現れたのは少年だった。
「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」
そう言って、少年-クロノ・ハラオウン-はなのはとフェイトを交互に見る。その二人の手足には青色の光が手錠のように、巻き付いていた。これはクロノが登場と同時に発動したバインドと一般的に呼ばれる魔法だ。相手を捕らえ、動きを止める補助魔法である。
魔導師として未熟なキラも、フェイト達に特訓の際、見せてもらっていたのですぐにバインドだと気付いた。そしてまた、
「…管理局」
ふと、横に立っているアルフがそう呟き、右手をクロノへと向けた。
直後。オレンジ色の複数の魔力弾がクロノへと発射される。
「アル…ッ!?」
キラは驚愕した。不意打ちとも取れるその攻撃はまるで焦っているかのようだったから。
しかし、アルフの放った魔力弾はクロノの魔力防御壁によって弾かれる。
「君はッ!!」
「キラ!フェイト!今すぐ撤退するよッ!!」
クロノの叫びを無視してアルフが叫んだと同時に、再びクロノに魔力弾を放つ。…その際、クロノは回避行動はとらず、先程と同じように魔力弾を防御で防いだ。背後にいたなのはを守るためだ。
それと同時に、フェイトはバインドを破った。
だが、フェイトはアルフとキラのもとには行かず、別の場所を目指して走る。目的はジュエルシードだ。
「フェイトッ!?」
今はまだダメだ、とやって来た管理局員の能力がわからない現状では多少の距離はあるジュエルシードを取りに行くのは無謀だとアルフは考えていたのだ。故の制止をかける言葉だった。
直後だ。
魔力弾により、舞い上がった砂煙の中から青の魔力弾が数弾、フェイトに襲いかかり、案の定接触、フェイトは弾き飛ばされた。
「…あ、…っ?」
咄嗟の出来事、故に反応が遅れた。
キラは何も出来ず、ただ立ち尽くしていただけだった。しかし突如現れた少年、クロノ・ハラオウンは違った。冷静な状況判断。視界の悪い中でも相手の位置を特定し、急所を狙った精密な射撃。
………格上だ。
「フェイトォッ!!」
はっ、と。アルフのフェイトを呼ぶ声でキラの意識は先ほどクロノに攻撃されたフェイトに向けられた。
ー…そうだ、立ち止まっている訳にはいかないッー
サーベルを持つ右手に力を入れ、構え直す。狙いはクロノ。キラの考えでは恐らく正面からぶつかっても勝ち目はまずないだろう。ならば、狙うべきは『暗殺』だ。言い方を変えれば、不意打ち。殺す、まではしないがクロノの意識はほぼ確実に先程の攻撃で身動きの取れないフェイトに向けられているだろう。ならば、狙うタイミングは今しかなかった。
だが、問題がある。
(彼はきっと強いし、戦いの経験だって豊富なはずだ。だから、攻撃しようとすれば感付かれて不意打ちなんてできやしないに決まってる…)
そう、先程も述べたが、クロノはベテラン。名乗りを挙げた際の『執務官』という立場は恐らく簡単になれるものではないと、キラは推測していた。
簡単になれない立場をまだ若干幼いうちから『その場所』に立っている彼はきっと戦いの経験も、戦う術も知っているはずだ。だからこそ、魔導師として、
故に不意打ちなんてものをしようとすれば、自身に向けられた殺気に気づいてあっさりと避けられてしまうだろう。
(何か…何か手はないのか…ッ?)
焦り。
タラリと額から汗が流れる。
打つ手のない、いや作戦が思いつかないこの状況で、キラは少しずつ追い詰められていた。
そして、そうこうしている内にクロノはフェイトに向けた杖の先から青の魔力弾を複数生成する。…先程フェイトに向けて放った直射型の高速射撃魔法だろう。それをもう一度放つつもりだ。今度はとどめをさすために。
(やめ…ろ…っ)
心の中で、静かそう叫ぶキラ。当然ながらその声はクロノには届くはずもない。
そうして、動かない…動けないフェイトを守るかのようにアルフがフェイトを抱きしめ、その場で目を瞑ってうずくまる。間に合わないと判断したのだろう。
(やめろ…)
再び、キラは心の中で叫ぶ。そして、ある記憶がフラッシュバックした。それは大気圏突入時の事だ。
守り続けた人々を、花をくれたあの子を守れなかった瞬間。あの時のように、ただ見ているだけなんて、手が届かないのは嫌だ、と。
そして、その二人に無慈悲にも。
クロノは魔力弾を射出した。
直後。
「やめろおおおおおォォォォォォォォッッッ!!!」
咆哮。とともに、キラは突如謎の感覚に襲われた。それは辛くも、苦しくもない。むしろ心地の良い気分だ。周りの地形、風の流れ、呼吸、魔力弾の速度、次に取るべき行動、それら全てを掌握したかのような、感覚。初めてではない、以前からいざという時に起きる現象。
ーまた、
そして、フェイトとアルフの前に出たキラは魔力弾を防いだ。
防御魔法…プロテクションと呼ばれる魔法で。
「なっ…!?」
これにはクロノも驚いた。
『プロテクション』…正式名は『アクティブプロテクション』と言い、魔導師の間では一般的であり、基本的な魔法として覚える、もしくは教える者も少なくはない。その性能は基本の防御力は低いものの、発動時間が早い上に防御範囲が広く、おまけに使用魔力も少ないため、非常に便利な魔法だ。更にその性質は触れたものに反応し、対象のものを弾き飛ばすバリアであり、物理攻撃に対する耐性は高い。その使い勝手の良さから様々な応用技も存在し、防御力の低い者もこの魔法の応用技で弱点を補う。
当然ながら、アルフもこの魔法を使用する事が可能であり、キラに魔法を教える際にしっかりと練習させてある。
しかし、前述した通り、この魔法は防御力が低い。ある程度の魔法は防げても、ルーキーがベテランの魔法を、それも直射型の高速魔力弾(元々の火力は特別高い訳ではないが、相手を追わないのでカーブ時の多少の威力軽減がない為、ある程度の高火力を引き出す事ができる)を防ぐことは難しいはずだ。
しかし、キラは防いだ。弾き飛ばしたのだ。
故にクロノは驚愕した。
と、魔力弾を防ぎ終わったキラはいつの間にか小型のナイフを一本ずつ両手に持っていた。
(あの一瞬…で?)
そうして、キラの右足が前に一歩、出た事を視認した直後。
ドンッ、と。
まるで
高速でクロノの間合いに入ったキラは攻撃させない為にも即座に右手に持つナイフを下から上へと放つ。
だが、そこは熟練者。すぐにナイフの動きを読み、あっさりと回避する。
だが、キラも最初の一撃を外しただけでは諦めない。ナイフを逆手で持ち直し、すぐに振り下ろす。クロノもまるで来るのが分かっていたように、首を軽く横へと動かし、攻撃を避ける。キラは更にその逆手で持ったナイフを横へと一閃。だが、今度は飛翔による行動で回避されてしまう。
そして、空中へと逃げたクロノはすぐに魔力弾を複数生成、キラへと放つ。
次々と放たれる魔力弾はキラへと向かって飛んでいく。しかし、それらをキラは後方へと飛翔し、不発に終わった魔力弾の爆発の爆風に乗ってすぐさまフェイトとアルフの元へと立つ。
「アルフさん今のうちです、早く転移を!!」
咄嗟に言い放ったキラの言葉にアルフは一瞬、戸惑う。
と、砂煙の隙間からキラ達を狙うクロノが見えた。
(しまっーーー)
クロノにとって、一瞬の驚愕も隙ができたのと同じだ。魔力弾の射出スピードからして、放てば直撃することは目に見えていた。
けれど。
「やめて撃たないでッ!!撃っちゃダメェッ!!」
背後で身動きのとれない状態でいたなのはがクロノに静止の声をかける。
その直後、クロノは思わず、なのはを見る。
逃走には今しかなかった。
アルフはすぐにキラの手を取り、転移を開始。
結果、キラ達はジュエルシードを手にせず、この場を立ち去ったのだった。
「………逃してしまったか…」
…さて。
ジュエルシードが手に触れられる事なく放置されているこの場所、工業地帯のコンテナヤードに残っているのは、なのはとユーノ、そして突如介入したクロノだ。
「なのは、大丈夫?」
未だにバインドで拘束されているなのはに近付いたユーノが心配そうに言う。
「大丈夫だよ、そんなにキツく縛られてるわけじゃないから」
なのはがそう言うと同時に、クロノがバインドは解いた。
「すまない。念のための措置とはいえ、長く拘束状態にしてしまって」
「あ、いやそんな、私は気にしてな…ませんよ?」
それを聞いたクロノは安心したかのように息を吐き、そしてジュエルシードの回収をする。すると、まるで見ていたかのようにタイミングよく空中モニターがクロノの目の前に現れる。
『クロノ執務官…お疲れ様』
そこに映っていたのは明るい緑の髪、青色の制服を着た女性だった。
「すみません艦長…片方…逃しました」
『ん…ま、大丈夫よ』
艦長、と呼ばれたその人は若干気楽そうな返事をすると、クロノにこう命じる。
『…でね?ちょっと詳しい事情が聞きたいわ。その子たちを『アースラ』までご案内してね』
☆
さて。アルフの転移により、工業地帯を撤退したキラ達は無事に元のマンションへと戻ってこれた。日は完全に沈み、月が空に昇っている。それは先程の戦闘から数時間ほど経ったのだということを実感させる。
「…い…ッ!」
「ごめんよフェイト。また痛むだろうけど包帯、巻くよ…?」
そして、フェイトが右腕に負ったダメージも、突如乱入してきたクロノによる被害がどれほどだったのかを実感させていた。
たった一発もらっただけでフェイトはほとんど動けなくなるとは、クロノがどれだけの脅威だったか、キラも理解できた。…フェイトの装甲が元々薄いのも、ダメージが大きかった理由の一つだろうが。
「…それにしても、あの男の子って何者なんですか?管理局とか執務官とか言ってましたけど…」
フェイトの手当てをしている最中に聞くのもなんだが、知らない事は聞ける時に聞いて知っておきたい。故にキラはアルフに質問する。そしてアルフに聞いたのも彼女なら『管理局』とやらについて何か知っていると思ったからだ。
「…あの子は多分…いや名乗っていた通り、『時空管理局』の局員だよ」
ここにきて、新たに出された『時空管理局』という単語。勿論、キラは『時空管理局』がどのようなものなのか知ってはいない。
「…時空管理局、ってのは次元世界を管理する司法組織…この世界で言うなら『警察』かな。管理局の仕事は主に次元世界で起こった事件の解決、
と、区切ってからアルフはフェイトの腕に巻き終えた包帯を治療箱の中にしまう。
「…アルフさんは彼から逃げようとしてたよね。それもフェイトちゃんが捕まってから、じゃなくて現れて彼が管理局の一員だと名乗った時から」
意外に周りを見ているキラにアルフは若干驚く。そう、アルフはクロノの登場時、即座に魔力弾を生成し始め、尚且つ彼に殺気を向けていたのだ。隣にいたとは言え、突然現れた彼にキラの視線は彼に釘付けで、殺気を放っていたことは気づかれていない、と思っていた。
「…案外、周りを見ているんだねぇアンタは」
そう言って、アルフは一度治療箱を近くにある棚の上に置くとキラの前に立ち、告げる。
「…今更こう言うのもアレなんだけど、あたし達はさ、管理局からしたら違法行為をしているんだよね」
☆
管理局の仕事は『世界』のバランスを安定なものに保つべく管理する次元渡航組織だ。その存在は管理局発祥の地、魔法科学の文化を持つミッドチルダだけでなく、管理内世界…魔法の存在が確認されている世界では管理局の名を知らぬ者はほとんどいないはずだ。それだけ大きな組織。
そして、彼らの役割は発生した事件の迅速な解決、その上で第一に安全の確保である。事件、と言ってもその内容、規模は当然ながら違うが、やはり安全の確保が一番の目的であり、絶対目標とも捉えられるものである。
そしてその安全確保のためにはやはり、もっとも危険と判断された存在の脅威の排除だろう。現場指揮官による判断や上層部の命令によって変わることもあるが、通常は事件の首謀者や発端者、被害拡大の恐れがある異物の回収、解体などが優先されるのだ。
だが、一番危険なのは
よって、
これにより、管理局は
つまり。
☆
「…だから、
疑いは恐らく、現れたタイミングとクロノのあまりの手際の良さからきたのだろう。ベテランだろうが何も知らずに突然戦場、ましてや二人の少女の戦闘に介入しようが状況判断は一瞬ではできないはずなのだから。
何より、時空管理局という巨大な組織が情報も無しに動く訳がない、そうアルフは思った故である。
「…じゃあ、それなら…」
ジュエルシードの回収を命じたフェイトの母は違法な行為と知らないはずはない。なのに何故ジュエルシードの回収を命じたのか、キラは疑問に思う。
何も知らないが故に簡単に口に出すのも難しい。彼女らにも色々事情があるのだろうから。
「…だけど」
ここで、黙っていたフェイトが口を開けた。
「違法行為で管理局に追われても、私はジュエルシードを集めなきゃいけない」
「だけどフェイト、普通の魔導師くらいならまだしもあいつ、ベテラン魔導師だ!!きっと実力もフェイトより上、あんなのとまともに戦ったらフェイトは捕まっちゃうかもしれないんだよっ!!」
「だったら、まともに戦わないで逃げる事を優先しちゃえばいい」
「フェイトっ!!」
アルフが止めようとするがフェイトは頑なに決心を揺るがさずにいる。どうやら、アルフはジュエルシードの捜索には反対のようだった。
その理由は明白、家族同然のフェイトに違法行為なんて早々に止めさせたいのだろう。しかし、フェイトはアルフの気持ちとは裏腹に違法行為ということを気にもせず、ただ母の命令をこなすことだけを考えている。一体、どうしてフェイトはこんなにも母にこだわるのか。
(………そうか、フェイトちゃんは…)
こだわる理由はきっと単純だ。けれど、単純だけど大切で叶えたいものなのだ。母の愛情を貰えない、けどきっと母に甘えたい、平和を望む彼女にとって。
だけど、彼女の事情を知ろうにも知る事ができない彼ら管理局にとって、見えているものはジュエルシードの発動による起きる可能性のある危険だ。
だからきっと容赦は、しない。
何故なら彼らもまた、平和を望むのだから。
(一ヶ月も投稿なしですみませんでした。一応見直しまくったのですが、間違えや誤字があったならご指摘お願いします)
某ガンダムのテレビゲームでステージ「ブリュッセル」、曲を「復讐〜フリーダム撃破」にしてcpエクストフリーダムと戦うの楽しいですハァイ。インパルスの盾ビームかっこいいですまじシン最高