暗く決して広くない部屋。だが、完全な闇があるわけではなく、部屋の出入り口の丁度正面に設備されているコンピューターの壁の前に映された空間モニターから光が発せられている。
そんな端から見れば目が悪くなりそうな不健康極まりない部屋にコンピューターの正面の椅子に座っている少女がいた。
「〜♪〜〜♪♪♪〜っと♪」
鼻歌まじりに、少女は正面にあるコンピューター操作のためのキーボードを軽快に、華麗にいじっている。指の動きには一切の迷いはなく、おまけに間違えることなく、少女は自分がモニターに映し出そうとしていたあらゆる情報…とある2人の魔導師が戦った時の映像が空間モニターに映し出される。
「うんうん、よく撮れてるし、魔力値の観測も完璧だね〜♪」
コンピューターの観測を何の問題もなく無事終了したことを表す表記を確認すると少女は一度椅子の背もたれに大きく寄りかかる。ちなみにそのとある2人の魔導師とは言わずもがなコンテナヤードで戦闘していたなのはとフェイトである。…いや、正確に思い出せば二人だけではなく、他にも戦いに参加していた者もいたのだが(しかもそのうち一人は戦闘開始の火蓋を切っている)。
映像の中には先程のコンテナヤード戦(仮)だけでなく、以前のジュエルシード暴走前に夜の街中で行われたものもある。
「どうだエイミィ。分析結果は…」
エイミィと呼ばれた今しがたキーボードを操っていた少女…エイミィ・リミエッタがモニターに映し出された『魔力値』の観測結果を見ていると丁度背後にある自動ドアから少年が立ち入る。
「あ、クロノくん。グッドタイミングだよ〜」
少年はクロノ・ハラオウン。コンテナヤードでなのはとフェイトの戦闘開始の直前に乱入してきた魔導師である。
そして、彼がいるということは先程説明したこの部屋…いやこの場所は管理局の次元空間航行艦船、時空管理局・巡航L級8番艦アースラの一室である。
「ああ、てっきりもう確認作業を終えていたものだと思っていたよ」
「え〜?なんだかその言い方だとまるであたしが少し前まで怠けていたか確認作業に時間がかかる無能みたいだよ?」
「あ、いや、エイミィの管制官としての実力を信頼した上での推測だったんだが…」
「え〜なんかクロノくんにそう言われると少し照れるなぁ〜。…まあ、艦長達が話しをしている間に無断休憩でさっきまで茶菓子をいただいていたんだけどね」
おい、という短い制止の声を無視してエイミィは早速モニターのなのはとフェイトの映像の下に魔力値観測結果を表示させる。
「へえぇ…!これは凄いわ……」
「………………………………………」
観測結果は二人とも『AAA』。更にそれぞれ具体的な数値が表示されている。
この『AAA』とは魔力量クラスのことであり、簡単に説明するのなら魔導師の保有する魔力量のレベル、と言ったところか。
「どっちも『AAA』クラスの魔導師よ…」
「………ああ」
ちなみに『AAA』を含め全部で11ものランクあるが、この『AAA』がどれくらい強いものなのか簡単に説明すると『本気を出せば街一つ消し飛ばせるレベル』である。おまけに管理局で魔導師の総合能力を表す魔導師ランク『AAA』以上の隊員は全体で5%にすら満たないという希少な存在。つまり対等な力を持つ隊員が揃えることが難しいため、2人は魔導師として非常に厄介極まりないのだ。
「魔力の平均値を見ても白い子で127万…黒い子で143万…。最大発揮時はさらにその3倍以上…」
「………………………ふむ……」
「クロノくんより……
なのはとフェイト、2人の意外な魔力量の多さに少し驚きながらも、エイミィはクロノにからかうように指摘する。
それに少し頭にきたのか、若干声量を上げて言う。
「魔法は魔力値の大きさだけじゃない、状況に合わせた応用力と的確に使用できる判断力だろ」
「それはもちろん…信頼してるよ、アースラの切り札だもん、クロノくんは!」
そう言ったエイミィはクロノに笑顔を見せる。釣られてクロノも先程の怒りは何処かへ行ったのか、少し頬を緩めた。
「…しかしまあ、黒い子達を逃しちゃったのは詰めが甘かったね」
「………状況から分析した最善の行動だと思う…が?」
エイミィがモニターに今回は確保できなかった3人組を映す。
そこに映された人物はフェイト、アルフ、そしてキラだ。
「やっぱり可愛い女の子相手だと甘くなるのかな?2人ともクロノくんの好みのタイプだもんね?」
「そんなことはどうでもいいし…関係がない、ただ予想外の展開に驚いただけだ」
「そう?まあクロノくんは優しいからね〜…ってさっき状況に合わせた応用力とかなんとかって言ってなかった?」
「ぐ…っ、え、エイミィ主任、仕事中だぞ。真面目にモニタリングしろ」
「ふふ、はいはいっと〜」
2人がそう言い合っていると、背後の扉からノックの音が聞こえた。どうぞ、とクロノがエイミィの変わりに言うと、部屋に緑色の長い髪と額のマークが印象的な女性が入ってきた。
彼女の名はリンディ・ハラオウン。アースラの艦長であり、同性で察せるとおりクロノの母親でもある。
「二人とも、おつかれさま」
「あ…艦長」
「おつかれさまですっ」
リンディが柔らかな声で二人にそう言うとクロノとエイミィは挨拶をする。所謂、地位が上の者に対して敬意を表す動作、敬礼というやつだ。リンディはそれに対し答礼で応え、ようやくモニターに映された画像を目で捉える。
「なるほど…やっぱり凄い子たちね…。これだけの魔力がロストロギアに注ぎ込まれれば…次元震が起こるのもうなずけるわ。この黒い子もすごいけど…特になのはさんね」
リンディはモニター上に記載されている情報を見て、少し驚いているかのように言う。それを聞いたはクロノは。
「ええ…ただ彼女が保有する莫大な魔力量と瞬間出力、遠隔制御能力、そして最大加速と瞬間加速にこそ優れていますが…設置系や時間差系といった小技を使えないのか使わないのか…これでは動きの速い相手には格好の的になる」
と、評価した。これは高町なのはが魔法戦において飛んできた攻撃を受けるのではなく、受けて逸らすか正面から受けきる、といった精密で細かな動きは取らず、攻撃と防御のみに集中した戦い方に気付いたからだ。
「確かになのはさんの魔法には例え10発撃たれても、それを耐えきる防御と逆転できるほどの攻撃があるけど…十分な訓練や経験を積まずに実戦に出ざるを得なかったからこそのスタイルね。彼女、魔法の訓練を始めてからひと月も経っていないそうだから…」
「ええっ!?」
リンディのその言葉を聞いていたエイミィがまさかの事実に驚愕の声を上げた。無理もない、高町なのはは魔法において初心者も当然なのにもかかわらず、熟練者である魔導師相手と渡り合えるほどの力を持つのだから。
「…彼女の愛機は高性能デバイスのようでした。きっと主人が置かれた状況を考え、自らの性能やモードごとの変形機構をそのように特化させて調整しているのかと…」
クロノが今度は『レイジングハート』に対して推測する。
「しかし困ったわ…」
「何がです?」
リンディの言葉の意味…理由がわからないエイミィが質問するとリンディはモニターに映るなのはを見ながら言う。
「それだけの魔導師となると…正式な認可を得ずに魔法の存在が認知されていない管理局の管理外世界にこれまでの生活を何一つ変えることなく滞在し続ける…というのは難しいかもしれない…」
なのは達は仕方なかったかももしれなかったとは言え、魔法が認知されてもいない世界で魔導師と何戦も交え、しかも稀有な才能を持つ魔導師ともなると管理局から目を付けられるのは逃れられないはずだ。となれば。今までと同じ…というわけにはいかないだろう。
「…その件の対応については本件が落ち着いてからでもゆっくりと…今は返答待ちでもありますし」
「…そうね」
返答待ち、というのはつい数時間前に高町なのはとユーノ・スクライアと話し合い、提案した「管理局がジュエルシードの回収の全権を担当する」ということに対しての二人の答えのことだ。
「うーん、すごく良い子だし…管理局的にも放っておくには勿体無い逸材ですよねー」
「うるさいぞエイミィ」
そんなやり取りをする2人だが、リンディの表情は晴れない。真剣な面持ちでモニターを見続けていた。
「なのはさんとユーノくんがジュエルシードを集める理由はわかったけど…こっちの黒い子は………どうなのかしらね?」
「彼女達は随分と必死な様子でした…何か余程強い目的があるのか…それにこの少年…」
クロノがそこまで言ったところでエイミィがモニターを操作し、キラの画像をアップでモニター上に映した。
「彼は特に怪しい…というか不思議です。保有魔力量はCクラスにも関わらず、戦闘中に突然の魔力波の変容と魔力量の増加…」
「…謎ね、観測機の故障を疑いたくなるくらい」
「まあ、普通じゃまず見られませんからねぇ」
モニターに映ったのはキラの画像、だけでなく、キラの魔力波長ー魔導師の根源たる『リンカーコア』が発する信号の様なものであり、一人一人が独自の波長を発しているものーが記録されたものと魔力値のグラフ。どちらもある時間においてデータだけを見ると別人のように切り替わっている。
「一体どんな技術を用いたのか…」
「こうなると、彼がまだ何か隠してるかもしれないことを疑うよね。…実はクロノくんより強い子だったりして」
「…いや、魔力の変容には驚いたが彼の戦い方は戦闘経験があるとしても少し体勢がなっていなかった。勝てない相手ではないと思う」
エイミィがからかうように言うと、クロノは少し考えてからそう言った。魔力量は確かに急激に増加し、動きも早くて鋭いものだった。…しかし、時空管理局執務官からしてみれば、まだまだ荒削りで、まるでイメージだけが突出し、体が追い付いていないようだった。故にリズムさえ崩してしまえばあっさり捕えられるだろう。
「とは言え、油断しているとこっちが足を掬われるだろうな」
「今日みたいに?」
「あれは別に油断したわけじゃ…っ!…いや、正直少しばかり彼を見くびっていたかもしれない。心構えさえしていればもしかしたら逃げられることはなかった。僕もまだまだだな…」
強く拳を握り、自分の愚かさに苛立つクロノ。まだ10代であるにも関わらず執務官にまで上り詰めた彼だが、油断してしまったのは若さゆえの過ちだろう。
「彼は確か、キラ、くん?ってなのはさんは言ってたわよね?」
「えぇ…。まあ、彼女もフェイトって子が彼の名を呼んでいるのを聞いているだけだそうなので、本名かどうか確定するわけにはいきませんが」
なのはからはフェイトと共に行動している少年、とだけ聞いているだけで詳しくは教えて貰っていない。勿論、なのはにも詳しいことは知らないのだが。知っているのはキラがフェイトとアルフと共に行動していること。魔導師であること。…それくらいであろう。
「兎に角、彼らがジュエルシードを回収し回っているのなら早急にこちらも動かなくてはいけないわね…。エイミィの方で彼らの身元を調査をお願いできるかしら?」
「任せてください艦長!クロノくんに期待されてる私が全て突き止めてやりますよ!!」
そう言ってエイミィは早速行動する。流石と言うべきなのか、先程は勝手に休憩していたと言っていた彼女だが仕事はしっかりとこなす優秀な人材である。
これであとはジュエルシードの回収だけだろう。フェイト達よりも先に管理局はジュエルシードを確保しなくてはいけない。緊急事態を引き起こさないためにも、彼女達にジュエルシードの使用をさせないためにも。
「それにしても...」
「艦長?どうかしましたか?」
リンディはキラの戦闘時の記録映像を見ながら、何やら思ったことがあるのか顎に指をあてつつ、声を漏らす。
リンディにはまだ気になることが残っていた。それはうろ覚えで、もしかしたら気のせいなのかもしれない。
考えすぎかもしれない。けれど、そう思えても何故だか『それ』に関しては決して疎かにしてはいけないのではないか、と不思議と考えてしまう。…そして、エイミィに聞かれてから数秒考えて間を置いてから、リンディは口を開く。
「ごめんなさいね?『キラ』っていう単語を過去に
それはきっと今は誰も、
特になんてことのない話。
エイミィの使ってたパソコンみたいなやつってどんなのだったかうろ覚えで説明を書いたのでなんか「この表現は違うよ」と思うところがあったら教えてください…勿論、パソコンの説明以外にも間違えがあれば是非