超急いで書き上げた。
展開がいつも以上に雑なのでご注意下さい。
5巻を買ってないのでまだ分かりませんが、恐らく本誌のネタバレがあるので読む際にはご注意を!
「私、あなたのことが好きになったわ! わたしたちとても似ているもの!」
「──天ッ! 罰ッッッ!!!」
「うぐっ……!?」
ゴロゴロドッカーン…………。
これは、悲劇(笑)だ。
*
「えぇーそれでは、僭越ながら僕が仕切りたいと思います」
12月24日。
世間一般で言うクリスマス・イブの今日この日、僕は懐かしの面々と再会を果たしていた。
「いいぞぉーカネキー」
「カネキくぅぅぅん!」
「お兄ちゃん頑張って!」
「別に頑張るものではないけど、まぁやるならさっさとしろよな」
「……研」
「……蓮示くん飲みすぎちゃダメだよ?」
西尾先輩、月山さん、ヒナミちゃんにトーカちゃん、それと四方さんにウタさん。みんなあの頃と同じじゃないし、あの頃いた人でいなくなっている人もいたけど、こうやってまた会えたのが嬉しかった。
「……本当に、皆さんにはご心配をお掛けました。こうして再会出来たのは僕にとって夢みたいな感じで、でも夢じゃなくて。……とにかく、凄く嬉しいです」
何を言っていいのか分からず、最終的に在り来たりな言葉しか出てこない。それでも、みんなはとても感慨深そうに僕の話を聴いてくれていた。
「本当にありがとうございます。何て言いますか、この二年ずっとどこか不安で、それでも何も覚えてなくて。でも、ここでこうやってみんなと顔を合わせていると、やっと帰ってきたんだって、そう思えました」
上手く纏まらない。言いたいことが多過ぎるのだ。二年という年月はやはり長いものであった。
でもこれ以上長く話すとトーカちゃんが怒りそうだ。今も段々イライラしてきているのが分かる。
「えぇー、長くなりましたが、今日はみんなで大いに盛り上がっていきましょー!」
「「「「「「おぉー!」」」」」」
「では、乾杯!」
「「「「「「かんぱーいっ!」」」」」」
カンッと小気味良い音を鳴らして、全員で杯を呷った。うーん、美味しいや。
「血酒を飲んだのは久しぶりだなー。CCGにいた頃には、こんな
「それは僕のとっておきだよカネキくん。気に入ってもらえたかな?」
「はい、とっても美味しいです」
流石月山家が所有している一品だ。飲み比べた経験などないが、それでも相当の上等品だと分かる。
大人たちがそうやって血酒を嗜んでいる中、ヒナミちゃんだけが頬を膨らませていた。
「お兄ちゃん、私は飲んじゃだめなの?」
「お酒だからね。今日は我慢しよっか、ね?」
「……は〜い」
渋々、本当に渋々といった様子でヒナミちゃんは引き下がる。申し訳ない気持ちはあるけど、ヒナミちゃんはまだ16歳だからお酒は早い。ちゃんと大人になったときに一緒に飲んであげよう。
「カネキ」
「ん? どうしたのトーカちゃん?」
「……ちゃんと喰ってるのか?」
一応祝いの席なので、この場にはちゃんと"食事"もある。尤も、今いるのは漏れなく喰種なため、"食事"は当然人間の肉だ。トーカちゃんはそれを心配してくれたんだろう。
僕は元は人間である。そのため、二年前も殆ど"食事"を摂ることはなかった。あんていくにお世話になっていた頃は店長からいただいていた角砂糖、抜け出てからは主に喰種を喰っていたほどだ。
しかし、喰種の共喰いは喰種を狂わせる。下手をすれば理性を失い、人間を襲う正真正銘の化け物に成り下がるのだ。過去に何度も経験したから、あの苦しみはよく理解していた。
「大丈夫だよ。今は食べないけど、ここに来る前に食べたから」
「……ならいいけど」
釈然としない様子でトーカちゃんは黙ってしまった。このままだとまた心配を掛けてしまうかもしれない。
「それに、ハイセの頃もちゃんと食べてたから問題ないよ」
「……はっ? 食べてたって、人間の肉をか」
「多分なんだけどね」
CCGには捕まえた喰種を拘留する機関──コクリアという監獄がある。目的は主に喰種に関する情報を提供してもらうことで、それなりに重宝されている喰種も存在する。ドナートが良い例だろう。
身の安全は処分の日までは保障されている。だが、喰種だって生き物だ。当然生きていくためには食べ物が──人間の肉が必要である。
「"シチュー"って呼ばれてるんだけどね、僕でもまぁ美味しく食べられるんだ」
「……死体を提供してるってこと?」
「……恐らくね。CCGもCCGで、どうにもキナ臭い感じがするよ」
喰種から人間を守る正義の組織が、喰種を生かすために人間の肉を喰種に差し出す。矛盾が孕んだこの歪んだ現実に、この世界の不条理を感じずにはいられない。
CCGにもきっと巨大な闇が存在するのだろう。組織として大きくなればなるほど、闇も深く濃くなっていく。一体何を抱えているのか……。もし僕たちの生活を邪魔するのであれば、そのときは容赦無く──
スパン!
「いたっ!」
「カネキ、今は祝いの席だ!」
「……うん、ごめんねトーカちゃん」
「分かればいい」
「……あっ、でも、一個だけいいかな?」
「何?」
トーカちゃんから許可を得た僕は、その足でウタさんの元まで歩み寄る。ウタさんには、どうしても聞かなければならないことがあった。
「ウタさん」
「……なんだい、カネキくん」
優しげに微笑むウタさんは、きっと僕の用件を理解しているだろう。それでいてこの態度なのだ。だからこそ、ここで退くことに意味はない。
「ウタさんはピエロの構成員で間違いないですよね?」
「うん、そうだよ」
辺りを沈黙が包み込む。西尾先輩が息を飲む音が鮮明に聞こえるくらいに、場は静まり返っていた。
ただ、僕は別に今すぐウタさんをどうにかしようなどはこれっぽっちも思っていない。一つ、一つだけ聞ければいいのだ。
「では質問を変えます。──ウタさんは僕の敵ですか?」
ウタさんは静かに瞳を閉じる。何を言おうかと迷っている、というわけではなさそうだ。例えるのなら、次の一言に自分の想いを全て乗せようとしている、そんな感じがした。
「……僕にとってカネキくんは、今でも特別なお客さんだよ」
返ってきた答えはイエスでもノーでもない。それでも、僕は満足だった。
「……そうですか、それは何よりです」
僕の気が緩むと同時に、みんなも安心したように一息吐いていた。そして、即座に西尾先輩と月山さんが空気を読むようにはしゃぎだした。……あの二人、あんなに仲良かったっけ?
「おにぃちゃぁああん!」
「うおっ! どうしたのヒナミちゃん?」
「えへへ〜」
いつにもなく甘えてくるヒナミちゃん。こんな可愛い子に慕われているのは男冥利に尽きるけど、今のヒナミちゃんは明らかにおかしい。
「ヒナミちゃん、もしかして酔ってる?」
「酔ってらんからいよぉ〜?」
「うん、酔ってるね。……誰ですか、ヒナミちゃんに血酒を飲ませたのは……」
ヒナミちゃんに膝枕をし頭を撫でながら周りの人を見回す。犯人の目星はすぐに付いた、
「西尾先輩と月山さんですか」
「そんなに怒るんじゃねぇよカネキー。せっかくの祝いの席なんだからな!」
「その通りだよカネキくん! 少しくらい羽目を外さなくては、リトルヒナミも疲れてしまうじゃないか!」
完全に出来上がってはいないようだが、二人もそれなりには飲んでいるようだ。そんな二人を見て何だかおかしくなり、僕はそれを苦笑して流す。
「全く、仕方ないですね」
親指で人差し指を押し込みバキリと骨を鳴らす。
「後で半殺しで許してあげましょう」
「「ごめんなさい調子乗ってました」」
大の大人二人が一瞬で土下座を決める。
そんな賑やかで馬鹿馬鹿しいことが無性に楽しくて、僕はお腹を抱えて大笑いしてしまった。
*
「トーカちゃん、四方さん。また来ます」
「あぁ、気を付けて帰れよ」
「研、いつでも来い」
「はい、ありがとうございます」
ヒナミちゃんがそのまま寝てしまった後、血酒が飲める大人メンバーだけで大いに盛り上がった。実は人生初の酒盛りは本当に楽しく過ごせたと思っている。
今日分かったことは僕はかなり強いということだ。西尾先輩と月山さん相手に飲み比べをしたところ余裕で勝利した。あの二人は今はもう夢の中である。
「ヒナミのこと頼んだぞ」
「うん、それは任せて」
背中には「すぅー……すぅー……」という可愛い寝息を立ててヒナミちゃんがいる。最初はこのまま『:re』で寝かせようかとも考えたが、あんなオッサンどもに囲まれた状況じゃヒナミちゃんが可哀想だとトーカちゃんが猛反対したため、僕が連れて帰ることにしたのだ。元々一緒に暮らしているので困ることはない。
「それじゃあ二人とも、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
「……おやすみ」
何とか片手でヒナミちゃんを支えて僕は手を振る。すっかり姿が見えなくなった頃、僕は一目散に走り出した。
目的地は人の気配が少ない近場の空き地である。理由は『:re』から離れると同時に感じた視線が、明らかに僕を狙っていると分かったから。
「──ここなら問題ないでしょう。出てきてください」
空き地に辿り着き、ヒナミちゃんを横抱きに抱え直した後、僕は虚空にそう呼び掛けた。返答はすぐに来た。
「──ふふっ、久しぶりって言えば分かる?」
現れたのは暗い赤色のローブに身を包んだ、全身包帯の女性。僕はその人のことを、二つの存在として知っていた。
「エト……いや、高槻先生ですか」
「ピンポンピンポーン、大当たり〜」
フードと顔の包帯を取った彼女は、記憶にある小説家の女性の風貌をしていた。それも仕方がない、彼女がその本人なのだから。
高槻泉。10代で書いた「拝啓カフカ」で50万部のベストセラーを達成した文豪の逸材。その後も続々とヒット作を飛ばし、今でも大人気の作家。小説家として公の場に現れることも少なくなく、度々行われるサイン会ではその綺麗な容姿と不思議なキャラクターをもってファンを惹きつけている。
「まさかその正体が、かの隻眼の梟だとは思いもしていませんでしたよ」
「現実ってのは案外そんなものだよー。諺でもあるからね、事実は小説よりも奇なりってね。それに、カネキくんなら分かるんじゃないかなー。元人間のカネキくんなら」
「……そうですね。否定はしません」
このまま会話を続けていたら良くない気がした。だから、早速本題に入ることにする。
「それで、本日はどういったご用件ですか? 貴方に追われる理由なんて、一つか二つか三つくらいしか思い当たらないのですが」
「うん、多分そのどれかだと思うよー」
ケラケラと彼女は笑う。サイン会で見る高槻泉の顔で、アオギリ幹部のエトの衣装は酷くミスマッチに見えて、それがより一層不気味な雰囲気を醸し出していた。
しかし、カネキの減らず口を叩く余裕も長くは続かなかった。
エトが隻眼で此方を見ていたから。
「今日会いに来たのはそうだねぇ〜、単純にカネキくんに会いたくなったからかな? 私の仲間であるカネキくんにね」
「仲間、ですか」
僕は警戒心を最大に高める。何が来ても反応出来るように身構え、エトを睨み付ける。
「わぁー怖い。別に危害を加えるつもりなんてないんだけどなぁー」
「なら速やかにお引き取り願いたいですね。僕は貴方に用事はないので」
「……うーん、なんかちょっと悲しくなってきたよ」
折角タタラさんの目を盗んでここまで来たのに……と、エトは心底残念そうに呟いた。どうやらこの場にはエトしかいないらしい。それだけでもありがたかった。
「今日会いに来たのは会いたくなったからってさっき言ったよね?」
「はい、言いましたね」
「それでなんで会いたくなったのかというと、私もよく分からなくてね」
「……」
「なんか会いたいなーって。でもなんでかなーって思ってたけど、こうして会って、カネキくんとお話ししてたらなんで会いたくなったのか分かったよ!」
「……一応聞きましょう、なんでですか?」
「うん、それはね」
エトは一息溜めて、禁断の言葉を言い放った。
「私、あなたのことが好きになったわ! わたしたちとても似ているもの!」
「──天ッ! 罰ッッッ!!!」
「うぐっ……!?」
ゴロゴロドッカーン……。
………。…………………………………。
………………………。
………。……。
いや、落ち着け僕。今目を疑う光景が目に飛び込んできたけど、きっと気のせいだうん。
幾ら何でもそれはないだろう。いつの間にか手の中から姿が消えていて、視線の先に立っているからってそれはない。断固としてあり得ない。
エトが僕に告白してきた途端、ヒナミちゃんのライダーキックが炸裂したなんて、そんな非現実的な光景が──
「──あははは! やってくれたねぇ、ちゃんヒナァァァッ!!」
……どうやら、目の錯覚じゃなかったらしい。あぁ、お腹痛い。
「──おいババア。今私のお兄ちゃんになんて言ったのかな?」
今度は耳がおかしくなったらしい。ヒナちゃんから聞いたこともない声と言葉が聞こえてくるよ。
「うん? 私はただ、カネキくんが好きになったみたいって言っただけだよ?」
「──くたばれ」
ちょっとヒナミちゃん? 沸点が低すぎませんか?
なんて言う暇もなく、ヒナミちゃんは赫子を展開する。腰からは連結骨のような鱗赫を、肩あたりから蝶の羽のような甲赫を。
……あれ? 甲赫って普通防御に使うくらいのものだから、分厚いのが一般的だけどヒナミちゃんのは薄く、そしてとても大きい。まるで、人間が物理的に飛ぶとしたらこのくらいだろうなーと思う程に。
──バサッバサッバサッ。
──バサッバサッバサッバサッ。
──バサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッバサッ。
「嘘……でしょ?」
気付けば天空な大天使が羽ばたいていた。てゆうかヒナミちゃんだった。
悠然と空中に佇むヒナミちゃんは、正しく天使のそれで。
「──今ここでくたばれ、ババア」
「──調子に乗るなよ、ガキが」
天使と悪魔の戦争が勃発した。
……………………………。
メリークリスマス!
最後が適当ですいません、時間がなくて。
メリークリスマス!