空から女の子が降って来ると思うか?最近の映画やアニメではだいぶ減ってきた展開だ。主人公は少女と出会い不思議で特別な物語が始まっていく。・・・そんなプロローグだ。そして主人公は正義の味方や勇者となって大冒険が始まる。「ああ、空から女の子がふってこないかなぁ・・・・」んなこと俺は、絶対に言わない。「親方!!空から女の子が降ってきた!!」そんな台詞はいてみろ。絶対に面倒なことに巻き込まれるに決まってる。飛鉱石やら天空のお城やらの厄介ごとにロボット投下。・・・最後は魔法の言葉で足場が崩れてしまいそうだ。それは危険で下手をすると命を落とす。それに・・・めんどくさい。
だから俺、遠山キンジは空から女の子なんて降ってこなくていい。俺はとにかく平和な生活を送りたいんだ。・・・あんな‘人間を超える力”も俺の‘体質”も使わなくても良いように・・・だからまずは転校してやるんだ。そう考えていた。
なぜなら本当に女の子が降って来てしまったんだから。神崎・H・アリアという少女がな。
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雨が降ったら、雨を浴びて楽しめってアンチュール・ランボーの言葉がある。・・・なんかもうこれって逆にポジティブだよな。俺はこの日、バイクを修理に出しているので自転車に乗って学校に向かおうとしていた。当初はバスに乗るつもりだったが、乗り遅れてしまったからだ。
俺の通う東京武偵高校は、レインボーブリッジの南に浮かぶ人口浮島の上にあり学園島とあだ名されたこの場所は『武偵』を育成する総合教育機関となっている。武偵というのは凶悪化する犯罪に対抗して新設された国家資格で、武偵免許を持つものは武装を許可され逮捕権を得るとか警察に近い活動ができる。ただし警察と違って武偵は金で動いていて、簡単に言うと金の許す限りどんな仕事でもする『便利屋』みたいな仕事だ。
この東京武偵高校では、一般の通常授業の他に武偵の活動に関わる専門科目を履修できる。探偵科(インケスタ)、通信科(コネクト)、鑑識科(レピア)・・・・この辺はまだ平和だが、俺が去年まで在籍していた強襲科(アサルト)や、俺の‘力’がバレてしまえば俺の意思とは関係無しに転科しないといけない仮面戦士科(ライダー)はまったく平和じゃない。
・・・・・俺は体育館に向けて自転車をターンさせる。これなら始業式に間に合いそうだ。こんな学校って言っても始業式から遅れるのは嫌だしな。・・・・内申点に響くし。そんなことを考えていたら不吉な声が聞こえた。
「コノ チャリには 爆弾 が 仕掛けて ありやがります」
は? ・・・・なんだよその脅迫文みたいな内容は・・・。
「チャリを 降りやがったり 減速しやがったり すると 爆発 しやがります。」
あぁ、もしかしなくても最近話題になってる『武偵殺し』の模倣犯って奴だな。・・・それよりも問題なのはさっきの言葉・・・『爆弾』だ。おいおい、何の冗談だよ。
さらに俺の自転車の後ろにはタイヤ付のカカシみたいな乗り物がついて来ていた。確か昔TVで見たことあるぞ。たしか・・・『セグウェイ』とか言ったな。
「助け を 求めては いけません。ケータイを使用した 場合も 爆発 しやがります。 と言うか とっと と 爆発 しやがれです」
なんか早く爆発しろって言われてるぞ、俺。ご丁寧にセグウェイの上にはスピーカーとサブマシンガンが取り付けられている。加えて今更ながらサドルにおそらくプラスチック爆弾と思われる物体にやっと気づいた。この爆弾の大きさを考えると、軽く自動車も木っ端微塵だな。ハハ!・・・マジやばい。死ぬかもしれないぞ俺。なんてこった。ハイジャックならぬチャリジャックだぜ?
「・・・・ヤバいなこれ」
どうする俺?たぶん‘力’を使えば爆発してもたぶん助かる。でも使いたくない。・・・背に腹は変えられないか。
「やるしかないか・・っ!?」
俺はしぶしぶ腰に‘ベルト’をつけようとしたその時だった。このありえない状況の中、さらに俺はありえないものを見た。女子寮の屋上の縁に女の子が立っていて飛び降りてきたのだ。飛び降りた少女は武偵高の制服に長いピンク色の髪のツインテールだった。その少女はパラグライダーを広げ、こちらに降下してくる。
「ばっ、馬鹿!くるな!このチャリには爆弾が・・・」
ツインテールの少女は黒と銀の拳銃を2丁抜くと・・・
「ほらそこのバカ!とっとと頭を下げなさい!」
俺が頭を下げるより早く、少女はセグウェイを銃撃した。あんな不安定な状態で銃弾を命中させて破壊する。なんて腕前だ。・・・にしても初対面の人にいきなりバカっていわれたな。いや先に言ったのは俺なんだけどな。
「バカ!来るなって!この自転車には爆弾がつけられれるんだぞ!」
ツインテールの少女を巻き込まないように第二グラウンドのほうに曲がると少女もついて来る。
「バカっ!」
その少女は俺の真上に陣を取ると俺をゲシゲシと蹴って来る。
「武偵高第一条にあるでしょ?『仲間を信じ、仲間を助けよ』よ。それじゃいくわよ!」
気流をとらえてフワリと上昇したその少女はさっきまで手で引いていたブレークコードのハンドルにつま先を突っ込んで逆さづりの姿勢になる。そしてそのまま、物凄いスピードで真っ直ぐ飛んでくる。・・・あぁなんとなくわかったぜ。
「マジかよ・・・」
「ほらバカっ!全力でこぐっ!」
「ああやってやるよ畜生!!」
俺はヤケクソ気味に上下互い違いのまま少女と抱き合った。・・・なんか昔こんな映画のシーンがあったな。男女が逆だけど。
「ぬおっ・・・」
息苦しいぐらいに少女の下っ腹に顔が押し付けられた。・・・なんか甘酸っぱい香りがするな。そんなことを考えていると・・・俺の自転車は爆発して木っ端微塵になった。やっぱり本物だったんだな。
「うわぁぁっ!?」
「きゃぁっ!?」
熱風に吹き飛ばされた俺たちは、桜の木にパラグライダーをもぎ取られて体育倉庫の扉に突っ込んでいった。何かにぶつかったような感じだが・・・よく分からないまま俺は意識を失った。
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「うっ、・・・っ痛ッてぇ・・・」
気がついたら狭い箱のような空間に尻餅をついたような体勢で収まっていた。これは・・・跳び箱か?しかし何なんだ?身動きが取れないな。そして俺はすぐに気づいた。俺の上のモノに・・・
「ん?」
額と頬に何かやわらかいものがあたったような・・・。俺は恐る恐るそれを確かめる。あたっていたのは・・・
「っ!!」
先ほど俺を助けてくれた勇敢な少女だった。何がどうなってこうなったかは知らないが、俺は彼女を抱っこしてこの中に入っていた。ありえない。ありえないぞ。女子と密着しすぎだ。俺の体の中の血が熱くなるのを感じた。やばい。こうゆうのは禁止なんだぞ、俺は。
「・・・くっ・・・」
この子は俺の腹にまたがる姿勢なせいで息が苦しい。とりあえず姿勢を変えようともがいてみた。
「・・・・・?」
名札を発見した。始業式なんでほとんど書かれていないが名前に『神崎・H・アリア』と書かれている。俺がそれから目を逸らすと
「・・・・っ!!」
少女のめくれ上がったブラウスに気づいてしまった。どうやら転がりこんで入った勢いで、ズレてしまったらしい。おかげで『65A→B』といういわゆる『寄せて上げるブラ』が丸出しになっている。・・・もしこの胸が大きくて押し当てられていたらあぶなかった。『あのモード』になってしまっていたかもしれない。
「へ・・・へ・・・」
「?」
「ヘンタイっ!!」
少女の・・・アリアの意識が目覚めた。すると・・・
「サッ、サイッテー!」
ぽかぽこと腕が曲がったままの力の籠もってないパンチを連打してきた。
「お、おい、やめろ」
「このチカン!恩知らず!人でなし!」
どうやらアリアは自分のブラウスをめくり上げたのは俺だと思っているらしいな。
「ま、まて!違うっ!これは俺がやったわけじゃ・・・なっ!?」
突然の轟音が体育倉庫を襲った。
「うっ!まだいたのね!」
アリアはその紅い瞳で跳び箱の外を睨みながら、スカートの中から拳銃を取り出した。
「『いた』って何がだ!」
「あの変な二輪!『武偵殺し』のおもちゃよ!」
『武偵殺し』?『変な二輪』?・・・さっきのセグウェイのことか!ってことはさっきのあの音は銃撃ってことか!体育の授業でも拳銃を使う武偵高では、跳び箱も防弾性で助かったぜ。・・・でもこんな追い詰められた状態でどうする?・・・やっぱり・・・使うしかないのか。
「あんたもっ、ほら!仮にも武偵高の生徒でしょ!」
「むっ、無理だって!」
あの‘力’でも使わない限りさっきの爆発で拳銃を失くした俺は何もできない。
「これじゃ火力負けする!向こうは7台いるわ」
7台・・・7丁のサブマシンガンがこっちに向けられているってことか!?
「っ!!」
その時、予想外のことが起きてしまった。銃を撃つために無意識に前のめりになったアリアの胸が、俺の顔に押し付けられてきた。・・・ああ。これはアウトだな。
「・・・・・」
知らなかった。女の子の胸は、小さくてもやわらかいんだな。緊急時にも関わらず、俺はそんなことを考えてしまっていた。・・・自分の決めた禁忌を破ってしまったことに気づいてしまっているから・・・。火傷しそうになるほど熱くなった俺の血液が、俺の中央に集まるのを感じる。・・・あぁ。なっちまった。なりたくなかったヒステリアモードに。
「・・・やったか・・・」
「射程圏外に追い払っただけよ。きっとすぐまた来るわ」
「強い子だ。それだけでも上出来だよ」
「・・・・は?」
いきなり口調が変わった俺にアリアは眉を寄せる。そして俺はアリアをいわゆるお姫様抱っこで持ち上げる。
「きゃっ!?」
「ご褒美にちょっとの間だけ、お姫様にしてあげよう」
いきなりお姫様抱っこされたアリアはネコっぽい犬歯の口を開きながら顔を真っ赤にすると俺は跳び箱の縁に足を掛けて倉庫の端まで一足で跳んだ。
そしてアリアを積み上げられたマットの上に座らせてやった。
「な、なな、なに!?」
さっきまでの俺とは一変して俊敏な動きをする俺にアリアは目をぱちくりさせながら驚く。
「お姫様はそのお席でごゆっくり」
「あ・・・あんた・・・どうしちゃったの?おかしくなっちゃったの?」
アリアのそんな声を邪魔するように再び銃弾が飛んでくる中・・・俺は腰に特別なベルトをつけて3枚のメダルを入れて一言・・・
「変身!」
そう言った。
せっかくなのでカウントザメダルも復活させようか悩んでいたりします。