俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか? 作:エノコノトラバサミ
命蓮寺は、皆さん知っているだろうか?
一応知らない人がいるかもしれないので軽く説明しておくと、要は封印されてたお坊さんやら毘沙門天の使いやらが集まったデッカイお寺だ。最近だと船に変身して幻想郷を征服しようとする悪の手先をキャプテンランチャーという超圧力で水を放つ必殺技で倒したり倒してなかったり。
ごめん嘘だ。でも船には変身するよ。
本日はここに、アリスを探しにやってきました。俺一人で。
「あの~、すみません……」
お寺の門には誰もいない。仕方ないので、黙って中に入る。
すると、庭にネズミの耳を付けた少女が一人。その手には紐が握られている。その紐の先には──ん?
「あ、あの~」
「ん、あぁ客人か。ようこそ命蓮寺へ。ほら、ご主人も挨拶しなさい」
その紐に繋がれているのって、人?
頭に菊みたいなの乗っけているし、なんか神々しい雰囲気醸し出してるんですけど……
「ニャァ~」
どんなプレイだよ。
「申し遅れたが、私はナズーリン。このご主人の名前は寅丸星と言う」
「そうですか……」
立場逆じゃねぇのか?
「あ、誤解しないで欲しいが、これはご主人が望んでやっている事だからな。トラなんて凶暴な動物なんか辞めて、ネコになりたいらしい」
「ニャァ~」
鳴きながら、星さんは俺の脚に頬を擦り付けてくる。
なんだろう、この複雑な気分は。
「因みに私は犬派だ」
どうでもいい。
「ところで客人、本日はどんな用だ?」
「ああ、この寺にアリスっていう金髪の魔女がいると聞いたんだけど……」
「ああ、アイツか、いるぞ。どうせだから上がるといい」
俺は、ナズーリンの言葉に甘えた。
命蓮寺の中はとても立派だった。何度か行ったことのある博麗神社の、数十倍の大きさだ。
そんな寺の一室に、俺は通された。
部屋の中には、アリスともう一人の女性の姿が。
「あ、ダーリン……」
アリスは俺の顔を見るや否や、俺に向かって飛び付いてきた。
あまりに突然な出来事に反応できなかった俺は、アリスの体重を加えた状態で、地面に頭をぶつけた。
「ダーリィン!! 会いたかったわ、ダー……ダーリン!? しっかりしてよダーリン!?」
突如豹変したアリスの様子を最後に、俺は意識を失った。
「……ぅ、うぅ……」
目が覚める。まだ、頭が痛い。後頭部に触れてみると、そこには大きなたんこぶが出来ていた。
「あら、お目覚めですか?」
ふと、傍らから声が聞こえる。先程、アリスと一緒にいたもう一人の女性の声だ。
「まあ、ええ。一応……」
「そう、よかった……あ、私、聖白蓮と申します」
グラデーションのかかった髪が特徴の彼女は、深々と頭を下げた。如何にも丁寧で、優しそうな女性だ。
「この度はご迷惑を御掛けして、誠に申し訳ありません」
「い、いえいえ……」
あんまりにも丁寧すぎて、思わず謙遜してしまう。
「その様子ではすぐに出歩くのも危険ですし、今晩はお泊まりになられれば宜しいかと」
「え、ええ……それじゃ、お言葉に甘えて」
断るのも気が引けてしまうので、俺は聖さんの誘いを受けた。
しばらく命蓮寺の一室で休んでいると、廊下から足音が聞こえてきた。
襖を開けたのは、俺の知らない別の女性。半袖短パンで、海兵の様な格好をしている。
「おっと、あんたがお客さんだな? 私は村沙水密、ここで船長やってるんだ」
お寺で船長と聞くと、普通は頭おかしいんじゃねってなるが、俺はこの寺が船になる事を知っている。
そんな疑問は沸かない。
「あの、どんな用で?」
俺は村沙さんに問う。
「……あ、あぁ、夕飯の準備が出来たから、聖から呼んでくる様に言われたんだが……」
言われたんだが?
「……お前、カッコいいな」
自覚はしている。
「なあ、結婚しないか?」
「嫌だよ、てか話が飛びすぎだろ」
「いいだろ別に、妻の一人や二人増えたところで変わりゃしないって」
大問題だよバカ。
「ほら、私幽霊だからさ、いくら出しても子供出来なくて済むよ」
自分を売るなよ。
「てか、お腹空いたんで早く案内してくれません?」
「ん~、仕方ない。この話は後にするか」
もうしねぇよ。
村沙に連れられて、俺は寺の広間に来た。そこには、聖さんや星さん、ナズーリン、そしてアリス。これに村沙を含めれば、恐らくこの寺に住んでいる人全員が揃うのだろう。
「あ、ダーリン、大丈夫?」
「一応な」
「良かったぁ……」
アリスの奴、普通に心配してくれたんだな。
まあ、俺に怪我を負わせたのはコイツなんだけど。
「あれ、もう結婚してたんだ」
村沙が口を挟んでくる。てか結婚してねぇよ。結婚するならまともな人間としたいんだよ。
「そうよ」
デタラメ言うな変態人形野郎。
「ねぇ、聞かせてよ、彼との結婚生活!」
「仕方ないわね、あれはダーリンとの初夜の出来事だったわ──」
まあいい、放っておくか。
「こらこらご主人、テーブルの上に乗らない」
「フシャァ~」
「痛ッ!? 引っ掻くな!!」
この動物二人は何をやってんだか。
「ほらほら、ご飯出来たから、皆大人しく席に付きなさい!」
別の部屋からまた一人、別の女性が出てきた。蒼い髪に頭巾の様に布を被っている。
「はい、今日のご飯はぬえだよ!」
「ぬえ?」
聞いた事がない。一体何なんだ?
「おや、お客人、もしかしてぬえを知らないのかい?」
「知りませんけど……」
すると、頭巾を被っているその女性が、懐から一枚の写真を取り出した。
「はい、これ」
その写真には、背中に計六つの謎の翼らしき物をつけた黒髪の少女の姿が。
「……で、これは?」
「ぬえだよ」
「……え?」
「このたくあんみたいに見える料理がぬえだよ」
「……この、たくあんみたいなのが、これ?」
「ええ」
「マジで?」
「ええ」
「嘘でしょ?」
「嘘よ」
嘘なのかよ。
「あれ、ところでぬえの奴は?」
村沙さんが頭巾の女性に聞いてきた。
「ぬえの事だから……その辺で野垂れ死んでるんじゃないかしら」
なんだこの人、ぬえって奴の事嫌いなのか?
「ほら皆さん、そろそろ頂きましょう」
聖さんの一言で、皆が席に着いた。彼女がこの寺の中でリーダー的存在なんだろう。少なくとも、雰囲気は凄いのにネコの物真似ばっかしてる人よりは頼りがいがありそうだ。
「それでは、頂きます」
「「「頂きます」」」
「ニャァ~」
一人だけネコまんま。もうこれ病気じゃねぇのか?
文字数の都合で今回はこれまで。
次回はとうとう、お風呂シーンを……