魔法少女リリカルなのはSEED   作:☆saviour☆

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PHASE-4 手に取るは剣

 

理解できなかった。

ただ、目の前では、金髪の黒いマントを羽織る少女、フェイト・テスタロッサが4本の腕を持つライオンのような化け物を手に持つ金色の光の刃がある得物で、斬り裂いていた。

彼女の行動は素早く、相手を翻弄している。

化け物の攻撃を紙一重で避けては、隙のできた化け物の腕を斬りとばす。

そして、フェイトの周りから現れた謎の金色の光が、化け物を襲う。

ズヴァチィッッッ!!という電撃が激しく化け物を貫く。

 

「はああああああああッ!!」

 

雄叫びをあげながら、フェイトがもうスピードで化け物に接近する。

ヴォンッ!、とフェイトが得物で化け物を真っ二つにした。

化け物は断末魔の叫びをあげながら、消えていき、あとには種のような青く光る宝石が残っていた。

 

「…ジュエルシード、封印」

 

フェイトはそう呟くと、黒い斧を青く光る宝石に向けた。

 

『Sealing Form』

 

低い機械音がしたあと、黒い斧のヘッドが反転し、槍のような形状へと変化し、柄の部分からは金色の光の翼が展開された。

そして、青く光る宝石に向かって金色の光が襲い…

 

あとのことはよく覚えていない。

気付いた時には青く光る宝石はすでにどこにもなく、来た時と同じ穏やかな風が公園に吹いていた。

 

「……………え、あ?」

 

うまく言葉が出なかった。フェイトはもう先ほどの黒い斧は持ってはいないし、服も若干露出の高い黒装束ではなく、いつもの普段着だし、何事もなかったような顔をしている。

 

「帰ろうか、キラくん」

 

ただ、フェイトはそう言っただけだった。

 

「う、うん…」

 

キラはぎこちなく返事をした。

先ほど自分が見た光景は嘘だと思うような雰囲気に、キラは戸惑っている。

 

(……さっきのは、幻?)

 

だとしても、あまりにもリアルすぎる。

化け物の叫び。電気の光。腕が斬りとばされる音。その全てがキラの頭の中から離れない。

そう思いながらも、キラはフェイトに捕まる。

それを確認したフェイトは飛び立とうとして…

 

「…フェイトちゃん、今のは…なんだったの?」

 

キラに質問された。

フェイト自身、わかっていた。あんなことが目の前で起きれば、どういうことなのか聞かれるのは当たり前だということくらい。

そして、キラも聞かずにはいられないかった。

それを聞いたフェイトはゆっくりと口を開け、言う。

 

「………………………やっぱり、キラくんは連れてくるべきじゃなかったね…」

 

何も知らせず、ただ平和な日常を過ごさせるべきだったと、フェイトは後悔した。魔法も使えず、戦うことのできない少年を、危険な事に巻き込むべきではなかったと。

 

「……フェイト、ちゃん、それはどういうこと…?」

 

キラはフェイトの意味ありげな台詞に、ついさっきまでの日常が壊れていくような感じがした。

まだ短い期間だけど、楽しくて、暖かくて、平和な時間。

続いてほしいというキラの願いは、『殺される』。

 

「…さっきの…あの化け物は『ジュエルシード』といって、強力な魔力の結晶体で、私達の仕事はその『ジュエルシード』を集めることなんだ」

「…ジュエル、シード…」

 

あの4本の腕を持つライオンをフェイトが倒した時に現れた宝石、あれは『ジュエルシード』と呼ばれる結晶体だったのだ。

フェイト達の仕事はその『ジュエルシード』を集めること。しかし、それは少ししか『ジュエルシード』を目撃したキラにもわかる。危険だということに。

強力な魔力の結晶体。その言葉からして、明らかに『ジュエルシード』は危険物だ。それにあの化け物。フェイトは難なく討伐したようだが、決して安全とは思えない状況でもあったのだ。

何故、9歳くらいの子供がそんな危険な仕事をしているのか。

以前聞いた魔導師とやらだとしても、優秀な魔導師だとしても、普通9歳くらいの自分の子供にそんな危険な仕事をやらせるのか?

キラはフェイトの母の考えることが全くわからなかった。

…もしかしたら、その事にも事情があるのだろうか。

 

「とりあえず、今は帰ろう。説明はあとでするから…」

 

フェイトの言葉を聞き、キラはフェイトに捕まる。というか、フェイトに抱えられる形になる。

フェイトはアルフが地面を蹴って飛び立つのを確認すると、すぐにそのあとを追うように飛翔する。

………人を抱えながら飛ぶというのも結構辛いものだと、フェイトは心のなかでそう思った。

 

 

 

 

遠見市市街地にあるフェイト達の拠点のマンション…の一室で。

フェイトとアルフ、キラは向き合っていた。

何故そのような状態なのか、いうまでもないだろう。話の流れからして。

 

「………じゃあ、説明してもらうよフェイトちゃん、アルフさん」

 

なにやら緊張した空気が辺りを漂っていた。

ゴクリ、と、唾を飲み込んだ。

…あくまで表現である。

アルフの額からは汗が流れ、キラの口はゆっくりと開き、フェイトは身構える。

そして、キラは問う。

 

「…………あの、『ジュエルシード』っていうのは一体どんな物なのかな」

 

フェイトはキラの質問に、やっぱり、というような顔をした後、何か迷っているかのように顔をふせた。

やがて、決心したのか、顔をあげ、答える。

 

「『ジュエルシード』っていうのはね…」

 

フェイトは、説明する。目の前の、少年に。

 

 

 

「『ジュエルシード』の前に『ロストロギア』について話す必要があるね」

「『ロストロギア』?」

 

ここで新たに出てきた単語にキラは当然反応した。

 

「『ロストロギア』…まず、次元世界にはいくつもの『世界』があって、それぞれの『世界』が独自の文化を持っているのはわかるよね?」

 

それはキラも理解できるだろう。

キラの『世界』、C.E.と今現在、滞在しているこの『世界』。

この二つの『世界』は文化の違いがあるのをキラは図書館、ネットカフェで調べて既に知っている。

 

「次元世界にはね、稀に異常に技術を発展させてきた『世界』もあるんだよ。そして、『ロストロギア』は過去に何らかの要因で消失したそんな『世界』の古代文明で造られた遺産の事を言うんだ。多くは現存技術では到達できていない超高度な技術で造られた物で、使い方次第では多くの『ロストロギア』が世界を破滅へと導いてしまうほど危険な代物なんだ」

 

簡単に言うのならば、発展しすぎた『世界』の遺産だと言うべきか。

そして、その遺産はとても危険な物であり、フェイトも言った通り、使い方次第ではその『世界』どころか、全次元を崩壊させかねないほどの力を持っている。

 

「そう、『ジュエルシード』もその『ロストロギア』の一つなんだ」

 

ジュエルシード…

碧眼の眼を思わせる色と形状をした宝石であり、その正体は強力な魔力の結晶体。

全部で21個もあり、それぞれローマ数字がふられている。

ジュエルシードは周囲の生物が抱いた願望を叶えるという、一見夢のような特性を持っている。

だが、当然危険な代物でもある。

生物の願望を叶える。確かにそれはいいことなのかもしれない。しかし、その願望は自覚があるなしにかかわらず、叶えてしまう。

 

「そんな…それじゃあ…」

 

キラは『ジュエルシード』の話を聞いてすぐに察する。

願望を叶えてしまえるほどの魔力(・・・・・・・・・・・・・)が備わった物を21個も集めたら一体どれほどのことが起きる?

『ロストロギア』という扱いを受ける『ジュエルシード』はおそらく、次元世界とやらを崩壊させるほどの災害を起こす事ができるのだろう。

故にキラは、そんな危険な物を集めさせるフェイトの母親が何を企んでいるのか知りたくなった。

 

「…フェイトちゃんのお母さんは…一体…」

 

何者なんだ?、と声に出す前に、フェイトがいきなりキラの手を掴んだ。

 

「フェイトちゃん?」

 

何故いきなり手を掴んできたのか、というかフェイトの顔はなんだか真剣で、でも不安そうな顔をしていた。

 

「母さんが…キラくんのことを呼んでる」

「……え?」

 

すると、フェイトはキラをひっぱり、外へと向かう。

 

 

 

 

次元空間 “時の庭園”。

 

「この先で母さんがキラくんを待ってるみたい」

 

キラはフェイトが指で指す方向を見ると、大きな扉があった。

 

「…僕に一体何の用なのかな」

 

フェイトの母親に会うのは初めてなので、結構緊張もしているキラだが、警戒心は解かないし、解くつもりもない。

 

「…じゃあ、キラくん。私はここで待ってるから…。話が終わったら戻ってきてね」

 

キラは頷き、フェイトの母親が待っているという巨大な扉の先を目指して足を進める。

 

 

ギギギッ、と重いと思われた巨大な扉が、案外簡単に開けられた。

とりあえず、キラは部屋の中へと入る。

バタンッ、と扉が閉まる音が部屋に響いた。

部屋は意外と広く、10人くらいの人が入っても大丈夫くらいの大きさはあった。

 

「フェイトちゃんのお母さんは…」

 

きょろきょろと、部屋中を見回すが、フェイトの母親らしき人物は見つけられない。

呼びつけといて部屋にいないというのはこれいかに。

と、カツッ、カツッ、という足音らしき音が部屋の奥から聞こえてきた。

部屋の奥は妙に暗く、どのような人物が来るのか確認することはできない。

目を細め、奥から来る人物を確かめようとする。

やがて、部屋の光がその人物を照らした。

その人物は、ふわりとした灰色にも近い色をした長髪をもち、雰囲気は若干狂的な気配を漂わせ、白衣を羽織っていた。

 

「…あなたが…キラ・ヤマトくんね?」

 

その人はキラを見るなり、尋ねてきた。キラと同じ、アメジストのような色の眼をしたその人はキラを見つめている。

 

「…はい」

 

警戒心は解かず、決して油断しないよう身構え、キラは答える。

すると、その人はキラの目線に合わせるようにしゃがむと、優しく笑う。

 

「私はあの子の…フェイトの母、プレシア・テスタロッサよ。よろしくね、キラ・ヤマトくん」

 

その人は、プレシア・テスタロッサはキラに名乗った。そして、キラの前にプレシアは手を差し出した。

プレシアの手には、鉄灰色の、しかし輝いている丸い宝石があった。

 

「あ、あの、プレシア…さん。これは?」

「これはね、あなたの服に入っていた物よ。心あたりはないかしら?」

 

そう言われ、キラはとりあえずプレシアから鉄灰色の宝石を手に取ってみる。その直後だ。

 

(こんな…これは…?見覚えがないのに…僕はこれを知っている?)

 

キラはなんだか懐かしいような、けれど嫌な感じを覚えた。だけど、やはりこの鉄灰色の宝石は見覚えのない物だし、心あたりもないので、これが何を意味するのかわからない。何故これが自分の服に入っていたのか、キラは疑問に思った。

 

「それはあなたの物のようだから、返すわね。それと、それは見たところ魔導端末(デバイス)よ」

 

魔導端末(デバイス)…端末ということは何か機能があるのか。だが、どんな機能なのか、どう使える物なのか。

そのような物が何故自分の服に入っていたのか更に疑問に思う。

 

「どこかで伏線でもはられてた…?」

 

今のところ身に覚えはない…はずだ。

しかし、この鉄灰色の宝石を見ていると、ストライクやイージスのディアクティブモードのメタリックグレーの装甲色を思い出す。

それと。

 

「…あ、フェイトちゃんが使っていたあの黄色い宝石はもしかしてこの魔導端末というやつなのかな」

 

確かフェイトは『魔導師』だと言っていたのを思い出す。

だからおそらくあの黄色い宝石は魔導端末なのだろう。

まあ、断言はできないのだが。

 

「じゃあ、用はもうすんだわ。キラくん、帰っていいわよ」

「えっ、用ってこの魔導端末を渡すことだったんですか」

 

自己紹介と魔導端末を渡されただけ済んでしまった。

プレシアからすれば、ただ会って魔導端末を渡すだけの予定だったので特に問題はない。

しかし、キラからすれば、今のところ使い道のない物を渡されて終わりというのも、なんだかやるせない。

 

「…まあ、持っていても損はないだろうな」

 

とりあえず、魔導端末をポケットへとしまった。使い方は…必要な時に教えてもらえばいいだろうか。

 

「じゃあ、プレシアさん。また、いつか来ますね」

 

とりあえず、そう言ってキラは出入り口である巨大な扉を通ろうと、近づいた時だった。

 

「…待ちなさい、キラくん」

 

プレシアに呼び止められた。

何用かと、キラはプレシアの方へと振り返る。

 

「なんですか?」

 

そうキラが言った直後。

プレシア・テスタロッサは口を開き、言う。

 

「…単刀直入に言うわね。私が見る限り、あなた………『魔導師』としての才能があるみたいね」

 

……今、なんて言ったのか、キラは理解できなかった。

いや、突然のことで思考が追いつかないだけだ。

とりあえず、冷静になり、先ほどプレシアが自分に言ったことを思い出す。

『魔導師』としての才能がある?

 

「………え?僕に、ですか…?」

「ええ、そうよ。あなたには、キラ・ヤマトには『魔導師』になるのに相応しい魔力が備わっているのよ」

 

何故そのようなことがわかるのか。

以前フェイトが、自分の母親は自分と同じ魔導師、と言っていたのを思い出したキラは、魔力があるのかないのか、見分ける術を目の前の女性は持っているのだと判断した。

それより、プレシアが言った自分には『魔導師』としての才能があるということは本当なのだろうか。

もし、それが本当ならば…

自分は、どうするのだろうか。

 

「キラくん」

 

プレシアに、名前を呼ばれる。プレシアの声にキラは反応し、彼女の顔を見る。

 

「…『あの娘』の力になってあげてくれないかしら?」

 

プレシアのその言葉は自分の手伝いをしてくれる娘を手伝ってほしい、と言うものだと、キラは判断した。

そうだ、危険な仕事をさせても自分の娘を心配しないなんてことはない。

だから、キラは決心した。

 

「…わかりました。僕に任せてください!」

「そう…。ありがとう、キラくん」

 

プレシアはキラの返事を聞いた後、優しく微笑み、部屋の奥へと歩いていった。

 

 

 

 

海鳴市、とある豪邸付近の森。

そこにはフェイト、アルフ、キラがいた。

なぜこのような場所にいるのかというと、“時の庭園”から戻ってきた直後、フェイトは『ジュエルシード』を探す、と言い出したのだ。

どうやら近くで『ジュエルシード』の強力な魔力を感知したらしい。キラは留守番、ということになったのだが、キラは無理を言ってついてきたのだ。

キラとしてはプレシアの頼まれたことを、フェイトの手伝いをしようとついてきたのだ。ただ、『魔導師』としての実力は無く、何もできないかもしれない無力な自分に苛立っていた。

しかし、それでも何か手伝えるかもしれないとキラは考えていた。

 

「…あった、『ジュエルシード』」

 

その言葉を聞いたアルフが、担いでいたキラを地上へと下ろす。

 

「…あ」

「キラはここで待ってて」

 

アルフはそれだけ言って、飛び立っていく。

…やはり、自分は足手まといだった。何もできない、無力な人間だった。キラはただ、森の中で立っていた。

 

「…ちくしょう…」

 

そう言った直後、ドゴンッ!!と地面が揺れた。

 

「うわッ!?な、なんだ!?」

 

突然の揺れに、キラは驚いた。何事かと、ふとフェイト達が飛んで行った空を見る。そこからは木々の隙間からだが、煙のように砂が立ち昇っているのが見えた。

 

「な、何が…」

 

一体何が起きているのか、キラは疑問に思うが、ここで立っているだけではダメだ、とキラはフェイト達のいる方向へと走る。

何があってからでは遅い。キラは焦りながらも、走っていく。

やがて、木々を抜け、フェイトを見つけた。

アルフの姿は見えないがおそらく、別の場所で結界とやらをはっているのだろう。

 

「フェイトちゃん!!」

「っ!?キラくん!?」

「もう一人いたの!?」

 

そこにいたのはフェイトだけではなかった。フェイトの近くに、もう一人。

髪は茶髪のツインテールで、服は白い服を纏い、杖のような物を持った少女がいた。

 

「…魔導師…?」

 

そう呟いた直後、フェイトとキラの間にどこからの攻撃が降った。

 

「は、早く封印しないと!」

 

白い服の少女は攻撃してきた者の姿を捉えていた。

白い服の少女の目線の先には、剣を持った甲冑で身に包んだ兵士だった。

いや、よく見ればその甲冑からはなにやらユラユラ蠢く影がある。

『ジュエルシード』の影響で実体化した『願い』なのか。

兵士は手をキラに向けると…

手からエネルギーのようなものを撃った。

 

「っ!?」

「キラくん!」

 

しかし、兵士から発射された弾は、キラに直撃することはなかった。

キラが咄嗟の判断で避けたためである。

 

「あぶなかった…」

 

しかし、安心するのもつかの間、キラの目の前には剣を振り下げようとしている兵士がいた。

 

「…っ!」

 

直後だった。まるで時間の流れが遅くなったように感じ、気づけば、キラの手にはプレシアから渡された鉄灰色の丸い宝石が握られていた。いつポケットから取り出し、握ったのか、わからない。だが、今のキラにそんなことはどうでもよかった。

目の前の障害を倒す力が、ほしい。

 

そう思ったから、キラは。

 

「…ストライク」

 

ヘリオポリスで、戦争に巻き込まれた時から、戦場で戦うために使った剣の名を呼んだ。

 

そして、兵士の剣は振り下ろされ…

 

ガキンッ!と、兵士の首に、小型のナイフが突き刺さった。

 

第97管理外世界に、『ストライク』は目覚めた。

 

そして少年は、再び戦いの舞台へと身を投じる。

 

 




ジュエルシードの説明がいまいちしっかりしてないような気がする件について

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