俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか? 作:エノコノトラバサミ
「久しぶり!! 皆のアイドル、アリスちゃん参上!!」
死ね。
「何よその反応!? 久しぶりなんだから祝ってよ!!」
なんで祝わなくちゃいけないんだよおかしいだろ。
朝っぱらからテメェの相手なんてしてられないんだよ。
「お願いだから何か喋ってよダーリン!」
「へぁぶにぉ」
「え、何!? どういう事!?」
もう日本語話すのもメンドクサイ。
「ていうかいつの間にこんなにダーリンに子供が出来たの!? しかも皆女の子ばっかり!?」
眼科行ってこい。
「まあ冗談はこの位にして……実は少し頼みたい事があるの」
「ん?」
「今少し人手が欲しくて。ダーリンも手伝ってくれたら、イイモノアゲル♥」
「あっそ」
「ウソウソご免なさい! けれど人手が欲しいのは本当なの!?」
「……理由を言え」
「パチュリーが、図書館の本がメチャクチャになっちゃったから片付けるの手伝って欲しいって」
案外普通に困ってるんだな。
「……ま、いっか」
「ありがとうダーリン! それじゃ、レッツハネムーン!」
テンション本当高けぇな。
という訳で来ました久しぶりの紅魔館。足の指一本でスクワットしてる門番に挨拶した後、アリスと二人で図書館へ。
「遅かったわね、二人共。もう片付け終わったわよ。私のこの触手の力でね」
すげぇ……けれど気持ち悪。
「じゃあ結局俺等は何しに来たんだよ……」
「折角だし、何か読んでいけば?」
「まあ、そうするか」
という訳でこのだだっ広い図書館から適当に本を漁る。
どれどれ『東方触手姦』……しまおう。
これは『快楽に墜ちる巫女』……何だよここは、同人誌ばっかじゃねぇか。
「私のオススメはこれ『逆触姦』よ! 普段は触手が○す側なのに、この本はなんと触手が○されてしまうという新ジャンルを築き上げた偉大なる同人誌なの!」
興味ねぇよ。
結局一冊も本を読まずに図書館から出る。本の九割が同人誌とか最早図書館じゃねぇよ。
俺が紅魔館から帰ろうとすると、廊下に一人の少女が立っていた。金髪でサイドテールのその少女は、背伸びして紅魔館の数少ない小さな窓を覗いている。
あれは確か『お姉さま大好き♥』って言ってたあの吸血鬼……レミリアの妹か。
「なぁ」
「──ヒッ!?」
「あ、ちょ!?」
俺の姿をみるや否や、途端に血相を変えて逃げたしてしまった。
その様子に異常を感じ、俺は何となく追いかける。
「嫌、助けてェ!?」
「おい、どういう事だよ!?」
階段を下り、地下に入り、それでも尚追い掛ける。
とうとうある地下の一室で、彼女は逃げ場を失った。
「来ないで……」
「なぁ、どういうこ」
「許して……何でもするから……だからお願い……」
ダメだ、聞く耳を持たない。
「俺は別に何も──」
そう良いながら彼女の肩に手を置こうとした瞬間。
「イヤァ!!」
「──痛ッ!?」
彼女の爪が、俺の掌を軽く切り裂いた。
「痛てぇ……だから俺は何も……」
「あ……あ、ァ……」
途端に更に表情を歪ませ、泣き出してしまう彼女。
「ご、ご免なさい……本当にご免なさい……」
そして、ついに土下座まで行う。
もう、俺は何も言えなかった。
「──フラン!?」
部屋の中にレミリアが来たのは、その直後。
「はぁッ!!」
「うッ!?」
背後から突如飛び掛かってきたレミリアに、俺は呆気なく組伏せられてしまった。
「フラン! お姉ちゃんが来たからもう大丈夫よ!!」
「ご免なさい……ご免なさい……」
「フラン! ほら! もう大丈夫だって!!」
「なぁ、一体どういう──」
「──黙ってて」
「……」
結局、俺はレミリアに引きずられ部屋を出た。
彼女は土下座したまんまだった。
レミリアの隠し部屋に、俺一人で連れて来られる。あの軍式メイドも今はいない。
「……フランには近付かないで」
「そんなの、アレを見ればすぐに分かる」
レミリアは、フランのフィギュアに抱き付いた。
「……あの子は人間が嫌いなの」
「理由は?」
「人間に殺されかけたのよ」
レミリアは、俺に語り始めた。
「私達が外の世界から来たのは、知ってる?」
「ああ」
「……ここに来る前、丁度私達は戦争してたの。察してる通り、相手は人間共よ。私達にはそんな気は無かったのに、想像と偏見だけで吸血鬼の私達を殺人鬼に仕立て上げられたのよ。それまで私達は動物や自殺者の血しか吸わなかったのに……人間達との共存を、掲げてきたのに」
「……捕まったのか、彼女」
「不意討ちって奴よ。フランが一人で遊んでいる所を襲われたわ。人間達が公開処刑する寸前の所を皆で何とか助け出したのだけれど……もう、酷い有り様だったわ」
思ったより、重い話だ。
「フランは良い子なの……あんな能力を持ちながら、フランは誰一人殺した事もないの……フランは私が守ってやらなくちゃいけないの……」
「彼女、外を見てたんだ」
「……外?」
「ああ」
「出してあげたいのは山々だわ。けれど見たでしょう、人間に対するあの態度を。あれじゃ何処にも行けないわよ……それにもし、フランが暴走でもしたら……」
「……どうなるんだ?」
「──恐らく、皆死ぬわよ」
この日は、レミリアの話を聞いてすぐに家へと帰った。
彼女が経験した過去を想像すると、胸が締め付けられる様に痛くなる。
「お兄さん、大丈夫?」
「……ん、あぁ、大丈夫だこいし」
人間……謂わば俺達のせいで彼女はああなってしまったのだ。
何か、治す手は無いのだろうか?
──あぁ、気がつけば俺は、またそんなお人好しな事を考えてやがる。