数々の業績を打ち立てていた。
そんなカプセルコーポレーションの本社が構えられている西の都はこの地球で最も栄えている都市と言っても過言ではなく、街を行き交う人々は常に賑わっていた。
西の都にカプセルコーポレーションあり、と――その存在は、まさに数十年前から続いている西の都発展の象徴とも言えるだろう。
東の都にもまた、そう言った町を象徴する大企業の存在があった。
企業の名は、「ツフルコーポレーション」。
起業したのは、たった三年前のことである。しかしこの会社がその三年間で叩き出してきた業績はまさに桁違いのものであり、今やこの会社は人々に無視出来ない存在感を放っていた。
ツフルコーポレーションでは日常用品はもちろん、乗用車や玩具にコンピューターゲームの製作、アミューズメントパークの経営、さらには宇宙船及びスペースコロニーの建造までもが推し進められている。そのどれもが大半の企業のそれを凌駕しており、カプセルコーポレーションと同様に、時代の最先端を行く大企業として世に君臨していた。
そんな彗星のように現れては爆発的な業績を上げ、人々の生活に浸透しているこの会社だが……さらに驚くべきは社長の若さであろう。
社長の名はネオン。齢は十七歳で、普通ならばハイスクールに通っている年齢だ。
彼女は若干十四歳の身でツフルコーポレーションを起業すると、従来の常識を覆す革新的な技術によって自身の会社を最大手企業にまで伸し上げてみせた。それも、たった三年でだ。そんな彼女のことを多くの人々は稀代の天才として認識しており、東の都の人々などは救都の英雄と持て囃していた。
――しかし、当の本人からしてみれば、それはまっとうな評価ではない。
それは、自身への謙遜や自信の無さから来る卑下した感情ではない。
自分がこの会社で為してきたことが自分の才覚によるものではないことを、彼女は他の誰よりも理解していたからだ。
ツフルコーポレーションは、確かに従来の数世代先を行く性能の宇宙船や乗用車、ロボットの開発を行っている。しかし、その開発に至るに当たって活用されたのは彼女自身の頭脳ではなく――かつて、彼女と共に生きていた「友」のものだった。
宇宙最高峰の科学技術を持っていたプラント星、そこに住まうツフル人の王――その知恵を宿した人工寄生生命体、ベビー。
彼との同化が、かつては普通の少女だった彼女に膨大な知恵をもたらしてくれた。彼女の持つ知恵の全ては、彼から受けた「貰い物」に過ぎなかったのだ。
これは、そんな「貰い物」を本来の歴史とは違った方向へ生かすことになった少女の物語。
本来ならばあり得なかった「心優しき復讐鬼」によって生まれた、もしもの物語である――。
ツフルコーポレーション本社のビルでは都内外から集まってきた多数の会社員達が働いており、社長であるネオンもまたこの日も作業に勤しんでいた。朝から働き詰めて早六時間、時計を見れば既に昼の十二時を回っており、胃の中は少々空腹感に苛まれていた。
「社長、そろそろ休憩しませんか? とっくに昼休みの時間過ぎてますよ」
ここまで休憩も無しに仕事に没頭してきたネオンであるが、そんな社長の様子を見かねてか同室で書類整理に勤しんでいた秘書が彼女にそう進言する。
秘書としてはもっと早くに言い出したかっただろうに、社長を置いて自分だけ休むわけにはいかないという気遣いか。自分より大分年上の秘書に気を遣わせてしまったことに申し訳なく思いながら、ネオンは自作したツフル製PCを操作する手を休めた。
「……そうですね。すみません、バイオレットさん。わざわざ私のペースに付き合わせてしまって」
「まあ、今に始まったことではありませんし。それより私達もお昼にしましょう。コールしておきますね」
「ありがとう」
かつてベビーと同化したことによって強化されているこの身体は、普通の人間よりも遥かに頑丈で燃費も良い。その為に労働効率は常人の何百、何千倍も優れていると言っても過言ではないが……付き合わされる他の社員達はそうではないのだ。ツフルの技術を贅沢に使って作り出したサポートメカなども社内には多々あるが、それでもネオンのペースに着いていける社員などは、選りすぐりのエリートたるこの秘書を含めても皆無であった。
「……本当に、いつもありがとう。バイオレットさんが居なかったら、きっとこの町もここまで復興出来ませんでした」
「お礼は受け取りますが、復興という段階はとっくに過ぎているのでは? 巷では東の都は未来都市とか呼ばれていますよ」
「まだまだこれからだよ。この町も、私達も。もっともっと、人々から愛される町にならなくちゃ……」
デスクから離れ、ネオンは窓際に寄って眼下に広がる町並みを見下ろす。
港に商業区、居住区に遊園地やスタジアムと言った施設を一望出来るこの景色は控えめに言っても絶景であったが、彼女はまだこの景色に満足はしていない。
何故ならば彼女が目指しているのは現状のさらに先にある――地球とツフルの文明が融合した、最高の町環境なのだから。
――ここは、東の都。
二人のサイヤ人に襲われ、辺り一面が焦土と化したのも既に十一年前のことだ。しかしその傷痕は今やどこにもなく、町の中央部には復興の象徴とも言える「ツフルシティ」が広がっていた。
この町にそんな名前を付けたのは、一体誰だったろうか。
……三年前のことを懐かしいと思うほどに、ネオンにはかつての出来事が酷く昔のことのように感じていた。
「眩しい向上心ね。貴方の下で働いていると、つくづく昔の自分が馬鹿馬鹿しくなるって言うか」
「レッドリボン軍、ですか」
「そう、なんであんな無駄な時間過ごしちゃったかなってさ。あんなに忠誠してたのに、忠誠していた男の願いは世界征服じゃなくて「身長を伸ばしたい」だったのよ? あれを知った時、さっさと脱走してホントに良かったわ」
「はは……」
一度は滅ぼされ、何もかもが消えてしまったこの町。
しかし今は、ドラゴンボールとネオンのかつての仲間――悟飯達のおかげでこうして活気に溢れた町並みを取り戻している。
ドラゴンボールによって、かつて殺された人々はその当時の姿のままこの世に蘇ることが出来た。かく言うここに居るバイオレットという女性もその一人だ。
ただ、元に戻ったのはサイヤ人に殺された人々の命であって、破壊された東の都の町は崩壊した状態のままだった。
そこでネオンは自分の手で町を復興させることを決意し、「ツフルコーポレーション」を立ち上げたのが三年前のことだ。
壊された建物を元に戻すには、意外にもさほどの時間は掛からなかった。何故ならば町の復興にはネオンだけではなく、生き返った住民達や悟飯達Z戦士までも協力してくれたからだ。
特に、悟飯達の協力は非常に大きかった。人間を超えた力を持つ彼らには当然ながら重機など必要なく、自らの手足で何万人分もの肉体労働を可能にしていた。孫一家の母であるチチなどは夫が働かないことについて嘆いていたが、彼らが本気で働けば町にどれほどの失業者が溢れ返るかわからないというのがネオンの笑えない想像だ。それほどまでに、彼らの労働力は桁外れだったのだ。
もちろん、頭脳労働はそうもいかなかったが、そちらはベビーの知恵を持ったネオンや町の大人達が協力してくれた。それ以外にも宇宙有数の頭脳を持つタコみたいな科学者が協力してくれたりと、復興は予想以上に捗ったものだ。
今となっては復興した町は元の東の都の活性ぶりを超えて、さらなる発展を遂げた未来都市と化した始末である。現状に満足しているわけではないネオンにとっても、活性化した町の光景は素直に喜ばしかった。
起業当時のことを振り返っているのだろうか、社長秘書のバイオレットが休憩用のソファーにもたれ掛かりながら、しみじみと言った。
「今でもつくづく思うものよ……こんな経歴の女を、よくもまあ手元に置いてくれたもんだって」
「過去の経歴を言ったら、私だって似たようなものですから。それに、同じ町で生まれた貴方なら、絶対に裏切らないと思いましたし」
「……眩しいね、社長は。ピュアと言うか、何と言うか……」
バイオレットはかつて、地球最強最悪の軍隊として名を馳せていたレッドリボン軍に所属していた身である。
しかしレッドリボン軍はかの孫悟空の活躍によって壊滅し、バイオレットはその際に脱出し生き永らえた、言わばはぐれ者の身だ。
普通ならば、そんな者を手元に置いておくことはこれから発展していこうと言う会社の為にはならないだろう。しかしネオンはそんな彼女を自らの秘書として雇い、入社させた。
それは彼女がとても優秀な人間で……かつ、同じ東の都出身の者として裏切りの可能性が低いと感じていたからだ。実際、彼女はレッドリボン軍に居た頃に持っていた野心などは軍が壊滅した頃から、とっくの昔に捨てていると語っていたものである。
遅めの昼休みに入った二人の元に、バイオレットが呼んだ用務の者が昼食の弁当を運んできた。
サバの味噌煮弁当――大企業の社長が食べる物としては少々質素ではあったが味の方に申し分はなく、ネオンにとっては家庭的な温かみを感じる良い一品であった。
そんな昼食をテーブルの上で頂きながら、ふとバイオレットが思い出したように言った。
「ああそうそう、社長宛てにお届け物が来てましたよ。ご家族の方から、新しいお洋服ですって」
「またですか……」
「余計な物と一緒に処分されなくて良かったですね」
ネオン宛てのお届け物――名義はネオンの両親からのものだそうだ。
今回は両親からの品物であったが、ネオン宛てに何かが輸送されることはそう珍しいことではない。特に大企業の若社長という立場もあってかコネクションを求めて縁談を求める輩の数は多く、下心見え見えの指輪や宝石と言った高価な品物を贈られることもしばしばある。そう言った物は丁重に贈り返すか、社員達の気遣いによってネオンの手元へ届く前に処分されるかの二択であったが……厳しい検問を通ってネオンの元に来るのは、最近となっては家族や友人からの贈り物ぐらいなものであった。
しかし気のせいでなければその贈り物、週に二回か三回は贈られてきているようにネオンには思えた。その中身はどれも流行りの洋服や服飾品など、このビルに住み込みで働いている年中スーツ姿のネオンには縁の無い品々であった。
そんな品々を頻繁に贈ってくる両親の真意は、娘にもっと女の子らしく着飾ってほしいという願いか、それとも自分達が親らしく娘に構ってあげたいからか……恐らくは、両方だろう。
そのことには気づいているのだが、上手く甘えることが出来ない。それが、ネオンの不器用な性分であった。
「私から言うのもなんですけど、もっと家に居る時間を増やした方がいいんじゃないですか? 絶対寂しがっていますよ、ご両親」
「……そうだね。今日は家に帰ることにします」
思えばここ数か月、まともに実家に帰っていなかったものだ。
家族も同じ東の都に住んでいるのだから、ネオンが会おうとさえ思えば簡単に会えるだろう。しかしそれ以上に最近のネオンは仕事に付きっ切りになることが多く……好きでやっているからこそ質が悪いと言うべきか、中々仕事で帰らない娘のことを両親は心配しているようだった。
家族に要らぬ心配を掛けることは、ネオンにとっても本位ではない。
三年前、新たな神様であるデンデの成長と共にパワーアップしたドラゴンボールの力で、東の都の人々は全員生き返った。
その時のネオンは、人目もはばからず喜びに涙したものだ。もう二度と、会えないと思っていたから。
十一年前にこの世を去り、三年前に生き返ったネオンの家族。彼らと昔のように穏やかな日々を過ごすことも、思えば選択肢の一つだったのだろう。
しかしネオンは、こうして自分で会社を立ち上げ、一企業の社長として表舞台に上がることを決意した。
ツフルの名を冠する企業によってその名を広め、その技術を世界へと刻み込んでいくことは、かつて共に空白の八年を生き、共に戦った「友」へのネオンなりの恩返しだったのだ。
(ベビー……今君は、どうしてる?)
歳相応に着飾ることをしなくなったのは、宇宙に旅立った「友」への無意識的な負い目だったのかもしれない。尤も彼が今ここに居たら、そんなものは要らんと笑い飛ばしていたかもしれないが。
最大の友にしてもう一人の家族である彼の存在を脳裏に過らせながら、昼食を終えたネオンはバイオレットが「家族からの贈り物」と言っていた紙袋を開け、その中身を両手に広げた。
「これは……」
「あら、可愛いじゃない。中々良いセンスしているわね、社長のご両親」
「……元ファッションモデルなんですよ、お母さんが。昔はよく、着せ替えさせられてたっけ……」
ネオンの好きな空色をした、いかにも女の子らしいヒラヒラしたミニスカートである。
紙袋の中にはそれと組み合わせることを前提にしたようなデザインの衣類が収まっており、丁寧にも上下の下着まで揃っていた。そちらの色や形状は黙秘させてもらうが、どれも娘に綺麗に着飾ってほしいと願う、両親の親心が見える品々だった。
「でも、ミニスカートか……今の私には、ちょっと抵抗があります」
「なーに言ってるんですか。社長なんかまだ十代のピチピチギャルなんですから、色々着飾らないと損ですって。せっかくいい素材持っているんだからさ」
「ピチピチギャルって……古いですね、バイオレットさん」
「おだまり」
履いてみれば、このスカートの長さは膝上15センチというところだろうか。昔はこう言った可愛らしい物をよく身に着けていたものだが、今のネオンは自分の脚や肌を露出することに少々抵抗があった。
と言うのも、数年前まで異星人と戦ったり殺し合ったりしていた自分に、このような少女らしいファッションは似合わないと思っているからだ。
バイオレットからはそんなことはないとお世辞を貰ったりもしたが、やはりネオンとしてはあまり気が乗らなかった。
「それを着て会いに行ってみたら、あの孫悟飯だってイチコロですよ」
「……なんで、そこで悟飯が出てくるんですか」
「初々しい顔しちゃって。この期に及んで白々しいことで」
「……からかわないでください」
唐突に出てきた友人の話に、ネオンは一瞬だけ言葉が詰まる。
孫悟飯――ネオンにとってその存在は、言葉に語り尽くせないほど大きなものだ。
自分を救い、自分を導いてくれた心優しき英雄――数多の悪から地球を守った、本当の英雄。
彼はその身体能力を全力で発揮してこの町の復興にも尽力してくれた為、バイオレット含む町民達は皆、彼とは接点があった。特にバイオレットからしてみればかつて自分が所属していたレッドリボン軍を滅ぼした少年の息子だと知り、因果を感じていたようだがそれはまた別の話である。
「実際、そろそろあの子にも会ってきた方が良いんじゃないんですか? しばらく会ってないんでしょう?」
ネオンは自身の家族と同様に、彼とはしばらくの間会っていない。
具体的に言えば、丸一年ほど会っていなかった。その理由は単純で、ネオンは会社の仕事で忙しく、悟飯は高校受験の準備で忙しかったからだ。そんなこんなでしばらく会っていなかったら、気が付けば一年が過ぎていたというのが二人の関係だった。
「じれったい、ホントじれったい」
……とは、そんな二人の関係を指したバイオレットの言葉である。
その言葉の意味にあえて踏み込まなかったネオンは、苦し紛れの微笑を返しながら言った。
「私には仕事があるし、彼も今年から高校生。もう前みたいに、気軽に会える関係じゃありませんよ」
「その点瞬間移動って便利よね。あれがあれば休憩時間にだって会えるんだもの。人の目を盗むのも簡単よね」
「っ……それは彼の邪魔になりますって」
「邪魔扱いなんてされたことないくせに。チチさんなんてこの間、ネオンさんはいつ会いに来るだって私の方にまでせがんできたわよ?」
「うっ……」
「真面目なのは、社長のいいところだと思いますけどね」
丸一年会わなかったのはやむを得ない事情があったからだというネオンの言い分に対し、バイオレットがニヤニヤと頬を緩めながら反論する。
ネオンの言い分を体の良い言い訳だと論破した上で、彼女の今後の動向を何か期待しているような素振りだった。それはバイオレット以外の大人達にも言えることだが、彼女らは何故か積極的に自分と彼を引き合わせようとしているのだ。その際には皆、決まって今のバイオレットのようなにやけ顔を浮かべているものだ。
「社長みたいな人のこと、世間的には真面目系ヘタレって言うみたいですよ」
「へ、ヘタレ……」
しかし丸一年会わなかった上での再会には、ネオンの方にもスケジュールの問題や心の準備と言うものがある。彼女らの要求を素直に受けないのは、ネオンとしてはれっきとした理由があってのことだった。
しかし……ヘタレ呼ばわりには物凄く思い当たる部分があり、ネオンは床に突っ伏しそうになった。
「まっ、華の十代をどう生きるかは自由ですけど、悔いのないようにした方が良いと思いますよ」
「……悔いのないように、ですか」
「私のは今にして思えば悔いだらけの十代だったけど、貴方はあと三年もあるんですから。私も社長の真面目なところは好きですが、あんまり大人しくしていると高校の女子高生に悟飯君取られますよ? あの子、絶対モテるだろうし」
「……彼が誰を選んでも、誰に選ばれても……結局は彼の気持ち次第ですよ」
「それはそうだ」
時にこの秘書は、自分よりも豊富な人生経験に裏打ちされた深い言葉を言ってくるから油断ならない。彼女としてはそこまでの気は無いのかもしれないが、ネオンの心には彼女の言葉が妙に引っ掛かった。
その引っ掛かりを紛らわすように、ネオンの手は衣類の入っている紙袋のさらに奥へと向かっていく。すると、その指先に衣類ではない別の感触が伝わってきた。
「ん……これ……」
それは、一枚の紙きれだった。
掴んで取り出してみると、その面には「ツフルランド ペア招待券」などと、見覚えのあるプリントが施されていた。
「あら、遊園地のペアチケットじゃないですか。しかもうちの系列の……社長ならチケットなんてなくても顔パスで入れるのに、律儀なご家族ですね」
「……お節介なんですよ、うちの両親は。大人料金だから、高かっただろうに……」
「それだけ愛されているってことです。それでそれで、社長は誰を誘うんですか?」
「誰って言われても……」
ツフルランドとは、今年度の始まりにオープンしたツフルコーポレーションが経営しているアミューズメントパークである。施設の中には定番のジェットコースターや観覧車は当然として、これもツフルの科学技術をふんだんにあしらった、「宇宙一の遊園地」を目指して作られた数々のアトラクションが至るところに配置されている。
このツフルコーポレーションにとっては収入源の一つであり、「子供好き」という個人的な事情もあってか社長のネオンが直々に企画し、最も気合いを入れて生み出した施設でもあった。
その評判は施設のオープン以来すこぶる好調であり、入場者の数が後を絶たず、今はやむを得ず入場制限も設けているほどだ。
そんな遊園地の経営者とも言えるのがネオンの立場であったが、当のネオン自身がこの遊園地に入場したことは一度も無かった。おそらくはそんな自分に対してまた気を効かせてくれたのだろうと、ネオンはこれを贈り物の中に封入した家族の気遣いに苦笑するばかりだった。
しかしこのチケットを見た瞬間、バイオレットの方は違う方に目が向いている様子だった。
「バイオレットさん、なんだか楽しそうですね」
「それはもう、おばさんこういうの大好きなの。ラブコメの波動を感じるからねぇ」
「……少し、意外です」
「結婚すると、他人の色恋沙汰が楽しく見えるものよ。社長のは特にね」
バイオレットは遊園地のことよりもネオンがこのペアチケットを誰と使うかの方が気になっているようで、普段の凛とした印象とは違った快活な笑みを浮かべていた。
レッドリボン軍に居たという経歴から想像出来る通り、彼女の性格は一般的な女性よりも苛烈で男勝りであり、ネオンとしては巷の女子高生のように他人の色恋沙汰に関心を寄せるタイプではないと思っていただけにこの反応は少々意外だった。
「こちらとしては貴方のことは、歳の離れた妹というか、娘みたいに思っていますからね。そんな身内がどんな男を引っ提げてくるのか、興味があるのは当然でしょう?」
「理屈はわかりますが……私には無理ですよ、このチケットを使うのは」
ネオンはこの仕事において秘書として、幾度となく自分を助けてくれる彼女のことを姉のように慕っていただけに、彼女からも家族のように思われていた事実を今初めて知って不覚にも泣きそうになったが、やはりこの人は他人の色恋にニヤニヤしたいだけだと気づき、その涙を引っ込める。
しかし悲しいかな、実際問題ネオンはこのチケットを自分の為に使用する気はなかった。
したくとも、ツフルコーポレーションの社長という立場に就いている以上、遊園地に遊びに行っている暇はないと考えていたのだ。
「私には行ける時間が……」
「あるでしょ。っていうか、この際私が時間を作りましょう」
「え……」
時間が無い――そう続けようとした言葉を、バイオレットが遮る。
ショートカットに切り揃えられた紫色の髪に、苛烈な印象を与える凛とした眼差し。先までの笑みを引き締めた彼女は、真剣その物の表情でネオンを見据えていた。
「一日ぐらい、私が代わってあげますから、社長はどうか好きな人とゆっくりしていってください」
「バイオレットさん……」
それはバイオレットの、ネオンに向けた気遣いであった。
秘書という立場からこの会社で誰よりも長く彼女の仕事ぶりを見てきたバイオレットは、彼女の努力を誰よりも知っているつもりだった。
ベビーとかいう奴から、人を超えた力を貰った。
ベビーとかいう奴から、人を超えた知恵を貰った。
しかし彼女は、ネオンはまだ十七歳の小娘に過ぎないのだ。
本当ならば彼女もまた、孫悟飯と共に学校に通っていれば良かった。
身内贔屓になるが、彼女の容姿は非常に整っている。高校にでも通えば男共は放っておかないだろうし、本人の気質も合わされば充実した学校生活を送れた筈だ。
しかし彼女は、そんな可能性を自分の手で捨てた。一度死んだ自分達を生き返らせ、東の都の復興にも尽力し、この会社を立ち上げ、手に入れた力の全てを社会貢献と町の発展に尽くした人生を送っている。
――生き急ぎすぎだと、バイオレットは思った。
ツフルの文明を歴史に刻み込むだの、ベビーへの恩返しだの、いつだったか彼女はそんなことを孫悟飯に語っていたのを聞いたことがある。しかし、それにしたって彼女はまだ若いのだ。
町の復興や発展など、自分達大人に任せておけばそれで良かった。
彼女の才覚ならば、今行っていることとて二十代後半や三十代から始めても遅くはなかったと思っている。
起業以来異常な業績を叩き出しているツフルコーポレーションは、たった三年で今やカプセルコーポレーションと双璧を為す大手企業へとなりつつある。その異常すぎる発展のペースには金儲けの喜びと同時に、近い内に大きなしっぺ返しを受けるのではないかと気が気でなかったのである。
特に、彼女の体調が心配だった。いかに丈夫な身体を持っているとは言え、彼女のオーバーワークが祟って病気にでもなればと思うと、バイオレットには目も当てられなかった。
「社長が全然休んでいないこと……いくらなんでも頑張りすぎだって、私もそうですけどうちの社員はみんな気にしているんです」
今は自分が秘書に就いているからこうして休憩時間なども挟むことが出来ているが、そのうち年単位で飲まず食わずの超労働をしかねないのがこの社長だ。
年々雰囲気が大人っぽく変わり、元々凛々しかった顔立ちには若い頃の自分にも劣らない気品が漂い始めている。しかしそんな社長の目の下には、彼女の睡眠不足を象徴するクマがあった。
ビルに住み込みで暮らしていることを良いことに、徹底的なサービス残業を行っていた良い証拠だ。そんな彼女の姿を、バイオレットは姉貴分として咎めずには居られなかった。
「そんなクマなんか作って……せっかくの顔が台無しじゃないですか」
「……そんなに、酷い?」
「ええ。いくら身体が丈夫だからって、ちゃんと睡眠は取らないと駄目です」
彼女と出会ってから二年になるが、バイオレットは既に彼女の人物像をおおよそ把握出来ていた。
一言で言うと、彼女は「不器用」に尽きる。
自分の人生に明確な目標を持ち、その為に全力で突き進もうとしているのは良い。しかし突き進んでいる最中には絶対に寄り道をすることがなく、仮にもっと楽な道を見つけたとしても決して立ち寄ろうとしない。
どこまでも直線的な人生を理想としている節があり、それは一見純粋な在り方にも見えたが……バイオレットにはそんな彼女が損をしているように見えた。
価値観の押し付けになってしまうかもしれないが、バイオレットには彼女のしたがっている人生に面白みを感じなかったのである。
「確かに、私達は貴方のその頑張りのおかげで生き返ることが出来ました」
少なくとも、十代の人生など回り道寄り道をしてなんぼだと――盗んだバイクで走り出すどころではない経歴を持つバイオレットは思っていた。
そして、何よりも。
「社長のおかげで私達の故郷は……東の都は、ここまで大きな町になりました」
だから、と――バイオレットは彼女に忠誠を置き、その幸福を心から願っていたのだ。
「あまり背負わないでください。貴方の家族はもちろん、私も心配します」
「……すみません……」
「ええ、反省してください」
ツフルコーポレーション社員の全員を代表して言った、バイオレットの切なる思いだった。
全く自分もぬるい人間になったもんだと、バイオレットはかつての自分では考えられない心境の変化に苦笑を浮かべる。
秘書の心配に申し訳なさそうな表情をする彼女の顔はとても大企業の社長とは思えない頼りないものだったが、そんな社長だからこそ味方で居たいものだとバイオレットは思った。
そしてバイオレットはそんな彼女の表情に良いことを思いついたとばかりに、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「罰として社長は、近いうちに休みを取って、悟飯君を誘ってデートに行くこと! でなければ許しません」
「だから、なんで悟飯が……」
「貴方だって、会いたいでしょう?」
「そ、それは……だってさぁ……」
この不器用で、妙な部分で臆病な社長には……このぐらい無茶苦茶な理屈で押し通すのが丁度良い。
彼女の方も先ほどの説教が効いたのか、取り繕った反論の言葉もどこか弱々しかった。
「……わかりました。わかりましたよ……っ」
「よろしい」
そして観念したようにネオンは苦笑し、バイオレットは心の中でガッツポーズを取る。
バイオレットさんには敵わないよ……と呆れたように呟くネオンだが、バイオレットも伊達に三十年以上生きていないのだ。
彼女が如何に優れた能力を持っていようとも、バイオレットからしてみればまだまだ子供だった。