IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第66話 遠雷 ~遠くにある明かり~

振り上げ、踏み込み、振り下ろし、元の位置に戻る。

足運び、身体の軸、体重移動、視線、流れるように個別の動きを繋ぎ合せる。

何十、何百と無心に一連の動作を繰り返し、極めて自然に当たり前の動きとして全身に染み込ませて行く。

剣の道において最長の射程距離を誇る突き、最速の斬撃を放つ居合、前後動作の少ない胴抜きや小手打ち、数多くの技術が存在する中で誰もが夢見る一撃必殺の面打ち。

数え切れない程に繰り返し、思い描くのは仲間の助力の果てに、銀の福音に吸い込まれるように叩き込まれた切ないまでに痛烈な斬撃。

最も隙が大きく撃ち込まれるまでに時間を有するが、最も優美で痛撃、体重を乗せ真正面から撃ち落とされる一撃は数ある攻撃手段の中で最大の威力を誇る。正に一撃の美学。

 

やがて鳴り響く電子音に気付き道着姿の一夏は竹刀を下ろし面打ちを止める。

大きく息を吐き出してから吸い込む事で完全な集中状態に陥っていた精神を現実世界に呼び戻す。

時刻は早朝六時、入念な準備運動を除いて一夏が素振りを始めてから一時間が経過していた。

セットしていたストップウォッチの電子音を止めて、用意していたタオルを頭から被り、研ぎ澄まされていた精神世界で描いていた剣筋を確かめながら拳を握る。

一学期、ラウラ達との訓練での課題は零落白夜に頼らない戦いと零落白夜を確実に当てる戦いを心掛ける事だったにも関わらず、三度目の蒼い死神との戦いでは零落白夜を正面からぶつける愚策に走ってしまった。

第三者視点で見ても一夏が蒼い死神に迫った一撃は申し分ない見事なものであったが、IS戦において最大の威力を発揮する零落白夜も直撃しなければ意味を持たない。

かつての零落白夜の使い手である千冬や零落白夜を研究し尽くしている簪は当然ながら熟知しているが、現在の雪片の所有者にして二代目とも呼べる一夏として考えるなら外してはいけない一撃だった。

あと少しで箒に届くはずだった手が空を切った無念を晴らす為に、同じ轍を踏まない為に一夏が取れる手段は努力以外に何もない。

とてつもなく遠いあと少しの距離である事は一夏は自覚している。何よりもそのあと少しの間には強大な蒼い死神と言う壁が立ち塞がっているのだ。

壁を粉砕してでも道を切り開く、それがどれだけ途方もない道であろうとも一夏には剣以外に選べる手段などあろうはずがなかった。

その為に数ある剣技から選んだのが、面打ちの熟練度を高める事。例え基本的な技術であろうとも練度を高め極みに至れば単純な一撃でさえも極技へと昇華される。

一夏が頂きに到達できるかは別として、必要なのは頑強な武器ではなく砕けない意志だと知り、例え短い一歩であろうとも前に進むと心に決めたのだ。

白式、雪片弐型、零落白夜、代表候補生達の友人と世界最強と言う身内、お膳立ては十分過ぎる程に整っているのだ。

天災に死神に亡国機業に更識に学園、更に各国を巻き込む思惑の渦中にいながら何も知らない一夏に取って何が正しく、何が間違っているのかを即決しろを誰が言えるのか。

友人である箒が何をしようとしているのか、今何処にいるのか、紅椿や蒼い死神が何の為に存在するのか、様々な事件の当事者でありながら何も分からない。

だが、想いだけでも力だけでも届かないと知り、何が起こるか分からない未来に備える一夏の姿を否定出来ようはずがない。

 

「ふぅ……。シャワー浴びて準備しないと、今日から二学期だもんな」

 

誰にでもなく説明口調で呟いた一夏は荒っぽく汗を拭い、足元に出来ている水溜りに顔を顰め「先に掃除だな」と剣道場を後にしようとしていた足を掃除用具入れに向け直す。

一夏が剣道場で朝練習を行うのは何気ない日常の一幕であるが、道着が吸い切れずに足元に出来た汗の水溜りとそれに気付かぬ程に繰り返された鍛錬を見れば一時間と言う時間でどれだけ集中していたのかが良く分かる。

素振りと言えば基本中の基本であるが、疎かに出来る内容ではなく、剣道部員達が活動を再開しておらず、今出来る最大の訓練とも言える。

IS学園を襲ったミサイル襲撃事件は一夏に無力を味わわせ、ISを学ぶ意識と力を求める理由を次のステップに押し上げるに十分過ぎる出来事だった。

 

 

 

 

九月、IS学園二学期の始まりを告げる始業式が行われる体育館には全校生徒が集結していた。

IS学園には大きな講堂や生徒が集まれる場所は多々あるが、学生数が多い事もあり学園の垣根を越えて集まるのは非常に稀だ。

それほどに今年の二学期には意味があるのだと言わんばかりの真面目な表情で檀上に上がりマイクに顔を近づけているのは生徒会長、更識 楯無だ。

 

「一年生には馴染みがないかもしれないので改めて自己紹介をしておくわね。生徒会長をしている更識 楯無よ、宜しくね」

 

檀上でパァンと小気味良い音を立てて開かれた白扇子には達筆な筆文字で「生徒会長」の文字が躍っている。

学園での雑務全般に関わっており、尚且つロシアの国家代表、更には学園最強の称号である生徒会長を知らない生徒は少なく、女尊男卑の時代において性別に関係なく他者の目を惹く美貌は百合的な意味ではなく生徒達の憧れだ。

特にこの夏休みに学園を襲った事件においては先陣を切り学園の存続に尽力しているとなれば生徒達の視線に熱が宿っても致しかなかろう。

 

「まずは一人も欠けずに二学期を迎えられた事を嬉しく思います」

 

言葉の意味を理解出来ない生徒はおらず、マイクを通して凛と通る声の主に熱っぽい視線を送っている生徒も、教師も全員が耳を傾ける。

通信障害の影響もありIS学園を襲った未曾有の危機的状況について生徒達は間接的にしか知らないが、何があったのか概略は周知だ。その上で退学や休学を申し出る生徒はいなかった。

ある者は身内に、ある者は友人に、ある者は国家に、ISと言う力に携わる中で起こりうる危険性を忠告されていたが、学園を去る選択肢をした生徒はいなかった。

未だに危機認識が薄く、対岸の火事だと思っている人間が多数いるのも事実だが、少女達はIS乗りと言う夢へと伸ばした手を、踏み出した一歩を引き下げるつもりはなかったのだ。

ISの数に限りがある以上は学園を卒業しても必ずIS乗りになれると言うわけではないが、これからの時代を率先するであろうISを学ぶ優位性は多少の危険と隣り合わせにしても揺るがないのだ。

現実的に考えればミサイルが襲って来る可能性のある学園に通いたくない生徒がいてもおかしくなく、学園側もある程度は生徒数が減る覚悟をしていたのだが実際には教師も含めて在籍数は不変だった。

ならばと生徒達に檄を飛ばすべく楯無は本来始業式のプログラムには含まれない生徒会長からの挨拶を申し出たのだ。檀上に楯無が上がったのは学園からしても嬉しい誤算と呼べるものだった。

 

「改まって言う必要はないかもしれないけれど、皆に伝えなくてはならない事があります」

 

本来であればここでボケの一つでも放り込むのが更識 楯無と言う人物なのだが、生徒を見渡す楯無の視線は全体を穏やかに見据えており冗談を飛ばす雰囲気ではない。

 

「知っている人も多いと思うけれど、IS学園はこの夏休み、いえ、正確にはそれ以前から未確認勢力からの介入を受け非常事態とも呼べる状況下にありました」

 

過去形で伝えてはいるが正確には現在進行形であり、事態は何も解決はしていない。

蒼い死神の介入や銀の福音に関しては全面的に公表されているわけではないが、蒼い死神に関しては国際テロリストとして指定されており、隠し通す必要性はない。

一部の生徒から息を呑む音も聞こえて来るが、大多数が生徒会長としての楯無の言葉を見守っている。

 

「残念ながら安心して頂戴と簡単な言葉で飾れる状況ではありません。ですが、この学園にはロシア国家代表を務める私がいます。織斑先生を初めとした心強い先生方がいます。学園に仇名す者がいるなら私は生徒達の長として成すべき事を成し、全力を尽くすと約束するわ。これから先に何が起こるのか、今の段階では何とも申し上げられません。だからこそ……」

 

一度畳んだ扇子が再度勢いよく開かれ躍っていた文字が「青春謳歌」に変化する。

 

「一度切りの学園生活を楽しみましょう」

 

唖然、特に前列で楯無を見上げる生徒達は文字通りポカンと口を開き言葉を失っている。

危機的状況を煽るだけ煽り、何も解決策が無いと断定しておりながらも楯無から出た言葉は生徒会長としてのスローガンとも言うべき青春謳歌。

 

「再びこの学園に通う決意をしてくれてありがとう」

 

楯無の言葉はある意味で嘘と信じるが織り交ざったもの。

学園に仇名す存在が何者であれ、純粋な個体戦力であれば楯無や千冬は最高峰であるに違いない。

だが、既に国家が出し抜かれており敵対勢力の領域は世界レベルと言って過言ではないのだ。個体戦力では及ばない可能性は十分にある。

「更識家」を含め楯無が尽力したとて亡国機業や篠ノ之 束が全力で敵対をすれば個々の能力で状況を覆せるものではない。

楯無の言葉を直訳するなら「全力は尽くすが安全を保障は出来ない、それでも楽しめ」と言っている。事件の真相を知らない生徒達でさえも楯無の言葉に矛盾と虚勢を感じ取っているが、時として責任感ある立場の人間には強がりや嘘が求められる場面は存在する。

言葉の中に矛盾が含まれていようとも混じり気の無い一人の人間としての本音は真っ直ぐに生徒の心に訴えかける。

教師達ですら状況の説明が出来ず、生徒や親に安全の保証が出来ないのだ。生徒会長から心配ないと言えるはずがない。何も問題がないと言い切れる状況ではない事は一目瞭然だ、その中でも楯無は奮戦すると、国の看板とも呼べる国家代表である人間の言葉を持って言い切った。

実際にIS学園を守る為に戦った人間の言葉だからこそ、信じるに値する宣言が生徒達に響き渡らないはずがない。

 

「さてと、堅苦しい話はここまで。少しだけ楽しい話をしましょうか」

 

三度、閉じられた扇子が開かれると「話題転化」の文字が出現し、体育館の後方の生徒はともかく前列の生徒達は扇子の文字の早変わりに自身の目を疑い始めている頃合いだ。

檀上で真面目な顔付きで演説紛いの言葉を連ねていた楯無の表情が悪戯を思いついた子供のように歪む。

 

「一年生は一学期に臨海学校こと地獄の強化合宿を経験したと思うけど、二学期もIS学園はイベントが目白押しよ?」

 

その言葉に一年生の半数以上が砂浜での地獄を思い出し身構えている光景を微笑ましげに見つめる楯無は咳払いを一つ。

 

「安心して頂戴。二学期早々に控えている学園祭に関しては地獄の~とか強化~とか物騒な言い回しはつかないから。純粋に楽しんでくれていいイベントだからね」

 

IS学園には学園内外に対して開放的に行われるイベントが幾つか存在するが、学園祭はその一つとして数えられる。

臨海学校が世界最高峰の武力と呼べるISを使う生徒を育てる意味で軍施設のような扱いだったのに対し学園祭は一般的な学校に近い健全な催しだ。

勿論、内容次第ではISを使うことも可能であり、学園側から見ればISに少しでも関わるような内容が好ましいのだが、この時だけはISに必ずしも関与しなくて良いIS学園的には珍しい行事と言える。

同時に外来を招き入れる事も可能で、ラウラや警戒心の強い生徒の一部は度重なる学園を舞台にした事件を考えれば本当に学園祭を催していいのかと多少なりとも考え、訝しむ視線を送っている。

そんな視線に笑顔で答えるのが裏表の顔を使い分ける生徒会長の特技とも言えるのかもしれない。

 

「生徒会でも皆に楽しんで貰えるような企画を考えてるから楽しみにしててね」

 

パチリと檀上から飛ばされたウインクにより強く熱を帯びる生徒が一部にいるが立ち昇る百合っぽい空気に気付けない生徒が一人いる。一夏だ。

檀上で話している生徒会長とは共に空でミサイル迎撃に戦った中ではあるが、友人と呼べる程に親しい間柄ではない。知っているのは自分を目の仇にしている更識 簪の姉だと言う事位。

その楯無が檀上から時折一夏に視線を送っている事には気付いていたが、その視線が何を意味するのか一夏には分かっていなかった。

少なくとも敵意ではなく、簪が敵意を持っているからと言って姉である楯無が一夏を恨んでいると言うわけではない。

 

(何だろう……。嫌な予感がする)

 

胸騒ぎとは違うチクリと胸に刺さった違和感のような直感に一夏が顔を顰めているなど無関係に始業式は進行していく。

楯無に続き檀上に上がった教師からは今後の予定が伝えられ、安全面に関する話は一切出なかったが、それを追及するような生徒はいない。

今のIS学園に完全な安全をうたえるはずがないと理解しているからだ。その上でISを学ぶ為に学園に通う選択を生徒達はしたのだ。

有耶無耶にしていると言ってしまえばそれまでだが、IS学園はこれから先何が起こるかを知る術を持ち合わせていないのだから。

 

 

 

 

IS学園で二学期の始業が告げられている頃、同じ日本の国土内において世界中が探し求める人物が電脳の海にダイブしていた。

場所は篠ノ之神社の裏手にある山の中腹、遭難覚悟で探索したとしても見つけるには困難を有するであろう岩肌の裂け目を降りた先。

山の中をくり抜いて作られたであろう巨大な空間には居住スペースもIS用のラボまで完備されている。篠ノ之 束が極秘裏に用意していた隠れ家の一つであり日本における拠点でもある。

 

「まさか実家の裏にこんな場所があるとは思いもしませんでしたよ」

「灯台下暗しとはこの事だよ!」

 

呆れる箒の言葉に巨大なマザーコンピュータ端末から顔を上げた束はピースサインで応じる。当初この基地とも呼べる場所を知った箒は正に絶句以外の言葉が思い浮かばなかった。

一人で世界中から雲隠れしていたとはいえ個人でここまでの場所を確保出来るものだろうか。と箒が感じた当たり前の感想には「吾輩は猫であるが一晩でやってくれた」と応じたとかいないとか。

あの日、潜水艦で亡国機業を振り切り、ラウラ達との対談の後、束達は無事に新しい拠点に辿り着き、数時間遅れで通信の復帰したユウも合流を果たしていた。

見渡す限り海だった孤島とは違う環境に戸惑うまでもなく、このメンバーの中で最も幼いくーは吾輩は猫である(ナツメ)の端末を手にして洞窟探索に乗り出している。

岩肌が丸見えの場所もあるが、基本的にはコンクリート舗装されており、十分に住処としてやっていける。難があるとすれば若干息苦しく感じる事だろうが、陸続きであるのだから外に出るのは今までよりも簡単だ。

最も、隠密を心掛ける必要があり、実家の近くでありながら顔を出すのも躊躇われるのは箒にしてみれば心苦しいと言えなくもない。

 

「それで、暫くは大人しくしているのか?」

「今の所無理に動く必要性はないかな、亡国機業の出方が分からないけどね」

 

ユウの言葉に頷きを返しながら電脳世界から得た情報を空間ディスプレイに束が表示させる。

世界地図にはミサイルの発射場所と思われる箇所と通信妨害の影響範囲であった地域が表示されている。詳しい調査はこれからだが、今の段階でISを使い現地へ趣き調査する必要はない。

あれから数日が経過しており、既に世界中は平穏を取り戻しているが、世界で最も安全とされていたIS学園に起こった事件は少なからず遺恨を残している。

束が言う今の所は動く必要はないと言うのはあくまで束側の都合に過ぎない。何せIS学園や束が拠点としていた孤島へのミサイル攻撃を束は読み切る事が出来なかったのだ。

その時点で既に亡国機業の行動力は束を上回っている。更に言うならデュノア社へのアクションも見逃してしまっている。

IS学園にしてみれば蒼い死神の脅威が無いと言うだけでも救いなのだが、それを教える理由はない。

 

「そうか……。なら箒、少し訓練に付き合ってくれ」

「え、あっ、はい!」

 

例え場所が変わってもユウのやるべき事は変わらない。

現段階では宇宙世紀に戻る方法も、何故この世界に来たのかも分からないが、やるべき事は出来ている。

自らの選択に後悔をしない為にも激動の宇宙世紀を生き抜いたACEが再び戦場で戦う為に腕を磨こうとしている。

いや、どちらかと言えばISと言うMSとは根本から異なる兵器への搭乗技術を学ぼうとしていると言う方が正しいかもしれない。

戦場の経験、視野、直感、どれを取ってもユウを上回る存在がこの世界にいるとは思えないが、亡国機業のオータムや世界最強の織斑 千冬はIS戦において間違いなくユウに肉薄している。

束の周囲にある戦力はユウと箒しかおらず、万一戦場においてどちらかが抜かれるような場面が訪れてはならない。

 

「いってらっしゃーい」

 

シミュレーターの設置されたラボに姿を消す二人を見送った束は再びマザーコンピューターへ向き直る。

 

「さってと、個々の戦力なら負ける要素はないけど情報は仕入れておかないとね」

 

天災と呼ばれる人間の思考回路は伊達ではない。既にミサイル攻撃に隠された孤島への攻撃の目的を探る為に動き始めている。

亡国機業が現段階で所持しているISの総数は不明だが、多少の戦力差はブルーディスティニーと紅椿があれば対処出来る。

しかし、それはあくまで正面からぶつかり合った場合に限られる。今回のように分断されたり、或いは不意を打たれれば状況は大きく変わる。

ユウが優秀な戦士である事に疑いはないが、頭脳として働くならばやはり束しかいない。

 

「IS学園への攻撃がブラフで目的が私への攻撃だとしたら狙いは何? 身柄の確保ならミサイルの狙いが雑すぎる。潜水艦での攻撃も考えれば私を殺すつもりだったのか、いや、だとすれば追撃の戦力が少なすぎる」

 

表示されている電脳世界の地図情報では既に束が拠点としていた孤島は完全に破壊され海の藻屑へと消えている。

破壊される前に亡国機業が乗り入れ基地の残骸を漁ったとしても目新しいものが見つかるとは束は考えていない。

最も奪われた場合の危険性が高いジェガンの残骸は束と共に潜水艦に積み込まれこの新しい拠点に持ち込まれており心配ない。

基地に残っていた電子データは出立前にデリートされており、アナログデータから何か漁るにしてもミサイルが撃ち込まれては残り物への期待は薄いだろう。

 

「……あっ」

 

が、ここにきて束の脳内に最悪の情報がアナログデータとして孤島に残されていた事に思い至る。

十全を自負する束の数少ない失敗作、ISの常識を覆す存在にして宇宙活動を視野においた心強い仲間。

ユウと出会わずに歴史が違えば、手を出していたであろう代物。対IS用として最悪の兵器となる可能性のデータが孤島には残されていた。

万全を期すなら今すぐにでも孤島に戻り、持ち出されたデータがあるなら奪い返すべきだが、残念ながら亡国機業は既に撤退しており、島は完膚無き暴力によって破壊されてしまっている。

 

「私以外に完成させられるはずがない。それは間違いないはずなのに、どうも嫌な予感がする」

 

一夏の直感にも言える事だが、悪い予感と言うのは得てして奇妙なまでに良く当たるものだ。

強くなろうとする一夏の決意も、守ろうとするIS学園も、野望とも言うべき願いを求める束でさえも、見据える先は未だに近いようで遠い。


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