俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか? 作:エノコノトラバサミ
こいしが家に来て一週間。俺の日常は気が付けば、こいしの存在以外すっかり元に戻っていた。
時々休みながら手紙を運んだり、こいしが手伝ってくれたり、たまに背後にいるアリスを撃退したり、まあそんな日々が続いた。
そんなある日、一通のお便りが届く。宛先はうちだった。
『二人で来い 上白沢慧音』
……内容と名前の長さが同じだな。
ハァ。
という訳で、今日はこいしと二人で慧音先生の家へ。ご存じの通り、慧音先生は寺子屋で教師をしている。俺も昔は慧音先生に色々と教わったものだ。
だが、俺はあの人が苦手だ。何故かはすぐに分かる。
「慧音先生~」
「来たか、入ってくれ」
部屋の向こうから声がする。俺とこいしはその部屋へと入った。
先生は、書類に何かを書いている最中だった。
「おぉ、君がこいしちゃんと言うのか、可愛いなぁ」
「先生、何で呼び出したんですか?」
「その前に少し話をしようではないか。さあ、そこに座ってくれ」
言われるがまま、先生の向かいに座る。書類を片付けていた先生は、お茶を出してくれた。
「しかし久しぶりだなぁ。随分かっこよくなったものだ。私の見立て通りだな!」
「そ、そうですか……」
確かに俺は昔から先生に見込まれていた。「君は将来きっとかっこよくなる」と、よく先生に言われていたものだ。それだけならまだ良かった。
そう、問題はあの日からだった──
俺はその日、先生に寺子屋を残る様に言われた。試験の成績があまり良くないので、補習を受けなければいけないらしい。外で遊んでばっかでろくに勉強しない俺が悪いので、それは仕方なかった。
問題は補習を受けた後だった。授業は終わった筈なのに、先生はまだやる事があると俺をある部屋へ連れていった。そこは、用具庫だった。
「君にはまだ補修が残っているんだ」
そう言って、先生はおもむろに服を脱ぎだした。
「──さぁ、これから先生と保険の実習をしよう」
結論から言おう。用具庫の中にあったお星さま観察セットを取り出し、そこに描かれている月を太陽の光で照らし、満月っぽいのを作り出した俺は、なんか人間と獣の間で悶えている先生を尻目に用具庫から脱出した。
そう、この先生は猛烈な変態ショタコンだ。
この日から俺の身には、人並外れた危機感知能力を得たのである。
──今思えば、この能力のお陰であの変態共から逃れられているのだろう。もしそれを見通していたのなら、先生に感謝しなくちゃいけないかもな。
「今からでも遅くない、先生と二人でこの寺子屋で愛を育もうではないか!」
やっぱ死ね。
「というより、先生はショタコンじゃないですか。なんで俺?」
「君だけは特別だ」
先生だろ! 皆平等に扱えよ!
「というより、どうして呼んだんですか?」
「あぁ、まあそろそろ良いだろう。こいしちゃんを寺子屋に通わせてみないか?」
「嫌だ」
「いやいや、話を聞け。彼女はここ最近里に来たばかりだ。今は君という家族がいるが、彼女には友達が恐らくいないだろう。妖怪と言えど、幼い彼女にそれは可哀想だ。寺子屋なら、人間、妖怪、妖精、様々な子供達がいる。彼等と共に暮らすのも、こいしちゃんにとって良いことだと思うのだよ」
……まともな意見だ。
「学費は要らない。私が持ちかけた話だからね」
「こいし、どうする?」
「お友達……私、行ってみたい」
「そうか、こいしがそう言うなら」
「よし、話は決まったな!」
それから、寺子屋通いに必要な用具を無償で提供して貰い、次の日から通い始めるという事で話は纏まった。明日から、こいしの新たな生活がはじまるのだ。
そして次の日、こいしは元気な声で寺子屋へと出かけた。少々不安な部分もあるが、彼を信じて待つしかない。
……本当に大丈夫だろうか?
そして、帰ってきたのは夕方だった。
「こいし、遅かったな」
「うん」
「どうだった?」
「楽しかったけど、疲れちゃった」
「なんでそんな遅くなったんだ?」
「えっと、先生にお勉強が少し遅れちゃってるから、ちょっとずつ先生とお勉強しようって言われたの」
「そうなのか」
「うん。それとね、実技もしなくちゃいけないから、先生に『赤ちゃんを作る練習をしましょう』って言われたの」
「…………それでどうした?」
「とっても疲れちゃった」
「…………」
霊夢に妖怪退治の依頼でも出しておこう。