IS ~THE BLUE DESTINY~   作:ライスバーガー

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第6話 まなざしの先

織斑 一夏。

彼の人生もまた運命に翻弄されていると言っても過言ではなかった。

ISの登場により世界は一変した。

姉は世界最強に躍り出て、幼馴染は行方知れず。

変わった世界に適合する為に半身とも言って良い程夢中になっていた剣道をを捨てた。

剣を投げ打ってでも世界最強と呼ばれる姉の為に何かしたかった。

所詮一人の人間。それも未成年の少年に出来る事などたかが知れている。

彼が出来た事と言えば中学三年間をバイトに明け暮れ生活の足しにした位だ。

そして今、一夏はISと巡り合い、新しい世界を開いた。

 

セシリアとの模擬戦が決まった直後、一夏は姉であり担任である千冬にISでの訓練許可を求めた。

が、残念ながら答えは不許可。

本来であれば安全面も踏まえ基礎学習が終わるまで授業でしかISに触れる事は出来ない。

代表候補生や専用機持ちであれば話は別だが、本当の意味で初心者である一夏では当たり前の話だ。

最もISの数に限りがある以上、授業以外で触れる為には事前申請は必須だ。

二年生や三年生が既に申請している可能性もあり、一週間の間で一夏がISに触れる事の出来る可能性は限りなく低かった。

 

ならばどうすればいいか。

一夏に取ってIS学園は女難の園であるが身につけるべき力のある場所だ。

ISの基礎については入学前に可能な限り教科書に目は通した。

理解できない事は多々あったが、それはこらから学べばいい事だと割り切った。

それに付随するようにIS関連の雑誌も読み漁った。限られた時間で出来る限りの知識は頭に叩き込んだ。

幼き頃に両親に捨てられ、自分を育ててくれた姉は遥か高みにいる。自分では到達所か目指す事さえ許されなかった場所。

姉の為にせめて家だけは守ると家事をこなし、バイトをして生活を支えてきた一夏を誰が馬鹿にする事が出来ようか。

そんな一夏が姉と同じ場所を目指す権利が与えられたのだ。

世界で初めて男性でありながらISに乗る事が出来る。その意味、与えられる枷を一夏にはまだ理解できない。

それでもだ、一夏が努力する姿に対し、誰が笑う事が出来るというのか。

 

 

「めぇぇえん!!」

 

入学初日の夕方。寮の部屋を確認した後で一夏はIS学園内の剣道場を訪れていた。

寮の部屋に関しては一夏の存在が特例と言う事もあり、一人部屋が用意されていた。

今までは一軒家でほぼ一人であった事もあり、特別広いとは感じなかったが豪華過ぎるだろうと感じる程の設備だった。

ISを専門に扱う学園と言っても学生は学生だ。部活動は通常の学校と同じように存在する。

綺麗に磨かれた板場の剣道場で一心不乱に竹刀を振る一夏。

剣道部の面々に声をかけた所、あっさりと一角を貸して貰えた。

二年生の剣道部員から代表候補生に挑むのは無謀だとも言われた一夏だったが。

 

「勝てなくても良いんです、自分の力量が分かれば学ぶべき事が分かるから」

 

その熱意に釣られたのか剣道部員の面々は好意的に一夏を迎え入れた。

唯一の男性と言う事もあり入部には至らないが好きな時に来ていいとまでお墨付きを貰った。

時間の許す限り、一夏は竹刀を降り続けた。

ISの訓練が出来ないのであれば、せめて戦いの感覚だけは取り戻したかったからだ。

 

「ねぇ、織斑君って何で剣道止めたの?」

 

夕暮れになり熱を帯びた体を休めていた一夏に部員の一人が話しかける。

その質問は好奇心から来るものであったが、一夏に取っては辛い記憶の一幕だった。

 

「俺が行っていた道場は篠ノ之道場だったんですよ」

 

その一言は部員達が事情を察するに十分だった。

IS関係者でその名前が持つ意味を知らない者はいない。

政府による要人保護プログラムにより篠ノ之一家は離散した。

IS開発者とその家族を守ると言う名目ではあったが、現状がどうなっているかは誰にも分からない。

 

「篠ノ之博士も俺の幼馴染も。何処にいるか分からないんです。道場も無くなってしまいましたし」

「ごめん」

「あ、違います違います。謝らないで下さい。自分の中で区切りはついてますから」

 

それは本心の言葉。剣を学ぶ者だからこそ分かるのかもしれない。真っ直ぐな目。

そんな一夏だからこそ、剣道部員達は応援したいと色眼鏡無しに思ったのだ。

 

「ISの練習は出来ないけど、出来る限り付き合うから明日からも顔を出しなさいな」

「そうだよ、勝負しようよ」

「素振りだけじゃ面白くないでしょ?」

「私達は応援するからね」

 

一夏の人生は波乱に満ち溢れていた。

ISが発表される以前から姉を尊敬しているが、現在では世界最強の称号を持つ女だ。

この女尊男卑の世の中で一夏は常に千冬の弟として見られてきた。

その称号を引き剥がす事も乗り越える事も出来ず。

それでも姉の邪魔はしないように、姉の為に出来る事をしようと生きて来た。

そんな一夏が捨てた剣を取り戻し、理解してくれる人達に出会う。

 

「ありがとうございます」

 

そう言った一夏の目に薄く涙が宿っていたとして、この場にそれを茶化す者はいない。

 

 

 

 

IS学園第三アリーナ上空を静かに浮遊しているISが一機。

清々しい空のような青の中に美しい金髪が流れている。

イギリス製第三世代機ブルーティアーズ。射撃に特化したセシリアの専用機だ。

上空で静止したまま既に一時間は目を閉じたまま微動だにしない。

アリーナの管理をしている教員も固唾を飲んでその様子を見守っていた。

 

瞼の裏に仮想敵機を思い描く。

その姿は量産型シェア第一を誇るラファール・リヴァイヴでも日本国産の打鉄でもない。

ましてや最新鋭の第三世代機とされるドイツのレーゲン型でもない。

 

仮想敵機は同じ蒼。

全身を群青のような深い蒼で包んだ赤い眼の死神。

 

何度想像し何度挑んでも結果は惨敗。

 

その頬を汗が伝う。

夕陽が差し込んでいる事に気がついたセシリアは短く息を吐いて硬直を解いた。

同時にアリーナの管理教員も緊張を解いたのだがセシリアの関与する所ではない。

 

「本当に化物ですわね」

 

頭の中で何度も蒼い死神との攻防を繰り返したが何れも同じ。

攻防と呼ぶ事もおこがましい程に無残に打ち砕かれる。

遠距離からのレーザー射撃も周囲を囲んでのビットによる多角攻撃も通用しない。

柄ではないと分かっていないがらも近接攻撃も試してみるが歯が立たない。

演習用の試作機ではない。慣れ親しんだ相棒であるブルーティアーズであっても通じるとは思えない。

それでも、あの敗北はセシリアを何段階も上へ押し上げていた。

敗北を知り、這い上がる事が出来た者は強くなる。

 

「まぁいいですわ。次に会う時は私が勝つ。それだけですわ」

 

それが強がりだと分かっていても、心に固くその思いを結びつける。

 

「さて、まずは目の前の戦いに集中しましょうか」

 

一週間後に行われる模擬戦。

自分自身の想定でも第三者の予想でもセシリアの勝利は揺るが無い。

それでも、あの目を見れば分かる。

教室で握手をした時、一夏は真っ直ぐにセシリアの目を見返してきた。

揺ぎ無き強い想い。女尊男卑の世の中で弱くなった男を多数見てきたセシリアではあるが、あの目には覚えがある。

ISが表舞台に出て尚、直向に戦いを止めなかった戦士達の目と同じだ。

知らずセシリアは微笑を浮かべていた。真っ直ぐに前を捉えた一夏の視線は心地良いものだった。

だからこそ、礼儀を持って正面から叩き潰そう。

表情から笑みを消し、何も無い前方の空間へ集中する。

今度は目を開いたまま仮想敵機を思い描く。相手は打鉄。

一夏がどのような戦法を取るのかは分からないが、世界初の男性IS搭乗者と言う肩書きは伊達ではない。

イギリスも当然ながら一夏の経歴は調べていた。軍歴は無いが剣道をしていた事は分かっている。

ならばやはり近接戦闘のスタイルを取るだろうとセシリアは読んでいた。

素人は取り合えず銃をと考えがちではあるが、相手が戦士であるならば自分が得意な得物を理解しているはずだ。

セシリアにとって最も相性が良く、最も厄介なパターン。

近付かれる前に射撃で封殺できれば何も問題ない。万一にも射撃を掻い潜り肉薄された場合が厄介だ。

蒼い死神以外で想定しうる限り最強の剣士を思い描く。目の前の打鉄に織斑 千冬が重なった。

 

初太刀。

最速の一撃がセシリアを襲う。

回避行動を取る事が出来ずに打ち込まれた自分の姿が見える。

 

「ダメですわね。こちらも化物でしたわ」

 

被りを振ってもう一度眼前を見据える。

今度は自分から攻撃を行う。イメージに重ねて実際にブルーティアーズで空を舞う。

上へ跳ねるように飛び上がり的確なレーザーライフルであるスターライトMkⅢによる三連射撃。

同じ箇所を狙うのではなく、少しずつ打点をずらした射撃。

蒼い死神に全く通用しなかったただの点による射撃ではない。中心点に対し複数の射撃を少しずつずらして撃ち込む。

同時にビットを展開。目標を取り囲むのではなく自分の周囲に固定し一斉射撃の点の数を増やす。

四つのビットとスターライトMkⅢと合わせて五つの砲撃が対象を狙い打つ。

 

ブルーティアーズに内蔵されているビット兵器。その名も機体名と同じブルーティアーズ。

各々が独立した射撃砲台であり、搭乗者の意思により自在に空を舞い射撃を行う。

以前のセシリアはビット展開中に一切の行動を取る事が出来なかった。

ビット操作に多大な集中力を必要とする為ではあるが、ビットはそれだけ有能な武器ではあった。

しかし、蒼い死神に敗北した際に全ての前提は覆された。その考え方は奢りに過ぎないと知ってしまった。

ビット操作と機体の同時制御の鍛錬をセシリアは欠かさなかった。

未だにビット展開中に高速移動は出来ないが、その場に留まりスターライトMkⅢを放つ事は出来るようになった。

固定した状態での火力としては十分以上。

 

それでも、まだセシリアは満足していない。

今出来る事に全力を注ぎ、来るべき戦いの日に備えた。




一夏とセシリアを強化しすぎたかもしれない。
ちょっと文章がくどいかなぁ。精進しよう。

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