緋弾のアリア 欲望の交差   作:彩花乃茶

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バッタコア×1
ゾウコア×1

サソリギジ×1
カニギジ×1
エビギジ×1



旅路とオペレーターと魂の受け継ぎ

装備科棟は地上1階、地下3階と地下の方が広い作りになっている。まぁ、地下と言っても学園島は人工浮島なので微妙なところだが・・・。俺とレキ、ついでにハイマキは『ひらがあや』と平仮名で書かれたB201作業室をノックすると・・・・

 

「はーい!開いてますのだ!」

 

中から子供みたいな平賀さんの声が聞こえてきた。

「平賀さん!俺だ。遠山だ」

 

 俺は物置のようなごちゃごちゃした部屋を身体を横向きにして進んでいくと、奥の作業台にはテレビとDVDが載っていて女児向けのアニメが流れていた。そしてその脇でナ何かを溶接していた平賀さんが振り返った。

 

「おおっ!とーやまくんがレキさんを連れているのだ!これはデキているのだ!」

 

「これは・・・・できているんじゃなく勝手についてくるんだ。それよりもできているか?」

 

「デキているのだ!お似合いの2人なのだ!」

 

 そう言った平賀さんは左右の手で俺とレキを指差す。

「いや、そうじゃなくて・・・」

 

「あはっ!デキてるのだ!」

 

 ゲンコツくれてやろうか?

「デキてない。そんなことよりも頼んだ物はできているのか、って聞いているんだよ」

 

「あはっ!ご注文の品もできているのだ!できているのだ!」

 

 もう一度尋ねると平賀さんは頭の上に見えない豆電球を灯したような表情をするとゴミゴミした道具棚に頭から上半身を突っ込んでもぞもぞと探り始めた。

「ぬお~!もうちょっとで届くのだ~!」

 

 ていうか、よくこんなに物があるのに何処に何があるのかを把握できているよな。まぁ、平賀さんはアメリカの武器メーカーやスマートブレインとかのライダーシステムを作る企業からのスカウトもあるくらいの天才少女だし、普通の人の頭の構造とはどっか違うんだろうな。・・・・そんなことを考えていると平賀さんは緑、灰色、水色、真紅といった4つのカンを持って出てきた。

「これがクワガタカンドロイドのクワ君で~。こっちがゾウカンドロイドのう~蔵さん、この子がシャチカンドロイドのシャッちゃん、そしてこの真っ赤な鳥さんがコンドルカンドロイドのレッドコンドルなのだ」

 

 最後のコンドルカンの名前・・・・何かおかしくなかったか?何だか少しだけトレンディな感じがするぞ。コンドルの代わりにファルコンにするとか、レッドの代わりにブラックとかにすると・・・なおさらな。

「・・・・もう少し名前は何とかならなかったのか?」

 

「じゃあクワガタカンの名前はクワガライ・・・・」

 

「悪い。やっぱりそのままでいい」

 

 危なかった。雷の忍びっぽい名前をつけさせないぞ。・・・このままじゃ他のカンドロイドも変な名前にされてしまいそうだったな。

「まぁ・・・・金はもう渡しているし、たしかにもらっていく」

 

 そういった俺は4つのカンドロイドをしまうと平賀さんはレキの方を向く。

「レキさんもまた貫通弾の部品を買ってくださいなのだ。硬化タングスタン、カーバイド。素敵な弾頭を用意しておくのだ!いつもまいどありですのだ!」

 

 どうやらレキは平賀さんの常連客らしいな。俺にカンドロイドを売り、レキにも武器を売る。つまり俺達が戦うほど平賀さんは儲かるわけか。羨ましい商売だよな、武器商人ってのは。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

 

「これで良し!・・・・さて、行くか」

 

レキと暮らし始めてからさらに数日が流れ『リマ症候群』狙いのレキ人間化計画にチャンスが訪れた。その日は水泳の授業があったのだが婚活に失敗したらしい蘭豹が授業を潰してくれたせいで、女子の水泳の授業は放課後になったらしいからだ。俺はその間にハイマキを魚肉ソーセージで釣って体育倉庫に閉じ込めると協力者と落ち合う約束の場所にむかった。

「遠山!」

 

 学園島の中央辺り、第2グラウンド脇のテニスコートに向かうと、後輩の女子達に囲まれているジャンヌが俺に気づいて声をあげたので・・・・

 

「ジャンヌ、来い、急げ」

 

 と、手招きをした。そして結った銀髪を一部解いて背中に流し、制服に着替えてテニス部のクラブハウスからできてたジャンヌは・・・・どうゆう訳か俺の2メートル手前で止まった。

「遠山、あまり私に近づくな」

 

「は?・・・なんでだよ?」

 

「それは・・・・その・・・な」

 

「まったく!女心が分かっていないねぇ遠山くんは!」

 

 ジャンヌが少し恥ずかしそうに口ごもると、後ろから那須野がジャンヌに抱き付いてきた。

「な、いきなり何をするんだ亜希子!?」

 

「ふっふっふっ!、部活を抜け出して男子と会話だなんて青春してるじゃないかね!もしかしてLOVEとLOVEの関係?」

 

「そ!?そんな訳ないだろ!?」

 

 那須野は弄り口調でからかうとジャンヌは顔を赤くしながらそれを否定する。平賀さんのときもそうだったが、どうして女子はこういう話に持っていこうとするんだろうか?

「まぁ、簡単にジャンヌちゃんの気持ちを説明すると・・・・『自分は汗をかいたけど、遠山くんが急げといったので濡れたタオルで身体を拭いて香水で誤魔化しただけだからあまり近づかないでほしい』ってことだよ遠山くん!」

 

「おっ!?おい!どうして亜希子がそのことを知っている!」

 

「女子テニス部部長を舐めちゃあいけないよ。そんな乙女の感情を読み取ることなんて歴代部長から受け継いだ女子力を使えばたやすいのさ」

 

 無駄にすごいんだな、歴代の女子テニス部部長。

 

「汗のにおいなんてしないし、してもそんなの別に気にするつもりはない。とりあえず話しながら歩くぞ」

 

 ふわり、と風が吹くと確かに若草のようないい香りがした。全然汗臭くなんかないぞ。・・・そういえば昔兄さん・・・というかカナに聞いたことがある。香水とはそれだけでは不完全なもので、女性本体の香りと組み合わさることにより最もいい香りになるみたいなことを言っていたな。

「頑張ってねぇぇぇ!」

 

 

 那須野はどういう訳かそんなことを言いながらジャンヌに手を振るのを尻目に俺達はその場を移動して情報科の学科棟の方に移動する。

「お前がアリアと別れてレキと組んだこと、情報科でもちょっとしたニュースになっているぞ」

 

「何でだよ?俺なんか話す価値もないだろ?」

 

「自分では知らないかもしれないがな、遠山。お前は武偵高、特に仮面戦士科でも矢車の次に戦闘能力において卓越した才能を持っていると見なされ、ひそかに一目おかれているのだぞ。お前が嫌がると思ってかあまり公にはされていないがな。私もその評判を聞いて少し見直したぞ」

 

 マジかよ。別に俺にそんなに才能なんてないぞ。

「教務科のデータにも書かれていたぞ。探偵科としての才能はあまり良いものではないが、強襲科や仮面戦士科としての能力は高く、本人の性格に難があるが人望も高い。次期リーダー格の最有力候補。とな」

 

 本人の性格に難がある、は余計だ。どっちみちリーダーなんかになるつもりはないけどな。

「ま、まぁ、俺のことはどうでもいい。それよりもレキについて何か分かったか?」

 

 武偵同士の対決は情報をより多く持っている方が有利になる。とはいえ自分で動いてしまうとバレるので第三者に依頼するのが定石だ。なので今回はイ・ウーで理子に情報処理のイロハを教えたらしいジャンヌに依頼をした。理子のだと余計な冷やかしが多いしな。

「一流の狙撃手は自分の情報を隠すものだ。レキにもその傾向がある。なので手に入れた情報は極々限られたものだった」

 

 それからジャンヌからレキの話を聞いてあいつの仕事のパターンは3つだけだということが分かった。1つは教師に命令された仕事だ。優秀な生徒には稀に教務科から指名で直接に依頼される。どうやらレキはその1人らしい。そして2つ目はLDスコア900以上の任務だ。LDスコアとは任務の難易度を表すものだが、スコア900とは一流の武偵企業でもトップクラスの人でしかできない依頼だ。そのスコアの依頼を受ける仮面戦士達は最低でも幹部怪人と対等以上に戦えるレベルじゃないといけないほどだぞ。最後の3つ目が‘鷹の目’・・・別にタカヘッドと関係あるわけじゃないが、あながち外れている訳でもない。というのも鷹の目とは狙撃手の高い視力を活かして遠隔から対象を見張る仕事だからだ。そして驚いたことにレキの‘鷹の目’は俺の周囲の人間を見張っていたらしいと聞いたときは驚かされた。

「私の手に入れた情報はこんなところだ。それで・・・お前は何か持ってきたのか?」

 

「持ってきた。・・・・音をな」

 

「音だと?」

 

 俺は軽く頷くとスタッグフォンを取り出した。

「レキはいつもヘッドフォンで故郷の風の音を聞いているらしいんだ。昨日あいつがシャワーを浴びているときにMP3プレーヤーを拝借してこいつに録音した」

 

「シャワーだと?お前達はどんな生活をしているのだ?」

 

 何かを疑うような視線でジャンヌは言ってきたが・・・・とりあえずは無視だ。スタッグフォンにイヤホンをつけた俺はその片方をジャンヌの耳につけた。

「・・・これで何か分かるか?」

 

「む・・・・」

 

 俺達は片耳ずつイヤホンをつけてその音を聞く。コードが短いので少し頭を寄せる形で聞いているとジャンヌからさっきのいい香りがした。この距離でこんな香りを嗅いでしまうとヒステリアになってしまいそうだが・・・・何とか我慢しないとな。

「ここだ。ここで風の音とは違う雑音が小さい音で入る」

 

「ふむ・・・」

 

 ジャンヌは目を閉じて真剣な表情で音に集中したので、俺はそのコメントを待つ。・・・こうして見てみるとこいつも結構美人だよな。全体的にクールな印象で魔女っていうより女優みたいな感じだ。

「私には分からない。だがこれを手がかりに・・・・な、何だ遠山?なぜ私を見る?」

 

「い、いや、お前が何か言うのを待っていただけだ」

 

 コードがつっぱったのでイヤホンを耳から取った俺はスタッグフォンから今の音声ファイルが入ったマイクロSDカードをジャンヌに渡しつつ、ジャンヌの言葉を待つ。そしてなぜか顔を少し赤くしていたジャンヌはおほん、と咳払いしてから・・・・

「これは手がかりになるぞ。相談相手に心当たりがある」

 

 と、腕組みをして人差し指と中指で挟んだマイクロSDカードを示していた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

 

 俺がジャンヌに連れられて通信科の音響学講義室に移動している頃、あれから一度も武偵高に来ていない明日夢は・・・・あの日、ヒビキさんが敗れてしまいほとんどの木が焼けてなくなってしまった修行の山に来ていた。

「・・・・どうして僕はここに戻ってきたんだろ。・・・僕は武偵を辞めるって・・・・鬼になることを辞めるって決めたはずなのに・・・・どうして・・・」

 

「それはお前にまだ戦う意思があるからじゃないのか?」

 

「っ!?」

 

 明日夢はいきなり聞こえてきた声に後ろを振り返ってみると・・・

「伊達さん。・・・・それに後藤君・・・」

 

 おみやげ袋を大量に抱えた伊達さんと、ミルク缶を担いでいる後藤が立っていた。

「後藤ちゃんがバースになるためのトレーニングとしてこの辺りで特訓をしようとしていたら、最近休んでいる救護科の優等生の後ろ姿を尾行させてもらったんだよ」

 

「・・・本当は伊達さんがおいしいおでん屋があるから特訓という名目で学校をサボってここにやってきた。そしたらその帰り道に安立を見かけただけですけどね」

 

「ちょ、後藤ちゃん。・・・・そこは嘘でも特訓ってしゃべろうよ。相変わらず真面目だねぇ~。・・・・まぁ、そんなことはともかく・・・・お前が鬼になろうと医者になろうと俺達がどうこう言うつもりはない。それは日向も同じだと思う。・・・・だがな、自分の道を全て投げ捨てて何もしないのは日向もきっと許さないと思うぞ」

 

 先ほどまでちょっとふざけたような雰囲気とは打って変わって真剣な表情をする伊達さんはヒビキさんをめったに使われない実名で呼びながら明日夢に語りかける。

「たとえ鬼になっても、医者になるとしても・・・・どっちも人を助けることができるからこそ、お前はどうするか悩んでいたんだろ。その気持ちを捨てるな。自分の魂の音を奏でてみろ。・・・・これが昨日意識が覚醒した日向からの伝言だ。・・・・会いに行けよ。もうあれからずっと病院にいっていないらしいじゃないか」

 

「・・・・魂の音・・・っ!!」

 

 何かに気づいた様子の明日夢は山を降りてヒビキさんが入院している武偵病院へと走り出した。

「・・・・受け継ぐってことはその流派やその物を受け継ぐってことじゃない。その魂を受け継ぐってことだ。・・・・後藤ちゃんも覚えておきなよ」

 

「はい、分かりました」

 

 真剣な表情で頷いた後藤を見て少しだけ笑った伊達さんは・・・・

「うっ!?」

 

「伊達さん!?」

 

 いきなり頭を片手で押さえてその場に膝をついた。

「あ、あ~あ。・・・せっかくのおでんを落としちゃったねぇ。・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「おでんなんてどうでもいいです!!そんなことよりもいきなりどうしたんですか?大丈夫なんですか!?」

 

「あ、うん。平気平気。ただちょっと立ち眩みがしただけだから・・・・それよりも天道屋のおでんが痛まないうちに早く帰ろうか」

 

「・・・・で、でも一応病院に・・・・」

 

 後藤は伊達さんを病院に連れて行こうとするが伊達さんは首を横に振る。

「いいって。俺は救護科の講師でもあるんだよ。自分の身体の調子ぐらい分かってるって・・・。大丈夫、何ともないから・・・・今のはね」

 

 この時の伊達さんの言葉の意味を後藤が理解することになるのは・・・・もうしばらくしてからのことだった。

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

ジャンヌがアイスブルーの携帯で心当たりのあるらしいある人物と連絡を取りながら、俺を案内した場所は情報科の隣の通信科の学科棟だった。

「私は通信科の中空知と仲がいい」

 

 その人物の名前に俺はピンとくる。中空知美咲・・・・通信科の2年で別のクラスなので顔は思い浮かばないが・・・声は知っている。というのも、彼女は強襲作戦時のオペレーターをよくやってくれる生徒だからだ。アナウンサーような美声な上に、状況を的確に教えてくれるのだがそれでBランク程度ってのはおかしいだろ。・・・そんなことを考えながら歩いていると俺達はラジオ局のような設備をした音響学講義室にやってきた。

「・・・ジャンヌさん?」

 

様々な種類のヘッドフォンを抱えてきた女子が、あまりにヘッドフォンを抱えすぎて前が見えなかったらしく・・・・

「お、おい!」

 

「はわぁ!?」

 

 俺にぶつかってしまい床に尻餅をついてしまった。そして彼女の眼鏡が宙を舞い、俺がそれをキャッチする中、ヘッドフォンは辺りに散らばってしまった。

「大丈夫か中空知?」

 

 俺の横に立っていたジャンヌは彼女に声をかける。・・・。えっ!?この人が中空知さん?・・・だいぶイメージが違うな。オペレーターをやってくれていた時は、もっとシャキッとした人だと思っていたのに。中空知さんは四つんばいになって「めがめめがね」と手探りで辺りを探し始めた。制服姿で這っているから何となく分かってしまったが・・・・胸、白雪級だぞ。雰囲気はともかく見た目は注意しておいた方がいいな。話しかけるのもなんか忍びないので俺はさっきキャッチした眼鏡を差し出し、それを受け取った彼女は・・・・

「えっと・・・どちらさまですか・・・」

 

 眉を寄せながら目を細めて、俺の顔を覗き込んできた。それでも見えないらしい彼女は息がかかる距離まで近づいてくる。・・・まずい、ちょっとヒステリアの血の流れを感じるぞ。落ち着けよ俺。

「っ!?」

 

 そしてようやく俺の顔が認識できた彼女はカサカサと後ずさり防音壁に背中をぶつけてしまった。

「あ、おっ!?おと・・・おとっ、おとこ!い、いやいいんです!す、すす・・・」

 

 わたわたとして何を言っているのか分からない上に、尋常じゃない慌て方をしている中空知さんはアリア並の赤面速度で顔を真っ赤にした。

「め、めがね、あ、ありありが、ございます」

 

 ありがとうございます、すら言えていない。滑舌の悪さが剣崎以上だぞ。本当にあのオペレーターの中空知さんなのか?

「人違いだろ、この人」

 

「中空知は中空知だ。お前は私の人選に文句をつけるのか」

 

 ジャンヌに睨まれたので、俺はもう一度中空知さん・・・らしい人物の方を振り向く。

「す、すみません、すみませんっ!すみ、すみませんっ!」

 

「い、いや、俺はまだ何も・・・」

 

「わ、わわ、私、ジャンヌさんが、1人で来ると思っていて、お、おとこっ、じゃくて男子が来るとは思っていなかったので、心の準備ができていなくてっ!興奮してしまって!あっ、興奮と言っても性的興奮ではなくてですねっ」

 

 中空知さんは両手を上下左右にジタバタさせる。

「く、くるなんて、カッコいい、しかも、思っていなかったから、インカム映像で見ていた遠山君が、が、がが・・・」

 

 何だか『この英文を正しい順序に並べよ』みたいな状態だな。・・・まぁ、話の内容は訳が分からないが・・・この声はたしかに中空知だな。・・・・残念なことに。

 

「遠山、中空知はお前と同じで性格に少々難がある。そっちの壁際にいってろ」

 

 俺は同じってなんだよ、と思いながらも壁際まで行くと、中空知はポケットから携帯を取り出して、ジャンヌから何かを教わるとクロックアップのような速度で電話番号を入力した。・・・・人間の指ってあんなにはやく動くんだな。そんなことを思っていると俺の携帯から着信音が流れた。

「・・・はい」

 

「初めまして。・・・と申し上げるのも奇妙なんですが、お会いするのは初めてですよね。中空知美咲です。先ほどは失礼しました」

 

 電話の向こうからはアナウンサーのような美声が聞こえてきた。え?・・・本当にさっきと同一人物なのか?・・・俺は中空知さんの方を向こうとしてみるが、ジャンヌが通せんぼのポーズで彼女を隠す。

 

「私は少々上がり症なところがありますので・・・・失礼ながら、このように通信機を介してご対応させて頂きますがよろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わないぞ」

 

 よく分からないがさっきの滑舌の悪かった中空知さんは通信機さえあればいつものオペレーターである中空知に変わるらしいな。俺が言うのもあれだが、変わった人だ。・・・・その後、俺は中空知からレキがプールの授業を終えるまでに風の音から分かったいくつかの情報を聞かされた。1つはその風の音はモンゴル北部から東部シベリアのどこかだということ。正直そんな地方なんかよりもあの音を聞いただけでそこまで分かる中空知に驚かされた。もう1つはロシア語交じりの日本語と古いモンゴル語を混ぜたような声が聞こえたらしいことだ。・・・・正直謎は深まるばかりだが時間がないのでマイクロSDを中空知に預けて、後で聞き取れた内容をまとめてメールで送ってもらうように頼んだ。そしてその去り際に俺はジャンヌからレキが『記録に残らない仕事』・・・つまり殺し屋の仕事をしていたことを聞かされたが・・・・今回は聞かなかったことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・・・・・・・・

「ヒビキさん!!」

 

 俺が慌ててレキのところに向かっている頃、明日夢はヒビキさんの病室へと駆け足でやってくると・・・・

「おう少年!俺が寝ている間もちゃんと鍛えていたか?」

 

 いつもの和やかな雰囲気のヒビキさんがおでんを食べていた。

 

「・・・鍛える鍛えないの話じゃないですよ。・・・あの時何もできなかった僕は・・・・あれから鬼になるのを辞めようかと考えたり、武偵も辞めてしまおうかとも考えたんですよ」

 

「・・・そんで?・・・その答えは決まったのか?」

 

 ヒビキさんは和やかな雰囲気から一転して真剣な表情をすると自身の音叉を取り出しながら立ち上がる。

「・・・僕、鬼にもなりますが医者になることも諦めません。鬼として戦いながら人の命を守って、医者として人の命を救えるような人になりたいです。誰も命を落としてほしくない。誰1人魂の音を止めさせない。・・・・そんなふうに僕はなりたいんです!」

 

「・・・・自分の道をはっきり決めたんだな。だったらもうその目標を諦めるなよ。たとえ今日と言う日が曇っていてもいつかは空は晴れる。・・・人の気持ちも似たようなものでどんなに悲しいことがあっても、きっといいことがあるんだ。俺の流派・・・・音撃道響鬼流の魂を受け継ぐなら諦めない強さを常に持っていろよ」

 

 そう告げたヒビキさんは明日夢に音叉を差し出す。

「・・・・はい」

 

 明日夢はその音叉を受け取るとヒビキさんは再び先ほどまでの和やかな表情に戻った。

「さぁて!一旦帰って明後日の修学旅行Ⅰの準備をしてこい明日夢!俺も引率するけど医者から退院は明後日って言われているから俺はまだ帰れないんでな!」

 

「はい!」

 

 

 やる気に満ちた表情の明日夢は急いで病室を出て近くの駅の方へと向かった。

 

「・・・これからが大変になるぞ明日夢。仮面戦士と怪人の戦いは命がけ、実力や経験も大事だが、何よりも必要なのは自分を貫こうとする意志の強さだ。それが弱いと戦いっていうのは簡単に負けちまう。・・・・今の俺じゃあのグランザイラスに勝てないと思うが、お前が仲間と一緒に戦えばきっと何とかなる。・・・・お前の旅路は始まったばっかりなんだから頑張れよ」

 

 ヒビキさんは走っていく明日夢の後ろ姿を見ながらそう呟いていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 9月14日、修学旅行と言う名目のチーム編成の調整旅行が始まった。実際のところは修学旅行ではないのでいわゆる『旅のしおり』にも・・・・『場所、京阪神(現地集合、現地解散)。1日目、京都にて社寺見学(最低3箇所見学し、後にレポート提出)。2日目・3日目、自由行動』としか書かれておらず、引率の先生もいないのだ。どうやら後藤は伊達さんとの特訓の都合で2日目である明日から合流するらしいが、それまで引率の先生がいないって教育委員会に見つかったら訴えられると思うぞ。

「・・・はぁ、ただ面倒なだけだろ教師達・・・」

 

 そう言いながらしおりを丸めて投げ捨てた俺は東海道新幹線のぞみ101号から、京都駅に降り立った。道中ほとんど寝ていたから実感はなかったが思った以上に新幹線が早かったな。品川を出たのが7時頃だったのに、まだ9時過ぎだぞ。・・・・そんなことを思っている俺の後ろをレキとハイマキも新幹線から降りてくる。

「・・・・・・・」

 

 あくまで俺から離れないつもりのレキとハイマキを俺は苦々しい表情で見ていると、同じ新幹線を降りてきた武偵高の生徒達がこちらを見ながらヒソヒソ話を始めた。女子生徒達のほうはこちらを向きながらキャー!とか言ってテンションを上げている。唯一の救いはアリアがかなえさんの裁判関連で欠席しているのと京都にも星伽神社があるとはいえ、白雪も街に出てくる可能性は低いってことだな。だって出くわしたら絶対にレキと戦争を始めて京都の人に迷惑をかけちまうじゃんか。・・・・それともう一つだけ救いだったのが・・・・

「最初は清水寺がいいと思うよ」

 

 昨日ぎりぎりで帰ってきて旅行に参加した明日夢も俺達と一緒に行動してくれているところだ。今まで戻ってこなかった理由は聞くつもりはないが・・・・この様子だと、もう大丈夫だろうな。とりあえずこいつが一緒に行動してくれるおかげで少しはカップル行動から仲良しグループの班に見えるはずだ。

「清水か。俺達だけじゃ適当に近くの場所に行って終了しそうだったから助かったぜ明日夢!」

 

「別に大したことはしていないよ。第一僕がいなかったら修学旅行は駅から近い所を適当に見て終わっちゃうなんて行動をしようとしてたの?」

 

 すげぇバレバレだ。

「・・・良く分かったな。たしかにそのつもりだったぞ」

 

「はぁ・・・だったら清水寺と金閣寺、銀閣寺のメジャーなところにいったあとに、銀閣寺近くの茶屋で時間を潰そうよ。そっちのほうが思い出に残ると思うよ?」

 

「そうだな!そうするか。・・・レキもそれでいいよな?」

 

 俺の質問にレキはコクリと頷く。・・・決まりだな。

「それじゃあ行くか!」

 

 こうして俺達の修学旅行Ⅰは始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ようやく決断したみたいね」

 

「・・・・・フンッ」

 

 俺達の修学旅行Ⅰが始まりを告げた頃、大阪城の屋根の上には人間体となっているウヴァと黒い服を着た謎の少女が立っていた。

 

「約束通り俺の持っているメズールのコアとガメルのコアメダルをお前に渡そう。お前も例の物を渡せ」

 

 怪人の姿となったウヴァはメズールのコアメダルを1枚とガメルのコアメダルを3枚相手に渡す。

「受け取りなさい。グリードであるあなたがこんな物に頼るなんて・・・お父様が知ったら大笑いするでしょうけどね」

 

「・・・・勝手に言ってろ」

 

 ウヴァはその少女がわざと落としたそのアイテムをいそいそと拾い上げると、そのアイテムの起動ボタンを押す。

『MACHINE』

 

 マシーンメモリ・・・・機械の記憶を宿したメモリを手に入れたウヴァは最近は息を潜めていたが再び動き始めた。

 

 エヴィルとグリード・・・2つの敵と戦うことになる修学旅行Ⅰはまだ始まったばかりだった。

 

 




名前:神敬介

 仮面ライダーXとしてGOD機関と戦った戦士。現在は海辺近くの町で小さな診療所を開いている。

名前:山本大介

 仮面ライダーアマゾンとして秘密結社ゲドンやガランダー帝国と戦った戦士。基本的にアマゾンライダーとして名が通ってるため、仮面戦士科以外で本名を知る人間はあまり多くはない。海外活動組の1人で日本にいることは珍しい。

 次回はオリジナルコンボが少しだけ登場します。

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