僕たちは天使になれなかった   作:GT(EW版)

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【注意】

 ここから先は一人称視点のIFストーリーになります。本編は前話で完結しているので、ここから先は蛇足に感じるかもしれないのでご注意ください。
 あと、人によっては恋愛要素に感じるものがあるかもしれませんのでさらに注意を。


番外編 DANDAN心魅かれてく
危険な三人! ヤンデレ戦士は眠れない


 

 

「ようネオン! オラと一緒に地球行こうぜ!」

 

 藪から棒に悟空さんからそんな話をされた時、反応を返すまでしばしの時間を要した私は決して悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あれから、三年が過ぎた。

 

 死後、執行猶予として延々と修行の日々を送っている私だけど、これがまたとても楽しい。

 死ぬ前までの私は武道家ではなかったけれど、身体を動かすこと自体は小さい頃から好きだったんだ。身の程知らずにもサイヤ人打倒の為に無意味なトレーニングをしていた時期だってあったし、戦いの為に修行を行うことはこれが初めてというわけでもなかった。

 ただまあ、その質の違いは比べるまでもないけどね。

 この大界王星には人外の力を持った達人たちがゴロゴロ居る。みんながみんなってほどじゃないけれど、星の一つや二つを壊すことが出来る人間すらもここではそう珍しくなかった。

 

 ……そして今の私もまた、そんな彼らの中に混じって遜色の無い力を持っている。

 

 悟飯の力添えのお陰で、私はベビーと分離して一人のネオンに戻ることが出来た。そんな私だけど、分離したこの身体が持っていた力はベビーに同化される以前の私とは明らかに違っていた。

 

 私は、ベビーが持っていた力の半分を引き継いでしまっていたのだ。

 

 ベビーと一度同化し分離したことによってか、私はベビーからその力を奪い取る形で強くなってしまった。我ながら、あまりにもインチキなパワーアップだと思う。あの時、悟飯と一緒に「かめはめ波」を撃つことが出来たのもその為だ。

 だから今の私が持っている力は大半がベビーの物であって、ここで修行している達人たちのように絶え間ぬ鍛錬による正しい手段で手に入れたものではない。そのことについて何も負い目が無いのかと聞かれると……最初は大有りだった。

 だけど結果的に私がそんな自分を受け入れることが出来たのは、周りの達人たちに掛けられた言葉が大きいだろう。

 

『別にいいんじゃねぇか? ピッコロだって神様とかとくっついて強くなったって言うし。それに、おめえはその力だけに頼るんじゃなくて、ちゃんと自分の力で強くなろうとしてるしな』

『寧ろ俺は、その程度のことでお前が後ろめたいと感じているのが気に入らんな。武道家を見くびるな。俺達が今更、そんな小さなことを気にする連中だと思うか?』

『同じ人間でも、種族や才能によってベースとなる強さに差があるのは当然のことだ。生まれながらに高い戦闘力を持つ者も居れば、そうじゃない者も居る。問題なのは持って生まれたその力を、君自身の努力でどこまで伸ばせるかだと私は考えている。どんなに優れた素質も、怠惰に甘えればやがては腐り果てるものだ。

 君がその力を得ることになった経緯はどうであれ、今現在君が修行し、己を高めようとしている事実には変わりはない。何があっても、それだけは胸を張って誇れるものだと思うぞ?』

 

 生前にインチキで力を手に入れたことが申し訳なくて、あの世でも特に名高い達人である悟空さん、パイクーハンさん、オリブーさんの三人に対して私のことをどう思っているのか訊ねてみたところ、三人からはそれぞれそんな言葉が返ってきた。

 彼らほどの達人にそう言われては、私も自分の力を受け入れざるを得なかった。特に流石は地球の神話になっているほどの人物か、オリブーさんの意見は痛く胸に響いたものだ。

 

 

 ……って、あれ? 何の話をしていたんだっけ?

 

 ああ、そうだった。悟空さんから聞いた話があまりにも衝撃的だったから、今回の件とは何ら関係の無い私の三年間の思い出の一片を回想してしまったのだ。

 

 

「……今、なんて?」

 

 私は目の前に立つ特徴的なヘアースタイルのおじさん――悟空さんに対してもう一度聞き返す。これがもし聞き間違いでなければとすると、目上の人に対する敬語も忘れてしまうほど衝撃的な言葉だったのだ。

 悟空さんはそんな私に対して、普段通りの軽い調子で応える。

 

「おう、オラと一緒に地球行こうぜ」

 

 死者が、生者の世界である「この世」へ行こうというのだ。

 そんな話を友達とどこかへ遊びに行くようなノリで持ちかけてくる悟空さんの姿に、私は悟空さんの悟空さんたる所以を垣間見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 地球には、「占いババ」という人間が居る。本名は悟空さんにもわからないらしい。

 御歳500を超える彼女は砂漠の宮殿に居を構えていて、的中率百パーセントの占いをする凄腕の占い師なのだそうだ。

 そんないかにも魔法的な職業に就いている占いババ様だけど、実は格闘技の試合を見るのが大好きで、占いの代金を払えないお客さんには自分が用意した五人の武道家と試合をさせるのが彼女の趣味らしい。

 そこだけ聞けば高すぎる年齢以外はちょっと風変わりな占い師ってだけなんだけど、彼女の凄いところはそれだけではない。

 

 なんとその占いババ様、閻魔様や界王様、大界王様とも知り合いなのだ。彼女はこの世とあの世に行き来することが出来て、その力を使ってあの世に居る死者の魂を一日だけこの世に呼び戻すことが出来るんだって!

 

 コホンッ……それで、悟空さんは彼女の力を使って一日だけこの世に帰るのだそうだ。

 そして今年地球で開催される「天下一武道会」に出場するんだって話を、悟空さんは一人で修行を行っている私を呼び止めて話してくれた。

 それは、とても良いことだと思う。

 悟飯もお父さんの悟空さんとは会いたがっているだろうし、悟天もチチさんもそうだ。一日限りとは言え彼と会えるのなら、みんなが嬉しい筈だ。

 

「みんな、喜ぶでしょうね……」

 

 孫悟空という人は、ただ力が強いだけではない。私にとっては彼の息子である悟飯にも言えることだが、彼らには英雄として持ち合わせている、他の人間には無い特別な魅力があるのだ。人を心から幸せにしてくれるような、そんな魅力が。

 お父さんと会えて喜ぶ悟飯と悟天の姿が目に浮かぶようだ。死に別れた父と感動的な再会を果たす親子の光景を想像すると、私の口元は自然と綻んでいった。

 しかしそんな私に対して、悟空さんは不思議そうに首を傾げていた。

 

「他人事じゃねぇぞ。おめえも来いよ」

「いや、でも、私は……」

 

 ――そう、彼は私も一緒に来いと仰るのだ。

 あまりにも急な話すぎて、私はこの時無自覚ながらも気が動転していた。恥ずかしながら、どんな言葉を返せば良いのかわからなかったのだ。

 しかし悟空さんの言葉は、そんな私に対して容赦が無かった。

 

「悟飯もおめえも来るって言ったら喜んでたなー」

「え……え? ご、悟空さん、悟飯に私も来るって言ったんですか?」

「おう、おめえもみんなと会いたそうにしてたから、どうせ来るだろうと思って」

「勝手に!?」

 

 何と言う気遣い溢れる配慮だろうか、悟空さんは自分が一日だけこの世に帰ることを悟飯に伝える際、私も一緒に連れて行くと約束したらしい。

 もちろん、私は何も聞かされていない。全て、悟空さんが勝手にしたことだった。

 だけどそれが、彼の百パーセント善意から来る行動であることは私にもわかっていた。

 だからこそタチが悪いとも言えるのだが……私は悟空さんに、まんまとしてやられたのである。

 

「なんだおめえ、みんなと会いたくねえのか?」

「いや、そうじゃなくて……だって……私にも色々と、その……心の準備とか……」

 

 彼とて狙ってやっているのではないのだろうが、こちらの本質を的確に打ち抜いてくる悟空さんの口擊に私は理屈をこねらせる隙もなく、あたふたわーわーしている間に完全に悟空さんのペースで話を進められてしまった。

 私のウジウジに、彼が付き合ってくれる筈がなかったのだ。

 

「うーん、参ったなぁ。占いババにももう、おめえのことも一緒に頼んじまったのになぁ」

「うっ……」

「おめえが来なかったら、悟飯の奴がっかりするだろうなぁー。あんなに喜んでたもんなぁー」

「うう……」

 

 この世に帰る――そのことについて、思うところは色々とあった。

 ここまで話が通っているということは、おそらく界王様も私がこの世に帰ることについては了承しているのだろう。

 だけど私自身が、中々踏ん切りがつかなかった。こんな私にこの世に帰る資格があるのかだとか、みんなとまた会う資格があるのかだとか……考えれば考えるほど、後ろ向きになっている自分が居たのだ。

 おそらくこの時の私にもう少しだけ考える時間があれば、押し寄せてくる理屈の波に負けてこの世に「帰らない」ことを選んだのだと思う。

 この世に居る「私の英雄」にとって、私のことはあの日別れた思い出のままでいてほしかったという思いもあった。

 それにみんなとまた会ってしまったら、またあの世に戻ることが怖くなるかもしれないと思ったのだ。元来悟空さんのように明るい性格じゃない上に死後からまだ三年しか経っていない私では、一日帰っただけでもこの世に対する未練を蘇らせてしまうことになるかもしれないという恐れは強かった。

 

 だけど私自身が理屈を抜いた胸の内で何を望んでいるのかは、深く考えるまでもなかった。

 

「……わかりました。私も行きます」

 

 どんな理由があっても。

 どんな思いをしても。

 私はもう一度、この世に帰りたい。

 それは私が死んでからずっと抱え続けていた、偽りのない本心だったのだ。

 もうどうにでもなれと言うのは変かもしれないけど、こうなったら覚悟を決めよう。

 私は悟空さんと一緒に、一日だけこの世へ帰る。決めた。そう、決めたんだ。私は頭の中を空っぽにして、悟飯達との再会を自分勝手に楽しみにすることにした。

 

「ありがとうございます、悟空さん」

「おう、後で占いババと界王様にもお礼言っておけよ」

 

 多少強引ではあったが、夢のような一日に誘ってくれた悟空さんには感謝の思いしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六歳になり、街のハイスクールに通うことが出来る年齢になった悟飯は学業の傍らでサタンシティのニューヒーロー、「グレートサイヤマン」として街にはびこる小悪党を成敗する日々を送っていたが、ある日そんな彼の生活にも変化が訪れた。

 それまで彼なりに必死に隠してきたグレートサイヤマンの正体が孫悟飯であることが、クラスメイトの友人であるビーデルにあっさりとバレてしまったのだ。そしてグレートサイヤマンの正体を知った彼女は彼の人間離れした強さに興味を抱き、正体を周りの人間に黙っていることを交換条件に、今年度に開催される武道家の祭典「天下一武道会」への参加を命じたのである。

 そんなこんなで天下一武道会に出場することになった悟飯は大会用のグレートサイヤマンのコスチュームをカプセルコーポレーションのブルマに相談していたが、この時、思わぬ展開が立て続けに起こった。

 

「そのなんとかって大会、貴様が出るなら俺も出る」

 

 どんなに手を抜いてもぶっちぎりで優勝してしまうからつまらないだろう――そんな話をブルマとしていた時、トレーニングで汗を流し終えたベジータが二人の会話に割り込んできたのだ。

 七年前のセルゲームの時点では歴然とした力の差があった悟飯とベジータだが、セルゲーム後の七年間は修行よりも勉学に励むことが多かった悟飯よりも、労働もせずにトレーニングに打ち込んできたベジータの方が戦闘力の向上は遥かに大きい。

 悟飯も三年前の事件以来、ピッコロと組手を行ったりと身体を鈍らせていたわけではないが、ベジータの七年間の飛躍によって今や二人の間には力の差はほとんど無くなっていた。

 自身の腕試しの為、ベジータは悟飯が出場する天下一武道会に自分も出場することを決めたのである。

 そしてさらに、もう一人の出場者が話に加わった。

 

『オラも出るぞ!』

「お父さん? お父さんの声だ! お父さん、そうでしょ!?」

「カカロット……?」

『ああ、久しぶりだな、みんな』

 

 あの世で修行している悟飯の父悟空が、界王を通して悟飯達に話しかけてきたのだ。

 占いババに頼んで、一日だけこの世に帰ると。そしてその日を、悟飯とベジータが出場する天下一武道会の開催日にすると悟空は陽気に言った。

 

『悟飯もベジータも出るんだろ? オラも出るさ!』

 

 七年ぶりに、お父さんがこの世に帰ってくる。その事実に喜び興奮する悟飯に対して、悟空はさらに追い討ちを掛けるように続けた。

 

『あとこっちに居るネオンも一緒に連れて行こうと思ってんだけど、いいか?』

「っ! ネオンさんも来られるんですか!?」

『ああ! アイツ、おめえと会いたがってたし、来ると思うぜ。オラ達あの世での修行ですっげえ強くなってっから、楽しみにしとけ!』

「はい! やったあ! バンザーイ!」

 

 三年前に死に別れた少女、ネオン。彼女が今悟空と同じ場所に居ることは既にデンデから聞かされていたが、彼女までもこの世に帰ってくると聞いて悟飯が喜ばない筈がなかった。

 それが一日限りだとしても、あんな別れ方をしてしまった彼女ともう一度会って話せることが、悟飯には嬉しくてたまらなかった。

 大会の開催日が一気に待ち遠しくなった悟飯は全身で喜びを表現すると、サングラスで素顔を隠した新しいグレートサイヤマンのコスチュームでブルマの家から舞空術で飛び出し、各地に散り散りになっている仲間達にもこの話を報告しに行く。

 その結果、悟飯やベジータの他にはクリリンと人造人間18号の夫婦、神の宮殿ではピッコロがそれぞれ出場を決め、成長著しい悟飯の弟の悟天とベジータの息子のトランクスのちびっ子二人も参加する運びとなった。

 

 

 

 

 ――そして、いよいよ迎えた天下一武道会当日。

 

 

 

 天津飯や餃子、ヤジロベーを除く仲間の全員が集結した会場にて、待ちに待った孫悟空が姿を現した。

 

「へへっ、やっほー!」

 

 頭の上に肉体を持つ死者の証である光輪を浮かべながらも、悟空は生前と変わらず明るい表情で悟飯達と七年ぶりの再会を果たした。

 家族である悟飯とチチは勿論、長年の友人であるクリリンやブルマ、ウーロンやヤムチャ達は感涙し、脇目も振らずに一斉に彼の元へと駆け出していく。

 しかし生まれた頃には既に他界していた身の為、悟天だけは同じ家族でありながらも周囲の状況に着いていくことが出来ず、戸惑っている様子だった。

 そんな悟天がチチの後ろから実父の姿をぼんやりと眺めていると、視界の端でふと何かが引っかかった。

 悟空の背後に立っている一本の木の陰――そこに、何者かの人影が見えたのである。

 

「おい、ネオン! おめえそんなところで何やってんだ?」

 

 悟空がその木陰に向かって無遠慮に呼びかけると、その人影はビクッと怖じけるような反応を見せた。

 その瞬間、悟天は戸惑いの表情から一変して笑顔を咲かせた。

 三年前、自分と遊んでくれた兄の友達――ネオン。今よりもさらに幼かった当時四歳の悟天だが、七歳となった今でも彼女のことはしっかりと覚えていた。

 死んだ父の他に彼女も来ることは既に兄から聞かされていた為、悟天は悟空の言葉を聞いたことによってそこに居る人物が誰かをすぐに特定することが出来たのである。

 ピタッと一同の視線が一点して木陰に隠れている人物の元へと集まる。その視線の持ち主の一人である悟飯もまた、真っ直ぐに彼女を見つめて微笑んでいた。

 

「……いざとなると、顔を合わせづらくて」

 

 艶やかな黒髪の頭を掻きながら、伏し目がちに恐る恐ると言った動きで木陰から出てくる。堂々たる姿で一同の前に現れた悟空の登場の仕方とは、まさに正反対であった。

 彼女のことを知らない者達は茫然とその姿を眺めていたが、かつて彼女と心を通わせた者達――悟天は一目散に彼女の胸へと飛びつき、悟飯は穏やかな表情で彼女の帰還を出迎えた。

 

「ただいまって言っても、良いかな……?」

「……はい。もちろんですよ! おかえりなさい、ネオンさん!」

 

 困惑そうな表情で俯きながら言う彼女に、悟飯は何の淀みも無い声で言葉を返す。

 そこでようやく踏ん切りがついたのか、彼女は懐にしがみつく悟天の頭を手のひらで撫でながら、顔を上げて悟飯の目を見つめた。

 

「……ありがとう、悟飯。悟天も私のこと、覚えていてくれたんだね」

「会いたかったんだよ! ネオンお姉ちゃんっ」

「大きくなったね、悟天。でも、お父さんよりも先に私の方に来るのはどうなんだろう……?」

「ははっ、まあ、しょうがねえか!」

 

 

 たった一日だけの帰還。

 たった一時だけの再会。

 

 しかしネオンにとってのそれは修行に精を出していた死後の三年間よりも重く、大切な時間だった。

 今自分が居るこの場所こそが、本当の天国なのではないかと――そう思えるほどに。

 

 ネオンと孫悟空にとって、短くも長い一日が始まった瞬間だった。

 

 


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