魔法少女リリカルなのはSEED   作:☆saviour☆

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PHASE-5 その名はストライク

 

ーーーー無念だった。自分は守るという使命を果たすことができず、ただゆっくりと朽ち果てていく。自分はもうすぐ、物言わぬ死体となってしまうだろう。『奴ら』の進行を止めるため、自分は、全力で戦った。自分のために、祖国のために、あの人のために…。

しかし、自分は殺され、国がどうなったのか知る由もない。もう何もできない。やがて、ゆっくりと意識が薄れていく。もう、ダメだと…判断する。

でも、、、

『もしも』、もう一度チャンスを貰えるのなら、祖国のため、あの人のため、戦おう。命尽きるまで…。

 

さあ、『戦士』よ、剣を取れ。

 

 

 

 

ガキンッと。

鉄の甲冑の首にあたる部位が小型のナイフにより貫かれていた。

小型のナイフの持ち主、キラ・ヤマトと剣を持った甲冑の戦士。

甲冑の戦士が持つ剣はキラの顔の真横にあった。

甲冑の戦士が、キラの顔を剣先で突こうとしたためであり、しかしキラはその攻撃をギリギリで回避し、隙のできた甲冑の戦士の首を狙ったのだ。

それをすぐ近くで見ていた、金髪の少女、フェイト・テスタロッサはキラの素早い判断と行動、そして突如取り出された小型のナイフに驚いていた。また、茶髪の少女、高町なのはも、その光景を見て驚愕している。

 

「あれは…魔導端末(デバイス)!?」

 

近くにいたフェレットが、キラのナイフを見て叫ぶ。

キラの持つ小型のナイフには、よく見ると柄の部分に蒼い宝石『のようなもの』が組み込まれていた。

 

 

「キラくん…いつの間に…?」

 

フェイトは自分の知らぬ間にキラがデバイスを所持していたことに驚いていた。いや、それだけではない。キラの戦いなれたような動き、そしてキラの蒼く染まった服、魔導師でいう『バリアジャケット』を装着していたことに驚いている。

甲冑の戦士の首からナイフを引き抜いたキラは距離を取り、身構える。

甲冑の戦士は、首に受けた傷を痛みとして捉えていないようで、剣を構えるとすぐにキラとの距離を詰め、剣を振り上げる。

 

「キラくんッ!!」

 

甲冑の戦士がその手に持つ剣の刃はキラを真っ二つにしようと、迫ってくる。

しかし。

 

『マスターのリンカーコアを確認。

ーーー接続完了。魔力供給を開始。

フェイズシフト展開』

 

キラにとって、その声はどこか聞いたことがあるような気がした。

フェイトにとって、その声は自分のデバイスと同じように機械的な声であった。

なのはにとって、その声は何かの船の艦長でもしているような女性の声のように聞こえた。

 

その声を発したデバイス、『ストライク』にとっては、その言葉は主人を守るための合図だった。

キラの着ていた蒼の『バリアジャケット』が、光の粒子に包まれるのが見えた。そして、真っ二つにされると思われたキラの体は…

 

パキンッと、

剣の刃を弾いてみせた。

 

「なッ!?剣を弾いた!?」

 

それを見たフェレット、ユーノ・スクライアは驚愕の声をあげた。それもそうだろう。あの至近距離からの剣を服が光の粒子に包まれただけにも関わらず、弾いてしまったのだから。ユーノは(キラ)の『バリアジャケット』の硬さにありえないというような顔をしている反面、凄いと思っているようだった。

 

「あ、危なかった…」

 

キラ自身も、突然発せられた声と剣を弾いたという事実に驚いていた。そして今気付いたが、自分の服が変わっていることに驚いている。

キラが今着ている服はC.E.の『地球連合軍』の青色の軍服だった。

 

「キラくん!」

 

フェイトが空からキラに接近した。

そして、キラの着ている服を見て、首を傾げた。

 

「キラくん、いつの間にデバイスを…?」

「デバイス…」

 

キラはデバイスという単語を聞き、思い出した。デバイスをプレシアから渡されていたこと、そして自分には『魔導師』としての才能が備わっているということを。

 

「そうか…僕はまた戦うことになるんだな…」

 

手に持つ小型のナイフ、『ストライク』を見つめながら、呟いた。

すると、甲冑の戦士が地面を蹴って走ってくる。

 

「キラくんは逃げて」

 

そう言ったフェイトはキラを庇うように前へと出て、手に持った斧で甲冑の戦士の攻撃を受け止める。

そして、剣を弾き、その反動で怯んだ甲冑の戦士に斧を向ける。

 

「フォトンランサー」

 

そう言うと、フェイトの持つ斧の先に金色の光の玉が生成される。

 

「ファイア!」

 

そのかけ声とともに、金色の光の玉は槍のように甲冑の戦士に向けて発射され、直撃した。

狙いも威力も完璧な攻撃だ、と『魔導師』としての経験も知識もないキラでもわかった。しかし、フェイトの攻撃により舞い上がった煙が晴れると、再び甲冑の戦士の姿を確認できた。あれだけの攻撃を耐えたのだ。それでも、フェイトの顔色が変わることなく、平然とした顔のままだった。どうやら、脅威になるような力を持った敵ではないようだ。

 

「…ごめんキラくん。巻き込んじゃって」

 

と、フェイトが急に謝ってきた。その突然の謝罪に、キラは戸惑いながらも言う。

 

「そ、そんな、僕は別に平気だよ。それに僕の方こそ、面倒事を増やしちゃってごめんね」

「キラくん…」

 

そんな会話をしていると、ガシャ、と甲冑の戦士が歩を進め始めた。だが、甲冑の戦士に桜色の光が直撃し、煙を上げた。

 

「あの子も…魔導師…?」

 

キラは光が飛んできた方向を見る。そこに桜色の光を甲冑の戦士にあてた人物はいた。宙に浮いており、手には杖、服は白を強調した制服のような服で髪型は短いツインテールの女の子。魔導師だとすぐにわかった。

 

「…キラくん、お願いがある。あの憑依したジュエルシードを止めてほしいんだ」

 

…どうやら、味方というわけではないようで、白い服の子を相手にするために、フェイトはキラに甲冑の戦士を倒すよう頼んだ。

フェイト自身、キラに頼むのは心配なのだが、アルフは近くにいない。念話で呼びかければ来てくれると思うのだが、時間がない。『目的』のためだ。仕方がない、と割り切ることにした。

 

「…わかったよフェイトちゃん。僕にできるかわからないけど…やってみせるから」

 

そう言って少し笑みを浮かべるキラにフェイトはなんとなく、心強く感じた。

 

 

「…よし、やってやる。やってみせる」

 

フェイトが白い服の子の元へと飛び立ったあと、キラはすぐに甲冑の戦士を見据える。先ほどの攻撃で結構なダメージが通っているようだが、まだ戦えるみたいだ。ガシャリ、とその重い甲冑で身を包む身体を持ち上げ、剣先をキラに向ける。それに応じるように、キラもナイフを構える。正直、戦闘経験はあるもののキラは魔導師として、デバイスを扱う者としては初心者だ。…というか、デバイスの使い方など知らない。

 

「…やばい」

 

使い方が分からなければ戦うことなどできない。相手は剣を持つ戦士。こちらは軍で訓練された身でもない、普通の学生…が若返って(退化して)しまったただの子供。デバイスなる特別な武器がなければ戦うなど到底不可能だ。

 

「ど、どうしよう…」

 

まかせて、など言ってしまった今、逃げ出すことなどできない。しかし、デバイスの使い方はわからない。絶体絶命だった。

 

(せめて、これがMSだったらな…そしたら、ストライクの時みたいに…)

 

そこまで考えて、キラは思い出した。先ほど、機械的な声で『ストライク』と発せられたことを。

 

「もしかして…『ストライク』?」

『なんでしょうか?マイマスター』

 

機械的な声が、ナイフから発せられたのがわかる。先ほどの声と同じだ。

 

(てか、もしかしてマリューさん?)

 

そんな疑問を覚えつつ、キラは問う。

 

「どうやって君を使えばいいのかな?」

『私はあなたの判断に合わせて補助を行います。なので、武器として使っていただけたら状況に合わせて形状を変化させたり、アドバイスなどします。また命令をくだされば私はあなたに従います、マイマスター』

 

と、言われても…と思っていると、甲冑の戦士がこちらに迫ってきていた。

 

「ちくしょう!!なんで今来るんだよ!」

 

とりあえず、先ほどナイフを使った感覚を思い出しつつ、突き出された剣を避け、甲冑の戦士の顔にナイフを握る手で拳を作り、殴り飛ばす。

甲冑の戦士はそれにより、後方へと飛ばされる。

 

「痛く…ない?」

 

素手で硬い甲冑を殴れば痛みが襲うと思っていたキラは驚いた。

 

「まさか、これも君の補助なの?」

『はい。あなたの拳を当たる直前にバリアタイプの防御魔法をかけました』

 

いわゆる籠手を魔法を応用して作ったのだ。

なるほど、補助に関しては文句のつけようはない。

 

「けど、剣相手にナイフで挑むのは無理があるよ…。せめて、こっちも剣だったらいいのに」

『それならば、ソードストライカーフォームを推奨します』

 

直後に、キラの持っていたナイフが蒼い宝石を残して消えた。だが、すぐに蒼い宝石の周りに光の粒子が集まっていき、長剣のような形へと変貌した。

その剣の姿はストライクの換装装備の一つ、ソードストライカーの対艦刀“シュベルトゲベール”にそっくりだった。

 

「変化した…?」

 

形状が突然変化したことに驚きつつも、これで先ほどよりマシな状況になった。キラはその剣を甲冑の戦士に向けて構える。すると、剣の刃に蒼い光がC.E.で言うビームサーベルが展開された。これは魔力刃といい、名称通り魔力により生成された刃だ。

 

「これなら…!!」

 

キラはそう言って、地面を蹴って甲冑の戦士へと接近し、“シュベルトゲベール”を振るう。

 

甲冑の戦士はやられまいと、自分の剣で“シュベルトゲベール”を受け止める。そして、力強く振り、キラを突き飛ばす。しかし、それが仇となった。

 

『MAIDASUMESSA』

 

ストライクから発せられた声を聞き、キラはこの時、自分がどのような行動を取ればいいのか、はっきりとわかった。キラは“シュベルトゲベール”をブーメランを投げるように振る。すると、蒼い魔力刃がブーメランのように甲冑の戦士に向かって飛んでいった。そして、すぐに構えなおし、甲冑の戦士へと突撃する。

しかし、甲冑の戦士は飛んできた魔力刃を回避した。そして、接近してくるキラを見て、、、

 

ガクンッと、自分の片足が突然無くなったことに気付いた。回避したと思われた魔力刃は弧を描いて戻ってきたのだ。

それを認識した時にはもう遅い。

 

長剣を構えた少年が、雄叫びをあげながら接近する。

 

「ゥ、オオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

そして、甲冑が。

 

斜めに真っ二つとなった。

 

 

 

 

高町なのはは非常に焦っていた。目の前の黒いマントを羽織る金髪の少女に自分の攻撃があたらない。先ほどから魔力弾を連発しているのだが、相手の速度は速く、捉えることができない。

 

「強い…っ」

 

だが、相手に攻撃があたらないと同時にこちらも相手の攻撃はあたっていない。このまま長引かせるわけにもいかなかった。

 

『master!!』

 

自分の杖、『レイジングハート』の警告を聞き、なのはは金色の魔力刃がブーメランのように飛んでくるのを確認すると咄嗟に障壁を張る。

 

「くっ…!」

 

それをなんとか防ぎ、すぐさま上空へと逃げる。

が、相手の少女(フェイト)はその脅威的な速さで接近し、なのはを狙って手に持つ魔力刃により鎌のようになっている武器を振りおろす。

そして、辺りにガキンッ!と音が響き、なのはとフェイトは鍔迫り合うような形となった。

 

「なんで…なんで急にこんな…」

 

なのはは目の前の少女に問う。フェイトは感情の無い顔で答える。

 

「…答えても、多分意味がない」

 

それを聞いた直後に、フェイトはなのはを弾き飛ばす。

しかし、なのはもやられてばかりではない。すぐに体勢を立て直し、レイジングハートを向ける。

 

『Shooting mode』

 

レイジングハートがその声とともに、姿を変える。宝石を支えるように丸みを帯びた杖のてっぺんは槍のように変形する。

 

『Divine buster,stand by』

 

ディバインバスターという、魔力をエネルギー砲のように発射する砲撃魔法の準備は整った。

 

その時、ザンッッッ!!という何かが勢いよく斬られる音が聞こえた。

なのははその音の正体を確かめるために、先ほどの甲冑の戦士と少年のいた場所を見る。

そこには斜めにスッパリと斬られた片足の無い甲冑の戦士の姿があった。

 

『master!!』

 

直後になのははレイジングハートの警告を耳にする。

咄嗟に正面を見た時にはもう遅かった。

 

『Photon Lancer,getset…Fire』

 

「…ごめんね」

 

確かに聞こえたフェイトの謝罪を最後に、なのはは金色の魔力弾をまともにくらい、気を失った。

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

剣を杖のように持ちながら、キラは自分の体を倒れないように支えていた。体はもう汗でびっしょりだった。

…疲れた。

その一言だけ、キラは小さく呟く。後ろを振り返れば、そこには既に甲冑の戦士の姿は無く、青い宝石が宙を浮いているだけだった。

 

(魔導師って、こんなに疲れるものなんだ…)

 

まるでMSにでも乗って戦争をしているみたいだ、と思う。当然ながらMSのパイロットと魔導師は全く違うのだが、それ故に戦い方も体にかかる負担もまた違う。魔導師として訓練を受けてもいないキラには無理があったようだ。

 

「キラくん!」

「フェイト…ちゃん」

 

気付けば、フェイトがすぐ近くまで来ていた。先ほどの魔導師と思われる少女とはどうなったのだろうか。いや、あの時のフェイトの態度を見るに味方とは思えない。となると、“戦って勝った”のか。

どこに行っても、どんな『世界』に行っても、“争いの種”は尽きないようだ。

 

「キラくん、大丈夫?私の代わりに戦ってもらっちゃって…怪我とかしてない?」

「うん、大丈夫だよ、フェイトちゃん。だから…心配しないで」

 

フェイトを安心させるようにキラはニコッと笑顔を見せる。そのキラの笑顔を見ると、フェイトは安心したのか、優しく笑い、青い宝石…『ジュエルシード』を見据える。

 

「…バルディッシュ、ジュエルシード封印」

『Yes,sir』

 

機械的な声がした後、ジュエルシードはフェイトの持つ斧に組み込まれている金色の宝石に取り込まれた。

 

「…封印完了。キラくん、お疲れ様」

「あ、うん…」

 

キラがそう言った直後、空からアルフが迎えに来た。どうやらアルフは今キラたちがいる場所より少し離れた場所に居たようで、そこで今いる森…というかよく周りを見れば住宅街と大きな屋敷に挟まれている林だったが、そこに『結界』をはった人物を探していたようだ。アルフとフェイトが別行動をしていたのは何者かがはった結界が原因とのこと。

 

「とにかく、ジュエルシードは回収完了。帰ろうか、フェイト、キラ」

 

フェイトとキラは頷き、地面を蹴って空を飛んだ。キラはフェイトに抱き抱えられた状態だったが。

…帰ったら、魔導師として空を飛ぶ方法を学んでみようかな、と思うキラだった。

 

…故にフェイトがずっと自分達がいた場所を悲しそうに見ていることにキラが気付くことはなかった。

 

 




デバイスのセリフって最初は全部英語だったんですけど、それだと意味がわからないという方が出てきそうだし、てか英語苦手だし、ルビをふるといろいろと面倒な事になってしまったのでデバイスのセリフは日本語にしました。たまに英語の時があるけど、そこは大体の意味はわかるだろうということで日本語にはしてません。て

それとデバイスであるストライクの『フェイズシフト』、これはバリアジャケットにプロテクションをはったようなものだと考えてくれるとありがたいです。攻撃される度に魔力を削られてしまうけど、いちいち障壁をはらずに済むシステムです。つまりゴリ押しが可能。でも魔力の消費は多分激しい

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