IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第73話 ガラスの学園(前編)

時間はIS学園の学園祭が始まる数時間前に遡る。篠ノ之神社の裏手にある束の拠点にて一行は生身で乗り込む最終確認を行っていた。

 

「良し、皆準備は出来たね?」

 

いつものエプロンドレス姿の束が長い髪を乱雑に帽子の中に押し込みながら振り返れば半分以上は帽子に入りきらず溢れ落ちた髪が主人を追いかけ風に乗る。

 

「あの、姉さん、これで良いんでしょうか? と言うより、何処から手に入れたんですか」

 

姉の視線に僅かな恥じらいを見せる箒は白を基調にしたIS学園の制服に身を包んでおり、改造が公認されている制服の短いスカートを気にして文字通りもじもじと全身をくねっていた。

 

「だいじょうーぶ! とぉっても良く似合うよ」

 

黒髪に白い制服は良く映え、文句の付けようはなく、元々身長もあり姉同様にスタイルは抜群の箒だ。身体のサイズが分かりやすいIS学園の制服は良く似合う。

 

「それにコレ、説明は聞きましたので必要だと言うのは理解していますが、このデザインは何とかならなかったのですか」

「ウサミミ可愛いでしょ? 本当はISじゃなくて箒ちゃんセンサーにしようと思ってたんだけどね。箒ちゃんとは無事合流出来たから改良してみたんだよ。ぶいぶい!」

 

ブイサインを浮かべる束の視線の先、箒の頭の上で輝いている機械の兎耳がぴょこぴょこと反応を示す。

これから向かう場所においてISを感知するセンサーがどれだけ優位性を持っているかは言うまでもないが、根が真っ直ぐで侍気質である箒は派手なアクセサリーを積極的に身に付ける性質ではない。

妹の晴れ姿とも言うべき格好に満足気な表情を浮かべている束ではあるが、反対に箒は浮かない表情と言うよりは自分の姿に違和感を覚えずにいられなかった。

誘拐事件からなし崩し的に世界から姿をくらました箒は束と行動を共にするようになりお洒落に気を遣う余裕もなく怒涛の日々を過ごしてきたのだから仕方ないとも言える。

箒とは対照的に二人の間でお出掛け用の服装にご満悦なのは くーだ。雑用や給仕に勉強と束達以外との人付き合いこそ少ないが、充実した日々を過ごしてこそいるがこの三人に限定してしまえば一番女の子をしているかもしれない。

 

「博士、いざとなればブルーは呼べるんだな?」

 

そんなそれぞれ空気の違う三人とは別に黒いスーツに蒼いネクタイ姿のユウは念の為の確認を口にする。

 

「問題ないよ。必要となれば、指を鳴らして、出ろー! ブルー! って叫べば飛んでくるよ」

「…………」

「それは嘘だけど、安心して。いざとなれば吾輩は猫であるを通してここから自動射出可能だから」

 

何せIS学園にブルーの搭乗者であるユウが武装せずに乗り込むのだ。今までのブルーの所業からは到底考えられる事ではない。しかし、今回に限ってはブルーを持ち込むわけにはいかない。

ISの重要性は各国政府、軍事関係者は嫌と言う程に理解している。当然ながらISを検知するレーダーは国家の防衛戦として最優先事項に当たる。

今までのように予めブルーを装着した状態で出向くのであればステルス性能と合わせてレーダーを欺く事は可能だが、今回は生身での行動が前提だ。戦力として計算に含めない以上は慎重さを有する必要がある。

 

「姉さん、やはり現れるのでしょうか」

「来るだろうね、私の悪い予感は良く当たるんだ」

 

箒の質問に応える束は口調こそ軽いが言葉に乗っている重みは本物だ。

銀の福音、ミサイル襲撃、各地のIS強奪事件、敵が何者か、明確な確証はないが、束は敵として亡国機業の存在を認識している。

箒は敵が何者かを束から聞いているわけではないが、敵が存在している事は感じ取っている。

だからこそ、最悪の自体に備えIS学園に出向くと言う今回の介入の意図は理解出来ており、コスプレ紛いの格好も容認しているのだ。

懸念材料はブルーと言う最大の戦力を持ち込めない事。最悪の自体に備えると言う同じ理由でブルーを持っていくわけにはいかないからだ。

束のお手製であるウサミミがISを探知するレーダーになっているが、世界単位で見ればISを探知するレーダーは大型の固定型であり頭に付けられる程のサイズに小型化されたものは他に類を見ない。

が、束は直接確認していないが、サイレント・ゼフィルス強奪に用いられたトリカゴやブルーの片腕に大打撃を与えたしたチェーンマインのように亡国機業の技術力は侮れない。

万が一、生身の人間が運用出来るサイズでISを探知出来る装置が存在しようものなら、ユウがブルーの搭乗者だとバレてしまう恐れがある。

ユウとて軍人だ。生身での戦闘力も多少なりとも持ち合わせているが、それでも白兵戦のプロと言うわけではない。ブルーが特殊とは言え男性のIS乗りが一夏以外にいると現段階で知られるわけにはいかないのだ。

ブルーを持っていかない判断は束達に取っても諸刃の剣であるが、今回ばかりは決断せざるを得なかった。

 

「分かってると思うけど、ユウ君は無理しなくて良いからね。いっくんには護衛がつくと思うから」

「了解だ」

「本当ならユウ君には留守番を頼みたい所なんだけど、何が起こるか分からないからね」

 

何が起こるか分からないからこそユウを連れて行く。何が起こるか分からないからこそブルーは置いていく。それは相反する定義であるが、妥協出来る最大の一線とも言える部分だ。

最も、非常時に備え隠れ家でもあるこの場所は活動状態で待機しており、必要とあらばブルーを射出する手筈を吾輩は猫であるが整えるようにはなっている。

 

「ナツメさまは凄いです」

「そりゃ私の助手みたいなものだからね」

 

胸を張る束の言葉に天井から吊り下げられている大型アームの吾輩は猫であるがサムズアップで応じる。

最早その姿は束の移動用ラボである端末と言うよりは生きた基地と呼ぶべきかもしれない。

 

「さてと、それじゃ最終確認だけど、箒ちゃんとくーちゃんは学園祭の会場を見て回ってて良いよ。折角の機会だからくーちゃんに色々見せてあげて。ユウ君はいっくんをお願い。さっきも言ったけど、必要以上に接近する必要はないからね」

 

何が起こるか分からない。あの天才にして天災である篠ノ之 束でさえも見通せない暗雲がIS学園を包み込んでいる。

尚、付け加えておくが、箒のIS学園の制服や入手難度が高いIS学園の学園祭のチケットに関しては束が何事もないかのように手に入れていたものだ。

偽装品か強奪品か、本来は咎めなくてはいけない立場の箒が目ったのは、声にこそ出さないが一夏の通う学園をその目で見れると内心で嬉しく思っているからなのだが、その事に本人が気付けているかは定かではない。

 

 

 

 

舞台は再びIS学園の学園祭に戻る。束の読み通り、一夏には更識 楯無と言う破格の護衛がついており、彼女の手が及ばない場合でも更識の暗部や代表候補生が一夏の側に張り付いていた。

そのおかげと言うべきかユウは必要以上に一夏に接近する事はせず、遠目から確認するだけに留めた。

一度だけ目があった時は流石のユウも驚いたが、一夏の持つ直感力とでも言うべき感覚を褒めるべきかもしれない。

 

「それにしても、織斑 一夏は中々やりますな」

「流石は織斑 千冬の弟と呼ぶべきか」

「我々にとっては手放しに褒めるわけにはいかないのが辛い所ですな」

 

場所はアリーナの客席の一角。一夏も演者として加わっているシンデレラ4の観客席だ。

ユウは後方の座席につきアリーナを見守っているが、その少し前でスーツ姿の男達が不穏な言葉を交わしている。

彼等は各々がその手に双眼鏡や一夏や白式のデータを纏めた資料を持っており、アリーナを所狭しに飛び回る一夏の様子を観察している。

一夏の技量を認めながらも、それが好ましくないと言う男達は一夏が学園を卒業した際に可能であれば手中に収めたいと目論む企業の人間だ。

何故男なのにISに乗れるのか。本来であれば世界中が一夏を細胞単位で研究したいと思っているが、それらは千冬や束と言った後ろ盾やIS学園と言う巨大な防壁によって阻まれている。

しかし、卒業してしまえばその影響力の低下は否めず、就職先として一夏を欲する者達だ。

 

「倉持技研も名乗りをあげていると聞きますからな」

「篝火 ヒカルノが織斑 一夏の保護に名乗りをあげれば手の付けようがなくなってしまうか」

 

逆に言えばIS学園とも密接な関係にあり一夏を無碍に扱わない企業が一夏を就職として手に入れれば話は変わる。

千冬が望むべき形であり、一夏を利用したい男達の避けたい事態だ。何れにしても一夏が知らぬ世界の真理の一場面。

 

「ほぅ、また勝ちましたな」

 

と男の一人が声を上げ、ユウもアリーナを飛ぶ一夏が手を上げ勝利をアピールする姿を見据えていた。実際の所、この男達の言う通り、一夏の成長は目を見張るものがある。

それぞれが企業としての視点で一夏を見てはいるが、ISを学ぶようになって一年も立っていない一夏の腕前は認めざる得ないものだった。

ISは歴史こそ浅いが、世界最大の武力であり、各国が開発、搭乗者の育成に尽力している。男達の人間性や企業としての野望はこの際別に考えるとして、ISやIS乗りに対する見解は本物だ。

今という時代を作ったのが束であるなら、今という時代を彩っているのは彼等のように裏側でISを支えている男達であるのも事実。

 

「ふむ、機動特化にして近接武器のみの機体。アンバランスに見えるが実に理にかなっている」

「何より織斑 一夏の機動能力は中々のもの」

「えぇ、このルールでは剣筋が見れないのが悔やまれますな」

「聞けばあの機体は倉持技研名義になっているが篠ノ之 束が絡んでいるとか」

「機動力と攻撃力に特化し防御力を捨てた特化型か……」

「私なら高火力、重装甲で弾幕を張る機体に仕上げたい所ですな」

「それではISの最大の特性である機動力を殺してしまう。クアッド・ファランクスがその最たる例でしょう」

「確かに、クアッド・ファランクスは定点防御には申し分ないが、対IS戦で使うには場面が限られますからな」

「彼の、織斑 一夏の特徴を活かすならばやはり高機動近接特化に落ち着くか」

 

整備や指揮官、通信士と言った裏方の重要性を分かっているユウは男達の会話を聞き、ただの自分勝手な男達ではないのだと再認識する。

男達が一夏を利用しようと企てているのは間違いないが、彼等は多くのISを見てきている者達であり、一夏を評価する目は本物だ。

ユウがブルーの搭乗者だと知られれば彼等の好奇の目が誰に向くかは言うまでもなく、人知れずユウが一息をついた事に気づいた者はいなかった。

 

 

一夏の勝利が飾られたシンデレラ4がインターバルを挟み新たな挑戦者が姿を見せ、会場に新しい熱が吹き荒れる。

その様子をユウとは対面のアリーナ客席から見つめている者がいる。ボリュームのある金髪を背中に流したスーツ姿の女性だ。

大きめのサングラスに隠された瞳は一夏に向けられており、飛び回る白式の軌跡を興味深そうに眺めていた。

 

「ふーん、やっぱりデータだけじゃ分からないものね。中々やるじゃない」

 

彼女、スコールの一夏を見る目は鋭く、一挙一動を見逃すまいと一夏の、いや、白式のと言うべきだろう姿を注意深く観察している。

タイトスカートに刻まれた深いスリットから太腿を大胆に露出させているスーツ姿に注がれる周囲の男や嫉妬混じりの女の視線を笑顔で受け止めながらもスコールの視線は外れない。

 

「やっぱり欲しいわねぇ、アレ」

 

このアレが指しているのは一夏ではない。

亡国機業全体の考えは別としても、スコールは女尊男卑の支持者と言うわけではない。

時代の影響を自分自身が受けていないとは言わないが、優れた能力を持つ者は時代背景や男女に関係なく台頭を表し評価を受けるものだ。

ISの関係上、女性が戦闘力として高い評価を受けているのは事実であり、スコールやオータムを含め亡国機業でもそれは間違いない。

しかし、だからと言って男性が弱いかと言えばそれは否だ。

亡国機業の中には男の構成員も多く存在しており、銀の福音の裏工作の為に開発初期から携わっていた技術者も男だ。女性と言うだけで男を無能と罵るのであればそれこそ無能の烙印が押されるべきだろう。

男性の価値を十分に見出しているスコールだからこそ、一夏のIS乗りとしての腕前を十分に評価しているが、その上で一夏ではなく白式を欲しているのだ。最速の翼と最強の剣を持つ対ISに優れた能力を発揮するIS殺しのISを。

ISに携わる身として、組織の人間の一人として、男が動かすISに興味を惹かれないはずはない。特別なのが一夏なのか白式なのかは世界中が注目する所だが、IS学園の保護下にある以上はそれを確かめる術はない。

そう、手に入らないなら奪うしかない。

 

「スコール様」

 

スコールのすぐ後ろ、いつの間にか現れた一人の男。この会場に紛れ込むに適した違和感のないスーツ姿の男は他に聞こえないよう小声で囁きかける。

 

「準備整いました」

「あらそう、じゃ始めちゃって」

「かしこまりました」

 

周囲に聞こえない声量で言い残した男は音もなく観客席の人の群れの中に姿を消す。

残ったスコールは小さく笑みを深め、一夏に向けていた視線をアリーナの隅で待機している楯無に移す。

 

「さぁ、守ってみなさいな」

 

次の瞬間、小さな爆発音がアリーナの外で鳴り響き黒煙が天を目指し立ち上った

 

 

 

 

セシリアとシャルロットに見つかった箒はくーを小脇に抱え校舎内を疾駆、最終的に開放されている屋上へと辿り着いていた。

幸運な事にセシリア達は箒を追走しておらず、どうするか悩んだ挙句、唯一相談できそうな相手である千冬を探したのだが、生憎と千冬は束と密会中であり見つける事は叶わなかった。

自クラスの出し物である和菓子喫茶の休憩時間も長くはなく、容姿端麗な二人は客引きとして申し分ない性能を発揮するのだから教室へ戻らざる得なかったのだ。

最初から追跡がないとは知らない箒はやっと一息つける場所を見つけて小休止をしていた所だ。開放されているだけあり屋上にも人はいるが、出し物があるわけではなく、休憩所として賑わっている。運が良いと判断すべきか箒の顔を知っているものはいなかった。

 

「すまない、くー。退屈をさせてしまうな」

「大丈夫です、ここからでも色々見えて楽しいです」

 

くーの社会勉強も兼ねている学園祭の見学ではあるが、発見されてしまえばそれも叶わぬ。

賑わっている場所からは離れてしまったが、屋上から一望できる景色にくーは素直に感動しており、多種多様な人間が出入りする様を爛々と輝く瞳で見詰めていた。

束の義理の娘的立場の少女の嬉しそうな様子に口元を緩めた箒はくーに倣い眼下に広がる学園祭の様子を見据える。

 

「皆さま楽しそうです」

「あぁ、そうだな」

 

広がる光景は人種も国籍も関係なく、ISと言う特殊な存在で繋がれた人の営みの姿。立場が違えばもしかすると箒もIS学園に通いあちら側に立っていたかもしれない。

あったかもしれない選択肢、分岐した可能性を考えれば箒の思考は複雑な色模様を描かざる得なかった。

だが、今目の前にある光景は少なくとも多くの人々の希望の形だ。ISが暴力ではなく未来へ繋がる存在として扱われるのであれば、束の望むべき形でなかったにしても、悲劇ではなく報われるべき姿だ。

姉に振り回され、人生を迷わされ、姉に救われた箒が見るには感慨深い光景と言えた。

 

突如、小さな空気の揺れを感じ箒が目を見張る。

 

「地震? いや、違う」

「箒さま、あそこ!」

 

屋上に備え付けられた柵の隙間からくーが指差した方向で小さなく黒煙が上がる。

 

「始まったか! 姉さんの悪い予感はどうしてこうも良く当たるんだ」

 

一箇所ではない黒煙を確認しながら吐き捨てるように言葉を放ち、箒は手首に巻いた赤い紐の両端に金と銀の鈴がついた待機状態の紅椿にそっと手を添えるのだった。

 

 

 

 

照明の消えた薄暗い廊下を進んだ先、少し開けた空間に重厚な扉が待ち構えている。

分厚く重い、複雑な形状で組み合わされた鋼鉄の扉は単純な腕力では押し開けず、銃弾程度では動じない頑強さを持っている。

開くには物理的な鍵の他に何重にもブロックされた電子ロックを解除する必要がある。

この場所はIS学園の地下にある情報機密庫、所謂データベースでありIS学園の記憶を司る脳と言っていい。

普段は人が出入りする事もなく学園関係者や教師でさえも許可が下りなければ立ち入りが許されていない。

その扉を背に腕を組み佇む者達がいる。

 

「……賊か、止まれ」

 

声を発したのは腕を組んだ黒覆面に黒装束の四人の男の一人。何れもいつの間取り出したのか手には刃渡り二十センチ程の短刀が握られており組んでいた両手を自由にしている。

闇の中、瞳の部分だけが開かれた覆面姿の男の声が空間に広がり、次の瞬間には輝く証明が一斉に点灯。覆面姿の男達以外には誰もいないはずの空間に明滅する人影が刹那的に浮かび上がり直ぐに消える。

 

「粗悪品とは言え光学迷彩と電子妨害による複合のステルスシステムか、鳴る程、正面ゲートの警備だけで侵入を防げん訳だ。しかし無駄なこと、我等を欺くには未熟」

 

四人の男達の視線と声は姿を隠す侵入者の居場所を明確に言い当てている。

 

「くっ、何者だ貴様達は!」

 

姿を隠す事を諦め、何もない空間から侵入者が声を荒らげ姿を晒す。

現れたのは防弾仕様の強化アーマーに暗視ゴーグル、手には放電機能が内蔵され小さな雷光を放つスタンロッドを持っている。初めからこの場にいた黒装束と同数の四人の男だ。

光学迷彩を生み出していた防護マントと電子機器を誤魔化す為の妨害装置を腰に携え、背中には大きな荷物を背負っており重厚な扉を破壊する為の爆薬が仕込まれていると容易に想像が出来る。

 

「それはこちらの台詞。この場所は関係者以外立ち入り禁止、お前達に立ち入りの許可は出ていない」

 

覆面の男が一歩踏み出し短刀を逆手に握り直す。静かに、まともな構えも取っていないにも関わらず近代兵器で武装している侵入者達はそれ以上覆面の男に近付けなかった。

この先のデータベースは先に述べた通りIS学園の中枢だ。蒼い死神に学園が襲撃された際に山田先生が必死にデータ発掘を試みた場所だ。

結果を言えば山田先生はデータの発掘が出来ず、電脳世界から手を回した束はこのデータベースのプロテクトを突破し中身を改竄してみせたが、束以外にこのプロテクトを破った者はいない。

しかし、正面から物理的にであれば話は別だ。重厚な扉も電子プロテクトも手段を選ばず力尽くであれば破壊出来ないとは限らない。

無論、扉の防御力頼りと言うわけではなく、この場所は赤外線や人感センサーによって厳重に警戒されており、許可なき者が辿り着くのは並大抵ではない。

仮に侵入者がいた場合でも警備がやってくるまで時間さえ稼げれば扉は防御力としては役目を果たせるのだ。

その点から言えば視覚的にも電子的にもステルスと用いているとは言え侵入を果たした男達の腕は見事と称賛するに値するだろう。

だが、その重要な場所を外部からの人間が出入り出来る日に無防備にしておくはずがない。本来であればこの場を受け持つのは学園駐在の警備員だが、今回は隠密機動に特化した特殊な人員が配備されていた。

暗部に対抗するには同じく闇の住人である暗部こそが相応しい。

 

「上の騒ぎに便乗して侵入する算段なのだろうが甘かったな」

 

残る三人の覆面も短刀を逆手に持ち直し前に進み出る。

暗躍する対暗部用暗部は学園の敵を切り裂く刃となり、学園を守る盾となる。その名は更識暗部衆。




前回に引き続き視点が幾つか切り替わりつつ進行しております。
読み辛くなってなければ良いんですが……。

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