緋弾のアリア 欲望の交差   作:彩花乃茶

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巻き込みと悟りと星の女神

ルビーというのは千石にある一見さんお断りのいわゆるヤクザビルにあるレストランだった。

「まさか遠山が仮面ライダー。それもこの前東京を救った英雄の仮面ライダーオーズだったなんてね」

 

 鏡高組の幹部の皆さんと同じテーブルにつくと菊代にそう言われる。知られちゃいけなそうなのに知られちゃったな。幹部の皆さんも今の俺の雰囲気を見て「こいつは相当強い」と言いたげに納得している様子だし。

「さっきの金髪の人。人間じゃないのは分かってるけど知り合い?」

 

「まぁな。仮面ライダーオーズだった俺のパートナー・・・みたいな奴だ」

 

 本当ならここには存在しないはずの・・な。

「だった?・・・まぁいいわ。何か飲む?」

 

 テーブルの上に置かれてるブランデーの瓶に手を伸ばした菊代は俺にそう訪ねてくる。

「いらないよ。未成年だし」

 

「ふーん」

 

 菊代はキセルを銜えた途端幹部の1人がそれに火をつける。

「いつもこうだからライターを使う機会もないのよね」

 

「煙草なんてやめろよ」

 

 俺が小声でそう告げると部下の1人にそれを渡すと、既に吸っていた1人に水をかけて消化した。

「よしな。彼が御嫌いなんだから」

 

 自分の事は棚に上げて部下を起こる。見事なまでの責任転嫁だ。

「嫌いなのはそういうのだけじゃない」

 

「お前達。帰れ」

 

 俺は一味を見回して改めて菊代を見ると・・・幹部連中を煙たがっている俺の心境を察した菊代は彼らを下がらせる。

「じゃあまずはさっきの迷惑料と・・あのミイラ達を蹴散らしてくれたお礼。これぐらいでいい?」

 

 そう言ったトランクを出して三千万ぐらいの札束を見せてくる。

「別にこの食事だけで充分だよ」

 

 本当は1~2枚ぐらいは欲しいと思いつつも食事に手を伸ばす。このフカヒレ、凄く旨いな。料理人の腕前もそうだが、素材にかなり金がかかっていそうだ。

「最近のヤクザは目立たないようにするものじゃないのか?」

 

「うちは古いからね」

 

 分かりやすく『儲かっている』アピールをする鏡高組の事を尋ねてみるも軽くごまかされる。

「今は菊代の家は何をやってるんだ?」

 

「うふふ。さてなんでしょう。麻薬、守代、闇金融なんかはうちじゃご法度にしているの」

 

「・・・自分が何の金で食べたのかぐらいは知りたいんだよ」

 

「財団X」

 

 これは本当だと言った表情で菊代が告げてくる。財団X?聞いたことのない組織の名前だな。

「あなたの名前を出しただけでかなりの支援をしてくれて、それで海外で何か所かカジノを営業できるようになったんだけど・・・遠山がオーズだったのなら納得だわ」

 

 俺には納得できる要素が何1つとしてない。社会的に有名でもない組織で裏のものだと考えても宣戦会議の時にもいなかったどころか話題にもされていないようなのが何でそんな支援ができるんだ?

「どんな奴らなんだ?」

 

「武闘派から営業まで色々いるらしいわよ。特徴らしい特徴といえば・・・みんな白い服を着ているってことぐらいかしら」

 

 構成員全員が白服の組織か。そんな分かりやすい特徴があるなら武偵高でももう少し話題になっていたと思うんだがな。俺がオーズと知ったうえで支援していたとすると、そいつらの狙いはコアメダルと考えるのが自然だ。鏡高組に俺を引き込ませ、協力関係にあるという建前でメダルの研究をしようとしているのだろう。もう1つの可能性としてHSS、ヒステリアモードの事も考えられるが・・・そんな組織が俺1人の血を調べるのにそこまで金をかけるか?

「その人達は遠山の事を高く評価してるの。それでね・・・極道は気負いの家業。あたしも強い人が欲しい」

 

 やっぱり勧誘をされた。見事なまでに財団さんの思い通りっぽい流れだな。

「それは組に入れってことだよな?」

 

「そうよ。義兄妹の杯を交わそう」

 

 あったこともない第3者の思い通りの流れに俺はついつい苦笑してしまう。

「妹は間に合ってるよ」

 

「妹さんがいたの?」

 

「あぁ。最近まで知らなかったけどね」

 

「それじゃ妹さんと、さっきのパートナーさんも一緒にどう?人材難だから武偵も中途採用するわよ。・・・遠山ならきっと日本一の、いいや世界一のヤクザになれるよ。アル・ポカネみたいに歴史に名を残せるほどにね。それで私はその奥さん。・・・なんちゃって」

 

なんちゃって・・・か。とはいえけっこうマジな目で言ってるな。

「俺はヤクザにはならないよ」

 

「そうなの?レム・カンナギさんもがっかりするだろうなぁ」

 

 レム・カンナギ?その財団Xの幹部格の1人か?流石に人名を出したのは菊代もミスったと思ったらしく、杯を交わすのも断っているせいで、それきり話が進まなくなってしまう。

「それじゃ今夜はこの辺で・・・」

 

「ねぇ、昔のこと覚えてる?」

 

 ここら辺で失礼しようとすると・・・菊代は思い出話へと話題を替えてきた。

「あぁ、覚えてる」

 

「中学の時、あなたの体質に気づいて色々して、色々させちゃったね。ごめんなさい。・・・でももう時効に・・・してくれる?」

 

「なるべく女性の罪は罪と思わないようにしているよ」

 

 イチイチそんなのを気にしてたらノートが辞書になっちまう。

「・・・あの頃のアタシ、虐められてた。水着がズタズタにされていた時、遠山が仕返しをしてくれた」

 

 男子には人気で女子には僻まれていた菊代はヤクザの娘ということもあり、女子達からイジメを受けていた。これは俺と菊代が出会うキッカケとなった時の話だ。水溶性の糸で縫われていたこともあり授業後帰るに帰れなくなっていた菊代を偶然発見した俺はヒステリアになってしまい・・・ヒステリアのやり方で暴力的なことを一切なしでいじめっ子達を言いなり状態にして菊代に謝らせた。そこまでは良かったがその後彼女達は俺の素行調査を始めて秘密がバレてしまい・・・『正義の味方』が作られてしまったんだ。

「これは覚えてないかもしれないけど・・・今の遠山じゃない時でも遠山はアタシのことを助けてくれた時があったんだよ。教室のロッカーからお金が盗まれた時、アタシが疑われたんだ。その時に遠山がね・・・」

 

 思い出してきた。あの時、周囲の決めつけが結構酷かったんで俺は「証拠がない」って言って菊代を釈放させて、後々俺と正太郎で真犯人を捕まえたんだったな。そういえばあの後から菊代がヒステリアの俺を使役しようとするのをやめたんだっけ。

「あのね、アタシあの後・・・あなたにね・・・ラブレターを出そうとしたけど。負い目もあって、結局出せなかったんだ」

 

 なんかさっきまでとは別の意味で危険な話題になってきたな。

「遠山、今日ここで食事をしたことは誰にも言わないでおいてあげる。だからそのかわり・・・アタシと付き合って」

 

 意を決したように菊代は俺にそう告白してくる。

「武偵辞めたんでしょ?潜入捜査だったら銃も剣も持ってないで塾に通うはずなんてないもん。ドロップアウト同士付き合おうよ」

 

「いや、俺は・・・」

 

「分からないのかな遠山。アタシはあなたを脅迫しているんだよ。秘密をばらされたら普通の学校にいられなくなるでしょ」

 

 今一番打たれたくない手をつかさず打ってくると、菊代は勝ったとでも言いたげな表情になる。

「本当はこんな脅迫みたいな形じゃなくしたかった。だけど遠山とアタシじゃ格が違うから」

 

「そう思うのなら格を上げてからまたおいで」

 

「そういうところが・・・遠山っ」

 

 菊代は思いっきり俺に抱きついてきた。

「会いたかった。会いたかったよ遠山。アタシの正義の味方。車の中じゃ平気な顔をしていたけど、本当はずっと胸が高鳴ってた。・・・もう遠山のことしか考えられない」

 

 まずいな。こっちの方の警戒を怠っていた。傷つけないように言葉で何とかしなくちゃいけないが・・・成功する可能性は半分の賭けだな。

「付き合って・・・俺に何をさせたいんだ菊代は?」

 

「え・・・。それは・・その・・・そんなの言えないし」

 

 顔を赤くして伏せて言葉に詰まってくれた。言いづらい言葉が回答の質問をする。即答されてしまえばおしまいだが、答えられなければこちらの勝ちだ。

「何だい?言ってごらん?」

 

「そんなの・・・遠山が決めてよ。私は・・・何でも・・」

 

 菊代はモジモジとしながら椅子の上で体育座りをした。見事なまでに術中にはまってくれたな。

「それじゃ帰るよ」

 

 勝利宣言をした俺は店を出ようと席を立つ。菊代は体育座りのままで追ってくる気配はない。

「ねぇ遠山。1ついい?」

 

「なんだい?」

 

「死んだ魚の目で塾に通うより、ミイラと戦ったりヤクザと話していた時の方が遠山はイキイキしてたよ」

 

 それは否定できないな。こっちのほうが気が楽だった。

「学校には言わないでおくわ。でも武偵崩れなんて社会不適合者の底辺だよ。高校なんてやめてヤクザになろうよ。条件があるならいつでも交渉に乗るから」

 

「ごめんな。俺は交渉はしない。ヤクザは裏切るからな」

 

「遠山だって武偵高を裏切ったでしょ」

 

 だいぶ痛いところをついてくれたぜ。俺はそれを否定しないで黙ってその場を立ち去ろうとする。

「知ってるよね?アタシ、気は短い方だよ」

 

「・・・あぁ。知ってる」

 

「それに諦めも悪い方なの」

 

「それも知ってる」

 

「それに実は一途なの。これは知らなかったでしょ?」

 

「そうだったのか?」

 

「うん。アタシも今気づいたから」

 

 菊代は袂から出したカードを手裏剣みたいに投げつけてきたので、俺はそれを片手でキャッチする。

「暗証番号は1が4つだから。今日のお礼、好きなだけ・・・」

 

「要らないって言ってるだろ。しつこい女性はあまり好きじゃないんだ」

 

「・・・うん。それじゃあもうしつこくしない。おやすみ遠山」

 

 何とかこの場を乗り切ることはできたが、結局は俺は普通の一般人になりきることはできないんだな。俺は結局自分自身から逃げ切ることはできない。・・・俺はそれを痛感させられた。

 

 

 

 

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

 翌日、学校に行くとある意味当然というべきか昨日レオンに勝ったことで騒がれてしまった。萌が欠席していた事を気にしながらもHRで先生承認のもとその事を騒がれた。そして休みごとに「筋肉凄いの?」「流派は何?」などと様々なことを聞かれ、昼休みどころか放課後になっても俺の人気は上昇し続けていた。挙句の果てには隣のクラスどころか他の学年の男子や女子まで遠征してくる始末で・・・流石にもう対応に困っていた。

「こぉらぁ!キンジさんが迷惑がってるだろぉがぁ!」

 

「大丈夫ッスかキンジさん。こっちッスよ」

 

 周りを散らしてくれたのは制服を着て登校してきた朝青と藤木林だった。何で俺のことを味方してくれるのかは分からないが、今は正直助かったので2人にガードされるように俺は教室を出て屋上のさらに上のベタな大時計のついた塔の屋上へと避難させてもらい・・・ようやく一息つけた。

「今までのことは水に流してください!すんませんっした!!」

 

「すんませんっした!!」

 

 いきなり2人が土下座で謝って来た。別に全然こちらはダメージなどないから謝られても困るのだが、男が土下座なんてしているんだからとりあえず「分かった」程度に答えてやった。すると安心した様子の2人は正座をしながらニコニコと俺を見上げてきた。

「お前ら・・・停学中じゃなかったのか?」

 

「明けましたッス」

 

「キンジさんと同じクラスッスよ」

 

 何でも「ッス」って付ければいいもんじゃないと思うが・・・まぁいいか。

「にしてもキンジさん。超すげぇッスよ。レオンは東池袋高校のOBなんスけど、嫌な奴で・・・」

 

 同級生の俺に敬語を使いながら藤木林がヨイショをしていると・・・

「そうだったかもな」

 

 古びた制服を着たレオンが屋上によじ登ってきた。どうやら2人をつけてきたらしいな。俺目当てで。

「遺恨試合は無しだぞレオン。鏡高組とはどうなったんだ?」

 

「組には離縁状を貰った」

 

「破門になったってことか。良かったな」

 

 見たところ俺からのダメージ以外に怪我はなさそうだ。

「組の命令だったとはいえ・・・悪かった」

 

「いいよ別に。お前が仕掛けてこないかぎり、俺は手出ししない。お前はお前で勝手に生きろ」

 

 正直半ば八つ当たり気味に相手をしてたのでむしろこっちから謝りたいくらいだ。

「あんた、本当にただの人間なのか?」

 

「あまり自信はないが・・・そうなりたいとは思ってる」

 

 一部では英雄や王様なんて言われちまってるが・・・普通になろうとしてるタイミングなんだよ。なんてのは口には出せない。

「舎弟にしてくれ」

 

「菊代と同じことを言うな。弟も妹も間に合ってるんだよ。俺はこの学校で普通に暮らしたい。社会に溶け込んで平穏な生活を送りたいんだ。だから面倒事に巻き込まれても困る。分かったな」

 

 朝青と藤木林が同時に頷き・・・レオンが何かを言いたげだったが遅れて頷く。しかしこのタイミングでこの威厳をぶち壊しにするような腹の音が鳴ってしまい・・・藤木林は自主的に「何か買ってくる」とパシリに行ってしまった。約20分後、近くの吉野家で大盛の銃丼やみそ汁を買ってきた。腹が減っていた俺はそれを素直に受け取ると朝青とレオンは一旦この場を離れると献上品として白地の特攻服に『唯牙独尊』と刺繍のされたものを持ってきた。

「キンジさん。絶対似会うッスよ」

 

「もらってください。あんたに着てほしいんだ」

 

 漢字が間違ってるうえにさっきの話を聞いてなかったのかと怒りを堪えていると・・・肩をタップされた。透明になっているジーサードだ。この服を気に入ったらしいジーサードは英文モールスで『美しい服。貰っとけ』と伝えてきたので俺は仕方なく「弟が好きそうだから」とそれを受け取った。まだ他の生徒もいて帰ることもできないので時間潰しに朝青には飲もうとしていたビールのことを、藤木林にはピアスのことを、レオンには車の窓から腕を出していたことを注意してやった。

「レオン。あの拳銃、組からの貰い物か?それとも私物か?」

 

「私物だ」

 

「射撃後のゴミだらけだったぞ。完全分解どころか通常分解すら1度もされていない。俺に向けた時の構えも雑だ。・・・銃を持ってる奴には責任がある。必要な時に正しく使う重い責任がな。言っとくが警官は本気でお前を射殺できるぞ。無責任に銃を見せびらかす素人と、責任を持って扱うプロ。どっちが生き残るか考えて見ろ」

 

 正面から話せばこの手の輩にも通用するらしく、レオンは真剣に俺の話を聞いてくれた。

「お前の命は安くないだろ。ヤクザなんて辞めたんなら破棄しろ」

 

「分かった。業者に頼んで処分してもらう」

 

 どうやらちゃんと理解してくれたようだ。だが自分でぶっ壊すとかじゃなくて業者で破棄すると言われて・・・武偵高にいた時に景品で貰った弾薬を埋めて不法投棄した俺はまたも決まらなかった。

 

 

 

・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・

 一家と居候のレキが揃う夕食を食べた後、レキは夜間のみそういう保険がきかないタイプのペットにも予防接種を内緒でしてくれる動物病院へと出かけた。そして俺はレオンに説教したくせに自分は整備なんてしてなかったベレッタをたまには点検しようと思い押し入れから取り出した。

「あれ?」

 

 取り出したベレッタは誰かに整備されていた。俺は誰がやってくれたんだと考えていると・・・俺の携帯が鳴った。電話だ。

『酷いよよ遠山。子分を使うなんて・・』

 

 その電話に出てみると・・・それは菊代だった。

「何の話だ?」

 

『うん。分かってた。今のは違うってことの確認。それはそうとね、アタシちょっとね望月萌って娘とお喋りしたんだ。アンタは遠山の何ってね』

 

「っ!!」

 

 萌が今日学校を休んでいたのはそういう理由か。

「拉致したのか?」

 

『人聞きの悪いこと言わないでよ。遠山をもう1度うちのテーブルにつかせるために彼女にビジネスの話をしたら、怒っちゃったのよ。大人しい子だと思ったのに度胸があったわ。だから落ち着くまでうちにいてもらってるだけ』

 

 やられた。人質を取られた形になっちまった。

『それでさ、さっきの子分の話に戻るけどレオンがアタシと萌のお茶をしてる店を張ってたのよ。朝青と藤木林も一緒にね。それでうちの人間が萌を落ち着かせようとしたら、その3馬鹿が突っかかってきたのよ。だから正当防衛しちゃった。でも3人とも遠山の名前は何が何でも出さなかったわね。問い詰めてもこれは自分達でやったこと。その人も、その人の友達の萌も関係ない。萌を釈放して、その人と平穏な暮らしをさせろってね。ヤクザにそれは通らない。4人共遠山の関係者よ。この落とし前、どうつけてくれるのかしら?』

 

 電話の奥で僅かに萌の声が聞こえる。どうやら殺されてはいないようだ。

『ねぇ、またデートしようよ。萌も会いたそうにしているし』

 

 電話を切った菊代は俺のメアドに地図を送って来た。組長の自宅・・・本家の場所の地図だ。つまり人質を返してほしかったら来いって意味だな。

「行くしかないな」

 

 あいつ等を巻き込んでしまったのは・・・他でもない俺だ。レキを退避させる時間稼ぎとはいえ菊代の前でレオンと遊んでしまった。ついつい調子に乗って・・・八つ当たりに。そう考えた俺は武偵高の制服に着替えてベレッタを帯銃し、西池袋にある菊代の豪邸へと足を運んだ。俺は警戒しつつも豪勢な門を潜ろうとすると、誰かの足音が近づいてきたのですぐさま隠れる。

「何コソコソしてるんだキンジ」

 

 聞き覚えのある声がしたので俺は隠れるのをやめてその声の主に視線を向ける。

「アンク。どうしてここに?」

 

「んなことは後回しだ。こいつ等、お前の知り合いだろ」

 

 そう言ったアンクは両腕でそれぞれ担いできた朝青と藤木林をその場に降ろす。少し奥にはまだ運ばれていないレオンの姿もある。3人ともほとんど抵抗できずに一方的にやられた様子だ。

「き、キンジさん。・・・サーセン・・」

 

「巻き込まないって・・・約束したのに、結局・・・巻き込んじまって・・」

 

 そんな約束、こんな非常事態にはどうでもいいものなのに。

「キンジさんが普通に過ごしたいって言ってたから・・・俺達は組に望月萌を返してもらえるように・・キンジさんの生活を守ろうとしたんすけど・・・すんません」

 

 そう謝ってくる朝青の右腕は折れてしまっていた。全治1週間はかかりそうだ。俺がもう関わるななんて言ってしまったから・・・こいつ等だけで乗り込んで。

「素手だけでやってやったぜ。・・・アンタに言われたから、拳銃は無しでな」

 

 ボロボロで力なくだが・・・誇らしげにレオンがそう言ってくる。

「何でそんなになるまで戦ったんだよ。すぐ俺の名前を出して、呼び出してればここまでにはならなかっただろ!俺とお前達の間に・・・そんな義理はなかっただろ!ただ喧嘩して、一緒に飯を食っただけじゃなんか!」

 

「違ぇよ」

 

「キンジさんは俺らに本気で接してくれたんだ。・・・学校じゃみんな目を逸らすのに・・」

 

「嬉しかったんだよ。俺らに・・・そう接してくれる人なんていなかったから・・」

 

「だから俺らもキンジさんの思いを守ろうとした。そんだけだ」

 

 たったそれだけのことでそこまで。

「けれどなんもできなくて・・・結局出張ってもらうハメになって・・・ホント、マジ、サーセン」

 

「謝らなくていい。お前達は萌を助けようと、俺を助けようと戦ってくれた。誰かのために戦えるってのは誰にでもできることじゃない」

 

 力持つものには責任がある。俺はオーズの力を失ったからって、それがもうなくなったと思い込んでいた。それが間違いだったんだ。その間違いがレオン達を犠牲にしてしまった。その間違いに俺は・・・武偵高の外に出てようやく気づけた。

「お前、力の使い方をまた間違えてただろ」

 

「・・・そうだな。使うべきタイミングで・・・使わないままだった」

 

 これで何度目になるかな。力の使い方でアンクに怒られるのは。

「かなめ」

 

「あはっ。やっぱりバレてたねぇ」

 

 俺は後ろに声をかけるとセーラー服のかなめがスキップをしながら現れた。

「雪の日に人を尾行できるなんて思うな。雪を踏む音で分かる」

 

「気づかれてたことには気づいてたけど、追い返されなかったからね」

 

「この3人を病院に連れて行ってくれ。それと・・ベレッタの整備、ありがとな」

 

「それは非合理的だよお兄ちゃん。そういうのは妹の役目だからね」

 

 何となく・・・消去法で分かっていた。レキは人の銃に触らないし、ジーサードは銃なんかおもちゃと考えてる。爺ちゃんと婆ちゃんは自分のことは自分でと俺に躾けたので、やってくれそうなのはかなめしかいない。

「よし、行くぞアンク」

 

「しょうがねぇな。まだ時間がありそうだから少し付き合ってやるよ」

 

 時間というのが少し気になったが、俺はアンクとともに正面から中へと入っていく。

「こんばんは」

 

 自動ドアが開くと菊代が出迎えてくれた。

「ごめんね遠山。でもアタシ好きな人に悪戯しちゃうタイプだったみたいでさ」

 

「こっちはそんな冗談を聞く気分じゃない」

 

 雪の積もった和風庭園を歩き、豪邸の玄関へと入っていく。

「萌は何処だ?」

 

「もう。すぐに別の女の名前を出す」

 

「それはこいつの癖みたいなもんだ」

 

 おいコラ。アンクお前余計な茶々を入れんな。

「確かアンク。とか言ったわね。それは私も承知の上よ」

 

 何そこは分かり合ってんだよ。そう心の中でツッコミを入れつつも廊下を進む。その壁には様々な油彩画や青磁の壺や阿修羅像などが飾られている。だが見るべきものはそれではない。リビングのあちこちにいるヤクザ達の方だ。麻薬には手を出さないといいつつ、ある意味それよりもヤバいガイアメモリやゾディアーツスイッチを持っている奴が何人か混じっている。

「・・・遠山君っ・・」

 

 シマウマのようなドーパントに小突かれながらリビングに萌がやってくると、俺の元へと駆け寄ってくる。その手は親指同士を結束バンドで縛られてしまっていた。

「酷い事はされなかったか?」

 

「うん。私は何もなかったけど・・・」

 

「朝青達なら今事病院だ。死んだりしてない」

 

 それを聞いた萌はひとまず安心した表情を見せる。

「これは立派な未成年者略取及び誘拐罪だぞ」

 

「だ、だってこの子が先にアタシに掴みかかってきたもん!」

 

 俺は本気で怒った顔をすると・・・菊代は俺に嫌われまいと言い訳をしてくる。

「喫茶店で話していた時、アタシがちょっと遠山との男女関係をフカシてたらそれを嘘呼ばわりしたのよ。社員もいたのに」

 

 菊代がそう言うと・・・萌は彼女らしからぬ目つきで菊代をにらみつけた。

「それはあなたが・・・あ、あんなエッチなことを言うから」

 

「言っとくけど一部事実だからね。昔の話だけど」

 

 青ざめた萌は慌ててこちらを見てきたので俺はすぐさま目を逸らす。すると萌はまたもやヤクザの親玉である菊代を睨みつけた。本当にこわいもの知らずだな。

「縛れ」

 

 シマウマのドーパント、ゼブラは同じく馬っぽいゾディアーツに長めのワイヤーで俺達3人を縛らせて、俺からナイフと銃を取り上げた。しかしワイヤーが見えた時点で既にオーズドライバーを装着してたことには気づかなかったらしく、それは奪われることは回避できた。

「姐さん。銃はお持ちですか?」

 

「ん。ないわ」

 

 ゼブラは菊代が銃を持ってないと答えた瞬間、菊代の頭を背後から掴んだ。それと同時にゼブラとユニコーン以外にも数人がドーパントやゾディアーツへと変化した。

「本当は別に銃を持ってても関係なかったんだが・・・念には念を入れておかないとな」

 

「お前達っ・・・」

 

「悪いな姐さん。そのボウヤが来た時点で、あんたはもう親分じゃないんだ」

 

 あのレストランの時点でその予兆はあったが・・・まさかこのタイミングでとは想定していなかった。

「その危なっかしいボウヤ。調子には波があるみたいですけど、姐さんのおかげで捕えることができました。カンナギさんも喜びますよ」

 

 カンナギ。財団Xの奴か。ヒステリアじゃなくても展開が読めてきたぜ。一応オーズである俺を財団Xに渡すってのが支援してくれていた理由で・・・それを親玉である菊代以外に伝えておき、菊代はまんまと餌にされていたってわけか。

「「・・・・・」」

 

俺はアンクに「そろそろ動くか?」とアイコンタクトを送るも「まだいいだろ」とあっさり返される。確かにヤクザ幹部連中とはいえ幹部クラスのメモリやスイッチの所持は1人もいないのだから別にヒスらなくてもこの程度なら変身さえすれば問題じゃない。問題なのは更に奥の方から感じるこいつ等以外の殺気だ。奥にいるのがそのレム・カンナギって奴なのか?

「奥にいるのはたぶんお前が思ってるのじゃないぞ」

 

「奥にいるヤツを知ってるのかアンク?」

 

「知らないが・・・コアメダルの気配がする」

 

 メダルの気配?まさかまたグリードが復活したのか?

「おい兄貴」

 

 俺が目の前の事よりもグリード復活を懸念していると、どうやら透明になって俺を付けていたジーサードが声をかけてきた。

「気づかなかったぞ。また付けてたのか」

 

「かなめばっかり気にしやがって。二重尾行くらい気づけよ」

 

「ぐえっ!?」

 

 透明なままゼブラを殴り飛ばしたジーサードは菊代を抱え上げてこちらへと近づいてくる。何か菊代が浮いているようでシュールだな。

「えっ?何これ?いやっ・・・!」

 

 ジーサードに帯と改造和服を剥がされた菊代がこちらへと飛ばされてきたので、既にアンクによって焼き切られてるケーブルから抜け出した俺は彼女をキャッチする。悪代官に脱がされる町娘的な感じにみぐるみを剥がされて下着姿となってる菊代を受け止めた俺は・・・当然のようにヒステリアになってしまった。

「いい西陣織の布だ。見ろよ兄貴。千住菊柄なんかすげぇアートだと思わないか?」

 

 透明化を解除したジーサードの方も・・・どうやらなっているようだ。ていうか迷彩服の上に貰った特攻服を着てるし。気に入った様子だな。

「んなことより、なってんならとっととこいつ等片付けろ。あとが詰まってんだぞ」

 

「「はいはい」」

 

 俺はアンクからメダルを受け取り1枚づつセットすると、ジーサードもDGOドライバーを装着して紫のボタンを押す。流石に紫の力を使うのはやりすぎな気もしないではないが・・・まぁいいか。

「「変身ッ!」」

『タカ!トラ!バッタ!タットッバッ!タトバ、タットッバッ!!』

『プットッティラ~ノザウル~ス!』

 

 変身した俺とジーサードは・・・まぁ当然と言えば当然のようにヤクザの幹部達や後ろにいる萌に驚かれる。

「え、遠山君。その姿って・・・何かどこかで見覚えがある気が・・・」

 

 まぁ、東京のど真ん中で大暴れしたからな。ある程度は情報操作で隠されたけど、見られてる可能性は当然ある。

「思い出した!何か頭と足の色が違うけど、友達と街を歩いてた時に変な怪物に足元を氷漬けにされて、その時に助けてくれたヒーローだ!」

 

 萌・・・。あのショッカーアンクとの戦いの時に人質にされていた1人だったのか。

「・・・あの時は助けが遅れて済まなかった」

 

「ううん。全然遅れてないよ。今回も間に合って・・・ちゃんと私を助けてくれたもん」

 

 俺のこの手は・・・ちゃんと届いていたんだな。

「後が詰まってるって言ってんだろ!」

 

 後ろからアンクに蹴られた俺は渋々ゼブラとユニコーンを相手に戦い始める。まったく・・・もう少し助けることのできた喜びを感じさせてくれよ。

「兄貴の手前、命は取らないでおいてやるから掛かって来いよ!!」

 

 そう言いながらDオーズは冷気を放ちゼブラとユニコーン以外の怪人達の足元を凍らせる。その際、萌は前の事件のことを思い出したのかビクリと反応していたので「大丈夫だ」と言いながら撫でてやると・・・今度は菊代に睨まれた。

「掛かってこいと言いつつも近づける気はないよな」

 

 ボソリと愚痴りながらもトラクローを展開した俺はユニコーンの角を両断する。玄太郎が言うにはユニコーンは頭部を外して剣にしてたらしいが・・・どうやらそれは個体によるっぽいな。

「殺せ!たった仮面戦士は2人だぞ!」

 

 怪人さん達以外にもざっと50人ほどが奥から出てくる。相手にできなくはないが・・・アンク的には早く奥の相手をしないといけないようなので、そろそろ仕上げにかからなくてはならない。ここはもう1人の助っ人をお願いしよう。

「あぁ、ピンチだ。萌、菊代。あそこのお星さまにお祈りしてごらん。『助けてください』って」

 

 アンクが「何ふざけてんだコイツ」的な目をしているが、とりあえず気にしない。俺は2人を抱き寄せつつ1つの星を適当に指差すと、2人は顔を赤くしながらも照れ隠しをするように祈ってくれる。

「さぁ星の女神・・・双剣双銃がくるよ」

 

 そういえば以前別の次元のだが本物の女神にあったことがあったことを思い出しつつ、俺は『俺の女神』を呼ぶ。

「バカキンジぃぃぃぃ!!」

 

 平賀さんに作ってもらったホバースカートで飛んできたアリアは・・・再開早々そう叫んでくる。当然俺の家出のことで怒ってらっしゃる様子だ。

「それで・・・誰に聞いたんだ?」

 

「アンタのすぐ近くにいる鳥さんからよ。もう死んでたと思ってたから・・・本当に驚いたわ」

 

 流石はアンク。用意周到なようで。俺に対する怒り半分。アンクがここにいることに対しての驚き半分といった様子のアリアはひとまずは目の前の相手ということをすぐ理解してくれて怪人以外のその他を何人か蹴り飛ばしつつ着地する。

『スキャニングチャージ!』

「そぉらよっ!!」

 

 トラクローから強めの斬撃を放ち、ユニコーンを撃破すると、爆発の中からヤクザの1人が出てくる。

「残るはお前だけだな。どうする?まだ続けるか?」

 

 状況も状況。あちらさんが敗戦確定なので一応聞いておく。

「お前らいったい何なんだよ。お、俺は今、副組長だぞ!!」

 

 ゼブラは生まれたての仔馬のように足がガクガクだ。何だか見てて可哀想に思えてきたが、その手には俺の銃が握られている。

「あれキンジのベレッタでしょ。何取られてんのよ」

 

「兄貴は貧乏だし、一応壊さないようにしてやるからぶっ潰していいか?」

 

 アリアはあきれ顔で、Dオーズはさっき凍らせた奴らを片付けてからそう告げてくる。

「帰れ!帰れよぉぉぉ!!」

 

 駄目だあの馬。完全にテンパってて銃口が定まってない。まぁ俺ら3人に撃っても無駄なのは分かってるってのが一応理由っぽいけど。

「貸したものを返してもらったら帰るよ」

 

「このっ!」

 

「おっと・・」

 

 ゼブラは俺のベレッタで撃って来たが・・・別に通用しないと思いつつ、跳弾したら萌達が危なそうなので銃弾を指よ指で挟むようにキャッチする。

「キャッチボールをしよう。全力で投げるからしっかり取れよ」

『スキャニングチャージ!』

 

 全力投球でさきほど掴んだ銃弾を投げ返してやると・・・それをキャッチできずに頭にぶつかったゼブラは気絶して人間の姿へと戻る。

「まったく・・・この程度の弾を取れないなんて副組長失格だぞ」

 

 少し小馬鹿にしつつも飛び出てきたメモリを踏み壊し、こっちの用事は終わり変身を解除する。

「あんたしばらく見ないうちに大人っぽくなった?そんな顔してるわ」

 

「変身してるんだから顔、見えないだろ・・」

 

 アンクにメダルを投げ返すと・・アリアが俺にそう言ってくる。カンのいいアリアには見抜かれたようだな。一般人になってる間に・・・俺が何者かを悟ったことを。

「ところでアリア。この近くに俺の実家があるんだ。だから一緒に帰ってアリアを家族に紹介したいんだが・・・」

 

 弄られるものイヤだったのでこっちから先手を打つと・・・思いの外クリティカルだったようで、必要以上にこわばって髪を直し始めた。

「それは後日にしよう。まだ奥に本命がいるようだからね」

 

 奥で様子を見てたかのように留まっていた相手が・・・とうとう動き出した。アンクはメダルの気配がすると言ってるし、生身のアリア達をとどまらせるのは危険だな。

「アリアはその2人・・・萌と菊代を頼む」

 

「ふ~ん。萌と菊代っていうのこの2人。キンジ、それとアンク。色々と聞きたいから後で尋問タイムだからね。それと・・・アンタの実家。い、行くからちゃんと紹介しなさいよ。スケジュール開けとくから」

 

 アリアは2人を連れて退却していくと・・・強い気配はもうすぐそこまで来ていた。

「さてと・・・アンク。そろそろお前の復活した理由を教えてくれないか?」

 

「気が向いたらな。まずはお客さんの相手をしろ」

 

 そう言ったアンクが俺にタトバの3枚を投げ返してくると・・・目の前に青い上半身に赤い下半身、何処かオーズの分け方を思わせる仮面戦士が天井を突き破って着地してきた。

「お前がこの時代のライダーか?」

 

 この時代の?まるで別の時代から来たような言いぐさだな。

「お前は何者だ?」

 

「仮面ライダー」

 

 実にシンプルな回答だ。あまりにも大まか過ぎて情報になってない。

「戦う前に言っておく。命乞いはするなよ。時間の無駄だからな」

 

 ベルトに3枚のメダルが装填されている未知の仮面戦士は・・・俺達3人に槍を向けながらそう宣告してきた。

 

 


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