IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第62話 闇の胎動

深夜を過ぎ闇夜が落ちた時間、荒れ果てた野を身を低くして進む一団がある。

腰には消音器が装着された小型サブマシンガンと閃光弾や煙幕弾と言った特殊なグレネード、太腿周りに小刀、身に着けている機械的なプロテクターは周囲の風景を反射させ背景に溶け込ませる特殊迷彩。

顔面の大きな暗視ゴーグルからも夜間活動を前提にした特殊部隊なのだと少しでも軍事に知識がある者であれば判断できる。

と言っても一般人の目には映らないからこその特殊部隊だ。余程訓練を積んだ人間の目か、特殊なセンサーでもない限り捉える事は困難だ。

 

≪こちらアルファチーム、目標を視認領域で確認。ブラボーチーム、チャーリーチーム、前進しろ≫

≪ブラボー了解≫ ≪同じくチャーリー了解≫

 

無線機を通じて聞こえる男達の声に抑揚はなく、個々が高い実力を持つにも関わらず集団としての行動が徹底されている。

口火を切ったアルファーチームは荒野に身を伏せ周囲を警戒しつつ慎重に進んでおり、その数は六人。彼等の後方に三人一組で行動しているのがブラボーとチャーリー。武器こそ違うが同じ夜間迷彩装備のチームだ。

彼等が目指している目標は前方に見えている建造物、フランス郊外に建設されたデュノア社のIS用武器開発工場。

 

目測での距離で一キロを切っているにも関わらず、たっぷりと時間を掛けて夜間迷彩の一団は工場に取り付く。

周囲は高い塀で囲まれており、時間帯が決められていない不定期巡回もあるが彼等は警備を嘲笑うように巡回の足取りを把握している。

狙いは深夜帯に手薄になる裏手の非常出口、常駐している警備員はおらず、大小五台の監視カメラが常に目を光らせているが彼等には関係がない。

 

≪こちらアルファ、目標地点到着≫

≪ブラボー、準備完了≫

≪同じくチャーリー、狙撃ポイント到着≫

 

各々から返事が返ってきたのを確認しアルファーチームのリーダーらしき男が腕部に装着されたプロテクターを操作、監視カメラを含む警備システムにハッキングを掛ける。

 

≪ハック開始、カメラの妨害、迎え車両の到着まで三十分。各員タイマー合わせ≫

≪こちらブラボー、タイマー合わせ良し。正面玄関異常なし≫

≪同じくチャーリー、タイマー合わせ良し。後方支援いつでもいける≫

≪了解、突入開始する≫

 

 

 

暗闇に紛れる特殊部隊の行動は迅速そのもので無駄は見当たらない。

最大の難点とも言えるハッキングも問題なく成功し警備が駆けつけるとすれば正面玄関の常駐警備員だが、そちらはブラボーチームが見張っており、最悪の場合に備えチャーリーチームが狙撃の準備も整えている。

彼等の狙いは保管されているIS用の武器、揃えられた装備も完璧な隠密行動も行動パターンからも唯の窃盗団ではない。

だからこそ、彼等は自分達の勝利を半ば確信していた。この手の仕事は侵入が最も難しく、入り込んでしまえばほぼ成功と言って良い事を経験則から知っていたからだ。

 

「……そんな馬鹿な」

 

仕事は簡単なはずだった。

夜間に警備の穴をつき武器工場に潜入、可能な限りIS用の武器を運び出し後続の車両に積み込むだけ。

一流企業の工場への潜入を簡単だと割り切れる辺りにこの一団の実力の高さが分かる。

故に、目的地の中央に鎮座するソレを見た時に理解が一瞬追いつかなかった。

工場の最深部にある武器保管庫は三階建ての建物の吹き抜け構造で作られた高い天井を持つ大広間。

音もなく忍び込んだ六人の視線の先に飛び込んできたのは鮮やかな橙色の装甲をしたISはラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着して待ち構えていたシャルロット・デュノア。

 

≪撤退! 作戦は失敗だ、チャーリー援護を、撤退するぞ!≫

 

アルファチームのリーダーの判断は早く無線機に呼び掛け声を荒げるのだが。

 

≪ご苦労、こちらデュノア社警備部隊、君達の仲間は全て確保した。無駄な抵抗は止める事をお勧めする≫

 

返ってくるのは味方の声ではなく、冷め切った別の男の声。

それが何を意味するのか分からない男達ではなく、即座に腰から閃光弾、煙幕弾、音響爆弾と言った妨害系のグレネードを取り出すのだが、閉じていた瞳を見開いたシャルロットが視線で侵入者を射抜き、指をパチンと鳴らす。

 

「デュノア社がそう何度も侵入を許すと思わないで」

 

次の瞬間には武器庫内を多数のスポットが照らし周囲の風景に溶け込むカモフラージュプロテクターを装備した特殊部隊を熱を感じる程の光量で映し出す。

続けてアサルトライフルで武装した集団が撤退する間も応戦する間も与えず男達を取り囲む。

四方八方だけでなく、頭上の二階三階の吹き抜けの一部分に通っている渡り廊下にも武装した男達が現れ次々と銃口を向けている。

こうなってしまえば侵入者であるアルファチームはグレネードの安全ピンを引き抜く事無く腕を下げるしか生き残る道はなかった。

 

「ふぅ、終わったかな」

「シャルロット様の予想通りでしたね」

 

安堵の息を漏らすシャルロットの隣に並ぶのは肩にデュノア社の社章が刻印された戦闘服に身を包む壮年の男性。

デュノア社の警備部隊の一人にしてラファール・リヴァイヴが強奪されたのを期に警備の増強に尽力した戦場を知る元傭兵だ。

欧州連合が示す通り、ISが登場したからと言って軍人や傭兵のような存在がなくなるわけではないが、ISが少なからず紛争の数を減らしたのは事実で、戦場を生業にしていた者達の職をある意味で奪った面があるに違いはない。

生まれてから戦う事しか知らない男達はISの登場で情勢が変わった事を自分自身で理解せざるえなかった。路頭に迷う者や新たな戦場を探し求める者と様々な道を強いられたのだ。

デュノア社の警備部隊はある意味で時代の流れの直撃を受けた男達の流れ着いた一つの形。

戦いしか知らない彼等に生きる道を指し示したのがデュノア社だ。大企業が戦力として彼等をまとめて雇用したのだ。

抗争こそないものの内部に派閥を持つデュノア社が絶妙なバランスの上に成り立っているのは戦場上がりの元傭兵である警備部隊が中立の姿勢を貫いている点もあると客観的に優れた視点を持つ者は評価している。

今回は敵にISがおらず、襲撃を予測し待ち受けていただけでなく数でも地の利でも勝るデュノア社の警備部隊が相手に何もさせず封殺した結果となった。

 

「僕は外を見回りますが、ここをお任せしても良いですか?」

「勿論です、お気をつけて」

「皆さんも、尋問はお任せしますけど、程々にお願いしますね」

「そいつぁ相手次第ですので何とも、まぁお任せ下さい。おい、シャルロット様が出るぞ、道を開けろ!」

 

言われて夜間迷彩の男達を縄と手錠で縛り上げていた警備部隊の男達が左右に割れて敬礼で道を作る。

警備部隊が中立の立場である事は先に述べた通りだが、彼等の本質は戦いの中にある以上やはり戦う人間を応援したくなるのが心情と言うものだ。

むさ苦しい男の集団である警備部隊の中には少なくない人数がシャルロットのファンである事を隠していない。

今でこそ「シャルロット様」が定着したが一時期は「お嬢」と呼ばれていた期間がある程だ。

人で出来た道に苦笑を浮かべながらシャルロットは工場の外へ出向き夜空へと飛び立つ。一気に高度を上げてハイパーセンサーで広域を見定める。

 

「狙いが武器工場だから運び出すには車か何かがあるはずなんだけど……」

 

シャルロットがIS学園にミサイルが来ていると連絡を受けて尚、フランスに残った理由は正にこの夜の為だ。

蒼い死神に落とされた事も救われた事もあるシャルロットとしては考えざる得なかったのだ。サイレント・ゼフィルス、ラファール・リヴァイヴ、甲龍と次々に似た手口でISが奪われている事を。

夏休みに入り甲龍が強奪されたと知り、照らし合わせたようにIS学園へのミサイル攻撃だ。一連の流れを経験しているシャルロットが違和感を憶えるのも無理はない。

三件の強奪事件は無色無臭のガスや監視カメラ等に対する完璧なハッキングと共通している点がある。手腕だけを見るなら最も怪しい人物は篠ノ之 束であるが、デュノア社が襲われた際に蒼い死神はシャルロットを救っており、銀の福音の際の行動を加味すれば容疑者と呼べる可能性は低い。

そもそもISの生みの親であり、蒼い死神や紅椿と言った規格外を所有しているのだから、サイレント・ゼフィルスはともかくとして量産型を束が欲しがるとは思えなかった。

積み重なるのは、もし、まさか、たら、れば、と言った不確定要素と推測の域を出ない与太話。

だが、一度考えてしまうと束達とは別の”何か”が動いている可能性を捨てきれなくなっていた。

束でさえ完全に見抜けなかったIS学園へのミサイル攻撃の裏に潜む”何か”をシャルロットはほぼ直感だけで感じ取っていた。

想像は人間に許された武器であり可能性、IS学園へのミサイルが本命でないとしたら? そう考えてしまったシャルロットは再度デュノア社が狙われる可能性を捨てきれなかった。

結果シャルロットはIS学園の危機にあえてフランスに残る選択をした。

武器工場側の警備に手を回し、表面上は普段通りを装いながら自らを防衛戦力として配置した。

ここまではほぼ読み通り、IS学園へのミサイル攻撃に誘われるように今夜の一団が釣れたと言うわけだ。

ラウラ達からIS学園は無事であると、合流してから話したい事があると聞かされており、一先ず学園もラウラ達も無事であった事にシャルロットが安堵したのは言うまでもない。

 

「車が見当たらない……」

 

上空から工場周辺を見回るシャルロットが小首を傾げ疑問を口にする。

特殊部隊を迎え武器を運び出すのであれば必要される輸送の手段が見当たらない。

そもそもシャルロットが張っていた予想と違う点がある。

もし姿の見えない”何か”がISやISの武器を狙いデュノア社に仕掛けて来るのであればあの夜と同じアラクネを使うIS乗りが攻め込んで来るのが道理。

蒼い死神の目がIS学園に向いているなら尚更のはずだ。

 

「何か読み違えているのかな」

 

ポツリと漏らしたシャルロットの言葉は夜風に消える。

補足しておくがシャルロットはIS学園を心配していないわけではない。

むしろラウラやセシリアに比べれば等身大の自分でいられる場所として学生生活を一番楽しんでいるのは彼女かもしれない。

だが、シャルロットには嘘で塗り固めたデュノア社エージェントとしての仮面が確かにある。

その仮面をつけた自分が囁いているのだ。目に見えぬ”何か”が動いていると。

予感と呼ぶにはあやふやで、直感と呼ぶには信じるに値しない夢物語だが、もう一人の自分の囁きに耳を傾かさずにはいられなかった。

 

 

 

 

デュノア社の夜間襲撃から時間と日付は遡り、IS学園にミサイルが迫り無事迎撃され、ブルーが大空に消え束が海中に姿を消した。

策略の標的とされた太平洋上の孤島に完全武装の集団が降り立ったのはミサイル迎撃から数時間と立たない日中だ。

 

夏の容赦ない日差しはまだ強く輝いており、巨大な入道雲に見渡す青い海と潮の香りと来ればバカンスの予感を感じずにいられないが、視界に入るのは黒煙と鼻に残る燃える匂いが気分を害する。

最も、この天国と地獄の狭間の島に足を踏み入れた集団の指揮官は口元を布地で覆ってこそいるが、目を細め楽しそうな表情を隠してはいない。

 

「スコール様、消火作業は終わりましたのでこれより調査に入ります」

「どんなものでもいいわ、文字通り草の根を分けてでも何か見つけて頂戴な」

「了解しました」

 

抜群の美貌を持ちながらも妖艶と呼ぶに相応しい指揮官であるスコールの笑みと共に送られる指示に男は短く敬礼を返し周囲に散らばる部下に更に指示を飛ばす。

亡国機業が乗りつけた場所は篠ノ之 束が数時間前まで活動していた孤島、この島を見つけるのに各国が裏で躍起になっていたのは言うまでもなく、亡国機業とてそれは同じ。

歴史の裏側で暗躍を続ける組織としての情報網は国家のレベルに匹敵、或いはそれ以上であるが、天災とされる個人相手に情報戦で世界中が後れを取っていたのだ。

太平洋上に浮かぶ小さな島を見つける為にどれほどの労力と資金をつぎ込んだかは口にするのも躊躇われる。

世界各国の使われていない基地を利用し、調査に乗り出したISが自然界に与える影響から少しずつ軌跡を割り出す手法は途方もない手間が必要だ。

ブルーと紅椿が世界中を飛び回り、その二機の目に見えない軌跡を追い続け、中心点を割り出せばそこが目指すべき場所。

それでも島の場所を明確に出来たわけではなく、大雑把な場所の目安が出来たに過ぎない。

 

「ここまで派手にやっておいて何か探せとはねぇ」

 

スコールの隣、大きめのサングラスで日差しから視界を守っているオータムが呆れたように呟く。

思わず漏れた言葉も無理はない。何せ最終的に島の場所が特定できずに取った手段は大体この辺りだろうと言う箇所を凡そ百発のミサイルで薙ぎ払ったのだ。

隠れ家として使っている島は決して大きくはなく、島一つを狙うにしては大盤振る舞いの所業と言えなくもないが、聞こえてきたオータムの呟きにスコールは笑みで返す。

 

「このくらいやらないと天災は出し抜けないわ。これでもまだぬるいくらいよ」

 

実際に九割以上のミサイルは島に当たらず付近の海域で水飛沫を上げる結果となっているが、太平洋上で所属不明の百ものミサイルが放たれれば立派な事件として成り立つ。

が、世界はそれどころではない。IS学園が始まって以来の事件の影響で世界中の目は太平洋上の孤島になど向いてさえいない。

 

「そんなもんかね、まぁ、目の前の光景を見りゃ嫌でも篠ノ之 束に常識が通用しないってのは理解するけどな。派手な花火だったはずなんだが、頑丈にも程があるだろ」

 

オータムがミサイル攻撃を派手と称したのは嘘偽りではない。

直撃せずとも衝撃で簡単に命を奪い大地を削る攻撃が殺到したのだから当然だ。

束は既に脱出しており住人の姿はないが、目の前に広がるのは島の成れの果て、瓦礫と化したラボの名残。

島の大半はミサイルの爆発と、炎と熱の余波にのまれ、草木は焼け落ち人の住む環境は失われてしまっている。

付近が海である事と亡国機業の迅速な消火活動にて既に鎮火はしてはいるが、大災害と言って差し支えない。

しかし、目の前の光景は異質と言わざるえなかった。

派手と同じく頑丈と称した事も嘘偽りではなく、ミサイルが直撃したのか衝撃の余波かは分からないが、束が生活していたと思われる場所は見るも無残な姿になっているにも関わらず、支柱が何本か残っていたり、防壁の役割を果たしたであろう建造物の外壁と思しき箇所には原型が多数見られる。

そもそも数発でもミサイルが落ちていながら沈んでいない孤島が異常なのだ。浮島でありながら地盤が異様なまでに安定している。

島の内部にも束の手が加わっていると想像すれば納得と言えなくもないが、戦う人間としてはこの島がどれだけ異常であるかは理解できる。

最も、原型を留めている箇所があるからこそ、スコールも探索を命じているのだ。そこに眠るお宝の可能性を捨てきるには勿体ない。

暫し廃墟と化した研究施設だった場所を眺めていたオータムの腰から耳障りなノイズ音が鳴り響く。

 

「お? あいよ、こちらオータム」

 

無骨なデザインの通信機は大きなアンテナがついており、携帯性やデザインを重視したものではなく中継に衛星を使う軍事通信機。

片眉を上げて報告の内容を想像してか面白そうな表情を作るスコールの視線に頷きを返した上で、オータムは通信相手と何度かやり取りを繰り返し短い時間で連絡を終える。

 

「報告が来たぜ」

「フランスかしら?」

「フランスと日本だ。IS学園から離脱した蒼い死神を見失ったそうだ。それと篠ノ之 束の方も同じだな」

「そう、逃げに徹底されるとやはり厄介か、蒼い死神がこちらに来る可能性も否定出来ないわね。作業を急がせましょう。それでフランスは?」

「デュノア社襲撃の準備が整ったから夜には仕掛けるってよ。しかし、これ上手くいくのか? 前に仕掛けて以来デュノア社の警備が随分厳重になってるらしいが」

「別に期待してないわ。失敗してくれて構わないのよ、どうせあの軍人崩れの連中から私達の情報が漏れはしないんだもの」

「そりゃそうだ、間接に間接を重ねて依頼の出所が身内でも分からない状態だからな。確かどっかのテロリスト主体の仕業って事になってるんだったか」

「そうよ、仮に失敗して全員が捕まっても彼等は私達を知らないし私達に繋がる情報も持っていない」

「だったらこの作戦に意味あるのか? 襲撃失敗して手駒失うだけなんじゃないのか?」

「ふふ、分からない? 可愛いわねオータム」

 

隣のオータムの髪を指で梳きながらスコールは妖艶でありながら少女のようにころころと可愛らしく笑う。

 

「彼等が失敗して捕まれば当然尋問される、自白剤も投与されるかもしれないわね。でも、さっき言った通り、私達に繋がる情報は出てこず、何処かの名前も知らないテロリストに白羽の矢が立つ」

「デュノア社はこっちに気付かない?」

「その通り、複雑に絡み合った糸を解けばいつかは辿り着くかもしれないけれど、それがいつになるのか情報の発生源である私達でさえ分からないわ」

「つまり連中が失敗すればデュノア社は自然と亡国機業から遠ざかるわけか」

「正解、ISのシェア一位は伊達じゃないわ。利用こそしても敵対は避けたいもの。要するに失敗して捕まって貰う方が望ましいのよ。勿論、成功したなら手柄は根こそぎ頂くけどね? 最も迎えの車は最初から用意してないから、成功する可能性は限りなく低いけれど」

「運の無い連中だな」

「あら、むしろ逆よ。ISの登場で職を失った彼等を有効活用してあげてるんだもの、お礼を言われても責められる筋合いはないわ」

「ハッ、本当に人が悪いな」

「褒め言葉かしら、素直に受け取っておくわね」

 

スコールは楽しそうに目を細め、オータムもまんざらではない様子で不敵な笑みを浮かべる。

二人に取って他者の都合は取るに足らないものでどうでもいいのだ。自分達の都合の為に他者を利用する事を気にも留めない。

その行動は本質的に天災と変わらないが、束が土台からひっくり返す天然の災害とするなら、彼女達は人為的な悪意を持って行動している。

巻き込まれた側からすれば相手が束であろうが亡国機業であろうが災害に違いはない。

しかし、あえて言うならば、他者に対し関心を示さなかった束と、他者の都合を知った上で踏み躙る亡国機業は似ているようで異なる存在だ。

 

「スコール様!」

 

不気味な笑顔を浮かべている二人の上司に進み出る完全武装の男。

 

「どうしました?」

「こ、これを」

 

男が差し出したのは一枚の紙切れ。

所々千切れ、熱で変色し読み取れない箇所もるが、それが何かの設計図だと言うのは分かる。

 

「あん? 何だこれ、読めない事もないが……レム?」

 

横から覗き込むオータムの声に今度は反応を示さず、ニチャリと何処かで聞いたような音を立ててスコールが口角を上げる。

 

「似たようなものがあれば最優先で回収なさい、蒼い死神が戻って来る可能性もあるわ。急いで」

「了解しました」

 

敬礼を返した男は再度瓦礫の山に踵を返し、同胞達に目標を伝える。

 

「エムはいるかしら?」

「呼んだか?」

 

視線を上げたスコールの声に対する返事は空から返って来る。

音もなく降下してくるのはサイレント・ゼフィルスを装着し空中で周辺を警戒していた少女。

 

「お願いがあるのだけれど」

「何だ? 織斑姉弟の暗殺か?」

「残念、それは今の所は予定にないわ。IS学園の警備のレベルはまた上がるでしょうしね」

「なら何だ?」

「誘拐して欲しい人がいるの」

 

スコールが笑い土砂降りの名が示す悪意の矛先が示される。

 

「天災と化物に埋もれてしまった天才、篝火 ヒカルノ」




フランスの時差は日本のマイナス8時間。
時間軸的には後半の亡国機業側の内容が先になります。

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