魔法少女リリカルなのはSEED   作:☆saviour☆

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PHASE-15 プロジェクト『F.A.T.E.』

 

………最近はよく気絶している気がする。

 

ガラガラと体の上に乗っている瓦礫を押しのけ、キラは起き上がった。体は思いの外軽くなっており、どれくらい気絶していたのかはわからないがプレシアと戦っていた時の今まで感じたことのない嫌な痛みは全くなかった。とは言え、プレシアにより腹部に魔力砲を至近距離で受け、壁を何枚も突き破って吹き飛ばされたようで背中と腹に物理的な痛みが残っていた。我慢できる程度なのが割と本気で不思議だが。

 

「……ここは何処だろう」

 

さて、問題はここからだ。体を起こして見れたものはどこまでも続く穴…というかキラが吹き飛ばされて作ってきた壁の穴と瓦礫の転がる廊下。時の庭園内であることは間違えないのだが、何分庭園内はとても広い。以前住ませてもらっていた時も庭園内を歩き回ったことはあるが、危うく迷子になりかけた記憶がある。

故に庭園内の何処にいるのか、わかるわけがなかった。

 

だが、何も行動に移せないわけではなく、当然ながらキラが吹き飛ばされたことが原因でできた壁の穴を追って行けばプレシアと戦った場所へと出ることができる。まずはフェイトがどうなったのかを確認するためにアルフが開けた壁の穴をくぐり抜けて玉座の部屋へ再び入室する。しかし、その部屋にフェイトの姿は既になく、恐らくプレシアによって何処かに運ばれたか、あるいは出てしまっているのか。プレシアが今この場にいなかったことにも安心とともに一種の不安を覚える。

 

さて、戻ってきたところで結局何かができるはずもなく、玉座の部屋からフェイトの部屋までの道のりはわからない(以前来た時はフェイトの部屋からではなく、フェイトが直接玉座の部屋の前まで転移した)ので一先ず、キラは無謀にも歩き回ってみることにした。

 

(…使ってる部屋はそう多くないのか)

 

部屋を出てある程度廊下を進むと部屋の扉がいくつも見つかった。しかし、それらの部屋は何か家具などが置かれていた訳でもなく、何も無い薄暗い部屋ばかりだった。まあ、庭園自体がバカ広い上に住んでいるのは数えるほど。空き部屋ばかりなのは致し方ないだろう。

 

(ここもハズレか…)

 

何回目となったのかわからないが、開けた扉の先はやはり何も無い。確認すればすぐに扉を閉め、キラはため息をついた。

吹き飛ばされた後、フェイトがどうなったのかはわからない。プレシアがどうしたのかもわからない。それに。

 

「アルフさん…」

 

助けてあげられなかった。元の『世界』で戦っていた時と同じ、過ちを再び犯してしまった。

拳を強く握り、自分の無力差に苛立ちを覚える。…これも何度したことか。もはやテンプレと化しているような。…それは兎も角、果たして部屋の扉を片っ端から開け、見覚えのある場所にまで辿り着く、というキラのローラー作戦は正しかったのか、明らかに使われた形跡のある部屋を発見した。

ようやく発見したその部屋はキラの記憶にはなかったが、本棚や精密機械があることから恐らくプレシアが使っている部屋だろうと推測する。故にプレシアがいる可能性を考慮して警戒するが、どうやら不在のようだった。

 

(書類と…研究レポート…なのかな、ファイルがいっぱいだ)

 

部屋に入ってすぐ右には机があり、その上には書類が散らばっていた。…机の上に関わらず、床にも。まるで焦っていたかのような、惨状。既に冷めてしまっている…いや、もしかしたら最初から冷えていたものなのかもしれないが、飲み残したまま放置されているコップの存在がより焦燥を感じさせられた。

呆然として、数秒の間はただ立ち尽くすことしかできなかった。それから、キラは何気なく床に散らばっていた紙媒体を拾い、その内容を目に入れる。そこに描かれていたのは何か機械の設計図のようで、使用用途は時空転移を行うためだと書かれていた。他の書類を見れば、例えば『指定遺失物(ロストロギア)について』や時の庭園の全体図が書かれた物もあった。

 

(研究って、ロストロギア、のことだよね…)

 

以前、フェイトから聞かされた、プレシアはとある研究のためにジュエルシードを欲しているということと散らばっていた一部の書類、また時の庭園の全体図に書かれていた最上階にあたる場所にある「駆動炉」も指定遺失物(ロストロギア)であるということから研究内容を少なくともロストロギア関連であると推測した。

 

けれど、気になることがあった。

 

それは殆どの書類に少しだけ書かれていた『アルハザード』という単語。それも指定遺失物(ロストロギア)なのかと考えたが、何処かの施設か世界であるように書かれていたため、その予想はすぐに捨て去る。

 

ふと本棚に目をやる。そこには前述の通り、ファイルが多く並んでいる。何も不思議ではないだろう、先ほどと同じその光景。だが、何故だか無性に、まるで惹きつけられるようにキラはある一つのファイルに釘付け状態だった。気になって、手に取り、そのファイルの表紙をみる。

そこには、ただシンプルな字体で。

 

「…プロジェクト、フェイト…?」

 

『プロジェクト F.A.T.E.』。ただ、それだけが書かれていた。

 

『F.A.T.E.』。開発コードにフェイトと同じ名が付けられているが何か関係があるのだろうか。

 

「『プロジェクトF.A.T.E.』…使い魔を超える、人造生命の作成と死者蘇生の研究…?」

 

恐る恐る中身を見れば、使い魔の契約時のプロセスや常時魔力消費を必要としない存在を作り出すこと、死んだ者を蘇らせるための研究とあった。そのための方法としてほぼ生命蘇生に近い、死亡直前時までならば人工の魂を吹き込むことで息を吹き返させることが可能な使い魔契約を元に、素体を作り出し記憶の転写をすることで本人同然の人物を生み出すこと。つまり、『クローン』の創造である。死者蘇生とは少し異なるが、それでも記憶が引き継げられれば本人そのものではあり、記憶は魂に保存された所謂セーブデータであり、コピーした記憶を新たな容れ物に入れてしまえば、同人物の作成も可能となる、とあった。

 

「基礎設計者…ジェイル・スカリエッティ…」

 

どのような人物かは知らないが、上記の方法の基礎となる部分を組み立てた科学者であるようで、完成までのプロセスはプレシアが作り上げたようだ。どうやら元々はジェイルという科学者が研究していたものではあるが、彼(?)はその途中で別の研究へと変更したため、完成をプレシアがやり遂げたようだ。またこの基礎設計はプレシアが引き継ぎ、組み立て途中で別の科学者にも渡っており、その科学者も完成にまで至ったとも記述させていた。

 

『超人類計画』。

 

あくまで、その研究関連であるため、『超人類計画』とやらに直接この技術が全て組み込まれたわけではないようで、『超人類計画』の進行のために設計を完成させたようだ。

 

…それは兎も角として、これらの研究はキラが今しがた読んでいるファイルには進行状況ばかりで結果が記述されておらず、どうなったのかはわからなかった。恐らく、別のファイルにでも挟まっているのだろう。同じ『プロジェクトF.A.T.E.』と背表紙に書かれているファイルは数本あるのだから。

 

キラは『プロジェクトF.A.T.E.』のその結果を見ようと、最新のものと思われるファイルを手に取ろうとした。

その前に。

 

「こんな所にいたのね」

 

咄嗟に背後を見れば、部屋の入口に腕を組みながら、呆れているかのような顔でプレシア・テスタロッサが立っていた。

 

「あなたは…ッ!フェイトちゃんはどうしたんだ!」

「…別にどうもしてないわ。ただジュエルシードを取ってくるようにと言っただけ」

 

そう言うとプレシアは空間モニターを顕現し、ある映像を見せる。

 

それはフェイトとなのはが戦っているもので魔力の光がビル群の間を飛び交っていた。

これはつまり、残り全てのジュエルシードを持っている管理局に殴り込みを仕掛けろ、と命じたということだろうか。…結局、自分自身の目的のためにフェイトの体にムチを打って無理矢理働かせているのだ。

 

「アルフさんまで殺して、そんな、自分勝手な…!」

「人の私物を勝手に覗いた貴方が何を。それにあの使い魔なら生きてるわ」

 

プレシアは苦笑して、キラはアルフが生きていることを聞き、驚愕し安堵する。そしてプレシアはキラが持っているファイルと棚から取り出されていた…先程キラが見ていた物…ファイルを見つける。その瞬間、微かに表情が変わり、目を細めた。

 

「……見たのね、それを」

 

冷酷さを感じさせない声色、以前対面した時と同じ落ち着いたような声で問う。キラは無言で頷き、肯定する。プレシアはそれを確認すると、何かを考えるように目を閉ざし…やがて開く。そして口をも開いた。

 

「………私は取り戻したかった。『あの子』と一緒に暮らす、静かで穏やかで、幸せで平和な世界を…」

 

…唐突なプレシアの話にキラは戸惑う。だが、何の事なのかすぐに気付くことはできた。

 

「毎日仕事が忙しくて、『あの子』には少しも優しくしてあげられなくて…仕事が終わったら、約束の日を迎えたら、私の時間も愛情も優しさも全て『あの子』にあげるつもりだったのに」

 

恐らくこれはフェイトのことだろう。だが、何故だろうか、プレシアの口ぶりでは過去の話をしているようにしかキラには聞こえなかった。

 

「だったら、今からでも遅くないです。フェイトちゃんは貴女を恋しがって会いたがって想っているんだ。昔のことは僕には知る由もないけど、貴女があの子との日常を取り戻したいと思っているのなら、あの子の想いを真正面から受け止めて、愛してあげられる筈ですっ!!」

 

何故あれだけ酷いことする理由は明確にはわからないままだが、プレシアがフェイトとの日々を望むなら、けれど何かの理由でそれができないでいるのならキラは二人のためにプレシアの背後にいるであろう黒幕と戦うことだってできた。

 

だが、プレシアは先程の表情とうって変わらず…というよりも何のことを話している、と言いたげな顔をしていた。そして。

 

 

「貴方は何を話しているのかしら?」

 

 

…その言葉が何を示すのか、キラはわからなかった。いやわかりたくなかった。脳が理解することを拒んで。

 

「…は、ぁ…?あ、なたこそ…何、言…って…?」

 

口から発せられた言葉途切れ途切れで

明らかに動揺しているとわかる。そしてプレシアはキラがあることを未だに知らないでいると気付いた。

 

「そう、てっきり『プロジェクトF』の資料を見たのだから全て知ったのかと思ったけど…まだ『全て』というわけではなかったのね」

 

聞きたくなかった。けどキラは耳を塞ぐこともせず、逃げ出すこともせず、ただ棒立ちしているだけ。

 

 

「…あの子は、フェイトは『プロジェクトF.A.T.E.』の産物。フェイトという名前はプロジェクトの開発コードから取ったにすぎない…。あの子は造り出されたクローン人間なのよ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

そして、何も出来ないまま、事実を知ることになった。

 

そして、そんな事には構うことなくプレシアは話し続ける。

 

「あの子は私の大切なたった一人の娘…アリシア・テスタロッサのクローン。姿形が、声が似ていてもあの子はアリシアではなかった…。利き手も魔力資質も魔力光も喋り方も人格さえ…あの子には確かにアリシアとしての記憶があってあの子もそれを認知していたのに、全くの別人だった。…結果、研究は失敗。そのまま計画は破棄されて今はもう私の手元には残っていない。あるのは過去に私が保存した資料と専用機器と技術だけ。あの子は紛れも無い失敗作でただの私の言うことを聞くお人形に過ぎないわ」

 

それは余りにも身勝手ではないかととれるプレシアのその発言に、キラはただ無性に腹が立った。

 

「けど…ッ!それならあの子は貴女に望まれて生まれてきただけだ!!それを失敗作だからとあんなに酷使する理由もないだろ!?僕にはアリシア、って子のことはわからない。貴女の話から察することはできても実際はどうなったのかはわからない。でもアリシアちゃんとフェイトちゃんは二人とも確かに違って、けど共通点だってある一人の人間なんだ!それらは二人の違いをよく知っている貴女が一番理解しているだろ!!」

 

アリシアとフェイトは違う。それはプレシアが言った通り容姿が似ていても喋り方も利き手も性格すら。だけど例え全く同じだったとしてもそれはアリシアでなくフェイトなのではないだろうか。アリシアはアリシアで、フェイトはフェイト。肉体も記憶も複製できても魂そのものはコピーできるはずがなく、存在している以上、その者は確かに一つの個性を持つ人間だ。

 

「そして、フェイトちゃんがアリシアちゃんのクローンならあの子の体には貴女の遺伝子を受け継いでいるはずでしょう?…なら、あの子は紛れも無い貴女の娘なんじゃないんですか」

 

クローン技術に関して詳しく知っているわけではない。しかし、アリシアという子がプレシアの娘でフェイトはその子の体を素体として生まれたはずだ。同じ体を作れば遺伝子も同じ。であるならば、フェイトも生まれこそ特殊ではあるがプレシアの娘に間違いないのではなかろうか。

 

「………貴方に…」

 

だが、キラの話を聞いていたプレシアは拳を握り、歯切りし、キラを睨みつける。そして。

 

「貴方に一体何がわかるっていうのよッッッ!!!」

 

そう叫んで、プレシアはキラの胸ぐらを掴み、本棚に叩きつける。ドンッ、という音とともに並べられていたファイルは本棚から落ち、結構強く叩きつけたのかバキバキと本棚の木材を壊した。そして背中の痛みに顔を歪めるキラに向かって、怒鳴るように。

 

「私はッ!アリシアに何もしてあげられなくて、仕事が終えれば私の全てをアリシアにあげようと思ってたのよッ!!それなのに、あんな失敗作のために注ぐ時間も優しさも…愛情なんてあるわけないわッ!!私の娘はアリシアだけで、私の今と未来は全てアリシアのもの…あんな失敗作に与える愛なんて一匙分すらない…っ!私はアリシアのために生きて、アリシアのために死ぬのよ!!」

 

そう言ってプレシアは過去を思い出してか涙を流す。押し付ける力は変わらず、寧ろ強まるばかり。痛む背中は抑えることはできず、胸ぐらを掴まれ持ち上げられているため自由も殆どない。

 

だが、喋ることはできた。

 

「………それで…ッ!最後は結局、全て良かったんだって思えるんですか!?母のためにと頑張ってきた子を捨てて、人一人の命を犠牲に生き返ったアリシアちゃんはそれで喜ぶんですか!?」

 

キラにとって今言えることはこれだけ。事情も過去も全てしっかりと理解できていないキラはこんな綺麗事しか吐けなかった。

だがプレシアはそれを聞いて、落ち着きを取り戻したのか力は弱まり、怒りと憎しみに染まった表情もなくなる。そこでタイミングよく…なのか、ずっと顕現されたままのモニターから強烈な桃色の光が映された。モニターは桃色で埋まり、とんでもない光力があるのかこの部屋をも桃色に染めた。

 

「…フェイト、ちゃん………ッ」

 

恐らく、フェイトはこの桃色の光に呑み込まれたはず。何度も言うように魔法に関して知識が殆どないキラでも桃色の魔法はとんでもなく威力の高い魔法だと理解できた。だが、プレシアは呆れたように。

 

「フェイト…もういいわ。あなたは…もういい」

 

そしてキラを離すと、無言で部屋を立ち去って行った。

 

嵐のような展開は過ぎ、部屋にはキラ一人。部屋はキラが来た時よりも更に散らかり、本棚も簡単には元に戻りそうにない。

 

「プレシア・テスタロッサ…あな、たは…」

 

背中が痛い。再び重くなり始めた体を無理に動かし、キラはプレシアを追いかけるように部屋を出る。

 

 

…一つ気になることがある。

 

 

それはプレシアは何故キラに自身の心情を語ったのか。

 

話す義理はないに等しい筈であり、意味がないことはプレシアがわかっているはずだ。キラは使役しようとしたのなら尚更。

 

…もしも。

 

もしも、あるいは例えば、プレシアがアルフのようにキラにフェイトを託そうとしたのなら(・・・・・・・・・)

 

そしてそれが無意識のうちであったのならば?

 

「…ストライク」

 

キラは時の庭園の廊下で静かに呟く。手に握る、ここまで共に戦ってきた『相棒』の名を。

 

 

 

そして、決意する。

 

 

 

「…もう、誰も死なせない…死なせるもんかッ!!!!!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

そして、時の庭園が、揺れた。

 

 

 

 




台詞、ちゃんと書けてますかね?
キラが何を言いたいのか、要はフェイトはアリシアのクローンでも失敗作でも偽物ではなくて、望まれて生まれた、意思を持った人間なんだ、ということです。うん。

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