魔法少女リリカルなのはSEED   作:☆saviour☆

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PHASE-6 不安定な力

 

ーーー疲れた。休みたい。

 

頭の中で思い浮かぶ言葉はその二つだけ。どうやら自分にはきついようだ。まあ、仕方がないだろう。自分は軍人ではないから、軍人として必要な体力など自分の身体には備わっていない。せいぜい平均より少し下だと思う。…コーディネイターとしては。まあ、コンピューターばっかりいじくり、運動もしてなかったので、体力がないのも当然のことだと言えよう。しかし、それでも自分はコーディネイターのため、通常の人より運動能力は上である。

 

「だけど…もうダメだ…」

 

死ぬ。もうダメだ、と。ここで終わりなのだと、察する。

何もできぬまま、このまま死んでしまうと。

嘆き、悶え、やがて少年は意識を手放した…。

 

 

「ーーって、いつまでやってんだよ!!」

 

ゴチンッッッ!!!!、と。

その怒鳴り声とともに、キラの頭に拳骨が舞い降りた。

 

「い、痛いよアルフさん!!そんなに強くやらなくてもいいじゃない!!」

 

激痛により、頭を抑えながら涙目になっているキラ。

今、キラとアルフがいる場所は自分達の拠点であるビルの屋上である。何故このような場所にいるのかと言うと、キラを魔導師として鍛えているためだ。

まずは基本的な魔法、移動魔法である飛行と魔力によって自分以外の相手と交信するための念話、そしてやはり戦闘の際には必要不可欠となる攻撃魔法を習得してもらうために、特訓中である。

とりあえず、飛行と念話はなんなく習得。そこはコーディネイターの学習能力が高いおかげもあって、楽に習得することができたのだ。しかし、問題は攻撃魔法。射撃魔法の基礎である魔力弾を放つことはできたのだが、直射型のフォトンランサーという魔法をアルフがキラに伝授している最中なのだが、これが意外にも難航してしまった。初心者ではあるのでデバイスを起動し、何度も練習しているのだが、中々上手くいかない。

フォトンスフィアという発射体の生成まではできるのだが、その後が問題だった。狙った場所に魔力弾が発射されず、変な所へと飛んでしまうのだ。

 

「なんでできないんだよ…」

 

しっかりと狙えるように手に持つナイフ(ストライク曰く、『シュナイダーモード』)の切っ先をターゲットに向けて、狙い通りに当てるイメージを高めてるのだが、そう簡単に上手くいかなかった。

 

「なんだかなー。キラの動きってちょっとギクシャクしてような気がするんだよね」

 

アルフの言うとおりかもしれない。キラの動きが若干おかしいのだ。

例えば、酒の飲みすぎにより、よたよたと動くような。

例えば、OSがめちゃくちゃなMSの動きのような。

 

「もう…ダメ。アルフさん、休憩させて…」

 

ハアハア、と息を切らしながらキラは言う。魔力を消費しまくったのが原因だろう。息を切らしているのは。魔法というのは誰もが自由に、いつでも放てるわけではなく、魔導師が魔力を消費して魔法を放つのだ。それを練習でずっと魔力を消費し続けたキラは完全に疲れていた。

仕方ないな〜、とアルフはキラに休憩を許可する。

 

 

 

 

それにしても、何故キラは『フォトンランサー』を上手く発射できないのか。もしかしたら、自分の教え方が悪いのかもしれない、とアルフは休憩のために屋上の地面に座り込んで思う。しかし、それだけでキラが狙いを外しまくるのに関係があるのだろうか?キラは『フォトンランサー』自体は放つことができるのだが、問題なのが、狙いである。どうしても狙い通りに魔力弾が飛んでいかない。

 

「だけどなぁ、キラは学習能力も高かったし、運動もそこそこできる感じだったのに」

 

だとすると、原因は疲れていただけなのか。それとも、キラには射撃の才能はないのか。

 

「考えても埒が明かない。とりあえず、練習してればいいか」

 

アルフはそう言うと、立ち上がる。

 

「キラ!そろそろ練習を再開するよ!」

 

練習していれば、いつか必ず成功するだろう。そう思いながら、アルフは気合いを入れるかのように、頬を両手で軽く叩いた。

 

 

 

 

さて。そもそも何故、キラはアルフに特訓の指導をしてもらっているのか。理由は単純であり、キラ自身、前回の甲冑の戦士の戦闘後、このままだとこの先何かあったときに苦戦ばっか強いられると思い、アルフに魔法について教えてほしいと頼んだのが始まりだ。一応、フェイトにも頼んでみようと思ったが、前回の戦闘はフェイトも戦っていたので、疲れていると思い、休ませることにした。これにはアルフも賛成した。使い魔として、相棒として、主人には休んでもらいたいのだ。

というわけで、キラとアルフの二人はフェイトに休むように言い、マンションの屋上で結界をはり、特訓中である。

 

「ほらほらほらほら!そんな動きじゃ、すぐにやられてあの世だよ!もっとビシバシ動く動く!!」

「ちょっとアルフさん!?だからってそんなムチで僕をビシバシ叩く必要あるの!?」

「仕方ないだろう、キラがのたのた動くからさぁ」

「そんなムチで尻をバシバシ叩かれたら痛くて動けなくなるだろ!?」

 

そんなやり取りをしながら、キラは言われた通りにアルフの投げる空き缶をストライクのモードの一つであるソードフォームの“シュベルトゲベール”という大剣で斬り落としていく。ひとまず射撃魔法は置いといて、先に近接戦に備え、練習しているところである。

…余談だが、空き缶は街の自動販売機のすぐ横にある空き缶用のゴミ箱から拝借してある。

バチンッ!という脅すようにキラの近くをムチで叩くアルフに多少怯えながらも、キラは空き缶を斬り落としていった。

 

(フェイトちゃん、今頃ゆっくりと寝ているんだろうな〜)

 

てか、アルフさんはどこからムチを調達したんだ?、なんて思いながら、キラは一つの空き缶を斬り落としそこない、頭にぶつけた。

 

 

 

 

ところで、キラとアルフのいる屋上の扉に隠れている人影が一つ、あった。正体はフェイトである。

 

(どうしよう。参加したいけど、なんか恥ずかしいよ)

 

あれだけ、休め休めと言われ、仕方なくベッドに寝転んだのだが、キラとアルフが気になり、様子を見に来てしまった。結果、扉の前まで来てみたものの、なんだか顔を出すのが恥ずかしくなってしまった。いや、恥ずかしいのではなく、顔を出しづらいのだ。あれだけ妙に優しくされ、寝かしつけられたのは初めてだったし、なにより二人の気遣いを無駄にしたくなかった。…実際のところ、もうすでに無駄にしてますが。見たところ、アルフはキラを一人前の魔導師に育て上げようとしているみたいだった。もしくはそうしてくれとキラに頼まれたのかもしれない。

 

(このまま、アルフに任せても大丈夫そうだけど…)

 

少しの間、見ていたのだが、特訓中のキラとアルフは、昔の魔導師の勉強をしていた自分と講師の面影があった。やがて、懐かしくなり、自分も参加したいと思い始めた。そして、参加しようと決意したのだ。

だけど。

 

(やっぱり、やめておこうかな…)

 

二人の気遣いを無駄にしたくないうえに、自分が出て行って練習の邪魔をするのは嫌だった。

 

「よし!キラ、そろそろ射撃魔法の練習にうつるよ!」

「うへえぇ!?まだやるの?」

 

どうやら先程まで四苦八苦していた射撃魔法の練習に戻るようで、キラとアルフは準備を始める。

 

(チャンスだ。ここで出て行けばきっと参加できる…)

 

ぎぃ、と扉を少し開け、飛び出そうとした時だった。

 

「それにしても、フェイトちゃんはちゃんと休めてますかね?」

「大丈夫だと思うよ?多分、ゆっくり寝てるんじゃないかな」

 

そんなことをキラとアルフは射撃魔法の練習開始の準備が完了した時に言った。

 

「さあさあ!フェイトの力になるためにも頑張るよキラ!」

「あ、はい!」

 

フェイトは飛び出していくのをやめ、下がる。やはり、二人の気遣いは無駄にしたくなかった。

 

(…うん、やめておこう)

 

そう思って、立ち去ろうとした時だった。

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!?、うがっ!?」

「キラァァァァァァァァァ!?」

 

…なんか悲鳴が聞こえた。様子を見てみれば、目に見えた光景はキラが倒れており、そしてアルフがなにやら焦っていた。

目を離した瞬間、何があったというのだ。

 

(もしかして、何かトラブルでも起きた…?)

 

躊躇いなく扉を開き、キラの元へと走っていく。

 

「アルフ、これは一体どういう状況?」

「フェイト!?」

 

先ほどの、気遣いを無駄にしたくないだとか、練習の邪魔をしたくないという参加を躊躇わせていた理由はフェイトの頭の中から一瞬で消えてしまったようで、今はキラにどんなことが起きたのか気になっていた。故に、問う。

 

「教えてアルフ。キラの身に何が起きたの?」

 

それを聞いたアルフは顔を青くしながら、言う。

 

「キラが…」

 

たったその一言。それだけで、嫌な予感がした。そして、体が震え始め、少し倒れそうになった。

まさか。

あの一瞬で、キラが…?

 

「キラが自分で自分を撃ったんだ!撃つ方向を間違えて!」

 

「……………………………………………………………………………………………………え?」

 

アルフがガタガタと震えながらそう叫んだ後、フェイトは呆気にとられていたその時、倒れたキラが起き上がり、地べたに座った。

 

「これ、結構くるね…」

「フェイト…なんかもうキラの射撃の腕の無さには怖さを感じるよ!」

「えぇ!?僕だって頑張ってるのに!」

「空き缶狙って自分の頭に射撃魔法直撃させるなんてもう才能ないよ!あ、外し方はむしろ才能かな」

「そんな才能いらないよ!?」

 

アルフのその台詞を聞いて、フェイトはキラに心配の声をかける。

 

「頭に直撃って…キラくん大丈夫?」

「あ、うん。少しクラクラするけど、立ったりしても平気だし、それにさっきアルフさんと相談して魔力の消費を抑えているから威力は通常より落ちるからね。平気だよ」

 

どうやら、制御自体は可能としたらしい。あくまで空き缶を射撃魔法で狙い撃つという特訓なわけで、威力は弱くても大丈夫ということ。今の目標はしっかりとターゲットを狙えるかなので威力、魔力の消費を抑え、ひたすら撃つ練習をするというアルフの提案である。

 

「まぁ、大丈夫ならいいけど…辛かったら休んでいいからね?」

 

フェイトの優しい声はキラの耳を通る。

 

(…ああ、優しいなあ。てか、フェイトちゃんいつの間にここにきたんだ?もしかして、心配してくれたのかな)

 

まあ、魔法をまともに扱えない人が頭に射撃魔法が直撃したなどと聞いてしまえば、魔導師としてベテランであるフェイトが心配するのも無理はないだろう。

 

「とりあえず、練習再開といこうじゃないか」

 

アルフがそう言うと、キラは頷いた。早めに魔法を成功させないと、後が大変だ。早速、準備をする。

アルフが空き缶を置き、それをキラが狙いを定め、、、

狙い撃つ。

 

ぱしゅっ

 

なんて、音とともにキラの足元に直撃した。

 

「…はぁ」

「なんでアルフさんがため息ついてるのさ。僕の方がため息をつきたいのに」

 

結局、根本的な何かを変えなければ、結果は変わらないようで。

 

「キラくん」

 

突然、フェイトに名前を呼ばれた。

 

「何?フェイトちゃん」

「少し見てたけど、キラくんは少し肩の力が入りすぎてるよ」

「え、そうなの?」

「うん、私が見る限りではそう思うんだ。だからもうちょっと肩の力を抜いて、固くならないように。それと、あまり急かさないで、イメージを大事にするといいかな」

 

そう言われて、キラは頷き、早速目を閉じ、ふう、と息を少し吐く。

思い浮かべるのは、自分がライフル(勿論、デバイス)を構えてターゲットを狙い撃っている姿。ただ、照準を合わせて引き金を引くだけで、ターゲットは撃ち貫かれる。

ぎんッ!、と活路を見いだしたかのように目を開け、そして構える。

手には小型のナイフ、ストライクである。ナイフの切っ先を置いてある空き缶へと向ける。そして、意識を集中させるとキラの足元に魔法陣が展開され、周りに蒼い魔力の発射体、フォトンスフィアが生成される。大きさとしてはそんなに大きくのない、せいぜい手のひらサイズといった感じだった。

でも、今は練習中。大きさ、威力なんて関係ない。今やるべきことは『空き缶を狙い撃つ』、それだけだ。

だから、

 

「あたれぇぇぇぇぇ!!!!」

 

バシュンッッッ!!、と。

キラの周囲に生成されていたフォトンスフィアからは蒼い魔力弾が槍のように空き缶めがけて飛んでいく。そして、それは空き缶に命中した。

 

「やった…?」

 

それはここにいる3人の目でしっかりと確認できたこと。明らかに魔力弾が空き缶に吸い込まれていくかのように飛んでいったのを覚えている。

そして、やがて魔力弾と空き缶の接触の衝撃により舞い上がった煙が晴れていく。

見えたのは一部分だけ異常に凹んだ空き缶。

それを見て、ようやく理解する。

射撃魔法、『フォトンランサー』は成功したのだと。

 

「やった…ッ!成功したよ!」

「やるじゃないかキラ!」

「ありがとう。フェイトがアドバイスしてくれたおかげだよ!」

 

全くダメだった射撃魔法。それを成功へと導いたのは紛れもなく、フェイトのアドバイスのおかげだろう。

 

「いや、私は自分でもやったことをキラに教えただけだよ。今のはキラの実力、おめでとう」

 

フェイトはそう祝福した。

それにしても、自分の努力が実った時の達成感はすごいと、キラは思う。今まで精一杯努力して成功したことなんてあるのだが、それはあくまでコンピューター関連の課題などが多い。故に、体を動かし、汗を流して努力するという行為は初めてだったりする。

 

「たまには…こういうのもいいなぁ」

 

直後だった。アルフが突然こんなことを言った。

 

「あ、そうだ!模擬…戦?だっけ、3人で一緒にやってみないかい?」

 

それはちょっとした提案である。射撃魔法を習得したキラ(とは言っても恐らくまだものにしていないが)を相手に早速戦ってみたいとアルフは思ったのだ。それにその模擬なんちゃらをやることでキラの戦い方を見ることができる。それにより、教えるべきことも、直すべき所、アドバイスをしてやることができるかもしれない。

そのようなことをアルフは思いついたのだ。

 

「ちょっと待って…ちょっと待って!?それって明らかに僕が負けるパターンじゃない!?」

 

はっきりいって、キラは初心者も同然。フェイトとアルフ、二人には到底敵わない。

 

「それは知ってるよ!だから、あたしとフェイトはフォトンランサーだけで戦うのさ」

 

ハンデというやつである。それなら、まだ大丈夫かな?と、そう判断し、模擬戦をやることに賛成した。

ただ、一人。

ちょっと不安だったりする者がいた。

その者は、口を開き、言う。

 

「キラくん。怪我とか…しないよう、精一杯頑張って」

 

応援…と思われる台詞はキラにとって、嬉しかった。

 

 

…これから起きることは大体想像できていたから。

 

 




投稿が遅くなってごめんなさいm(_ _)m
書きたいことを書きまくっていたら一万字を軽く超えてしまい、しかも中々完成しなかったので、編集し、一話に仕上げました。
次回はほぼ半分ほどできてるので早く投稿できるかも?

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