キラは今、非常に焦っていた。
急にアルフが言い出した模擬戦。それ自体は何も問題はない。模擬戦をやれば、自分の実力をある程度確かめることができる上にフェイトとアルフの戦い方を学ぶチャンスでもあったからだ。
故に模擬戦を行うことは賛成だ。
…ただ、ある一点を除けば。
とりあえず、ハンデということで、フォトンランサー以外の魔法を使ってはいけないフェイトとアルフ、ハンデなしのキラは場所も変えずにただ結界をはり、マンションの屋上で軽く戦うことにした。
…配置はなぜか、フェイトとアルフが並んでおり、その向かいにキラが立っていた。
「…っ?いや、あの、なんか僕が一人みたいになってるんだけど」
「あー、まあ気にしないことだね。そんじゃまあ頑張ってねキラ」
アルフから素っ気ない言葉が返された。ようはあれだ。
『こっちはフォトンランサーしか使わないかわりにチームで行かせてもらうぜ☆』ってやつである。
「え、いや無理でしょ。僕まだ見習い的な感じですよ?」
「頑張って」
「だから無理で」
「頑張って」
「………………はい」
なんかフェイトの冷静な返事が地味に怖かったりする。というか、二体一は強制的にやらされることをキラは悟る。
(まあ、向こうはフォトンランサーって魔法だけだから大丈夫かな。てか、結局こうなるのか…)
やはり予想通り。実際には対戦中に二人にやられるだろうとは予想していたのだが、まさかいきなり二人で来るとは思いもよらなかった。
「じゃあ、いくよ!3、2、1…」
開始の合図をアルフがする。
それに合わせてキラは構える。ちなみに服装はそれぞれバリアジャケットを着ている。
キラは『シュナイダーモード』のストライクを構えながら、速攻で接近することを考えていた。
そこで気づく。
(あれ、なんでフェイトちゃんが困ったような顔?)
直後に。
「…れでぃ…GO!!」
その合図と同時に。
ドドドドドドドドドドドドドドどどどどッッッ!!!!、とキラに無数のフォトンランサーが降りかかる。
「うおおおおおおおおおお!?」
ギリギリで障壁をはり、なんとか防ぐ。まさか、試合開始の直後にフェイトとアルフがフォトンランサーを放ってくるとは思いもよらなかった。
「ってこれ不意打ちじゃない!?」
初心者相手になんて卑怯な!というキラの叫びを無視して、フェイトとアルフは休むことなくフォトンランサーを放ち続ける。
だが、キラも負けてはいなかった。障壁に襲いかかる衝撃に耐えながらも、キラはストライクを『シュナイダーモード』から、『ライフルモード』へと切り替える。ナイフは蒼い宝石を取り残し、粒子へと変わり、しかしそれは再び集まり、形を整えていく。やがて、ナイフはライフルへと変化した。形状はMSのストライクの武装であるビームライフルだ。
「これなら…っ!!」
一瞬の隙をつき、キラは障壁を解き、フォトンランサーの嵐から横へとダッシュで逃げ出す。そして、フェイトとアルフのいる場所へライフルの銃口を向け、トリガーを引く。
すると、銃口には蒼い魔力弾が発生し、放たれた。
だかしかし、向こうはプロ。たった一発の魔力弾はアルフがパンチで弾いてしまった。
それも簡単に、
ペチンッ、と。
「あまいあまい!そんな攻撃じゃ、ダメージなんて与えられないよ!」
完全に余裕の笑みを浮かべていた。通常の魔力弾ではダメ。そう思い、打開策を考えようとした直後。
再び、キラに無数のフォトンランサーが襲いかかる。
そして、フォトンランサーで一斉射撃をしているフェイトとアルフはキラのいる場所を眺めていた。
「あらら。これじゃもう戦闘不能かな?」
「…ってアルフ?流石に不意打ちやら一斉射撃とかいくらなんでも酷かったんじゃ…?」
とか言いつつも、フェイトは攻撃を止めたりしない。しかも今現在、放ってる魔法はフォトンランサーでも、その応用であるフォトンランサー・マルチショットという技(誰もフォトンランサーの応用技は使わないとは言ってない)である。手加減はしてあるが。
実は開始直後の一斉射撃はアルフの作戦だったのだ。一見、初心者相手に卑怯な作戦だと思うが、狙いは『その不意打ち攻撃をすることで、キラがどう対処するのか』というのを確認することが目的だった。
「でもまあ、結局何もできずに敗退ってところかねぇ」
少し残念そうにアルフが言う。今もまだ、フォトンランサーを放ち続けるため、恐らく気絶くらいはしてるのでは、と思っていた。
だが、予想は大きく裏切り、フォトンランサーにより舞い上がっていた土煙から蒼く槍のような魔力弾がフェイトとアルフに襲いかかってきた。
「うおっ!?まだ動けたっていうのかい!?」
「キラくんも、結構やるね…」
そう言った直後にボフンッ、と土煙から空へと向かって飛んだ何かが現れた。
それは蒼の翼を背中から展開しているキラだった。蒼の魔力の粒子が、うまく二枚の翼のような形を取っているようで、キラの空中での動きを見る限り、どうやら“ストライク”のモードの一つで空中戦に特化したモードなのだとアルフは判断した。
「へぇ。キラくん、飛翔魔法も習得してたんだね」
フェイトは空を飛ぶキラを見つめながら、言う。
そして、キラにフォトンランサーを二発ほど、撃ち込んで見る。すると、キラは高速で槍のように迫ってくるフォトンランサーを前に向かって飛びながら回転することで回避し、フェイトとアルフに向かって一発ずつ魔力弾を撃つためにライフルの銃口を向け、照準を合わせる。
(これはあくまで魔導師の模擬戦…。殺傷能力はないって言ってたはずだから問題は…ない…っ)
躊躇いながらも、キラは自分に大丈夫だと言い聞かせ、トリガーを引いた。実は魔導師のデバイスは便利なことに攻撃自体を非殺傷に設定することができる上に、その解除もすることができる。非殺傷に設定した場合、物理的なダメージを相手に与えず、魔法によるダメージを攻撃対象の魔力値に与えることができる。…それでも、決してあたっても痛くないというわけではなく、あくまで致命的な外傷を負うことを避けられるだけであるという。
(それでも、死ぬようなことはないはず…!)
とは言え、今しがたフェイトとアルフに放った魔力弾が直撃するとは思えず、というか、予想通り簡単に避けられ、弾かれた。
「そろそろ勝ちに行くとするよ!」
ダンッ!、とアルフが地をおもいっきり蹴ってキラのもとへと飛んでいく。
キラは近づけさせないと、魔力弾を生成、ライフルのトリガーを引く。だが、アルフは魔力弾の軌道を読み取り、ひらりひらりと避けていく。
「…っく、こんな…これは」
魔力弾をあっさりと避けられ、接近を許してしまった。このままでは至近距離から魔力弾を撃ち込まれてしまう。
(…撃ってもあたらないのなら…!)
『それ』は咄嗟の思いつき。だが、『それ』を行うことに躊躇いが応じる。
しかし、模擬戦といえども自分だって負けたくない気持ちがあった。
ーーーこんなので負けたら、僕はきっと何も守れない
信頼を得るためにも、これからのためにも。キラは己が持つ力を発揮する。
『それ』は魔法の経験が少ないキラが唯一、アルフにあてることができるであろう攻撃方法。魔法は使いこなしたとは言えず、まだ頼ることができない。故にキラは
アルフがキラに接近しながら、フォトンランサーを複数撃ち込んでいく。
キラはそれに対し、逃げるわけでもなく、逆に突っ込んで来た。
「弾幕をくぐり抜けてくるつもりかい!?…いいさ、正面からの対決といこうじゃないか!!」
キラの狙いは恐らく打撃。アルフはそう判断し、フォトンランサーを撃ちながらキラへと突進していく。
「「オオおおおおおおおおおおおお!!」」
やがて二人は、激突する。
…と、激突寸前で、キラがブレーキをかけ、アルフの突進を避けるように後方へと下がり始めた。
それにより、アルフがキラを追尾するような形になる。
キラの行動に驚いたアルフは思わず飛行速度を落としてしまった。
(フェイン…トッ!?やっば…っ)
気付いた時には時すでに遅し。キラは体勢を崩してしまい、かつ突進の勢いもなくなってしまったアルフに蹴りをいれた。
「う、がっ!?」
なんとか腕でキラの蹴りを防いだものの、体勢が不安定だったため、吹き飛ばされてしまった。
「よくやるねぇ、キラ…ッ!!」
魔法が満足に扱えない分、キラは己の身体能力を信じて先程の作戦を実行したのだろう、とアルフは判断する。
いくら自分達がフォトンランサーしか使わないとはいえ、初心者でここまでやるとは流石と言わざるを得ない。
「だけど…だけどぉッ!!」
アルフは地上へと落ちていく際に体を捻らせ、キラからフェイトの姿が確認できるようにする。すると、金色の魔力弾が、フォトンランサーがキラに襲いかかる。
「ストライク!!」
『launcher striker form set up』
直後に変化があった。キラの持つライフルがその形状を変化させ、やがて全長がキラの背ほどあるビーム砲が現れた。
それは“ストライク”のストライカーパックの一つ、ランチャーストライカーの主砲とも呼べる320mm超高インパルス砲“アグニ”そのものだった。
『マスター。今のあなたでは遠距離からの大砲撃魔法は放てませんよ』
ストライクがキラに忠告する。理由はその砲撃魔法を放つのに必要な魔力が今のキラには足りないからだ。圧縮、収束することで魔力の消費をある程度抑えることができるが、今のキラにそんな器用なことはできない。故に大砲撃魔法を放てば、キラは一瞬で残存魔力はゼロとなり、戦えなくなる。
「大丈夫だよストライク。僕の狙いは
意識を集中、魔力を手のひらからでもなく、“アグニ”の銃口からでもなく、肩から『それ』を放出するかのような動作をする。
『gun launcher』
ストライクの、大天使の艦長を務めていた女性の声がそう発すると、キラの肩付近から蒼の発射体、スフィアが現れ、マシンガンのような魔力弾をフォトンランサーに、少し大きめの魔力弾をフェイトに向けて五発放った。
「やっぱ、使えるものは使ってくるよね」
フォトンランサーに向けて放ったマシンガン魔力弾は迎撃に成功。しかし、フェイトに向けて放った五発の魔力弾はアルフにより、二発をフォトンランサーで撃ち落とされた。
そして、残り三発はフェイトの方へと飛んでいった。
「…これって、誘導型の射撃魔法?」
フェイトはそう冷静に判断し、フォトンランサーで撃ち落とす。
(なるほど…キラくん、すごく早く魔法について学習してる。驚くくらい)
実はキラが放った誘導型射撃魔法はアルフとの特訓中に、
「ソードストライカーが一つの形態としてストライクに存在するのなら同じ換装装備の一つ、ランチャーストライカーの形態もあるのでは?」という趣旨のもと、試したみたところ、ランチャーストライカーフォームという形態が存在することが判明。また、これによりエールストライカーフォームのことも確認できた。折角なのでランチャーストライカーフォームのまま練習をした結果、先程の近距離迎撃型射撃魔法、“対艦バルカン砲”と誘導型射撃魔法、“ガンランチャー”を放つことに成功。今の所、キラの得意な魔法である。
しかし、やはり得意と言っても所詮初心者魔導師の魔法なので、ベテラン二人には何の障害にもならなかった。
「あぁ、これもうダメっぽいな…」
やれるだけのことはした。もはや反撃の術はなく、というか思いつかず、ただ逃げまわりながら、ライフルで魔力弾を発砲し続けるくらいしかない気がする。
「フェイトちゃんも動き出したか…」
そうこうしているうちに、フェイトがキラへと接近してくる。…周りにフォトンスフィアをいくつも生成しながら。
「えっ、ちょっ、まっ、フェイトちゃん!?」
「ファイア!!」
『Photon Lancer,get set.fire』
一瞬だった。
キラの視界を、金色の光で埋め尽くされたのは…
☆
「いやー!いい運動になったね〜!」
「うん、キラくんの実力を確認することもできたし、私達もいい練習になったから、やってよかったよ」
女の子二人がそんな風に会話している最中、ただ一人、ちょこんとソファに座りながら遠い目をしている少年がいた。
キラである。
結局、あの後フェイトのフォトンランサー・マルチショットを死ぬ思いで避けたものの、背後からアルフのフォトンランサーをまともに受け、最終的に二人のフォトンランサー・マルチショットを全て受けてしまったのである。故に、疲れ果てていた。
しかし、そんなキラとは逆に、フェイトとアルフはある程度満足したようで。
「汗もかいたし、あたし達は風呂にでも行って、汗を洗い流してくるねキラ〜」
そうアルフが言い残して、風呂場へとフェイトとともに消えた。
(あぁ〜、全然ダメだったなぁ)
MSの時とは違う、生身で戦うというのは中々慣れないもので、相当な体力、魔力を消費する。故に先程から体を動かす気力も、キラにはなかった。数分して風呂場からはシャワーの音が聞こえ始めた。キラはその音を聞きながら、思う。
(こんな調子のままで、僕は大切な何かを護ることができるのだろうか…)
思えば、フレイの父が乗る船を落とされた時も、折り紙の花をくれた少女が乗っていた脱出艇を撃たれた時も、トールを殺された時も。
全ては自分が、未熟で、弱くて、情けなかったのが原因だったからだ、と。キラは自分を責める。
ーーーもしも。
もしも、再び大切な何かを討たれたら。
自分は、ーーーーー。
☆
「…う、ん…?」
ガラガラ、と。扉を横にスライドした時の音と何やら話し声が聞こえた。
フェイトとアルフが風呂場から出てきたのだろう。それにしても…
(眠い…寝てたのか…?)
時計を見れば、だいたい5分程度という短い時間寝ていた、というより仮眠をとっていたようだ。
さて。そろそろ汗を洗い流したいキラは風呂に入るための準備にとりかかる。フェイトから与えられた部屋に行き、タンスから着替え、タオルを取り出す。そして、キラはそれらを手に、風呂場へと向かって行った。
☆
それはそうと、キラが着替えをタンスから取り出している最中、リビングには風呂場から出てきたアルフがキラを探しに来ていた。
「あれ?キラってば、どこに行ったんだ?」
風呂に入る前はリビングのソファに座ってはずなのに、とアルフはキラを探しに二階へと上がって行った。
さて。何故アルフはこの時、キラがいる可能性の高いキラの部屋を確認しなかったのか。どうして、念話を使って居場所を聞かなかったのか。
故に、一階の部屋から着替えとタオルを持って、のそのそと出てきたキラが風呂場へと向かって歩いていくことに気付くことはなかった。
☆
キラは少しずつ、確実に風呂場へと接近していた。足取りは恐ろしく普通に。
「シャワー浴びたら、少し寝ようかな…」
ふわぁ、とあくびをしながら、風呂場の扉の前に辿り着く。
そして。
ゆっくりと、扉を開いた。
最初に見たのは、水に濡れている綺麗な金髪。次に女の子らしい、柔らかそうな綺麗な肌。それから気付いたのはその女の子は丁度下着を『穿こうとする』ところであり、その姿は生まれたままの姿…要は全裸であった。
そして、誰が入ってきたのか確かめるために振り向いたのは。
フェイト。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………え」
理解ができなかった。何故なら、キラは
すでにフェイトとアルフは風呂から出たものだと思っていたからだ。
「な、なん、で、なで、なんで…」
フェイトは顔を赤くしながら、何故ここにキラが入ってきたのか聞こうとしたのだが、人生初、男の子に裸を見られたという羞恥のあまり、ろれつが回らなくなっていた。
キラはというと、あまりの突然のことに驚きを隠せず、しかも裸同然のフェイトの姿を見てしまったため、混乱していた。
「いや、あのフェイトちゃん、これはあの、僕は…」
とは言え、ドキドキとまではいかず。見た目は子供、頭脳は大人的な感じが故、子供の裸を見たところで興奮するはずがない。…キラがろりこんだったら、話は別だが。
それはそうと、フェイトは恥ずかしさのあまりか、顔を真っ赤にしながら、それと目から涙を少し流しながらその場にうずくまる。
「いや、フェイトちゃん、あのこれはね?」
とりあえず、これは事故なんだと説明しようとしたが、、、
「…キラ、なにしてんの?」
冷たく、ドスの効いた声が背後から聞こえた。はあぁぁぁ、と気合を入れるが如く息を吐く音と、バシッという手のひらに拳を勢いよく当てる音が聞こえる。
ギギギギギ、と錆び付いたロボットのように後ろを振り返る。
そこには…
「覚悟はできてるよね?このフナムシ野郎」
とても穏やかとは思えないアルフがいた。
「………アノ、違ウンデス」
直後に。
ぎゃあああああああああああああああああああああああ!?という叫び声が、マンション中に響いたのだという。
書き終わるのに少し長くなってしまいました(^_^;)
悩んだ末に書き終えました笑。
アルフのフナムシ発言は声優ネタです、誰だかわかりますかな。