魔法少女リリカルなのはSEED   作:☆saviour☆

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PHASE-14 怒りの矛先

 

「友達に…なりたいんだ」

 

優しく微笑みながら、なのははフェイトにそう言った。

初めて言われたその言葉にフェイトは何も言えなくなる。呆れたからとかではなく、なんて言えばいいのかわからないのだ。

 

「………………私は…」

 

 

 

 

「ハァ……ハァ………」

 

キラはフェイトとなのはともユーノとアルフとも一緒にはおらず、彼らから離れて(ジュエルシード封印時の砲撃に巻き込まれないようにしたため)静止していた。その様子は何か疲れているようで、原因は果たしてつい数時間前に言っていた筋肉痛なのか。あるいは単なる疲労なのか。

 

(とりあえず、…戦いは…終わっ…た?)

 

静寂が訪れたのならそういうことなのだろう。しかし、戦闘は終わったというのに、キラの瞳に光はない。空間の全てを掌握するような、あの感覚も未だに残っている状態だった。けれどキラに疑問はない。まるでそれが、その状態であることが当たり前であるかのように。…あるいは、無意識に敵意を感じている(・・・・・・・・)からだろうか?

 

(………違う、まだ…何か…来る…?)

 

本能がまだ終わりじゃないと、気を抜くなと告げている。…っと、キラが周辺を警戒していると、『変化』は訪れた。

 

それも頭上から。

 

静寂かつ晴れ始めていた空は突如黒雲に覆われ始め、その雲からは紫電が迸るのが見える。何が起きているのか、今のキラにはわからない。普通に考えれば天気の変動だと思うのが妥当だろう。けれど、だけど、それにしてはいくらなんでも突然すぎる。

 

故に、反応ができなかった。

 

轟音が、光が、あった。

 

「な…に、が?」

 

問いかけても答える者は近くにいない。理解も殆どできない。視界に映るのはまるでキラ自身を周りの目から遮断するかのような海の波のみで。直後に、キラは意識を落とす。その理由は今はわからなかったが、キラは何故だか重かった体が一瞬軽くなったように感じられた。

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………………………………………………ぁ、?」

 

目が覚めると、そこは室内…というより、廊下だった。正確に説明すれば、大きな扉の前の廊下の絨毯の上でキラは寝そべっていた。

あの雷撃から何が起きたのか、ただそれだけが気になる。とりあえず周りを確認するため体を起こそうとすると若干痛みが走るも動けないというほどではなかったので、苦戦しつつもキラは体を起こすことに成功した。

 

「………アルフ、さん?」

 

最初に気付いたのは近くには顔を伏せて体育座りしているアルフの存在。アルフは寝ていたのか、キラがアルフを呼んでから少し間を置いてから、顔をあげた。そしてキラは。

 

「………起きたんだね」

 

アルフの顔を見て、ギョッとした。泣いていたのか、目を赤くしており、眉間にはしわがより、更に言えばまるで疲れているようだった。

 

「…アルフさん。ここは何処?フェイトちゃんは…?」

 

近くにフェイトがいないことに気付き、アルフに問う。するとアルフは顔を蒼白くし、俯いた。が、すぐに閉ざしていた口は開かれる。

 

「……ここは、時の庭園。場所は前にキラも来たことあるじゃないかな、玉座の部屋の前だよ」

 

聞いて、キラは思い出す。確かフェイトに突然母が呼んでいると言われ連れてこられた場所だ。目の前にある巨大な扉の先でフェイトの母からデバイスを渡されたのを覚えている。

 

「あの落雷のあとさ…簡単に言えばアンタとフェイトはこっちに転移させられた。あたしはジュエルシードを確保して追いかけてきたんだ」

 

転移させられた。…つまりはあの雷撃は人の手によるものであり、恐らく転移のため管理局からの追走を阻止する撹乱と目隠しの雷撃だったのだろう。そして転移先が時の庭園ならば、あの雷撃の発動者はフェイトの母、プレシア・テスタロッサだとキラは推測する。

 

「アンタは多分雷撃をその身に受けたんだろうね、気を失っていたんだ。まあ、疲労が溜まっていたのもあったんだろうけど」

「そう…。フェイトちゃんは?」

 

状況は大体把握した。しかしまだわからないのはフェイトの行方。話を聞く限り時の庭園内にいるはずだが…。

 

「………フェイトは…」

 

そう言ってアルフは扉の方を見て黙り込む。…嫌な予感がした。先程のアルフの顔、以前、フェイトの母がいた部屋の扉の前、フェイトの不在。

 

(ま、さ、か…)

 

直後に。

 

 

時の庭園内の廊下にムチがしなり、何かを叩きつけた音とフェイトの悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

「……………………………………あ?」

 

気持ちの悪い汗が額から流れ、心臓はバクバクと心拍数をあげ、体は何か鎖に縛れたかのように動かなかった。そして扉の奥からはムチの音とフェイトの悲鳴が聞こえ続けていた。

 

「…あの鬼ババは、フェイトにジュエルシードの確保をしなかったことを責めてるんだ。近くにあったからね、多分雷撃は早く確保しろの意味もあったと思う。アンタが転移させられて、フェイトにも雷撃が落ちてあたしはすぐに察してジュエルシードを手に入れようとしたけど…執務官様にやられたよ、三つしか確保出来なかった」

 

フェイトの悲鳴が聞こえる中で、アルフは俯きながら、けれど歯を食いしばりながら話し続ける。

 

「あたしは…無力だ。フェイトのためなんだって言い聞かせ続けて、力になろうって思っていたのに、結局できたのはフェイトを苦しめるだけだ…。ジュエルシードもあれを全部確保できていたらフェイトが責められることもなかったかもしれないのに」

 

そして拳を強く握るアルフの姿はまるで悔しくて苦しくて、体が震えていたように見えた。今までも、ずっとこうしてフェイトの悲鳴を聞き続けてきたのだろうか。きっとアルフが怒ってもフェイトは止めただろうから。それは数日前に見たから、聞いたから、キラはそう思うのだろう。

 

気付けば、ムチの音とフェイトの悲鳴は聞こえなくなっていた。

 

「………もう、こんな思いはごめんだ」

 

アルフがそう呟き、巨大な扉を開けて部屋の中へと入っていく。…いやその前にアルフはキラの方へと振り返り、告げる。

 

「キラ。フェイトのこと、頼んだよ」

 

確かに、そう言って部屋の中へと入って行った。呆然として、思考停止が数秒あったが、どういう意図があっての台詞なのか、すぐにわかった。急いでキラも部屋の中へと入る。

視界に入ってきたのは丁度、フェイトがアルフの手により優しく床に下ろされる所だった。フェイトの露出している肌は赤く腫れている箇所が多くあり、それがムチによるものだとわかる。

 

「……………………」

 

言葉はなかった。話には聞いていても間近で見る現実に、キラは衝撃を受けた故に。そしてアルフは寝かせたフェイトにマントをかけ、言葉も会話もないまま玉座の左側にある壁に近づき、拳を奮って壊した。ボゴンッッッ!!!!、と大きな音とともに埃が煙のように舞い上がり、アルフの姿はキラからは確認できなくなる。それが晴れた時には壁に大きな穴を残し、アルフはいなくなっていた。恐らく、プレシアを追って行ったのだろう。

その場に留まることなんてキラにはできなかった。

 

『キラ。フェイトのこと、頼んだよ』

 

アルフに言われた事が脳内で再生される。台詞からしてきっとアルフはフェイトを見ていてくれという意味で言ったのかもしれない。だが、万が一にも………キラが心配しないわけがなかった。

そうして、キラは壁の穴へと入っていく。壁の穴は厚かったのか通路のようになっていた。…もしかしたら正規の通路がこの壁の横にあるのかもしれない。壁の穴の出口からはアルフの叫び声が聞こえてきてくる。

 

『…っ!!なんであんな酷いことができるんだよッ!!』

 

そんな言葉の次に聞こえたのは轟音。果たしてそれは何によるものか、キラは確認すべく、急いで壁の穴をくぐり抜けた。

視界に捉えたのはプレシアがアルフに向けて杖の先端を向けている所だった。

 

「…っ!?アルフさ」

「邪魔よ、消えなさい」

 

そんな冷徹な言葉に遮られ、焦って手を伸ばしても届くわけがなかった。プレシアの持つ杖の先端からは魔力弾が飛ばされ、至近距離にいたアルフは逃げる余地もなく爆音とともに舞い上がった煙にその姿が見えなくなる。キラは無事であってほしいと願ったが煙が晴れた後も姿は確認できなかった。

 

「…ぁ、ぁあ…」

 

愕然と、今しがた目の前で起きた光景にショックを受ける。アルフがどうなったのかはわからない。

 

「…ああぁ…ぁぁぁあああ…!」

 

……実のところアルフは直撃寸前に自らの力を持って床を破壊し、時の庭園から転移により逃れたのだが、キラには知る由もなかった。故に。

 

「ああああああああああああああああああああああああああァァァァァッッッ!!!」

 

激昂。許せなかった。許せるはずはなかった。フェイトを痛めつけ、挙句自分の娘の使い魔すら平気で攻撃したプレシア・テスタロッサが。あの少女二人をまるで駒のように扱う目の前の存在が。

 

「アナタはァァァァァァァァァァッッッ!!!!」

 

刹那、ドス黒い感情が湧き上がり、体内に巡る魔力が沸騰、五感は空間全てのものを捉えては掴み、筋肉はリミッターの解除がされたかのように力が増すのを感じた。そして、それに呼応するかのように待機状態にあった『ストライク』が起動し、キラの右手にはビームライフルが出現する。キラは銃口をプレシアへと向けると何の迷いもなくその引き金を引き、蒼の魔力弾を発射する。

 

「………」

 

対してプレシアは冷めたような顔で飛んできた魔力弾を片手で弾き飛ばす。そして杖で地面をカンっと軽く叩くとプレシアの周りには複数の紫色のフォトンスフィアが顕現、その数はざっと20基。プレシアが杖の先端をキラに向けるとフォトンスフィアからは“フォトンランサー”が発射され、ドドドドドドドドドドガガガガガァッッッ!!、と“フォトンランサー”がキラを嵐の如く襲い、地面を削り飛ばしていく。だが、空間掌握を完了しているキラにとって迫る弾幕を回避することは容易であった。弾と弾の僅かな隙間を背中に顕現した赤い翼、エールストライカーフォームでくぐり抜けていき、魔力弾をプレシアへと撃ち込んでいく。しかし、そのどれもがプレシアに直撃する前に『見えない壁』に憚られ、四散する。恐らく防御型の障壁を貼っているのだろう。何度撃ち込んでみても突破することなく、ただ魔力を消費するだけだった。

 

「くそッッ!!なら…ッ」

 

今度は左手にアグニを装備し、横移動で魔力弾を数発避けると、キラはプレシアに向かって“アグニ”を放つ。蒼の魔力の砲撃がキラへと向かって行く魔力弾すら呑み込み、やがて『見えない壁』に直撃する。バヂィバチジジジッッ!!、と砲撃と障壁がぶつかり合い、電撃と魔力が辺りに飛び散り続ける。しかし、先に四散しきったのは“アグニ”の方だった。

それでもキラは諦めずに弾幕を回避しつつ、“アグニ”を撃ち込んでいく。だが何度撃ち込んでみても魔力弾と同じく数秒は接触し続けたのだが、破るとまではいかない。

 

「…ッ、それならッ!!」

 

砲撃が効かないのなら正面から切り開く。そう考えたキラは左手のアグニを消し、右手のビームライフルをシュベルトゲベールに変更、魔力刃を発生させ、魔力弾を切り伏せながらプレシアの元へと接近していく。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああッッッ!!!!!」

 

もはやがむしゃらだった。無我夢中だった。魔力弾を切り伏せながらと言っても素早く振ることのできない大剣では一度に多く飛んできた魔力弾を全て無効化することはできるわけでもなく、数発がキラの体へと突き刺さっていく。魔力による魔力ダメージだけでなく、術式に電撃変換を組み込んでいるのか体自体にもダメージが伝わっていくのを感じた。だがそんなことをわざわざ気にしている暇などキラにはないようで、プレシアに近づくことのできたキラは正面の『見えない壁』に大剣を叩き込む。“アグニ”の時と同じように、衝突した瞬間、轟音と電撃と魔力が周辺を埋め尽くしていく。だが唯一違ったのはそれが障壁に通じたこと。ズブズブと僅かに障壁を剣先から突破し、ガリガリと障壁を切り破いていった。

けれど。

 

 

 

「………はぁ、こんなものなのね(・・・・・・・・)。興醒めだわ」

 

 

 

何の焦りすら感じさせないその言葉は、ほぼ全力を持って戦っていたキラにとって驚愕するほどのものだった。

 

そして、プレシアは杖を上から下へと振り下ろし、それに反応してフォトンスフィア20基全てがキラへと“フォトンランサー”を発射した。

障壁を破るために立ち止まっていたキラは当然全てを受け切り、衝撃により後方へと吹き飛ばされ壁に背中から衝突する。壁は衝撃で崩れかけ、背中から純粋な物理ダメージを負ったキラだが、それでも尚、立ち上がる。

 

「ハァ………ハァ………っ」

 

けれど限界はもう近い。元々、海上戦で体力を殆ど使い切っている上に強制転移の際に受けた雷撃によって体のダメージが残っているのだ。その上での全力戦闘はキラの体に多大な負担をかけてしまった。そのため息は切れかけており、足は体が支えるのが辛いかのように震え、意識も朦朧としてきていた。

キラはシュベルトゲベールを地面に突き刺し、倒れそうになる体を支える。そして憎しみにも似たような感情が篭った視線をプレシアへと向けた。

それは明らかな反抗の意思。キラはこのままただやられたというだけで終わらせるつもりはなかった。

だが。

 

(…あ、れ…………………??)

 

直後に視界が歪む。まるで目が回ったかのように世界が、回ってぼやけて目眩がした。何事かとキラは左目を擦ってみる。その瞬間ーーー。

 

ズキンッッッ!!、と。

 

頭が、腕が、体が、足が、筋肉痛とは比べ物にはならないほどの痛み…まるで外側と内側から肉を押し潰されるような感覚がキラを襲い、膝から崩れ落ちた。

 

「ぐ、がああああああァァァァァァァァァァ!?」

 

今まで感じたこともない、原因不明の痛みに耐えられず、キラは絶叫する。手は未だにシュベルトゲベールを握っているが、力はない。キラは痛みで思考が回らず、戦うことはもはやできるわけがなかった。

そんな崩れ落ちたキラを見たプレシアは。

 

「…どうやら、限界がきたようね」

 

感情のない、冷たい声でそう呟く。そしてキラに近づき、話しかけ始める。

 

「今のあなたは体内の莫大な魔力を無理に行使した結果暴走し、破裂寸前の状態…つまり、空気を入れすぎた風船ってところかしらね。

器そのものが小さい(・・・・・・・・・)おかげで膨大な情報量を閉じ込めておくことができず、外へと溢れそうになる魔力とそれを阻害する防壁があなたの体を蝕んでいるわ」

 

痛みが続く中、そんなプレシアの話はキラの耳には殆ど入ってこない。痛みの性、だけでなく絶叫しているから、というのも原因だろう。

 

「あなたが初め、ここに何の前触れもなく現れた時はわからなかった。本当にただの次元漂流者だと思っていたわ。…けれど、思い出した(・・・・・)。だから、私はあなたを利用させてもらうことにしたのよ」

 

言っている意味は理解できなかったが、何か重要なことを言っている気がしてならなかった。

 

「でも、それはもうおしまい。あなたはあの子よりも使える(・・・・)と思っていたけれどそんなことはなかった」

 

そう言ってプレシアは動けないキラの胸倉を掴んで持ち上げる。直後にキラは歪む視界から微かに見えるプレシアの眼を真正面から見た。

 

まるで何かに縋るような、手放せないでいるような狂人染みたその眼。

 

初めて会って会話したあの時の彼女と同一人物とは思えないほどの感情がそこにあった。

 

 

「あなたにもう用はない。どこへなりと消えなさい」

 

 

直後に。

終始酷く冷たく言い放った彼女は、キラの体を容赦なく吹き飛ばした。

 

 

 




挿絵入れようかと思ったんですけど構図が思いつかないという…力不足…。
挿絵は次回入れたいと思っています。

そういえば、終わりが近付いてきましたな

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