俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか? 作:エノコノトラバサミ
流石に文字数増やそうかなぁ。
夕食の後、俺は聖さんに勧められるがまま、命蓮寺の風呂場へと向かった。男は俺一人なので、先に入ってしまった方がいいとの事。俺もそう思う。
誰かが先にお風呂に入っていて、それを俺が気付かずに風呂場に入ってしまって「キャーエッチ~!」ってなるような展開は、本気でお断りだ。これは建前ではない。心の底からの本音だ。
想像してみてくれ。こんな頭のおかしな奴等ばっかの幻想郷で全裸のイケメンが目の前で立っているといシチュエーションを。
運が良ければビンタ。悪ければ半ば強制的に籍を入れられる事になる。それだけは避けなければならない!
タオルは風呂場に置かれてある物を使ってよいと言われた。聖さんの言うことを信じれば、二十分は誰も来ないはず。俺は服を脱ぐ前に、浴槽へと向かった。
……よし、誰もいない。
俺は着ていた服を籠の中に入れると、タオル一枚を持って浴槽の側へ座る。桶で風呂のお湯をすくい、頭から被った。
こうして一人でのんびり風呂に入るのは久しぶりだ。家にいると、いつも誰かが乱入してくる。ただでさえそこまで大きくない風呂場が更に狭くなるのだ。
人によっては羨ましいと思うかもしれないが、考えてみろ。純情な乙女が恥じらいながら裸を隠している姿と、頭のおかしな変態が何故か自慢げに全裸を晒すのでは、天と地ほどの違いがある。まあそこまでにはいかないにしろ、裸を見られる事に恥じらいがない奴等とばっか居ると、何だかもう照れるのも馬鹿らしくなるのだ。
発情? 少なくとも俺はしないな。したら負けだ、色々な意味で。
軽く頭と体を洗い、浴槽へと体を沈める。今日一日の疲れが一気に吹き飛ぶ気がする。まあ、そんなに疲れてないんだけどね。
「ふぅ……」
吐息が溢れてくる。疲れてなくても、やはり風呂は気持ちがいい。温かなこの水は、俺を癒してくれる。
「気持ちいいねぇ」
「そうだなぁ……」
俺の後ろにいる者も、どうや……
「──誰だ!?」
振り返っても、誰の姿もない。
「……いるんだろ……出てこい!」
「ふふふふふ……」
微かな笑い声だけが聞こえてくる。俺は風呂場から出ようと、慌てて扉に手をかける。
「……あ、開かない」
どうやら、何者かに嵌められたらしい。最悪だ。
「──それではお楽しみに」
「な、待てェ!」
俺を嵌めたであろう人物は、天井で一瞬だけ姿を現し、そしてまた消えてしまった。
あの、ぬえとかいう少女だった。
風呂場の床へ腰掛ける。風呂場からは出られないまま、刻々と時が過ぎて行く。このままでは、アイツ等が入ってきてしまう。
俺はただ祈るだけ。一番始めに入ってくる人物が、聖さんや一輪さん(あの後名前を教えて貰った)である事を。いや、あの動物二人でもいい。最悪、村沙でも何とかなる。
アリスは、アリスだけはヤバい! アイツには何をされるか分からない!!
ひたすら誰かが来るのを待っていると、とうとう足音が聞こえてきた。俺は浴槽に入りながら、それが誰なのかをじっと伺う。
湯気のせいではっきりとは見えない。だが、そのシルエットからして、髪は短い。この時点で、考えられる最高のパターンはあり得ない。
更衣所には俺の服がある。星さんはニャーニャー鳴いてるだけなので問題ない。村沙なら俺の服に気が付いて、声をかけてくれるだろう。アリスだったら……どうなるか。
俺は祈る。最悪の展開だけを避ける為に。
無情にも、扉に手が掛けられた
「……まだ入ってたのか、あんた」
しかし、入ってきたのは、村沙。
アリスではない。
「よ、良かった……聞いてくれ、あのぬえって奴に嵌められたんだ!」
「ぬえに? ……へぇ、あんたも大変な奴に目を付けられたね」
「あぁ、だからさ、俺はもう上がるよ」
そう言って、俺は浴槽から乗り出そうとしたその時だった。
「──させないよ」
「え?」
その言葉の意味を確かめようとした時だった。
突然、俺の体がお湯の中に包まれる。何が起きているのか把握する前に抜け出そうとするが、泳いでも泳いでも体は外に出られない。
そんな様子を見て、村沙がくすくす笑う。
──まさか、コイツも俺を嵌めたのか!?
気が付いてもどうしようも出来なかった。苦しくなる呼吸をどうすることも出来ない。我慢できなくなり、お湯を肺にまで飲み込んでしまう。
意識が遠退く。その時やっと俺の体は解放されたが、既に遅かった。
「みんな大変だ! 客人がおぼれ──」
このクソヤロウ……
「──ブハァ!?」
肺に酸素が入り、俺の意識が覚醒する。身体中が空気を求め、呼吸が激しくなる。
「あ、ダーリン!? 大丈夫!!」
俺の真上にはアリスの顔。起き上がり、回りを見てみると、命蓮寺の皆が揃っている。そこには、頭にたんこぶを作ったぬえの姿もあった。
「溺れたと聞いて、皆心配してたんですよ!? 村沙が見付けなければどうなっていた事か……」
「すみません……!!」
村沙、と聞いて、俺の記憶は蘇る。アイツが俺の事を溺れさせたんだ。当のアイツを見ると、俺の顔を見ながらニヤニヤしている。ホントムカつく。
「アリスさんに感謝して下さいね。彼女が真っ先にお客さんを助けたんですよ」
聖さんが俺に伝える。その言葉は、俺にふとある事を過らせた。
溺れた人を助ける方法ってたしか、肺を圧迫して水を吐かせたり、そして……
唇に軽く指を触れて、俺はアリスの方を見た。ハッとした表情で何かに気が付くと、顔を真っ赤にしてその場から逃げだした。
「……まさか」
真実を告げるには、それだけで十分だった。
村沙への怒りは消えていた。
「一ついいですか」
「何ですか、聖さん?」
「寒くないですか?」
「…………」
……てか、服着せてくれなかったのかよ。
何だかいつもとは違う雰囲気が……