「む、よく見れば君は以前あったことがあるね」
40代ぐらいの中年のおっさんは玄太郎を見るなり「まだ生きていたのか」とでも言いたげな表情を見せる。
「レム・カンナギッ!!」
「君の彼女。なでしこ・・・と呼んでいたかな?あれのコズミックエナジーで私の力は完全なものとなった。礼を言うよ」
「てめぇは・・・絶対許さねぇ。変身ッ!」
『FUSION・ON』
玄太郎は変身とほぼ同時にEXナンバーのスイッチを起動する。すると玄太郎の姿はプラネタリウムのような輝きを放つ紫色のフォーゼとなった。
「お前は・・・俺が倒す!!」
何時になく本気なフォーゼに対し、今もカンナギは表情を崩さない。
「良いだろう。君に私の相手が務まるかな?」
カンナギの姿はかつてスカイライダーが倒したという記録がある銀河王と似た姿へと変化する。
「私は超銀河王。いずれ次元の銀河を支配する男だ」
銀河を支配とは・・・随分と大きく出たな。だけど訳の分からないレベルでヤバい財団だからそんなことができてもおかしくないってのが恐ろしいところだ。
「宇宙が・・・銀河は誰のものでもねぇ!俺がその野望をぶち砕いてやる!!」
「面白い。かかってくるがいい」
フォーゼと超銀河王は灰色のオーロラを潜り月面基地の外へと移動させられる。
「オラぁっ!!」
先に仕掛けたのはもちろんフォーゼだ。強く握った拳で殴り掛かろうとするも・・・一瞬視界から消えたかと思えばフォーゼの背後に超銀河王は現れ、裏拳で殴り飛ばした。
「あれは・・・クロックアップか?」
「いや、おろらくクロックアップのような加速的なものじゃない」
加速じゃないだと?
「このっ!」
『リミットブレイク!』
右腕のガントレットに青いスイッチをセットしたフォーゼは青いオーラを纏いながら超銀河王へと殴り掛かろうとすると、超銀河王はマントを外して大剣へと変化させてフォーゼの拳を受け止めた。
「ホォォォォォ!!」
フォーゼはその剣を破壊しようと右拳でそれを何度も殴りつけるが・・・それでもその大剣は砕けない。
「中々のコズミックエナジーだが・・・私を倒すのにはまだ足りないね」
「足りないぶんは気合で何とかする!!」
ロケットが開いたような剣を手にしフォーゼはそれを両手で握り、強く振るうも・・・ヒビすら入らない。
「なら・・・っ」
『リミットブレイク』
剣の底にスイッチをセットし刃にコズミックエナジーをチャージする。
「ライダー超銀河フィニッシュ!!」
超至近距離から強力な斬撃を放ったフォーゼは反動で自分が吹き飛んでしまうも・・・その力技のおかげで大剣に微かにヒビを入れることに成功した。
「ほう。・・・これにヒビを入れるとは・・。だが・・・」
「なっ・・・ぬあぁぁぁぁ!?」
大剣にヒビを入れられたことにやや驚いていた超銀河王は一瞬消えたかと思えば、瞬時にフォーゼの目の前へと移動して大剣を横に振るい弾き飛ばした。
「分かってもらえたかな?私は僅かな間時間を止めることができる。君には勝ち目などないのだよ」
「時間を・・・止めるだと?」
クロックアップこそ時間の流れに干渉しての高速移動だが・・・あいつのは確かにそれじゃなかった。ベクトルこそ違うがある意味クロックアップ以上の能力だ。
「くっ・・・そっ・・」
フォーゼには・・・玄太郎にはそんな能力に対抗できる力は備わっていない。はっきり言ってしまえば・・・あの時間停止能力が超銀河王にある限り玄太郎に勝ち目はない。
「若者よ。力の差は理解できただろう。もう諦めたまえ。そうすれば楽に殺してあげよう」
「いいや、俺は負けねぇよ。なでしこやキンジ、アリアのためだけじゃない。横浜武偵高で俺を待っててくれるダチのために。これからダチになるみんなのために・・・俺はこんなところで死ぬわけにはいかねぇ!!」
フォーゼがそう叫んだ途端、その身体から水色に輝くエネルギーを解き放って超銀河王を吹き飛ばす。
「なっ!?あの若者はまだこれほどのコズミックエナジーを・・・」
「「・・・・・」」
俺と矢車は経験上気づいている。フォーゼの放っているエネルギーがコズミックエナジーだけではないことに。
「あれって・・・ライダーパワーだよな」
「あぁ。・・・それもスピリッツキックを放つ時の俺と同じぐらいか、それ以上のパワーだ」
ライダーパワーは・・・簡単に言ってしまえば想いの力だ。あいつの想い『友情』は俺の『欲望』から成り立つパワーや、矢車の『憧れ』からくるパワーより大きいってことか。
「たぶんあいつは絆の繋がりが広がるぶん・・。ダチが増えるたびにライダーパワーが増加していくんだろうな」
もし矢車の言うそれが事実なら・・・玄太郎はいずれレジェンドライダー達や矢車のライダーパワーすら上回るポテンシャルを秘めてるってことになるな。
「玄太郎・・」
何処からかフォーゼを呼ぶ声が聞こえた。
「その声・・・まさかなでしこか?」
なでしこって・・・確か会話の中で出てきた玄太郎の彼女って呼ばれていた・・。
「玄太郎・・・私のコズミックエナジーを使って・・」
フォーゼの目の前に・・・蒼く輝くエネルギーの塊が出現し、フォーゼはその光を掴み取る。
「なでしこ。俺に力を貸してくれ!」
一度フュージョンスイッチをオフにして通常の白いフォーゼに戻ったかと思えば・・・その光の中から取り出したスイッチもベルトにセットして再度フュージョンスイッチを起動する。
『FUSION・ON』
その姿は先ほどまでの姿と形こそ似ているが・・・全体的に水色と銀といった眩しめのカラーに、両腕には銀色のロケットが装備されている。
「宇宙・・・宇宙キターーーーーーーー!!!」
超銀河王はフォーゼの大声に思わず耳辺りを押さえる。
「その姿・・・そのようなのは記録にないな」
「紡いできた絆が俺を更に強くしてくれた。仮面ライダーフォーゼ!メテオなでしこフュージョンステイツだ!ここからが本番だ!タイマン張らせてもらうぜ!!」
『NADESIKO・ON』
両脚に銀色のスキー板のようなものを装備したフォーゼは2つのロケットの推進力と足のスキー板のようなものの後部にあるジェットノズルで加速すると・・・そのロケットで超銀河王を殴りつける。
「ぬぅ・・・パワーが先ほどまでとまるで違う。ならば・・・」
「させるか!!」
超銀河王が再び時間を停止させようとした途端、フォーゼはライダーパワーとコズミックエナジーを混ぜ合わせた波動を放って時間停止を打ち消した。
「時間停止を・・・打ち消したのか?」
「おそらく超銀河王はコズミックエナジーと他の何らかの力を同時発動することで時間停止をしていた。その片方のコズミックエナジーを相殺させたことで、フォーゼは時間停止を強制終了させたんだろうな」
ジーサードはフォーゼの時間停止相殺の仕組みを冷静に解説する。確かに片方のバランスさえ崩せば時間停止を妨害できるとは思うが・・・玄太郎のことだ。そこまで考えてやったことじゃなく、直感的行動だろう。
「ライダーー!ダブルロケットミサァァイル!!」
いつかはやってくれると思っていたが・・・フォーゼは両腕のロケットをミサイルのように超銀河王へと飛ばす。
「ぬっ・・・ぬおっ!?」
そのロケットを大剣で受け止めた超銀河王だったが、そのロケットは大剣を砕き超銀河王に直撃した。
「こいつで決める!!」
『リミットブレイク』
「ライダァァァアルティメットクラッシャァァァァ!!」
リミットブレイクを発動したフォーゼはきりもみ回転しながら飛び上がると、そのまま超銀河王へと突撃する。
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」
それを防ぎきれなかった超銀河王は太陽の方へと吹き飛んでいくと・・・飛んできた隕石の1つに叩きつけられた。
「残念・・・無念・・ぬあぁぁぁぁぁっ!?」
隕石ごと超銀河王が爆発すると共にフォーゼは月面基地の中へと戻される。
「ありがとうなでしこ」
変身を解除した玄太郎は光の中から掴み取った銀のスイッチを握りしめ・・・そう呟く。
「超進化人類ミュータミット、その代表が敗れたとなるとそれへの投資は白紙に戻すしかないわね」
仲間であったはずのカンナギをあっさりと見限ったキイマはまたしても戦いの舞台である次元を変える。ここは・・・船、空母の上か?
「次は・・・こいつよ」
海から出てきたのは・・・十数メートルはある岩の巨人だった。
「あれは・・・岩石大首領か!?」
岩石大首領。それはかつて仮面ライダーストロンガーが戦ったデルザー軍団の首領にして最大の敵。レジェンド7が協力してようやく撃破したほどの相手だ。
「面白いじゃんか!今度は俺が行くぜ兄貴!!」
『サメ!クジラ!オオカミウオ!』
仮面ライダーポセイドンへと変身したジーサードは上機嫌で前へと出る。するとベルトをつけたミハルも前へと出た。
「あの巨体相手に1人じゃ厳しいよ。それにあっちもあれ1体じゃあないようだし、僕も戦うよ」
ミハルの言う通り、あの巨体に注目してしまったせいで少し気づくのが遅れたが・・・海の中にはもう1体。何かがいる。未だに潜って姿を見せないこともあり・・・何がいるのかは分からないが・・・奴から感じる殺気も相当なものだ。
「お前が未来の・・・。いいぜ。血縁者タッグを組んでやるよ」
ポセイドンがミハルの協力を認めると・・・ミハルのベルトは海の水を吸収し始める。
「変身ッ!」
ミハルは水を纏い仮面ライダーアクアへと変身を遂げると・・・ポセイドンも槍を出現させて手に握る。
「まずはあのデカブツをぶっ壊すぞ」
「はい!」
岩石大首領へと駆け出したポセイドンとアクアのW海ライダーは初手からダブルキックを叩き込む。
「オォォォォォォ!!」
いくらあの巨体かつ岩石のボディとはいえダブルキックを受けた岩石大首領は全身にヒビができる。・・・水のダブルライダーが海を舞台に戦っているんだ。ただデカいだけの相手に負ける要素がない。
「アクアヴォルテックス!」
アクアの跳び回し蹴りを頭部に喰らった岩石大首領がほとんど何かをすることもないまま倒され、身体が崩れ始める。
「・・・邪魔だ。退けたまえ」
海からいきなり飛び出てきた何かは・・・崩れゆく岩石大首領の胸部を貫いてアクアとポセイドンを殴り飛ばす。
「うおっと・・・」
「痛た・・」
アクアとポセイドンは船上にギリギリで着地すると・・・2人を殴り飛ばした何かも船の上へと着地する。
「おいおい。どういうジョークだこりゃ?」
「・・・・・・」
ポセイドンとアクアの前に立っていたのは・・・爪とマントを合わせた触手を6本生やした骸骨で禍々しい姿のオーズだった。
「首領オーズ。コアメダルの研究を一通り完了し、ショッカー。ゲルショッカー、デストロン、ゴッドにガランダー、そしてデルザー軍団。6つの組織の力を宿したコアメダルを製作。そのメダルで作り上げたもう1体のオーズよ」
もう1体のオーズだと?
「・・・やっぱり本命は岩石大首領の方じゃなく海に潜んでいた方だったか」
しかも1号からストロンガーまでのレジェンド7が戦った組織の力を宿したコアメダルでのオーズ。言うならば悪の軍団コンボってところか。
「この支部が作り上げた2体いる最高傑作の1体よ。だけど強力過ぎる故に中々性能テストの機会に恵まれなく、半ば封印気味だったの。あなた達の来訪は・・・ある意味好都合だったわ」
最高傑作のうちの1体って・・・。本命どころかド本命じゃんか。さっきの岩石大首領は何だったんだよ。噛ませにすらなってないぞ。
「兄貴の3連型のオーズドライバーと違って・・・あいつのは6連型か。メダル6枚の力を同時に発動できるってのは強力だと思うが・・・人間じゃそれの制御をできるはずがない。いいや、人間どころか並の怪人ですら変身することもできないだろうな。幹部クラスでもせいぜい数秒維持してられるのがやっとだろうに・・・いったいどんな小細工をしたらあれの維持をしてられるんだ?」
俺もポセイドン・・・ジーサードと全く同じことを疑問に思っていた。かつてのオーズだったクガ王はメダルの大量同時使用に肉体が耐えられず・・・自滅という形で命を落とした記録が残されている。タジャスピナーというセーフティがあるからこそ3枚以上を瞬間的に発動できるってのに・・・あいつは6枚での変身を維持している。それも意思も維持したままにだ。
「そんなの冗談無しに大首領クラス・・・いや、それ以上のバケモノだぞ」
「・・・そのバケモノが目の前にいるのだよ」
何だか鴻上のおっさんみたいなしゃべり方の首領オーズは触手を伸ばしてアクアとポセイドンに攻撃を仕掛けてくる。
「そもそもあれに素体、変身者などいないわ。以前鴻上ファウンデーションがコードネーム『ノブナガ』としてかつての戦国武将である織田信長を人造グリードとして現代に蘇らせることに成功した。それと同じ技術で先代のオーズを蘇らせたのよ」
「先代の・・・オーズだと?」
「えぇ。あの首領オーズの肉体に宿る意識は先代のオーズにして最凶の王とも呼ばれたクガ王よ」
出来れば出会いたくなかった歴史上の人物・・・堂々の第一位と最悪の対面だ。
「800年もの時間が過ぎた間に・・・世界は中々に様変わりしたね。欲望がこれほどまでに進化を遂げているとは嬉しい限りだよ!」
こちらとしては最悪の限りだよ。
「かなりの殺気っていうか・・・隠しきれない存在感でどんな奴がくるかと思えば・・・初代オーズ様と来たもんじゃないか。こりゃやっぱりここに来て正解だったぜ。こんな面白いのと戦えるんだからな」
先代オーズと知って尚更やる気を出したポセイドンは触手を避けつつ距離を詰め、槍を喉元目掛けて突き立てる。
「ふむ。見知らぬコアメダルだな。この時代・・・いや、更に先の時代で作られたコアメダルか」
喉に突き刺さっている槍など気にも留めていない首領オーズは、ポセイドンのベルトのメダルに注目してる様子だった。
「この6連ドライバーの技術も中々だが、そのメダルも実に興味深い。再度誕生して実に良かった。素晴らしいッ!!再び世界を我が手に納めたくなってきたぞ」
「隠居した王がいけしゃあしゃあと出しゃばってんじゃねぇぞ!!」
ポセイドンは喉から引き抜いた槍で何度も首領オーズを斬りつけるも・・・その身体からセルメダルがこぼれ落ちるだけでまるで怯む様子はない。
「マジかよ。こんだけ攻撃してダメージがないってのは流石の俺でも少しヘコむぜ」
「・・・ダメージがないってことはないと思う。だけどそれ以上にあのオーズを構築してるセルメダルの量が多すぎるんだ」
王のオーズ、クガ王はかつて自身の身体を器に大量のセルメダルを取り込んだ状態でオーズへと変身し・・・圧倒的な力を振るったという。そして今のあいつはグリードそのもの。ショッカーからデルザーまでの力を宿したショッカーグリードの上位互換とも言うべき存在だ。ただでさえやばかったショッカーグリードがセルメダルで更に強化されたようなものにポセイドンとアクアは勝てるのか?
「さぁ・・・私の知らないメダルの力、もっと見せてくれ!」
首領オーズは先ほどよりも激しく6本の触手を動かし、ポセイドンとアクアはそれを避けることが精いっぱいといった様子にまで追い込まれる。
「チッ・・こうなったら仕方ねぇな」
槍を投げ捨てたポセイドンは何をトチ狂ったのか、拳銃1つを握りしめ首領オーズへと向かって行く。
「何をするかは知らないが・・・そんな豆鉄砲など・・・ぐっ!?」
その銃に撃たれた首領オーズは・・・撃たれた腹部から大量のセルメダルを散らす。
「こんな玩具・・・使う気はなかったんだが・・。案外役に立つな」
ポセイドンの銃から放たれた弾丸は磁力分裂弾。鴻上ファウンデーションが開発した対メダル怪人用武偵弾で、メダルとメダルの結合を磁力で引き剥がす特殊弾だ。まさかジーサードがあれを使うだなんて思いもしなかった。
「これまた実に・・・面白いものがあるではないか」
「あぁ。その通りだ。世界は面白いものばっかりだぜ。・・・見たいものは見終えたなら大人しく隠居していろクソジジイ」
「オーシャニックブレイク!」
「オラァァァッ!!」
アクアのスライディングキックとポセイドンの頭突きを喰らった首領オーズは爆発はせず・・・ベルトごとセルメダルとなり形を失った。
「磁力分裂弾は対策していなかったわ。封印期間が長く、調整を怠った我々のミスね」
ここに来て投資関連ではなく、自分達の比を認めたキイマはラストステージへと次元を移動させる。
「ここは・・・」
俺達は最後の舞台を見て驚く。その戦いの舞台に選ばれたのは・・・東京武偵高だったからだ。
「あれ?先輩方どうしたんですか?」
下校しようとしていた東條と偶然遭遇する。俺のことを知ってるってことは別の次元ではなさそうだ。
「ラストバトルのステージとしては・・・ここがベストでしょう」
最後の戦いは学び舎である武偵高で。聞こえはいいかもしれないが「死に場所はここならいいでしょ?」とも取れるし、ラスト1人・・・こちらが負けた時点でこの武偵高を潰すと脅迫しているとも考えられる。
「仮面ライダー4号。貴方の出番よ」
「あぁ。この場を地獄へ変えてやろう」
俺の首を絞めていた軍人っぽい見た目のショッカーライダーはキイマに「仮面ライダー4号」と呼ばれて前へと出てくる。
「仮面ライダー・・・4号だと?」
不満そうな表情をした矢車はベルトにゼクターをセットして前へと出る。最後に残っているってのもあるが・・・矢車はあいつに挑む気満々のようだ。
「変身・・・」
『CHANGE KICKHOPPER』
「はぁ・・・」
キックホッパーへと変身を遂げた矢車は・・・ため息をつき、一度クールダウンする。
「仮面ライダー4号。歴史の闇に消え、本来ならば3号とともに動く事などなかった戦士よ」
3号とともに?ってことは3号は今は何処かで活動してるってことなのか?
「我が兄とも言える3号は・・・1号2号のように『セイギ』とやらの感情に目覚め、今も表の歴史には出ないままエヴィル残党を倒しているらしいな」
表の歴史には出ないまま・・・戦っていたのか。そりゃ知らないはずだ。
「くだらぬ兄共だ。人間などという脆い生命を守るため戦い、何になるというのだ?」
「・・・仮面ライダーの名前を持っているってのに・・・お前には分からないのか?」
「もう1体の最高傑作である仮面ライダー4号にはそのようなものを理解する機能は備わっていないわ。1号や2号。3号とは違い、完全に脳改造も施されていてる完全無比の戦闘マシーンよ」
つまり・・・もし本郷さん達が脳改造を受けていたらこんなふうになっていた可能性もあるってことか。
「・・・すぐ楽にしてやるよ」
脳改造まで受けていてはもう自分の声は届かない。そう理解したキックホッパーはせめて1撃で葬ってやろうと足にライダーパワーを溜める。
「初手からスピリッツキックで行く気なのか?」
スピリッツキックはキックホッパーの・・・矢車にとっての最強キック。自身のライダーパワーを極限まで高めて跳び蹴りを放つ技だが・・・溜めるまでの隙が大きい上に、その後矢車は俺のコンボ疲労のように、一気に体力を失う反動の大きい技だ。序盤から使うのにはリスクが高すぎる。
「先輩・・・あの仮面戦士は?それにあの白服の人達はいったい?」
流石に無視はできなかった東條は俺達のところへ近づいてきて、相手の事を訪ねてきた。
「白服の連中は財団X。最近勢力を拡大してる何だか良く分からない組織だ。・・・そして矢車が戦おうとしているのは仮面ライダー4号。なんでもあちらさんの最高傑作らしい戦闘マシーンだとよ」
「・・・仮面ライダーを戦闘マシーンだなんて・・・っ」
ヒーローに対する憧れが誰よりも強い東條はデッキを取り出し、変身しようとしていたのを・・・俺と正太郎が止める。
「待て東條。気持ちは分かる。・・・そしてそれは矢車も同じなんだ。ここはあいつに譲ってくれ」
「だったら2人がかりで相手をした方が・・」
「・・・捕えられたアリアを助けるために5対5の戦いをしているんだ。奴らの戦力ははっきり言って未知数。少なくともエヴィルの5倍以上規模でさえ支部程度の連中だ。下手に約束を破っちまうと・・・武偵高だけじゃなく世界レベルでやばいんだよ」
それを聞いた東條は驚いた表情を見せた後、少し納得がいかない様子ながらもデッキをポケットへとしまう。
「東條、他の仮面戦士科のみんなに・・・この戦いには手を出さないように伝えてくれ」
「分かりました。・・・絶対に勝ってください」
そう言い残した東條は仮面戦士科に伝言を伝えるために走り出す。それと同時にキックホッパーの「溜め」が終わり空中へと跳び上がった。
「それがお前の最強の必殺技。ライダースピリッツキックか」
隙だらけだったはずのキックホッパーに対して動こうとすらしていなかった4号はようやく動きを見せる。
「お前の最強の必殺技。俺が撃ち砕いてやろう」
そう告げた4号は右拳を緑色に発光させる。
「ライダー・・・スピリッツキックッ!!」
「ライダァァァ!パァァンチ!!」
キックホッパーのスピリッツキックと4号のライダーパンチが激突し・・・周囲にかなりの衝撃が伝わる。
「フゥゥゥンッ!!」
「な・・・ぐぁっ!?」
そのぶつかり合いに・・・キックホッパーが押し負けた。あのエヴィル首領の変身した姿・・・仮面ライダーコアを打ち破ったあのキックがだ。確かに獣人モグラヤミーとのときにはその耐久力から持ちこたえられることはあったが・・・それでも大ダメージは与えていた。
「悪くはないが・・・俺を倒すには足りんな」
しかし4号はせいぜいぶつかり合いをした右手を軽く揺らし、ダメージの程度を確認するか程度でしかない。スピリッツキックとのぶつかり合いを耐え抜く防御に、打ち勝てるほどの攻撃力。仮面ライダー4号があいつ等にとって最高傑作ってのはあながち間違いなさそうだ。
「パワー。防御力。瞬発力。それら全てが貴方を上回っているわよキックホッパー」
「それが・・・どうした?」
キイマに力の差を告げられても・・・キックホッパーは立ち上がる。
「俺達はいつも・・・強さの壁にぶつかりながらも、それを乗り越えて戦ってきた。今回もいつもと同じだ」
『RIDERKICK』
いつも通りと語ったキックホッパーは通常のライダーキックを4号へと決め込もうとするも・・・片手であっさりと防がれる。
「威力が落ちているな。先ほどのキックでもうバテてしまっているのか?・・・つまらんな」
左手でキックしてきた右脚を掴みながら4号はキックホッパーを地面へと叩きつける。そして何度も掴んでいる右足を右拳で殴りつけた。
「ぐっ・・・っ!?」
「どうした?もっと抵抗してみせろキックホッパー」
掴んでいた右脚を放した4号は本人にとっては軽い蹴りと言わんばかりに・・・まるでサッカーボールを近くに蹴り飛ばすような感覚でキックホッパーを蹴り飛ばす。
「・・・・」
右足を押さえつつも再び立ち上がったキックホッパーは両脚の装甲にヒビが入り、アンカージャッキは既に使い物にならなくなっていた。
「あの足のダメージ。あれじゃスピリッツキックどころか通常のライダーキックすらできそうにないぞ」
「キックどころじゃない。クロックアップして走ることもキツそうだ」
はっきり言って普通に考えたら立ち上がったとしても歩くことすらままならないはずのダメージはあるはずだ。それでもキックホッパーは平然と立ち上がり・・・走る。
「頼れる師がいたから・・・かけがえのない仲間がいたから俺は何度折れても立ち上がって・・・戦ってくることができた。俺1人じゃ・・・たどり着くどころか・・・見つけることもできなかった」
『CLOCKUP』
クロックアップで4号のすぐ目の前まで移動したキックホッパーはダメージが大きいはずの右足を軸に左足で回し蹴りを決め込む。
「本当の完全調和。真のパーフェクトハーモニーは・・・俺だけじゃ成し遂げられない。仲間といるからこそ・・・成し遂げられた。東京武偵高。バスカービル、仮面戦士科。そのすげてが俺の完全調和。ここに俺の答えの全てがある。・・・ここに俺がいるかぎり・・・調和は乱させない。そのためなら俺は・・・何度でも・・・どんな地獄からも這い上がって走ってみせる」
そう宣言したキックホッパーはアンカージャッキを使用しない通常のジャンプで跳び上がり・・・空中で一回転をする。
「何をするかと思えば先ほどと同じ通常のライダーキックか。それ以上のものはなさそうだ。次で地獄へと送ってやろう。トォウ!!」
同じく空中に跳び上がった4号は・・・キックの体勢を取る。
「「ライダァァァ・・・キィィィクッ!!」」
キックホッパーと4号2人のキックがぶつかる。そのキックのぶつかり合いは・・・キックホッパーが押していた。
「な、何故だ!?パワーはこちらが勝っているはず!?」
「技や力の問題じゃない。心の問題だ・・。ライダーパワーを・・・仮面ライダーを舐めるな!!」
キックホッパーのキックは4号の腹部へと直撃し・・・4号は崩れるように地面へと落下する。
「くっ・・・」
着地と同時に変身が解除された矢車は後ろを静かに振り返り・・・残骸となった4号に視線を向ける。
「いつか・・・何処かの世界でお前も仮面ライダーの魂に目覚められるといいな」
「まさか4号までも破られるとは考えていなかったわ。・・・約束通り緋緋神グリードを倒すチャンスを与えるわ」
素直に自分達の負けを認めたキイマがそう告げると・・・その背後から緋緋神グリードが歩いてきた。
「まったく・・・器を移し替えられるとは考えてなかったよ。まぁ、ゆっくりと心を乗っ取る手間よか手っ取り早かったけどさ」
アリア声のそいつは・・・アリアの意識こそ入っているが、アリアではない。
「アリアを返してもらうぞ」
レガルメンテの血が更に濃くなった俺はオーズドライバーを腰に装着しつつ矢車より前へと出る。
「返す?可笑しなことを言うな。あんたの想いがこいつがあたしになっていくのを加速させていたんだぞ」
「・・・そうか」
会話を続けても無駄だと理解した俺は・・・緋緋神グリードを倒すためミハルに渡された未来のコアメダル3枚をドライバーへとセットした。
次回、最終回。