IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第83話 君を見つめて

ISやMSと言った存在の有無に関わらず世の不条理によって不利益を被るのはいつだって戦乱とは無関係の第三者だ。

大きく言ってしまえば世界の流れである以上は第三者等存在しないとも言えるが生まれたばかりの赤子や戦う術を持たない子供達に今の時代に生まれたのが悪いと責める事が出来ようか。

人類は須らく平等である。それが妄言であるとは言うまでもないにしても、捨てる神があれば拾う神があるのもまた事実。

 

「…………っ!?」

 

齢十を越えるかどうかと言う少女が暗闇の中で目を見開き、布団を蹴飛ばし文字通り跳ねながら起き上がる。

暗闇に目が慣れるのを待つ必要がない程に手馴れた四畳半程の部屋。木製の床と天井、周囲は土壁に覆われコンクリートや鉄筋は必要最小限しか用いられていない。

床に直接簡素な寝具を敷く構造でベッドの類は存在せず、他には小さな机と衣装棚があるだけだ。部屋の主は少女の域は出ていないが鏡や小物も見当たらず、寝る事だけを目的とした部屋だと分かる。

 

飛び起きた少女は寝具を踏み付け重心を低くした姿勢で拳を握り締める。

即座に周囲を警戒した手際は見事だったが、少女の失敗はこの時に大声を上げなかった事、悲鳴か警告を発していれば周囲の人間が異変に気付けたはずだ。

視線と集中した意識が敵を認識、息を呑む間もなく、目の前で光が弾ける。

それが消音性能を高めたスタンガンだと気付くことなく膝をついた少女の脳裏にこれまでの日々がフラッシュバックして崩れゆく意識の中で今までの自分を思い返す。

物心付く前に親に捨てられ、拾ってくれた人達は必要最低限の暮らしを提供してくれた。それどころか読み書きに計算、生きていく為に必要な術と教えてくれた。

それは大半が善意の上に成り立っているが、強い心を持たなければ容赦なく置いていかれると幼いながらに理解していた。この場所は行き場をなくした子供達の最後の砦であり、希望だ。

常に穏やかに見守ってくれる老子と厳しくも優しい兄弟子達、共に過ごした義兄弟達の顔が次々に流れては消えていく。

自分の身に何が起こったのか、これから何をされるのかもわからぬまま、残された意識の片隅で少女は感謝の気持ちと後悔の念で胸を満たしていた。

世の摂理は想像の外側ではない。不条理はいつだって必死に生きる弱者に容赦なく牙を剥く。

 

「……まさか気付かれるとはな」

「流石は総本山の子供と言うべきか」

「とにかく撤収だ、ここの連中に気付かれると流石に不味い」

 

少女を肩に担ぎ上げるのは大型の暗視ゴーグルを筆頭に夜間活動を迅速に行う特殊装備を身につけた男達。

速やかに離脱するのはこの場所の住人の中には常識の範疇から足を踏み出し、世界最高峰の暗部衆に引けを取らない達人がいると知っているからだ。

最新科学と経験に裏付けされた実力を持つ者達だからこそ油断はしない。

 

 

 

翌日、一人の少女が姿を消した事を起因に中国の中でも特殊性の高いISを中心とした軍事基地の裏手、連なる小高い丘と広い竹林と森林をもつ通称総本山と呼ばれる場所が慌ただしく動き出していた。

敷地としては軍事基地の一角になるが深く広い山々に囲まれた奥深くにある総本山の主は世界の軍事事情、国際IS委員会に太いパイプを持つ老子と呼ばれる老人だ。

世界広しと言えど軍事や政治に対する影響力では第一人者であり、鈴音の才能を見出し僅か一年で代表候補生にまで叩き上げた地でもある。

そんな総本山は広い国土を持つ中国の良心の一つ、子供達の最後の砦とまで呼ばれており、それにはきちんと理由がある。

軍人であった老子は引退に伴い隠居生活を行っていたが、ISの登場で荒れる軍事情勢を見守る意味で基地の一角に居を構えたのが総本山の始まりだ。

政治に影響力を持つ程の軍人でありながら生きる伝説とまで称される人物の余生は世界中が注目するに値する。

軍の上層部や政治関係者も当初はこの地が総本山と呼ばれるまでに巨大化するとは思っていなかったが、老子を頼り身を寄せる人物が後を絶たなかったのである。

若手の育成、ある意味で老後の楽しみを全うする為に老子が選んだ第二の人生は少林拳を中心とした育成帰還の設立。そこに軍は関係なく軍人の育成と言う意味ではなかった。

結果として国内最高峰の格闘家育成機関が生まれ、それでも尚持て余した敷地に開設されたのが孤児院だ。

老子の人柄を頼り、どうしても子供を育てる事が出来なくなった親が子供を捨てる地としてこの場所を選んだからだ。

老子とて親と子が離れる事が最善であるとは思わなかったが、一方的に捨てられるよりは引き取る場所を作る方が好ましいとの判断の結果だ。

総本山に預けられた子供達の生活は決して裕福なものではなく、自給自足が前提の上に成り立ち働かざるもの食うべからずを貫く場所だ。生まれたばかりの子供は別にしても物心が付けば居座るだけは許されない。

完全な慈善事業の上に成り立ってはいるが自ら前に進む意志なき者を無条件に救いはしない。最後の拠り所と呼ばれる地は子供達が自立し旅立つまでを見守る母なる山に他ならない。

 

「見つかったか?」

「ダメだ、出入り口は封鎖しているが山の中を行かれると難しいな」

「……老子は何と?」

「具体的には何も、ただまぁ、相当お怒りだ。あの人は全ての子を我が子のように思っているから……」

「あの子は心配だが、こうなってしまうと……」

「あぁ、同情せざる得ないな」

 

「……総本山に手を出した愚かな連中にな」

 

金の龍紋の刻まれた黒い道着姿、老子の側近にして鈴音に最終秘伝をさずけた二人の男は一夜にして行方知れずとなった妹弟子に心配を馳せながらも、世界最高峰の重鎮が放つ怒りの意味を理解していた。

現在も少林拳を学ぶ弟子達や孤児院の子供達、老子の声で集まった軍人達が捜索網を広げているが発見の報告は上がっていない。

孤児院に来たばかりの子供であれば逃げ出す可能性もあるが、消えた少女は物心ついた頃よりこの地で育っている。

年齢はともかく鈴音よりも老子との付き合いは長いのだ。ましてや孤児でありながら少林拳を学び、幼いながらに将来有望とされる腕前を持つ功夫少女だ。自らの意思で総本山から消える理由はないに等しい。

 

「とにかく走るしかあるまい」

「あぁ、悲劇を繰り返させる訳にはいかない」

 

深い野山、助けを求め泣いているかもしれない妹弟子の足掛かりを探して二人は再び別方向に走り出す。

軍に深い繋がりを持つ老子の側近を務める二人は知っているのだ。秘匿扱いとされているドイツの孤児院から消えた少女の悲劇を。

 

 

 

 

海を渡り、場所はIS学園へと移り変わる。

耳元を通り過ぎた弾丸の放った轟音が鼓膜を震わせ数センチずれていれば直撃していた鉛玉の威力に血の気が下がる。

 

「あ、あっぶねぇ!」

 

IS学園アリーナの上空、一夏が視線を向ける先ではシャルロットが夏休みに新調した重機関銃デザート・フォックスの手応えを確かめていた。

冷や汗をかいた一夏とた正反対に熱を帯びた瞳の輝きは放っておけばうっとりと銃身を視線で愛でてもおかしくない。

 

「もぅ、なんで避けるのさ。折角新しい銃を試してるのに」

「避けるわ!」

 

甲龍の崩山を始め他の専用機は夏休みに新しい武器やパッケージが実装されてから使う出番はあったが、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの新しい武器は良いか悪いか試す場面は訪れなかった。

 

「それじゃ次はどうかな!」

 

重たい銃身から放たれる銃弾は秒間に数え切れない程の弾丸を吐き出すトリガーハッピー御用達の弾幕マシン、それをもう一つ、今度は両手に展開する。

 

「ちょ、ちょっと落ち着けシャルロット!」

「だーめ、全部避けたらご褒美を上げるよ!」

 

上空の白式、地上のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡと言う構図。本来であれば射撃戦において上空を取る方が圧倒的に優位に立てるIS戦であるが近接武器しか持たない側からすれば相手の位置はさして意味を持たない。

敢えて言うならば太陽の位置による逆光効果や弾丸に重力の補正が掛からない分だけ上を取る方が少し優位に働く程度。

が、太陽の光はISが自動的に軽減してくれており、アリーナ程度の距離であれば重力の及ぼす効果も微々たるものだ。

つまる所一夏が攻撃を行う為には地上から濁流の如く押し寄せる弾丸の雨あられに対し機体を左右に振りながら避けるしか道は残されていなかった。

回避に定評のある一夏であるが、ブルーティアーズのビットは多角的な攻撃であるが連射性能だけで見ればデザート・フォックスに軍配が上がる。一方向から絶え間なく放たれ続ける弾幕を相手に接近するのは容易ではない。

 

「ほら気をつけて、射撃戦をしてるのは僕だけじゃないよ!」

「くっそぉ!!」

 

厄介なのは現在アリーナで戦闘しているのは一夏とシャルロットだけではないと言う事。

ラウラと簪、セシリアと鈴音がそれぞれ同じアリーナの中で同時に戦闘を行っており一対一が三組、所狭しと飛び回っていた。

 

学園祭のイレギュラーやミサイル襲撃事件、セシリアが遭遇した無人機等、様々な非常事態に対し現行で有効な手段は見いだせておらず、学園祭で捉えた男達は使い捨て要因に過ぎず引き出す程の情報を持ち合わせていなかった。

非常事態が万が一と呼べない比率で起こっている以上、IS学園側は対抗策を講じざるえない。学園は立場的に大きな動きは取りづらいが、専用機持ちであれば話は別だ。

緊急時に即時展開出来る彼女達は切り札であり常在戦場が許された存在だ。その為に日頃から出来る事として行われているのが放課後の模擬戦だ。

元々は一夏に対する訓練の一環であったが、今では各々が新装備や連携を試す場として使われており管制室から様子を見ている教師でさえも一年生とは思えぬ動きに感嘆している。

この一対一を三組同時に行うと言う訓練方法は「一対一では時間が勿体無い」「三対三では零落白夜を意識してしまう」と言うのが主な理由だ。

零落白夜に各々が対処出来ないと言う訳ではなく、乱戦で一夏を中心に立ち回っては訓練にならないと言う意味合いが強い。

その結果生まれたのが一対一を同時に行う不規則な戦闘訓練。基本的にはお互いの対戦相手だけを狙うが射線に入れば撃たれる可能性はあり、跳弾がいつ飛来するとも限らない。周囲を確認せずに回避運動を行えばぶつかる可能性もある。

意図的に零落白夜に狙われる心配がないとは言え、全周囲に意識を張り巡らせるのは変わらず、これは一対一を模しているがれっきとした乱戦だ。

 

「……へぇ」

 

上空の一夏の動きを追いながら銃口の向きを巧みに操るシャルロットはハイパーセンサーが捉える白式の軌跡に感心を抱く。

無反動旋回や一零停止のような高等テクニックはないものの、前後左右だけでなく上下運動も踏まえ機体を振り回す姿は未熟者と侮れるものではない。

空を飛ぶようになって日の浅い者は上下を意識する事さえ難しいが、一夏は自らの経験から空中の制動を身につけている。

直線的な動きが目立つのは元々持っている性格だとしても、航空力学における慣性や銃弾の予測も本能的に理解しつつある。

ましてや剣を持った時の研ぎ澄まされた集中力は一年生の中でもトップクラス。空中機動における成長は間違いなく戦力としての向上に繋がる。

一夏の動きをある程度手玉に取っているシャルロットの射撃能力の高さは語るまでもないが、懸命に努力を積み重ねている相手を疎かにする者はいない。

 

「うん?」

 

射撃を続けるシャルロットが奇妙な違和感に眉を潜める。

致命的なと言う程ではないが、時折白式が揺れ動くのだ。一夏の視線と白式が向かおうとする姿勢制御が合致していない。

別段それ自体は搭乗者とISの感応状態の問題次第で珍しくはないが、逃げに徹する場面で両者の間に食い違いが生じるとは考えにくい。

最も、怒涛の勢いで押し寄せる弾雨に視界を塞がれた状態であればISの演算処理と搭乗者の回避技術が混乱を来たしてもおかしくはない。結果的に回避先を見誤ったのであればそれはやはり未熟さと言うより他ないのかもしれない。

 

「あら?」

「ちょ、馬鹿一夏!」

 

つまり、シャルロットの射撃を避ける為に選んだ先がブルーティアーズのスターライトMkⅢと甲龍の龍咆が撃ち合っている空間だったとしてもそれは注意を怠った一夏が悪いのだ。

射撃と射撃の間に異物が紛れ込めばどうなるか言うまでもない。完全に意識の外側から挟み撃ちで襲ってきた衝撃に文字通り目を回した一夏が地面に向かい落下する様を「あ……」と五人が呟き、アリーナにクレーターが出来るのを見送るのだった。

 

 

 

「織斑さん、大丈夫ですか?」

「一夏、生きてる?」

 

戦闘を中断しセシリアと鈴音が墜落した一夏の側に降り立ち、少し距離を置いたシャルロットの側に同じく戦闘を中断した簪とラウラが降り立つ。

 

「中々良い銃だな、シャルロットらしい見事な弾幕っぷりだったぞ」

「人をトリガーハッピーみたいに言わないでよ」

「……もし弾がなくなってたらどうしてたの?」

 

展開されたままのデザート・フォックスへ称賛を送るラウラの言葉にシャルロットは不服だとばかりに頬を膨らませるが、簪からの言葉に「?」を浮かべる。

ラウラ経由ではあるが、一年生専用機持ちとして簪が模擬戦に加わるようになったのは自然な流れとも呼べるがコミュニケーション能力がお世辞にも高いと言えないのは相変わらずだ。

とは言ってもシャルロットやセシリア、鈴音等は人との距離の取り方が上手く、簪が打ち解けるまでに時間は要さなかった。

専用機の問題と言うわだかまりは一先ず埋まったとも言えるが、だからと言って好感度が跳ね上がるかと言えばそんなはずもなく、一夏に関しては相変わらずだ。

 

「弾切れ? その時は銃を変えるけど……?」

 

ISの武器とて当然ながら弾数に限りはある。弾倉を交換するタイプの銃もあれば本体からエネルギーを供給するタイプがあったりと様々だが、デザート・フォックスは前者に該当し、元々装弾数が非常に多い重機関銃だ。

一度の戦闘で弾を使い切ったとして装弾をやり直すよりも一回の戦闘に一回の使い捨てと割り切った方が望ましい武器と言える。

何よりシャルロットが得意としている高速切替は銃の持ち替えによるタイムロスを大幅に軽減するものだ。

弾が切れれば銃を捨て別の銃を取り出す、或いは戦局に合わせて使う銃を次々に切り替えて戦うスタイルだ。小首を傾げる彼女の中に弾幕を切らす選択肢はない。

言い換えれば尽きる事のない弾幕を突破できなければシャルロット本体には到達しない。よしんば身を削り到達出来たとしてもそこには一撃必殺の代名詞、近接武器として雪片弐型にも負けない灰色の鱗殻(グレー・スケール)が待ち構えている。

射撃戦にて弾幕勝負を仕掛けたとしても防御特化パッケージであるガーデン・カーテンを突破できなければ本体に届かない。

鈴音程の突破力もセシリア程の射撃の腕前、ラウラのような制圧力があるわけではないがシャルロットは全体的に隙がなく苦手がないのが特徴を地で行く万能型だ。

大量の武器を持ち歩く空飛ぶ武器庫であるラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡは特化したものこそないが、攻防共に空域を物量で支配する組み合わせと言える。

 

「……やっぱりトリガーハッピーだと思う」

「うむ、否定は難しいな」

 

二人の少女から向けられるジト目に乾いた笑みしか返す事が出来なかったのは自業自得と呼べるのかもしれない。

 

「ま、まぁ、僕の事は置いておいて。二人は一夏をどう思う?」

「嫌いだが?」「……嫌い」

「ごめん、聞き方が悪かった。IS乗りとして、って意味で」

「ふん、まだまだだな……。と言いたい所だが、成長は見て取れる」

 

腕を組んだラウラの言葉にシャルロットが頷きを返す。

この場にいる誰もがISに触れている時間が最も短いはずの一夏の成長速度を実感している。

 

「剣道部での鍛錬やイメージトレーニングも欠かしてないみたいだからね」

 

早朝から剣道部で一人鍛錬、時間が合えば剣道部員と打ち合い、寝る前にイメージトレーニングも欠かさない。

当然ながら授業も真面目に受けており放課後は今のように代表候補生と訓練を行っている。お膳立てとしては十分すぎる。

一夏と言えば世界最強である千冬の弟とのイメージがついてまわり、本人がどう取り繕うがこればかりは切り離す事が出来ないのが世論だ。

血筋の問題は同様についてまわるが、この場にいる人間で一夏の成長を血筋の恩恵だと言う者はいないだろう。

ISを本当に学んでいる者達からすれば本人の努力なくして成長はありえない。特に一夏はISに触れるようになり一年も経っていないのだ。

 

「蒼い死神に銀の福音、ミサイル相手と戦闘経験で言えば明らかに異常ではあるしな」

 

勝敗はともかくとして一夏がくぐり抜けた修羅場は馬鹿に出来るものではない。

何より銃弾飛び交う戦場を剣一本で立ち回っているのだから度胸も付くと言うものだ。例えシャルロットの張る弾幕に成す術なく落とされたとしてもだ。

 

「白式の性能もあるけど、それだけじゃない……」

 

ラウラの言葉に引き継いだ簪が鈴音に介抱されている一夏を怒りや嫉妬ではなく純粋な観察対象として視線で射抜く。

 

「織斑君と白式の親和性が高くなってる……。多分」

 

小さな呟きに納得したと頷いたのはシャルロットだ。

 

「違和感の正体はそれだ」

「違和感?」

「うん、一夏と白式の動きがぎこちなかった場面があったんだよね」

「なに? まさか……」

「一夏の反応速度に白式が追いつかなくなってきてるのかもしれない」

 

前述した通り動きが合致しないだけであれば別段珍しい事ではない。

様々な制約の元で数多くの制限を伴うISは搭乗者を理解し期待に応えようとするが、精神レベルで搭乗者と繋がっている結果、恐怖や期待と言った人間の計り知れない感情と向き合っている。

搭乗者の意図を完全に汲み取れず、意思疎通の阻害によって生まれるのが動作のズレだ。

通常は親和性は高くなればなる程にISの動きは機敏になり、より搭乗者の手足として動けるようになるが搭乗者がISの処理を上回れば話はかわってくる。

言うまでもなくそんな事例は非常に稀であるが、射撃のようにISの演算による補助の割合が多いわけではなく、近接戦闘に特化した場合は搭乗者の技量と直感が強く求められる。

搭乗者次第の状況が続けば続く程にISの演算で対応できなくなる可能性は十分にあるのだ。

 

「もしかすると僕達の中で二次移行(セカンドシフト)に一番近いのは一夏なのかもしれないね」

 

シャルロットの呟きを否定する材料を二人は持ち合わせていなかった。「まさか」と言う思いと「もしかして」と言う思いが重なったのだ。

もし一夏が束の手が加わったハイスペックマシンである白式を振り切る程の成長を見せるのであれば白と言う無限の可能性はどのような未来を作ると言うのか。その日は決して遠くないのかもしれない。

 

 

 

──もうすぐ、会えるよ。


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