西方十勇士+α   作:紺南

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いつだかの後書きで書いた通り、今回の話は三話の川神側からの視点となります。
しかし完全焼き直しでも面白くないなと思い、セリフや描写をいじくってあります。
いじくりすぎて矛盾点が生まれていないか心配なぐらいいじりました。

過程は大きく変わりますが、行きつく先は同じなのでご心配なく。


九話

学園長から突然の交流戦開催が告知されて一週間。

 

その間、大和は相手の情報を出来るだけ多く集めていた。主に西方十勇士と、それと九鬼英雄の言っていた『百代に匹敵する人間』について調べていた。

 

しかし西方十勇士の情報は容易く集まったのだが、後者に関してはいくら人伝に聞いてもそれらしい人間が出てこず、辛うじてこいつかなと当たりを付けた人間も、交流戦に参加を表明していなかった。

 

一応、確認として英雄とその従者に名前とその人物は参加しないことを告げたが、名前だけでははっきりしないと返され、挙句の果てには「写真とかねぇのかよ?」と無駄に凄まれるだけだった。

 

また、『百代に匹敵する人間』の噂が百代自身の耳にも入ったようで、ことあるごとに「そいつは誰なんだろうなあ、情報通の弟ぉ?」と遠まわしに早く調べろと圧を掛けられたのも大和を急かせた要因だった。

結局、英雄の言う人間が誰なのか特定できず、百代には可能性のある人間の名前と簡単なプロフィールとを一緒に教えることしかできなかった。

 

「大内、日野、工藤、佐々木ねえ……」

 

「その中でも工藤って言う人が元十勇士らしいから、その人が一番可能性高いと思う」

 

「でも"元"十勇士なんだろ。それはつまり現十勇士以下なんじゃないのか」

 

百代の返答に大和は言葉を詰まらせる。

 

十勇士の称号は決闘によって争われるらしく、元が付いていると言う事は現十勇士に決闘で負けたことに他ならない。

そして、現十勇士の中に百代に匹敵する人間は居らず、必然的にその人物は十勇士以下と言う事になってしまう。

 

大和が特定できない理由がそれだった。百代に匹敵するのに十勇士を賭けた決闘で負けている。

その矛盾する現実のおかげで、当たりはつけられても確信を持てないのだ。

 

「ただの噂かぁ」

 

百代はそう結論付けて、それ以後情報をねだることはしなくなった。

それでようやく一息つけると胸をなでおろした大和だったが、思わぬ所に伏兵が埋没していた。

 

「おう、奴さんの情報集まってるか」

 

たびたびFクラスに姿を現し、進捗を尋ねてくる忍足あずみである。

なぜそこまで必死に探っているのか、そんなに知りたいのなら従者部隊を動かせばいいじゃないかと、大和は訝しむ。

 

「あたしが知りたいのはあいつが交流戦に参加するかしないのかだ。ぶっちゃけ、それ以外はどうでもいい」

 

「なんでそんなに警戒してるんですか?」

 

警戒? 大和の言葉をあずみは鼻で嗤った

 

「あの野郎が参加を決めたら警戒はこんなもんじゃねえぜ。川神には今、英雄様や揚羽様それとあいつらがいるから、多分序列一桁勢ぞろいになるだろうよ」

 

ぞっとした。

世界に誇る九鬼従者部隊の最高クラスが川神市に集結すると言うのだ。

大和はその人たちの名前や顔を知らないが、それでも目の前のあずみを見ていれば大体の予想はつく。

 

こんな人間が後八人集まるのだ。

そうなった暁にはここは地獄にでもなるのではないか。そう思った。

 

「ま、あたしも従者部隊動かして調べてるが、今のとこ動きはねえみたいだな。……ああ、そうだ」

 

思い出したように、あずみが大和に一枚の写真を放る。それには男が一人写されていた。

 

「お前の調べ、当たってるぜ。学生の繋がりも案外馬鹿に出来ねえのな」

 

学ランを着た学生。近くに誰かいるのだろう、腕が見切れている。

それは上空から盗撮に近い形で撮られていたが、写っている学生の目はカメラに向けられていた。

写真の裏には黒のマジックで大きく『工藤 要監視』と書かれている。

 

「何か分かったらすぐあたしに報告しな」

 

言って、あずみは教室を出ていく。

大和はしばらくその写真を見ていたが、男の目に吸い込まれそうな感覚を覚え、裏返しに机に置いた。

 

「大和?」

 

「ん?」

 

「早く行かないと遅れちゃよ」

 

気づけば周りでは登校してきた生徒たちが移動を開始している。

そう言えば、今日の一時限目は朝礼だった。すっかり失念していた。

 

「誰もいない校内で熱い一時が過ごしたいと言うなら、私はそれでもかまわな――――」

 

「よっし、行くぞみんな」

 

何やら一人でくねくねと妄想を始めた京を無視し、大和は翔一や岳人を連れて校庭へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間前と同じくグラウンドに集まる生徒たち。

そしてこれまた一週間前と同じように学園長が朝礼台に立つ。しかし一週間前とは違い、今度はほとんどの生徒が集中して学園長の動向を注視していた。

 

「ほっほっ。皆、猛っているようじゃの。荒々しい闘気が肌に心地よいわ」

 

ご自慢の鬚を撫でながら、学園長は生徒を見渡す。

 

「さて、今日集まってもらったのは他でもない。明日から始まる東西交流戦についてじゃ」

 

生徒はどよめく。しかしそれもすぐに収まった。

それを見て、学園長は話を進める。

 

「うむ。実はの、これから天神館の生徒たちがここに来ることになっておる」

 

今度のざわめきが収まるには数分の時間を有した。

生徒たちが思い思いに言葉を発する間、学園長は何も言わずにニマニマとその様子を見ていた。

そして、リー師範代を始めとした教師が生徒たちを注意して、ようやくざわめきが収まる。

 

「来ると言っても全員ではない。さすがにここに600人以上は入りきらんのでのぉ。今回は中でも特に優れた生徒たち十数人が来ることになっておる」

 

堪らず生徒が声を上げた。

 

「先生! それって西方十勇士が来るってことですか!?」

 

「おそらくそうじゃろう。それに合わせて十勇士以外の優秀な生徒が数人じゃろうな。普通に考えて」

 

十勇士がこの目で見られると知り、生徒たちの私語には止めどがなくなった。

どんな人間なんだろうとか、可愛い子いるのかなとか、龍造寺君がこの目で見れるのきゃーとか。

末には担任が鞭を取り出すクラスまで出てきた。ちょっと公衆の面前でお痛した生徒がいたのだ。

 

「しかしそろそろ来てもいい頃なんじゃが、遅いのぉ。道でも混んどるのか?」

 

「いえ、ここまでは高速で来るはずですカラ、関係ないと思いますガ」

 

「まあ、鍋島は昔から時間にルーズじゃからの。気ままに待つ他あるまいて」

 

まだかまだかと生徒たちはそわそわして校門の方を見ている。

一分、二分が経過して、不意に一台のバスが止まった。

中から数人降りてくる。そしてとある人間が降りた瞬間、甲高い叫び声が木霊した。

 

「キャーッ!! あれ龍造寺君よ!! 私には分かるわ!!」

 

当然だろう。双眼鏡を持っているのだから。

双眼鏡が女子生徒の間を回し回し、覗いた女子は全員叫んだ。

 

そして白いスーツを着たやくざ風味な男を先頭に、どうどうと臆することなく歩いて向かってくる集団。

 

「どうやら、あの子もいるようですネ」

 

「うむ。久しいのぉ。……しかし何故気配を消しとるんじゃろう?」

 

「さあ」

 

ついに肉眼で龍造寺を捉えた女子生徒たちの興奮は今やコンサートの様に盛り上がっており、それを間近で浴びせられる男子生徒は元凶の、笑顔振りまく龍造寺へ怨念籠った眼を送る。

しかし龍造寺はそんなものゴミほどにしか思っていないのか、まったく意に介さず女子の手の甲へキスしていた。

 

ますます男子たちの憎悪は強くなる。

龍造寺の手の甲キスはいい加減にしろと長宗我部に蹴り飛ばされるまで続いた。

 

「遅れて悪いな師匠。ちょっと道が混んでてよ」

 

「ほっほ。構わんよ。丁度説明終わったところじゃ」

 

白スーツは朝礼台に上ったところで帽子を脱ぐ。

予想通りと言うか、帽子の下には厳つい顔があった。

何人かの気の弱い生徒がその顔を見て悲鳴とも取れる小さな声を発した。

 

「では皆の者、紹介するぞい。このやくざみたいなのが天神館館長 鍋島 正じゃ。柄は悪いが性格はそうでもない。安心して接するとよいじゃろう」

 

「どういう紹介だそりゃあ」

 

鍋島が呆れて物を言う。しかし学園長がそれに構うことはなかった。

鍋島は諦めて、生徒たちに向かって自己紹介した。

 

「おう、俺が天神館館長の鍋島正だ。よろしくな」

 

何人かの礼儀正しい生徒が挨拶を返したり会釈をする。

それと自分に闘気をぶつけてくる生徒の存在とで鍋島の機嫌は治った。

 

「何人か稽古をつけてえ奴もいるが、あんまり時間もないからサクッと紹介しちまうぞ」

 

鍋島が自らの後ろに立つ人間を指し示す。

ほとんどの人間には11人に見え、極々一部の生徒だけ12人だと認識する。そんなちぐはぐな状態での紹介が始まった。

 

「こいつらが天神館自慢の生徒たちだ。今回の交流戦で主力を務めるだろう。顔をよく見ておけ。特に三年生。不意を付かれないようにな」

 

「おうやめろごらあ」

 

幻の12人目が脅すような声を発した。それによってそいつの存在を認識した生徒が三人増える。

その内の一人である忍足あずみが声にならない声を漏らした。

 

「あっ、なぁ……!?」

 

「む。どうした、あずみ?」

 

「い、いえ、なんでもありません、英雄様ぁ!」

 

つい出てしまった素を主人である九鬼英雄に悟られないように必死に仮面を被り直す。

その内心では「なんでてめえがいんだこらぁ!!」などと非常に口汚く彼を罵っていた。

 

「本当は一人一人微に入り細を穿つまで紹介したかったんだが、さっきも言った通り時間が押しててな。しょうがねえから、代表して十勇士最強の男に挨拶してもらうぜ」

 

一人、横一列に並んだ中から前に出る。その男は腰に刀を差し、女子にモテそうな容貌をしていた。

つい今しがたまで龍造寺相手にきゃーきゃー言っていた女子生徒たちもほうっと甘い吐息を漏らす。

 

「紹介に預かった。天神館二年、十勇士最強の男、石田三郎だ」

 

その言葉にどことなく高慢ちきさを匂わせながら、はっきりと校庭の端まで届くような声で石田は喋る。

その容姿と堂々とした振舞いに、何人かの生徒から舌打ちが漏れた。

 

そんな自分に向けられる嫉妬や羨望の視線、女子たちの熱い目線など全てを嘲笑するかのように、石田は口の端を歪めながら次の言葉を発する。

 

「はっきり言おう、東の蛮族どもよ。俺が今日、この場に現れたのは貴様らと戦うためではない」

 

石田の敵意むき出しな言葉に川神学園の生徒たちは停止する。

 

「貴様ら軟弱な蛮族どもとこの俺とでは勝負にならん。貴様らには格の差を見せつけに来たのだ。東と西、どれほどの力の差があるのかをな」

 

あ?

そんな声が誰かの口から漏れる。

気の短い数人は既にぷるぷると拳を振るわせていた。

石田はそれすらも嘲ながら、続きの言葉を言う。

 

「そして一方的な虐殺を経た後、貴様らには俺の出世街道に敷き詰める敷石となってもらおう。この俺に踏まれるのだ。軟弱な蛮族にはお似合いの場所だろう?」

 

続いた挑発としか取れない挨拶に、もう我慢ならんと何人かの生徒がクラスの列から抜け出し、石田の元へと駆け出す。その顔はどれも怒りに満ちていた。

石田はそれを一刀の元に切り伏せ、力の差を理解させようとしたのだろう。刀に手を掛け、朝礼台を降りようと歩き出した。

 

しかし丁度三歩目が地に着いたとき、その足が背後から薙ぎ払われた。

 

がっくりと体勢を崩し倒れそうになった石田は、即座に薙ぎ払われたのとは違う足と上半身に力を込め、倒れるまでの若干の時間稼ぎとし、薙ぎ払われた足をそのまま半円を描くように移動させ背後の襲撃者と正面で相対した。

 

「貴様ぁ……、橘! 一体これは何の真似だ!?」

 

「ちっ」

 

怒鳴る様に問いかけられた言葉に橘剣華は応えずに舌打ち。もう一度、今度は骨を折ってやるという気迫を込め追撃に手刀を繰り出した。

石田も黙ってやられるはずなく腰の剣を抜こうとする。しかし双方が激突する前に他の十勇士が止めに入った。

 

「御大将! 落ち着いて下され!!」

 

「離せ島!! 奴から仕掛けたことだ! 俺を足蹴にした罪を償わせてくれる!!」

 

「御大将、ここは敵地です! これ以上醜態を敵に見せる訳にはいけません!!」

 

「そんなこと知った事ではない! 元々俺はあの女が気に食わなかったのだ、ここで手討ちにしようと何の問題もあるまい!!」

 

「なりません!!」

 

島に抑えられながらばたばたと暴れる石田。

一方、剣華の方は宇喜多の説得に言葉上はすんなりと応じている。

しかしその眼は油断なく石田を見据えており、隙あらば殺してやろうと考えていた。

その突然の争いを目の当たりにして、ルー師範代が狼狽える。

 

「が、学園長、止めに入らなくていいのですカ?」

 

「ちょっと面白そうじゃ。もう少し傍観してよう」

 

本気で面白そうにしながら観客になることにした川神学園の学園長。天神館の館長もそれに倣えとばかりにニヤニヤと笑っていた。

その二人に向かってどこからか止めてくれという視線が飛んでいたが、もちろん二人とも無視する。

 

そんな風に教師陣が温かく見守る中で石田が滅茶苦茶な言葉を叫ぶ。

 

「見ろ島! 奴は俺に殺気を向けている、俺も奴を殺す! 相思相愛だ邪魔をするな!」

 

十勇士内の諍いを見せられてしまい、石田を一発殴ろうと駆け出した生徒はもちろん、川神学園のほとんどの生徒は事態が呑み込めずに唖然としていた。

 

しかしその中ではただ一人だけ。

石田と剣華の闘気にあてられ、目の前で行われた喧嘩に我慢が効かなくなり欲望のままに動く川神百代以外は。

 

「喧嘩かぁ……。いいなあ……。私も混ぜてくれるか?」

 

言いながら、朝礼台のすぐ目の前に現れた百代からは、石田と剣華が発していた闘気など生ぬるい程の闘気が発せられていた。

その威圧感に、事態を傍観していた十勇士の面々はもちろんのこと、渦中の石田と剣華も、果ては川神学園側の武士娘すら警戒態勢に入った。

 

「いいよなあ? 態々敵陣で宣戦布告したんだ。まさかあれだけ偉そうな言っておいて逃げはしないだろう?」

 

場に闘気が満ち、一触即発な状況になる。誰も身じろぎ一つ、言葉一つ発しない。

十勇士と百代が互いに牽制しあい、隙を探り合い、いよいよ開戦かと思われたその時になって、ようやく今まで傍観していた教師陣が介入した。

 

「こら、モモ!」

 

「やめねえかてめらっ!!」

 

その一喝で張りつめていた緊張は解きほぐされた。

 

百代がシュンとした様子でルー師範代に怒られている後ろで、興が削がれたと剣をしまい、元いた場所に戻る石田。

剣華もおとなしく列の中に加わった。

 

「あー。おい石田、十勇士の中に三年生はいるのか?」

 

テンションがガタ落ちした百代が大して期待していない声音で石田に問う。

聞かれた石田は事実をそのまま口にした。

 

「残念だが、今の十勇士は全員が二年生のいわゆる黄金世代でな」

 

「そっかー。そうだよなあー」

 

予め直江大和から情報を聞かされていた百代はやっぱりかと元いた場所に戻ろうとする。

その背中に石田は言葉を投げかけた。

 

「しかし、まあ安心しろ。腐っても天神館だ。退屈するようなことにはならんさ」

 

振り返った百代に不敵な笑みを見せる石田。

百代がどう言う意味かと問う前に、十勇士の面々は退場していた。

先頭にはずっと気配を消していたあの男がおり、まるで十勇士が付き従っている様に見えた。

 

石田は先頭の男に目をやり、そしてニヤッと笑った。

 

「つまりそういうことだ」

 

石田も島を連れ、バスへと向かう。

 

「あー、色々とすまねえな。俺としてはお前らが奴らの慢心を打ち砕いてくれることを願ってるぜ」

 

最後に残った館長が石田に代わって謝罪し、敵らしくない一言を添えて退場した。

館長の姿が校門の外へ消えたのを見て、学園長が言う。

 

「どうじゃ。皆の者、やる気は出たかの?」

 

ざっと全校生徒を見渡して、

 

「聞くまでもなかったようじゃな。交流戦は明日の晩からじゃ。その怒りを力に変え、思う存分暴れるとよい」

 

その言葉で朝礼は終わりになった。

天神館側の挨拶で川神学園生徒の士気は上がり、絶対に負けられないと生徒の団結を一段と逞しい物にした。

 

そして百代は工藤にちょっとした期待を抱く。

 


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