東京喰種 (短編集)   作:サイレン

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タイトル通りです。
ハイルとは最新巻に出てきた新キャラです。
reになって初めて新キャラを魅力的だと感じたため、是非使いたいと思い、迷走した結果こうなりました。ハイルは少し独自設定入ってます。
あとヒナミちゃんもキャラ崩壊してます。てか前に書いた感じになってます。
今までの集大成と思えばいけますので!

ではではどうぞー!



もしハイルが病的な程にハイセを愛していたら(分岐ルート後の設定)

 

 みなさんこんにちは、カネキケンです。

 さて、何故僕がいきなり何処とも知れない誰かへの挨拶などをしているかと言うと……。

 

「ーーあぁ、ハイセ。ようやく会えたね。ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっと探してたんだよ?」

「……貴方誰ですか? 気安く()()お兄ちゃんに話しかけないでくれませんか?」

 

 ……目の前の光景を受け入れたくないからですね、はい。

 絶賛現実逃避中です。

 

 狂気すら感じる虚ろな瞳で僕を見つめるのは、CCGにいた頃、つまりハイセだった頃親交があった()()(ここ凄く重要)ーー伊丙ハイル。

 対して僕を悪漢から守護するように立ち塞がるのは、いつの間にか赫眼(かくがん)で瞳をビキビキと血走らせている、仲間の一人である笛口雛美ことヒナミちゃん。

 一触即発の剣呑な空気が漂う中、僕は思った。

 

 ーーやっぱりこうなっちゃうんだね……。

 

 一言で紹介しよう。

 彼女ーー伊丙ハイルは、僕のストーカーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………はぁ……」

 

 あれはまだ、僕が自分の正体なんて何も知らないただのハイセだった頃。

 

 太陽が中天に差し掛かる昼下がり、僕は精神的な疲労から憂鬱さを隠しもせず溜息を吐いた。

 目の前のデスクの上に存在する処理すべき数多の資料を見て、という訳ではない。僕も一応社会人なので、別にこの程度は日常茶飯事である。

 また、僕の特殊な事情による妬み嫉み、憎悪忌避などでもない。慣れた訳では決してないが、一年も経てば流石に耐性が付いてきた。偶にどうしようもなく辛い時もあるけど、抗いようの無い運命なんだと諦めている。

 

 では何に対しての溜息なのかと言うと、それは僕のデスクの引き出しの中に収められている(ブツ)に対してであった。

 

「……はぁ」

 

 ブツを取り出し、疲れた目で見つめ、再度溜息を吐いた。

 

「ーーなんだ、ハイセ。どうかしたのか?」

「あっ、アキラさん。こんにちは」

「あぁ」

 

 声を掛けて来たのは僕の上司である真戸(アキラ)さん。CCGでも数の少ない女性捜査官であり、その実績から上等捜査官に抜擢されている実力者だ。

 三等捜査官の頃からお世話になっている身としては頭が上がらない。これまで幾度も助けてもらっているし、何かと気に掛けてくれる信頼できる人である。

 まぁ、偶に容赦の無い説教(物理)をしてくるので、その点を除けば本当に理想的な上司なのだ。

 

「それで、何かあったのか? でなければ、辛気臭い溜息など吐いて欲しくはないのだがな」

「あぁ、いえ、その……何と言いますか……」

「……もしかして、また来たのか?」

「またと言いますか、ほぼ毎日と言いますか……」

「はぁ……、困ったものだな」

「あはは……」

 

 僕の手に握られているそれを一瞥し、アキラさんまでもが疲弊したかのように息を吐く。

 僕の手に収まっているそれは手紙である。

 可愛らしいハートのシールで封がされている便箋。裏面には差出人の名前が、『あなたのハイル♡』との記述がご丁寧になされている。

 ……まぁあれですよ。これは俗に言うラブレターというやつですよ、はい。

 いや、僕も男として、こういうのを貰うのは凄く嬉しいんですよ? 加えて僕は事情が大分特殊で、中々好意を抱かれにくい点も含めて、心から喜んでいましたよ? ……最初は、になるが。

 

「それで、内容は?」

「その点はいつも通りですね。起床から就寝、はたまた睡眠中に至るまで何故か一挙手一投足完全把握されてる僕の行動と、それに対するハイルの感想? のようなものが原稿用紙何枚分と綴られているだけです」

 

 初めの一通を見たときは固まった。えぇ、吃驚しましたとも。

 しかもそれがほぼ毎日のペースで更新されるんだから恐ろしい。二通三通と続いたときは身体の震えが止まらず、一日中辺りを警戒しながら過ごしていた。……全くの無意味に終わったけど。ハイルの気配なんて一切感じられなかったからね。

 その内、十通を超えたあたりからは、「あぁ、またか」くらいの気持ちで片付くようになっていた。確かに狂気しか感じられない手紙だけれど、未だに直接的な被害がないからである。……慣れって怖いですね。

 

「……ハイセ。その『いつも通り』の使い方がどれだけ歪んでいるかは……」

「イヤですね〜アキラさん。……そんなの、十分把握してるに決まってるじゃないですか……」

「……そうか。済まない」

 

 やめて! そんな可哀想なモノを見るような目で僕を見つめないで下さい!

 ……まぁ、このように嘆いていても未来は変わらないのだろう。

 実は、この事態は既にアキラさんに報告してあったのだ。一応上に繋げたとは聞いたのだが、この様子だと効果は見込めないらしい。宇井特等ー! 貴方の部下何とかして下さーい!

 

 とは言え、僕に原因が全くない訳ではない。全力で否定したいけれど、他人からすると大体一から八くらいは僕の所為だと言うのだ。二はこれまで育まれたハイルの性格に起因しているらしい。不幸なことに、この二が途轍もなく結果に影響しているのである。

 

 はぁ……、どうしてこんなことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は一月程前の任務。喰種の巣窟とされる地下空間、24区での喰種駆除、通称『モグラ叩き』。

 僕はこの任務に参加した。当然ハイルもである。付け加えるなら、彼女と初めて出逢ったのがこの任務であった。

 

「伊丙上等。二等捜査官の佐々木琲世です。今日はよろしくお願いします」

「あっ、あなたがあのハイセですか。よろしくです」

 

 最初の挨拶はこんなのだったはずだ。悪い意味で有名だった僕を知ってはいるけど、興味はそれほどないという感じで、大した面白みもない極々普通なものだった。

 彼女も良い意味でも悪い意味でも有名である。

 ハイルはこの時既に上等捜査官。女性で、しかも僕よりも年下であるにも関わらずである。これが良い意味の方。

 対して悪い方だと、……まぁ、沢山ある。いつも有馬さんを観察してるだとか、喰種との戦闘の際は返り血で濡れながら愉悦混じりの笑みを常々浮かべているとか、色々と噂は絶えない。

 命令無視も多々あり、一人で勝手に喰種の群れに突っ込んだりとやり放題なんだと。自由奔放と言えば少しは外聞も良いが、一言で纏めるならば『脳筋』である。

 そんな彼女だが、今日まで数多くの任務を遂行し、そして生き残っている。それはつまり、強者の証でもある。

 

 余程卓越した実力を持ち合わせているんだろうなーと、呑気に思っていたが、実際にその戦闘振りを見て考えを改めることになった。

 彼女の戦闘技術は最早尋常ではないレベルである。

 あの人を、有馬貴将を連想する程に。

 

「ーーうふふ」

「ギギャアアアッ!?」

 

 迫り来る喰種達を容赦遠慮無く斬って斬って斬りまくる。時に鮮烈に、時に豪快に、時に巧妙に、己の技量を駆使して喰種の骸を積み上げていく。

 

「ハイル! 先走り過ぎだ! 足並み揃えろって作戦前に言っておいただろう!」

「郡先輩たちが遅いんですよー。それにーー」

 

 剣刃を煌めかせ物理的に首を飛ばす。

 

「早く倒しちゃう方がいいじゃないですか?」

 

 血に濡れた顔で上機嫌に微笑むハイルは、いっそ僕とは違う生き物なのかと思った。彼女といつも行動を共にしている宇井特等の苦労が偲ばれます……。きっと喰種に風穴を空ける一方で、胃に穴が空いているんだろう。……南無三。

 

 ハイルが突出し過ぎるという問題はあったものの、彼女を先頭に僕たちの部隊は破竹の勢いで24区を突き進んでいた。

 この壮大な地下空間は奥へ奥へ進むほどに、現れる喰種が強靭な個体になっていく傾向がある。

 過去、F124深部で出会ったのがあの隻眼の梟だ。

 流石にそこまで強い喰種はいないが、やはり地上付近の個体に比べると断然レベルが違う。

 

 それでも彼女は、余裕綽々な態度で飄々と喰種を狩り続けていく。

 

「……凄いですね」

「そうだな」

 

 並走していたアキラさんと話しながら、感嘆の声を出してしまう。

 ハイルの強さは他の捜査官とは画一している。下手したら准特等を超え、特等と差し支えないかもしれない。純然な実力は兎も角として、捜査官としての技量だけなら僕を遥かに凌駕しているだろう。

 

 ーーこのまま何もしなくて済むんじゃないか?

 

 ハイルの鬼神の如き荒れ狂いように、戦況を能天気に楽観視していたその刹那。

 

「あっ……」

「ーーえっ?」

 

 ハイルが血に脚を滑らせ体勢を崩した。突然のことに素っ頓狂な声が漏れてしまう。

 誰もが常に万全の状態でいれる訳ではない。人間の集中力は一般的に一時間半も言われている。特に、今僕たちがいるような命の危機に身を晒されている状況なら尚更だ。僕はそれを失念していた。

 一瞬の油断が、取り返しの付かない結末を迎える。

 

「喰らいやがれッ!!」

「……あ」

 

 ハイル目掛けて羽赫の弾幕が降り注ぐ。あの体勢では避けることも出来ないだろう。

 味方の誰もが咄嗟の出来事に動けず、呆然と立ち尽くしている。

 終わったと思った。

 助からないと思った。

 助けられないと思った。

 起こる悲劇は止められない。もうダメだ。

 

 そんな僕の巫山戯た妄想を打ち壊すように響いてきたのは、内から溢れる想いの欠片だった。

 

『ーーハイセッ!!』

 

 ……何かを考えての行動ではなかった。

 ただ、僕の中の『彼』の想いが、もう何も出来ないのは嫌なんだという強い執念が、弩にでも弾かれたように身体を動かしたのだ。

 

「……ご無事ですか、伊丙上等?」

「……ぁへ?」

 

 座り込んでいる彼女を見る限り大きな怪我はないようだ。……良かった、()()()、間に合った。

 クインケと赫子を最大展開して羽赫を一つずつ打ち落としたのだが、全弾に対応は出来ず身体には幾つもの傷を負ってしまった。でも、この程度なら大丈夫。僕の身体は特別製だから。

 ハイルは何が起きたのか分かってないのか目を見開いてる。僕はなるべく優しく笑い掛けた。

 

「大丈夫ですか? お怪我はありません?」

「え? あ、……うん。だいじょーぶ?」

「……それは良かったです。ですが、一度戻って体制を整えて下さい」

 

 それまでは。

 

「僕が戦線を支えますから」

 

 ーーどうしてだろう。

 身体はボロボロに傷ついているのに、感じたことのない力が漲ってくる。心の枷が外れたのか、眠っていた何かが目覚めたような、そんな感覚だ。

 親指を人差し指の関節に押し当て骨を鳴らす。

 

「ーーうん、邪魔だな」

 

 護る戦いは慣れてないけど、今の僕なら問題ない。

 

「……ハイセ、私も一緒に」

「……足手纏いは要りませんよ?」

「ーーおだつな(調子に乗るな)

 

 立ち上がったハイルと隣り合い、肩を並べ共に駆け抜ける。迫り来る障害を、立ち塞がる邪魔な奴等を、問答無用で蹴散らしていく。

 僕はこの時、奇妙な感覚を味わった。

 本当に何となくなのだが、ハイルの動きが分かるのだ。次どう動くのか、何を求めてるのかとか。まるで何年もの間、人生を共にしてきた友達のように。心が通じ合った仲間のように。

 心地良いその感覚に驚愕したものの支障にはならない。寧ろ絶好調である。

 ハイルも僕と同じなのかなと、其方をを見ると視線が交錯した。どうやら、ハイルも感じてるらしい。

 彼女も彼女で驚いているようだが、先程の一人での戦闘より幾分気分も軽くなったのか表情も明るい。

 僕は戦闘中にも関わらず、また笑みを浮かべしまう。……仲間っていいなぁ。

 

「ーー行くよ、ハイル!」

「ーー任せぇ、ハイセ!」

 

 爆発したように跳躍し、喰種の群れに突撃を掛ける。

 

「二人に続いて下さい! 殲滅です!」

「「「オォォォォッ!!!」」」

 

 宇井特等の掛け声に全捜査官が一気呵成に攻め立てる。飛ぶ鳥落とす勢いで敵対勢力を蹂躙していく。

 一度流れた川を堰き止めるのが困難なように、喰種たちに対抗の手段は残されていなかった。

 戦闘は間も無く終了した。

 

 

 

 状況把握を忘れずに行い安全を確認した後に、僕は赫子を消滅させた。

 

「ふぅ……」

「ハイセ、無事か?」

「はい、問題ありません」

 

 駆け寄ってくるアキラさんに応えながら僕はハイルの様子を伺う。先の戦闘振りも見事だったのだが、若干の違和感を伴ったのだ。

 

「伊丙上等」

「ハ、ハイセ!? な、なしたの!?」

 

 なしたの? ……あぁ、確か北海道の方言でどうしたのって意味だったっけ?

 というよりどうしたんだろう? 直前までの傍若無人の態度が鳴りを潜め、顔を火照らせ、まるで感情豊かな女の子のように変貌している。……まぁ、僕的にはこっちの方が好ましいからまぁ良いか。

 もしかして、勢い任せに呼び捨てにしたのが原因なのかな?

 

「先程はどさくさに紛れ、上官にも関わらず呼び捨てにしてしまい申し訳ありません」

「へっ!? なんもなんも! ハイルでいいしょや!」

「は、はぁー……」

 

 ハイルって北海道の出身だったのかな? 今のを訳すと、「気にしないで、ハイルで良いよ」の筈。

 

「じゃあ。ハイル」

「は、はいっ!?」

「脚は大丈夫? 挫いたんでしょ?」

「う……」

「やっぱり」

 

 本人は隠してるようだが、共感覚とも言える状態にあった僕が気付かない訳がない。

 

「宇井特等!」

「何、ハイセ?」

「先程の戦闘で伊丙上等が脚を負傷しました。撤退を支持します」

「……ハイル、なんで隠した? そういうときは報告を怠るなって言ったよね?」

「…………はい、すみません」

 

 露骨に溜息を吐く宇井特等。……やっぱり苦労してるんだなー。

 

「……正直なところ、もう少し進みたいんだよね」

「……では、私が責任持って伊丙上等を地上まで護衛します。それでは駄目でしょうか?」

 

 僕の進言に宇井特等は悩ましげに顎に手を当てている。

 これは推測だが、きっと宇井特等は僕のことを完璧には信頼してないのだろう。それも当たり前である。僕はいつ暴走するか分からない爆弾みたいなものなんだ。

 それでも宇井特等は良心的な方だ。リスクリターンを天秤に掛け、リターンが大きければ選択を迷わない。

 

「……頼めるかい、佐々木二等?」

「大丈夫です」

「……それじゃあ、佐々木二等は伊丙上等を連れて退却。その他は私に付いて来い」

「「「了解しました!」」」

 

 そう言って、宇井特等を先頭に隊列は更に突き進んでいった。

 すれ違い様にアキラさんとアイコンタクトを交わす。此方は問題ないから心配するな、といった感じかな?

 

 すっかり姿が見えなくなった。

 僕はハイルの側に寄って脚の具合を確かめる。

 

「走るのは辛そうだね?」

「う、うん」

 

 うーん、どうしよう。あまり無茶させるわけにもいかないし。でも流石に歩いて此処から脱出は難易度高過ぎるし。

 よし、最終手段だ。

 

「ハイル、少し我慢してね」

「へっ、きゃあっ!?」

 

 膝裏と両肩に手を差し入れハイルを抱え上げる。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。いや〜、女の子をお姫様抱っこするのなんて久しぶり……。

 

「っ!?」

「ハハハイセ!? どうしたの!? 私重いの!?」

「……ううん、そんなことないよ。ちょっと頭が痛くなっただけだから」

 

 何だろう今の……? 偶にあるんだよな、こう、大切な何かが刺激される感覚が。

 

「それじゃあ、しっかり掴まっててね」

「……はい♡」

 

 ……この時に色々と気付けていれば、後々楽になったかもしれない……いや、ないな。

 

 僕は安寧とは程遠い体質なのだと実感したのは、この任務の日から二日後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、やはりお前の所為だな」

「そんなぁ〜」

 

 アキラさんが僕にトドメを刺す。

 

「吊り橋効果というものは知っているだろう?」

「まぁ、知識としては」

「なら話は早い。それとは厳密には異なるだろうが、似たようなものであろう。それに、伊丙上等の想いは純真そのものだ。何せ、命の危機を颯爽と助け出したのだからな」

 

 アキラさんは普段見せることのないニヤニヤした笑みをたたえている。くそぉー、他人事だと思って。

 

「捜査官同士の恋愛にはよくあることだ。私の両親もその口だったからな」

「そうだったんですか?」

「あぁ、私の父は娘の私からしても、お世辞にも格好が良いとは言えん。にも関わらず、私と似た美しい母を妻に迎えられたのはそういうことがあったからだそうだ」

 

 うんうんと思い出話を語るアキラさん。

 ……ちゃっかり自分のことを美しいと認識しているアキラさんの豪胆さは流石だな。確かにアキラさんは美人だと思……ったりすると何処からともなく突き刺さるハイルの殺気が怖いから思わない。

 

「まぁ、頑張れハイセ。これも人生経験だ」

「……はぁ、分かりました」

 

 ーー結論。

 あの任務を切っ掛けに、僕にはハイレベルなストーカーが出来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一年程は一方的な交流関係が続き、オークション掃討戦で僕の記憶が蘇りCCGから離反。

 拠点を手に入れ、懐かしの仲間との再会を果たし、平和で優しい日常を過ごして約一ヶ月。

 そして、冒頭に戻ることになる。

 

「あんたは誰? どうしてハイセの横にいるのが私じゃないの?」

「私が私のお兄ちゃんの隣にいるのは自然の摂理です。私からすれば、そちらこそ不愉快です。お兄ちゃんはハイセじゃありません。お兄ちゃんです」

 

 ……僕には二人とも何を言ってるのかよく分からないなぁ〜。真面に言葉の意味を理解しようとしたらダメだ。気が狂う。

 

「ハイセ、久しぶり♡ どうして私を置いてこんなとこに来てたの? 早く私たちの家に帰ろう?」

「何を言ってるんですか? お兄ちゃんは私と暮らしてるんです。貴方なんて路傍の石ころの価値すらないんですよ、オバさん」

「……私はまだ二十歳。あんたこそ、餓鬼はさっさと家に帰れぇ」

 

 ……空気が加速度的に淀んでいく。このままこの場にいたら胃に穴が空きそうだ。てか空くよきっと。

 

「黙れババァ」

 

 ……ヒナミちゃんが怖過ぎて声が出せない。十分くらい前まではこんな子じゃなかったんだけどな〜。いつ間にか天使から堕ちて悪魔に超進化してたらしい。二度としてほしくないね。

 殺意と殺意が正面衝突し、猛毒のように周りのものを侵食していく。今の二人は絶対に敵に回したくない迫力を伴っていた。……出来れば他所でやってくれないかな〜。

 

「ーー殺すぞ、雌豚?」

「ーーやってみろ、女狐」

 

 うっ!? お腹が……!?

 

「「ーー死ねぇえええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!」」

 

 勃発。

 もう、止められない。というより、あの中に入りたくない。

 目の前で繰り広げられる大戦争。二人とも解き放たれた猛獣のように、縦横無尽に暴れまくっている。……大抵の相手は封殺出来ると思ってた僕だけど、あれは無理だ。覚悟が足りない。女の子って怒るとこんなに怖いんだな〜。

 

「ハイセ?」

『……何、カネキくん?』

 

『この場は任せた!』

 

「……はっ!? って、あれ!?」

 

 はっはっはー。主人格の変更なんて僕にとってはお茶の子さいさいなのだよ!いやっほぉーい!

 

『リゼさーん! ヤモリさーん! 久しぶりにお話しませんかー?』

『えぇ、いいわよ』

『あぁ、構わねぇぜ』

「ちょっと三人共ー!? てかカネキくん!? なんで僕が表になってるの!?」

『ハイセ、頑張れ!』

「責任の半分以上は君の所為だからね!?」

 

 僕には何のことかよく分からないです。

 

「……お兄ちゃんから別の女の気配がする」

「……奇遇ですね。私も丁度そう思ったとこです」

「……一時休戦」

「……殲滅対象」

 

「「神代リゼ」」

 

 悪魔二人がこっちを向いた。ハイセ、南無三。

 何でハイルがリゼさんのことを知ってるかなんて、今更疑問にも思わない。

 

「えっ? いや、ちょ、待っ、えっ!? 代わって下さいリゼさん!!」

『嫌よ。食事の時以外呼ばないで』

「お願いですから!!?」

『嫌よ』

 

 取り付く島もないとは正にこのこと。リゼさんの助けは絶対に得られないだろう。

 

「……お願い、少し待とうか二人共? ハイルも、ヒナミちゃんも」

「「……………………」」

 

 ハイセの言葉が耳まで届いていないのか、二人はゆっくりと、だが確実に距離を詰める。死神の足音が絶えることはない。

 

 久々に、ハイセの絶叫が響き渡った。

 頑張れ、ハイセ!

 







……修羅場は難しいですね。精進しなければ。

あっ、ちなみに私は本誌で読んでますので、ネタバレは大丈夫ですよ。……ちゃんと今週のも読みましたから。

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