IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第92話 新たなる指導者

「はぁ! アメリカに帰るぅ!?」

「一時帰国だから戻って来るけどね」

 

素っ頓狂な大声を上げたのは寮の自室で油で揚げた芋の菓子を頬張るティナの向かい側のベッドでファッション雑誌を捲っていた鈴音だ。

時刻が深夜に近いと言う事を考慮すれば雑誌はともかく大声と油菓子は咎められる場面かもしれないが、今更なので突っ込んだりはしない。

夜食にお菓子を日常としていながらも鈴音より豊満な体型をしているのだから人生ままならないものだ。と仮にこの場にいない一夏が思ったとしても絶対に口にはしない。言葉にした瞬間に鉄拳が飛来すると分かっているからだ。

ISを装着していなくとも少林を会得している鈴音の拳は生半可な覚悟で受けられるものではない。

軍属のラウラや企業エージェントのシャルロットに決して引けを取らないのが鈴音と言う中華娘なのだ。

 

「ってかいきなり過ぎんでしょ、何があったってのよ」

「んー、なんかね。シルバーシリーズの完成を急ぐらしくて、テストパイロットは全員集合なんだってさ」

「アンタ、それ思いっきり軍事機密レベルじゃないの?」

「鈴の事信じてるし?」

「疑問形で言われてもねぇ、そりゃ口外はしないけどさ」

 

キャノンボール・ファスト一般の部で勝利を飾り、イレギュラー要素が多い今年度の大会においても大国アメリカの威信を証明して見せたのだから成績不振による帰国では断じてない。

重ねて言うならばISの開発、発展は各国最優先事項とも言える代物であり、その中でも中国の甲龍戦隊とアメリカのシルバーシリーズは歴史を揺るがし兼ねない最新鋭の量産型だ。

甲龍の一部は盗まれてしまったが、開発計画は継続しており元より保有しているISの数が多く、未だ立場としては揺らいでいない。責任者である楊 麗々は雪辱を果たす為に怒りを溜め込んでいると鈴音は聞き及んでいる。

アメリカのシルバーに至っては更に特殊性が上であり、量産型でありながら精鋭機と言う親衛隊的ポジションにある機体は見た目も含めてパフォーマンス的意味合いが含まれている。

大国の技術の結晶である機体が見た目だけなはずがなく、性能は暴走状態にあったとは言え白式を含む五機の専用機を寄せ付けなかったのだから言うまでもないだろう。

甲龍とシルバー、二種類の次世代を彩るであろう量産機に関わっている二人が同室と言うのは天の采配が関わっている気もするが、二人の間柄は良好で互いの国柄を気にする様子は見られない。

ある意味でこの関係こそがIS学園の必要性の一つとも言える。

新しい時代を作るであろう学友達が親交を深めていれば、将来的にISを使った戦争が起きたとしてもIS乗り同士が結託すれば戦火の拡大は防げるかもしれないと言うものだ。

楽観的な考えと言えなくもないが、友人同士であればある種の抑止力が働くのは紛れもない事実である。

 

「んで、いつ帰んの?」

「明日」

「早っ!」

 

IS学園はある意味隔離されたとも言える特殊な環境であり、必要のない帰国は認められていないが、準専用機乗りとも言える立場を考慮すれば止むを得ない場面と判断も出来る。

国家の思惑も絡んでは来るが、安全神話の崩壊したIS学園にそれを一蹴するだけの力があるかは疑問が残る所だ。

 

「だから今晩は一緒に油ぎとぎとのお菓子を食べようよ!」

「私は明日授業だってーの!」

「一緒に太ろうよぉ!」

「私は太らないわよ!」

「よし、殺そう!」

「あ、それ私のセリフ!」

 

こうして夜は更けていくのだが、現段階の二人は知る由もなかった。

銀の機械天使と大空を泳ぐ龍が再び出会う日、それが戦火の真っただ中であると言う事を。

 

 

 

 

カツンと響くヒールの音を鋼鉄で囲まれた巨大な広間に反響させながら歩いているのは一人の金髪美女。

広間には軽く見積もっても百は越える人間がいる。

各々の姿勢は頭に手を添える敬礼であったり、手を背後で組む直立不動であったり、胸に拳を当てる姿勢だったり、特に気取った態度を取らない自然体であったりと様々だ。

一様に共通しているのは全員が一際高い位置に設置された演説台に上がる赤いドレスの金髪美女を見上げていると言う事。性別も人種も服装も千差万別、共通しているのは瞳に熱が宿っている点。

 

「さて、今日ここに集まってくれた同胞諸君、この場にはいない友人達、放送で見ているであろう全ての仲間達にまずは一言。今日、この日を持って私達は生まれ変わる。陳腐な武器商人はもう止めよ。私達は世界を破壊する」

 

歓声は上がらないが、集まる視線に宿る熱が激しさを増したのを金髪美女の背後に控える二人の女は感じ取っていた。

広間にいるのは約百人だが、これで全員ではない。この場にはいない同士達もカメラを通じて閲覧しており、レンズを通して数え切れない視線が肌を刺激している。

 

「改めて言う必要はないでしょうけれど、アレ(IS)はとてつもなく恐ろしく、圧倒的な存在感を持っているわ」

 

檀上の美女が言葉を強めると同時にスポットライトが彼女の背後を照らす。そこには黒く染まったラファール・リヴァイヴと甲龍が控えている。

更に広間の左右を光が照らせば物言わぬゴーレムが棒と盾の形態をした新武装を携えて整列しており、それ以外にも数はまばらだが打鉄やテンペスタの姿も確認出来る。

 

「この子達を壊したいと願う者もいるでしょう、憎しみを覚える人もいるでしょう。でも今はその苦汁は飲み込みなさい、私達にはやらねばならない事がある」

 

頭に手を添え敬礼をしている軍服の男は元空軍の兵士だった。白騎士事件、白騎士が迎え撃ったのはミサイルだけではない。

世界中の軍がたった一機のISを捕縛、或いは撃墜する為に出撃したが全て返り討ちにあったのだ。

緻密に計算された白騎士の攻撃は悉く戦闘機や戦艦の致命傷を外し、奇跡的に、或いは天災の計算通りにか死者を出さなかった。

だが、パイロットの男は確かに見たのだ。ミサイルを放ち、機銃を放ちながら突っ込んだ先で、白い悪魔は空気中のゴミを振り払うように剣で愛機を一閃する様を。

視点が違えば見惚れていたかもしれない無駄なく洗礼された一太刀が長年共に空を飛んできた相棒を切り払った。目の前で振り払われた刃の軌跡は瞼の裏にこびりついて何年経っても離れてくれない。

緊急脱出に成功しパイロットは無事だったが、夢にまで出る恐怖に心が砕かれた男は二度と空を飛べなくなっていた。

幼き頃から夢見ていた空への願いをたった数秒の出来事でへし折られた。

 

白衣姿で鬼気迫る視線を檀上に送っている女は周囲のISを確認し握りしめた拳に更に力を込める。

医者の両親を持って生まれた彼女は間違いなく天才と呼ばれる部類の人間だった。

他者と自分の頭の出来が根本的に違うと感じ取ったのは十代半ば、学友達が四苦八苦する学校のテストに対し何ら抵抗を感じなかったのだ。

教師の話を聞くまでもなく、教科書を流し読みしただけで内容を把握し応用まで完璧に熟す彼女は誰に教わるでもなく約束された勝利者への道を歩み始めていた。

二十代、両親とは異なり医者ではなく学者としての道を選んだ彼女は特殊な細胞の開発に着手する。自己進化、自己再生、自己増殖する夢のような細胞だ。

天才を呼ばれた彼女であってもこの研究だけは上手く事が運ばず、初めて味わう挫折を前に彼女はやりがいを感じ努力を惜しまなかった。

長い時間をかけ研究室を拡大し、政府機関や大学機関に自分を売り込み、頭を下げ続けた。

四十代、実に二十年もの月日を費やし彼女の研究はやっと国に認められ始めた。

未だ完成の欠片も見えない果てなき研究の途中であるが、資金援助も成立し、これからやっと栄光への一歩が始まる。そう思った矢先に白騎士事件が勃発した。

彼女を賞賛していた後輩や助手、援助者達はあっさりと掌を返し、研究施設も資金も全てが将来性の見通せない未知の細胞から将来に具体的な姿を見出したISへの研究へと飲み込まれてしまった。

これだけであれば彼女はまだ諦める事も、再度奮起する事も出来たのかもしれない。

ISの研究者は自分以上の努力を積み重ねてきたのかもしれないと思えたからだ。自分の努力では未だ及ばぬ領域があるのだと辛酸を飲めたかもしれない。

しかし、IS開発者は自分の人生の半分も踏破していないであろう小娘だった。

才能が違うと、頭の出来が違うと、かつて自分が学友達の苦労を理解出来なかったように、篠ノ之 束には自分の考えはきっと理解出来ないのだろう。そう思い知らされた。

彼女の中の自尊心は瞬く間に砕かれ、残ったのは立ち上がる勇気ではなく、憎悪だけだった。

 

小銃を抱き締め拳を胸に当て揺るぎなき真っ直ぐな視線を檀上に熱心に注いでいるのは小麦色の肌の少年だ。

生まれた時から戦場が少年の日常だった、物心ついた頃には血と硝煙が舞い、鉛玉が飛び交う荒野を闊歩していた。

両親の顔も、何故自分がここにいるのかも分からなかったが、同じような境遇の戦友達に囲まれた日々だった。

時には密林で獣の血肉を喰らい生き延び、時には沼地の泥を啜って生き残り、骨が砕けようが、肉が裂けようが血反吐を吐きながらも命を繋ぎ止め敵の命を奪い続けた。

誰が何の為に自分にこのような試練を課すのかは知ったことではない。思考回路はとうの昔に焼き切れている。ただ生きる為に目の前の敵を殺す、それが少年の当たり前だった。

だが、ある日人生で何度目か分からない絶望を知る。

数多くの少年兵を指揮していたゲリラ部隊の隊長が用意したのはミサイルを搭載した特殊車両。

これで敵国を焼き払い、真の自由を手に入れる。そう豪語する男の言葉に少年の胸は打ち震えていた。

しかし、突如として飛来した何かによって車両は焼き払われ、隊長も戦友達も炎に包まれ血肉が溶け落ちた。

爆発に煽られ吹き飛ばされ生き残った少年は確かに見たのだ、上空を舞う一機のISを。

後に少年が所属していたゲリラ部隊は国境のかなり深くにまで入り込んでおり、ISによる防衛線に触れたのだと知る。軍事利用ではなく防衛の為の戦力と言う建前の姿だ。

目の前で仲間が死ぬ、命が失われる瞬間を目撃するのは珍しくはない。悲しみや怒りの感情はあるが、生きる為にそんな感情は意味がないのだと少年は学んでいた。

多くの戦友を失ったその日からISは少年の敵になった。アレを殺さないと自分に明日は来ない。既に狂っている心の中、明日を求める為に敵を殺すと言うたった一つの真実だけが少年の胸を満たしていた。

 

「生きる意味を取り戻す為、失った誇りを再び掲げる為、この戦いの先に未来があると信じるならば奮い立ちなさい。戦場は私が用意してあげる」

 

洗脳なのか誘導なのか、或いは各々の心の在り方なのか、耳障りの良い言葉を並べる女の声は広間に集まった者達を戦場に誘うに十二分の性能を有していた。

武器商人、企業間の仲介役、兵器の開発者、研究者、物理学者、エネルギー工学のスペシャリスト、商社の営業マン、ISに関係あるないに関わらず、白騎士事件で人生を大きく変えた人間は数多い。

積み上げた経歴を失った者、信じて来た仲間達に裏切られた者、職を失い家族を養う事が出来なくなった者、一族郎党崩れ落ちるしかなかった者。

集まった中には金髪美女の言葉が自分達を駆り立てる為の方便でしかないと気付いている者もいるが、それでもこの場にいる者達は戦う事を止めはしないだろう。

失ったものは返ってこなくとも、一度得た栄光を忘れる事など人間には出来はしないのだから。

 

ISの登場は人類を大きく飛躍させ、可能性ある未来を見せたが、同時に今まで順風満帆だった大勢をどん底に叩き落とした。

デュノア社と懇意にしている武器商人の老人や元傭兵の部隊、ISにも負けずに戦う事を選んだ軍人達、新しい研究対象に惹かれた者達、時代が変わろうとも順応した人間も確かにいる。

が、残念ながら運命とは残酷なものだ。時代に取り残された者達全てに救いの手が差し延ばされた訳ではない。死を売り物にする悪意ある武器商人に忍び寄られた者達もいる。

その経歴を、力を、知識を、活かせる場面がまだあるのだと、全てを失った者達に囁かれる甘い蜜は鼓膜だけでなく心までも彼等を魅了した。

彼、彼女達には可能性があった。もしかしたら変われたのかもしれない、救えたかもしれない。

選んだのは彼等自身、落ちる道を選択し、世界に対する反逆を、再び立ち上がる為に世界を破壊すると言う大義名分を選んだ。

 

「貴方達は悪くない、私達を弾き出したのは世界の方よ、立ち上がる時は来たわ。この忌々しくも美しい青き清浄なる世界を共に破壊しましょう」

 

演説者である金髪美女、即ちスコールは言葉巧みに彼等に歩み寄り引き込んだ。

亡国機業の老人達はISにより行き場を失った優秀な人間に目をつけ、彼等の資金、人脈、技術を貪欲に吸収していった。

だが、スコールはただ吸収し使い捨てにするだけで終わらせはしなかった。

老人達に搾り取られた彼等に接触し、ある時は権力を翳し、ある時は妖艶に、ある時は朗らかに、人心を掌握しISや束に恨み辛みを持つ者の支持を手に入れていた。

世界を手に入れると言う野望の為に、スコールは老人達を欺き好機を窺い続けていた。

元々亡国機業に所属していた人間の大多数は金次第で動く外道の輩が大半だ。

長きに渡り頂点に君臨していた老人達を失ってもスコールと言う新しいリーダーを中心に金が動くならば彼等の掌握は難しくはない。

そこに加えてISの時代を破壊する手段を厭わない悪意に彩られた者達が集った。これこそが新しい亡国機業、世界の裏で暗躍する亡霊達。

 

「その命、私が預かるわ。世界を破壊する為に、私の為に死になさい」

 

軍人の研究家も少年兵も、何の為に武器や筆を取ったのだろう。

もはやそんな理由を後回しにする程に彼等の心は亡霊に支配され飲み込まれていた。

 

白騎士事件で死者は出ていない。

これは世界的にも束の観点からも確認されている事実である。

だが、犠牲者は確かに存在していた。

一握りの成功の陰には常に山のような敗者がいるものだ。

 

 

 

「演説、と呼ぶには弱かったわね。ガラにもない事をしたわ」

「そうか? 元々精神が病んでる連中相手にだったら十分だろ」

 

殺意に取り付かれた亡霊達は各々が成すべき事の為に散っており、広間に残っているのはスコール、オータム、エムの三人だけ。

周囲を囲むゴーレムやISが無言のまま彼女達を見据えているが、動く気配は感じられない。

これから始まる祭事の為に焚き付けると言う儀式は終わった。後は計画を実行に移すだけだ。

 

「……スコール、ひとつ聞きたい」

「あら、何かしら?」

 

簡単な鉄製の机とパイプ椅子を並べただけの幹部会で進言を申し出たのはエムだ。

 

「世界を取る、それがお前の目的だったな」

「えぇ、そうよ」

「その過程に篠ノ之 束の首が含まれているのは何故だ? これだけの戦力があれば戦争だって出来るだろう」

 

今の世界情勢で戦争が勃発すれば始まるのは間違いなく第一次IS対戦になるのは目に見えている。

だとすれば唯一無人機を保有する亡国機業はあらゆる面で優位に立てるに違いない。

世界征服を目的とするならば態々束と敵対しなくとも実行は可能だ。

正面切って戦わなくとも電波妨害やガス兵器、ミサイルを搭載した衛星、軍艦に銃火器など亡国機業を手に入れた今のスコールの動かせる戦力は驚くほど潤っているのだから。

 

「ダメよ、篠ノ之 束の首は必須条件。博士に生きていられると第四世代や蒼い死神みたいな規格外が今後も作られないとは限らないでしょ? 天災の首を取ればこれ以上ISの技術が発展する心配はなくなる。そうなれば大多数のISを持ち、尚且つゴーレムを所有する我々の地盤は揺るがないわ」

「……未来永劫の勝利を得ようと言うのか、欲張りだな」

「否定はしないわ。でも、どうせなら勝者として歴史に名を刻みましょうよ。貴女もね」

「私は未来に興味などない、ただ私が私である為に織斑 千冬を殺すだけだ」

 

消えそうな呟きを最後にエムは腕を組み、これ以上発言するつもりはないと瞳を閉じる。

横目に会話を聞いていたオータムがわざとらしく肩を竦めて見せ、対面のスコールも苦笑を浮かべる。

この場にいる三人に関して言うならばオータムは楽しければどうでもよく、エムとスコールには己の目的があり結託している。

亡国機業は悪意の拠り所としての一面を持ち合わせているが、この面子にだけ照らし合わせれば亡国機業は目的の為の手段でしかない。

 

「どちらにしてもまずは兎さんを穴倉から誘い出さないとね」

「準備は出来てるぜ。暮桜や白式が手に入らなかったのは残念だけどな」

「まぁ、仕方ないわ。今更計画は変更出来ないもの」

 

ただ殺すだけであれば島の拠点を焼き払ったように緻密に調べ上げ強襲も不可能ではないかもしれないが、今回は違う。

篠ノ之 束の首が絶対的な勝利条件であると同時に、亡国機業が殺したと言う事実を世界中に知らしめる必要がある。

 

「さてと、それじゃ、終幕に向けた第一幕を始めましょうか」

 

芝居かがった仕草でスコールが笑みを深める。

演者が集まる舞台の用意が出来たならば、後は彩る役者に通告を出すだけだ。

たった一人の首に照準を合わせたギロチンの刃が振り上げられ、悪意が首をもたげていた。

 

 

 

コードネーム、スコール。彼女の失われた本名を表立って知る者は既にいない。

情報を生業にする者が調べればわかるかもしれないが、彼女を亡国機業に引き込んだ老人達はこの世を去った後だ。

スコールは元々はお嬢様と呼ばれるに相応しい身分の人間だった。

巨大な富を持ち、財界を動かす程の影響力を秘めた商家の娘、それがスコール。

彼女がまだ幼い頃、父親はある取引で失敗をする。懐をより潤沢にしようと手を出した相手は死を運ぶ武器商人だった。国さえ破壊する商人は商家を喰らい貪り尽くした。

両親は娘を残して首を吊り、残ったのは多額の借金と財界から見捨てられた娘だけだった。

元々商家が財界と繋がっていたのは金による力であり、人情に元に成り立っていた関係ではない。

金と言う絆を失えば商家は人としての扱いさえされなくなる。ましてや幼い娘一人であれば気にも止められない。

その上で名を失った娘を拾ったのは亡国機業だった。両親を死に追いやり、土地も地位も家族さえも奪った相手だけが娘の拠り所だった。

幸か不幸か、娘はすぐに才覚を表した。湯水の如く金を稼ぎ、あらゆる手を尽くし勝利を重ね続けた。

一度全てを失った娘はやはりどこかが病んでいたのだろう。壊れたように欲するのは勝利の二文字だけだった。

未来永劫、永遠の勝利。それは時代と言う覆される事のない未来を創る事。

彼女には敗者になりたいと願う勝利者の想いは理解出来なかった。




スコールはきっと金髪ロールにフリフリドレスが似合う美少女だったに違いない。

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