緋弾のアリア 欲望の交差   作:彩花乃茶

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counttheMedal!現在オーズの使えるメダルは

タカコア×1
ライオンコア×1
クワガタコア×1
サイコア×1
シャチコア×1
トラコア×1
カマキリコア×1
ゴリラコア×1
ウナギコア×1
バッタコア×1
ゾウコア×1

サソリギジ×1
カニギジ×1
エビギジ×1



最終日と7回と絶対半径

 俺の目の前でノブナガがメダルとなってこの世から消えてから数時間後、エヴィルの研究室では真木博士とカザリがモニターで俺とノブナガの戦闘の一部始終を見ていた。

「世界に良き終末を与えるために作り出したはずのノブナガ君が逆に終末を迎えてしまいましたか」

 

「残念だったねドクター。それはそれとして・・・白峰も捕まっちゃったし、彼の代わりがほしいんだけど?」

 

「・・・・分かりました。影月様の方に掛け合ってみましょう」

 

「その必要はありませんよドクター真木。すでにこちらで1人手配しています。最もその者は現在仕事中なので来るのは2~3日後になりますがね」

 

 真木博士とカザリが部屋の扉を振り返ると・・・・灰色のスーツを着た30代前半ぐらいの男が立っていた。

「・・・これは影月様。どうかなさいましたか?」

 

「8月の最終日・・・・エヴィル本部にて幹部全員が集まっての会議があります。・・・・無論、新幹部である貴方にも出席してもらいます」

 

「了解しました。・・・・もしやとは思いますが・・・・いよいよ首領様の宿願を果たすのですね?」

 

 影月と呼ばれた男は真木博士の言葉に頷くと無言で研究所を後にした。

「ドクター・・・あの男は何者なの?」

 

「・・・・そう言えばカザリ君には説明していませんでしたね。・・・・彼は影月信彦(かげつきのぶひこ)。エヴィル最初の改造人間にしてエヴィルの№2ですよ」

 

「あの男がここで2番目に強い奴なんだ。思っていた以上に殺気が強くてびっくりだよ」

 

 カザリの頬にはかすかに冷や汗が流れていた。

「あんなのが2番目ならここのリーダーはどんな奴なのさ?」

 

「・・・一言で言うならば・・・・『破壊者』ですかね。おそらく完全体となった君でも傷はつけることは難しいでしょう」

 

 真木博士の言葉をカザリは「まさかぁ!」と冗談だと思って聞いていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

 8月31日、夏休みの最終日。俺は現在・・・・

 

「まったく・・・どうして俺まで・・・・」

 

「仕方ないだろ!俺の単位が0,1単位が足りなかったんだから!!」

 

 探偵科の学科棟の掃除をしていた。・・・・簡単に説明すると俺や後藤はあの時の野球の試合で単位を何とかしたが・・・・アンクと信司は単位が足りていなかったので・・・・お情け依頼の掃除で単位を稼いでいるのだ。ついでに言うとアンクは不足が0,1単位だったので探偵科の掃除だけだが、残り1,2単位だった信司は武偵高の学科棟をすべてと言われて外を走りまくっている。

「信司の奴・・・大変そうだな」

 

しかし探偵科だけでもそれなりに広いため誰かに手伝ってもらおうと電話をしてみたんだが矢車は俊の病院に付いていくといって断られ、正太郎と陽はファングメモリの点検でミュージアムに行っている。後藤は訓練中らしく連絡が取れないし、東條はこんなときに限って風魔と喧嘩の真っ最中だったらしく連絡が途切れちまった。平賀さんにはオーラインクロスの改造を頼んでいるんで邪魔したくはないし、武藤は「モテる奴の手伝いなんてするか!」と電話越しに叫ばれ・・・・不知火は「他に頼む人、いるんじゃないかな~」と笑い混じりに電話を切られた。白雪は近くの神社で祭事があるので不在で理子は同人誌の即売会とやらにジャンヌを連れていってしまっている。

「久しぶりだな。・・・・こんな静かなのは・・・・」

 

 最近は俺の周りに必ず何人かが集まっていた。・・・・だけど今日はアンクだけ。俺は久しぶりに寂しいと思ってしまった。

「剣崎は信司を手伝っているし・・・・あとは・・・・」

 

 俺はアンクと別れて別の教室を掃除していると・・・・

「うっわ。しけた顔してるわね~。いつものことだけど」

 

 アリアがやってきた。先ほど「あとで何か奢ってやるから掃除を手伝え」とメールをおくったが本当に来てくれるとは・・・・。

「あらあら寂しかったの?顔にそう書いてあるわよ。・・・・会いたかった?」

 

「まぁ・・・・ちょっとな」

 

 いじめっ子の顔で笑いかけてくるアリアに俺は少しムッとなりながら返事をすると、何故かは知らないがデレデレとした表情をみせた。

「うんうん。正直なキンジはいいキンジよ!このアリア様も手伝ってあげる!」

 

「助かる。俺とアンクだけじゃ深夜までかかりそうだったからな」

 

 俺達は強襲科の鬼教官である蘭豹が最近婚活に勤しんでる噂話やメガガルーラが強すぎるなどとくだらない会話をしながら掃除を続けた。そして夕方となりようやく掃除を終わらせた俺とアリアは屋上の西側のフェンスに並んで立っていた。・・・・アンクも誘おうとしたが「そんなことよりも労働の後のアイスだ!」と言い残して1人だけとっとと帰ってしまった。

「キンジ・・・・ノブナガのことはもう本当に大丈夫なの?」

 

「ああ。平気だって言ったら嘘になるが・・・・このメダルがある限り俺達とノブナガの絆は消えることはないんだ。悲しんでばっかじゃいられねぇよ」

 

 そう言って俺が内ポケットから黒いメダルを3枚取り出して握ると・・・・沈みかけの夕日がさらに強く輝いた。

「・・・強いのねキンジは。・・・それにしてもすごい夕日。吸い込まれそうね」

 

「俺の袖にでも捕まっておけ。吸い込まれそうならな」

 

 詩的なことを言ったアリアに適当に答えてみると・・・・アリアは本当に袖を掴んできた。

「今日掃除を手伝いにきたのは・・・・アンクの単位の手伝いもあったけどそれ以外に2つあるの」

 

「2つ、理由?」

 

「うん。1つは時間が欲しかった。あたしはあんたにもっと話すことがあったはずなのに・・・・勇気がでなくてくだらない話ばっかしていたわ」

 

 話す事っていうのはおそらく緋弾のこととかだろうな。

「あの後はどうだ?あの光の球を撃ったり、理子みたいに自由に操れたりできるようになったのか?」

 

「いいえ。実は試してみたけどあれからできないのよ。条件でもあるのかしら?」

 

 肩をすくめていったアリアに俺は少し安心していた。アリアの体内にある『イロカネ』は白雪やジャンヌが持っているような不思議な力を発動させることができるらしい。普通はそんなものが自分の身体の中に入っていたとなると自分が怖くなったりもするはずだが・・・・さすがと言うべきか、アリアは今の口調から察するに少なくともその力を恐れてはいないようだ。それが正しいことなのか、危険なことなのか、俺には判断できないがな。

「あのね、曾お爺様はあの場で言っていた通り本当に消えたわ。あの後、どこの国にも何の情報もないの。でも曾お爺様は自分を『死んだ』と思わせておいて、唐突に現れるのが悪い癖なのよ。香港、ニューヨーク、バチカン・・・過去に何度もね」

 

「つまり・・・・まだ生きている」

 

俺がそう続けると、アリアはコクリと強く頷いた。

「イ・ウーは組織としては崩壊したらしいわ。リーダーが不在になって『緋弾』が部外者の手に渡った場合は解散することを前もって決めていたみたい。まぁ奴らは元々、バラバラの目的を持って集まっていた組織みたいだしね」

 

 今思うとイ・ウーの最後はあっけなかった。あっけなさ過ぎて違和感を感じた。・・・・まぁ、いまさら気にすることでもないと思うが・・・・。

「それでね。イ・ウーの証拠が充分集まったらママの裁判が始まるの。・・・・早ければ9月中に高裁判決が出るの。それで無罪になって検察が上訴すればママは釈放されるの」

 

「そうか。よかったなアリア」

 

「本当にありがとうキンジ。ここまで来れたのはあんたとアンクのおかげよ」

 

 振り向いたアリアの笑顔に照れた俺は顔を背ける。

「別に改まって礼を言わなくてもいい。俺はただ武偵憲章第1条を守っただけだ」

 

 つまり『仲間を助けた』だけ。そういうことにさせてもらおう。

 

「ママの裁判が終わったらあたしね・・・・・ロンドンに帰ろうと思うの」

 

 その言葉に俺は・・・・驚きはしなかった。いつか・・・この時がくると分かっていたからな。

「もう学校にもあまりこないかもしれない。裁判で忙しくなるから、あんたと会えるのも・・・・もしかしたら今日が最後かもしれないの。元々あんたとの契約は『武偵殺し』の件を解決するまでだった。だから本当は理子の証言が取れることが決まった6月に満了していたのよね。でも・・・・あたしはズルズルとあんたを引っ張っちゃっていた。そのせいであんたが単位不足になった」

 

 お前・・・・本当はズルズルと俺を引っ張っていたことを気にしていたんだな。・・・するとアリアは小さく頭をふせてフェンスにおでこをつけた。

 

「でも7月の祭りのときにあんたが『イ・ウーの一件が片付くまでは付き合ってやる』って言ってくれたとき・・・・涙がでるほどうれしかった。キンジはなんて優しい人なんだって思った。・・・・イ・ウーでもバカなあたしのために命がけで戦ってくれて・・・・あたし・・・やっぱり最良のパートナーはキンジだって思った。でも・・・・だからこそあなたに迷惑をかけたくないの」

 

 頭を上げたアリアは再び東京に視線を戻しながら続けた。

「だから・・・この0,1単位の小さな仕事が最後の依頼だったのね。まぁそれもあたし達らしくていいのかもしれないけど。・・・・そういえば最初の猫探しの依頼も0,1単位だったわね」

 

「ああ、そうだったな」

 

「ほ、ほら!元気出して笑いなさいよ!これはハッピーエンドなんだから笑顔で見送ること!」

 

 アリアは俺の頬をつねって引っ張りあげて笑顔を作らせる。

「あはっ、ひどい顔!」

 

 俺の顔がよっぽど面白かったのかアリアは声を出して笑った。俺もつられて笑うと、それで気が済んだのか手を離してくれた。

「ねぇ、キンジは来年の3月で武偵を辞めるのよね。その思いは変わらないの?」

 

 その言葉に俺は小さく頷いた。

「でもキンジ。ちょっとした提案があるわ。来年の3月までロンドン武偵高に来るの。イギリス武偵局とかSASで研修もできるし、英語はあたしが付きっきりで教えてあげる」

 

 それはもう「ちょっとした提案」じゃないだろ。・・・・悪いが俺は行くことができない。エヴィルは全世界で活動している様子だがグリードは日本だけ・・・・少なくとも俺はオーズとしてグリードやヤミーを何とかしないといけないからな。・・・・そんな俺の内心を悟ったのかアリアは・・・・

 

「・・・なんちゃって」

 

 苦笑いして顔を伏せた。実は少し期待していたのか、その表情はどこか残念そうだ。

「あとね、もう1つの理由は・・・・思い出が欲しかったの。今まであたしのパートナーになれた武偵は・・・・キンジ。あんただけだったわ。もう・・・あんた以上の人は一生見つからないかもしれない。だからキンジのことは忘れないよ。そしてできればキンジにもあたしの事・・・・忘れて欲しくない。だから今のうちに少しでも一緒に過ごして思い出を・・・・」

 

 そしてためらいがちにモジモジとしたアリアは照れくさそうに俺に命令してきた。

「あ、あっち向いてて!」

 

「っ?」

 

 視線を横に逸らすと・・・・しばらく無言の時が流れた。すると頬を赤くしているアリアは『空き地島』のほうに何かを伝えたいような視線を送りながら口を開いた。

「キ、キンジ、ごめんね。変なことを言っちゃって」

 

 アリア・・・・お前は何が言いたいんだよ。どういう意味なんだよ。思い出ってなんだよ。・・・・いや、本当は分かっている。・・・・だが俺にはそれはできないんだ。ヒステリアモードのこともあるがオーズのこともあって欲望を持っちゃいけないんだ。・・・・俺はそんなことを思っていると黙り込んでしまっていた。

「・・・何か恥ずかしいわね。こういう空気・・・」

 

「・・・・そうだな」

 

 そう答えた後に俺は自分でアリアを傷つけてしまったことに気づいた。これじゃアリアの気持ちを無視したような形じゃないか。せめて理由ぐらいは説明してやらないと無責任だよな。

「アリア・・・これから話す事を驚かないで聞いてくれ」

 

 俺はヒステリアモードのこととオーズの暴走の可能性をアリアに話そうと思ったその時、近くの気配に気づいた。

「っ!」

 

 気配のした東側のフェンスの上を振り向くと・・・・そこには戦場の運用を理念に作られた実戦的な狙撃銃ドラグヌフを肩に掛けている狙撃科のSランク武偵のレキがいた。

「レキ・・・」

 

 あんなところで何をしてたんだ?・・・それ以前にいつからいたんだ?いたことにまったく気づかなかったぞ。同じSランクであるアリアでさえ・・・。

「え、えっとね!?これは・・・その!・・・ただ一緒に仕事をしていたから・・・その!」

 

 さらに顔を赤くしたアリアは俺から少し離れる。どうやら一緒にいたのを見られて恥ずかしかったらしい。

「オルナミンG!!・・・そうよ!勝負に負けたから買ってこなきゃね!」

 

 一刻もこの恥ずかしい空気から逃れたかった様子のアリアは何度かこちらを振り返りながら早足で階段を下りていった。・・・ついでに言うとオルナミンはGなんてない。あるのはCだ。

「・・・・お邪魔でしたか?」

 

 アリアの背中を見送ったレキはこちらの方にやってきてようやくしゃべった。

「・・・何をしていたんだよ?」

 

「読んでいました」

 

「何をだ?」

 

 見たところどこにも本を持っていないぞ?

「風を・・・」

 

 レキはただその一言をいったかと思うといつの間にか俺の後ろに立っていた。

「・・・風が狂い始めてる・・・」

 

「なんだって?」

 

 俺は何となく背筋に寒いものを感じた。・・・レキの目がどこか虚空を見ているようなムードだったからだ。なんというか・・・こいつもどこか電波系だよな。

「キンジさん」

 

「何だよ・・・っ!?」

 

 俺が少したじろいだその時・・・レキは前触れも無くいきなり背伸びをしてキスをしてきた。

「あっ!・・・・」

 

ガラスの割れる音に、俺はレキの両肩を掴んで放しながら振り向くと・・・・ドリンクのビンを2本とも落として割ってしまいながら立ちすくんでいたアリアがいた。

「そ、そうだったのねキンジ。ごめん、あたし・・・そういうこと分かんないから。あっ、別にキンジが悪いとかじゃないの。だって・・・高校生だもんね。好きな人ぐらい・・・だ、だからさっきあんたは、ああだったのね。ごめん!本当にごめんねキンジ!」

 

 アリアはそう言い捨てると脱兎のごとく走り去っていった。

「アリア・・・・」

 

 俺はそれを追いかけようとした途端、後ろでちゃきという音がした。見ればそこでは予想した通りレキが獣を肩から下ろしてグリップを握っていた。

「キンジさん。あなたはアリアさんと結ばれてはならない」

 

「なっ!?」

 

 いきなり何を言っているんだレキ!?

「これからは私がキンジさんのパートナーになります」

 

「お、おい・・・」

 

 先ほどのキスのせいで嫌な鼓動の感覚を感じた俺はレキから数歩引き下がる。

「あなた達は強くなった。・・・イ・ウー程度の相手ならそれで充分だったでしょう。実際、今のキンジさんと私が素手で戦えば十中八九キンジさんが勝つ」

 

 こいつ・・・イ・ウーのことも俺のことも知っているのか!?

「・・・いえ、普段のキンジさんでもおそらく私が勝つことはできないでしょう。でもこれからの戦いはそんな力比べでは倒せない。だからあなたはやり方次第ではあなた達を簡単に殺せる人達がいることを知るべきです。狙撃手、仮面戦士、怪人。・・・・今から私がそれを教えて差し上げます」

 

流れるような手つきで弾倉に装甲貫通弾を込めた前で・・・俺は完全にヒステリアモードになってしまう。

「そろそろ頃合いのようですね」

 

 弾倉を再び銃にセットしたレキを見て・・・・俺は自分の間抜けさを自分で毒ついていた。俺の人生は事件を解決し終えて油断した頃に新しいトラブルがやってくるんだったな。白雪のときも理子のときもそうだったのに気を抜いていたよ。

「キンジさん」

 

「何だ?」

 

「私と結婚してください」

 

 余りにも意外な言葉に・・・俺は「はっ!?」と声にならない声をもらした。

「レキ・・・聞き間違いだとは思うが・・・今、何を?」

 

「プロポーズしたのです。あなたに」

 

 粉雪・・・あの時は疑って悪かった。お前の占いは正しかったよ。今月中に求婚される。・・・たしかに今日は8月31日だよ。

「ま、待ってくれレキ!いきなりすぎる。少し前置きをして欲しかったところだよ」

 

「前置きはしたつもりです。『私がパートナーになります』と」

 

「・・・光栄な話だが・・・それは人に銃を向けて話すことじゃないと思うよ?」

 

 ヒステリアモードの俺はできるだけ穏やかに対応して後ろに下がろうとするが・・・・

「逃げられませんよ」

 

 レキはドラグヌフを向け直してきた。意外と情熱的なタイプなんだな。

「もし断るというのなら・・・・」

 

 この日、この時から始まってしまった大事件の新たな幕開けを告げられることとなった。

「風穴を開けますよ」

 

 アリアのお株を奪う・・・この台詞で。

「ま、待て!待ってくれ!」

 

 実戦用のスナイパーライフルであるドラグノフの銃口が俺の方を向いている。向けているのは狙撃科の麒麟児のレキだ。

「何が気に入らないんだ・・・・レキ」

 

「あなたとアリアさんは結ばれてはならないからです」

 

「結ばれてっ!?」

 

 妙なことを言われた俺は少し赤くなって口ごもる。たしかにさっきの俺とアリアは見方によっては親密な男女が語り合っているようにも見える。だけどそれで俺がレキに銃を突きつけられる理由が分からないぞ!!

「バ、バカなことを言わないでくれ。俺とアリアはそういう関係なんかじゃない。それにさっきのは・・・・これから離ればなれになる話をしていたんだ」

 

「別れ話ですか。それならむしろ好都合です。キンジさんが、これで心おきなく私の主人になれますので」

 

 そうだ。今一番分からないところはそこなんだ。・・・どうしてお前はアリアを追っ払って、俺に銃を突きつけてプロポーズなんかをしてきやがったんだ!

「レキ・・・どうして『結婚』なんだ?」

 

 そもそも俺はヒステリアモードという病気を抱えている上にオーズという爆弾まで抱えているんだぞ。・・・・こんな俺が人並みの幸せを掴める訳がないのにどうして俺にそんなことを言ってくるんだ?

「・・・・そうすればキンジさんもウルスになれますから」

 

「ウルス?何だそれは?」

 

「『家族』という意味です」

 

 家族だと!?・・・・駄目だ。ますますレキの考えが分からなくなってきた。

「それは、まぁ、結婚した男女はたしかに家族になるだろうが・・・・俺には兄さんがいるし、それで充分なんだ。・・・それに家族が欲しいなら養子縁組にでもしてもらったらどうだ?」

 

「風はあなただと言っている。あなたでなければならないと言っている」

 

 何か、強い確信のこもった口ぶりでレキの瞳は俺を射抜くように見据えていた。・・・このレキはいつものレキとは違う。こいつのあだ名は『ロボット・レキ』。無口で無表情を決め込んでいる奴だったはずなのに・・・・今のこいつからは強い目的意識のようなものが感じられる。・・・・まるで命令か何かを受信したように。

「き、聞いてくれレキ!君の行為は矛盾している。俺と家族になりたいのなら、なんで俺に銃を向けるんだ?まずはそれを下ろしてくれ。話し合おう。・・・な?」

 

「お断りします。異性とは話し合いで手に入れるものではなく力ずくで手に入れるものですから」

 

 それがレキの男女観だっていうなら間違ってはいないと思うが・・・・やり方を間違えていると思うぞ。・・・そう心の中で突っ込んだ俺の後ろには・・・掃除のために脱いでいた制服のジャケットをくわえて持ってきた白銀の狼がいた。レキの飼っているコーカサスハクギンオオカミのハイマキだ。

「っ!」

 

 俺は少しでもドラグノフへの気休めになるようにと慌ててハイマキからそれを奪い取って袖を通した。

「キンジさん。私も、すぐにあなたに婚約して頂けるとは思っていません。ですので今から7分間、あなたに猶予を与えようと思います。・・・私はこれから7回、あなたを襲います。あなたが変身しないで一度でも1分以上逃げ切ることができたのなら、求婚は撤回します。・・・どこへ逃げても構いませんよ。ただ事前にお伝えしておきますが・・・私の『絶対半径』は2051メートルです」

 

 絶対半径・・・それは狙撃手による狙撃が可能な範囲の呼び方の一つだ。・・・そしてそれはつまり、その狙撃手が絶対に仕留められる距離のことだ。

「2051メートル四方どこへ逃げても、私の銃はあなたを射ることができる。この銃は私を決して裏切りませんから・・・・」

 

 どうやらどう足掻いても話し合いでは解決しないようだな。・・・・こうなったら付き合ってやるよ。・・・このゲームにな。

「・・・では、7回までに私と婚約してくださいね」

 

 そういえばどうして『7回』なんだ?・・・・そんなことを考える暇もなく・・・

「っ!?」

 

 ハイマキが俺に襲い掛かってきた。俺はそれを避けると急いで階段を駆け下りる。あんな狭い場所にいても狙われるだけだしな。・・・・俺は探偵科の教室に隠れようかとも考えたがハイマキが追ってきているためそれはできない。そして探偵科の外に出た俺はそこで・・

「っ!?」

 

 右腕に痺れが走った。・・・どうやら撃たれたらしい。慌てて右腕を確認してみれば・・・袖のカフスボタンだけが掠め取られていた。

「くっ!?」

 

 俺は去年強襲科でならったように狙撃手が狙えない曲がり角へと移動する。・・・狙撃銃は真っ直ぐしか狙えないからだ。

「ここなら・・・・何とか・・・・」

 

 しかしレキ相手にそんな考えでは甘かった。

「なっ!?」

 

 気がつくと右腕のカフスボタンまでも掠め取られてしまった。・・・・どうやらレキは電柱の柱を利用して兆弾狙撃をしたらしい。簡単に言うと柱を狙撃して跳ね返った弾丸で相手を撃つ技だ。・・・・レキはそんなことまでできるのか。

「そんなのありかよっ!?」

 

 俺は近くのライドベンダーをバイクモードにしてここから離れようとするが・・・・

「しまった!?」

 

 レキの装甲貫通弾でベンダーのタイヤが撃ちぬかれてしまい動かすことができなくなってしまった。・・・くそっ!まさかここまで何もできないなんてな。

「ちっ!」

 

 こんなところで立ち尽くす訳にはいけないと思った俺は防弾使用になっている車輌科の倉庫に立て篭もった。・・・・その中に入って少しだけ余裕を感じた俺は冷静になってレキの狙撃を振り返る。

「・・・・どうやら制服のボタンを狙っているらしいな」

 

 制服のカフスボタンは全部で6個ある。レキはそれを1発づつ撃っているんだ。・・・『7回目までに私と婚約をしてくださいね』・・・レキ、6個のボタンがすべて無くなってしまった時、お前はどうするつもりなんだ?・・・・そんなことを考えながら・・・俺は今、本当に何もできていないことに気づく。

「最近・・・・どこかオーズの力に頼りきっていたかもな」

 

 仮面戦士は強襲科のようにある程度は生身でも戦えないとならない。・・・・あまり言い気分ではないが俺もそれなりに生身でも戦闘はできる自身があった。だから本当にたまにしか訓練はしていなかったが・・・・思ってた以上にダメだな。

「っ!?」

 

 そんなことを考えていると、防弾ガラスの窓に射撃があたっていることに気づいた。・・・しかもその弾丸はすべて寸分の狂いもなく同じ場所にあたっている。・・・そしてレキは板に金槌を打ち込む要領でついに・・・・

「っ!?」

 

 防弾ガラスを撃ち破ってしまった。

「くっ!?・・・」

 

 そして窓が割られたかと思ったのもつかの間・・・・次々と俺のカフスボタンが撃たれてしまった。

「参った!分かったから、もう撃つな!」

 

 頼みの綱のヒステリアモードが切れた俺は6個すべてのボタンが掠め取られた状態で、両手を上げてレキの前へと出て行く。・・・・ああ、分かったよ!散々思い知らされた!たしかにお前はヒステリアの俺なんかよりも強いってことがな。

「婚約でも何でもする。だからもう撃つな」

 

 もしかしたらレキは7発目で俺を本当に殺していたかもしれない。・・・・本当にレキは何を考えているか分からないからな。

「・・・・それではキンジさん。今から私はあなたのものです。契りの詔は私が現代の日本語に翻訳したものなので・・・・ぎこちないかもしれませんが許してください」

 

 ヘッドフォンを外してドラグノフを足元に置いたレキは俺の前まで歩いてくるとその場にひざまずいた。

「私はこれからキンジさんに仕えます。あなたは私の銃を武力として、自由にお使いください。私の身体をあなたの所有物としてお使いください。花嫁は主人の言うことになら何でも従います。主人に仇為す者には一発の銃弾となり、必ずや滅びを与えんことを誓います」

 

 お前は何を言っているんだ。・・・・さっきまでオオカミとけしかけて、俺を撃ちまくってたくせに・・・。

「ウルスは一にして全、全にして一。これからは私達ウルスの47女、いつでも、いつまでも、あなたの力になりましょう」

 

 決められた文章を暗唱するようなレキに・・・・俺はただただ唖然としていた。

 




名前:城戸真司

 東京武偵高2年C組所属。仮面ライダー龍騎に変身する。実力は並の武偵生徒よりはやや強い程度のレベルで、普通の生徒以上に鍛えられている他の仮面戦士科生徒と比べるとやや力不足な面が目立つ。新聞部として活動していて国語は得意らしいがそれ以外は赤点常習犯のバカ。何故か餃子はプロレベル。

名前:天童総司

 東京武偵高2年A組所属。仮面ライダーカブトに変身する。典型的な俺様系だが実力はかなり高い。周囲には天性の天才だと思われがちだが、陰でひっそりと鍛えている努力の天才。ジャンヌのお目付け役として彼女と同時期に転校してきた。しかし1つ下の妹であるひよりの事を第一に考えているため、お目付け役の仕事どころか武偵としての依頼もほとんど果たしていない。

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