緋弾のアリア 欲望の交差   作:彩花乃茶

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教授と相討ちとスタートライン

「パトラ・・・それはルール違反だ」

 

 アリジゴクヤミーが俺に投げ飛ばした槍を・・・兄さんがいつの間にか変身した金色の仮面戦士‘仮面ライダーグレイブ’が専用武器のグレイブラウザーで斬り裂いていた。

 

「なんぢゃキンイチ。わらわを『退学』にしておいていまさら‘るーる’などを持ち出すか」

 

「イ・ウーに戻りたいなら守れ」

 

「・・・気に入らんのう」

 

 兄さんは変身を解除して真横まで近づいた兄さんに女の周りにいるジャッカル男達は一斉に船を漕ぐ櫂を向ける。・・・よく見るとその櫂の先端は槍のように尖っているように見える。・・・しかし兄さんはそれに対して動じる素振りも見せない。

 

「『アリアに仕掛けてもいいが、無用の殺しはするな』・・・それがお前に伝えた『教授』の言葉、忘れてはいないな」

 

 言われた女・・・パトラは口ごもる。

 

「パトラ、お前がイ・ウーの頂点に立ちたいことは知っている。しかし今はまだ『教授』が頂点だ。リーダーの座を継承したいのなら、今はまだイ・ウーに従わなければならない」

 

「いやぢゃ!わらわは殺したいときに殺す!贄がなくとは面白うない!」

 

 パトラはまるで駄々をこねる子供のように両腕を振るとしゃんしゃん!と金の腕輪を鳴らす。

 

「だから『退学』になったのだ。まだ学ばないのか」

 

「わ、わらわを侮辱するのか!今のお前なんぞ一捻りぢゃぞ!」

 

 パトラはわがままそうな目を吊り上げ、空き地島からだいぶ移動したため見えてきた台場のカジノ・ピラミディオンを手で示した。

 

「・・・・そうだな。ピラミッドの近くでお前と戦うのは賢明とはいえないな」

 

「そうぢゃ!神殿型の建築物が近くにある限りわらわの力は無限大ぢゃ!だから殺させろ!さもないとお主を棺送りにするぞ!それでもいいというのか?」

 

 激高しながらも何故か仕掛けてこないパトラに兄さんはスッと詰め寄ると・・・パトラの顎を右手の人差し指で上げて・・・・

 

「・・・・・」

 

「っ!」

 

 いきなりキスをした。・・・最初は抵抗しようとしていたパトラだったが・・・やめて、全身から力を抜いた。

 

「これで赦せ。あいつは俺の弟だ」

 

 今の兄さんは先ほどまでとはまた違う殺気を漂わせている。おそらく先ほどのパトラへの動作でHSS・・・ヒステリアモードになったんだろうな。女性を傷つける形でHSSにならない。それが兄さんの不文律だったはずなのにどうして?・・・いっぽうのパトラは遠めでも分かるぐらい顔を真っ赤にして兄さんから後ずさった。

 

「トオヤマ、キンイチ!お主、わらわを使ったな」

 

「悲しいことを言うなパトラ。それに俺は打算でこんなことができるほど器用じゃない」

 

 真っ直ぐと見つめてきた兄さんにパトラは胸を抑えるような動作をすると自分を落ち着かせるためか深呼吸をすると・・・

 

「な、なんれにせよ、そのお前とは戦いとうない。勝てるには勝てるが、わらわも無傷では済まんぢゃろうからな。今は『教授』になる大事な時ぢゃ。手傷は負いとうない」

 

兄さんに何かを投げ渡すと逃げるように海に飛び込んでしまった。そして後を追うかのようにジャッカル男達はアリアを黄金棺に入れて海に飛び込んだ。

「さて・・・私も・・・」

 

 アリジゴクヤミーは大量の砂で作った球体の中に入ると数人のジャッカル男に担がれて海の中に入っていった。

「待てっ!!」

 

 俺は水面下に浮かんだ棺を追いかけようとしたが・・・

 

「止まれっ!」

 

 

 兄さんに一喝されて動きを停止してしまった。・・・本能とは恐ろしい。こんなにもアリアを助けたいと思うのに・・・動いたらすぐさま頭を銃弾で撃ちぬかれてしまいそうだ。

 

「アンク・・・あいつを追っててくれ」

 

「・・・・分かった。とっとと来いよ」

 

 アンクが棺を追いかけてくれたのを確認すると・・・俺は兄さんを睨む。

 

「『緋弾のアリア』・・・はかない夢だったな」

 

「緋弾の・・・アリア?」

 

 何だそれは?分からないが・・・・アリアを殺そうとしたあんたがアリアの名前を呼ぶな!!

 

「兄さん・・・俺を騙したな!アリアは殺さないってあんたは言っただろ!!」

 

「俺は殺していない。ただ看過しただけだ」

 

「同じだろ!!あんたが助けていればアリアは撃たれずに済んだのに・・・・」

 

「まだだ!」

 

 俺がそう言うと兄さんは先ほどパトラから渡されたガラス細工を取り出した。

 

「まだ死なない。あれはパトラによる呪弾。今から24時間は生きている。パトラはその間にイ・ウーのリーダーと交渉するつもりだろう。それまではアリアは生かしておくだろうが・・・それまでだ。パトラの交渉がどうなろうともう『第2の可能性』はない。ないならアリアは死ぬべきだ」

 

「兄さんはアリアを見捨てるのかよ!イ・ウーの無法者の超人達に何をされたんだよあんたは!!」

 

「無法・・・か。そうだ。イ・ウーには真に無法。世界のありとあらゆる法律を無意味とし、内部にも法規となるものはない。つまりイ・ウーのメンバーである限り自由なのだ。イ・ウーのメンバーは好きなだけ強くなり、自らの目的を好きな形で実行しても構わない。そして他者がその障碍や材料となるのならその者を殺しても構わないのだ」

 

 そんな・・・イ・ウーが誰を殺してもいいだなんて・・・そんなめちゃくちゃな組織、すぐに内部抗争で崩壊しちまうにはず・・・。

 

「イ・ウーのリーダーである『教授』は長年その組織を束ねてきた。過ぎてしまったことをも変えてしまうほどの圧倒的な力でな。『しかしその教授』の命ももうすぐ尽きる。病でも傷でもなく寿命でな」

 

 兄さんは「ここから先は心して聞け」とでも言うように俺を睨んだ。

 

「キンジ、イ・ウーはただの超人育成機関ではない。世界中の軍事組織も手出しできないほどの超能力を備えた戦闘軍団だ。その中には主戦派(イグナテイス)・・・世界侵略を本気で目論むものもいる。・・・最近その1人のカツミがイ・ウーを抜けて独立した組織を作ったが・・・それは今、関係ない。そのような者達が世界各地を襲撃すると・・・世界はエヴィルとイ・ウーで2分する可能性もあるだろう」

 

 カツミっていうのは誰かは分からないが・・・エヴィルってのは人間を怪人に改造するショッカーみたいな組織だったな。イ・ウーはそれと2分するぐらいの戦力があるってことかよ。

 

「だがイ・ウーの中にもそれを良しとしない者もいる。『教授』の気質を継ぎ、ただ己の力を高めようとする者。それが研鑽派(ダイオ)だ。彼らは『教授』の死期を知ってから、その後継者となる人物を探し始めた。そして見つかったのが・・・アリアだ」

 

「なっ!?」

 

 アリアが・・・自分が追っていたイ・ウーの組織のリーダーに選ばれただと!?何を言っているんだ兄さん。

 

「・・・たとえそうだとしても・・・アリアがイ・ウーに従うはずはない」

 

「従う。『教授』の前に立てば・・・必ずな」

 

 深い確信をしたような兄さんに俺は言い返せない。すると兄さんは悲しそうな表情になった。

 

「キンジ・・・すまなかった。何も言えずにいて・・・俺と成美はイ・ウーを内部から殲滅するために表の世界から消え、イ・ウーの眷属となったのだ」

 

 なっ!?・・・内部から!?

 

「イ・ウーを内部分裂させるにはリーダーはいてはならない。そして俺はリーダー不在の可能性を作り上げるために2つの可能性を見出した。『第1の可能性』が教授の死と同時期にアリアを抹殺すること。そして『第2の可能性』が今代のリーダーである教授を暗殺・・・」

 

 兄さんが言っていた『第2の可能性』って言うのはイ・ウーを崩壊させる可能性のことだったのか。・・・リーダーを殺すってやり方で・・・

 

「俺はお前達ならもしや・・・と思っていたが・・・パトラに不覚を取ってしまうようでは『第2の可能性』はない。『第1の可能性』を実行するだけだ」

 

 『第1の可能性』・・・すなわちアリアの抹殺だ。・・・・そんなことをさせていいはずがない。

 

「兄さん・・・あんたは武偵なのに人を殺す気かよ?」

 

「俺は武偵である以前に遠山の男だ。遠山一族は‘儀’のために巨悪を討つためなら人の死を看過することを厭ってはならない。覚えておけ」

 

 パトラの力が遠ざかったのか兄さんの乗っていたパトラの船は砂となって崩れ始める。それに気づいた兄さんは船から跳び下りて近くに置いてあったライドベンダーにセルメダルを入れてバイクモードにして跨った。

「帰れキンジ。イ・ウーはお前の手に負える組織ではない。死ぬのはアリアだけで十分だ」

 

 その言葉に・・・俺の中の何かが切れた。

「・・・・そんなこと・・・できるかよ。ここで引いたら兄さんはアリアを殺すだろ?そんなこと心のどこかで間違ってるって気づいてんだろ?」

 

「・・・・キンジ。世の中には時として犠牲が必要な時があるんだ。・・・仕方ない。お前を眠らせるついでにお前のヒステリアとオーズの力を試してやる」

 

『OPEN UP』

 

 兄さんはベンダーに跨りながら再びグレイブに変身する。・・・グレイブは兄さんが持つライダーシステムの中で最も相性の良い変身で、兄さんが変身した時の戦闘能力は・・・スペックが高い鬼系統の仮面戦士が集団で掛かって来ても無傷で勝てるほどの強さだ。

「・・・どうした?変身しないのか?」

 

「俺のこの力は兄さんと戦うための力じゃない。・・・そう思っていた。だけど兄さんがアリアを殺すっていうんなら・・・俺は兄さんのライダーシステムを全部破壊してでも兄さんを止める!!」

 

『ライオン!トラ!チーター!ラッタッ!ラッタッ!ラトラ~タ~~!!』

 

 俺はオーラインクロスに乗りながらオーズ・ラトラーターコンボに変身してアンクに渡しそびれていたメダジャリバーを構える。

 

「遠山家とか武偵とかは関係ない。・・・俺は俺として・・・アリアに手を伸ばす。・・・だから兄さん・・・いや、元・武偵庁特命武偵、遠山金一!俺はあんたを殺人未遂の容疑で逮捕する!」

 

「できるのか?・・・お前ごときに?」

 

『トラカン』

 

『ガオォォォォォォォ!!ッ!?・・・・・・』

 

 グレイブは本来ならラトラーターコンボにしか扱えないはずのトライドベンダーを殺気だけで無理やり服従させる。・・・そんなものにいちいち驚いてはられないな。

「あんたがそう来るんなら・・・俺にも考えがある。・・・こいつは恐ろしく燃費が悪いから使いたくはなかったがな」

 

『トラカン』

 

 俺はトラカンと取り出しオーラインクロスの上に置くと・・・・オーラインクロスはまるでトライドベンダーに代わるときのベンダーのように変形して巨大化したトラカンと合体した。

「オーラインクロスの極地戦闘用形態・・・オーラインワイルド。・・・トライドと違ってこいつは余分なエネルギーを吸収するどころか俺にどんどんエネルギーを消耗させるんでな。・・・3分・・・いや、1分でケリをつける!」

 

『GAAAAAAAAAAA!!!』

 

「お前に俺を倒せるわけがないだろ」

 

『ガァァァァァァァァァァァ!!』

 

 俺の乗るオーラインワイルドの前輪と、グレイブの乗るトライドベンダーの前輪がぶつかり合い辺りに火花が散った。

 

 

 

 

・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

 

 俺と兄さんがバイクに乗って戦い始めた頃、矢車の変身するキックホッパーはトライアルFに押され気味だった。

 

「ぐぁっ!?」

 

「ふふ、どうやら今の私には手も足もでないようですね。・・・ああ!あなたの攻撃はキック技だけで元から手は出さない方でしたね。訂正しましょう。・・・ハァッ!」

 

「がはっ!?」

 

トライアルFは手から衝撃波のようなものを放ち、それが見えないためどうすることもできないキックホッパーはただ喰らうだけの状態だった。

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 キックホッパーはボロボロにされながらも右腰を叩いてクロックアップをしようとするが、クラリと倒れそうになり膝をついてしまう。

 

「そこまで痛めつければクロックアップをしても身体のほうが耐え切れないで強制クロックオーバーがオチですよ?・・・いい加減諦めて死んでください」

 

「武偵憲章10・・・条。・・・『諦めるな。・・・武偵は・・・決して諦めるな』・・・俺は・・・1度諦めたばっかなんだ。・・・これ以上諦めて溜まるかよ」

 

 キックホッパーはまだ戦えると言わんばかりに立ち上がろうとするが・・・立ち上がるどころかその場に倒れて変身が解除されてしまう。

「やはりもう限界でしたか。さあ、そろそろジ・エンドです」

 

 トライアルFは倒れる矢車にトドメを刺そうとパラドキサ・・・カマキリの怪人らしく鎌のような武器を振り下ろそうとしたその時だった。

「「まてぇぇぇぇぇい!!」」

 

「この声!!ま、まさか!?」

 

 トライアルFは突然の声で後ろに振り返ると・・・そこには赤いマフラーをした似ているが身体のラインの本数と手袋とブーツの色が異なる仮面ライダーが風車の上に2人いた。

 

「あれは・・・本郷さんに・・・・一文字さん・・・」

 

「「トオッ!」」

 

 仮面ライダー1号の本郷さんと仮面ライダー2号の一文字さんこと一文字隼人さんは風車から跳び下りると矢車とトライアルFとの間に割って入った。

 

「大丈夫かい双くん。・・・ここは我々に任せて君は休みたまえ」

 

「本郷さん・・・・」

 

「エヴィルという組織はショッカー並みに凶悪な組織だとは分かっていたんだが・・・なかなか動きがないため来るのが遅くなってしまった。さぁ、エヴィルの怪人よ!お見せしよう。仮面ライダーの力を!!」

 

「一文字さん・・・・」

 

「「トオッ!!」」

 

 1号と2号のお二人はそれぞれの変身ポーズをすると・・・同時にトライアルFにパンチを決めた。

 

 

 

・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

 俺の乗ったオーラインワイルドとグレイブの乗ったトライドベンダーの前輪がぶつかり合い火花が散る。

 

「セイッ!」

 

『GAAAAAAA!!』

 

「ハァッ!!」

『ガアァァァァァァァ!!』

 

 火花が散りながらもトライドがオーラインワイルドに噛み付いてなぎ払って数メートルとばされた。

「所詮オーズのコンボというのでもこんなものか。やはりお前では教授には勝てないな」

 

「この程度?・・・そんなはずないだろ」

 

『GAAAAAAAAO!!』

 

 オー・ワイルドは咆哮とともにラトラーターコンボのときに放たれる高熱を熱線としてトライドに放った。

「なっ!?」

 

『ガァァァァ!?』

 

 その攻撃をかわしきれなかったトライドの後輪のタイヤはドロドロに溶ける。・・・・『ディアスシュート』俺のラトラーターコンボのエネルギーを吸収したオーラインワイルドがそのエネルギーを一気に開放してぶっ放す大技だ。・・・ちなみにこの技名を考えたのは正太郎だったりする。

 

「・・・たしかに強力な技だな。だが今のでかなりお前も疲労したんじゃないのか?」

 

「・・・・・・」

 

 オーラインワイルドは強力な戦闘能力を秘めているぶんコンボの反動を2倍ほどにしてくれる。・・・前に練習したときもこんなに疲れたが・・・・今回はその前に暴走グリードを倒すためにガタキリバコンボにまでなっているからなおさらだ。

 

「もうそろそろ限界なんじゃないのか?」

 

「・・・だからとっとと決めるって言ったんだよ!!」

 

『GAAAAAAAAAA!!』

 

 たぶん俺がオーズに変身していられるのは長くて残り30秒ぐらい・・・だったら次の1撃に残りの力を出し切って兄さんを止める。

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

『GAAAAAAAAAA!!』

 

 

 オーラインワイルドは全体に高熱を纏いながらトライドに向かって激走する。その通ったタイヤの後はあまりの速度に炎上してしまっている。

 

「浅はかな・・・」

 

『ガァァァァァァァァァ!!』

 

 グレイブは後輪が溶けて走りにくそうなトライドを無理やり走らせてこちらに向かってくる。・・・本来はトライドベンダーの時速は840キロだが後輪があの状態なので今はせいぜい400キロが出てるか出てないかだ。・・・これなら最高時速がクロックアップに匹敵するほどの速さを出せるこっちのほうが有利だ。

 

「セイヤァァァァァァァァァァ!!」

 

「ハアァァァァァァァッ!!」

 

『ガァァァァァァァァ!?』

 

 オーラインワイルドの突進でグレイブの乗ったトライドは大破してグレイブは海に吹き飛ばされて行った。しかしそのぶつかりの際にオーラインワイルドのトラカンの部分にグレイブラウザーを突き刺されていた。

 

『GA・・・・AA・・・O・・O』

 

「畜生・・・相打ちかよ・・・」

 

 オーラインワイルドのトラカンの部分が爆発して、俺も海に向かって吹き飛ばされた。泳げばすぐに岸に上がれる距離なのに・・・・コンボの反動がきつすぎて指1本すら動かない。

 

「・・・・・・・」

 

 兄さん・・・・ごめんな。俺の方こそ分かっていたんだ。・・・・兄さんは間違ったことは言ってはいない。世の中には綺麗事だけじゃ解決できないことがあるんだってことも分かっているつもりだ。・・・・だけど・・・綺麗事だからこそ、それを現実にしたいんだ。それにあいつのためなら・・・兄さんと道を違えてもいいと思えるんだ。俺は兄さんと決別して・・・完全に目標を失っちまったな。・・・・アリアの目的を手伝う。そんな目的はあるのに自分の目標がない。あぁ、びっくりするほど何もないんだな俺。これじゃ無欲みたいなもんじゃないかよ。薄れゆく意識の中・・・自分はどうして手を伸ばしたいのかの本当の理由を見つめ直そうとしながら暗い海の中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

 

 俺の意識が暗い海の底に沈んでいく中・・・矢車のもとに駆けつけた1号と2号はトライアルFと激戦を繰り広げていた。

「ハァッ!」

 

 トライアルFの放つ見えない衝撃波を1号と2号は直感だけで回避をしながら少しずつ距離を詰める。

「さすがはかつてショッカーを2人だけで壊滅させただけのことはありますね」

 

「我らは2人だけでショッカーを倒したのではない!たくさんの人に支えられたおかげでショッカーとの戦いに勝ち抜いてきたのだ!!」

 

「そんなことも分からん貴様の攻撃なんぞ我々には当たらん!!」

 

「ぐあぁぁっぁ!?」

 

 1号は左手でトライアルFを掴むと右拳で2~3回殴る。そこに2号が力強いキックを決めてトライアルFはかなり吹き飛ばされた。

 

「・・・やっぱり本郷さん達は・・・本当に強いな・・・」

 

 倒れながらもその戦いを見ていた矢車はそう呟く。すると矢車の近くにインディアンな仮面をかぶった1人の怪しい男が歩いてきた。

 

「あの人達の本当に強いところ・・・何だと思う?」

 

「・・・・どんな状況でも決して諦めない心・・・か?」

 

 矢車はその男の独特の雰囲気に不思議と警戒心を緩ませて彼の質問に答えた。

 

「そう!君も諦めないで一生懸命頑張っていればきっと強くなれるよ!」

 

 男は矢車に右手でサムズアップをすると矢車に肩を貸した。

 

「・・・・おまえ・・・いったい何者なんだ?」

 

「2000の技を持つ男で、夢を追い求める男で、世界を旅する冒険家かな?・・・それともキンジくんの料理の師匠って言ったほうが分かりやすい?」

 

「・・・何だか余計分からなくなったが・・・1つ分かった。おまえが相棒の知り合いってことはな・・・」

 

「・・・・このぐらい離れれば大丈夫だよね」

 

 男は1号と2号がそれなりに離れた風車の近くに矢車を寄りかからせるとインディアンな仮面を外してヘルメットを被ると黒いオフロードタイプのバイクに跨った。

「詳しいことは今度教えてあげるよ。・・・近いうちにまた武偵高の壁を登ってほしいって壁がアピールしているし。・・・でも今日は忙しくなりそうだから・・・ここでごめん」

 

 黒いオフロードバイクで疾走していく男の姿は・・・その途中でクワガタを思わせる赤い戦士の姿に変わったような気がした。

 

「・・・何なんだあの人?・・・そ、それよりも本郷さん達は・・・」

 

 矢車は再び1号と2号が戦っている方向を振り向くと・・・・その戦いはもうすぐ終わりそうな雰囲気だった。

 

「さぁ、お前達のボスと幹部を教えるんだ。そうしてくれれば司法取引で懲役5年ぐらいにできて、お前も倒さずに済む」

 

「言いませんよ。たとえあなた達に敗れ去ることになったとしても・・・・私はエヴィルの下に生きていることを誇りに思っています。・・・それでは・・・」

 

 トライアルFは最後にそう言い残すと自らの意思で自爆をしてしまった。

 

「・・・いったいエヴィルには何があるというんだ?」

 

「一文字。俺はもうしばらく警視庁でそれらしい事件を探してみる」

 

 変身を解除した一文字さんは新サイクロン号に跨るとどこかに走り去っていった。そして本郷さんも変身を解くと矢車のところに歩いてきた。

 

「本郷さん・・・すいません。・・・・また助けてもらって・・・」

 

「そんなことは気にするな。君は俺のできなかったこともやってくれ。君はまだ若いんだからきっといつか俺の力を超えられる」

 

 その言葉を聞いた矢車はそこで気力が尽きてしまい意識を失った。そして本郷さんは衛生科の武偵高生徒が駆けつけるまでずっと矢車の前に立っていた。・・・・まるで息子を守ろうとする父親のように・・・

 

 

 

 

 

 トライアルFの戦いが終わった頃・・・バースはややタイホウバッファローに押され気味だった。

「ちょ!?・・・牛ちゃん何でタマ切れにならないの?」

 

 バースは本来ならタイホウバッファローが連続して放つことできないはずの大砲を連射しているので近づくことが困難になっていた。

「バカめ!エヴィルの科学力さえあれば大砲の筒の中で無尽蔵に弾薬を製造することも可能に決まっている!!」

 

「え?何そのせこさ!こっちなんてすぐタマ切れになっちゃうのに・・・うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 ついつい油断してしまったバースは大砲を喰らって吹き飛ばされると持っていた銃のような武器を手放してしまった。

 

「あっちゃぁぁ!?バースバスターがあんな遠くに・・・」

 

 バースはバースバスターとか言う銃のような武器を回収しようと走り出すが・・・

「させてたまるか!!」

 

「ちょ!?メイン武器を取らせてよ!!」

 

「誰が取らせるか!!」

 

 タイホウバッファローは大砲を次々と放ちバースバスターを取らせまいとした。・・・そんな中、1人の武偵高の生徒がライドベンダーで爆煙の中を駆け抜けてバースバスターをチャッチした奴がいた。

「伊達さん!!使ってください!!」

 

「おっ!誰だか知らないけどナイスフォロー!」

 

『セルバースト』

 

 その生徒からバースバスターを受け取ったバースはセルメダルを貯蓄していたポッドを銃口に装着して強力なエネルギー弾を放ち大砲を破壊した。

「何だとっ!?」

 

「おっしゃ!!・・・そんじゃこのまま決めさせてもらうわ」

 

『ブレストキャノン』

 

『セルバースト』

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 バースは大砲が破壊されて慌てているタイホウバッファローにブレストキャノンを撃ち込んで倒した。

「ふぅ。なんとかお前のおかげで倒せたけど・・・・あんな無茶はしちゃいけない。・・・これ、医者としての忠告ね」

 

「申し訳ありませんでした」

 

 ベンダーから降りてヘルメットを外してバースに謝った武偵生徒は・・・後藤だった。

 

「ん?もしかして君が後藤ちゃん?」

 

「え?はい。自分が後藤ですが・・・・」

 

バースの変身を解いた伊達さんは後藤の肩をポンと叩いた。

 

「後藤ちゃん。会長さんに頼まれて君が正式なバースの装着者になれるようにこれからみっちり鍛えてあげるから・・・・そこんとこ、よろしくぅ!!」

 

「・・・はい?」

 

 これが後に後藤が仮面戦士になるためのスタートラインだった。

 


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