俺の事が好きなのであろう人形使いが毎回付きまとってくるのだが一体どうすればいいのだろうか? 作:エルフィ
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一応、本編と繋がっているという事で。
見越し入道と僕
太陽が空高く登り、爽やかな風が吹く、気持ちのいい日。僕はいつもより早起きした。顔を洗わなくても、すっかり目は覚めている。
手早く作ったおにぎりを食べ、服を着替えて、準備ができ次第、僕は家を飛び出した。とある場所へ向かう為に。
約束は大分前からしていた。この日を僕は、どれだけ楽しみにしていた事か。想像するだけで、心が踊る。
待ち合わせの場所には、まだ君はいなかった。それに少しがっかりするけれど、君を待たせずに済む事を考えれば、むしろ早めにきて良かった。
そわそわする気持ちを抑え、君を待つ。
それから間も無くして、君は現れた。
「──おはよう、雲山」
無口な君は、ただ黙って頷いた。
【見越し入道と僕】
君と手を繋ぎながら、僕は歩き始めた。君は足がないから、僕に引っ張られる様に進んでいる。とっても楽そうだ。
君の手のふわふわで柔らかな感触は、僕に昔の事を思い出させる。
あれは、二年前の元日。普段はあまり信仰に興味の無い僕が、この日ばかりはお参りでもしようと命蓮寺を訪れたんだ。
無事にお参り出来たのは良かった。けれど、その後にトイレに行きたくなった僕は、近くにいた人に道を聞いた。
その人の言う通りに進んで行くけれど、何故かトイレに辿り着けない。時が経つにつれて我慢が苦しくなる。半ば諦めかけたその時、君が僕を救ってくれたんだ。
始めは友達みたいな関係だったけれど、気がつけば今、僕は君と二人で手を繋ぎ、デートしている。その事実が、僕はとても嬉しいんだ。
デートと言っても、特に目的は決めていない。二人で里を歩いて、気になった所に向かうだけ。そして、日が暮れれば帰る。
里の大通りには、相変わらず多くの人達で賑わっている。その中で、僕は君と楽しめそうな場所を探してみる。
そんな中で、僕の視界に茶屋が入った。お腹が空いている訳では無いのだが、ここで君とのんびり過ごすのも悪くない。
僕は君に目で確認する。そして、そのまま中に入った。
僕はみたらし団子を頼む。君は相変わらず無口で、お茶一つさえ要らないといった表情だった。
店に入った時も、注文する時も、品物を待つ時も、そして僕が食べている時でさえ、君はずっと何も話さず、僕の事を見ているだけ。できれば君と話したいけれど、無理になんて言わない。君が傍にいてくれるだけでも、幸せなんだから。
結局すぐに店を出て、僕達はまた里を歩き始めた。
君と二人で楽しめそうな場所を探す。けれど、やっぱそんな場所は中々無い。僕の家にでも向かおうか考えたけれど、それもなんだか面白味が無い。もっと、君との思い出に残るデートにしたい。
思いきって、僕は里を出た。
普段なら、危険に溢れている里の外になんてまず出ない。けど、今日は君が一緒にいてくれる。力持ちな君なら、妖怪の一人や二人、平気で追い払えるよね。
僕が目指しているのは、あの吸血鬼が済む館の近くにある霧の湖。僕はふと、ある事を思い付いたんだ。思い出に残るような、とっても素敵な事を。
霧の湖に着いた。僕が思い付いたあの事を実行するには、まだ時間が掛かる。それまでは、ここでのんびりと過ごす事にしよう。
霧の向こうで、妖精達の影が見える。それと同時に、笑い声も耳に届く。姿までははっきり見えないけれど、その様子を想像するだけで、微笑んでくる。
しばらく眺めていると、だんだんと眠くなってきた。体を倒して仰向けになろうとしたら、君が僕の頭をその手で受け止めてくれた。
ふかふかしているその手は、僕の心をとても安らかにさせてくれて──
──目が覚めた時、空は既に赤く染まり掛かっていた。
ちょっと焦ったけど、まだ大丈夫だ。大きく背伸びをすると、僕は君の顔を覗き込む。
君は、優しそうな顔で眠っていた。
「ねぇ、雲山」
僕が呼び掛けると、すぐに目を覚ました。
「ちょっと、お願いがあるんだけど」
僕は君の耳元で囁く。
君は頷くと、その大きな手を握って、思い切り振り回した。
風圧で徐々に霧が晴れていく。少しずつ遠くが見えてくる。その光景に、僕は息を飲んだ。
沈み行く夕日が湖に反射して、水面にもうひとつの夕日が写し出される。二つの太陽が、空と湖を同時に焼き尽くす。紅く染まる世界は、僕の心を虜にした。
「……凄い」
君はこの景色をみて、どう思っている事だろうか?
無口だし、あまり顔に出さない君の事だから、僕には正直分からない。けれど、喜んでくれたら、嬉しいな。
しばらくすると、湖に霧が戻り、夕日は一つに減ってしまった。
僕は、君と手を繋いで、帰り道を歩き出した。
今日の事、君は覚えていてくれるだろうか?
君は妖怪で、僕は人間だ。例えお互いに結ばれたとしても、その運命はいずれ僕達を引き裂くだろう。数十年、数百年と時が流れたその時、この日の事を覚えていてくれるだろうか?
──今そんな事を考えても、解るわけが無い。信じるしかないんだ。
「ずっと、一緒にいようね」
僕は、握るその手に目一杯力をこめた。
彼にとってはちっぽけだけど、僕にとっては全力だった。
「──そうじゃな」
今、君の声が聞こえた気がした。