「はぁ……」
『彼女』は非常に困っていた。『あの子』に頼まれたこのスーツを直すことに。
正直、断ってもよかったのだが、あの時は急いでいたので適当に承諾してしまったのだ。考える余地もないほど切羽詰まっていたと言えば納得してくれるだろうか。
それにしても…このスーツはズタボロで汚い。とりあえず片付けてしまおうと、『彼女』はスーツを持ち上げた。
するとスーツの何処かに入っていたのか、カラン、という何かが落ちる音がした。
その何かを確かめるために『彼女』は真下を見る。
そこには、丸くて蒼い宝石が落ちていた。
「これは…?」
疑問に思いながら、“それ”を手に取る。
最初は“それ”が何かわからなかったが、長年『魔法』に関わってきた『彼女』はすぐに気付いた。
“それ”がどんな物であるのか。どのようにして起動し、どのようにして使われるのか。
「
それが正体。
魔導師が必ずと言っても差し支えないほど、一般的に使用されているデバイス。魔導師があらかじめ保存・設定しておいた魔法プログラムにより、魔法の発動を促進させる、いわば、補助端末と言った物である。
それこそが“それ”の正体である。
しかし、“それ”は、その姿を偽っていることを長年、魔導に関わってきた『彼女』が気付いたことは言うまでもないのかもしれない。偽りを確信したわけではないが、確かな違和感を“それ”から感じられた。
そう、“それ”は決して、蒼の丸い宝石ではない。ましてや魔導端末でもない。人という、ちっぽけな存在をいとも簡単に潰せてしまう物。
ある『世界』において、絶対的とも呼べる最強の兵器。
コンピューターを通して解析した結果、通常魔導師が使用するデバイスとは技術が違うことに気付いた。それと同時にその正体も。
“それ”が一体どういう経緯で
もしかしたら、ある一つの機能として備わっている可能性だってある。
もしかしたら、手を貸してくれた『彼』が容易した魔導兵器かもしれない。
だが、あの次元漂流者の少年の持ち物のスーツから出てきた、ということは…。
だとしたら。
未だにその姿を見た訳ではないが次元漂流者の少年がここに来たのもわかるような気がした。当初は話を聞いただけで何の心当たりもなく、そもそも『あの計画』すらあまり信じてはいなかったが、『彼女』の推測が正しければ…。
『彼女』は与えられた最大のチャンスに歓喜する。
それこそ、願い続けてきた『理想の夢』が叶うことが約束されたかのように。
想像しやすいように説明するとするなら、それは目の前に大金がいきなり現れ、手に入ることができたかのように。
つまりは狂喜。
「私と『あの娘』の約束は果たす。必ず」
約束。ずっと昔にした約束を守るために。『彼女』は『魔導師』を必要とした。だからこそ、造り上げた。その容姿に惑わされずに、かつての家族を死の道に追いやってでも。
全ては『あの娘』のために。
だけど、時間はもうあまり残されてなどいないのだ。
だから。
『彼女』はある一つの賭けに出る。
「利用させてもらうわよ」
彼がいれば、この計画は成功するはずだ。
あるいは。
彼がいれば、計画は破綻するはずだ。
そんな五分五分ともとれなくもない、もしかしたら、3分の2の確率で計画の破綻に繋がってしまうかもしれない一か八かの博打。
「キラ・ヤマト…」
さぁ、この選択は吉か凶か…どう出る?
とりあえず、もともと本文にあった行間を移動しました。
また内容も多少変更。
まあ、疑問に思って欲しいことは二つか三つあります。