緋弾のアリア 欲望の交差   作:彩花乃茶

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40年と勇気と未来の明日

「ここは・・・?」

 

 王のオーズ(仮)になっていた青年が気を失ってから30分ほどが経過した。そしてクスクシエの後始末を正太郎と陽に任せたらしいバスカービルのメンバーが体育倉庫へとやってくると、ようやく青年が意識を取り戻した。

「どうやら今はメダルに意識が乗っ取られていないようね」

 

 目が覚めたらまた乗っ取られている方が出てくるかもしれないと警戒していた俺達は・・・ひとまずそれに対する警戒心は解く。

「俺は遠山キンジ。仮面ライダーオーズだ。お前は何者だ?」

 

「遠山キンジ・・・オーズ。そうか、貴方が・・。僕はkー38。ミハルです」

 

 ミハルと名乗った青年は・・・どうやら俺の事を知っているようだ。k-38って・・・まるでジーサード達みたいだな。

「ここは・・・東京武偵高。それにこの人もまだ学生ってことはかなり前の時間か。あの、今年は何年ですか?」

 

「え?2012年だけど・・・」

 

 アリアが「どうしてそんな事を聞くの?」と呟きつつも今年が2012年であることをミハルに伝えると・・・彼は「やっぱり」と呟く。

「僕のいた時代より・・・ちょうど40年前だ」

 

「はぁ?あなた何言ってんの?」

 

 アンク以外のみんなが・・・もちろん俺もその言葉の意味を理解できなかった。

「僕は次元の歪みを通って・・・今から40年後の未来から来たんだ」

 

 40年後の未来?

「そんなの信じられるわけ・・・」

 

「そう・・・だよね。いきなりこう言われても信じてもらえないよね」

 

 アリアは信じられないと否定し、ミハルも信じてもらえなくて仕方がないような表情をしているが・・・俺はある出来事を思い出す。パトラの事件、アリアが『緋弾』を使った時のことを。その力で消滅したと思われていたピラミッドの一部は過去へと飛んだ。緋緋色金にはそれを可能とする力がある。そして今、ミハルの体内にあるコアメダルは純粋な色金の結晶ともいえるものだ。時間移動できても・・・一応おかしくはない。それに亮太郎やジーサードが言うには『時の守護者』を役目を担う仮面戦士には時を行き来する電車に乗る資格とも聞いてるし、渉の城であるキャッスルドランには魔皇力によるタイムスリップを可能にしてる扉があるともいうしな。

「とりあえず・・・ミハルが40年後から来たってことは信じるから、話を続けてくれ」

 

「うん。それで・・・未来でも人々を襲う怪物たちがいて・・・僕が僕は資格者としてライダーの力を授かったんだ」

 

「あのオーズにも似たコアメダルを用いた仮面戦士の力だな」

 

「・・・いや、資格者として貰ったのはそれとは別の力なんだ」

 

 そう言ったミハルは懐から別のベルトを取り出す。そのベルトはどこか1号のタイフーンに似てなくもないデザインをしていた。

「だけど僕は・・・戦えなかった」

 

「どうしてだ?」

 

「・・・このライダー、水の力を使って戦うんだけど・・・僕は水が苦手なんだ」

 

「水が苦手・・。それなら仕方がないわね」

 

 泳げないアリアが真っ先に納得する。普段なら「それぐらいなんとかしなさい」って言う側なのに、自分も苦手なことは同意するのかよ。

「だが仮面戦士はお前1人ではないだろう」

 

「仮面戦士だけじゃない。武偵もいるはずよ」

 

 矢車とアリアが他を頼ればいいと意見すると・・・ミハルは首を横に振る。

「40年後には・・・他のライダーはいない。僕1人だけだ。武偵高ってのも40年後には無くなっている」

 

 仮面戦士どころか武偵高もないだと?

「僕が生まれるずっと前だから詳しいことは分からないけど・・・この時代からそう遠くない時代で大きな戦いがあったらしいんだ。その時に多くのライダーが命を落としたって聞かされたことがあるよ。全滅こそしてはいないはずだけど・・・僕の時代で活動しているライダーは他にはもういない」

 

 そう遠くない未来・・・仮面戦士の多くが命を落とすことになる戦いが起きるのか。だけど生まれる前って言ってるし・・・問い詰めることはできなさそうだ。

「武偵高はまぁ・・・僕が生まれた頃には入学希望者がほとんどいなくなったって理由で次々と廃校になったってだけだけど」

 

 世知辛い。これが少子化か。・・・いや、単純に武偵という職業の人気が落ちただけか?

「まぁ・・・未来のことはひとまずもういい。聞いてもキリがないからな。お前が変身していた仮面戦士のことを教えてくれ」

 

「うん。・・・あのライダーは僕が水が怖くて戦えないことで困っていた時、ある人が僕に譲ってくれたライダーシステムだったんだ」

 

「そのある人ってのは?」

 

「鴻上会長だよ」

 

 メダルが絡んでいた時から疑ってはいたが・・・やっぱりあんたかよおっさん!!

「ポセイドン。40年後の未来で新たに創られたサメ、クジラ、オオカミウオの3枚のメダルで変身するライダーシステムだよ」

 

 しかもご丁寧に俺達の時代での失敗を生かしきれてないときた。なんていう迷惑なおっさんだ。

「本当はメダルに意思なんてなくて・・・僕もその力と・・・まぁ特殊な体質のおかげである程度は戦えていたんだ。だけどそんな戦いをしていたある日、ブラックホールのような次元の歪みから大量のメダルが津波のように押し寄せてきて・・・僕の中に入ったんだ」

 

「ブラックホールから・・・メダルだと・・」

 

 真木博士との最後の決戦のとき・・・最後の一撃でブラックホールみたいに次元が歪んでコアメダルがすべてそれに吸い込まれた。もしかしたらその次元の歪みが40年後の未来に繋がって・・・。

「メダルが僕の中に入った影響で新たに創られたコアメダルが意思を持ったんだ」

 

「それがあの仮面戦士。仮面ライダーポセイドンってことね」

 

 王のオーズ(仮)改め仮面ライダーポセイドンはある意味俺も事件に関わっていたってことか。

 

 

 

 

・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

 

「・・・・・」

 

 ミハルが・・・明らかに雰囲気の違うミハルがアンクへと近づいていく。

「そろそろだと思っていたぞ」

 

『CLOCKOVER』

 

 アンクがミハルに視線を向けた途端、クロックアップで瞬時に背後に回ったキックホッパーがミハルを押さえつけた。

「そのまま押さえていてくれ矢車!変身!」

『サソリ!エビ!カニ!サッカッエッ!サッカッエッ!サッカエ~~ロ~!!』

 

 サカエコンボに変身した俺はカニブレードを地面に突き刺すと電磁力を操ってミハルの身体をキックホッパーに張り付けて逃げられないようにする。

「悪いな。お前が表に出ないとメダルが抜けないんだよ!」

 

 そう言ったアンクは右腕だけを怪人化させてミハルの腹部へと突っ込むとクジャクとコンドル。そしてシャチとタコのコアメダルを抜き取った。これでタジャドルとシャウタのコンボも使えるようになったな。

「調子に乗るなぁぁぁぁっ!!」

 

「「「「

 ミハルの全身から放たれた衝撃波に俺達は吹き飛ばされてしまい、押さえていたキックホッパーは変身が解除されてしまう。

「ぬおぉぉぉぉっ!!」

 

 そしてミハルの中に入っていたメダルが抜け出たかと思うと・・・そのメダルは俺達の前に人型に集まり、変身者であるミハル無しでポセイドンの姿へと変わった。

「俺はようやく、単体としての存在を確立した」

 

ミハルを人質にでもするように押さえつけたポセイドンは俺達にそう告げてくる。

「きーくん。これどうなってんの?」

 

「よく分からないが・・・仮面戦士の見た目をしたグリードってところだろ」

 

 見た目は仮面ライダーだが、その身体はメダルだけで構築されている。ほぼグリードと言って間違いないだろう。

「さて、いらなくなったゴミは捨てなくてはな」

 

 今まで宿主としていたミハルを投げ捨てたポセイドンは水袋が弾けるような目くらましをして姿を消してしまう。

「アンク!気配を追えるか?」

 

「・・・いいや。今まではあいつがほとんどのメダルを持っていたから気配が強くて、分かりやすかったが・・・既に半分以上メダルを取り戻した今じゃ気配が薄れて追うことはできないな」

 

「・・・遠山。鴻上会長から通信だ」

 

 俺は後藤が開いているノートパソコンの画面を見ると・・・そこには水色のスーツを着ている鴻上のおっさんの姿が写った。

『やぁ遠山君!ごきげんよう!どうやら心機一転。新しい自分に生まれ変わったようだね。ハッピィバァァスディ!そちらは未来から来た仮面戦士君だね。この時代へようこそ。この時代へと君にハッピィバァァスディ!』

 

 おっさん。あんたただハッピーバースディ言いたいだけだろ。ミハルのことも・・・どうせこの辺の監視カメラ映像を見てたから知ってるんだろうし。

「それで何のようだおっさん。俺達今忙しいんだけど・・・」

 

『分裂し新たに存在を確立した未来の仮面戦士。仮面ライダーポセイドンの居場所を知りたいのだろう?』

 

 このおっさん。本当に何処まで知ってるんだよ。・・・まぁ、ここは素直におっさんに頼った方がよさそうだな。

「知っているなら教えてくれ」

 

『仮面ライダーポセイドンが通って来たワームホール。要するに次元の穴だよ』

 

ワームホール?次元の穴?

『原因は不明だが・・・3週間ほど前からエヴィル本部跡地の最上階に次元の歪みが観測されたのだよ。我々鴻上ファウンデーションが独自に調査をした結果、その次元は今から40年後に繋がっていることが判明したのだよ』

 

 まぁ・・・未来がどうのこうのなんて事は下手に公にすることはできないよな。

「しかしまたエヴィル本部跡地か。つくづくあそこは思い出が増える場所だぜ」

 

「ほら、皮肉言ってないでさっさと行くわよ」

 

 アリアだけなく・・・みんな付いてきてくれるっぽいな。

「そうだな。あいつを他の時代に行かせない。俺達の時代でケリをつけてやる」

 

 俺達は体育倉庫を出てエヴィル本部跡地へと歩き出す。

「どうして・・・どうして戦いに行けるの?怖くはないの?」

 

 恐怖で今にも押しつぶされそうなミハルは・・・俺にそう訪ねてくる。

「怖くない。・・・わけないだろ。当然怖いって。だけど未来へ続く明日を守るために・・・俺達は今を戦わないといけないんだ」

 

「今を・・・戦う?」

 

「あぁ。俺達には戦う力がある。力を持つものには・・・それを正しく使わないといけないっていう責任があるんだ。・・・いいや、今は責任なんて関係ないか。安心しろミハル。未来に繋がっていく明日は俺達が守る」

 

 ミハルをこの場に残して俺達はエヴィル本部跡地へと向かう。

「オーズに・・・爺ちゃんにあって、今の僕にないもの。・・・HSS・・。いいや。僕を助けてくれた時はチェンジしていたけど、さっきまでの爺ちゃんはチェンジしていなかった。オーズの・・・仮面ライダーとしての力?・・・それも違う。それなら僕にもある。そうだ、あの時爺ちゃんが言っていた言葉だ」

 

 1人そこに残っていたミハルは何故か俺の事を『爺ちゃん』と言い始めたかと思うと、俺達には合って自分にはないものとは何かを考え出す。

「ポセイドンの力に呑みこまれて意識が半分ぐらい薄れていたけど・・・それでも聞こえてきたあの言葉。力は自分の欲望のためなんかじゃなく、自分の信念を貫くため・・。僕はただ・・・やれと言われて・・・ただたった1人の『資格者』だから戦いを強いられて、戦っていただけだ。信念もなければ・・・僕自身に大した力なんてない」

 

 ミハルは悔しそうに両拳を強く握ると・・・右拳を体育倉庫のドアに強く打ち付ける。

「爺ちゃんみたいに・・・未来も守るなんて言える勇気は僕に・・・」

 

 強く打ち付けた右拳を痛そうに左手で包んだミハルは・・・そこでようやく何かに気づいた。

「そうか。・・・そうだよ。ようやく気づけたよ、僕に足りないモノ」

 

 自身の足りないものに気づいた様子のミハルは、その答えが待つ場所へと走り出した。

 

 

 

 

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

 数十分後、装備を整え直した俺達はエヴィル本部跡地へと到着すると案の定大量の屑ヤミーが待ち構えていた。

「うわぁ・・。やっぱりミイラ達がウジャウジャいるよぉ~」

 

「皆さん気を付けてください。屑ヤミーに紛れて所々にサイやカブトムシ、ライオンなどの通常のヤミーも何体かいます」

 

 理子は無駄に多い屑ヤミーに嫌そうな顔をすると、誰よりも目がいいレキは100を超える屑ヤミーに紛れている通常ヤミーに気づいて、それを俺達に教えてくれた。

「どういうことなのアンク?」

 

 白雪は睨みつけながらアンクに尋ねると・・・アンクは引き気味にそれに答える。

「あいつの取り込んでるコアメダルのせいだろ。タトバ以外の3枚は奴に飲まれてなかったが・・・それ以外のコアメダルが1枚づつ取り込まれていた。そしてまだ奴の中にクワガタ、ゾウ。チーターと爬虫類系3枚は飲み込まれているままだ。グリードに限りなく近い存在になったあいつならそれができてもおかしくはない」

 

「別の時代には行かせねぇ・・」

 

「これ以上あいつの好き勝手になどさせない」

 

矢車と後藤はそれぞれホッパーゼクターとバースドライバーを手に取る。

「ところでアンク・・・1つ聞いていいかしら?」

 

「何だ?」

 

「もしかしてだけど・・・一緒に戦うのってこれで最後?」

 

 銀と黒、いつもの2丁を手に取ったアリアは敵から視線をそらさないままアンクに尋ねる。俺もアリアと同じことを考えていた。最初にその考えが浮かんだのは鏡高組でジーサードに着物を剥がされた菊代を見てヒステリアになりながらもオーズに変身し、ドーパントとの戦いを終えた直後だ。ルビーに向かう時に現れた屑ヤミーの時も・・・そしてあのドーパントとの戦闘の後もアンクは戦うたびに俺にメダルを返却させ、俺にメダルを持たせないようにしていた。まるで名残惜しむかのように・・。まぁ、ヒステリアの時に感づいてただけで普段の・・・今の状態の俺だったら気づいてすらいなかっただろうことをアリアは直感的に感じ取ってるんだから充分そっちの方が凄いことなんだがな。

「そうなりたくなかったら・・・しっかり生き残れ」

 

アリアの質問に対する答えを曖昧にしたアンクは俺にタトバの3枚を投げ渡してくる。

「あぁ。生き残ってやるよ。変身っ!」

『タカ!トラ!バッタ!タットッバッ!タトバ、タットッバッ!!』

 

 オーズに変身した俺はタカヘッドの超視力を発動しながら周囲を見渡す。そして透視でポセイドンがエヴィル本部跡地の真ん中辺りまで足を運んでいたことに気づいた。

「ここは俺と矢車に任せて、お前達は先に行け」

 

「いいのか?」

 

「どんなに集まろうと・・たかが通常のヤミー数体とおまけの屑共だ。この程度に負ける俺達じゃない」

『CHANGE KICKHOPPER』

 

 変身した2人は正面の屑ヤミー達へと駆け出し次々となぎ倒して道を作ってくれた。

「・・・分かった。任せたぜ」

 

 この場を2人に任せた俺達はポセイドンを追って駆け出す。

「・・・とはいえ、この高さだし・・普通に階段上ってちゃ追い付けないよな」

 

「じゃあさきーくん。またあの時みたいに壁を跳び上がっていけばいいんじゃないかな?」

 

「俺もそう考えたけどさ・・・2人ぐらいなら担いで跳べるけど、4人となるとなぁ・・・」

 

 変身してるから筋力的には別に問題ないけど・・・単純に持ちにくい。というより掴めない。アンクは絶対運ぶの手伝ってくれなそうだし。

「シャウタのタコ足で掴んでいくしかないか」

 

「きーくん。それは犯罪チックな絵面になるからやめようね」

 

 ・・・俺も何かヤバめな構図になりそうだとは思った。ヒステリアどころか犯罪的な意味でも。

「キンちゃん。ポセイドンとの戦いも控えてるんだから無駄にコンボを使って体力を消耗するのは避けた方がいいよ」

 

 確かにあれと決着をつけるにはコンボは必須だしな。タジャドルって手もなしか。

「こうなれば・・・答えは1つですね」

 

 レキがそう呟いた途端、アリア達はいきなりジャンケンを始めようとする。

「勝った1人が上に行く。いいわね?」

 

 アリアがそう告げると、3人とも頷く。なんで1人?別に2人までなら大丈夫なのに・・。

「別に2人でも・・・」

 

「キンジは黙ってて!!」

 

「・・・はい」

 

 アリアの気迫に押され、これ以上口を挟むのはやめた。俺ら急がないといけないの分かってますよね?

「「「ジャンケン!ポン!」」」

 

 アリアは何故か強気で、白雪は危機迫る勢いで、理子はただこの場のノリだけで、そしてレキは無言でジャンケンをする手を前に突き出す。

「「「「・・・・」」」」

 

 勝負は一発で決まった。アリアの勝利で。理子は頬を膨らませて悔しがり、レキはやや眉を寄せて不満そうにしている。白雪は・・・ヒィ!?お、鬼ッ!?・・・い、いや見なかったことにしよう。そうだ俺は何も見ていない。熱いハートでクールになるんだ俺。

「さ、さぁ・・急ぐぞ。超急ぐぞ」

 

「あぁ」

 

 アンクに催促されたので俺はトラクローで壁をぶち壊すとアリアを抱き寄せて跳び上がる。

「・・・悪いな。なるべく早くケリをつけてくるから」

 

 この場に置いていくこととなった3人にそう呟きつつも飛行するアンクと共にポセイドンの元へとたどり着く。

「やはり来たか。お前とはもう戦い飽きたのだがな・・」

 

「それはこっちもだ。だからここでケリをつけてやる」

 

 跳んで運ぶためとはいえ・・・さっきアリアを抱き寄せたおかげでジワジワとヒステリアの血が全身に広がり始め、俺はひっそりとヒステリアモードへと変わる。

「満開に咲き誇るぜ。散らせるものなら散らしてみやがれ」

 

 俺がトラクローを振るうと、ポセイドンも槍を俺に振り下ろしてくる。なので槍の刃を左のトラクローの爪と爪の間に入れさせ、左手を下げることで受け流す。

「セイっ!」

 

 右のトラクローを畳んで肘内を打ち込んだ俺はバッタレッグの力を解放してほぼゼロ距離からドロップキックを決め込み、ポセイドンを壁沿いへと追いやった。

「キンジ!」

 

 アンクは俺にシャウタの3枚を投げ渡してきて・・・次にすべき一手をヒステリアの頭で瞬時に理解した。

「海のライダー同士、仲良くダイビングと行こうぜ!」

『シャチ!ウナギ!タコ!シャッ!シャッ!シャウ~タ~!シャッ!シャッ!シャウ~タ~!』

 

 シャウタコンボへと姿を変えた俺はポセイドンの振るう槍を液状化で避けつつ、ウナギウィップで壁を壊して海へと向けて突き飛ばす。そして今の俺は海のコンボであるシャウタコンボ。陸地よりも戦いの場は水の中の方がいい。そんな考えで俺は付き落としたポセイドンを追って海へとダイブした。

「あばばばばばばばばばっ!!!」

 

 タコレッグの能力を解放しそれぞれの足でポセイドンを連続で蹴りつける。

「小賢しい!」

 

 しかし対するポセイドンも海の力を宿すメダルの仮面戦士。同じく能力を解放して下半身がグロい魚のようなものに変化させ、タコレッグに噛みついてきた。

「グロいし、キモいし・・・何より噛みついてくるなんて恐ろしい奴だな」

 

 キモさならタコレッグの能力解放では負けてないが・・・。しくじったな。相手の能力解放までは考慮していなかった。

「このままかみ砕いてやる!!」

 

「そうはいくかよ!」

『ジャバジャババシャーン!ザブン!ザブーン!』

 

 少し離れたところからオースキャナーから流れる変な歌に勝るとも劣らない変な音声が聞こえたかと思えば・・・青いコートのウィザードがドラゴンの尻尾をポセイドンへと叩きつけた。

「晴人・・・なのか?どうしてここに?」

 

「その声、まさかキンジか?・・・俺はこいつに借りを返すつもりで使い魔に探させていて・・・ようやく見つけたと思えば仮面ライダーが戦っていたってわけだ。こっちとしてはライダーの力を無くしたって言ってたのにまた変身していることに驚きだっての」

 

 そりゃまぁ・・・あの話の後に取り戻したもんな。

「仁藤も変身して機械っぽい2人のライダーを手伝ってる」

 

「え?あいつも仮面戦士なのか?」

 

「あれ?言ってなかったか。あいつは古の魔法使いビーストだ」

 

古の魔法使い・・・仮面ライダービーストか。

「ふん、先日逃した魔法使いのライダーか。お前もこの場で倒してやろう」

 

 ウィザードの攻撃で沈んでいたポセイドンが戻って来た。

「海の相手に海でってのは・・・思った以上に難しいな」

 

 互いが最も得意とするステージでの戦いじゃ・・・未来で作られただけあって性能が上のポセイドンの方が有利。だったら・・・

「晴人、あいつを陸にぶっ飛ばしてくれ」

 

「分かった!」

『チョーイイネ!ブリザード!サイコー!』

 

 ポセイドンを氷漬けにしたウィザードは尻尾でそれを掴んで、それを陸地へと投げ飛ばす。

「・・・一応これキメ技なんだが・・やっぱりめっちゃタフだな」

 

 ウィザードの必殺技も耐え凌いでるか。となると次の一手で確実にきめられるか?・・・そう考えつつも俺は陸へと上がると、屋上から落ちてきた何かが少し離れた水上へと落ちてきた。

「あれは・・・水上バイク?」

 

 面倒臭そうな様子のアンクに担がれて地上に戻って来たアリアはそれを見て呟く。誰かが運転する水上バイクがこちらへと接近して来ているからだ。もしかしてあれはミハルか?

「まったくきーくんったら、上に上がったと思えば下に降りてたり振り回されるこっちの身にもなってよ!」

 

「きゃっう!?」

 

 急いで下へと降りてきた理子は息を切らしながら俺にそう愚痴ってくると、同じく駆け足で降りてきた白雪が階段でつまづき、理子の胸に顔をうずめた。

「ちょっとゆっきー、こういうのはきーくんの役目だと思うなぁ」

 

 俺の役目ってなんだよ。

「ちょ、このタイミングでそんな・・予期せぬカプ・・」

 

 水上バイクを運転していたミハルのハンドル操作がぶらつく。

「ぬんっ!」

 

「・・・ハァァッ!」

 

 氷漬けから抜け出したポセイドンはその水上バイクへと斬撃を飛ばすと・・・ミハルは先ほどのふらつきをした人物とは思えないテクニックで空中一回転をしてそれを回避した。

「もしかして・・・」

 

 雰囲気や操縦技術・・・反応速度が向上している。まさかあいつ、ヒステリアモードにでもなったのか?

「いや・・流石に・・・」

 

 40年後の未来から来たとなると可能性はなくはないが・・・だそすればいったいどこでヒスったんだよ。

「・・・ミハル君。なんというか業が深いっていうか・・」

 

 1人だけその答えが分かっている様子の理子は何とも言えない表情で苦笑していた。

「オーズ!僕に足りないモノ、ようやく分かったよ!守るために戦う気持ち。明日に向かって前に進む想い。勇気だ!」

 

 そう言ったミハルはポセイドンドライバーとは違うもう1つのベルト。あの1号のベルトにも似たベルトを腰に装着した。

「変・・身ッ!」

 

 ベルト中央に海の水が吸収されたかと思うと・・・新たな世代を思わせる水色をした仮面ライダー1号にも似た姿へと変身した。名付けるならそう・・・

「仮面ライダー・・・アクア・・」

 

「アクア。仮面ライダーアクア。そのままっぽいけど良い名前だね。・・・これから僕は仮面ライダーアクアだ!」

 

 俺が直感的に名付けた名前を気に入った様子のミハルは自身のことを仮面ライダーアクアと名乗りつつ、ポセイドンの攻撃を避ける。

「ハァァッ!」

 

 水上バイクから陸地へと跳んでポセイドンに発勁を打ち込み、怯ませる。

「セイヤっ!」

 

 そして怯んでいるところにしゃがみ込みからの足払いをして、体勢を崩させると・・・そこにかかと落としを決め込んだ。

「おのれ!弱者風情が粋がるなぁぁぁ!!」

 

 再び能力を解放して下半身をグロい魚に変えたポセイドンはその尾でアクアを振り払い、状態をおこす。

「・・・オーズ。トドメは一緒に決めよう」

 

「あぁ!」

 

 俺がアクアの言葉に頷くと、アンクはクジャクとコンドルのコアメダルを投げ渡してくる。

『タカ!クジャク!コンドル!タ~ジャ~ドル~~!!』

 

「ハァっ!!」

 

 シャウタからタジャドルコンボへと姿を変えた俺は翼を広げて空中へと飛び上がると再びメダルをスキャンする。

『スキャニングチャージ!』

 

 俺の両脚が巨大なクローへと変化すると同時に・・・アクアが駆け出す。

「オーシャニックブレイク!!」

 

 アクアが水を纏ったスライディングキックを決め込んだタイミングで・・・俺はポセイドン目掛けて急降下する。

「セイヤァァァァァァ!!」

 

「ぬっぁぁぁぁっ!?」

 そしてそのクローによるドロップキックがポセイドンへと炸裂すると・・・2つの必殺技には耐えられなかったポセイドンは爆発し・・・周囲にメダルが飛び散った。

「・・・ありがとうオーズ。未来の明日。俺も守るから・・」

 

「あぁ。頑張れよ」

 

 ポセイドンの作り出していた屑ヤミー達が消滅し、キックホッパー達の戦いも終わると・・・アクアと俺は握手を交わす。

「俺も・・・お前に繋がる明日を守るぜ」

 

「お爺ちゃんなら守れるよ」

 

「お、お爺ちゃん?えっ・・まさかお前・・」

 

「それじゃ!!」

 

 アクアは俺に謎を残したまま水上バイクに飛び乗ると・・・見た目水上バイクなのに空を普通に飛んで、屋上の次元の歪みへと飛び去っていった。

「さてと・・・俺達も帰るぞ仁藤」

 

「あぁ。派手に暴れて腹ぺこだぜ」

 

『テレポート・プリーズ!』

 

 ウィザードとビーストはテレポートなどという便利な魔法でこの場から姿を消すと・・・キックホッパーとバースがこちらへと歩いてくる。

「はいこれ~!」

 

「みんなで拾ってきたよキンちゃん!」

 

「お受け取りください」

 

「サンキュ・・」

 

 理子達からポセイドンを倒したことで散らばったコアメダルを受け取る。これで全てのコアメダルが1枚づつ使える状態、全てのコンボになれる状態になるはずだ。

「キンジもアンクもお疲れ様・・・あれ?アンク?」

 

 アリアはアンクにもねぎらいの言葉を告げようとするも・・・既にそこにはアンクの姿はなかった。

「キンジ!アンクがいないわよ!」

 

「・・・やっぱりな」

 

「やっぱりって・・・どういうことなの?」

 

 まだ変身を解かない俺は・・・割れたままのタカのコアメダルを取り出す。

「えっ?・・・割れたまま。ってことはやっぱり・・・」

 

「あぁ。アリアも察しの通り・・・・アンクもミハルと同じで、次元の歪みを通って未来から来ていたんだ」

 

 そうだとすると・・・アンクの一連の行動にある程度納得がいく。自分が未来に帰ることを思い、俺にメダルを管理させなかったことも、武偵高に再入学しなかったことも。

「これで・・・アンクともお別れなんだね」

 

 いつもアンクをボコっていた白雪も・・・いざいなくなると寂しそうな表情を見せる。

「そうでもないさ。アンクがここに来たってことは・・・いつかの未来、いつかの明日。またアンクと会えるってことなんだからな」

 

「・・・いつかの明日・・。うん、きっとまた会えるわ」

 

 アリアが名残惜しそうに次元の歪みへと視線を向けたその瞬間だった。

「ぬあっ!?」

 

 いきなり俺の身体が・・・金縛りのように動かなくなってしまう。

「コンボ発動中・・・スキャニングチャージ後。ちょうどいいエネルギー量のタイミングだ」

 

 少し離れている後ろには・・・白服の男女が数人見えた。

「財団・・・Xか。ぐぁっ!?」

 

 俺の変身が解除されると同時に・・・俺の身体から見たこともないメダルが抜け出る。あれは・・・コアメダルか?

「オーズの力を凝縮した『オーズコアメダル』の精製に成功。次、ターゲット確保」

 

「「了解!」」

 

 リーダーと思われる30代ほどの女性の命令で両サイドに立っていた男性2人が瞬時に駆け出す。するとその2人はキックホッパーとバースを殴り飛ばしつつ、アリアを取り押さえた。

「っ!離しなさい!!」

 

 アリアは必死に抵抗するも・・・押さえつける力が強いらしく、離れることはできない。

「「「っ!!」」」

 

 白雪達は即座にその2人に武器を剥けようとするも・・・人間とは思えない速度で瞬時に移動し、アリアを押さえたまま女性の横に並ぶ。

「ターゲット。緋弾のアリアを確保。支部へと撤収。支部到着後、緋緋神のグリード化実験を開始する」

 

「「了解」」

 

「あり・・ア・・」

 

 突如降りてきたヘリに乗り込んだ財団X達は・・・アリアを攫い、どこかへと飛び去っていってしまった。俺は追いかけるため立ち上がろうとするも・・・力を吸い取られたせいでコンボ疲労と同じ感覚に陥り、立ち上がることができずに・・・みすみすアリアが攫われてしまった。

 




名前:遠山三春

 40年後の未来からやってきた仮面ライダー。当初はメダルに意識が乗っ取られポセイドンとして暴れたが、キンジ達の協力で開放され勇気を得て仮面ライダーアクアとして立ち上がった。キンジの息子の遺伝子細胞から作られた人工天才であり、女性同士の絡み、つまり百合のような光景を見てヒステリアモードになってしまう。彼の未来では既に他の仮面ライダーは存在しないものになっていたのだが、ポセイドンとしてこの時代に介入し、あまつさえポセイドンの3枚をこの時代に残してしまったため歴史が変わり彼以外にもライダーがいる歴史へと変わった。

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