東方西風遊戯   作:もなかそば

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姫海棠はたての練習取材(上)

「あああもうお嫁に行けないぃぃぃ!!」

 

 数十分後、西宮と射命丸ははたての部屋に招き入れられていた。洋風のシックな木製テーブルと、これまたシックな木製のチェア。洋装の向きが強い部屋の中で、三者はテーブルのうち三辺に座って向かい合っている。

 なぜ数十分の長きにわたる時間が必要だったのかというと、ドアに鍵をかけて籠城戦の構えを見せたはたてに対して文が根気強く説得を行い、西宮ともども家に上がらせて貰う為の説得をするのにかかった時間だ。

 射命丸曰く『誠意ある説得』だが、寝顔写真の流布を引き合いに出すのは説得ではなくて脅迫なのではないかと西宮は思った。肌色分の多い美少女の下着姿を見た彼は彼で、動揺を落ち着けるのに軽く精神統一などしていたので敢えて突っ込むことはなかったが。

 

 そして半べそで胸を庇うように自身を抱きしめ、威嚇するように吠えるのは姫海棠はたて。先ほどまでのような寝起きの格好ではなく、短袖ブラウスに黒と紫の市松模様のスカートを履き、髪は紫のリボンでツインテールに結ばれている。

 

「あーじゃあ西宮くんに責任とって娶って―――ダメね早苗さんが居るし。ああ、西宮くん。このダメな子が姫海棠はたて。私の友人で、まぁ主流派から外れた烏天狗ね」

「余計なお世話よぉ……うぅ、せめてブラしてから出ればよかった……」

「大丈夫よ、頂上は隠れてたから。で、はたて。さっきの光景を頭から追い出そうとして、家の前で座って瞑想する不審者やってたこの子は西宮丈一くん。山の上の神社の信者ね」

 

 その言葉に西宮は頷き、

 

「自己紹介ではなく他己紹介とでも言うべき情報で、『ダメな子』とか『不審者』とかかなりアッパー入った言葉選びですね射命丸さん」

「身内向けのノリなんだから多少アチョー入ってても許しなさいよ。ねぇ、そうでしょうはたて?」

 

 問われた言葉にはたても頷き、

 

「西宮くんだったっけ。うん、神社の話は新聞では見たけどはじめまして。それで、この馬鹿に対する対応としてはどういう人権無視がいいと思う?」

「そうですね。コラ画像とかどうでしょうか。こう―――射命丸さんの写真の頭部と、男性天狗の脱ぎ姿の胴体を合神させるような」

「良いわねそれ。号外としてブチまけましょう」

「ひ、ヒドい人たちねアンタたち!? 相手の気持ちとか考えたこと無いの!?」

「「アンタが言うなァ―――――っ!!?」」

 

 三者三様、立ち、叫び、一息、座り。

 

「……開幕いきなり不毛な方向に向けてF1カー宜しくスタートダッシュ切りましたねこの会話」

「F1カーという例えはよく分からないけど、スタートダッシュどころかフライングした気がするわ。慣れてくると素が出て来たわね西宮くん」

「フライング? 文、なに? 会話が飛ぶ(フライする)の?」

「ああ、外の陸上競技の話とかされても、外の本とか見る機会が無い子には分からないわよね。あながち間違ってない気もするけど……えぇと、それで、なんだっけ」

 

 文はテーブルに視線を巡らせる。

 叫んだ分だけ喉を湿らせる茶などが欲しいが、生憎とここの家主は無精者だ。茶が欲しければ自分で淹れるしかないので、文は立って叫んで座った直後ながら、もう一度立ち上がる。

 

「とりあえずはたて、飲み物淹れるわ。水瓶の水、ちゃんと新しいわよね?」

「ああうん、それは今朝井戸から汲んだやつだから大丈夫だけど。私、紅茶ね」

「すいません俺コーヒーで」

「いきなり人の手間を増やそうとしないで貰えるかしらこの二名。番茶で良いわよね」

 

 えー、という二重奏を背中で無視しながらキッチンに向かい、後で火を付け直す時の事を考えて火種が残されていた竈に手際よく能力で風を送り込んで火を熾す。

 『風を操る程度の能力』というのが、幻想郷縁起に記された射命丸文の能力だ。しかし実際のところ天狗と風は近しい存在であり、風を操る事は天狗であればだいたい誰でも出来る事である。

 であれば文のその能力表記が虚偽であるかと言われると、そうでもない。他の誰より―――この一事にかけては天魔以上に上手く、繊細に、豪快に、つまりは自由自在に風を操れるのが射命丸文だ。天狗ならば誰でも出来る事柄である風操に対し、経験と鍛錬もあるが生まれ持った才覚が図抜けている。

 故にこその『風を操る程度の能力』。故にこその幻想郷最速。それが射命丸文である。

 

 ちなみに日常生活にも便利な能力であり、竈の火を熾すときとかは繊細な操作により非常に上手く着火できる。慣れていない術者がやると風が強すぎて火を消してしまったり、最悪部屋中に灰をブチまけたりするのである。

 そしてそちらには殆ど意識も向けずに器用に風を操りながら、射命丸はリビングに居る二人に向けて肩越しに振り向いて声をかける。

 

「茶の準備をしながら話すけどね。はたて、あんたに頼みたいことがあって来たのよ。私の新聞の最新号、見たでしょ?」

「なんで私があんたの新聞を見てるなんて思うのよ。なにそれ自意識過剰?」

「あんたが私の対抗記者(スポイラー)だからよ。こっちだってあんたの新聞、全部チェックしてるのよ? それとも、ライバルだと思ってるのは私だけだったのかしら」

「…………いや、まぁ、そりゃ…………全部読んでるけどさ」

 

 文の言葉に、はたてはきまり悪そうに俯くようにして目線をそらす。

 射命丸の視線が竈と薬缶(ヤカン)に向いていて、はたての頬が赤いのを見ていないことだけが幸いだった。殆ど見知らぬ少年には面白そうにその様子を観察されているのだが、はたてにそれに気付く余裕はない。

 

 姫海棠はたてにとって、文はライバル視している相手ではあるが、それと同時に目標としている存在でもある。

 天狗ならではのゴシップ紙めいた側面はあるが、はたては文の新聞を『不思議な魅力がある』ものとして認めており、その魅力の根源を確かめようと彼女の後を追跡調査したこともあるくらいなのだ。

 その文からこうも認められているというのは、はたてとしては面映いものがある。

 しかし顔を赤くして俯くはたてではなく薬缶に目を向けている文の言葉は止まらない。

 

「貴方、前に言ってたわよね? 『人間が記事まで読むような新聞を作ってみせる』って。天狗の新聞はね、基本として内向きの―――つまりは天狗向けの新聞なのよ。身内で回し読むためのものなの。外に購読者の多い私ですら、天狗に読んで貰う“ついでに”外の皆にも読んで貰うくらいの気持ちなのよ。最初から外に読んで貰う前提で物を考えてる異端者は貴方くらい」

 

 薬缶と火に問題がないことを確認し、勝手知ったる我が家とでも言うべき迷いの無さで、戸棚から急須と湯呑を用意する。

 そうしながらも続ける言葉は姫海棠はたてに対するものだが、天狗の新聞の基本スタンスについての言葉は西宮に聞かせる意図もあるのだろう。

 

「今、天狗の里には時代の流れとも言うべきスペルカードルールの波が押し寄せて来ている。私の新聞でやった弾幕の特集もその一環ね。だけど正直、私は日常の些細な出来事を書き立てるほうが好みで、こういう派手な事はそこまで好みじゃない。まぁ、他にやる人が居なければ、誰かがやらなければいけない事だし引き続き私がやるけど―――」

 

 茶の入った缶を棚から出し、中を見て嫌そうな顔で一瞬動きを止める。

 どうやら中身が切れていたか―――いや、ゴミ箱に向けて缶を逆さにして振っている様子から見るに、中でカビでも生えていたようだ。茶葉が湿気って癒着した結果、一塊になった塊がゴミ箱に落ちた。

 そして別の茶を探しながら、

 

「―――弾幕の記事となると、それは天狗のみに向けたものではなく、もっと幻想郷全体に向けたものとなるべきで。それをやるなら、私より貴方の方が上手くやれる。そう思ったから、私は貴方に頼みに来たのよ、はたて。……あと、お茶っ葉は時々様子を見なさい」

「いや、番茶は普段飲まないから……じゃなくて」

 

 えぇと、と口ごもりながら、はたては文に言われた内容を頭の中で整理する。

 射命丸文が自分の新聞に対する思想を認めて、頼み事に来た。

 それはつまり―――

 

「私、今もしかして人生の勝者……!? 文、文! 私が貴方よりも上になっても友達で居てあげるから安心してね!?」

「思考をトばさないで貰いたいわね。飛距離どれくらいよその思考のトばしっぷりは」

「どこに飛んでってるのかが見えないんで測定不能で良いんじゃないですかね」

「だって文から頼み事されるなんて珍しくて……わ、私ったらどうすればいいの!?」

「まずは落ち着いて深呼吸して可能ならば心停止とかどう? すごい落ち着いて思考も止まるわよ」

「うわぁ急激に醒めたわ今。さらっと殺しにかからないで貰えないかしらね文」

 

 射命丸文当人と、あと対面に座る手持ち無沙汰な様子の西宮の言葉を受け、はたては我に返る。

 確かに少し早まったかと思いつつ、思考を再整理。

 

「―――それはつまり、協力要請よね。私の新聞に対するスタンスから、弾幕についての記事を書いて広めるには私の方が適任だと思ってくれたと。で、天狗の里の外に向けても発行すべきって事は、これを奇貨としてこれまでスペルカードルールに馴染んでいなかった天狗が、こんなにスペルカードルールに興味持って馴染もうとしてるんですよと外にアピールするためでもある」

「ええ。自分達の弾幕が紹介された記事となると、山の外の人達も興味を持って買ってくれるでしょうからね。そこから、天狗の今後の立場についての布石が打てれば良いと思っているの。その為には多分、貴方の方が適任だから」

「でも私、正直外へのツテとか全然無いし、弾幕についての写真や情報も無いから―――」

「―――そこは私が提供する、と。そういう話になるわ。貴方なら念写もあるから、写真の選択肢は私が渡す以上に増えるかもだけどね」

 

 ―――『念写をする程度の能力』。

 姫海棠はたての能力であるそれは、文の『風を操る能力』のような“最もそれに長けた存在である”という主張とも、多々良小傘の『人間を驚かせる程度の能力』という“ただの自己申告”とも違う、他に真似できる者の居ない、正真正銘の固有の能力だ。

 

 キーワードを設定し、思い念じて写真を撮れば、それに関連する写真が写し出される。

 望んだ写真が必ずしも出るわけではなく安定性には欠けるものの、諜報能力として考えればかなり怖い類の能力だ。戦闘への応用は殆ど利かないだろうが、情報戦においては相当なアドバンテージを発生させ得る。

 とはいえ、姫海棠はたてがこの能力を使いこなせるくらいの歳になった頃には、天狗の山はもうそういう諜報戦やらが必要な血なまぐさい状況ではなくなっており、専ら家を出ずに記事用の写真を作る為の能力になってしまっているのが現状だが。

 

 ―――そう。

 家から出ずに記事を作れるからと、姫海棠はたては出不精な引き篭もりだ。

 だから射命丸文はにこりと笑って振り向き、そんな歳の離れた友人に向けて笑顔で告げた。

 

「まぁ当然、貴方自身で取材に行ってもらう必要もあるだろうけどね」

「え? ……は、はぁ!? なんで私がそんなことしないといけないのよ!? 必要な情報があれば、文がくれるんじゃないの!?」

「貴方の新聞を外に売り出すという意味もあるんだから、記事にする相手への挨拶と面通しは必要でしょ。大丈夫、一人で行けなんて言わずに案内役を用意したから」

「あ、そこで俺が同行させられていた意味が出てくるんですね……」

 

 ぼんやりと部屋を見回しながら、木箱の中に丁寧に整理された文々。新聞のバックナンバーを発見していた西宮が会話に加わる。

 彼の言葉に文が頷き、

 

「まぁね。引き篭もり万歳なはたてにソロであちこち出向かせるのは難易度高すぎるだろうし、かといって私が付いて行ったら私メインではたてはオマケみたいに見られるわよ。実態はどうあれ、外からの目としてね。それは面通しと挨拶としてどうよってわけで」

「う……私だって烏天狗なんだし、そんなこと……」

「実績ってものがなければそんなもんよ。―――で、そうなってくると私以外の誰かを随行させるべき、という話になるんだけど。椛は駄目。なんか絶対明後日の方向に脱線する。にとりも山の外へツテとか無い子だから駄目。他の天狗は記事のネタを取られそうだから駄目」

 

 指折り数えて候補を潰していき、そして三本目の指を折ったところで射命丸は西宮に視線を送る。

 

「そんなわけで候補として浮かんだのは、山の上の神社の半分くらい神様なのと、そのオマケの平信者さん。彼らなら立場的に幻想郷の新規の大勢力の従者ポジだし、幻想郷では新参だけど既にあちこちに顔が利く」

「ついでにそこと天狗の仲が悪くないですよとアピールできると尚良し、って感じですか」

「まぁね。でも、そっちにとっても悪い話じゃないと思うけど」

 

 裏に隠した意図をさらりと認めた文に対し、西宮はその提案を吟味する。

 

 ―――天狗が書く弾幕に関する記事の取材に、西宮や早苗が同行する。

 それは守矢神社がスペルカードルール、ひいてはそれにより成立する今の秩序に対して好意的だというアピールにもなるし、対外的に顔を広める事にも繋がるだろう。それに天狗側との友好関係というものも、築いておくに越したことはない。

 

 そこまで考え、結論として西宮は首を縦に振る。

 

「同行する前に神奈子様と諏訪子様に報告をした上での形で良ければ、俺としては協力させて頂きます。明日以降ならば早苗も連れて行けると思いますが」

「OKOK、十分よ。これでこっちの了解は取れたし―――はたて、あんたはどう?」

「………」

 

 そして姫海棠はたての側も、射命丸から言われた言葉を吟味する。

 以前、はたては文の新聞の魅力の秘密を探ったことがあった。結論として浮かんだ魅力の根源は、『記事とする対象と向かい合う事』だ。

 

 山の外の様々な取材対象のもとに出向き、話を聞き、観察し、時には弾幕を交わし合う。

 そうして見聞きした情報は、他の新聞には無い“生きた”情報として文の新聞に独自の色を与えていた。そしてそれは同時に、引き篭もりの烏天狗である姫海棠はたてからは最も遠い魅力だ。

 

 だが、

 

「……やるわ」

 

 姫海棠はたてには、夢がある。

 天狗の新聞を天狗の中だけで完結したものではなく、人間や他の多くの妖怪たちにも読んで貰えるものにしたいという夢が。

 

 射命丸文の文々。新聞はその先駆けと言えるが、それでもまだ足りないとはたての想いは告げている。

 もっと、ずっと、多くの人に読んで欲しい。

 書き物を生業とする者ならば誰でも持つであろう欲であり、はたてはその欲に天狗の誰よりも忠実だった。

 

「それでもっと多くの人間に、妖怪に、神様に―――沢山の読者に読んで貰えるようになるなら、やってやろうじゃない」

 

 ―――今は芽が出ていなくても。

 そういう若さと情熱が世を動かす風になると、射命丸文は知っている。

 

 自分には無い熱であるし、自分にはできない事でもある。それをやるには射命丸文は良くも悪くも利口過ぎる。

 だからこそ射命丸文は、力でも年齢でも格でもずっと下の筈の姫海棠はたてを目にかけ、友として遇し、そして何よりライバルであると認めているのだ。

 

「貴方ならそう言ってくれると思っていたわ、はたて。でも―――」

 

 でも。

 

「もっと多くの人に見てもらうなら、我に返る前に新聞の端っこでやってる連載小説はやめた方がいいと思うんだけど。よりによって二次創作を新聞でとか」

「なんでよ? ちょっと源氏物語を現代風に訳して再構成してるだけじゃない」

「源氏物語の登場人物は名前や技名に闇とか魔とかあまつさえ†とか入らないし、『我が右腕のうずきたる、いとをかし』とか言わないわ。あとで人生最大の汚点になる前に終了しときなさいマジで」

 

 新聞の隅っこでやっている連載小説のセンスは、少しどうかと思う文だった。

 

 

      #   #   #   #   #   #

 

 

「―――成程な。天狗も中々考えているわけだ」

「ああわかります神奈子様。やはり†ではなく☆とか欲しいですよね技名には」

「違う早苗、そこじゃない。ほら、シチュー食べてなさい」

 

 その晩、夕餉の席で西宮からの報告を受けた神奈子は、良く煮込まれたビーフシチューに舌鼓を打ちながら、報告の内容に頷いた。ちなみにシチュー食べてなさいと言われた早苗は、素直にシチューにスプーンを突っ込んで大きな肉は入ってないかと探し始める。

 ちなみに社務所の一室を改装して居間としたその部屋は、四人が囲んで座れる大きさの卓袱台が設置されており、座布団を敷いてその周囲をぐるりと囲んで座るのが守矢一家の食事風景だ。

 

 部屋や家具が和風であるが、食事担当の西宮の趣味で料理は洋食が多い。より正確に言うならば洋食好きな早苗の味覚に合わせて、西宮が良く洋食を作るからというべきか。

 ハンバーグやパスタ、シチューなどが好みの現人神は、食の好みが中々に現代っ子である。

 

「こちらもこちらで動きがあってな。天魔から来賓としての参加を打診されたのだが、天狗によるスペルカードの発表会のようなものを天狗の里でやるらしい。派手好きな天狗らしいことだ」

「とはいえ、丈一から言われた射命丸の意図と同様に、天魔側もスペルカードルールに積極的に馴染むつもりであるということを対外的にアピールする意図もあるんだろうね。今後の天狗の立場とか考えてさ。そういう点、打算的な天狗らしいよ」

 

 派手好きと評価した神奈子と、打算的と評価した諏訪子。

 しかし両者ともにその意図するところは一致しているようで、互いに視線を合わせて頷き合う。

 

「来賓としてならば出席すべきだろうな。射命丸の提案に対する丈一の判断と同様だ。私達がスペルカードルールに基づく今の幻想郷の秩序に好意的であると示せるし、天狗との関係改善になるならば損はない」

「こっちに来た時はゴタゴタしたけど、御近所さんと反目しあってても良い事無いしねぇ。打算込だろうと向こうが歩み寄ってきたならこっちも乗るべきでしょ」

「であれば、こちらも射命丸さんの意図に乗る形で、姫海棠さんの取材に協力する形にすべきですね。東風谷はどうします?」

「任せる。丈一と早苗で相談して決めなさい」

「御意に」

 

 そして神奈子からの全権委任に、西宮は頭を垂れて返事を返す。

 頭を上げ、視線を向けるのはシチューの中から大きな牛肉を発見して喜んでいる現人神だ。

 

「つーわけだ、東風谷。明日は朝から天狗の里行って、姫海棠さんっていう烏天狗と一緒に取材協力といきたいんだが、そっちの仕事は大丈夫か?」

「あ、私ですか? ……んー、そうですね。人里での布教はノルマとかがあるわけでもありませんし、分社も作り終わってますから別に毎日行く義務があるわけでもありませんから……うん、大丈夫です」

「OKだ。お前は初めて会う相手だから、失礼が無いようにな」

「分かってますよぉ、もう」

 

 半裸目撃という失礼以前の問題のファーストコンタクトをした自分を棚に上げ、西宮は早苗に口頭で注意を伝える。

 注意された早苗は『ぷう』と頬を膨らませ、小さく拗ねて見せていた。

 それを横目で見ながら、西宮はふと思い出したことを諏訪子に問いかけた。

 

「そういえばそのスペルカード発表会って、いつどこでやるんですか?」

「数日後に天狗の里でって言ってたけど……大きな広場で、ああ、避難訓練も一緒にやるとかなんとか言ってたかな」

 

 来る時が来たか。

 西宮、その避難訓練で使われるだろう十尺玉と、それをブチ込まれると思しき大天狗に思いを馳せる今日このごろだった。

 

 




 はたてが人間にも記事を読まれる新聞を作ると主張しているのは原作通りです。
 割とその辺りの説明が長くなってしまって話が進まないなど。

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