俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか?   作:エノコノトラバサミ

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 サブタイトルがヤバイ。


お兄さんの童貞奪ってやる!!

 モミーVSミラクル魔法少女の戦いはモミーに軍配が上がった。地面に倒れ込むミラクル魔法少女と、遠くで膝を付くモミー。

 こいしは走ってモミーに駆け寄る一方、俺は魔法少女が気になり、彼女へと近付く。

 

「あ……うぅ……」

 

 意識はまだある。出血が少し酷いが、まあ妖怪ならまだ死にはしないだろう。

 

「おい」

「ッ……」

 

 俺の姿を見るや一瞬睨むが、すぐに苦しそうな顔をして背ける。いくら俺より強かろうと、その傷じゃろくに動けないだろう。

 

「……く、殺せ……」

 

 急に何言いやがんだバカヤロウ。

 

「殺さねぇよ」

「……どうする、つもりだ?」

「ん~」

 

 ……コイツ、本当にどうしようか?

 とりあえず二度とこういう事をさせない様にお仕置きしないといけないのだろうが……

 一旦モミーの方に寄り、三人で相談する事に。

 

「お仕置き……ですか、確かに」

「でもどうするよアレ?」

「ご主人様、どうしますか?」

「お兄さん、とりあえず○せば? さっき『く、殺せ』って言ってたし」

「やだよ、ていうか何時からそんな事知った?」

「文さんがたまに寝る前色んなお話聞かせてくれるんだ。【満員○漢鉄道】とか【囚われの女○士 ~汚された誓い】とか」

 

 あの烏そろそろ殺すか。

 

「鎖で拘束して届かない所に食べ物を置きながら餓死寸前まで放置するなんてどうですか?」

 

 モミー意外とえげつない事考えるな。

 

「流石にそれはやり過ぎだ。期間は長くていいから、もっと平和的な案は無いのか?」

「○しましょう」

「○せば?」

 

 それが平和と考えるテメェ等の頭が恐ぇよ。

 

「お兄さん無しでは生きられなくすればいいんだよ!」

「それ遠回しに同じこと言ってんじゃねぇか」

 

 もうダメだコイツら。

 

 結局コイツらの意見は片っ端から放棄して、俺一人で考える事に。

 それで思い付いたのが……

 

「とりあえず、げんこつしとくか」

 

 

 

「という訳だから、オラァ!」

「──ッ!?」

 

 俺の握り拳を魔法少女の脳天へ叩き落とす。やった事がやった事なので、結構強く殴った。地面にも頭を打ち付けたっぽいな、これ。

 

「…………」

 

 あ、伸びちまった。どうしようかな?

 

「お兄さん、椛の手当てもしたいし、そろそろ帰ろう」

「ああ、先に行っててくれ」

 

 伸びちまったし、なんか心なしか出血も酷くなってる気がする……

 とりあえず止血した後、コイツも手当てしてやるか。

 俺は魔法少女……もう小傘でいいや、を背負い、家に向かって歩いた。

 

 

 

「…………う」

 

 背中から僅かに声がする。どうやら小傘が起きた様だ。

 

「……あ、れ?」

「気分はどうだ?」

「……わちき……何して……アッ!?」

「うわっ!?」

 

 小傘が急に暴れ出し、背中から落ちてしまった。

 

「痛ぁぁぁ!?」

「急に暴れるからだろ!」

「うぅ……でも……やっぱり!!」

 

 どうも様子がおかしい。

 

「治ってる! わちきが治ってる!!」

「ハァ?」

「やったぁ! アハハハ痛ぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 言わんこっちゃない。

 

「お前、一体どうした?」

「でも……どうして治ったんだろ……あの犬に斬られても治らなかった……あ、そうか!!」

 

 小傘はこちらへと向き直し、笑顔を作っている。先程のどす黒い笑顔ではなく、とても明るい笑顔だ。

 

「拳骨で頭を打ったからだ! そこのお兄さん、ありがとう! お礼に私の出来る事なら何で……あ、れ……」

「おっと、あぶねぇ」

 

 ふらついた小傘を支える。元気なのか弱ってるのか分からん。

 

「お前……さっきと性格違うみたいだけど、一体どうした?」

「えっと、実は私──」

 

 

 

 多々良小傘は悩んでいた。

 

「どうすれば相手を驚かす事が出来るんだろう?」

 

 彼女は驚くという感情を食べる憑喪神。人間の食べ物も食べられない訳ではないが、そのお腹を満たすのは感情を食べる他無い。食べなければ死んでしまう訳でも無いが、空腹感を延々と味わう事になってしまう。

 

「やっぱり傘が悪いのかなぁ」

 

 大きな目玉に長い舌。小傘的にはとっても恐ろしいのだが、現に里の子供達には面白い傘と評判である。

 私が驚かせられないのはこの傘が悪いと、小傘は結論付けた。実際は小傘自身の可憐さが一番の原因なのだが。

 

「よし、試しに傘以外で驚かせてみよう!」

 

 という事で小傘はトレードマークである傘をしまい、様々な物を使って驚かせる事にした。

 提灯、こけし、打木、コンニャク、鬼のお面、色々な物を使って驚かせてたが、どれも効果が薄かった。鬼のお面は使い方次第で驚かせられる気がするが、小傘には自分がお面を着けるという発想が浮かばなかった。

 単にアホである。

 

 そして小傘は次に刃物を持って驚かせる事にした。ヤマンバの真似であって、実際に切ろうとは微塵も思っていない。

 そしてある日の夕暮れ、通りかかった一人の男に向かって飛び出す。

 

「驚けぇ!!」

「ヒィ!?」

 

 男は驚愕した。小傘の持っていた凶器に。

 そうして男がとった行動、それは自己防衛の為の攻撃。男には、少々ながら武道の経験があったのだ。

 小傘の頬に強烈な拳が食い込む。そのまま地面に打ち付けられた。

 

「あ、おい……」

「…………」

 

 霞む意識の中、彼女は思った。

 殴られた……怒ってる……私の事を容赦なく攻撃してきてる……

 痛い……頭が痛い……もしこのまま、また攻撃されたら……このままじゃ……このままじゃ……

 ──私、殺されちゃうのかもしれない。

 

「……嫌」

 

 全身の力を絞り出し、立ち上がる。

 

「嫌……イヤ……」

 

 ──抵抗、しなければ。

 

「来ないでェ!!」

 

 手元の刃物を男に向かって全力で振るった。その刃先が男の腰付近を切り裂き、紅い液体が流れ出す。

 

「た、助けてくれぇ!?」

 

 必死になって逃げ出す男。残るは地面に滴り落ちたあの液体のみ。

 

「……私、こんなことするつもりじゃ無かったのに」

 

 我に返り、自らの行いに深く後悔する彼女。罪悪感が彼女の心を包む。

 だが、その罪悪感はすぐに消えた。

 

「──美味しい」

 

 ──あれ?

 

「アハ、久し振りのご馳走……」

 

 ──何で私、笑ってるの?

 

「もっと、もぉっと食べたいなァ♥」

 

 ──どうして、こんなことしちゃ駄目なのに。

 

「どうして駄目なの?」

 

 ──だって、可哀想だよ。

 

「じゃあ私は? 私はどうなの? 今まで何度もひもじい思いをしてきた私は可哀想じゃないの?」

 

 ──それは……

 

「ねぇ可哀想でしょ? 幾ら努力しても報われない私が、可哀想でしょ? 私が今まで悪いことした? ねぇ、ねぇ!?」

 

 ──。

 

「いいんだよ……きっと許してくれるよ……私は良い子だもん。だから、少し位他人を傷付けても、神様は許してくれるよ。だから、もっと食べよう♥」

 

 ──許して、くれるの?

 

「うん、神様はいい人だもん!」

 

 ──そう、だね。きっと許してくれるよね!

 

 こうして、彼女の心は一時期、闇に墜ちた。

 

 

 

「──あれ、なんだっけ?」

「おいおい、忘れたのかよ……」

「う~ん……思い出せない……」

「もういい。ほら、背中に乗れ」

「うん……」

 

 

 

 結局事情を聞けないまま、俺は小傘を家へ連れ帰り、手当てをしてやった。こいしから一件を聞いた皆は驚いたが、彼女の人格が訳あって変わった事を説明すると、皆受け入れてくれた。根は良い奴等……なのかな?

 

「それで、これからどうするんだ?」

 

 藍が小傘に問う。

 

「わちき、心を入れ換えて一から驚かせる練習をするわ!」

「まあ、その心意気はいいのだが……一つ聞きたい事がある」

「え?」

「君は、今まで何人の人々を襲った?」

「えっと……多分、三十人いくか、いかないか……かな? あ、わちきさっきは格好付けてたけど、まだ一人も殺してないよ! 皆逃げたよ!」

 

 そうだったのか。

 

「……君、このままだと本気で退治されるぞ?」

「えぇ!? でも、ちゃんともうしないって謝れば……」

「……問答無用で相手を襲った通り魔を、許すと思うか?」

「そんなぁ……」

 

 小傘は泣き出してしまった。言い方はキツいが、確かにそうだ。このままでは無事じゃすまないだろう。

 

「小傘」

「はい……」

「……君が許してもらうには、一つしか無い」

 

 藍の言葉に、皆が耳を傾ける。

 

「──脱ぐんだ」

 

 予想はしてた。

 

「今思ったんですけど、性的に襲えば自分も相手も幸せじゃないですか?」

 

 黙れ変態カラス。

 

「……皆、ありがとう……わちき頑張る!」

 

 頑張らなくていいよ。

 

「お兄さんの童貞奪ってやる!!」

 

 何で標的俺なんだよ!!

 

 

 

 最終的には初めの方に椛が言っていた『鎖で拘束して届かない所に食べ物を置きながら餓死寸前まで放置する』案を家の隅っこで実行する事にしました。

 家族がまた一人増えましたが、俺は元気です。


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