少年は立っていた。
どうしてこんな所で立っていたのか、気付けばそこにいた少年は理解出来ないでいた。わかる事は今いる場所が先の見えない暗闇の世界だということだけ。あたりを見回しても、何があるわけでもなかった。
だが、意識が覚醒してからしばらく経ってから、何やら聞こえ始めた。
“…やあ、初めまして、かな?”
…聞こえた声はまるで幼い少年にも少女のようにも聞こえ、高く透き通っていた。
“ようこそ、終わらない
ここはね、人一人の望みのままに叶え、終わることのない夢を創る世界さ。
僕らから視える『ここ』は今は闇で染まっていて夜みたいだけど、君に明確な『夢』がないからかな?
だからこそ、夢を思い浮かべられないからこそ、この『世界』が『創られ』ないのかもね”
次々と語られる言葉は意味がわからなかった。『夢がない』からとはどういうことか。『夢がないと世界が創造できない』とは何のことなのか。聞きたい事は沢山あっても、呆然としたまま彼は謎の声に耳を傾ける。
“…ふふっ、それにしてもどうして自分がこの『世界』にいるんだろう…そんな顔をしてるね。
そんなのはきっと。
無情で不条理で、理不尽ばかりのくだらない『世界』を生きてく中で、君は辛い、泣きたい、逃げたい…望む世界が欲しい、夢であってほしいって。
君も願っちゃったんでしょう?
だからきっと、その願いを叶えるべく君はこの『世界』に誘われたんだ。人類の夢と希望を託された
可笑しな話だ、でもそう、つまらなくはないかもね”
願いを叶えるため?夢と希望を託された?…ただひたすらに、少年の思考は混乱と疑問で埋め尽くされていく。何があったのか思い出せない。どうしてここにいるのか思い出せない。そもそもーーー。
自分は一体、誰なんだ?
“…ああなんだい、君ってばなぁんにも覚えてないんだ。
『彼女』のことも『彼ら』のことも。
………では、ここでひとつ夜咄といこうか。
なに、これも僕と君との戯れだと思ってくれて構わないよ。これから語る
だから最後までしっかりと聞いてよ。
…さあ、話そうか。
臆病で泣き虫で、望む世界を手にしようとした少年の。
とっても素敵な話を。”
☆
…とある『世界』の星の隅っこで、ある一つの確かな『終わり』があった。
そこにあったのは、怒りと悲しみと、殺意だけ。
その『世界』が生んだ戦うための二体の人型の鋼鉄がぶつかり合う度に響く音は、まるで終焉へと近づく時計の針の音のように鳴り響き続いた。
そうやってぶつかり合う度に二体の人型の鋼鉄も、それらを操る友達同士だった二人の少年も、身を削っていった。
「ーーーーー…っっっ!!!」
まるで憎しみを、殺意を全てぶつけるかのごとく、叫ぶ少年。かつて躊躇いすら覚えた彼の剣は、友の命を奪うべく鋼鉄の腕を切り捨てはして、蹴り飛ばす。
しかし、もう一方の少年は無理矢理にも吹き飛ばされた鋼鉄の体勢を立て直し、怒りを爆発させてはやはり相手の少年へと反撃する。
そうする度に、彼らの中で無意識にただ死を感じさせ、憎しみを積もらせていく。
しかし、少年らはそんな事は気にもしなかった。
ー殺してやる…!殺してやるっ!
殺してやるっっっ!!!ー
彼らの頭の中は、そんな闇だけで埋め尽くされているが故に。
「アァァァァァァスゥラァァァァァンっっっ!!!」
ありとあらゆる攻撃法を身に付ける少年は
「キラァァァァァァァァァァァァァァっっっ!!!」
絶対的な守りを誇る盾を操る少年も
互いに憎み、殺し合う。少年達はもう、かつての親友を殺すことに、迷いはなかった。目の前に移るのはただの『敵』なのだと捉えて。
「っ!?」
そうして殺しあった未来は酷く現実的だったのか。
あるいはそうなるよう、誰かに仕組まれた陰謀なのか。
激闘の末に拘束された一体の鋼鉄はやがて爆発に飲み込まれ。
その鋼鉄…『ストライク』のパイロットであった少年は。
キラ・ヤマトは…
この『世界』から、消えた。
キラとアスランの対決はアニメや漫画で見たことあるだろうしここで細かく説明しなくても逆に読み辛いかなと思い悩んだ末の結果。