西方十勇士+α   作:紺南

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四話

東西交流戦は最高のスタートで始まった。

初日の川神学園一年生 対 天神館一年生の戦いを天神館の圧勝で終わらせることが出来たのだ。

これには十勇士の大将もご満悦のご様子。

 

「ふん。やはり蛮族。大将が一人突出し、挙句の果てには名乗りの最中に狩られるとは。これは次も天神館の圧勝だな」

 

はっはっはっは! と高笑いする大将。そのあまりの上機嫌っぷりに付き人の島はこう漏らす。

 

「明日、何か悪いことが起こらなければいいのだが」

 

どうやら島としては自分の主とは反対に不吉な予感がするらしい。

負けるつもりなどさらさら持ち合わせてはいないが、それでも何か嫌な予感がするようだ。多分それ当たると思う。

 

一しきり大笑いした大将は、「さあ、もう寝るか」と島を付き従えて自分の部屋に戻って行く。

時計を見るとまだ日付すら変わっておらず、ちょっと早くないかとも思ったが、旅疲れもあるし明日は二年生の戦いがあるから念には念をと言う事か。

 

石田と島を見送った大友が呟く。

 

「まあ、大友は石田のように相手を見下すつもりはないのだが……」

 

「ああ。俺様も少々失望している。まさかこの程度だとはな」

 

それに長宗我部が同意した。

確かに今回の戦いはちょっと酷かった。途中までいい感じだったのに、大将が特攻してきてそれを潰してはい、終わりとは。

さすがに擁護のしようがない。むしろ誰かあのアホ止める奴居らんかったんかいと説教したくなる。

 

「……確かに今回は酷かったが、川神学園も主力は二学年に集中している。明日はもう少し手ごたえがあるだろう。ごほ、ごほっ」

 

「だといいがな」

 

「仮に多少手ごたえがあったにしても、あと一つ勝てば終わりであることは変わらん。俺が敵大将の首を獲れば、それで交流戦は我々の勝ちとなる。暗殺は忍者の得意中の得意分野。奴らに止める術があるとは思えん」

 

大村の援護を聞いてもあまり期待のない様子のハル。他の面々も同じ気持ちのようだし、鉢屋は敵大将の首を獲る気満々で言い放つ。

 

宇喜多もハルも、この戦いを見てやる気が出たかと言えばそうでもない。やはりどこかでこの程度かと思ってしまっている。

 

こちらの一年生が敵一年を圧倒し、それで十勇士の士気がこうも下がってしまうのは予想していなかった。

 

石田に関しては慢心の塊から化身にまでジョブチェンジしてしまったし、下手しなくても明日の戦いは残念なことになりそうだ。

 

もしこの慢心やら油断やらが相手の作戦の結果だったとしたら凄いと思う。

 

相手方は武神のおかげで白星一つ確定しているようなものだし、黒星一つ付けて白星を一つとりやすくなるならやらん手ではないのではないか。

一年生にわざと惨敗させて敵の油断を誘い、自分たちは一年生が負けたことで勝敗は自分たちに掛かっていると士気の向上と団結力のアップが見込める。

交流戦に自主参加するような奴が、まず勝気でないはずがない。また腕に覚えがあることと、昼の石田の挑発とが相まって士気の上昇はほぼ確定。

後はこちらが油断するかどうかだが、川神学園でのいざこざで性格やらなにやら見抜かれてしまっているので、十勇士最強は間違いなく油断してくれると判断する。

それだけでも十分だが、更にネットなり伝聞なりで他のメンバーの性格を把握できれば……。

 

なんて言うのは考え過ぎか。

 

「よし! 見るもんは見たし、この後はトランプでもやるか!」

 

「ていばんだな」

 

「俺様、四国では侍らせていた女たちとよくやっていたものよ。無論、負け知らずでな」

 

「羨ましい話だ」

 

「大友たちもやるか?」

 

「もちろんやるで。何か賭けるんやったら余計に参加するわ」

 

「絶対に賭けないよ。特にお金とかね。嫌だよ私」

 

「賭けは大友も反対だが、だからと言って何もないのも面白くない。代わりに何か罰ゲームでも設けるか」

 

「ほむほむならそう言うと思って、ほらここに」

 

罰ゲームが書かれた紙が無数に入っている箱を取り出す。

 

「……準備が良すぎるな」

 

「……なんだろうね。何か悪寒を感じるんだけど」

 

大友と晴からはあまりの用意周到さに絶賛のまなざしを向けられる。

 

「一応聞いておくけど、中身はまともだよね?」

 

「法に触れない程度には」

 

さすがにそこは自重。男同士なら自重なんかせずに殺す気で罰ゲームを考えるのだが、女子が入るとどうしても遠慮してしまう。

紳士にスマートに考えましたよ、ええ。こういうのは昔鍛えられたしな。

 

「と、いうことでやるぞー。最初はババ抜きなー。トップバッターはそこでうつらうつらしてる剣華ちゃん! お前折角いるんだからやってけ」

 

「……」

 

参加強制で、無言のまま配られたカードをのそのそと確認する剣華。小動物っぽくて萌え心をくすぐられるが、あれは恐らく擬態だ。

ペアになるカードを捨てて行き、捨て終わったところで俺の手札に手を伸ばしてきた。

 

「……」

 

取ったカードを確認。そして捨てられるペアカード。

いきなり揃うとは運が良い。

 

続いて俺のターン。左隣に居た晴から一枚もらう。

揃わない。

 

晴は大友から、大友はハルから、ハルは長宗我部から、長宗我部は大村から、大村は鉢屋から。

鉢屋は宇喜多から引くときに忍具を使ってずるしようとしたので、一発ど突いてきちんと引かせ、宇喜多が剣華からカードを引くことで一周した。

 

人数が多く一人に配られるカードが少ないから、もう二~三周もすれば上がる人が出てしまいそうだ。

とりあえず罰ゲームは避けたいので、ビリだけは勘弁願いたい。

 

剣華が一枚引く。

 

「……」

 

当然のように捨てられるペアカード。

欠伸されながら捨てられたジャックがなんとなく寂しそうだ。

 

続いて俺の番。晴がカードを一枚浅く持ち、これ取って下さいと無言で主張していた。

当然のことながら、ここで素直にそのカードをとるほど甘くはないので、何となく突き出ていたカードの左隣に手を掛けた。

そしてカードを引く最中、晴が悪役のごとく笑うのが目に映る。

まさかと思いながらカードを目にすると、そこにはjokerの文字が。

 

おっとやるねえ。

 

表情に悔しさが出てしまわないように気をつけながら、今引いたjokerがどの位置にあるのか分からなくなるように手札へ加える。

これで最もビリに近い男になってしまった。だが、まだこのjokerを剣華に押し付ければなんとでもなる。

想いを強く、巡り巡ってまたやってきた剣華のターン。これが最期の戦いだと眼力こめて臨む。

 

当の本人は眠気眼ですす、と手を動かしどのカードを取ろうか迷っている。

その動きに合わせて、指の下に常にjokerが来るように手を動かす。

 

「……」

 

ちょっとの間それを続けて、突然剣華がぴたりと動きを止めた。

どうしたのかと様子を伺えば、眠気眼にジト目が組み合わされた器用な目つきで俺を睨んでいた。

 

見つめ合い、睨まれて笑いかけて、十分にジト目を堪能した後、剣華が動きを再開する。

もちろん俺もそれに合わせてまたトランプを動かす。すると、

 

「はいはい。先輩はちょっと動かないでね」

 

晴に右腕を掴まれ、joker指下固定戦法を封じられた。

 

「おい晴」

 

「徹夜は嫌だよ」

 

「ま、そうね」

 

結構な真顔で言われた。遊びなのに遊ぶなって目が言っていた。

これ以上長引くのは晴的に嫌らしいので、小賢しい小細工は控えめで進行することにする。

 

「ほれ、選べ」

 

「これ」

 

「おめでとう」

 

一抜けおめでとうございます。

 

「ぬっ。やるな橘。だが、二番手は俺様だ」

 

二位は長宗我部。

 

「ぬっはっはは。これで上がりやぁ!」

 

三位は宇喜多。

四位は鉢屋。

続いて大友、ハル、大村と続き最後に残ったのが、

 

「じゃあ引くよ」

 

「どうぞ」

 

俺と晴。

緊張感など欠片もなく、どこかのんびりとした空気の中、

晴は宣言した後に迷いもせずにjokerではない方へ手を伸ばして――――。

 

「ちょっとたんま」

 

あ、こいつどっちがどっちか分かってるなと悟った俺は、問答無用のタイムを使い、カードを背中に隠して適当に混ぜる。

シャッフルを終えて、よっし。これでどうだ。さすがに分かんないだろと自信満々に眼前に突き出す。

 

「ふむ……」

 

晴は少し悩んで、カードのてっぺんを人差し指でそれぞれ一度ずつ叩いた。

 

「こっちかな」

 

掴んだのは向かって左側。確率は二分の一。50%の確率で罰ゲームだと言うのに、動きに淀みはなくあっさりとカードを抜き去る。

そして、俺の手元に残ったのはピエロが舌を出して笑っているjoker。

その不気味な顔が非常に憎たらしい。

 

「……うん、私の勝ち。で、先輩の罰ゲーム」

 

にっこり笑った晴が、この時ばかりは悪魔に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

罰ゲームを作った本人が罰ゲームを受けるとかそれほどつまらない展開もない。

何せどんな内容が書かれているのかほとんど網羅しているのだから、どんな物が来るのかというドキドキ感がない。

 

「だから新しく罰ゲーム作ろうぜ」

 

「いいからとっととひけ」

 

「へいへい」

 

にべもなく箱を渡される。

それに右腕を突っ込み、がさがさと紙を漁り何となくでその内の一枚を選んだ。

 

折りたたまれた紙を開き、内容を確認する。

 

ナンパ

 

たった三文字で簡略化された指示が憎い。

左隣の晴にそれを渡し、そのまま順々にこの場に居る全員が目を通す。

 

そんでもって揃って一言。

 

「ガンバ」

 

「うるせえな」

 

美形揃いの十勇士としては大して面白みのない罰ゲームなので、盛り上がることはない。

龍造寺を筆頭に毛利に長宗我部。その気になれば鉢屋、一生懸命頑張れば晴と、ナンパなんぞ楽勝な連中だ。

むしろこれ罰ゲームか? と首をひねってしまうぐらい難易度が低い。

 

俺もなんでこんなこと書いたんだろうか。深夜のテンションって怖いな。

 

「じゃあさっそくいってもらおうか」

 

ナンパが楽勝ではない、その数少ない例外のハルがドアを開けてスタんばった。見に来る気満々か。

 

「いや、待て。よく考えろ」

 

「なんだ。命乞いか? この程度で命乞いとは上級生らしくない。女に疎いと言うのなら俺様が手本を見せてやる」

 

長宗我部が立ち上がる。ちなみに、こいつはいつも上半身裸だ。でも四国に恋人はいるらしい。チクルぞ。

 

「ふっ。ナンパなど人心術に長けた忍にとっては容易い」

 

何故か鉢屋も長宗我部に続く。お前にいたっては童貞だろ。

 

「ナンパと聞いて駆けつけ――――ふごぉっ!?」

 

薔薇を咥えて廊下を駆けてきた龍造寺には一発入れておく。こいつがいると冗談が冗談にならない。一緒に朝帰りとか学校行事でやべえだろ。

 

「まあ待て。時計を見ろ。もうこんな時間だ」

 

俺の言葉に皆が時計を見る。既に12時近かった。

 

「こんな時間にナンパなどしてみろ。下手に成功したらお持ち帰りコースだぞ。罰ゲームで女を持ち帰るとかそんなの嫌だ。倫理に反してる」

 

「やる前から成功した時のことを考えているのはさすがと言うべきか」

 

「自信たっぷりなのだろうな」

 

そりゃあもう。なんせ言霊持ちだしね。

 

「だからここは妥協案だ。この場に居る人間をナンパするからそれで勘弁してくれ」

 

「……それはナンパか?」

 

「ちがうような……」

 

歴としたナンパだよ。違うと言うのならどこが違うのか言ってみろ。

屁理屈で有耶無耶にしてやる。

 

「もうなんでもいいのではないか? 先輩のしたいようにすればそれで」

 

「私もなんでもいいよ。正直面倒だし」

 

「いーや。あかん。罰ゲームは罰ゲームや。ナンパと言うからにはちゃんと外で――――」

 

「宇喜多、後で1000円貸してくれ。返却期限の一か月後ぐらいに返すから、よろしく」

 

「――――そうやなあ! 一応学校行事で来てるさかい! 学生らしい行動せんとあかんやろうなあ!」

 

「女子全員こう言ってるからこのメンバーの中からナンパするな」

 

「一人買収されたぞ」

 

「いつものことだ」

 

「うきたはこれだからなぁ」

 

やはり金で動く人間は信用できないな。金の切れ目が縁の切れ目だ。金あって良かった。

 

「じゃあハルに――――」

 

「待て」

 

「なんだ」

 

「男をナンパする男がこの世に居ると思うか?」

 

「場所によってはいると思う」

 

オカマバーなんかもあるぐらいだし。

世間一般的にも同性好きと言うのは認められつつある。だからと言って迎合するつもりもないのだが。

 

「確かに探せばいるだろう。だが先輩は普段から男をナンパするのか?」

 

「ハル限定ならいくらでもやるかもな」

 

「気持ちはわからんでもないが、ナンパするのは女限定で頼む」

 

「仕方ない」

 

若干嫌な顔したハルが見れたし、いいか。

女限定となると、この場にいる女は4人。さて……。

 

「……大友いってみるか」

 

「お」

 

名指しされた大友がベッドから跳ね上がる。

 

「いいぞ。これでも普段から男には声を掛けられるのだ。こっぴどく振って見せよう」

 

「おう」

 

なんだよ。振られるのかよ。嫌だなそれ。

 

「やっぱやめ。剣華にする」

 

「なに? 逃げるのか?」

 

「戦術的撤退でーす」

 

「ふん、弱腰め」

 

一言言って、大友はまたベッドに寝転がる。こっぴどく振れなくて残念だったの? ひどい奴。

さて肝心の剣華はと言うと、

 

「……」

 

枕を抱いてうつらうつらとしていた。こっくりこっくりとして時々はっと頭を上げるが、襲い掛かる睡魔には敵わず、またこっくりこっくりとしている。その繰り返し。

羽化しかけてんのかねこれ。成虫はどんな姿してるやら。

 

「聞いてたか?」

 

「…………………は?」

 

状況確認を済ませる。なんも聞いてねえなこいつ。

早くやってしまおう。

 

「明日デートしてくれ」

 

「……は?」

 

「明日デーとな」

 

「はあ」

 

「デート内容は明日行ってのお楽しみだ。じゃ、おやすみ」

 

「……寝る」

 

コテンと力尽き反応が無くなった。すやすやと寝息が聞こえる。

毛布を掛けていると、何とも言えない視線を感じた。

 

振り向くと微妙な表情の男衆。

 

「なんか、なあ?」

 

「ああ」

 

「そうだな」

 

言いたいことがあるらしい。なんだよ、はっきり言ってみろよ。そう眼で語る。

 

「いや、なんだ。あの……、睡姦……?」

 

人聞きが悪すぎる言葉が飛んできた。

でも、実際睡魔に襲われている所に便乗したので、何も言い返すことは出来ない。

 

「うるせえな。それより次だ次。最低一人は罰ゲーム受けてもらうからな」

 

男どもの眼をスルーしてゲーム続行。

その後、なんだかんだ盛り上がって二時間ほど続けた。

最終的に罰ゲームを受けたのは、途中参加の龍造寺と集中攻撃された長宗我部、俺が追い立てた晴となった。

 

 


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