緋弾のアリア 欲望の交差   作:彩花乃茶

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counttheMedal!現在オーズの使えるメダルは

タカコア×1
プテラコア×1
トラコア×1
ゴリラコア×1
ウナギコア×1
トリケラコア×1
バッタコア×1
ゾウコア×1
ティラノコア×1

サソリギジ×1


許嫁と裁判と次元の旅人

様々な仮面戦士達が奮闘したエヴィルとの戦いから3日が過ぎた。

「ガキども!それじゃ文化祭でやる『変装食堂』の衣装決めをするぞ!」

 

 俺達はようやく平穏な日々を取り戻し始めて、現在はエヴィルとの戦いのせいで先延ばしになってしまっていた文化祭の役割を決めるために2年生が体育館に集められている。ジャンヌは・・・この場には来ていない。アンクの話によるとエヴィルとの決戦の時には戻ってきていたらしいが再びヒルダを探しに行ってしまったらしい。

「よぉし!各チーム同士で集まって待機ィー!ゴホッゴホッ!?」

 

 綴の野郎・・・むせるぐらいなら体育館でタバコを吸うなよ。お前仮にも教諭だろ?

 

「キンちゃん、くじ引きの番が来たよ」

 

「あ、ああ・・」

 

 気がついたら真横にいた白雪が言うので俺は我に帰ると・・・手伝いの1年が上に丸い穴の開いた箱を持ってきた。この箱の中身が武偵高の2年の一部が担当する『変装食堂』・・・そこで着る衣装を決めるくじ引きである。

 

「ある意味このくじ引きも命がけなんだよな・・・」

 

 普通の高校なら変装食堂ってのはコスプレ喫茶みたいな出し物なのだが・・・普通からほど遠いこの武偵高ではなんちゃって程度では駄目で、着た衣装の職業を完璧に演じきらないといけないんだ。武偵高からしてみれば生徒の潜入捜査技術をアピールするチャンスだから、真面目にやらないと教務科のオールスターズによって恐ろしい懲罰が喰らわされるらしい。去年は橘先輩がその被害者だ。

「ささ師匠引いてくだされ。こちらが男子の箱でござる」

 

 今更気づいたが・・・箱を持ってんの風魔じゃねぇか。てか人前で師匠とか呼ぶなよ。恥ずかしいじゃんか。ジャリバーでボコるぞ。

 

「なお、引き直しは1度のみ認められるでござる。ではご武運を・・」

 

 なぜかニヤニヤ見上げてくる風魔から箱を受け取った俺は、その箱の中に手を突っ込んで四つ折り紙をまさぐり始めた。・・・ちなみに大ハズレには女装と言うものがある。それだけは絶対に引きたくない。

「どうだ?・・・」

 

 引っ張り出した紙を恐る恐る開くと・・・

『ゾンビ』

 

 

 俺はゾンビですか?・・・って何でだよっ!?衣装どころか職業でも何でもないじゃんか!何だ?周りから根暗って思われてるからって顔色悪いゾンビになってろっても言うのか?誰だよこんなふざけた紙を入れた奴っ!

「チェンジだ!」

 

 こんなおかしなのを演じられるはずがねぇだろ。

 

「チェンジすると1枚目は無効。2枚目は強制となるでござる」

 

 それを知っていた俺は覚悟を決めて引き抜くと・・・

「警官・・・それも巡査か」

 

 思っていたほど悪くない引きだったんで安心した。しょうがないからひとっ走り付き合ってやるか。

「次は矢車先輩殿でござる」

 

「・・・・あぁ・・」

 

 矢車も凄く嫌そうな表情で紙を引き抜くと・・・

「・・・ブレイク限界な金色のパイロット」

 

 指令染みたキーワード付きでパイロットを指定されてしまった。

 

「・・・チェンジ」

 

 

 凄く不快そうな様子の矢車はクロックアップでもしたのかと言いたくなるほどの速度で新しい紙を箱から引くと・・・今度は『歌手』が出てきた。・・・もはや衣装ではなく直接職業をいってしまっているものが時折あるのがある意味これの酷いところだ。

「・・・・・」

 

 先ほどよりはマシだと思った様子の矢車は何処からともなくマイギターを準備してポケットから楽譜を取り出していた。何だか凄くノリノリだな。

「後藤は・・・どうだった?」

 

「どうもこうもあるか・・」

 

 屈辱的な表情をしている後藤の紙を見てみると・・・そこには『宅配』と書かれていた。後藤はことあるごとに鴻上のおっさんから配達を頼まれているからイライラしてんだろうな。

「嫌なら引き直せばいいんじゃないか?」

 

「すでに2回目だ」

 

 あっちゃ~。それは・・・なんつうか残念だったな。

「一回目は『石』だった」

 

 もはや職業や所属どころか生物ですらないじゃんかそれ。すごく悪意を感じるぞ。マジでそんな変なの入れているのは誰だよ。見つけたら唯じゃおかないぞ。

「そんで・・・アンクは?」

 

「フンっ!」

 

 アンクが差し出してきた紙を見ると・・・そこには『刑事』と書かれていた。

 

 

「アンクは・・・案外普通だったな」

 

 ここまで来るとアンクもおかしなものを引いているんじゃないかと思ったが・・・そんなことはなかった。

「・・・よっしゃ!探偵か。ハードボイルドな俺にはピッタリだぜ!」

 

「そんなことを言ってる時点でハードボイルドなんかじゃないと思うよ」

 

 隣チームでくじを引いている正太郎はどうやら探偵だったらしい。ちなみにこれはすでに2回目で、1回目は道化師だった。

「えっと僕は・・・『引きこもり』だって!?」

 

 正太郎の隣で女子の箱を引いた陽はある意味ラッキーな『引きこもり』を引いたらしい。

「正太郎・・・この引きこもりはどうゆうことをすればいいんだい?」

 

「簡単に言うとなぁ・・・ずっと仕事をしないで教室で適当に過ごしてていい代わりに、休憩時間になるまで教室を出られないってルールなんだ」

 

 だからこそ『引きこもり』は‘絶対に教務科にリンチにされない’という利点があるが、一定時間自由を失うという意味では残念な職業だ。まぁ・・・これはある意味張り込みを鍛えるためにあるとも言われてるんだが・・・これもおふざけの類なんだろうと俺は考えている。

「どうする?変えるか?」

 

「いや、せっかく引いたんだからこのままでいいよ。アキちゃんも『たこ焼きの妖精』を変えてなかったし」

 

 俺だけではなく矢車や後藤ですら嫌がって1度は変えたのに、あんなにあっさり受け入れられると変更組の俺達はちょっとへこむぜ。つーかたこ焼きの妖精ってなんだよ?変なの入れすぎだろ。

 

「師匠、ジャンヌ殿は本日欠席でござるが、前もってくじ引き代理人に師匠を指定されていたでござるよ。忍!」

 

 風魔は今度は女子用の箱を突き出してきたので適当に引いてみると・・・そこには『ウェイトレス』と書かれていた。まぁ・・・俺に直接は関係がなさそうだからこれでいいか。その後理子は1度『泥棒』を引き当てたが「これじゃコスプレし甲斐がない」とか言いながら『ガンマン』を引き当てた。続く白雪も最初は『チャイナドレス』を引き当ててたが「身体のラインが出るのは恥ずかしい」という理由でキャンセルして『教諭』を引き当てた。レキは『魔法使い』を引き当てて無言で変更していたが・・・突っ込んだら負けなような気がしたので俺達は何も言わずに見届けていると『科学研究所職員』というのを引き当てていた。・・・中でも一番ウケたのは・・・他でもないアリアだった。

「『アイドル』・・・」

 

「「「ぷっ!?」」」

 

 アリアがアイドルを引き当てると理子が「アイマスですよ!アイマス!」と連呼していたが、俺や正太郎達もアリアがアイドルと考えただけで吹き出しそうになってしまった。

「チェ、チェン、チェンジよ!」

 

引き直したアリアが確定される2度目を引くと出てきたのは何と『小学生』と書かれてあった。なんて運の悪さなんだ。ギャンブルとか一生やるんじゃないぞ。

「やった~~~~!やったよアリア~!ある意味ハマリ役だよ!キャハハハっ!」

 

「今のは無し無しな~~~し!!」

 

その後・・・理子に散々笑われたアリアが暴走してしまい大人しくさせるのに大変だった。・・・そして昼休みとなって午後から学科ごとの授業となると・・・俺とアリアはとある場所へと歩いて向かった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

「それにしても・・・あんたがまたこんなにも大物を相手にしてしまうなんて思ってもなかったわ」

 

「俺はただ・・・いなくなっちまった友達のために頑張っただけだ」

 

 俺はそう言いながらメダルホルダーから取り出したサソリのメダルを握り締める。様々な謎は残ることになったが・・・ひとまずはエヴィルとの戦いが終わった。ショッカーコアは俺が持っているよりは本郷さんが管理しているほうが安全だと思うから預けることにした。そもそもあんな強力なコンボを多様する気はなかったからありがたいとは思ったが・・・結局ショッカーコアってのが何なのかは分からなかった。そして仮面戦士科の学科棟も完全修復されて授業も再開されることとなったが・・・今日の午後はヒビキ改め仁志さんに頼み込んで出席扱いで授業を抜け出してアリアと一緒に士さんの見送りに来ていた。

「そろそろこの世界を出て行くんだってな。色々とありがとな士」

 

「別に俺は何もしてねぇよ。それに俺がお前らに協力したのは大ショッカーの時に手伝ってくれた1号と2号に借りを返すのと・・・個人的な首領への怒りだけだ。キンジ・・・お前もオーズになるってことは見つけてないんだろ?」

 

 見つけてない?何をだ?

「オーズは何かを見つけないといけないの?」

 

 アリアは俺が聞こうと思ったことを先に士さんに尋ねると・・・少し複雑な表情になった。

「まぁ・・・見つけないといけないのは・・・簡単でもあるし、難しくもあるものだな」

 

「訳が分からないわよ。はやく答えを言いなさいよ!」

 

「・・・その答えはオーズであるこいつ自身が見つけないと意味がないんだよ。答えは人それぞれだと思うからな」

 

 俺自身が見つけないといけないもの?

 

「お前の欲望・・・見つけろよ」

 

そう言い残した士さんは灰色のオーロラを潜ってこの世界から去って行った。

「あたし達がいる世界以外にも世界はたくさんあるのね。キンジ以外のオーズもいるってことはあたしも別に存在してるのかしら?」

 

「そりゃそうなんじゃないのか?・・・そういえばアリア気になっていたことがあるんだが・・・・」

 

「ん?どうかしたの?」

 

何となく気になっていたことがあったので聞いてみる。

「お前って確か泳げないはずなのにどうやって俺を助けたんだ?」

 

 ショッカーグリードの攻撃で海に落とされた時、助けたのは間違いなくアリアだった。だけどアリアは泳げないはずなのにどうやって俺を助けたんだ?

「べ、別にどうだっていいじゃない。あたしの実力よ」

 

『ガゥ!』

 

 アリアが何かを思い出した様子で顔を赤くすると・・・アリアのポケットからトラくんが飛び出てきた。・・・最近エヴィルとかのことで忙しかったせいで久々にあった気がするぞ。

 

『ガゥガゥ!がぁ~』

 

「こ、こらっ!キンジにそのことをばらさないでよっ!」

 

 残念ながらトラくん。・・・俺にはトラくんが何を言ってるのかさっぱり分からないぜ。つーか分かってるアリアが逆に分からねぇよ。

「トラくん・・・ジャスチャー」

 

『ガゥ~がぁ~!』

 

 アリアのペットにされてしまって忘れられがちだが・・・元々は俺の所有物だったトラくんは俺の言葉にもちゃんと反応してくれる。だから俺はアリアのやった行動をジェスチャーで伝えるように言うと・・・トラくんは何やらアリアの制服を噛んで引っ張るような動作をした。

「・・・アリア。もしかして俺を助けに飛び込んだのはいいが、泳げないからトラくんに岸まで引っ張ってもらったってことはないよな?」

 

「そ、そんなのある訳ないじゃないっ!」

 

 ヒステリアになってない俺でもはっきりと分かった。間違いなく溺れかけてた所をトラくんに助けられたんだろうな。

 

「キンジ・・・あんた失礼なこと考えてない?もし考えてるってんなら風穴マグナムショットよ」

 

 アリア・・・それはアポロガイストの技だぞ。

「何やってんだお前ら?」

 

「アンク・・・」

 

 俺がアリアに銃を向けられてしまったそのタイミングで空からアンクが降りてきた。コアメダルが6枚になったことで一応自在に飛べるようにまではなったらしいが・・・怪人態にはやはりなれないらしい。

「アンク・・・どこ行ってたの?」

 

「近くにあったキャッスルドランでエヴィルの事後処理についてどうするかを相談してきた」

 

 

 2時間前、真木博士を捜索中と渉からの報告があった。どうやらまったくと言っていいほど情報が入っていないらしい。

「そうか。そういえばもうすぐかなえさんの裁判だったな」

 

「えぇ!理子も来てくれるって約束してるし、証拠もバッチリ何だからきっと大丈夫よ!」

 

 そしてアリアがそんな意気込みを告げてから数日・・・とうとうアリアにとっての運命の日・・・かなえさんの裁判の日がやってきてしまった。

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

 俺達が裁判所へと足を進めている頃、俺達が向かう予定の裁判所からさほど遠くない場所にある喫茶店では独特の雰囲気の少年とモモタロスにどことなく似ている青鬼がコーヒーを飲んでいた。

 

「・・・テディそろそろ行くよ」

 

「あぁ、分かった」

 

 電王が変身に使うようなパスを持った1人の少年と青鬼みたいな怪人はお金を置いて席を立つ裁判の前日、真っ暗な夜空が見える暗いどこかではヒルダが大量のセルメダルの上に青と灰色の布を被せて、その上に置いてある数枚のコアメダルを眺めていた。

「青が1枚に・・・灰色が3枚ねぇ。・・・もう少しメダルが欲しいわね」

 

 数枚のコアメダルを小さな箱のようなケースにしまったヒルダは玉座のような装飾のされているイスに座る。

「そう言えば・・・たしかカザリとかいうグリードがメダルを独り占めしようとしてるらしいじゃない。・・・そうね、足りないなら奪えばいいのよね」

 

 そう呟いたヒルダはマントと牙のような絵でVと記されたガイアメモリを手に取りながら微笑する。

「そのためにもまずはトオヤマキンジ・・・王様になりきれてないオーズを利用しないとね」

 

 コアメダルの入ったケースをガチャガチャと振ったヒルダは夜空に輝く月を眺めた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

「被告人・神崎かなえを・・・懲役568年の刑に処す」

 

 東京高等裁判所第800法廷の響いた判決に・・・弁護席にいた俺は耳を疑った。死刑や終身刑なら後回しにされるはずの『主文』を裁判長が最初に言わなかったから嫌な予感はしていたが・・・・まさか神崎かなえさんが有罪判決だなんて。

「・・・・」

 

 隣に座っているスーツ姿の理子は鋭い目つきで検察側を睨む。あの戦いの後、再びヒルダを探しにいったジャンヌと、先日エヴィル残党としていつの間にか仮面ライダーW倒されて捕えられたブラドは不参加だったが、この裁判は勝てると思っていたのに。

「おかしい・・・この裁判は明らかに・・・」

 

 なぜか傍聴人は1人もいないし、マスコミすら1人もいない。俺達には分からない何かが背後にあるような気もする。

「不当判決よ!こんな・・・どうして!?こんなに証拠は揃っているのにどうして!?ママは潔白よ!」

 

 勢いよく立ち上がったスーツ姿のアリアは検察側に駆け寄ろうとするが・・・若い女性弁護士の連城黒江さんが抱きつくようにして止めた。

 

「騒ぐなアリア!次の心証が悪くなるッ!即日上告はする!落ち着けっ!」

 

 次と言うのは最高裁のことだ。そこで終身刑にされてしまえばもう覆せない。アリアは検察官や裁判官が悪いなどと言ってから何度も「やり直せ!」と言って彼らに殴りかかろうとするアリアを俺も押さえようとすると・・・

「アリア。落ち着きなさい」

 

「っ!?」

 

 被告人席にいるかなえさんの一言でアリアは我を取り戻した。するとアリアの瞳は裁判官達への怒りの目から「行かないで」とでも言いたげな悲しみの目へと変わった。

 

「ありがとうアリア。あなたの努力・・・本当に嬉しかったわ。まさかアリアがイ・ウーやエヴィルを相手にここまで成し遂げるなんて。あなたは大きく成長したのね。それは親として最高の喜びよ」

 

 涙目のアリアにそう告げたかなえさんは今度は俺の方を振り向く。

 

 

「遠山キンジさん。あなたにも心から感謝しています。本当にアリアは良いパートナーに恵まれました。それを直接見届けられて嬉しいです。でも・・・・こうなることは分かっていたわ」

 

 結局減刑できたのはイ・ウーだった理子とジャンヌ、ブラドに加えて、つい先日自ら元・イ・ウーを名乗り出てきたNEVERのリーダーの大道・M・カツミの分だけだった。NEVERのリーダーであるカツミが自首をしてきたのは意外だったが・・・たった今来た報告によると刑務所から逃走をしてしまったらしい。

「・・・減刑させてから逃げ出すなんて。・・・警察や武偵にとっては手間でしかないな」

 

 まるで借りを返すためにでもやってきたみたいだな。しかしそれでも他のメンバーについては証拠不十分で残されたままだ。それにかなえさんに対する検察側の主張は、素人の俺でさえ支離滅裂に思えた。理屈が成り立っていないし、証拠だってあやふやだった。・・・俺がそんなことを考えていると連城弁護士は自分のAudiniに俺達を乗せるとかなえさんを乗せた護送車を追うように車を出した。アリアをかなえさんの近くに居させたいという計らいだろうな。

「どうすりゃいいんだ?」

 

 世界中に散らばったイ・ウーの残党をすべて逮捕しなきゃいけないのか?どれだけいるかも分からないのにそんなことできるはずがないじゃんか。仮にやれたとしても最高裁までに間に合うわけもない。俺にはグリードの問題だってあるんだぞ。・・・そんなことをぐちゃぐちゃ考えながら俺は隣に座っている理子を見た。何だか理子はさっきから何かを考えている様子だった。

「・・・・?」

 

 車は護送車を追いすがるように走っていると・・・山王下に近づいた辺りで護送車が停まった。連城弁護士が見ている先を見て俺もすぐに異変に気づいた。

「信号が・・・」

 

 前方の信号が全部消えてしまっているんだ。赤・青・黄色のいずれも光らずに・・・。歩道者用の信号も消えてしまっていて、人々は横断歩道の前で辺りをキョロキョロと見渡している。

 

「なんだ?・・・」

 

 見れば道路の左右のビルからサラリーマン達が困り顔で出てきている。昼間だから気づくのが遅れたが、ビルの1階にあるコンビニやカフェが薄暗い。

「停電か?」

 

「っ!」

 

 連城弁護士がそう呟いた瞬間、理子は何かを警戒するように目を開いた。そして次の瞬間・・・俺の目が異様なものを捉えた。・・・前方の護送車の下から黒いものがこちらに向かって広がっていた。燃料漏れのようにも見えるが・・・違う。あれは影・・・影が伸びているんだ。

「・・・・っ!」

 

 影はみるみるうちに車の下を覆っていく。そしてようやく俺がこの影の正体に気づいた瞬間・・・閃光に続いて車を包み込むような放電音が周囲に響いた。

「くっ!?」

 

「~~~~~~っ!!」

 

連城弁護士の驚く声とアリアの悲鳴が聞こえた。最初は炸薬かとも思ったが・・・これは違う。高圧流が車を通り抜けたのだ。幸い電流は外側の金属部分だけを通り過ぎて、中の俺達は無事だが・・・ボンネットからは煙と炎が出ている。

 

「みんな車から出ろ!危険だ!」

 

 ドアを蹴り開けて外に出ると、前方の護送車からも煙が上がっていた。しかもタイヤはすべて潰れている。

 

「かなえさん!!」

 

 護送車に俺とアリアが駆け寄ろうとした時、放電が護送車の後部から弾けた。

「ママっ!」

 

「待てアリアッ!あれは罠だ!」

 

 よく見れば運転手がドアをガンガン叩いている。おそらくは壊れて開かなくなってしまったか、何らかの仕掛けで出れなくなったかだろうな。まぁどっちみち出られなくなっているのには変わりないが・・・。

 

「っ!」

 

 道路に出た俺は足元にあって異様な影がなくなっているのに気づく。

「ヒルダ・・・!」

 

 その名前を呼んだのは・・・そいつが見えたからだ。あの時の宣戦会議で『眷属』を名乗り、あのばで最も好戦的で・・・アリアに噛み付いた吸血鬼だ。

「ヒルダ!写真では見てたけど、会うのは初めてね!」

 

 あの時の記憶がないアリアは反射的に拳銃を抜いてヒルダへと向けたが・・・ヒルダはそっぽを向いた。

「私、今日は戦う気分じゃないのよ。日の光だって嫌いだし。・・・でもつい手が出ちゃった。だってタマモの結界からノコノコ出てきてくれたんですもの。それに・・・」

 

 日傘の柄を抱くようにして頬に寄せたヒルダは・・・黒いエナメルのヒールの片方を鳴らして護送車の中を示す。

「これ、あなたのママよね?お父様のカタキは一族郎党根絶やしにしてやるわ」

 

「っ!!」

 

 アリアはいつもの行動パターン通り真正面からヒルダへと駆け寄っていく。俺も銃を抜いてヒルダの日傘を狙おうと駆け出して、俺とアリアの影が護送車の影を踏んだとき・・・

「・・・ンッ!」

 

 ヒルダが小さく力むのが見えたかと思うと・・・

「うッ!?」

 

「きゃぁぁぁっ!?」

 

 俺とアリアが同時に転倒してしまった。まるで60万ボルトのスタンガンを喰らったみたいな衝撃。・・・これがこいつの超能力か。・・・電撃を角から出すウヴァみたいな技を使いやがって。

「だからぁ・・・そんな血の気の多い姿を見せないで。ガマンできなくなっちゃうでしょ?あぁ、もう食べちゃおうかしら?お前たちなんか第一態でもやっちゃえそうだし」

 

「・・・くっ!」

 

 立とう・・・立って戦おうと力を入れるが・・・駄目だった。たしかに神経が痛みつけられて動けないってのもあるが・・・今の衝撃で俺の中にある紫のメダルがまた暴走しそうになっているので、それを押さえ込むのに精一杯になってしまっているからだ。

 

「この前は感じられなかったけど・・・今のあなたからは少しだけ王様の気配がするわね。この数週で何かあった?」

 

「・・・まぁ色々とな」

 

 色々ありすぎて大ピンチの連続だったぜ。紫のメダルの暴走とか、エヴィルとの決戦とかな。まぁピンチなのは現在もだけどな。

「ヒ・・・ルダ・・」

 

 ガクガクと膝を振るわせつつ、まだ煙を上げている護送車のナンバープレートにしがみついたアリアだったが・・・・さすがに立つことはできなさそうだ。

「・・・あぁ、私ったら駄目ね。アリア、あなたを見ていたら食欲が沸いてきちゃった。あなたの美味しい味、覚えちゃって、覚えちゃって・・・」

 

 アリアの拳銃なんかお構いなしに、アリアに近づいてきたヒルダは両膝を揃えてしゃがむ。

「またつまみ食いしちゃおうかしら?そっちの王様モドキは今はワインというよりぶどうジュースが似合いそうね。でもあなたは100年物のワインのようなもの」

 

 王様モドキって・・・明らかに俺のことだよな?たしかに俺はオーズであって王様なんかじゃないし、ぶどうジュースも嫌いじゃないが・・・アリアとの格差がハンパ無いな。

「くっ!?・・・ガァァッ・・」

 

 やばい・・・だんだん紫のメダルが抑えきれなくなってきたぞ。こんな状況じゃ間違いなくアリアだけじゃなく、かなえさん達にも危害を加えちまう!何とかして押さえ込まないと!

「ヒルダッ!」

 

 叫んだ声は・・・車から出てきた理子だった。目だけでそっちを見てみれば、理子は両手でワルサーを持ち、髪のテールでナイフを構えている。

「よせ・・・ヒルダっ」

 

 双剣双銃で構えている理子だったが・・・遠目でも分かるぐらい震えてしまっている。恐怖を押し殺して虚勢を張っている感じだ。そういえば理子は幼い頃、ブラドに監禁されていたんだったな。顔見知りしてる様子を見るに、その頃に理子とヒルダは会っているのか。

「あぁん4世。なんて凶暴な目、かわいい。・・・だから好きよ4世。私が最も高貴なバルギー犬なら、お前は狂犬病にかかった野良犬。でも・・・分かるでしょう?あなたと私はお友達」

 

 自分を抱きしめるような動作をしたヒルダは俺とアリアなんかをもう見ていないように理子に語りかける。

「お父様がご不在の今は、私がドラキュラ家の主。お父様がしたように檻に閉じ込めたりはしないわ。私の大理石のお部屋も、シルクの天蓋付きのベッドも、純金の浴場もみんな貸してあげる。ヨコハマの紅鳴館を任せてあげてもいいわ」

 

「近づくなっ!甘く見るな!そんな下らないウソにあたしが騙されるか!」

 

 叫ぶ理子にヒルダは自身の口元に指を寄せて笑った。

「私の目をみなさい理子。私の目がウソをついているように見える?」

 

「っ!?」

 

 ヒルダの目・・・金色の輝きを僅かにたたえた赤い瞳をつい視界に捉えてしまった理子は・・・・「しまった」と言いたげな表情で小さく息を呑んだ。

 

「ほら、剣と銃を下ろしなさい。私との友情のために。私の目を見ながら・・・そう。ゆっくり見ながら。・・・ゆっくり、ゆっくり・・」

 

 すると理子は手に持っていたワルサーと髪で握っていたナイフをゆっくりと下ろしていく。

 

「そう、それでいいのよ4世。偉いわ。私の言うことをよく聞くいい子ね」

 

 どうやら理子は理子自身の意思とは関係無しに身体が動いてしまっているようだ。自身の目の前まで迫ってきたヒルダに発砲をせず呆然と見ているだけだ。どうやら催眠術か何かに掛けられたらしい。・・・やばいぞ。これで戦える奴がいなくなった。生かすも殺すもヒルダの思いのままじゃねぇか。

「友情の証に・・・あなたにあげる」

 

 理子の目の前まで近づいてきたヒルダは自分の耳から蝙蝠の翼の形をしたイヤリングを片方だけ外し、理子の耳につけた。

「っ!」

 

 震えながらも目だけはヒルダを睨む理子に・・・ヒルダはニコニコと笑顔を向けてくる。

「・・・ガァァッ」

 

 近くのミラーを見ると・・・俺の目が紫色に発光していることに気づく。・・・このままじゃ紫の力を抑えきれずに暴走しちまうな。

「くっ!・・・このままじゃ・・」

 

 このままじゃ本当に全滅してしまう。・・・そう思った時・・・

「・・・・?」

 

 ヒルダが日傘を傾けて、整った細い眉を寄せて青空を眺めた。紫色になっている俺の瞳に写った空には・・・

「電・・・王?」

 

 今まで見た事がない姿をした青い電王がバイクに乗りながらこちらへと落下しようとしていた。

「ハァッ!」

 

 俺達の前に着地した青い電王はバイクの前輪を軸に後輪を回転させてヒルダへと攻撃しようとするが・・・ヒルダはすぐに後ろへと下がって回避する。

「危ないところだった。君がアリアだね?・・・一目で分かったよ」

 

 バイクから降りた青い電王はアリアの方を見ながらそう言った後、背中に抱えている先端に銃口のついた青い剣を手に取ると・・・アリアを守るようにヒルダへと立ちふさがった。

「ヒルダ・・・キミは最も傷つけてはならない人を傷つけた」

 

 ヒステリアの時の俺みたいな口調でそう言った青い電王は独特のデザインの剣をヒルダへと向ける。すると日光を受けて宝石のように煌めく剣にヒルダは不愉快そうに眉を寄せた。

「ヒルダ。キミにはアンラッキーなお知らせが3つある。1つはマチェーテディ・・・この剣の刃には加齢400年以上の十字架を削り取った純銀をコーティングしている。2つ目にマチェーテディの弾丸は基本的にエネルギー弾だが、実弾を装填することも可能だ。なので法化銀弾・・・それもキミが慣れていないプロテスタント教会で儀式済みの純銀弾を装填している。・・・キミはお父上ほどに僕らとの戦いに慣れていないのだろう?」

 

 銀の弾丸・・・購買で売っているあのバカ高い通称『銀弾』のアレかよ。それもおそらく法化被覆・・・俺の苦手な分野だが、名のある教会や神社でまじないを掛けられている対超能力者弾を使ってるってことかよ。

「3つ目・・・ボクは怒っている。キミがアリアを傷つけたことに」

 

 独特な武器を突き出すように構えた。あの武器であの構えなら隙があればいつでも狙撃ができるし、斬り込むこともできるな。俺のジャリバーとかトラクローじゃできない構えだな。

「・・・イヤだわ。とってもイヤなニオイ。どうも銀臭いと思ったら・・」

 

 ヒルダは黒い駝鳥の羽を使った扇を開くと、自身の口と鼻を隠す。どうやら青い電王の威嚇が効いているみたいだ。

「貴族が正しい手順を踏まず、奇襲をする非礼をするのは承知の上だが・・・竜遂公姫・ヒルダ。キミをここで倒す。アリア、目を閉じて。淑女に・・・アイツの血なんか見せたくないからね」

 

 アリアにそう告げた青い電王はヒルダを‘倒す’ために一気に距離を詰める。・・・このままじゃマズイっ!

「っ!・・・変身っ!」

 

『タカ!トラ!バッタ!タットッバッ!タトバ、タッ!トッ!バッ!』

 

 紫のメダルを何とか押さえ込んでオーズに変身した俺は、すぐさま駆け出して青い電王の刃をトラクローで受け止めた。

「仮面ライダーオーズ。・・・先の戦いの時に最前線で戦っていた仮面戦士の1人か。どうして邪魔をする?ヒルダは竜遂公姫だぞ」

 

「たしかに吸血鬼で犯罪だってしているが・・・仮面戦士の力を怪人相手以外に使うのは間違ってるだろ」

 

 犯罪に加担している仮面戦士・・・たとえばエヴィルの仮面戦士とかには例外的に使われるがな。

 

「それは日本人だけが意識している決まりだ。他の国では怪人でない犯罪者相手にも仮面戦士の力を使う。それにヒルダは吸血鬼・・・れっきとした怪人だ。そこを退きたまえ」

 

「・・・断る。それじゃまるでガイアメモリを持っているだけの人間を怪人って言ってるようなもんだぞ。吸血鬼と言っても少なくとも今は人の姿をしてるだろ。だったら人として相手をしてやれ。それにここは日本だ。業に入れば業に従えって言葉が日本にはあるんだよ」

 

 そう言った俺は青い電王の剣をアッパーをするようにトラクローで弾いて吹き飛ばすと・・・剣はモモタロスに似ている青い鬼に変わった。

「エル、ここは彼の言う通り仮面戦士の力をヒルダ相手に振るうのはやめておこう。・・・と言いたいところだが、すでにこの件は一度終了のようなのでそうする必要もないようだ」

 

「「・・・・?」」

 

 話の分かる青鬼が向いている先を振り向くと・・・ヒルダは車の影に溶けるように沈んでいた。

「淑女と遊びたいのなら時と場所を考えなさい無礼者。こんな天気の悪い日、昼遅くに遊ぼうなんて・・・・気高い竜遂公姫が受けると思って?・・・まぁ今回は許してあげる。じゃあね。今日はガマンしておいてあげるわ」

 

 そう言ったヒルダはついに完全に影の中に沈んだ。

 

「ふぅ~~」

 

 変身を解除した俺は気の抜いた声が聞こえた方を振り向くと・・・そこには理子がアスファルトにへたれ込んでいた。催眠術と緊張の糸がまとめて切れた感じだな。

「・・・で?お前は何者なんだ?」

 

 俺が青い電王に振り向くと・・・青い電王はベルトを外して変身を解除した。するとそこにいたのは外国の武偵高らしき灰色のブレザーの制服を着た黒髪の美少年だった。

「大丈夫か、アリア」

 

 美少年は倒れているアリアに肩を貸す。俺は肩を貸されて立ち上がるアリアのところへと歩み寄っていくと・・・

「もういいわ。肩、放して」

 

 プライドの高いアリアが、まだ小さく震える膝で少年と向き合った。

「ママは・・・?」

 

 アリアが車の方を見るので俺も見ると・・・かなえさんは青鬼に片脇を支えながら、安心したような目でこちらを見ていた。規則上しゃべることはできないが、どうやら大丈夫そうだ。・・・しかし本当にできた青鬼だな。特徴からしてイマジンか?

 

「助けてもらって言うのも何だが・・・お前は何者だ?電王みたいだが・・・何しに来た?」

 

 俺が亮太郎のバイクとそっくりなバイクを眺めながら言うと・・・少年は黒曜石のような瞳で俺のことを睨んできた。

「・・・人に素性を聞く前に、まず自分から名乗れ」

 

「・・・遠山キンジだ」

 

「知っている。キミは仮面ライダーオーズとして有名だからね」

 

 じゃあ聞くなよ。

「ボクはエル・ワトソン」

 

 その名を聞いたアリアが「えっ?」と呟きながら少年の方を振り向いた。ワトソン・・・その名は探偵科の教科書にも載っているほど有名な人物だ。シャーロック・ホームズ。アリアの曾祖父にしてイ・ウーのリーダーの名パートナー。元軍人の医師で終生シャーロック・ホームズの相棒だった人物の苗字だ。

「えっ?・・・じゃあ、あんた・・・まさか・・」

 

 さっきの電流とは別に身体を震わせたアリアはワトソンを見上げる。するとワトソンはアリアに小さく笑顔を向けたこくりと一度頷いた。

「そう、ボクはJ・H・ワトソン卿の曾孫だよ」

 

 今度は俺の方に眉を寄せながら振り向いてくる。

「トオヤマ、キミは『何しに来た』とボクに聞いたが・・・理由が必要かい?」

 

 まぁ、仮面ライダーは助け合いだからそれでも充分理由になるが・・・何だかよく分からんが引っ掛かるんだよな。

「それぐらい聞いてもいいだろ。俺はお前を知らないんだぞ」

 

 俺がそう言うと・・・ワトソンはアリアとかなえさんを順々に見た。

「ボクは許嫁と義理の母親を助けに来た。それだけだよ」

 

「・・・?」

 

 意味の分からなかった俺がアリアの方を見ると・・・アリアは目を丸くして俺を見ると・・・驚いた表情のまま、慌てるように目を逸らした。

「・・・許嫁?」

 

 何だか訳の分からない場の空気に・・・俺はもう一度ワトソンに尋ねる。

「アリアのことだ」

 

 ワトソンは「当たり前だろ?」と言わんばかりにサラッと言い放つと・・・

 

「アリアはボクの許嫁(フィアンセ)だ」

 

 

 自分よりも背が高い俺を見上げて繰り返しそう言った。

と何処かへ歩いていった。

 




名前:五代祐輔

 古代の戦士クウガとして各地を旅する青年。前世はアークルの力で不老不死に限りなく近くなり1000年以上もの長い時を生きたリントの戦士リク。遺跡でアークルを手にしたことでその記憶を得て事実上リクと同化した。戦役ではリクとして名が通ってしまっていて、リクの知り合いだった玉藻から兄のように慕われている。

名前:リク

 五代の前世。800年前に錬金術師の姉妹であるアミカとアミコと出会い、アンクの誕生に立ち会う。その後アンクの存在に気付いたクガ王によって様々なメダルが作られグリードが誕生し、クガ王が最凶の王オーズとなった際は究極の闇となってオーズと戦いアマダムが砕かれ再生能力を失い命を落とした。

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