聞いてない人でも分かるように書いてあります。
ほんの少し:reのネタバレ要素があるので、無理な人はバック推奨です。一巻読んでれば問題ないです。
ここは"アオギリの樹"が所有するアジトの一つ。
そこに用意されている談話室で、アヤトとヒナミはコーヒーを嗜んでいた。
普段二人は、"樹"から命じられる殆どの任務で行動を共にしている。その結果から、必然的にオフの日も重なるのだ。
今日は久々の休み。最近は動きっぱなしだったため、この一時の休暇はアヤトにとってそれなりにありがたいものであった。
ヒナミがある話題を口にするまでは。
「あ、そうだアヤトくん。私前から聞こうと思ってたことがあったんだけど、いい?」
「別に構わない」
姉と似たぶっきらぼうな態度だが、根は優しいことをヒナミは知っている。
許可も得たので、前々から聞こうと思っていたことを切り出す。
「あのねーー」
ヒナミは、
「“ブラッドアビス”って何?」
「ッ⁉︎ ゲホッゴホッ⁉︎」
アヤトの黒歴史という名の爆弾を投下した。
思わぬ話題に、アヤトは思いっきり噎せてしまった。まさかこの単語がヒナミの口から出るなど、想定外過ぎて不意打ちをくらった形だ。
「……ヒナミ。それ一体何処で聞いた?」
「お兄ちゃんに聞いたの! 『もしトーカちゃんの弟、アヤトくんと話す機会があったら聞いてみるといいよ』って! ヒナミずっと聞きたかったんだ!」
(あのハンパ野郎……‼︎)
カネキのタチの悪い置き土産に、怒りで歯を食いしばるアヤト。寄りにもよってヒナミに伝えるなんて、考え得る限り最悪だった。
基本は大人しいヒナミだが、少しでもカネキのことが絡むとテンションが急上昇する。その証拠に、一人称が私からヒナミに変わるのだ。この状態になったヒナミはそう簡単には止まらないことを、アヤトは経験上知っている。だからこそ厄介だった。
構わないと言った手前、今更やっぱこの話題ダメとは撤回出来ない。最早手詰まりだった。
「それでアヤトくん。“ブラッドアビス”って何なの? お兄ちゃんは、アヤトくんがかっこいいと思ってるらしい言葉って言ってたよ」
「…………」
「ヒナミ、“ブラッドアビス”のどこがかっこいいのかよく分からないんだ。お兄ちゃんも、アヤトくんに聞けばいいよとしか言ってくれなかったし」
「………………」
「ねぇねぇアヤトくん。“ブラッドアビス”ってどこがかっこいいの? “ブラッドアビス”ってどういう意味なの? ヒナミ、ずっと“ブラッドアビス”が気になってたから教えて欲しいんだ!」
「…………頼むから、その言葉を連呼しないでくれ」
(…………あの野郎、ぜってぇ許さねぇ!)
その言葉で赤面ものの記憶が掘り起こされる。
過去に、自分でも何故参加したのか理解出来ないクイズ大会があった。
司会は万丈、コミッショナーがあんていく店長、ゲストがウタというマスク屋、回答者がアヤトにナキ、美食家にカネキの四人という訳わからない人選だったのも今思えば謎だ。
それは特別変なクイズ大会ではなかったが、アヤトにとっての悲劇(笑)は二問目に起きた。
『ミステリアスなマスク屋ウタ……経営するマスクショップの名前は?』
答えは『
押し間違いだったのだから、そのまま素直に諦めれば良かった。だがそこで、ウタから助け船という艇をとった公開処刑への片道切符を渡されたのだ。
『正解でなくとも、かっこいい店名なら正解にする』
これを聞いてかっこいい店名を考えようとしたことが、最大のミスだった。
内心押し間違いで焦っていたのもあるが、チャンスとも思ってしまったのだ。これで正解(かっこいい店名)を言えれば、と。
そして、結構自信満々で告げた答えがそう。
ーー“ブラッドアビス”
結果は不正解。
ある特定の年齢ならではのその答えはウタには鼻で笑われ、万丈には大人の余裕を見せつけられ遠回しにからかわれた。
カネキは我関せずな態度をとっていたのだが、まさかこんな形でアヤトを追い詰めるとは。直接言われるよりダメージが半端ない。
(クソッ、どうする⁉︎ ヒナミ相手に誤魔化せるか?)
一刻も早くこの話題を終わらせたい。但し無理矢理の話題変換は無理だと判断する。ヒナミはただ好奇心で聞いているのだ。ここでアヤトがキレたりすれば流石に理不尽だし、ヒナミも要らない心労を抱えてしまう。ここまでそれなりに仲良く?やってきたのだ。こんなつまらないことで、気不味くなりたくなどなかった。
「……あぁぁ、なんだ。そんな大したことじゃねぇよ」
「えぇー。ヒナミにも教えてよ」
「本当に大したことじゃねぇから」
「大したことじゃないなら教えてくれても……いいじゃん」
ヒナミのテンションが見る見るうちに下がっていくのが分かった。それを見てアヤトの良心が痛んできたが、それ以上に話したくないという想いが勝った。
一方ヒナミは、アヤトの態度を見て表面上は落胆した様子だったが、内心は驚きと興奮に溢れていた。
(凄い! 本当にお兄ちゃんの言った通りになった!)
お兄ちゃんことカネキの伝言には続きがあったのだ。
『それでねヒナミちゃん。多分だけど、アヤトくんはなんとか誤魔化そうとすると思うんだ。だからもしそうなったら、聞くのは止めて“ブラッドアビス”って言い続けるといいよ。ちょっと冷たい感じの声で、連呼し続けるんだ』
(よし!)
ヒナミは
「ブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビス「おねがいやめて」ッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッドアビスブラッ「俺なんかヒナミ怒らせるようなことしましたか⁉︎」」
「さっきから盛り上がってるけど、何かあったの?」
「あっ、エトさん。実はですね」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
アヤトの受難はまだ終わりそうになかった。
最近はアヤヒナが流行ってるらしいですね!
でも個人的にはカネヒナ?ヒナカネ?が読んでみたいです!
アヤ→ヒナ→カネ
とかあったら感激します!誰か書いて!
咲の方はスランプです。
そちらはもう少しお待ちください。