緋弾のアリア 欲望の交差   作:彩花乃茶

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counttheMedal!現在オーズの使えるメダルは

タカコア×1
プテラコア×1
トラコア×1
ゴリラコア×1
ウナギコア×1
トリケラコア×1
バッタコア×1
ゾウコア×1
ティラノコア×1

サソリギジ×1


爆現と正義と手の届く範囲

 理子とエースコンバットでマシンガンを撃ち合ったりシッペで叩き合ったりしてバカをしていたらいつの間にか深夜0時になっていた。

 

「明日も学校があるし・・・そろそろ寝るか」

 

 そう呟いた俺はシャワーを浴びてきてパジャマに着替えてリビングに戻ると・・・ソファーでゴロゴロしていた理子が頬杖を突きながらにやにやとこちらを見上げていた。

 

「・・・何だよ?」

 

「ね~む~い~~」

 

 そんなこと俺に言うなよ。

「じゃあ寝ろよ」

 

「寝ぇ~た~く~な~い~」

 

 どうしろっていうんだよ。・・・ジタバタしている理子に俺はため息をついた。

「おしゃべりしたい」

 

「何をしゃべるんだよ」

 

「何でもいいよ~。おしゃべりしてたい。ずっとここにいたい」

 

「断る。俺はもう寝るぞ」

 

 俺はベッドルームを開けると、寝室が寒いのでリビングの暖かい空気を対流させるために開けっ放しにした。

 

「でも・・・まぁ今日はありがとな」

 

 2基ある2段ベッドの右下で俺はさっきまで気恥ずかしくて言えなかったことを告げる。

「お前、最近俺がふてくされてるから来てくれたんだろ。少し気分が軽くなったよ」

 

「・・・それだけじゃないよ」

 

 しばらく黙っていた理子はそう言い返してリビングを出てシャワールームに行ってしまったようだ。シャワーの音が聞こえる。ここに泊まっていく気らしいな。嫌は嫌だが・・・理子は俺を気遣って来てくれたわけだし、好きにさせてやるか。・・・などと考えてウトウトしているとリビングの電気が消える音がして部屋が暗くなった。そしてベッドルームに入ってきた理子がフットランプを付けて俺のベッドに手をつく音がしたんで・・・

「っ!?」

 

 俺は一瞬で目が覚めた。振り向けば理子は右側下段・・・俺のベッドに忍び込もうとしている。

「せ、狭いんだから入ってくるな!」

 

「・・・今日誰もいないし」

 

 逃げようにも理子のいる側からしか出入りができない状態で俺のベッドに入ってきた理子は・・・いつもの緩い笑顔ではなく、切なげな目をしていた。

「・・・っ!?」

 

しまった!?何気にいきなり大ピンチになっちまったぞ。下手に出ようとしたら蛇みたいに動く髪の怪力に押し返される。かといってこのままじゃヒステリア的な意味であぶない。それに黙ったらダメだ。押し切られる・・・何か、何か言わないと!

「お、おい理子!パジャマ裏返しだぞ!」

 

 テンパっていた俺はつい気づいたことを口走ってしまう。こんな時に何を言ってしまっているんだ俺は。

「あ、ホントだ」

 

 俺に指摘されて自分のパジャマを見た理子は裾に手をかけるといきなり捲り上げやがった。

「っ!」

 

 寸前のところで寝返りを打った俺は理子に背中を向けることに成功する。何とか見なかったぞ。・・・もし見てたらすぐにヒスってたかもな。俺の背後でベッドのスプリングの音が聞こえる。理子の野郎、俺の後ろで横になりやがった。

「お、おい、毛布を広げるなって!」

 

「え~、いいじゃん別に~」

 

 理子は俺が身体にかけていた毛布を背中側に持ち上げて中に入ってきてしまう。

「手ぇ、冷たくなっちゃった」

 

 俺の後頭部、首筋の辺りで媚びるように囁いてきた理子は、俺のパジャマの脇についているポケットに手を突っ込んできた。身体をこわばらせる俺に理子はクスクスと笑う。お、追い詰められたぞ。ついに抱きつかれた。

「おい理子、お前俺の体質・・・知ってるんだろ」

 

「HSSのこと?きーくんはヒステリアモードって呼んでいるんだっけ」

 

 俺は最後の手段と言わんばかりに冷静になって警告する。

「そうだ。俺はカナと違ってあれに一度なると自分では制御できないんだ。あれは元々女を守って魅力的な男を演じて・・・その今の事態だから言うが・・・子孫を残すために備わっているものだぞ」

 

「知ってるよ」

 

「じゃあ別のベッドへ行けよ」

 

 もう・・・必死にヒステリアモードを自制している状態で言葉を取り繕うこともできないぞ。

「お前・・・俺がヒステリアモードになって・・・襲われたりしたらどうするんだ?」

 

「その時はそのときだよ」

 

 お前、もう少し自分を大切にしろよ。あと、俺のこともだ。もう少し警戒してはやく退散してくれ。

「でもヒス化しちゃうとちょっと困るかなぁ?理子の考えを裏の裏まで全部見抜かれちゃいそうだし。・・・だからならないギリギリのところで理子とイチャイチャしよ?」

 

「だからそうゆう制御が俺にはできないって・・・」

 

「だいじょうぶぅ~。へんなことしないからぁ」

 

「もうしてるだろっ!」

 

 俺がポケットに手を入れて理子の手を取り出そうとした時・・・理子はその手を握ってきた。そしてそのまま強く握り締めると・・・

「お願い・・・そばにいて」

 

 シリアスな雰囲気をそう言ってきた。理子が・・・泣いてるのか?つい振り返ろうとすると、理子は俺の背に顔を押し付けて振り返るのを拒んだ。

「理子に忘れさせて。全部忘れさせて・・・忘れたいの、昔のこと。アイツを見て思い出すの・・・魘されるの。理子はもう・・・絶えられない」

 

「昔・・・?」

 

「ヒ、ヒル・・・名前を出すのも嫌だ。ルーマニアで、アイツ・・・あたしを・・・」

 

 理子は俺の背で泣き続けている。そしてしばらく啜り泣きを聞いている内に、理子の行動の真意が何となく読めてきた。ヒルダ・・・先日俺達を高圧電流で襲い・・・理子だけを攻撃しなかった『眷族』の蝙蝠女だ。あいつは昔ルーマニアで理子を監禁していたブラドの娘だ。たぶんあの女は・・・理子を虐めていたんだろうな。そのトラウマがヒルダを目撃した理子の脳裏に蘇ったんだ・・・多分。

「理子・・・」

 

 つらい記憶に脅かされて、誰かに頼りたくなる気持ちは・・・分かる。俺も昔・・・家族を失った時に誰かに泣きつきたいぐらいネガティブな気持ちになったしな。だから憐れむ訳じゃないけど・・・こいしてやってもいいだろう。泣きじゃくってる理子にヒステリアの血が収まってきた俺は、思い切って振り返り、理子の頭をそっと抱きしめてやった。そうすると理子はこれまで堪えてきた決壊するように俺の胸でくぐもった泣き声を上げていた。理子は普段は明るく強がっているが・・・前から割と情緒不安定な一面もあった。これは・・・そういう心の傷の表れかもしれない。ヒルダ・・・色々と私怨もあるが、これを知ってしまったからには許すことはできないな。次にあった時は何とかしてブッ潰してやる。お前の親父のようにな。

 

 

 

 

「いつまで寝てるの。チコクするわよ」

 

 呆れたような声に朝日を浴びながら俺は目を覚ました。

 

「理子・・・?」

 

 腕の中に誰もいないことに気づき、俺は寝ぼけた声で呟く。

「やっぱり理子といたのね。どうりで楽しそうな寝顔をしてると思った」

 

「っ!?」

 

 アリアの声に俺はすぐさま飛び起きると・・・通学カバンを持ったアリアがセーラー服姿で見下ろしていた。失礼ながら俺はアリアの胸部を見て理子の変装なんかじゃないかを確認した。・・・どうやら本物のアリアのようだ。しかも何だか細い足を肩幅よりも少し広げて怒っている時のサインをしているぞ。・・・これで理子といたなんて言ったら風穴なんだろうな。

「違う、俺は1人で・・・」

 

「ホッペについた口紅を拭いてから言いなさいよ」

 

 何っ?理子の奴!・・・俺はそう思いながら頬を擦るが・・・何もついていない。

「ウソよ。あんたやっぱり探偵科には向いてないわね」

 

 しまった!?一杯喰わされた!お前だってこういうトリック的なものはすぐに引っ掛かっちまうタイプのくせに。

「あたしはここの下で理子とすれ違ってる。それにリビングに同じ弁当を2つ食べたような殻のトレーがあったわ」

 

 更なる証拠を示すようにアリアは俺の枕のそばから長いマロンブラウンのウェーブした髪を一本つまみ上げてゴミ箱に捨てた。

「キンジ、あんた何で隠そうとしたの?」

 

「お、お前が鬼のような顔をして聞くからだ。ていうか、お前こそ、ここに来ていいのか?ワトソンに言われているんだろ?キンジの部屋には行くなって・・」

 

「べっ、別にあたしがワトソンに従う義理はないわっ!」

 

「従って最近来てなかったじゃないか」

 

「それは・・・ワトソンが来てからあんたの機嫌が悪くなったから・・・・」

 

 俺は「はいはい、何もかも俺のせいですよ」とアリアに告げながらベッドから抜け出す。そして別の部屋で制服に着替えると・・・

 

「っていうかキンジ!何でワトソンの話なのよ。・・・繰り返しになるけどね。ワトソンとあたしは勝手に決められた婚約者ってだけなの。そんな話、あたしにはまだ早いし・・・パートナーだって彼が勝手に『なろう』って言ってるだけ。だからあんたがヤケになって理子に走るようなことはなくて・・・」

 

 ぶつぶつと言うアリアは何だか言い訳のようなムードになっている。

「何言ってるんだ。ワトソンはいいヤツなんだろ。お前、仲良くしてりゃいいじゃねーか」

 

「だからぁ、なんでそんなに怒るのよ。たしかにワトソンはいい人だけど・・・」

 

「いいから。・・・怒ってない。俺に構うな」

 

 突き放すように言う中で・・・俺は自分の中でアリアとワトソンに対するモヤモヤがまとまるのを感じていた。俺は今までアリアのパートナーとしてイ・ウーを含む様々な相手と戦ってきた。だが、その戦いはどれもギリギリの接戦だった。一歩間違えば俺もアリアもとっくに死んでいる綱渡りのような日々だった。ようやくイ・ウーとエヴィルの戦いが終わったと思えば、今度は『師団』と『眷属』の抗争だ。まだグリード達との戦いだってあるのにも関わらずな。俺は対超能力者戦闘の経験はほとんどない。

「・・・しょせん俺はこの程度だな」

 

 一方でワトソンは威嚇だけであのヒルダを撃退した。ああいう敵に対する装備を整えていて、専門の知識まで備わっている。だからこれからの戦いにおいてはアリアはワトソンと組んだ方が安全なんだ。だから俺はアリアの安全のために・・・無意識の内にきつく当たってアリアを遠ざけようとしていたのかもしれない。それにそもそも2人は『ホームズとワトソン』だもんな。だからお似合いってもんだろう。誰がどう考えても。

「・・・・」

 

 アリアは俺に「構うな」と言われたのを守るようにしょんぼりした足つきで部屋を出て行った。

「・・・今日も1人で登校か」

 

 現在のクラスで唯一会話ができた陽までも教務科からの依頼で教室にはこなかった。ワトソンと険悪なせいで俺はクラスで完全に独りになってしまった。だが俺の外堀が完全に埋まったとなると・・・昔の戦争じゃ城の堀を埋めてから次は本丸を攻めたんだから、そろそろ奴は攻めてくるぞ。

『ppp』

 

 そう思ってた矢先、懐にしまっていたバッタカンが音を鳴らしながら飛び出てきて、机の上で変形した。

『遠山!俺だ!』

 

 この声・・・後藤か?どうしたんだこんなに慌てて。

「どうしたんだ後藤?」

 

 バッタカンを手に持った俺は周囲が騒がしいので席を立って廊下へと移動しながら声を聞き取りやすいようにする。

『東区方面でバッタのようなヤミーが一般人を襲っている!しかもこのヤミーは以前遠山が対峙したことのある無機物が混ざったタイプのヤミーだ!俺1人ではどうにもならないから手を貸してくれ!』

 

「・・・分かった。すぐに行く」

 

 通話を切った俺はバッタカンをしまうとベルトを取り出しながら外へと走っていく。そして外にあるライドベンダーをバイクモードにして跨ると、すぐさまベルトに3枚のメダルをセットしてバイクを走らせた。

「・・・一応クラス以外では1人じゃないってことか。変身ッ!」

 

『タカ!トラ!バッタ!タットッバッ!タトバ、タッ!トッ!バッ!』

 

 左手でハンドルを握りつつも、右手に持ったスキャナーでベルトをスキャンしてオーズへと変身した俺はそのまま後藤が戦っている場所へと向かっていった。

「・・・ごめんね、みんな。ちょっと行って来るから、先生方に伝えておいてくれ」

 

 クラスのみんなに囲まれていたワトソンは俺が急いで何処かに向かっていく様子を見て怪人が出たと判断してライダーパスを握り締めながら席を立つ。

「うん!頑張ってきてね!」

 

「キンジなんかよりもカッコいい活躍をしてこいよ!」

 

 男女問わずに声援を受けたワトソンは窓を開けるとそこから飛び降りる。

「・・・変身」

 

『STRIKE FORM』

 

 そして空中で電王に変身したワトソンはいつの間にか真下でバイクと共に控えていたテディを剣にして背負うと、そのままバイクに跨って俺を追いかけるようにバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

「フンっ!」

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

 数分後・・・ようやく後藤から連絡を受けた場所に到着すると、後藤が変身したバースは腰のベルトに風車がついて関節がバネのようになっているバッタの怪人に押されていた。

「セイヤッ!」

 

 俺はバイクから跳びあがりトラクローを展開して切りかかろうとするがあっさりと防がれてしまった。

 

「また無機物合成ヤミーか。・・・厄介な相手だぜ」

 

 金属を身体に取り入れてるなら電磁力操作ができるサカエコンボが一番適しているんだが・・・カニとエビのメダルは別クラスな上、この場にはいないレキに預けているから使えないし、今あるメダルで対処するしかないんだよな。かといってサソリは単体で使用しても無個性だから紫の力を使わないとなると結局のところ使えるのはタトバだけってことになる。

「アンクの奴・・・せめてジャリバーぐらい置いていけよなハァァァッ!」

 

 無いものねだりをしても仕方ないと思った俺はバースの援護射撃を受けながらトラクローを腹部に突き刺すように風車スプリングバッタヤミーへと特攻すると・・・・

「2対1は卑怯だろ」

 

 トラクローは突如目の前に現れたマシーン・ウヴァによって止められてしまった。

「また厄介な相手が増えたな。・・・ん?」

 

 バースはマシーン・ウヴァにバースバスターを向けようとすると・・・何かに気づいた様子で物陰の方を見ていた。

「どうした後藤?・・・あっ!」

 

 俺はバースが向いている方に視界を移すと・・・そこにはまるで機械のように立ち尽くしている名護先輩がいた。

「名護先輩!見てないで手伝ってくださいよ!」

 

 名護先輩に向かってそう叫んでみるが・・・名護先輩は表情1つ変えずにただ立ち尽くしているだけだった。・・・どこか様子が変だ。

「お前達・・・俺の正義の実行、邪魔した。邪魔する者は・・・敵ッ!!」

 

 高く跳び上がった風車スプリングバッタヤミーに再び視線を戻すと・・・ヤミーはまるで仮面戦士のライダーパンチのように落下をしながら殴りかかってきた。

「くっ!?」

 

「俺が正義だっ!俺は正しいッ!!」

 

 俺は何とか風車スプリングバッタヤミーのパンチを回避するが・・・ヤミーは着地をすると追い討ちを掛けるかのように腰の風車を回転させて電撃を放ってきた。

「くそっ・・・名護先輩みたいなこと言いやがって。うわぁぁぁぁっ!?」

 

「ぐあぁぁぁっ!?」

 

 電撃を喰らって吹き飛ばされた俺とバースはマシーン・ウヴァの電撃の射程範囲に入ってしまう。

「トドメだオーズ」

 

 スタンガンのようになっている角に明らかに喰らったらヤバイほどの電気を溜めこんでいるマシーン・ウヴァはそのまま体当たりをしてこようとすると・・・・

「フフっ・・・」

 

「ぐおっ!?」

 

 いきなり俺達の目の前に現れたカザリがマシーン・ウヴァを強風で吹き飛ばした。すると強風で地面に思い切り叩きつけられてしまったマシーン・ウヴァは、身体からメモリが抜け出て通常のウヴァに戻った。

「オーズ、手を貸してあげる」

 

「えっ?」

 

 横目で俺達のことを見てきたカザリはメモリを拾い上げたウヴァへと襲い掛かっていった。

「ハァッ!」

 

「「っ!?」」

 

 カザリの謎の行動に俺達は呆然としていると・・・風車スプリングバッタヤミーは足に電撃を纏いながらキックをしてきたので俺達は何とか回避する。

「くっ!?よく分からんが今はヤミーに集中するぞ遠山!」

 

『ドリルアーム』

『ショベルアーム』

 

「・・・あぁ、そうだな」

 

 再び風車スプリングバッタヤミーに視線を戻した俺はトラクローを再度展開して、バースはドリルアームとショベルアームを装備しながら構えた。・・・しかしその時の俺達にはカザリのこの行動が何を意味するのかはまったく分からないままだった。

 仮面ライダー・・・その初代にあたる仮面戦士である仮面ライダー1号・本郷猛さんは悪の組織であるショッカーによってバッタの改造人間にされてしまったが、悪と戦う仮面のヒーローとして様々な悪の組織と戦ったのは有名な話だ。

「トオッ!」

 

「ぐおっ!?」

 

 しかし俺とバースは間違った正義の欲望から生み出された高い脚力と強力な電撃を放つ風車スプリングバッタヤミーに苦戦を強いられていた。

「お前達、俺の正義の邪魔をした。お前達は悪・・・悪は絶対許さない」

 

 風車スプリングバッタヤミーの発言に・・・バースは物陰の辺りで立ち尽くしている名護先輩の方に視線を移した。

「遠山・・・やはりこのヤミーは・・・」

 

「あぁ、俺もそう思ってたところだ」

 

 このヤミーを生み出した正義感の塊みたいな欲望、まるで機械のように立ち尽くす名護先輩。・・・間違いない。ヤミーの親になっているのは名護先輩の欲望だ。おそらくはさっきから発言している「正義を実行する」って欲望なんだろうな。

「だけどいくら正義に取り憑かれているような名護先輩でも・・・正義を実行するって願いならとっくに叶っているからヤミーは作れないはずだぞ?」

 

 

「遠山・・・ここは俺に任せて、お前は名護先輩を正気に戻してきてくれ」

 

「なっ!?このヤミーを1人で相手にするのはキツイだろ!?」

 

 2人がかりで苦戦しているヤミーを1人で相手にしようとしているバースを俺は止めようとすると・・・バースはベルトに次々とセルメダルを入れた。

 

『ドリルアーム・クレーンアーム・ショベルアーム・キャタピラレッグ・カッターウイング・ブレストキャノン』

 

 そしてフル装備をしたバース・・・バース・ディはキャタピラで前進しながらブレストキャノンの砲身をヤミーへと向けた。

「俺1人で倒すことは無理だとは思うが・・・時間を稼ぐことぐらいはできる。だから遠山・・・行ってくれ」

 

「・・・3分は稼いでくれよ」

 

 そう言った俺は名護先輩が立ち尽くしているところへと足を運ぶと・・・名護先輩は「正義を実行する」と何度も呟いていた。

 

「名護先輩!いい加減目を覚ましてください!」

 

「ん・・・遠・・山・・君?」

 

 両肩を掴んで何度も揺らすと・・・ようやく名護先輩は機械のようなものでない自然な反応をしてくれた。

「名護先輩!今の状況が分かりますか?」

 

「・・・ああ、言わなくても分かっている」

 

 名護先輩はバース・ディと風車スプリングバッタヤミーが戦っている様子を見ながら俺の言葉に頷いた。

「この世界には法では裁かれないで悪事をする奴らが数え切れないほどいる。強盗や殺人だけではなく、国を作っていくはずの政治家ですら裏の金で動いてしまう。こんな世界でいいと思うか?いい訳ないだろ!!」

 

 たしかに名護先輩の言う通り世界では法で裁ききれない奴らが数え切れないほどいる。それはどんなに有能な警察や武偵だとしてもどうしよもないことだな。

「俺が正義だ。俺が悪いと思うものは許さない!」

 

 ヤミーによって自身の「正義」という欲望が暴走してしまっている名護先輩に・・・

「ふざけんじゃねぇ!!」

 

 俺は耐え切れずにブチ切れてしまった。

「行き過ぎた正義はもう正義じゃない!今のあんたはもうそうなりかけてんだよ!」

 

 正直俺にだって正義ってのはイマイチ分からない。誰かを守りたいという気持ちや、自分達の正義を守りたいっていう気持ちがエスカレートする時はある。

 

「自分の信じる正義のためなら何だって許されるのか?そんな訳ないだろ!!」

 

 正義のためなら・・・人間はどこまでも残酷になれる。誰が正しくて誰が間違っているってのは難しいことだと思う。自分が正しいと思って行動をすると周りの人が見えなくなってしまう。正義のためなら何をしてもいいと思った時点で悪という訳ではないけど・・・少なくとも俺は正義なんかじゃないと思う。

 

「先輩はどうして正義を実行しようと思ったんだよ?どうゆう思いで仮面戦士に・・・イクサになったんだよ?思い出せよ!自分の正義とかじゃなくて、自分が戦おうと思った理由を・・・・すいません。つい頭に血が上ってしまいました」

 

「いや、構わない。だけど俺は・・・俺は・・」

 

 名護先輩は自身の描く正義を失ってたかのようにその場に膝をついてしまう。それに対して俺は両腕を左右に大きく広げた。

「名護先輩・・・俺の手の届くのはこのくらいです」

 

「は?・・・何が言いたいんだ?」

 

 う~ん。やっぱりこれだけじゃ伝わらないか。

 

「どんなに俺が手を伸ばしても地球の裏側には届きません。助けを求めている人達みんなを助けるなんて・・・どんなに頑張っても俺にはできません。だけど俺はこの手の届くかぎりは伸ばします。自分の手が届く範囲は助けたいんです」

 

「手の届く範囲・・・それが遠山君にとっての正義か?」

 

「自分では良く分からないけど・・・これは正義っていうか信念みたいなもんですよ」

 

 俺はただ手を伸ばせるのに伸ばさなかったら・・・死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ。俺なんかじゃ本当の正義の味方っても言えるレジェンドライダーの人達のようなまともな正義の味方にはなれないけど・・・誰かの味方ぐらいにはなれる。

「俺・・・そろそろあっちに戻ります」

 

 そう言い残した俺は再び風車スプリングバッタヤミーのところへと走っていった。

「そういえば忘れていたな。・・・子供の頃、突如現れた怪人を赤い仮面戦士が助けてくれたから俺も人々を怪人から助けるために仮面戦士になろうと思っていたことを」

 

 名護先輩はイクサナックルを手に持ちながらベルトをつける。イクサナックルを握っているその手はすでに震えてなんていなかった。

 

「俺はあの人のように正義の味方になりたくて・・・正義を目指したんだったな」

 

 先ほどまでの不安そうな目をしていた人はそこにはいなく・・・そこに立っているのは自分の信念を貫こうとしている先輩が立っていた。

「変身!」

 

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 

 聖職者を思わせる白い戦士・・・仮面ライダーイクサ・バーストモードに変身をした名護先輩はイクサカリバーを剣に変形させて構えながらゆっくりとヤミーのところへと歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 名護先輩が自身が仮面戦士になった理由を思い出した頃、再びトラクローを展開して切りかかった俺とダメージを受けて通常形態に戻ってしまったバースは風車スプリングバッタヤミーのキックを喰らって吹き飛ばされてしまった。

 

「くっ!?やはりこのままでは厳しいな。・・・どうする遠山?」

 

「どうしたもこうしたもあるかよ。・・・こうなったら最後の手段を使うか」

 

 俺はそう言いながら胸に手を当てながら複眼を紫に点滅させる。

「待て遠山!さてはまた紫の力を使って暴走する気かっ!あれは俺1人では止められないんだぞ!」

 

「なんとなくだが・・・今の俺なら紫の力を押さえ込める気がするんだ」

 

 いい傾向なのか、悪い傾向なのかは分からないが・・・ヒルダに高圧電流を喰らってしまった時・・・身体にだいぶ馴染んできた紫のメダルの力をそれなりに押さえ込めるようになっていた。たぶん今の俺なら紫のオーズに変身しても暴走はしないはずだ。

「そんな綱渡りみたいなことはやめろ!ここは・・・」

 

「ここは俺に任せなさい」

 

「「えっ?」」

 

 突然後ろから聞こえた声に俺とバースが振り返ると・・・そこにはイクサカリバーを片手で中段に構えながら歩いてくるイクサがいた。

「名護先輩・・・いや、あいつは相当な強さですよ?」

 

 少なくともコンボを使えない上にヒステリア化してない俺のオーズと、経験がまだ少ない後藤のバースなんだが・・・エヴィルとの戦いを乗り越えた仮面戦士が2人勝てないぐらい強い。ウヴァのヤミーとはいえ、やっぱりセルメダルっていう人の欲望を開放する者と人の欲望を叶えるためにあるガイアメモリの力を合わせ持った無機物合成ヤミーってのは並大抵の怪人の強さじゃない。

 

「遠山君・・・君のおかげでようやく思い出した。正義の心というのは自分の信念を貫く意思だということを・・・だから俺はもう一度イクサとして自分の正義を貫くために・・・正義を失いかけた俺が生み出したヤミーをこの手で倒す」

 

 自分の信念を貫く意思・・・か。そういえば前にもアンクに似たようなことを言われたよな。

 

「君達2人はグリードのところに向かいなさい」

 

「・・・後藤、行くぞ」

 

 風車スプリングバッタヤミーに剣を向けたイクサに背を向けた俺はカザリとウヴァが去っていった林の方を振り向く。

「・・・名護先輩だけに任せていいのか?」

 

「正直不安でいっぱいだが・・・それが本人の意思なんだから1人で戦わせてやろうぜ」

 

 バースは一度イクサの方を振り向くと無言で頷いた。そして俺達は風車スプリングバッタヤミーをイクサに任せてカザリとウヴァが向かった林の方へと走っていった。

「その命、神に返しなさい!」

 

 イクサは風車スプリングバッタヤミーへと駆け出して剣を振るうが・・・その剣はいとも簡単に受け止められてしまう。

「その程度の攻撃では倒れん!」

 

「ぐっ!?」

 

 殴り飛ばされたイクサは剣を杖のようにして立ち上がるともう一度風車スプリングバッッタヤミーへと走り出す。

「また性懲りもなく・・・はぁぁっ!!」

 

 関節のバネを限界まで引っ込めた風車スプリングバッタヤミーは、そのバネを一気に開放して強力なパンチをイクサに決める。

「がはっ!?」

 

 胸部の装甲にヒビができたイクサはそのまま近くの駐車場まで吹き飛ばされてしまった。

「ハァァァァァッ!!」

 

「くっ!?」

 

 風車スプリングバッタヤミーの放った電撃は近くに停車していた車に着弾すると・・・車はそのせいで爆発してしまい、イクサはその爆炎に飲み込まれてしまう。

『ラ・イ・ジ・ン・グ』

 

「この体。その全ての細胞が、正義と信念の炎に燃えている!」

 

 爆炎の中から出てきたイクサは青い強化形態・・・ライジングイクサになって出てくると風車スプリングバッタヤミーに携帯電話のような銃を向けながらゆっくりと前へと進んでいく。

「イクサ爆現!」

 

「ぐおぉぉぉっ!?」

 

 その銃口から強力な熱線を放ったライジングイクサは反動で後ろに下がってしまいながらも、再び剣を構える。

『イ・ク・サ・カ・リ・バー・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 

「魑魅魍魎跋沽する、この地獄変。名護敬介はここにある。これが仮面ライダーイクサの真の力だぁぁぁっ!!」

 

「ぐあぁぁぁぁっ!?」

 

 ライジングイクサの斬撃・・・イクサジャッジメントを喰らった風車スプリングバッタヤミーは後ろに倒れながら爆発して周囲にセルメダルとなって散らばった。

「・・・全てじゃなくてもいい。武偵は俺だけではないのだから、俺は目の前で働かれている悪事と戦えばいい。ただそれだけのことだったんだな」

 

 そう呟いたライジングイクサは俺達が向かっていった林の方を振り向く。

「さて遠山君と後藤君を手助けしなくては・・・」

 

 イクサカリバーを銃のように変形させたライジングイクサはグリードのところへと俺達を手助けしようと林の方へと走り出そうとすると・・・

「聖職者のような仮面戦士もいるのね。・・・銀でできた十字架ぐらい不快だわ。目障りだから下がりなさい」

 

「っ!?ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 いつの間にか真後ろに立っていたヒルダの高圧電流を喰らってしまい、ヤミーとの戦いで負ったダメージも少なくないライジングイクサは変身が解除されてしまうと・・・

「くっ・・・油断した・・」

 

 名護先輩はその場に倒れてしまった。

「さぁて・・・メダルを譲ってもらいに行こうかしら」

 

 

 倒れている名護先輩を見下したヒルダは、上機嫌になって林へと足を運んでいった。

「・・・ヒルダめ。ダメージを負っていたとはいえ、3年の仮面戦士の隙をついて一撃で仕留めたか。やはりトオヤマにアリアを任せることはできないな」

 

『・・・エル、本当に君はそれでいいのか?』

 

 その一部始終を物陰でひっそりと見ていた青い電王に相棒で武器になっているテディは悟られないぐらい小さな声で不満の言葉を口にしていた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

 

 名護先輩が自身の正義を取り戻して風車スプリングバッタヤミーを撃破した頃、林の中を駆け巡っていた俺とバースはようやくウヴァとカザリが争っているのを発見した。

「ウヴァ、君がメズールとガメルのコアメダルを持っているのは分かっているんだ。君なんかが持っていても仕方ないから寄越して貰うよ」

 

「ぐあぁぁぁぁっ」

 

 カザリの重力攻撃を喰らい地面に叩きつけられたウヴァはシャチとウナギ、さらにはゴリラとクワガタのコアメダルの4枚ものコアメダルを排出してしまう。

「これは貰っておくよ」

 

 そのコアメダルを掴み取ったカザリはクスクスと笑いながら振り返って俺とバースの方に視線を移してきた。

「まぁ・・・用事は終わったし、君の持っている僕のコアメダルも貰っていこうか」

 

 そう言ったカザリは両手の爪を伸ばしながらこちらへと迫ってくる。

「その前にあなたからメダルを頂こうかしら?」

 

「「っ!?」」

 

 いきなり背後から聞こえたヒルダの声に振り返ろうとすると・・・振り返るよりも前にバースが怪人のような黒い影の攻撃を喰らって吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ!?」

 

 大木にめり込んでしまうほど強く叩きつけられたバースは変身が解除されてしまう。いったい今のは何だ?ヒルダの攻撃か?超視力能力のタカヘッドでも視界に捉えることはできなかったぞ。

「後藤!?」

 

「ご協力ありがとうグラリスさん」

 

「いえ、これは例の隕石を提供して頂いたお礼のようなものです。失礼ながらコードネーム・グリラス。今しばらくお力添えをさせて頂きます」

 

 俺が叩きつけられて変身が解除された後藤へと駆け寄ろうとすると・・・ヒルダは横目で林のさらに奥を見ながらそのように呟く。俺は複眼を真紅に輝かせて今の攻撃の主を探そうとするが・・・どういう訳か透視すらできるタカヘッドの力でも捉えることはできなかった。

「透明になってる訳じゃないと考えると・・・」

 

 今の攻撃はクロックアップのような高速移動戦術ってわけか。だとすると今の俺じゃそんな速度に対抗できないぞ。先ほど後藤を襲った黒い影は俺達を視界に捉えられるほど近くにいるはずなのに・・・何処にいるかがまったく分からない。

「あらそう?なら、あのグリードから水色のメダルと灰色のメダルを貰ってきて」

 

「了解いたしました」

 

 黒い影・・・いや、紫がかったコオロギのような怪人が俺の真横を駆け抜けていくと、その怪人は先ほどウヴァから排出されたコアメダルを掴んだ左手に攻撃を加える。

 

「くっ!?・・・しまった!?」

 

 その攻撃に怯んだカザリは謎の怪人にシャチとウナギとゴリラのコアメダルを奪われてしまうと・・・俺が気づくことができなかった背後からの攻撃により、背中から大量のメダルが散らばってしまう。その中にはウヴァのクワガタとカマキリのコアメダルだけではなくカザリ自身のチーターコアまである。

「くっ!間に合えっ!」

 

 すぐさま駆け出して、何とかその3枚のコアメダルを掴み取った俺は敵だらけであるこの状況を打破するためにもベルトからタカとトラのコアメダルを外して緑のコンボへと変身をしようとすると・・・

 

「目的は達成したからもう帰るわ」

 

 ヒルダは影の中に沈んでこの場を去っていった。・・・目的は分からないがメズールとガメルのコアメダルを奪っていくのが目的だったらしい。

「フフ、これで準備は整った」

 

 自身のコアメダルを奪われたのにも関わらず不敵に笑っていたカザリは、先ほどのコオロギの怪人ほどではないが、見切ることなどできない速度でこの場を去っていった。

「・・・・・」

 

 カザリの反対側に倒れていたはずのウヴァへと視線を移すと・・・ウヴァは先ほどの混乱に紛れて逃げ去っていたらしく、その場所から姿を消していた。

 

「・・・あのコオロギ野郎もいなくなったっぽいな」

 

 さっきまであった殺気もなくなったのでコオロギの怪人もいなくなったと思った俺は変身を解除しようとベルトに手をかけた瞬間・・・

「ぐおぉぉぉぉっ!?」

 

「っ!?」

 

 十数メートル先の林から何かの爆発音が響いてきた。俺と後藤は警戒しながらも爆発音が聞こえた場所へと足を進ませていくと・・・

「倒し損ねたか・・・」

 

 片手に剣を構えながら片膝をついてしまっているイクサ・セーブモードがいた。剣を握っていない反対側の手には何やらメダルのようなものが握られている。

 

「先ほど俺にセルメダルを入れたグリードと出くわしてな・・・戦ってみたが倒すことはできなかった」

 

 ヒルダがウヴァとカザリから奪っていったメズールとガメルのコアメダルをどうするかが俺にはさっぱり予想がつかなかった。

 

 


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