「………………………………………………だれ?」
『それ』を見た少女の第一声はその一言だった。
母に呼ばれ、部屋を少し空けていただけなのに、部屋に戻れば自分のベッドの上に見たことのない少年が傷だらけで転がっていた。
「どこから侵入…してきたのかな」
黒いマントを羽織り、綺麗な金髪を左右にまとめて結び、ツインテールにしている少女の名はフェイト・テスタロッサ。
とりあえず、自分の部屋のベッドの上で寝ている怪しい少年を見つめる。
顔は…整った綺麗な顔で、でも傷だらけで何やらうなされているようだった。
服装もよく見れば、なんだか変な格好している。というより、見たことのないピッチリとした服だった。
(…治療した方がいいのかな)
怪しくも少年は酷い傷を負っているのだ。フェイトにとってそんな彼を見捨てることは、しかも自分のベッドの上で何故か気絶している彼を放って置くのは無理な話だった。
☆
「…っん」
目が覚めると、真っ先に見えたのは見知らぬ天井。自分の家の天井でもなければ、アークエンジェルの医務室の天井でもない。
「ここ…は…?」
茶髪にアメジストのような色の目をした少年、キラ・ヤマトは起き上がり、現在自分の
いる部屋を確かめようとした。
「…っイタ…ッ」
ズキッ!と、全身に痛みがはしるのを感じた。
どうやら自分は重傷で、誰かが手当てしてくれたようだ。その証拠に、身体には包帯が巻かれ…て、
…そこでなにやら違和感をキラは感じた。
なんというか…馴染み深い体が少し新しくなったような…
というか、縮んだような気がする。
いや、冗談。そんな訳ないだろう。
体が縮むなんて、聞いたことがない。
いや、でも。
手がなんかいつもより少し小さく感じるし。
「………………いや、いやいや!そんなの…非現実だ!」
焦りながらもキラは自分の置かれている状況を確かめるため、ベッドから下りようとして…
「う、ぐっ…」
身体を痛めた。全身を酷く怪我しており、包帯はしてあるとはいえ、まだ全快していない。当然と言えば当然だった。
さて。まずは状況整理だ。そう思い、キラは部屋を見回してみる。
(アークエンジェル…ではないみたいだし、誰か親切な人に拾われて治療してくれたってところかな)
となれば礼を言わなくてはいけない、そう考えたところでガチャッというドアが開く音が鳴る。
扉の方を見れば、金髪ツインテールの少女が立っていた。年齢は恐らく9歳か10歳くらいだろう。
(この子が…治療してくれたのかな)
キラは見ず知らずの自分を助けてくれるなんて、心優しい子だなと、思った。だが、少女は起きているキラを見て何やら驚いたような表情をしている。
「…う、動かないで!」
突然、ガシャンと、少女は黒い斧のような物をキラへと向けた。
いきなり向けられた武器を見て、キラは驚愕する。明らかに殺生目的のような刃がついたものを何故少女が持っているのか。何より予想外すぎるため驚愕するのも無理はない。
(あ、あれ?何かまずかったかな…)
ズキズキと痛む身体をなんとか両足で支えながら、キラはとりあえず両手をあげる。
正直、限界が近く倒れそうだった。
「…あなたは…何者なんですか?」
なるほど、というか武器を向けられた瞬間わかったのだが、どうやら警戒されているようだ。
経緯は知らないが、自分が気絶している間に何かあったのだろう。
「…逆に質問してもいいかな?」
立っているのが限界なため、ベッドの上に座るためと、自分がどういう経緯でこの部屋に運ばれたのかを知るために、そして少女は一体何者で何故そのような斧を持っているのか、質問することにした。
「…別に、構いません…」
その言葉を聞いたキラはベッドの上に座ろうとする。
しかし。
寝起き&猛烈に襲う痛みの所為なのか足を引っ掛け、キラがベッドの上に座ることはなく、しかも勢いよく床に座ることとなった。
「ァ、がァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」
「ちょっ!?だ、大丈夫ですか!?」
意識が闇へと沈んでいくなか、焦る少女の顔が見えた。
☆
フェイトは、床に勢いよく座り(というより倒れた)、恐らく激痛により気絶した少年をベッドの上に寝かせた。
やはり、まだ身体はガタガタのようで、どうして今さっきまで立っていられたのか不思議なくらいだった。
「はぁ…」
軽くため息をつく。少し焦ってしまったのか、起きているのを見た瞬間、すぐに武器を向けてしまった。
なにぶん、男の子と接するのは初めてだし、侵入者かもしれない者だ。というか、登場自体が傷だらけでベッドに寝込んでいる見たことのない少年というのは怪しいにもほどがある。
警戒するのも無理はない。まあ治療はしたが。
「…っん」
どうやら、少年が目を覚ましたようだ。
薄く瞼を開け、天井を見つめていた。やがて、少年はフェイトを見た。
「…君は…」
「あ、あの…大丈夫、ですか?」
オドオドしながらも、フェイトは心配の言葉をかける。
「迷惑…かけちゃったかな」
「い、いえ!だ、大丈夫です…私の方こそ、先ほどは急にバルディッシュを向けてしまってすみません…」
…バルディッシュ?と、少年は疑問を持ったようで、小さく呟いた。それを見たフェイトは今は待機状態のバルディッシュを紹介しようとしたが…すぐに思い留まる。
(…何もわからないうちは下手に情報を提供しちゃだめだ。まずは…こっちからしかけなきゃ…)
相手は見ず知らずの上に不法侵入を傷だらけ気絶状態で成し遂げている怪しさMAX、あるいは疑問だらけの不思議な少年なのだ。ならば、まずやることは情報収集。目の前の少年が敵か味方を判断せねばならない。
「あ、あの…あなたの名前は?」
ならばまず知ることは相手の名前。
「…キラ・ヤマト。君は?」
「……フェイト…フェイト・テスタロッサです」
聞かれてただ素直に名乗る。
「さっそくなんだけど…どうやってここに来ることができたのですか?…というよりどうやって入ったんですか…?」
フェイトの質問に、キラはなんとなく違和感を覚える。しかし、何も答えないわけにはいかないので、キラは重い上半身を起こし、質問に答えることにした。
「…僕は、、、」
どうやってここに入ったのか、そんな質問に少なくともつい先程起きるまで初めてこの部屋にいることを知った上にてっきりフェイトが自分を運んでくれたのかと思っていたため、疑問に思いはした。しかし、忘れているだけかもしれないとキラは自分が最近までしていたことを思い出そうとする。
けれど無意識のうちに思いだすことを不安を感じる自分がいることに気付いた。
「僕は………」
何故不安を感じるのか。やがて途切れ途切れでフラッシュバックする映像にキラは少しずつ怯え始める。そうして思い出すのは、光。赤いMS。自分が考えていたこと。
自分が、やろうとしていたこと。
「ぁ、ああぁ…」
鮮明に思い出されるあの時の、友を殺そうとした自分。
「あ、ぐっ、ぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」
ー殺してやる…っ!殺してやるっ!殺してやるっっっ!!!ー
あの時、確かに考えていたことが、友を殺そうとしていた恐ろしい自分を思いだして…
キラは泣いた。
「ぼ、くは、殺したく、なんかない、のに…ッ」
涙を流し続けるキラに、フェイトは混乱していた。何があったのか。どんな恐ろしいことに巻き込まれたのか。キラの恐怖に歪んだ表情を見て、フェイトは思った。
何があったのかは知らない。けど、フェイトにはキラの背中は酷く辛そうに見えた。
故にフェイトはキラの背中に優しく手を当てる。
「ごめんね…辛いこと思い出させちゃったかな」
キラの背中を優しく撫でながら、そう言った。
「僕の、ほうこそごめ、んね…いきな、り…泣いちゃ、って…
でも、もう泣かな、いから…」
目を擦り、涙を拭き取るもキラの目からは涙が溢れる。
「もう泣かないって、決め、たから…」
キラのその言葉を聞いてフェイトは思うところがあった。
しかし、決して口にはしない。
フェイトはただ、キラの背中を撫で続けた。
出会って数分、もしくは数時間だが、フェイトの中からはキラへの警戒心は何故だか少し薄れたようだ。
☆
しばらくしてから、キラはなんとか落ち着くことができた。それより、キラは先ほど思い出したおかげで自分が今、何を知るべきなのかを思い出したのだ。
「僕の質問を聞いてもらってもいいかな」
「大丈夫です」
フェイトはしっかりと答える。
「…ここはどこ?地球、なのかな。
ザフトや地球連合がどうなったか教えてくれないかな」
まずは情報収集が先決だ。自分がどのくらいの期間を寝ていたのか知らないし、ここがどこなのかも知らない。故に情報を集めることが先だと思ったのだ。
(アークエンジェルのみんなは…大丈夫なのかな)
心配で仕方がない。無事にアフリカの連合軍の基地に着いたのだろうか。もしかしたら今頃ザフトによる攻撃を受けているのかもしれない。
そんなことが頭をよぎり、キラは必死にそれはない、と否定する。そうあってほしくないと思うがためだ。
(これからどうしよう…)
どうやってみんなに会いに行くか決まってはいない。まあ、これから考える方がいいだろうと、思っていた。
が。
「……………えっと…ザフト?地球連合?」
フェイトが疑問の声をあげる。
故にキラは首を傾げる。フェイトの口振りはまるで聞いたことのない単語を復唱したかのように聞こえた。更にはフェイトの「何を言ってるんだろうこの人」と言いたそうな顔はキラを不安させる。
「あの、もしかして、知らない?」
「えっと…ごめんなさい、知らないです」
嫌な予感的中。もしかしてこの子は新聞とかニュースを見ないタイプの子か、とキラは思い始めたのだが、そもそも戦争とは新聞やニュースなどの報道メディアを介さなくても自然に耳に届くだろうし、世界各国、果てには宇宙までにも広がる大規模な物だ。故に戦争に大きく関わる軍組織の名を知らぬはずがない。いや、しかしもしかしたら実は今ここにいる場所は戦争の被害が届いていない平和な地域…まで考えたところでキラの思考は次の言葉により、軽く吹っ飛ぶ。
「えっと…ここは“時の庭園”という場所で、今は次元空間を渡っているところです」
……………………んっ?、とキラは理解に遅れた。何やら聞きなれない言葉が出てきているためである。
キラの脳が言葉の意味を理解しようと必死になっていると、ガチャリと扉の開く音がした。
「あ、フェイト!その子、やっと起きたようだね」
入ってきたのは、額に宝石のあるオレンジの毛並みを持つ狼だった。
(あ、あれ…狼が喋って…)
「それより怪我は大丈夫なのかい?フェイトと同い年くらいだから心配したんだよ」
気軽に、まるで友達と挨拶を交わすように、何故か喋る狼は重要な台詞を言ってのけた。
今この狼様はなんとおっしゃった?、とキラは更に嫌な予感がした。
「ごめん、鏡ってあるかな」
「あ、ありますけど…どうぞ」
手鏡を渡され、鏡に映っている人物を見てキラは驚いた。
映ったのは当然、キラ自身だった。
しかし、問題はそこじゃない。キラはキラでも…
10歳くらいの時のキラの容姿をしていた。
「……………………………………………………………え?、は、え…ええええええええええええッッッ!!??」
本日、一番の叫びを上げたキラだった。
なんとか一話目を書き終えた…。
サブタイトル通り、出会いは突然でした(笑)
ちなみにキラが若干騒がしい感じがするのは体型とともに思考も微妙に幼くなっているためです。