西方十勇士+α   作:紺南

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五話

東西交流戦二日目。

川神学園二年生 対 天神館二年生の戦いは天神館側の優勢で進められていた。

 

石田三郎を大将とし、側には島右近と長宗我部宗男、橘剣華が控えている。

前線では大友焔の大砲による広範囲爆撃。尼子晴とその親衛隊による連携のとれた攻撃。

宇喜多秀美による特攻。毛利元親による狙撃。大村ヨシツグによるネット攻撃。

 

それぞれが単発でとは言え、十勇士の名に劣らぬ威力を発揮する。

あちらも十勇士とは戦わないように配置された男子生徒たちが頑張っているようだが、如何せん戦闘能力に差があった。

おかげで戦闘が始まってから暫くして、兵の数で天神館が圧倒し始める。

 

だが、その連携の取れない単発攻撃が通用するのも、敵がこちらの情報を集め、隠していた主力を前線に送り込むまでだった。

大友焔にはマルギッテ・エーベルバッハと川神一子が。

尼子晴にはロリコンが。

毛利元親は椎名京。

大村ヨシツグには大串スグル。

宇喜多秀美は特攻しすぎて返り討ちに合う。

 

同じ土俵で、変態性で、相性の良し悪しで、次々と十勇士が敗北していく。

慢心はあっただろう。驕って、油断していたかもしれない。

 

これにより天神館側の兵たちの士気は下がる。逆に川神学園側はこの好機に、一度倒れた者までも一念発起し前線に復帰し始めた。

 

天神館優勢で進んでいたこの戦は、ここに来て川神学園が盛り返し始めている。

その状況を何とかしようと動いたのは二人。

鉢屋壱助と長宗我部宗男である。

 

鉢屋は上空、長宗我部は敵陣後方に広がる海から奇襲をかけた。

ただ惜しむべくはこの二人、またもやそれぞれ別々に奇襲をかけてしまったのだ。

この二人と特攻隊長の宇喜多が同時に敵陣へ突撃すれば、この状況も好転しえたかもしれないと思ってしまうのは結果論だろうか。

 

しかし鉢屋は同じく忍者である忍足あずみに返り討ちに合い、長宗我部もオイルを被ったところで、予め用意されていたライターで火を点けられた上に榊原小雪によって海に叩き落された。

 

この時点で西方十勇士で生き残っているのは石田三郎と島右近の二人だけ。

当初の勢いはどこへやら。完全に形勢は逆転した。

 

さすがに分が悪いと判断した石田は、本陣に攻めてきたクリスティアーネ・フリードリヒを橘剣華に足止めさせ、その間に島右近を引き連れタイムアップ狙いで隠れることにした。

 

「まったく……。まさかこの俺が無様に逃げ隠れすることになるとはな」

 

「相手が予想以上に手練れ揃いでした。こちらも最初から全力でかかるべきでしたな」

 

「ふん。今更失策を嘆いても遅い。その気になれば俺一人で奴らを相手取ることは可能だが、寿命を削ってまでやることとも思えん。ここは大人しく逃げに徹することにしよう」

 

「それが最善かと」

 

エアーポケットと呼ばれる、工場内に出来た見つけづらい空間でその時を待つ二人。

しかし途中、石田が「この場所は自分の様に狡い奴にしか見つけられない」と皮肉交じりに胸を張ったのが仇となったか、その言葉が預言であったかのように、男が一人現れる。

 

「見つけたぞ」

 

息も絶え絶えに、登場したその男は言うや否や笛を吹く。

辺りに響くその音色。何かの合図か。

 

「ほう。よくこの場所を見つけられたな」

 

「生憎俺も狡い男でね」

 

聞いていたのかと石田は舌打ちする。しかし見た限り男は一人。

こちらは島も含めて二人。負けるはずがない。

 

「それがしは西方十勇士が一人島 右近。お覚悟!」

 

振り下ろされる薙刀。しかしそれは横から伸びた刃に阻まれた。

 

「っとと。大和は討たせないわよ!」

 

駆けつけたのは川神一子。先ほどの笛の音を聞いて、一も二もなくやってきた。

 

「大和! こいつはあたしが相手をするわ! そっちは大丈夫?」

 

「任せておけ。回避には自信がある」

 

回避? と疑問符を浮かべた石田だったが、男の構えを見た瞬間その疑問は雲散した。

 

「貴様……。ド素人か……?」

 

男は答えず、ただその頬を伝る一筋の汗が全てを物語っていた。

内心で「やべ。ばれた」とか思っていても、表情には決して出さない。

少しでも回避できる可能性を上げたかった。

しかし、石田の表情が怒髪天を衝くそれになったことで、その儚い望みが叶いそうに無いことを悟る。

 

「舐め腐りおって!! この阿呆がァ!!」

 

いくら回避が得意と言っても、素人が石田の攻撃をそう易々と回避できるはずがない。

現に直江大和は迫る刃に対し、直前まで反応らしい反応を見せていなかった。

石田の一撃が直江大和の元へ届かなかったのは遥か後方より愛ある援護があったからだ。

 

「ぬ!?」

 

辛うじて、視界の隅にそれを捉えることが出来た石田は、当たる間際に大きく仰け反ることで回避した。

狙いを逸れた矢は石田の後方のパイプに当たる。

 

狙撃されたのだと実感し、冷や汗が背中を伝る前に、直江大和が反撃する。

 

「ほらよ!!」

 

「ちっ」

 

右足蹴りが石田の左膝に食いこむ。走る痛みに歯を食いしばる。

反撃も、二度は許さぬとぎりぎり届かない位置へ下がる石田に、直江大和は底意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 

ほれほれどうした? 西方十勇士ってそんなもんか? たいしたことないんだな!

 

そんな声が聞こえてくるようだ。

またもや怒髪天を衝き、挙句血管が切れそうになった石田は理性を失うまいと大きく息を吸い込んだ。

 

防御と引き換えに直江大和への攻撃は中断され、挙句の果てには反撃を許してしまったが、それは致し方ない。

今の一撃で狙撃手がどこに陣取っているのかが分かったのだ。

注意さえしていれば、また矢を射られても当たることなどあり得ない。

 

息を吐きながら、そう自分に言い聞かせる。

 

「くっくっく……」

 

怒りが一週回って、笑いが込み上げる。

突然笑い始めた石田三郎。直江大和は警戒を強める。

 

「この俺をここまで追い詰めるとは大した奴だ。褒美に、俺の本気を見せてやろう」

 

冷静になろうと言い聞かせて、結局は抑えきれない怒りに任せて本気を見せようとする。

寿命を削ってしまう技を使う程追い詰められた訳ではない。目の前にいるのは戦闘ド素人。狙撃手の居場所は割れており、島と川神一子の戦いは拮抗している。

自分なら、一分もあれば直江大和を地に伏すことができるだろう。

 

早くこの男を片付け島に加勢し場所を移さねばいけない。

いつ援軍があるか分からない。早く行動しなければいけない。

 

いくつもいくつも勝つために浮かび上がる考え。

だが、それももう石田にとってどうでもよかった。

まず先に、怒りに任せて目の前の男を切り伏せたい。この俺に蹴りを食らわせた非礼を償わせてやる。

理性を保とうとして、結局理性は彼方に消えた。

 

本気で戦闘ド素人を叩き討つ。

 

「光龍覚醒――――!!」

 

全身から金色の気が放たれ、髪も金色に変化し逆立つ。

直江大和は、相対する男の異様な変化に動揺する。

 

感じるプレッシャーが段違いに重くなった。

止まっていた冷や汗が再び背中を伝るのを感じる。

 

「ふん」

 

機械のごとき精密さで、眉間めがけて飛んできた矢を石田は悠々と回避する。

椎名京の狙撃はもう通用しない。効果があるとすれば矢の先端に爆弾を付けて射る爆矢ぐらいだろうが、直江大和が近くにいるためそれは出来ない。

 

「さて、東の。俺にこの技を使わせたこと褒めてやろう」

 

「ま、待て! なんだそれ! そんなのありかよ!?」

 

「西では女より男が強い! この程度の技能出来て当然だ!」

 

当然なはずあるか!

口から出たツッコミは石田の叫びで掻き消える。

 

「消えろ阿呆が!!」

 

大きく振りかぶられた剣を直江大和は凝視する。

躱せるはずが無いことは、武神の弟分としての長年の経験が告げていた。

それでも躱さなければいけない。痛い思いはしたくない。あれは絶対に痛い。

 

直江大和の頬が引き攣り、石田三郎の頬は喜色で吊り上がった。

乱入者が現れたのは、石田の鉄槌が下されようとしていたその時である。

 

ヘリから飛び降りた人影。

元々闘気で満ちていた工場に新たな闘気が一つ降り立つ。

 

「何奴……!?」

 

すぐ背後に出現した気配。警戒心露わに石田が振り返った。

 

「源義経 推参!」

 

振り向きざまに一閃。

 

「がっ……」

 

あまりに速い剣閃に反応できなかった石田がその場に膝をつく。

 

「くっ……!!」

 

「御大将!?」

 

「隙あり!」

 

「ちいっ!」

 

島右近が石田の元へ駆けだそうとして、川神一子が邪魔をした。

攻撃自体は何とか防ぐものの、島は完全に石田に気を取られてしまっている。

川神一子は石田の心配をしながら勝てるほど生易しい相手ではない。見る間に島は劣勢に陥った。

 

「それがしは御大将の元へ行かねばならん! 邪魔をするな!」

 

「今はあたしと戦ってる最中よ! 余計なこと考えてる余裕があるの!?」

 

島右近と川神一子が激闘を繰り広げる中、石田が苦痛に顔を歪めながら口を開いた。

 

「この強さ……。お前も武士の血を継ぐ者か」

 

「いや、義経は武士の血を引いているわけじゃない。義経は源義経そのものだ」

 

「……言っている意味が分からんな」

 

唇の端を吊り上げながら石田三郎は立ち上がる。

 

「た、立てるのか!?」

 

「当たり前だ。俺は天神館十勇士が大将。奇襲や不意打ち程度でこの俺を打ち崩せると侮るな。背負っている荷の重さが違う」

 

口では強がってもその足取りは不安定。

剣を構える姿にも力強さが欠けている。先ほどの義経の斬撃で受けたダメージは大きい。

 

「学友のため、義経も手加減するわけにもいかない。悪く思わないでくれ」

 

「当然だな。手加減などしてみろ。俺の剣がお前を貫くぞ」

 

義経と石田が睨みあい、直江大和が固唾を飲み見守る。

一瞬、全てが停止したように音が止み、次の瞬間には決着がついていた。

 

「…………」

 

倒れているのは石田三郎。立っているのは源義経。

 

 

 

東西交流戦 二日目 川神学園の勝利


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