魔法少女リリカルなのはSEED   作:☆saviour☆

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PHASE-16 敗北がもたらす真実

 

…ここまでずっと戦ってきた。寂しいこと、悲しいこと、辛いこと、逃げたいこと、目を背けたいこと。

それらすべてを真正面から受け止めて、耐えて、愛する人の為に戦い続けてきた。期待に応え、願いを叶えてあげれば、きっといつかは笑ってもらえると信じて。

 

けれど。

 

期待には応えられなかった。

全てを賭けて全力を尽くした戦いに負けてしまったのだ。

相手は自分より戦いの経験も実力も浅いはずの少女。にもかかわらず、自分の今までの経験と実力と師の教えは、相手の少女には通用しなかった。

 

…いや、きっと自分の心が弱かったから。

 

ーーー何処かで迷いがあったから。

 

 

 

 

海鳴臨海公園。

 

…から、少し視認できるほどの海の先にかつての文明の名残のようなビル群が立ち並んでいた。それは元々そこにあったものではない。管理局が用意したレイヤー建造物であり、また魔法とは関係の無い一般人からは見えないように上空まで二重結界が張られている。

 

何故そのようなものを用意したのか、それは管理局…巡航L級8番艦アースラ組によるジュエルシード事件の解決のため、フェイトとなのはが心置き無く戦えるようにするためである。

 

そのビル群の中心にある草木が生い茂る建物の上になのはが立っており、戦闘エリアより少し離れた位置にある建物の屋上にはユーノ・スクライアと実は時の庭園の床をぶち破った後地球に転移し、なのはの友人、アリサ・バニングスという少女によって治療され、今は管理局と協力体制にあるアルフがいた。

 

「ここならいいよね…?出てきて、フェイトちゃん」

 

なのははバリアジャケットのみを展開し、その場にはいない少女を呼ぶ。すると、何処かで待機でもしていたのか、既にバルディッシュを手にし、攻撃態勢にあるフェイトが現れた。

 

「フェイト!もうやめようよ!これ以上あの女の言いなりになってたら…このまんまじゃ、不幸になるばっかりじゃないか…!!だから、フェイト…!」

 

フェイトを確認すると、アルフが即座に説得を試みる。しかし、フェイトは頭を左右に振り。

 

「だけど、それでも………私はあのひとの娘だから…」

 

やはり、フェイトは考えを変えない。

 

「…ただ、捨てればいいってわけじゃないよね……。逃げればいいわけじゃ…もっとない。フェイトちゃんは立ち止まれないし…私はフェイトちゃんを止めたい」

 

その手にレイジングハートを出現させ、なのははフェイトと真正面から向き合う。

 

「………ジュエルシード。私とフェイトちゃん、二人が出会ったきっかけ」

 

なのはがそう言うと、レイジングハートが回収、保管していたジュエルシードを全てなのはの周りに出現させる。同じく、バルディッシュも合わせるように保管していた全てのジュエルシードをフェイトの周りに出現させた。

 

さて。二人の対決が、どのような思惑があって行われるものなのか。

 

「フェイトちゃんを助けたいとか…友達になりたいとか…沢山思ってることはあるけれど、まずはジュエルシードの問題を片付けないときっと私もフェイトも先には進めない…」

 

それは前述した通り、ジュエルシード事件の根本を解決するための糸口を作り出すためであり。

 

「だから、賭けよう。お互いが持ってる、全部のジュエルシードを」

 

それはジュエルシードの確保とフェイトの保護、あるいは恐らくこの事件の元凶たるプレシア(これはアルフの証言と管理局による調査結果から推測)の居場所を突き止めるためでもあり。

 

「それからだよ………全部、それから…。私たちの全てはまだ始まってもいない」

 

そして何より、苦しんで、悲しんで、今にも泣きそうな少女を救うために。

 

「…互いが持つジュエルシード全てを賭けた真剣勝負……!」

 

今の彼女が食いつかないはずのない賭け勝負。実力と経験と、今までの戦いを考えれば、フェイトの方が強い。おまけにもう時間がないはずだ。故に、彼女は全力をもって勝利を掴みにくるだろう。どの一撃も鋭くて重くて当たれば酷く痛むような、そんな攻撃が襲いかかってくる。

それは今まで確かにフェイトと戦ってきたなのはが一番知っていた。

しかし、逃げはしない。真正面から受け止めて、全力で応えて、それが例え痛くて辛くても前を見続けるつもりでいた。

 

「本当の自分を始めるために…はじめよう」

 

フェイトを助けたいと願ったなのはだからーーー。

 

 

「最初で最後の、本気の勝負!!」

 

 

その数秒後。

空気を振動させるほどの激突が、始まる。

 

 

 

 

「戦闘開始…か」

「だね」

 

…時空管理局・巡航L級8番艦アースラの管制室にて、フェイトとなのは、両者が映された映像を見ながら、クロノが呟く。傍には椅子に座りながら同じく勝負の行く末を見守るエイミィもいた。

 

「…戦闘空間の固定は大丈夫か?」

「上空まで伸ばした二重結界に戦闘訓練用のレイヤー建造物…誰にも見つからないし、どんだけ壊してもだーいじょうぶ♪」

 

ちなみにただ映像に見入っているだけではなく、エイミィはしっかりと戦闘空間の状態と安定性を管理し、また勝負の決着後、すぐに動ける準備すら行っていた。

 

勝負の決着後。

それはこのジュエルシード事件を解決へと導くか否か、正にクロノたちが張った作戦(わな)だ。

なのはが勝てば、ただそれは良いことだ。ジュエルシードの全てはなのはと管理局に渡り、フェイトだって保護できる。

逆になのはが負けてしまった場合、それでもジュエルシードを全て確保したフェイトは確実にプレシアの元へと帰還すると推測されるため、勝負の前後に逃走経路に徹底して網を張り帰還先を突き止め押さえ、事件の根本を解決できるはずだ。

 

どちらに転んでも、管理局側がミスさえしなければ結果は事件の解決へと繋がり、フェイトも保護できる…そんな作戦だった。

 

「…しかし、ちょっと珍しいね…クロノ君がこーゆーギャンブルを許可するなんて」

「あの二人の勝負自体はどちらに転んでも問題ないしね」

 

そもそもどちらか一方に転んでしまい、それが管理局にとって損害あるいは事件未解決へと繋がるような博打は行わない。常に彼らは自らに正が傾くよう調整する。それこそが一番安全に迅速に事件や災害を解決することができるのだから。

 

「追跡の準備はできているか?」

「勿論!なのはちゃんが戦闘で時間を稼いでくれているからね。フェイトちゃんの帰還先追跡の準備はもう念入りにできているよ」

「頼りにしてるんだ…逃がさないでくれよ」

「了〜解ッ!まかせとけい!」

 

もはや事態は大きく管理局へ傾いている。ジュエルシードが相手側に集まり、次元干渉型の災害が発生する可能性を考えれば、良いことだ。

しかし。

 

「でも……なのはちゃんに伝えなくていいの?プレシア・テスタロッサの家族と…あの事故のこと…」

 

例え、災害による被害発生の可能性がなくなり、無関係の人々が巻き込まれなくて済むとしても、そこにそもそもの発端の人物の気持ちは尊重されていない。自分勝手に他者を巻き込むような行動をするのなら無理にでも押さえつけるのは当たり前かもしれないが、エイミィ達は調査により知ってしまったプレシア・テスタロッサの事情が事情なだけに気にかかってしまう。

 

「なのはが勝ってくれるに越したことはないんだ」

 

だが、だからと言って手加減して見逃して、その結果がなのはが傷つき、最後は無関係の人々まで悲しむようなことになるのなら、クロノは迷わずに押さえつける。

 

「今は、迷わせたくない」

 

 

 

 

「…しかし、少し問題なのはあの少年が確認できていないことだな…」

「うーん、やっぱりアルフの言ってた嫌な予感が的中しちゃったのかな…」

「……プレシア・テスタロッサと何かあって、というやつか?」

「アルフは脱出直後に、自分を追いかけてきた彼を見たって言ってたし…念話も通信もできないってことは…やっぱり何かあったに違いないよ」

「だけど、もしかしたらフェイトと共に来ていて、戦闘空間内あるいは外で待機している可能性もある。…警戒を怠るなよ」

「わかってるよ、クロノ君」

 

 

 

 

戦闘開始から数時間後。

 

結果はなのはの勝利という形で幕を閉じた。

 

勝敗を決したのはなのはの最後の一撃。

 

 

“スターライト・ブレイカー”。

 

 

『星を軽くぶっ壊す』…否、『星の光で破壊する』それは術者本人と周囲の魔導師がそれまでに魔法を行使した際に周辺に散らばってしまった魔力を体内を通さず一点に集積することで強大な一撃を放つことができる砲撃型魔導師の最上級技術の砲撃魔法。だが、術者は元々自身が使用していた魔力に加え、他者の魔力をも扱わなくてはいけなく、身体には負担をかけてしまうため、この魔法は正に一発逆転のための最後の切り札である。

戦闘時、フェイトとなのははお互いに魔力は殆ど残っていたわけでもなく、体も限界を迎えいた。そこになのはの、強大な魔力を持つ二人が限界を迎えるほどに散らばった魔力を収束した砲撃。当然、威力は絶大なものとなり、二人分の強大な魔力が集まった魔力球は破裂しそうなほど膨れ上がり、そして放たれたその一撃はフェイトとなのは、二人の対決用にと管理局によって用意されたレイヤー建造物のビル群の全てを消し飛ばした。

 

そして、その一撃を貰う前に残っていた魔力のほぼ全てを使って切り札を放ち、限界を迎えた状態かつ“バインド”で動きを封じられたフェイトは元々防御が硬くないこともあり何重もの防御壁を張ってもなお耐えきれるはずもなく、真正面から“スターライト・ブレイカー”を浴び、意識を失った。

 

その後、意識を取り戻せば心配そうな顔で見つめてくるなのはが視界内にいた。呆然として、脳がすぐに働かなかったが、瓦礫の山と海と夕日を見て状況を理解する。

 

「…ごめんね…大丈夫…?」

 

なのはが心配そうに声をかけ、フェイトは不安そうな顔でなのはの顔を見る。フェイトはこの時、まだ勝負がどうなったのかしっかりと理解していなかった。…いや、理解したくなかったのかもしれない。

 

「私の…勝ちだよね………?」

 

だが、彼女の言葉で理解しざるを得なかった。正直、状況的にもバリアジャケットの破損度的にもなのはが勝ちなのは誰が見てもわかる。

 

「…そう………みたいだね…」

 

小声でバルディッシュに命じ、ジュエルシードを取り出す。そして、そのままゆっくりとその場を離れるように飛んだ。

 

今はもう何も考えたくなかったのだ。

 

しかし、そんな思考放棄の時間さえフェイトは与えてもらえなかった。先程まで晴れていた空は黒雲に隠され、紫電が上空で迸り始めたが故に。

 

「…母さん…ッ!?」

 

そして、周囲の海は、戦闘空域は落雷で包まれる。海に落ちれば電気が光の如く流れ、雷鳴が海の音も人の声も、その全てを掻き消してしまう。フェイトは困惑して、恐れて…そして、自分の頭上で紫電が落雷の準備を始めていることに気付いた。

 

「フェイトちゃんッッッ!!」

 

背後でなのはの声が聞こえて、振り返って、彼女が自分に手を伸ばしているのが見えた。しかし、それは間に合うことはなく、紫電は稲光とともにフェイトを包み込んだ。

 

 

それからは再び意識を落とし…気づいた時にはもう、アースラの医務室のベッドで眠っていたことを知った。

 

 

 

 

「武装局員突入部隊、『時の庭園』内に到着!予定通り捜索を開始しました!」

 

管制官の状況報告がアースラブリッジ内に響く。今の状況を説明すると、フェイトとなのはがいた戦闘空域に次元跳躍魔法攻撃が埋め尽くされ、フェイトが負傷した後、アースラ側は飛んできた魔力を辿り魔力発射地点を特定、転移座標を割り出して控えていた突入部隊がプレシア・テスタロッサの身柄確保のため『時の庭園』の内部へと侵入した。

つまり、作戦は彼らの予定通りに進行中であり、順調に事件の解決へと進んでいた。モニター越しにて突入部隊の状況も確認してもそれは明白である。

 

…にも関わらず、アースラ艦長、リンディ・ハラオウンは何やら難しい顔をしていた。

 

すると、ブリッジ入口からフェイトを連れてなのはとユーノ、そしてアルフが入ってきた。

 

「お疲れ様。…それからフェイトさん…はじめまして。あなたの事はアースラから監視していました。そのせいか、はじめてという気はしないわね」

 

優しく微笑んでフェイトに語りかける。だが、フェイトの腕には腕輪型の手錠がかけられており、服も白一色のシンプルなものを着せられていた。一応、フェイトは管理局からすれば犯罪者。念のための処置というやつである。

 

「(…なのはさん、聞こえますね?)」

「(…はいっ!)」

「(…母親が逮捕されるシーンを見せるのは忍びないわ…フェイトさんをどこか別の部屋に……)」

「(…はい)…フェイトちゃん…アルフさん、よかったら私の部屋に…」

 

なのははリンディに言われた通り、ひとまずブリッジから出て艦内にある、自分があてがわれた部屋に案内しようとした。

 

「…そうだね。行こう、フェイト」

 

アルフも事情と配慮を察したのか、なのはとともにここを離れることに賛成した。しかし。

 

「フェイトちゃん?」

「フェイト?」

 

フェイトは、返事もなくただその場でモニターに映る映像を微動だにせず、見入っていた。いや、目を離せないでいた(・・・・・・・・・)

 

『プレシア・テスタロッサ…時空管理法違反および管理局艦船への攻撃容疑であなたを逮捕します!』

『武装を解除してこちらへ…!』

 

映像では…時の庭園では突入部隊が玉座にて待ち構えていたプレシアを囲み、投降するように呼びかけている。しかし、プレシアは顔色一つ変えず、ただそこに座って焦ることなく涼しい顔のままだ。

だが。変化はすぐに起きた。

 

『……これは…!?』

 

突入部隊の複数人が玉座の真後ろにあたる部屋に入るとそこには、培養機があった。普通に培養機があるだけならいい。しかし、その培養機は今この場にいる…映像を見ている者も含めて見過ごしてはいけない、重要な人物が眠っていた(・・・・・・・・)

 

「……え…?」

 

培養機に入っている人物を見て、なのはが思わず声を出してしまった。

 

その人物は、幼い少女だった。

恐らく腰辺りまで伸びている金髪。そしてプレシアの面影が若干残っている顔立ちと髪型。何より、フェイトに似ていてーーー。

 

「…なんだよこれ………。フェイトとまるで同じ人間じゃないか……!!」

 

 

「………アリ……シア…………?」

 

 

アリシア・テスタロッサ。

既に、目を覚まさない彼女が。

プレシアの、正真正銘の娘が(・・・・・・・)、そこにいた。

 

 

 

 

『私のアリシアに……近寄らないで!』

 

直後に、玉座の部屋では既に捕えられていたと思われていたプレシアが局員の一人の頭を掴み、壁に叩きつけた。他の局員達はすぐさまそれに反応し、プレシアに杖を向ける。だが遅い。プレシアが攻撃魔法を発動する方が断然早く…いや早すぎた(・・・・)

そして光が煌めいたその瞬間、プレシアを囲んでいた局員達は電撃にその身を包まれ、気絶する。

 

「いけない…はやく局員達の送還を!」

『りょ、了解!』

 

力量の差がはっきりとわかる瞬間。それにプレシアが培養機のある部屋にこれたということは玉座の部屋にてプレシアを取り押さえようとした局員達もやられているということになる。

彼女は確かに、大魔導師なのだ。

 

『たった9個のジュエルシードでは……アルハザードにたどり着けるかどうかはわからないけど……でも、もういいわ。終わりにする』

 

プレシアは培養機に身を寄せながら、そして告げる。

 

『この子を亡くしてからの暗鬱な時間も………この子の身代わりの人形を……娘扱いするのも………聞いていて?あなたのことよ、フェイト………』

 

モニター越しで言われて、フェイトは体を震わせる。何を言われているのか、『今のフェイト』にはわかる。

 

『折角アリシアの記憶をあげたのに…そっくりなのは見た目だけ……。役立たずでちっとも使えない…私のお人形』

 

なのはとの戦闘時、母のために勝つと、負けたくないと、思った時、ふと蘇った過去の記憶。そこにはプレシアと自分と…猫のリニスが静かな山でピクニックを楽しそうに満喫していた。……けれど、プレシアから呼ばれたのはフェイトという名ではなく、アリシアという、覚えのない名前。戦闘時は集中するためにも関係ないと割り切ったが、今になってその記憶がフェイトの心に突き刺さる。

 

『…最初の事故の時にね…プレシアは実の娘…アリシア・テスタロッサを亡くしてるの』

 

エイミィが管制室から通信で説明するように語る。

 

『安全管理不備で起きた魔導炉の暴走事故……アリシアはそれに巻き込まれて………』

 

26年前、プレシアは民間エネルギー企業、『アレクトロ社』で魔導工学の研究開発している中央技術開発局の第3局長・開発主任として勤務しており、仕事が忙しく、男手のない生活だったが、大らかな上司と気心の知れた同僚達の配慮に助けられ、アリシアと猫のリニス…そしてプレシア自身の親子と一匹で不自由のない幸せな日々を送ることができていた。

しかし、ある日。プレシアは当時、アレクトロ社で進行していた大型魔力駆動炉プロジェクト・次元航行エネルギー駆動炉『ヒュドラ』の設計主任に抜擢された。元々、忙しく慌ただしい仕事だ。一からの設計ではなく、現状進行している部分からを引き継ぎ、残りの部分のみを仕上げてくれてのことだったが、進行中の新型プロジェクトとなるとアリシアとの時間は更に減ってしまう。だが、終われば長期休暇を貰えることが約束されたのだ。

しかし、他人の設計を途中から引き受けるのは緊急事態発生の可能性が高く、まして大型機器の大エネルギーを扱う駆動炉は極めて危険な代物であるため、十分な引き継ぎ期間が必要だった。

にも関わらず、スケジュールはそれを許さず、初めから不可能領域にあったそのスケジュールは進捗を眺めた上層部によって幾度も修正と見直しがされ、なんとか組み上げたものが台無しにされていき、何故そんなものが必要なのかわからない機能やシステムの追加案が一方的に出された。プレシアは反論しようにも新人主任レベルでは反論する権利すら与えられず、ついに実験は行われる予定となった。しかし、本社から増員された開発担当者達による安全確認や基準は雑なものだった。そして開発は報告上では順調に進んだが、稼働実験まであと僅かになって何故か実機への接触が禁じられており、疑問に思いながらもプレシアは書類上での安全チェックを続け、現場の工員に大しての安全基準マニュアルの作成に努め、その結果上層部にその精度が認められ、特例として安全基準責任者という役職を受けた。

 

だが、日程も準備も何もかも足りない実験は誰もが予想しない形で、誰もが予想しえない規模で発生し、受理されたはずの安全措置が殆ど何も成されていなかった。

そして暴走した駆動炉は燃料エネルギーを周辺の酸素と反応し消費することで金色の光と高温の熱に変えていきーーー。

 

その結果、安全のため研究施設に施された結界内にいたプレシアと他の研究員は助かり、結界外にいた生物たちは体内の酸素すら奪われ、死に絶えた。

 

プレシアが幸せな日々を、娘との生活のために努力し、上からの圧力を耐えたその先に待っていたのは、『奪われた世界』だった。

 

その後、事故の原因究明に管理局が立ち入ることはなく、安全基準の設定ミスの責任は安全主任であったプレシアが問われ、事故…いや事件については裁判で争われた。社は告訴を取り下げれば刑事責任を訴えることはせず、アリシアについての賠償金を支払うとの意思を示し、最後はプレシアが違法な手段とエネルギーを用いて行ったものであり、安全よりもプロジェクト達成を優先したという形で記録が残った。

 

本当に何も、成されずに。

最後まで全てを押し付けられて。

 

『…その後のプレシアが行ってた研究は使い魔とは異なる…使い魔を超えた人造生命の生成、そして死者蘇生の技術…』

 

プレシアはただ、娘との時間を取り戻すために。無くしたあとも働き続けた。

 

「…そんな……!」

「それじゃあ、フェイトは………」

 

『記憶転写型特殊クローン技術『プロジェクト・F.A.T.E.』。それが彼女が最後に関わった研究コード………』

『つまり…『フェイト』って名前は……当時の彼女の研究につけられた開発コードなの(・・・・・・・)……』

 

クロノとエイミィから告げられるプレシアの過去とフェイトの出生の秘密に誰もが答えられなくなってしまう。

 

『よく調べたわね…そうよ、その通り』

 

だが、既にこの事件の『全て』知っているプレシアは構うことなく語る。

 

『だけど、ちっとも上手くいかなかった。作り物の命は所詮作り物……失ったモノのかわりにはならなかった』

 

そして、知ってしまって、怯えたままのフェイトを睨みつける。

 

『アリシアはもっと優しく笑ってくれた。

 

アリシアは時々わがままも行ったけど…私の言うことをとてもよく聞いてくれた。

 

アリシアはいつでも私に優しかった』

 

語られる違い。そこには明確な憎しみがあって。

 

『フェイト………あなたは私の娘なんかじゃない…ただの『失敗作』。だからあなたはもういらないわ。どこへなりと消えなさい…』

 

ガリ、ガリガリガリガリガリバリバリバリバリバリバリバリバリッ、と。フェイトの中で今までの全てが壊れていく。想いも、記憶も、費やした日々も。

 

『いいこと教えてあげるわフェイト。あなたを作り出してからずっとね……私は、、、

 

 

あなたが大嫌いだったのよ』

 

 

拒絶。直後に。

 

フェイトは手に握っていたバルディッシュを落とし、五感の全てを放棄し、崩れ落ちた。

 

 

虚ろな目は、もう何も映してはいない。

 

 

 

 




キラが一切登場しなかった件について

文字数的にもギリギリ入れられなかった
(´・ω・`)

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