IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第95話 激闘! 波状攻撃

専用機組が戦闘領域に入ったころ、IS学園は急遽授業が取りやめになり生徒達も事情を察するに至っていた。

 

「……織斑君も戦ってるんだよね」

 

剣道着姿で剣道場に集まった面々は一夏の日常を知っている。

この日も例に漏れず、無人機襲来の件が伝わる前に一夏は剣道部員達と乱取りを行っている。

日に日に強くなる、或いは強さを取り戻す一夏の剣の腕前は男女の差があれど素直に賞賛に値する。

専用機、織斑千冬の弟、零落白夜、お膳立てしたような各国代表候補生の友人達、束の影。一夏を強者と割り切るのであれば理由づけする要素は幾らでもある。

だが、彼女達は一夏が一夏であるからこそ強いのであると知っている。

自らの意思で剣を持ち刃を振るう。努力が必ず報われるとは限らないが、努力し続けた日々に得たものは裏切らない。

 

「頑張れ、織斑君」

 

専用機持ちや学園の防衛線が抜かれれば自分達がどうなるかは分からない。言ってみればこの地は既に戦地候補なのだから。

それでも彼女達は友人の勝利を信じている。凰 鈴音や五反田 弾だけに限らず、一夏を応援する者達は確かに存在している。

 

 

 

 

石器、火器、鉄器、電気、人と共に発達してきた文明の利器は生活を育むと同時に武器としても発展を繰り返してきた。

歴史の闇に潜み秘密裏に武器や情報を売り捌いてきた亡国機業に取って隠蔽は最優先事項、局地的な電波障害や情報工作は必然的に求められる技術。

だが、正面からISと戦うとなればそれは小難しい技術の応酬だけでは成り立たない。機体性能は元より搭乗者の腕、駆け引き、場の流れ、あらゆる要素が戦いを左右する。

 

「大きいな」

 

データとして知っているものと実際に目の当りにするのとでは迫力は雲泥の差だ。

長い両腕を含めれば五メートルは越えるであろう巨体が巨大な剣と盾を持っている。近接戦闘手段しか持たず懐に飛び込むしかない一夏が思わず声にしたのも無理はない。

白式と無人機、共に束の手が加えられた機体同士ではあるが、どちらかが最強かと問われれば答えは否だろう。

最強の攻撃力と最高の機動力を併せ持つ白式は白騎士と暮桜の特色を色濃く受け継いでいるが、乗り手次第で更なる成長の可能性を秘めている。それは本来とは違う形で生み出されてしまった無人機もしかり、運用方法次第で可能性は広がりを見せる。

共にISとしては異質にして不完全、両者の激突は必然だったのかもしれない。

 

対IS用硬化直立ブレード、雪片弐型、武器特性、極めて硬い。

 

「ふっ!」

 

短く息を吐いて空中を蹴り先手を仕掛けてのは白き翼を持つ騎士、白式である。

相手のシールドエネルギーを切り裂く最強の光刃が意味を成さないとはいえ、雪片弐型そのものはかつて世界最強の輝いた暮桜の愛刀の発展型。

超高火力とも呼べる単一仕様能力発動時の出力に振り回されないよう頑丈な作りをした刀身は必殺技を封じられて尚優秀だ。

例えば人体を斬る事、鎧を貫く事、盾を避けて攻撃する事、力任せに叩き潰す事、近接武器と言っても形状や特性は多岐に渡る。

では雪片弐型はどうかと言えば至極簡単。

前述した通り、零落白夜と言う最強の刃を内包した剣は極めて硬く頑丈だ。どんな速度を伴っても、重量が掛かってもその剣は折れず、曲がらない。

それは零落白夜の発動に関わらず、線と点が辿り着いた剣と言う形状の一つの到達点。

零落白夜に注目されがちではあるが雪片弐型は単一仕様能力を発動させなくとも近接武器として申し分ない性能を持つ。

そこに乗り手として成長を続ける一夏と既存第三世代に対しオーバースペックを誇る白式の性能が加われば決して侮る事の出来ない特機戦力と呼ぶに相応しい存在になり得る。

 

上空から大上段で体重と遠心力、落下による重力補正も加えて自分自身を一つの刃に見立てた一夏が墜落も厭わぬ速度で無人機に迫る。

簡単な打ち合わせしかしていないのも関わらず即座に一夏の背を追う鈴音ともう一機の敵に牽制を行うセシリアと簪の動きは個々のものではなくチームとしての動き。

敵がISより遥かに巨大な無人機であろうとも怯む真似はせず、折れる心は持ち合わせていない。

 

「おぉぉお!!」

 

鈍い衝撃が一夏の手から全身に伝わり、甲高い剣撃音は雪片弐型と無人機の振り上げた大剣が正面から打ち合った音。

歯を噛み締めて気合いを込める。必要な振り抜くイメージは毎晩のイメージトレーニングで培われており、全身全霊で撃ち抜く面は毎朝剣道場で繰り返している挙動。幻想の中で何度も打ち込み続けた理想とする最速にして最大の一撃。

相手の獲物を叩き潰すつもりで放たれた刃は無人機の無骨な大剣を破壊するには至らないが力任せに下方向に押し込む事に成功する。

刃を振り抜き視線を上げた先では無人機は逆の手に持った大盾を構え白式目掛け振り下ろす瞬間だ。

しかし、これは一対一の決闘ではない。

瞬間、一夏は無人機の腹部を蹴る同時に背面に加速、後方へと離脱する。

落ちて来た盾はすぐ後ろに迫って来ていた鈴音が両手に構えた双天牙月により阻まれる。

 

「破ッ!」

 

一夏が大剣を押し込んだのと同じく、鈴音も大盾を力任せに弾く。

 

「一夏!」「分かってる!」

 

無人機の両腕が大きく開いた隙を見逃す手はない。

後方に退避した後に転換し加速、その手には突きの姿勢で固定された雪片弐型。目指す場所は肩の付け根の関節部、装甲の薄くなった箇所に刃を突き刺す。

反対側の腕では鈴音が大盾を弾いた姿勢から舞うように二刀一刃の双天牙月を切り返し無人機の開いた左肩に刃を叩き落とす。

両肩に刃を叩き込まれた状態は相手が生身であれば勝利を確信するに至るが、敵は無人。効率良く人を殺す為に計算で動く殺人マシンである。

僅かに動きを停止させるものの、すぐに再起動した無人機のは目の前の二機を潰すべく独楽の如く両腕を大きく広げ回転を開始する。

 

「やばっ! 巻き込まれる前に離脱!」

「了解!」

 

関節部に突き立てた刃を抜き取り、距離を取る。

数秒遅れて目の前を無人機の大剣と大盾が通過し空気を抉る轟音が二人の耳を刺激しその威力を物語っていた。

一旦距離を作る一夏と鈴音と入れ違いに後方から荷電粒子砲の輝きが飛来、独楽回転を行う無人機を有無言わさず薙ぎ払う。

 

「もう一機は私が引き受けます、三機の火力を集中させて下さいな」

 

空中を舞うと言う表現に関して言えばセシリアの右に出る者を一夏は知らない。

ビットは使用せず移動と射撃を繰り返す姿はISが女性主義の象徴になった所以のように思えてならない程に優美の一言。

数の優位性を押し殺し一人で相対する状況でありながら的確に無人機に攻撃を命中させダメージが見込めなくとも動きを封じているのだから集中力の高さが伺えると言うものだろう。

そのセシリアから飛んだ声に従い射撃を続けながら打鉄弐式が二機に並ぶ、視線を交えるのは短い時間だが鈴音はすぐに意図を理解し四門の龍咆の照準を無人機に合わせる。

 

「一夏、火力で押し切る! アイツの動きが止まったら突っ込んで!」

「おうっ!」

 

放たれるのは二門の荷電粒子砲と四門の熱殻拡散衝撃砲、計六門が雄叫びを上げる。

一年生専用機の中で一撃の重みに重点を置いた場合であれば零落白夜を筆頭にラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの灰色の鱗殻やシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンが該当するが連射性を加えた制圧力として見れば話は変わって来る。

息を持つかせぬ連続射撃が霞み掛かった空に大炎の華を咲かせる。

打鉄弐式の背面から伸びる速射性を重視した二門の荷電粒子砲と攻撃力強化パッケージ崩山により四門に増えた甲龍の龍咆が文字通り目標を焼き払う。

不可視と言うメリットを捨てた代わりに熱エネルギーを咥えた熱殻拡散衝撃砲の威力は単純に増加しており、非固定浮遊部位の数も踏まえれば倍の火力では済まないだろう。

崩山を装着してのデビュー戦となったミサイル襲撃事件や高機動を主観においたキャノンボール・ファストでは龍咆を周囲にばら撒く使い方に留めていただけに一点集中させた火力を公の舞台で披露するのは初と言える。

訓練で見知ったはずの一夏が思わず口を半開きにする程の大火力は第三世代汎用型の極みとも言える甲龍と第二世代発展型にして次世代への入口とも言える打鉄弐式の最大火力の合わせ技だ。

これでまだ少林最終奥義や山嵐を温存しているのだから普段その火力を向けられている一夏としては思う所があっても不思議ではない。

 

一際大きく鳴り響いた爆音に大気が揺れ、二機は射撃を中断。思わず大炎の華に見惚れそうになっていた一夏が気を引き締め対象を注視する。

荒れ狂う熱風はISが遮断してくれているが爆発の中心でどれほどの質量が膨れ上がっているのかは判断できない。

幸いと言うべきか山火事になる事態は引きこされなかったようだが、赤い炎が黒い煙に変わり立ち昇り始めていた。

 

「見えた!」

 

炎上する中心に向かい白式が翼を広げ突貫する。

ハイパーセンサーが捉えたのは炎と煙で遮られる視界の奥にぐらりと揺れる刃の無い大剣、即ち独楽回転は止まっている。

阿吽の呼吸に関して一夏と鈴音を今更否定出来ようはずもなく、行動を確認するまでもなく鈴音は次の武装(高電圧縛鎖)を呼び出し投擲、春雷から夢現に切り替え簪も爆発の中央へと飛び込む。

 

「おぅらっ!」

 

凡そ女の子らしくない掛け声と共に甲龍の右腕から伸びた鎖は姿勢を崩した無人機の大剣を絡め取る。

力勝負であれば無人機と正面からやり合う心算は毛頭なくとも、二機が突っ込む一瞬の隙を作るだけなら十分だ。

 

「織斑君は上から、私は下から」「分かった!」

 

簪と一夏は仲が良いと言える間柄ではない、むしろ簪が一方的に嫌っている関係だが、互いに刃を交えた経験は相互理解を早める一番の近道だ。一夏が振り下ろす剣の軌跡と簪が振り上げる薙刀の軌跡は互いに容易に理解が出来ていた。

狙いは一点、装甲が薄くなっている関節部、初手で雪片弐型が突き入れた肩に刃を上下から叩き込む。

 

「行っけぇ!」「おぉぉ!」「はぁっ!」

 

熱エネルギー渦巻く中心で無人機の右腕を三機のISが噛み砕いた。

 

 

 

空を舞う姿はそのままにスターライトMkⅢのトリガーを引き続け上空の一対一は決定打こそ欠けるものの終始セシリアが押し続ける形となっていた。

 

「ビーム砲は撃たないのですか? いえ、違いますね、撃てないのではありませんか?」

 

強く硬く大きい、単純な設計思想にして単純な思考回路、故に強い。それが無人機の在り方だ。

前回の襲撃時は近づけば殴り、移動の際には回転し、距離が開けばビームを放つと遠近の攻撃手段を織り交ぜ相手の距離によって攻撃方法を変え単純な中にも効率的な強さがあったが、今はどうか。

剣と盾を持った事で攻撃力と防御力は増大したかもしれないが、遠距離攻撃を行うと言う選択肢を失ってしまっている。

遠隔コントロールを行っているならまだしも一定の行動を命令として実行に移すだけの存在に武器を持たせた事は高度な計算や技術を必要とする銃使いから見れば失敗以外何者でもない。

無人機が弱体化したと言う訳でもなければセシリアが短期間に強くなったと言うわけでもない。これは純然たる相性の問題だ。

片方は近づかねば攻撃できず、片方は遠距離からの攻撃に特化している。

スターライトMkⅢの射撃を強引に突破出来れば別だが巨大な盾を持ってしても巨体全てを覆える訳ではない。

つま先や頭頂部、武器先端や関節部、一撃で重心を揺らす正確無比なセシリアの射撃は無人機を的確に捉え独楽回転を許さず、進撃を許容しない。

これが感覚の無い無人機ではなくIS同士の戦いであるなら、相手は糸の切れた操り人形のように無様な踊りを披露する事になるだろう。

 

「恐らく貴方のスペックではそれが限界なのでしょう」

 

命令を実行するだけの人形にそれ以上の思考は出来ない。

繰り返す制圧射撃を突破も出来ず、ビーム砲による反撃も出来ないのであれば勝てはしないが負けはしないの体現だ。

ブルーティアーズの攻撃にもエネルギーに限りがあり、無人機はナノマシンによる回復手段を持っている。

長期戦になればやがて力尽きるのはセシリアに違いはないが、一人で戦っている訳ではないのだ。

燦然と輝く星の雫は常に地上を照らし続ける。後にISを語る上で避けて通れない歴史書にて聖母と記される女性の腕前は個性豊かな専用機乗り達に埋没しがちであるが本物である。

 

「流石は私が見込んだ殿方ですわ」

 

視線を動かす事無くセンサー上で三機がもう一機の無人機の腕を砕き地面に叩き落としす様子を確認し頬を緩める。

相手が無人機とは言え腕一本失えばそう簡単に戦線復帰は出来ないだろう。

一夏を褒め称える言葉は恋愛感情とは少々異なるが最初に見定めたと言う意味では間違いではないだろう。

最初に白式と戦い一夏の中に眠る戦士としての素養を見抜いた選球眼は伊達ではない。

 

直後、脳内を危険信号が走り抜けブルーティアーズが主に危険を知らせる。

 

「っ!?」

 

それは殆ど反射的な行動だった。

射撃を中断し後方へ急加速、両者の間を一気に開き視線を上げれば極太のエネルギーの渦が今まで自分がいた場所に降り注いでいた。

鼓膜に響く空気振動の波、轟音と共に眼下の山が抉れ飛んだ。

油断とは少し違う、周辺への警戒はセシリアだけでなく鈴音も簪も怠っていなかった。

増援が来る可能性を考慮し全周囲へ張り巡らせたセンサーは異物が紛れ込めば見逃さなかったはずだ。

では、アレは何だ。四人の視線が向かう先、雲よりも高い超高高度からこちらに狙いを定めている武器を持たない二機の無人機は何時からソコに居たと言うのか。

 

「増援?」

「嘘でしょ、何で気付かなかったのよ!?」

「迎え撃ちますわよ! 体勢を立て直して!」

「オルコットさん!」

 

一瞬とは言え固まった簪と鈴音にセシリアが声を飛ばす、同時に一夏は高度を上げ射撃が止まった事で行動可能になった無人機とセシリアの間に割って入る。

 

(こちらのセンサー以上の性能を持ったステルスシステム? これで篠ノ之博士を味方と想定しろと言うのは中々難しいですわね)

 

軍人やナノマシンの権威、様々なジャンルのスペシャリストがISに挫折を味わい敵対している事を彼女達は知らない。

亡国機業の存在を想定していない以上はセシリアの脳裏に束の歪んだ笑みが浮かぶのも無理はない。

ラウラ程ではないにしてもあの潜水艦でのやり取りに怒りを憶えているのはセシリアとて同じだ。

束が目的の為なら他を容赦なく切り捨てる事が出来るのだと知ってしまったのだから。

が、現段階でそれを論じても意味がないと思考回路を切り替える事が出来るのもセシリアの優れている点だ。

鈴音と簪も間違いなく強いと形容できる部類に入るが一人は短期間で代表候補生に登り詰めた故に実戦を含め危機的状況への経験が乏しく、もう一人は厄介事は全て姉がこなしてしまった不遇な才女。

実戦経験とは多少異なるが軍での訓練経験やIS技術の進んだ欧州で育った経緯を持つセシリアは他の三人から一段階上にいると言って良い。だからこそ現場指揮を任されているのだ。

 

「鈴さん、簪さん、いけますわね?」

「当たり前でしょ、こんな所で立ち止まっていられないっての」

「ん、私もいける」

 

微笑を浮かべたセシリアが戦意の失われていない状況に安堵の息を漏らす。

短い時間とは言え無人機と戦えば相手の異質さは十二分に伝わっているはずだ。

その上で増援と言う状況に心が折れていない辺りは流石代表候補生と呼べるだろう。

しかし、安堵したのも数秒、突破口を見つける為に思考を巡らせていたセシリアの表情から一気に血の気が失われる。

 

「鈴さん!!」

「へ?」

 

右腕を失い地に落ちた無人機が左腕の盾を捨て去り、巨大な腕を鈴音目掛け飛翔していた。

タイミングを同じくして上空の二機が両腕のビーム砲を地上に向け一斉射、セシリアと簪は強引に距離を作られ、大剣を持ったもう一機が一夏に肉薄する。

形勢が音を立てて瓦解する、相手がこちらの想像を上回った瞬間、戦局は瞬く間に崩壊を始めていた。

 

「こいつっ!! 離せってーの!」

 

巨大な腕が鈴音の片足を掴み上げ大きく振り上げる。

一夏の剣も、セシリアの射撃も、簪の薙刀も届かない。

鈴音を襲ったのは視界が狂う程の遠心力と真っ逆さまに地面に叩きつけられる衝撃だった。

 

「鈴!!」

 

降下しようとする一夏の前に剣と盾を構えた無人機が立ち塞がる。

 

「退けよ!!」

 

無骨な刃と美しい白刃が衝突、大剣を揺らがすが即座に反対側の盾による殴打が迫る。

 

「くっ!」

 

雪片弐型を盾代わりに防ぐが衝撃は相殺できず装甲が軋む嫌な音が響く。

それでも一夏の戦意が失われないのは今以上の絶望を経験したからだろう。

目の前に如何に強敵がいようとも銀の福音や蒼い死神より強いとは思えない。

 

「上空の二機は私が引きつける。織斑君の援護をしてあげて」

「簪さん!?」

 

返事を待たずに打鉄弐式はスカート装甲の内側にあるブースターを吹かし跳ね上がり、山嵐を展開、狙いを定める事なく上空に向けて乱射する。

四十八ものミサイルが空を覆い爆発を繰り返す事で地上との間に爆煙で幕を作り上げる。

 

「いけない、このままでは」

 

上空からの視界を奪ってくれた簪の行動は間違っているとは言えないものだが、セシリアの脳裏に走っているのはチームとしての連携を失いつつある現状への嫌な予感だ。

個々で戦っていては無人機とは戦えない。負けはしないが勝てもしないが根底にあるものの、そこには機体の相性が大きく影響する。

打鉄弐式も白式も優秀な機体だが無人機の動きを制する精密射撃を得意としている機体ではないのだ。

が、セシリアは頭の中に過る嫌な予感を被りを振って追い払う。

 

「考えている場合ではありませんわね」

 

このまま降下して鈴音の元へ向かう選択肢もあるが射撃では牽制は出来ても救出は出来ない。

ならば取れる手は簪の言う通り、一夏への援護だ。

スターライトMkⅢから迸った高出力のエネルギーが一夏の行く手を遮る無人機の大剣に命中、体勢を崩す。

 

「織斑さん!」

「ありがとう!」

 

そのまま雪片弐型の刀身で無人機の頭部を叩き、反転しつつ蹴り打ち込み反動で下に向かって加速する。

姿勢の崩れた無人機は即座に一夏を視界に収めるが今度はその道筋をセシリアが塞ぐ。

 

「貴方の相手は私ですわ」

 

が、次の瞬間、セシリアは己の思慮の浅さを呪わずにいられなかった。

いや、この展開は例えラウラやシャルロットがいたとしても読み切れなかっただろう。

片腕を失った無人機は甲龍の足を掴んだまま持ち上げては地面に叩き落とす所業を繰り返している。

ISのシールドが直接的なダメージは防ぐと言っても搭乗者への衝撃がなくなるわけではない。

既に鈴音の意識は半濁に沈みつつあり、絶対防御は発動していないが時間の問題だと誰の目にも明らかだ。

もし搭乗者の安全を最優先する為に絶対防御が発動しようものなら鈴音は抵抗する事が出来なくなる。そうなれば死に至らなくとも致命傷、或いは拉致される可能性が出てきてしまう。

 

「りぃぃいん!!」

 

真っ直ぐに友の救援へのコースを取る一夏の目には他の無人機は映っていない。

 

「いち、か、ダメっ!」

 

辛うじて鈴音が絞り出した声は鳴り響いた轟音に掻き消される。

 

「え?」

 

眼下で起こった異変に気づいた時、ブルーティアーズのハイパーセンサーが捉えたのは側面から飛来した新たなエネルギー反応に飲み込まれた白式の姿だった。

ソレは山の中から現れた、誰にも気づかれる事無く両腕のビーム砲を構えその瞬間だけを待ち続けていた。

 

「五機目!?」

 

悲痛なセシリアの叫びに応えられる味方はもう誰もいなかった。




戦闘描写はスピード感を出す為に文字を削ると描写が少なくなる。
描写を濃くしようとすればスピード感が失われる。
ジレンマを味わいながら書いてました。
お楽しみ頂ければ幸いです。

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