魔法少女リリカルなのはSEED   作:☆saviour☆

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PHASE-13 力だけでも

 

…依然勢いを増し続け、止まる気配のない蠢めく海水の嵐の中、フェイトは思う。

 

ようやく来た、最後の舞台。今日この場で確かに終わるジュエルシード収集の戦い。今まで行方不明だったジュエルシードはこの海の中で眠る7つで全て封印したことになるんだ、と。

 

(ここにある全てのジュエルシードを手に入れれば…母さんの夢を、叶えてあげられる…)

 

母のために、自分のために、今日まで戦い続けてきたんだと、『バルディッシュ』を強く握る。そうして『バルディッシュ』を構え、足元には金色の魔法陣が展開され、フェイトは呪文を唱え始めた。

 

 

 

 

数時間前。管理局とのジュエルシード争奪戦開始から数日後、フェイト達はジュエルシードを龍だった物も含め三つほど手に入れることが出来た。しかし、管理局から逃亡を謀りながらのジュエルシードの回収は困難を極め、管理局よりも早く、管理局が到着するよりも早く、と、戦闘と封印に時間をかけていられない故に魔力を大量に消費し早急に終わらせていく他なかった。そのため、彼女達は既に休みはしたにも関わらず体の疲れが取れることはほぼなかったに等しく、正直なところ寝っ転がりたいというのが本音だ。

 

「やばい…慣れていないせいなのか、それとも動きすぎたせいなのか、この前からの筋肉痛が治る気がしない」

「なんでだよ、筋肉痛と言ってもあんたは殆ど動いていないから体に負担をかけてないし言うほど辛くないんじゃないかい?」

 

キラが何やら太ももをさすりながら、そんなセリフを零したが。アルフの言う通り、キラは相変わらず足手まといであり、ジュエルシード確保の際は殆どフェイト任せであり、キラが役に立てた時といったらフェイトの消費魔力をフェイトとアルフ、二人でジュエルシードを封印してきた時より抑えることができたくらいだろうか。おかげでフェイトはここまで魔力の枯渇に陥らずに済み、ジュエルシードの異相体を封印してこれたのだが。

 

ちなみに消費魔力を抑えることができた、というのはキラが“アグニ”による攻撃で魔力ダメージにより一気に異相体の体力(?)を奪えたため、封印に魔力を注ぐことができた。要は暴走体との戦闘にフェイトは魔力を殆ど使わずに済んだということだ。それでもキラがほぼ動いていないというのは前述した通り、キラは“アグニ”による砲撃をしていたからであり、ジュエルシードの異相体の動きを止めたり攻撃したりしたのはアルフなのでキラは毎回動き回ることなく砲撃できたのだ。

 

故に筋肉痛が治りそうにないというキラの言葉に、キラより動いているアルフは少し腹が立つのである。

 

「未だに魔法を使いこなせていないあんたのために動きまくってるアタシの身にもなってよ」

 

うぐっ…とキラは事実と自分が気にしていたことを指摘され、言葉に詰まる。…が。筋肉痛も事実な訳で。

 

「その…“アグニ”って地上でも空中でも撃った時の反動が凄いからさ。射線ズレないよう体勢を維持するのに結構筋肉使うんだよね…」

 

そう。そもそも魔法自体未だに使用に慣れていないキラは勿論魔法戦の技術はほぼないに等しく、最近は最初よりも慣れてきたが、それでも体には負担をかけているようで連日の魔法戦の繰り返しによりようやく体が悲鳴をあげてきたのだ。

 

「まあ、砲撃系は確かに反動もあるし、キラはここんのところ毎回撃ちまくってるしねぇ…。仕方ないといえば仕方ないのかな」

 

アルフは理由を聞き、腕を組みながら困ったような表情で納得する。それからジッとジト目でキラがさすっていた筋肉痛により痛めているであろう足の太ももを見る。そして何やら悪そうな顔をするとキラの背後へと回った。

 

「大丈夫?辛いようなら休んでいてもいいんだよ?」

「いや、我慢すれば耐えれるから大丈夫だよ。ごめんね、弱音吐いちゃって…」

 

当のキラは背後からアルフが忍び足で迫ってきているとも知らずに呑気にフェイトと向き合った状態で話していた。当然、キラと向き合っているフェイトはキラの背後から忍び寄るアルフを見つけられるわけで、何をしているのか疑問に思った。

 

「………えーっと、アル」

「えいっ」

 

フェイトがアルフに何をしているのかを聞こうとした瞬間、アルフはキラの太ももを足のつま先で割と強くつついてみた。

 

「……ッッんあ!?」

 

やはりというか筋肉痛の太ももに響いたようで。突然訪れた衝撃と痛みによりキラは飛び跳ね、丁度前方にいたフェイトに抱きつくような形となり、フェイトはフェイトでキラに押し倒されないようキラを支えていた。

 

「ご、ごめ………つぅ…」

「え、ごめんそんなに痛いとは思わなかったよ…」

 

思いのほかオーバーリアクションだったため、アルフは少し申し訳なさそうに謝る。それに対してキラは大丈夫と返すがその様子はまるで大丈夫ではなさそうだった。

 

「それよりもそれ以上フェイトにくっついてたら今度は蹴るよ」

「ちょ…洒落にならないって…っ!それよりもジュエルシードは!?」

 

アルフの脅迫を聞いてキラは素早くフェイトから離れる。流石につつかれただけで痛みを発する太ももを蹴られたくないのだ。断じてキラは痛みに快感を覚えるわけではないので当然だが。

 

さて。そろそろキラの言う通りジュエルシードの話に移すとしよう。今しがた彼らがいる場所は海辺の近く。フェイトによれば管理局側が今まで得たジュエルシードは恐らく四つであり、今までに得たもの、確認できたものを合わせ、更にジュエルシードの捜索範囲が海に絞られたことから残り七つほどのジュエルシードは全て海の中にあると推測した。その全てジュエルシードの確保のため、今は地上を歩きつつ、海へとやってきたのだが…。

 

「問題は海の中の一体何処にジュエルシードがあるのか。当然、海上からじゃ海底まで視認できそうにないし、ジュエルシードも多分まだ安定しているだろうから探知も難しいんだ」

「…なら、どうするの?…まさか手当り次第潜っては上がってを繰り返すんじゃ………」

「その手もあるけど効率悪いし、体力だって使う。正直、いい方法と言うには程遠いよ」

 

アルフはキラの予想を否定する。それに広大な海の底をある程度範囲が絞られているとは言え、潜っては上がっての繰り返しによる捜索はあまりにも時間がかかりすぎるだろう。例え運良く見つけられても七つ全てを発見する頃には管理局にも追いつかれてお終い、体力も魔力も使い切った後では抵抗も出来ずにお縄につくことになるだろう。

 

「そこで、捜索範囲に魔力流を撃ち込むんだ」

 

フェイトが言ったその作戦はつまり、海底に眠るジュエルシードに魔力反応を引き起こさせ、強制発動させるという荒業。以前にも居場所の特定のために行われた方法だ。

 

「そんなことして…暴走って七つ同時にってことだよね。危険じゃないかな。魔力だってきっと殆ど使っちゃうんでしょ…?」

「だからこそあたし達がいるんだろ?フェイトが魔力を撃ち込んだら、あたし達も全力で戦うんだ」

 

早急にジュエルシードを確保するにはもうその方法しかない。けれどその方法も手当り次第の作戦と殆どなんら変わらない。時間こそ早くなるが、魔力の消費も早くなるだけだ。しかし、それほど彼女達は既に追い詰められていた。

 

 

 

 

時間は戻り捜索範囲内の海上にて。

フェイトの金色の魔法陣が展開されると上空の雲からは稲妻がはしりはじめた。

 

「アルカス・クルタス・エイギアス……煌めきたる雷迅よ…」

 

それはフェイトの最大の魔法。過去にフェイトが魔導師として強くなるために完成させた最大攻撃魔法、“フォトンランサー・ファランクスシフト”。それを海へと撃ち込むために発動呪文を唱え続ける。

けれど。

 

(…確かに、ジュエルシードはこの周辺の海の中で、強制発動させればあとは封印するだけ…。でもフェイトちゃんだってこれは流石に限界を超えてるはずだ…)

 

魔法の知識は殆どないがたった一つのジュエルシードですらある程度の苦戦を強いられるのに、特大魔法の発動と七つ同時にジュエルシードを相手に戦うことを考えればフェイトでも限界を迎えるであろうことはキラでも想像できた。それはきっとフェイト本人も気付いているはずだ。しかし、それでもこの方法をとるのは恐らく管理局も同じくこの辺り一帯を捜査範囲としており、モタモタしていれば先にジュエルシードを確保されるのを恐れているからだろう。

 

「打つは雷…響くは轟雷………アルカス・クルタス・エイギアス…」

 

既にフェイトの周りにはフォトンスフィアが38基。そしてフェイトが『バルディッシュ』を掲げ。

 

「ハァァァァァッ!!」

 

振り下ろした瞬間、稲妻が、閃光が、海へと降り注ぐ。周辺は雷鳴が響き渡り轟音が耳を突き抜けていく。そして、フェイトとアルフの狙い通り、ジュエルシードが強制発動されたのか海からは七つの水柱が噴き上げた。

 

「アルフ…空間結界とサポートをお願い…」

「任せてといて!!」

 

フェイトは疲れた様子でアルフに言う。やはり、フェイトですら先程の魔法はだいぶ負担となったようだ。

 

「キラ!これが最後、全力で行くよ!!」

「うん!」

 

そしてアルフの掛け声とともにキラはまるで触手のようにうねる水柱へと突撃して行く。足の痛みなど気にしている場合ではない、フェイト達を守るためにも自身が頑張らなくてはいけないと、キラはライフルの銃口を水柱へと向けて魔力弾を数発撃ち出した。

 

 

 

 

時空管理局次元空間航行艦船アースラのメインブリッジでは丁度海上にて戦闘中のフェイト達の映像が流れていた。彼らはジュエルシードの捜査区域の海上にフェイトの大型魔力を感知し、既に作戦行動のために準備を進めていた。

 

「なんとも無茶をする子達ね…」

「無謀ですね。間違いなく自滅します。…あれは個人が出せる魔力の限界を超えている…」

 

映像を見ながら、リンディとクロノは会話する。映像では複数の水流相手に抗い続けるキラとアルフ、そして魔力不足なのかフラフラと飛びながら戦っていた。と、クロノが映像を見ていると背後の扉が開かれ、なのはがブリッジへと入ってきた。

 

「フェイトちゃん…!!あの、私急いで現場に…!」

 

映像にはすぐに気付き、フェイトが戦っていることを知った。けれど。

 

「…その必要はない。放っておけばあの子は自滅する。自滅しなかったら力を使い果たしたところで叩く…。今のうちに捕獲の準備を」

「了解」

 

より確実に確保するにはそれが最善策だ。ジュエルシード自体、管理局の武装員で封印も可能である上にフェイトは魔力枯渇で弱っている。例えジュエルシード全てを封印されたとしても、三人は確実に疲労しており、数による制圧で簡単に捕縛できるだろう。

 

「でも………………ッ!!」

 

クロノの考えもわかる。けれどなのはは納得できなかった。今まで戦ってきた少女を、最善の一手のためとは言え見捨てるのは嫌だった。

 

あの子を、助けたい。

 

そんななのはの想いが伝わったのか。

彼女の味方はすぐ近くにいた。

 

 

 

 

「次から次へと…っ!!」

 

戦いは思っていたより苦戦を強いられ、キラの動きは確かに鈍くなっていっていた。しかし諦めるわけにはいかず、必死に水流から逃れながら魔力弾を撃ち込み続ける。だが、水柱による雨と水しぶきで視界を妨げられており、もはやギリギリの戦いを行っていた。

 

(数分飛び続けて未だにジュエルシードの確保はゼロ。…体力も魔力も限界が近い…)

 

疲労が溜まってはいるがキラの思考回路は冷静に回っており、状況整理を行う。アルフもフェイトのサポートをしているが元々空中戦闘が苦手とするらしい彼女もやはり一人で数を相手にするのは難しいようだ。フェイトももはやフラフラであり、正直これ以上の戦闘は危険であろう。

 

「フェイトちゃん!!アルフさん!!」

 

二人の援護を、とキラは二人のもとへと飛翔するも水流はキラの行き先を妨げ、更には捕らえようとしているのか複数の水流が襲いかかってくる。必死に回避と魔力弾を撃ち込み押し返そうとするが抵抗も虚しく。ついにキラは一つの水流に足をとられてしまった。

 

「しま…………!?」

 

動きが止まってしまえば格好の的だ。あらゆる方向から水流が瞬く間にキラの体を呑み尽くす。そして今度はキラの頭上から水流が迫ってきた瞬間。キラは聞きーーー見た。

 

「フェイトッ!?フェイトオォォォッ!!」

 

フェイトもキラと同じく水流に呑み込まれ、アルフは水流による攻撃でフェイトから距離を離されて行くその光景。

 

その時、キラの中でまるで時間の流れが遅くなったような感覚に陥った。

 

ーーーまた…僕は………

 

今度は全身を水に呑み込まれ、荒れ狂う水の流れはキラの体を揺らし続ける。息が出来ずに、上も下もわからないその状況でそれでもキラは呑み込まれる前に見た光景が脳裏に焼き付いて離れなかった。

そして。

 

「く、そおおおおおおオオオォォォォォォォォォァァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

弾けて割れて。空間全てを掌握したような、不思議な感覚を得た。

 

 

 

 

フェイトの魔力不足は深刻であり、『バルディッシュ』のサイズフォームの魔力刃は殆ど原型を留めておらず、今にも消えてしまいそうだった。そもそも飛行するのがやっとであり、水柱に対して攻撃しても弾き飛ばされてしまうほどだ。…それでもフェイトは諦めようとしない。何度も何度も水流を叩き斬り続けていた。

 

(あともう少し………もう少しで…)

 

この七つのジュエルシード全てを持って帰ることができたら、長かった仕事は一先ず終えることができる。何より、母の願いをもう少し叶えてあげられると思うとフェイトはこんな時でも頑張ることができた。疲労に耐えることだってできたのだ。だが結局はそれは気持ちだけであって、体は疲労に耐えられるはずが無い。疲れが溜まれば体はやがて動きが悪くなる。電灯を使い続ければその光力は弱まっていくのと同じように。

そんなフェイトを水流が簡単に見逃してくれるわけではなく、三方向から同時に襲いかかってきた。当然避けることはできず、水流の中に呑み込まれた。

 

「…………ーーー!!……ォ…ー!!!」

 

水の中は流れが荒れているせいか外からの音を殆ど遮断しており、アルフの声は微かに聞こえる程度。息もできなければ、抜け出す気力も水を吹き飛ばす力もない。ただもがくことしかできなかった。

 

そんな時。

 

蒼の魔力の砲撃がフェイトを呑み込んだ水流を本体の水柱から切り離した。

 

「…ッハァ、あ…!?ゲホッ、ケホ…っ、ハァ」

 

ジュエルシードの制御下から外れればただの水。重力に従い、海の中へと落ちていきフェイトは解放された。

 

「…ハァ…ハァ…キ、ラ…?」

 

息を切らしながらも、助けてくれたであろう彼の名を呼ぶ。水柱によりその姿は見えなかったが、蒼の魔力弾と水が飛び交っているのが確認できた。

 

(私も…早く…キラを…)

 

限界は近い。動くのが辛い。けれど立ち止まるわけにはいかなかった。

 

「フェイトォッ!!」

 

アルフの叫びに、フェイトは気付く。水流が再びフェイトへと迫ってきていたことに。今のフェイトに、避けることはできなかった。

けれど次の瞬間。

 

一筋の桃色の一線が、水流を吹き飛ばす。

 

振り返ってみれば、雲の隙間から射し込む光から舞い降りる影が一つ。

高町なのは。

白の魔法少女の到来。

 

「あの子は…」

 

ーーーこの状況であの子の相手なんて…

 

できるはずはない。故になのはがフェイトに接近してきても、フェイトはその場から離れることはなかった。だが、不思議と自分が彼女に対して警戒するのを止めている事に気付く。

助けてくれたからだろうか。それとも?

 

「…フェイトちゃん……。一緒に、ジュエルシードを止めよう」

 

なのははフェイトに接近するなり、協力を申し込む。突然の申し出にフェイトは戸惑い、返事ができない。

 

『Divide energy』

 

突然、フェイトはなのはから魔力の供給される。

 

『Power charge』

『Supply complete』

 

魔力は回復し、消えかかっていた『バルディッシュ』の魔力刃も勢いよく噴出した。

 

「二人できっちり、はんぶんこ、だよ!ユーノくんとアルフさんが止めてくれてる…だからいまのうち!二人でせーので一気に封印するよ!」

 

複数の水柱の方を見れば、アルフと初めて見る少年が“チェーンバインド”で水柱の動きを封じていた。

なのははフェイトよりも上空へと飛んで行き、そこにはどうしたらいいのかわからないというようなフェイトだけが残っていた。

 

『Grave foam set up』

「『バルディッシュ』…?」

 

そんな状態のフェイトを後押しするかのように、『バルディッシュ』が自らの意思で大魔法発動のための形態へと切り替わる。そして決心したのか、フェイトは魔法陣を展開させ…。

 

「せー…の!」

 

金色と桃色の稲妻と砲撃が七つのジュエルシードを呑み込んだ。

 

 

辺りには静寂が訪れ、雲の隙間から射し込む太陽の光とその光を反射している海面がその風景を神々しくしていた。戦いを終え、彼、彼女達は一先ず安心する。そんな中でなのははフェイトへと再び接近、そして対面した。その間には海の中より浮上した七つのジュエルシード。だが、今のなのはにとってはジュエルシードよりもフェイトとのことが一番大事だった。

 

「…フェイトちゃんに言いたいこと、やっとまとまったんだ」

 

なのはは言う。彼女はなりたかった。

 

「私はフェイトちゃんと色んなことを話し合って……伝え合いたい」

 

そう例えば。

嬉しい気持ちも悲しい気持ちもわけあたえられる。言いたいことを言い合える。一緒にいると楽しくなれる。

そんな素晴らしい関係に。

 

 

 

「友達に…なりたいんだ」

 

 

 




筋肉痛の件が思いのほか長くなってしまった…

個人的に最後の方の…の後の文章が綺麗に書けたかなって思ってます

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